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「散り椿」(2018)

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原作は直木賞作家・葉室麟さんの同名小説。この作品が映画化されるとは思ってなくて、それだけに公開を楽しみにしていました。
映像化で変更、CUTされた部分はありますが、ほぼ忠実で、葉室さんの世界感がしっかり伝わるよう配慮され、心に沁みるとても感動的なものに仕上がっていました。( ^)o(^ )
 
監督は名キャメラマン木村大作さん、脚本は葉室作品「蜩ノ記」(2013)で監督を務めた小泉堯史さんです。
主演は岡田准一さん。共演に西島秀俊黒木華池松壮亮麻生久美子奥田瑛二さんら豪華な布陣です。
 
藩の不正を訴えたばかりに、逆に藩を追われた主人公が、亡くなった妻から託された最期の願いを胸に、再び過去の因縁に愚直に立ち向かっていく凛とした姿を描くというもの。キャッチコピーは「だた、愛のために」です。
 
あらすじ:
享保15年。かつて故郷の扇野藩で平山道場・四天王の一人と謳われた剣豪・瓜生新兵衛(岡田准一)は、藩の不正を糺そうとして失敗し、放逐された過去を持つ。そんな浪人となった新兵衛に連れ添い続けた妻・篠(麻生久美子)が病に倒れてしまう。篠は新兵衛に対して采女様(西島秀俊)を助けてほしいと最期の願いを託す。采女は新兵衛にとってのかつての親友にして恋敵であり、不正事件をめぐる因縁の相手でもあった。篠の願いを受け、扇野藩へと戻ってきた新兵衛は、不正事件の真相を突き止めるべく奔走するのだったが
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藩の不正を糺すという時代劇定番の設定ですが、新兵衛が藩を追われた真相を追い、亡くなった妻篠との愛の奇跡を辿るという、ミステリアスでラブリーな時代劇になっています。また、かっての道場仲間と繰り広げる友情物語でもあります。
 
妻から託された最後の願い、「(かっての婚約者)采女を助けて欲しい」が大きな伏線となり、物語が進むにともない「何故采女を助けて欲しいのか」が明らかにされ、それぞれが抱く愛の形が浮き上がり、「人が人を想うとはどういうことか」「生きるとは何か」を教えられ、大きな感動を覚えます。現在にも通じるうつくしい愛の物語になっています。
 
この物語は剣士の物語。華麗な剣戟シーンがすばらしさです。散り椿のもとで繰り広げられる新兵衛と采女の剣戟シーンは、原作にないものですが、ふたりが剣を合わせる意義を表現するという、これまでにない、歴史に残るものだと思います。( ^)o(^ ) 
このほかの剣戟シーンにもしっかりと工夫がなされ、とてもリアルで、これからの時代劇を面白くしてくれるでしょう。
岡田さんの剣さばきがすばらしい。殺陣師として名を連ね、剣が物言うような剣戟がすばらしい。カメラも廻したというから(クレジット)大変な活躍でしたね!
 
全編オールロケという作品、フィルムで撮ってあり、定評のある監督が映し出してくれる美しい風景にストーリーを摺り込んで楽しむことができます。
 
原作では、藩の不正事件とこれに拘わる登場人物が複雑ですが、映画ではこれをシンプルにして、わかりやすくしてあります。そして、藩の不正事件を暴くなかで、篠と新兵衛の愛、篠への采女の想いに焦点が当てられています。
登場人物が多く、当初、物語に入り難いですが、しばらく辛抱すれば、物語の背景がつかめてきます。
原作の一部をCUTしているため、突っ込みどころもありますが、原作のもつ世界感を壊さないよう2時間作品として、うまくまとめ上げられています。
 
後半一気に事態が動き、亡き妻の愛の力で事件が終焉するのですが、ラストがなんともベタな終わり方で、残念です。() しかし、これ、原作通りなんですね。()
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冒頭、藩を離れ京で暮らす新兵衛が帰宅時、雪の降りしきるなかで、3の刺客に襲われ、これを軽快に切り捨てるシーンから始まります。ここでの岡田さんの剣さばきに見とれ、一気に物語にもっていかれます!
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髭ぼうぼうで、その生活状態は知れたもの。簡素な部屋で、病んだ妻との語り。身体を崩してよりそうふたりの姿は、決して豊かではないが仲睦ましく過ごしているように見えます。
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労咳で、先のないことを知る妻・篠は夫・新兵衛に「亡くなったら故郷の散り椿を見てきて欲しい。そして、かっての婚約者、いまでは藩の側用人を務める采女を助けてほしい」と頼みます。(篠はいまだに采女に心あるのかと疑うと思うのですが)、新兵衛は、脱藩したことで妻に何もしてやれなかったが、しっかり尽くしてくれたと、この願いを受け入れます。
 
