監督・脚本は「さよなら渓谷」「まほろ駅前多田便利軒」などの大森立嗣さん。まさか大森さんがお茶を主題にした映画を撮るとはという気持ちがありました。(笑) “とんでもない!”、これまでの作風とは違って、人生の機微がじんわりと伝わってくるすばらしい作品でした。何度も涙しました! まったくお茶を知らない私にも、理解できるように作ってありました。(笑)
樹木さんと黒木さんはお茶の先生とお弟子さんの関係で、物語上黒木さんが主演になっていますが、おふたりともに主演と言っていいでしょう。
樹木さんは、黒木さんが出る作品ならと出演を決められたそうですが、役を超えて、黒木さんに女優魂を説いているように思われ、大きな感動を受けました。
あらすじ:
見たことも聞いたこともない「決まりごと」だらけのお茶の世界に触れた典子は、それから20数年にわたり武田先生の下に通うこととなり、就職、失恋、大切な人の死などを経験し、お茶や人生における大事なことに気がついていく。<allcinema>
物語は、お茶を習う初日に、先生宅で目にした「日日是好日」の額の意味が分からないところから始まり、この意味するところを実感するところで終わります。
全編を通じて、お茶を習うシーンでの季節ごとに変わる花や掛け軸や聞こえてくる水の音などで、華道の美しさ、日本のよさが伝わってきます。とても映像が美しいです。
当初は茶道の基礎から入り、分かり易くユーモアを持って描かれ、まるで観る側が、樹木さんにお茶を教わっている気分です。( ^)o(^ )
お茶を習いながら、歳を重ね、就職の失敗、婚約者の裏切り、親の死という人生の悲哀に、茶室で自分自身と静かに向き合いお茶や人生の奥深さに気付いていく過程が、本作の見せどころ。ここでは、生きることへの喜びや人を思いやる茶道の心が伝わってきます。
特に、ラスト近くでの、6月の雨の音に、五感で「いま、生きている!」と感じるシーンは、映像も美しく、秀逸です。
希林さん。お茶の経験はなかったそうですが、作法を喋りながら教える、あるときはやって見せるというお茶の先生。この自然体の演技はすごいですね!
黒木さん。“昭和顔”で着物姿ならこの役は鉄板です!お茶の経験はないとのこと。しかし、学び始めて1年、ひとりで茶を点てるシーン、長回しで凛とした美しさを見せてくれます。そして、25年の生き様をみごとに演じます。
多部さん。チャーミングさが圧巻でした。( ^)o(^ )
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冒頭、10歳の時、「道」という映画(1954)を観て「寂しい映画ぐらいで、何が良いのか分からなかった」という記憶から、物語が始まります。
ふたりは武田先生を訪ねると、さっそくお習いです。希林さんから、袱紗さばきと、棗の取り扱いを教わります。希林さんの見事な教えっぷりです!!
そしてお菓子を食べ、先生の点てたお茶をいただきます。「なんで先にお菓子を食べるの?」と疑問を持ち、「お抹茶は残さないように、音をたてて飲みなさい」と教わります。????の連続でした!
次の週から「割り稽古」と称して、「茶筅」から始まります。うるさい作法に「なぜこうするの!」と声を漏らす。すると「頭ではだめ、慣れるの!」と「お点前」「畳の歩き方」までに3か月が過ぎました。
「はじめに形をつくり、その入れ物に心をいれる」という“形つくりの期間”だったのでした。
夏休みになると、ちゃっかり屋の美智子はヨーロッパに旅行。典子は、休むつもりでしたが、ひとりで先生の所に顔を出しお点前をすると、なんと休みで忘れていたと思っていたが、手が自然に動くようになっていることに驚きます。
秋になると、炉を使ったお点前「冬のお点前」を教わる。「これでは振り出しに戻ったも同然」と美智子がつぶやくと、「目の前のことに集中しなさい!」と注意を受けます。(笑)
ふたりは、鎌倉の海にやってきて、これからの夢を語ります。
美智子は会社員になるというが、典子にはやりたいことが見つからない。お茶の稽古はひとりになっても「『道』という映画観たら、すごい映画だった!これに感動しないと、人生はもったいないと思った」と稽古を続けることにします。
正月は、先生のところで「初釜」。希林さんが「今日は私が点てます。私も間違えます。“口ばかり”で駄目です!」と言い、先生のお点前でお茶をいただきます。
典子は「先生の所作には味がある。すっと浸み込んでくる」と言います。それほどに、すばらしい希林さんのお点前でした!
