映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

焼肉ドラゴン(2018)

イメージ 4
人気劇作家・演出家鄭義信さんよる数度の上演で激賞された舞台劇を、自ら初監督して映画化した作品。
 
大阪万博前後の関西の下町を舞台に、小さな焼肉店を営む在日コリアン一家が、時代の波に翻弄されながらも逞しく生きていく姿を笑いと涙で綴るという在日コリアン物語。
 
1969年春から1971年春に渡る2年間。血が繋がっているようで繋がっていない6人家族の物語世間から取り残されたようなコリアン横丁で、笑ったり喧嘩しながら過ごす6人家族が、敷地の強制執行で家族がばらばらになり、新しい生活に踏み出すという結末。何があっても、本気でぶつかり、本気で生きるからできた絆が彼らを支えます。 
イメージ 2
夫婦の話、3人の姉妹の話、末っ子の僕の話ですが、どの話も心に沁みますが、夫・龍吉を演じるキム・サンホさんと妻・英順のイ・ジョンウンの演技に圧倒され、夫婦のはなしに感動しました。韓国ドラマはあまり観ないですが、すっかりフアンになりました。( ^)o(^ )
 
龍吉が、娘とその夫となる男、新しい家族を前に、「大東亜戦争済州島事件、朝鮮戦争、そして終戦の混乱を体験して、ここ(日本)で生きるしか道はない」と、とつとつと語る姿に、この人の人生や家族への愛が見えて、作品のテーマが詰まっています。とかく在日コリアン物語は民族差別問題に結びつきますが、ここでは偏見差別を超えた故郷を無くした家族の絆、圧倒的な家族愛の物語になっています。
冒頭とラストで語る龍吉の「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」という人生観がわかる作品になっています。
 
舞台劇の映画化。はげしくぶつかり合うセリフや感情に、なかでも、当初表面に出てこなかった父親龍吉が、正面に出てきて、しつこく家族の絆を説く後段部、夫婦愛に圧倒されます。
 
三姉妹。長女静花・真木よう子さんの右足不自由による鬱積した気持ちを抱きながら深い愛情を家族に寄せる演技、次女梨花井上真央さんの喜怒哀楽の激しい喧嘩っ早い演技、三女美花・桜庭ななみさんの自由気ままで陽気な性格の演技、特に韓国語が凄い。いずれもよく感情が出てみごとです。
なかでも、真木さんの表面には出ない、隠れた思いが読み取れる演技がよかったです!

哲男・大泉洋さんは、静花への想いを秘めたまま当初梨花と結婚したが定職も持たず一見横着者ですが、家族に見せる細かい愛情や静花への恋心を持ち続ける演技をユーモラスに、繊細に演じています。
 
焼肉ドラゴン村のセットがよく出来ていて、美術も凄い。美空ひばりさんの唄やボンカレーが出てくるなど、この時代を楽しむことができます。
****
物語は、
冒頭、伊丹空港近くの川原で川面を見ながら、家族の状況をつぶやく(ナレーション)末っ子・時生(大江晋平)のシーンから始まる。このときの家族の集合写真です。
イメージ 3
この家族構成の変化する様が、この物語なのです。時生は、ラストでナレーション役として再登場します。これにはある意義が隠されています。
 
1969年春。時生はこの町が嫌いだったという。高度成で日本がピカピカに変わっていくなかで、ここは変わらず取り残された。
夫婦が怒鳴り合う声、子供たちの歓声があふれた路地の奥に、父親の龍吉の名前から取った「役肉ドラゴン」という小さな焼肉店があった。龍吉夫婦は再婚で、静花と梨花が父の、美花は母の連れ子です。僕・時生がふたりの子。血が繋がっているようで繋がっていない家族だという。

今日は、梨花と哲男の結婚式の祝いの日。ふたりが市役所に婚姻届けに行って、何を言われたか分からないが、哲男は職員に馬鹿にされたと結婚届けを破いてしまったという。これに激しく抗議する梨花。「俺は瓶詰のキムチや、おまえはただのキムチや」とやり合う。ここでの真央さんの切れた演技に驚かされます!
イメージ 5
母英順は「血が繋ながっとらん」と哲男を非難するが、父龍吉は「改めて出したらえぇ」とこの場を収めようとする。英順は怒って「朝鮮に帰る」と出ていく。どうやら、気に入らないときの英順の常套手段。本当に喧嘩してもどこにも行くとこのない家族の喧嘩なんです、切ない、泣けます。