篠と采女の婚約が破綻した際、采女から散り椿の下で、何年でも待つ」という文をもらった篠は「くもり日の影としなれる我なれば 目にこそ見えぬ身をばはなれず」という歌を采女に送っています。この歌の真意を探るという、ミステリアスでとても面白い物語になっています。
 
新兵衛は国堺で、藩内の灌漑調査を行っている、篠の弟・坂下藤吾(池松壮亮)に出会う。藤吾は、突然現れた放れ馬を見事に操る新兵衛に驚き、ともに調査にあたっていた藩士・宇野十郎(新井浩文)から藩から追われた義兄新兵衛だと聞かさる。ここでは馬に飛び乗る岡田さんの身の軽さに驚きます。
 
新兵衛はまず、かって稽古に励んだ平山道場に道場主・平山十五朗(柳楽優弥)を訪ね、新兵衛に嫌疑をかけられている元藩勘定方頭取・榊原平蔵(木村大作)が斬られた刀傷を確認する。平山は「陽炎流により斬り傷だ。平山道場四天王のだれかによるものだ」という。
四天王には、新兵衛、采女、三右衛門(尾形直人)、坂下源之進がいる。源之進は妻・篠の兄で、平蔵の嫌疑を懸けられ自害している。新兵衛は、とても仲のよかった剣友・采女、三右衛門に不信感を持つ。
 
このあたり、不正事件の状況が分かり辛く、うんざりするところです。城内での采女馬廻組組頭・三右衛門の会話と藤吾が三右衛門を訪ね新兵衛のことを聞き糺すことで、騒動の経緯や新兵衛と篠の結婚の経緯が分かるという仕組みになっているので、なんとかここを乗り越えて欲しいです!
 
榊原平蔵は、藩の実権を握る家老・石田玄蕃(奥田瑛二)の指示で、御用商人・田中屋惣兵衛(石橋蓮司)と和紙の独占販売権をめぐる不正取引に関与してきた。
これに気づいた新兵衛が追及したことで、平蔵が何者かに殺害された。一方、新兵衛は篠を連れて藩外に出ることになり、さらに源之進が自害するに至った。
 
いまでは石田玄蕃が絶大は権力を誇っているが、年明けに、次期藩主千賀谷政家(渡辺大)が帰国するのを機に、藩政改革を目論む采女との対立が激化してきている。
 
新兵衛は、妻の実家・坂下家を訪ね、妻の妹・里美(黒木華)に会って、妻の最期と藩に戻ったわけを話します。里美は姉の気持ちをはかりかねるが、新兵衛の「篠のためにやることがあるのがうれしい」という言葉に安堵しますが、采女を斬るのではないかと不安を隠せない。
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新兵衛は、田中屋惣兵衛を訪ねると、「当時と変わって、いまでは石田家老に狙われて怖い」という。用心棒になって欲しいと頼まれ、これを引き受ける。
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里美が、新兵衛が持ち帰った姉の着物を整理していて、袖に縫い付けられた采女からの「散り椿の下で、何年でも待つ」という文を見て驚く。新兵衛に文を始末したらと聞くと、「篠は愛しいものを残してくれている。それを感じられればいい」と断ります。これは「人が人を想うとはどういうことか、采女様の言葉で初めて分かった。自分を支えてくれました。あなたに采女様を助けて欲しいのです」という篠の謎めいた言葉によるもの。真意はそのうち分かります。( ^)o(^ )
 
新兵衛は、挨拶に、采女を訪ねる。戻ったわけを話すが、采女は聞き入れないで、「篠を連れ出し苦労させて死なせた」と激しく責める。篠との縁談が破談して以来、采女は独身です。彼の胸に去来するものはなんなのでしようか。
新兵衛は平蔵殺しの犯人は四天王の中にいると告げます。
そこに采女の義母・重野(富司純子)が現れ、「あなたが主人を殺しだ」と新兵衛を罵る。
 
