恋愛要素など一切ない、大きなテーマ性のある、社会派エンタテインメント・ドラマ。地味な作品のようで、気分がすかっとする、痛快なものでした。( ^)o(^ )
月川監督はただものでない! 次はどんな作品を持ってくるかと期待させてくれる作品でした。
出版不況の文学界に圧倒的な文才を持った15歳の現役女子高校生が現れ、 自分の信じる生き方で、建前で生きようとする人々を許さないと一見変人・変態とも思われる行動により(これが天才と言われる由縁)、現在社会に迎合し自分のアイデンテイを失った人たちに、自分を信じ、相手を尊重・認めるという力を与える物語。
目に見える力(形)で、周りの人を変化させていく描写がとても面白く、「次に何が起こるか」と物語に吸い込まれます。ホラーのような作品です。(笑)
主演に、見た目コミックの“響”にそっくりな、演技などしたことのない平手友梨奈さんを配するなど無茶苦茶なキャステイングに、脇を監督組のメンバーで硬め、作品の雰囲気を醸し出すという見事なキャステイングでした。
「カメラを止めるな!」に通じるところがいいですね! そして、平手さんが歌う主題歌「角を曲がる」がとても作品の雰囲気に合っています。
あらすじ
若者の活字離れが進み、出版不況が続く文学界。そこへすい星のように現われたのが、現役女子高生の天才少女・響(平手友梨奈)。文芸誌「木蓮」の編集者・花井ふみ(北川景子)との運命的な出会いによって、一躍脚光を浴びた響だったが、その言動はあまりにも常識離れしていた。相手が誰であろうと、歯に衣着せぬ物言いで思ったままを口にし、時には暴力さえも厭わない。次々と物議を醸しながらも、関わった人々の価値観を揺さぶり続ける響。そんな彼女の処女作は社会現象を巻き起こし、ついには直木賞と芥川賞のダブルノミネートという歴史的快挙にまで発展していくのだったが…。<allcinema>
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冒頭、響の手書の原稿が、出版社編集部「新人賞小説を募集担当」の花井のところに届くというシーンから幕が開きます。原稿はネット投稿という規定を無視されており、「捨ててしまえ!」という部員大坪(黒田大輔)の助言を無視して、「私はこれを世に出すために編集員になった」と花井が取り上げ、自分でデーター原稿に直す。
響には応募ルールなど関係なし。編集部の感想が聞きたいだけ。自分の想いを突き通す気概のある女性のようです。しかし、花井には、あの世で人が生きるとはこういうことだと、彼女の才覚が届いたようです。
響は、高校に進学し、部活に文芸部を選び部室を訪ねると、そこには先輩の隆也がいて「部員はいない。帰れ!ぶっ殺すぞ」と脅す。響は殺されてたまるかと隆也の指を折る。
部長の祖父江凜夏(アヤカ・ウィルソン)を訪ね、ここである作家の評価で意見が合わず本棚を倒す」という悶着を起こす。
部員を勧誘したら入部を認めるという彼女の言葉で、隆也に詫びを入れて入部を勧めると「教室の屋上から飛び降りたら」という。彼女が仰向けに飛び下りる。かように、響が純粋に言葉を信じ、実行する女の子なんです。
ここからは、彼女が何をしでかすかと、ミステリアスでホラーになって行きます。これがこの作品の面白いところ、快感を覚えます!( ^)o(^ )
さらに、花井を伴いバーに乗り込み、「芥川賞を取った以降ろくな作品がないおっさんだ!」と蹴り上げる。
花井が丁寧に鬼島に謝ると「芥川賞とってから、俺は言いたいことがない。惰性で書いている」と認め、以降強力な響きフアンになります。こんな作家さんをよく目にしますね。(笑) やっつけてくれたことに留飲が下がる思いです。これがこの作品の良いところです。( ^)o(^ )
表彰式で田中が「全くこの受賞を喜んでいない」と、いかにも響と同時受賞に不満を漏らしたことで、響は「私の作品を読みもしないで!」と椅子で激しく田中の叩きもめす。花井に促され、なんとしても謝罪しようと帰宅する田中を追って行き、電車ホームに突き落とすのではないかと響の行動に恐怖を覚えます。(笑)
これを見た雑誌記者の矢野(野間口徹)が激写し公にすることを企む。響は田中に謝罪を済ませ、この問題は一対一の問題で解決したと思っていました。
世間には、読みもしないで勝手に人を評価する人が何と多いことか!また、この種の事件をことさら大きな事件としており扱う週刊誌。許せませんよね!
編集部課長の神田(高嶋政伸)は、素行の悪い響にしびれをきらし、作品の単行本としての発刊を取りやめます。
響の行動で大きく変化する人が多い中で、儲かるか儲からないかの評価で人を見る神田のみが変化することがなかった。(笑)
矢野が自宅に響を訪ねてきて、取材をする。「好きな人は・・」とか、つまらんどうでもいいことを聞く。怒った響がカメラを取って投げ出すと、これがトラックに当たり壊れ、危ないと運転手が矢野を吊り上げ叱責する。
響は夜ひとりで、矢野のアパートを訪ね、「書かないで欲しい」と謝罪をします。このシーン、響の身に何が起きるかと、とても怖かったですね!
響は、凛夏が新人賞を受賞できなかったことで、はっきりと凛夏の悪いところを指摘します。
作家の娘として育ち、編集者からはちやほやされ、いっぱちの小説家きどりの凛夏には耐えられない苦痛で、しばらく絶交を宣します。響は潔くこれを受け入れ、1月経ったところで凛夏を訪ね、友情を復活させるようとする、とても人を信じ愛する大きいな包容力を見せます。
芥川賞には、土方仕事で頑張り、親の死に目にも会わず、10年間もこの賞のために小説を書き続ける青年作家・山本(小栗旬)がいました。今年も、編集者・藤野(小松和重)に励まされ「豚小屋の豚」と執筆。単行本として発刊していました。
響はこれをしっかり読み、山本が働いている現場を訪れるという気の使い方です。
両賞の発表に日。響は、小説を書くことが小説家の目的ではないと、文芸部の3人を誘って花井の奢りということで動物園で遊びます。
結果は、響がダブル受賞で山本は今年も落選でした。
授賞式後、マスコミの取材に応じます。花井の配慮で15歳の女学生には露出を避けるとフードを着け、質問はすべて花井が受けるということで、取材が始まります。
記者の矢野が「花井さんは、この小説にどの程度関わったのか。響は筆を折るべきだ」と質問を投げ掛けると、(自分の本も読まず、花井さんを気づつける人は許せんと)響は矢野に駆け寄りキックで蹴り上げます。記者はしっかり勉強して会見に臨んでください!
これがニュースで取り上げられ、またもや神田が単行本発刊は取りやめとする。(笑)
帰宅時、踏切で、山本が電車に飛び込むように遮断機に手を掛けているのを見て、とっさに自分が線路に立ち、山本が入ってくるのを妨害しながら
「死ぬつもり。なぜ自殺したいか教えて」と叫ぶ。
「小説書いて、結果が出なかった。10年もやって、疲れた」
「10年やって駄目だったら11年やればいい。読んだ人がいるでしょう。誰かけちつけた?」
電車が停止。
「私は死なない。俺まだ傑作を書いたことがない」
電車を止めたことで、町の灯の中をパトカーにより警察に連行されるぶっそうな作家:響。「電車を止めたが、山本の自殺も止めた」と意気揚々としていました。(笑) 痛快な結末でした。
世の中の不条理に怒る若者たちが、響の破天荒な生き方に感動するのが分かるような作品でした。
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