静花は「梨花、仲直りして」と二人の仲を取り持つ。これで哲男と梨花は元の鞘に収まる。三女の美花はアコーデオンに合わせ、歌い始め、宴が始まる。席には、美花の不倫相手・長谷川さん(大谷亮平)も加わっている。
イメージ 6
哲男は梨花の前で静花に「(足)さすってやろうか」と声をかけ、梨花が嫌な顔をする。
 
哲男と静花は幼友たち。哲男が静花を誘い、米軍が管理する飛行滑走路の照明灯を見ようと忍び込み、犬に追われ静花が左足に大けがを負った。以来、静花は、哲男が自分を好きなのはわかっているが、障害者として身を引き、哲男は積極攻勢的な梨花と結婚したのでした。
 
しかし、美人三姉妹には、自然と男が寄ってくる()。静花目当てに、尹大樹(イム・ヒチョル)が店に訪れたことから、哲男の胸に尹への嫉妬が芽生え、仕事にも出ず、店に居座りついている。()
一方、梨花も、仕事に失敗して店にやってきた呉日白(イム・ヒチョル)に同情から恋に陥る。

哲男と梨花が感情まるだしで激しく罵りながら、そして静花は梨花を傷つけないよう葛藤しながら、お互いの幸せを考え出した結論。
イメージ 7
哲男のいう「北に行こう」は、愛するがゆえに出した策で、悲しみはない。そう決めたと、哲男は尹と熱いバトルで決着をつける。()
 
時生は、父龍吉の日本で暮らすには日本の学校教育がよいとの思いにより、私立の中学校に通う。成績はよかったが、言語症のため学校に行きたがらない。ある日、母に急かされ登校するといじめに合い、引きこもる。母英順は朝鮮学校を勧めるが、龍吉が認めない。
結果は留年と決まり、時生は思い悩み、川に身を投げた。英順は悔しがり、家族全員が深い悲しみに陥る。しかし、英順は龍吉を責めなかった。
 
昭和451970)年夏。
三女美花は、長谷川の妻のクラブ歌手美根子(根岸季衣)と壮絶なバトルのすえ()、長谷川との結婚が決まり、その祝いの席で、新しい家族をつくるにあたって、「国を失い、故郷を失い、親戚そして妻を失い、そんななかで英順と結婚し、誰をも頼ることなく、ここで働いて、働いてきた。故郷は近いけど、ものすごく遠い。もうどこにも帰るところはない。しかし、娘たちには幸せになって欲しい」とこれまでの人生を語り、娘の夫となる哲男、長谷川、呉日白に「娘を頼む」と深々と頭を下げるのでした。
 
哲男は、北での生活は厳しいようだと聞いても、その決意が変わることはなかった。
 
そして、市からの立ち退き指示が下される。役人から「世間は言うている。盗人に追い銭」と言われ、「戦争に無理に連れ出されて腕を奪われ、買った土地を奪うのか。わしから何もかんも取り上げるのか。息子を返せ!」と声を上げて泣く。哲男は「その世間とやらを連れて来い」と咆哮する。大泉さんの、このブチ切れ演技がいいですね!
家族は駆け寄り、抱き上げ、龍吉の悲しみを吸い取ってやる。娘たちが引き上げるなかで、英順と龍吉は打ちあがる花火を見ながら、英順が「(キムチパワーで)子供を作ろう」と言う。()
 
昭和461971)年春。桜吹雪のなか、哲男と静花は北朝鮮に、梨花と呉日白は韓国に、美花と長谷川は小さなスナックを出し、そして龍吉と英順は新しい土地を求めて、それぞれ離れても家族であることを誓って去っていく。
時生が亡くなり、三姉妹がそれぞれ相方を見つけ、家族が新たな生活に入る際の集合写真です。
イメージ 1
最後に、時生の「僕はこの町が、人が大嫌いだったが、走馬燈のようにあの町のこと、町の人々を思い出します。皆さん、みんな、みんな好きです」のナレーションでEND
何があっても、本気でぶつかり、本気で生きるからできた絆。この絆で、焼肉ドラゴンは壊れ去ったが、あたらしい世界で、「たとえ昨日がどんなにでも、明日はきっとえぇ日になる」と、それぞれの家族がたくましく生きてゆくでしょう。
****