大雨の夜半、田中屋に賊が入る。ここから物語が大きく動き始めます。数人の賊と新兵衛が大雨の中でくりひろげる剣戟。お互いの間を詰め、剣先が触れると血が飛び散るという壮絶なもの。岡田さんの剣さばきが見事です。
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賊が欲しがるのは和紙専売特権に関わる起請文。幸い盗まれたのは惣兵衛が準備していた偽物。本物は新兵衛が預かることにする。
 
石田家老側は、惣兵衛を脅して起請文の在処を掴み、藤吾を人質にとり、新兵衛に起請文を求めてくる。新兵衛は藤吾を救出しようと彼らの待つ寺に向かうが、起請文は里美を介して采女に届けさせる。
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里美は預かった起請文を采女に渡し、姉篠が持っていた采女の文のことを話し、姉の気持ちが采女様にあったら申し訳ないと謝ります。采女は・・・
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救出された藤吾はすっかり新兵衛の人柄に魅せられ、今後の事態に備えて新兵衛に剣を習う。雪のなかで二人が剣を振る姿が美しい。
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春になり、政家が帰国したことで事態は急を告げる。帰国早々に政家が巻狩を言い出す。采女は同行して藩の実情を話したいが、体調不良でかなわず、馬廻組頭・三右衛門にこの任を託す。
 
警護中の三左衛門が何者かの銃弾を受け、「平蔵を斬ったのは自分だ」と藤吾に言い残し、息を引き取る。
夜半遅く大雨の中を帰宅する平蔵(木村大作)が、迎えに来た采女を刺客と間違え斬りかかり、これを見た三左衛門が采女を救うため斬ったという。このシーンの撮影が岡田さんだそうです。
 
石田玄蕃は殿の警備不行き届きの責任を采女に着せ、切腹か起請文を渡すかの選択を迫る。
 
窮地に陥って采女の状況を知った新兵衛は、采女を訪ね篠の願いをかなえるために来たことを伝える。采女は「篠の望み?お主は篠を苦しめただけだ!」と罵る。なぜ采女はこれほどに頑ななのか?
新兵衛は、篠の気持ちが死ぬまで采女に向いていたのかと、采女の心を試すために、散り椿の下で、刀を抜く。
采女はこれを受けて、ふたりは激しく剣を交わす。新兵衛は膝を地につけ、采女の脚を払いように斬りつけ、采女はこれを払う。
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采女は「もういい!篠のところにはお前がいるべきだった。残された文を見てそう思うなら大バカ者だ!」と破談になったときに篠が采女に送った歌を詠み、「歌の意味は、あなたの愛は受け入れられない。夫婦になるお主がいいというものだ。お主、篠の後を追って死ぬ気でいたのか。お主のために篠は心にもないことを言った。生きろ!これが篠の願いだ!」と新兵衛を諭す。
 
葉室さんらしい詩文の解釈をめぐって、ふたりが剣を交わすことで篠への想いを知るという、すばらしいシーンでした。新兵衛の篠への純粋な愛、篠を愛おしむ采女の心情に泣けます。
 
藤吾から、石田玄蕃らが「采女上意討ち」のため神社に集結していると知らされる。
藤吾に起請文を持たせて殿のもとに走らせ、新兵衛と采女は、玄蕃が屯する神社に向かう
ふたりと数十人の相手との血吹雪の中での決闘が始まる。まず采女が敵陣に斬り込む。新兵衛を生かそうとする友情に泣けます。数人を斬ったが矢を受け、「新兵衛生きろ!」の言葉を残して落命する。
次々と繰り出してくる相手を斬り、新兵衛が玄蕃の首に刀を突き付ける。「あなたは生きて!わたしとともに」という篠の声を聴くなかで、玄蕃を斬り捨てる。
 
不正事件が解決し、旅立つ新兵衛。
私のなかに姉がいます。ここに留まって欲しい。散り椿を見ませんか」という里美に、「その時が来るかもしれない」と去って行く。
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新兵衛、采女、篠のお互いを想う心に感動し、木村監督と岡田さんが舞台挨拶で涙したのが分かるような作品でした。
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