これから一か月後、茶会に参加。先生からは「しっかり目を養いなさい」と言われる。ここでも「日日是好日」の額を目にするが、意味が分からなかった。
2年目が経ち、美智子は会社員に。典子は出版社のアルバイトを始めます。
お稽古には新人が加わってきて、「この人たちの稽古を見て学ぶ」ことになります。
夏のある日、つくばいの音がいつもと違うと感じるようになり、立秋には掛け軸の「瀧」の字を見ていて「滝の音」が聞こえる。「頭で考えずに、絵のように眺めればよい」ということに気付くのでした。
先生の点てるお茶は水音に聞こえ、心に沁みこんでくる。立冬には、水とお湯の音の違いが分かるようになった。ここでは、「とろとろ」「キラキラ」の音が聞き分けられます。
大学を卒業して3年。美智子が仕事を辞めて結婚。典子は出版社の試験を受けることにして、しばらく勉強のためにお茶の稽古を休むことにします。
しかし、勉強は進まない。武田先生を訪ねると、床に「達磨」の掛け軸はある。
「明日は大切な試験だからダルマさんを見てもらおうと思って・・・七転八起よ」という。これを見て、典子は泣き出します。
残念なことに典子は試験に失敗。しかし、フリーターという仕事にありつけ、あせることはなかった。
典子30歳。ひとみさん(山下美月)が新人として加わります。素質があって機転が利く子。山本さんは、茶道の経験があって、みごとな手さばきを見せてくれます。
典子は、先生から「10年もやってるんだから、工夫しなさい」と注意を受け、もうここには居場所がないと稽古を辞めることを考え始めます。
このようなときに婚約者の裏切りがあり、それが許せず婚約を破棄するという、大きな衝撃的な出来事で、お茶の練習は休むようになります。
大寒の日。お稽古に出かけると、先生が「この花はマンサクよ。一番寒いときに咲く花もあるのよ」と言い、「これは何と読む?」と「不若者有智」(ふくわうち)の掛け軸を示す。そして「このお菓子は冬枯れに芽吹くを意味しているの」と菓子を差し出します。
典子は「いつやめてもいいじゃない。おいしいお茶を飲みにきたらいい」という自分の声が聞こえる。
全てを見抜いていた先生の心使いで、典子はこの寒を乗り越えようと決意するのでした。( ;∀;)
これから1年ほどが過ぎて恋をし、こんな日が来るとは思わなかったと、一人暮らしを始めます。
そんなときに、「遊びに来い」という父の誘いを断って、もの書きをした次の日、桜が満開の四月に父が亡くなった。「行けばよかった・・」と大きな後悔が残ります。
縁側に座り桜を見ながら「典ちゃん、桜が悲しい思い出になったね。あんたを責めてはいけない」と膝に手を置き慰められます。桜がひらひらと舞った! 先生にも辛い経験があったのでした。
典子は「人生に起きることは突然で、心の準備はできない。時間をかけて慣れていくしかない」と思うのでした。
6月、お茶席で“ぼた餅”を食べ、お茶を飲んでいると雨が激しく降り出す。次第に大きな雨音となり、匂い、海辺に立つ父に会え、手に雨を受ける。茶室が静かになり、掛け軸の「雨聴」を見て「いま生きている」という感慨を味い、「日日是好日」とはそういうことだったのかと気付くのでした!
12年後の小寒、お茶を始めて24年。世の中は激変つづきだったが、土曜日にはお茶を習った。
そして、2018年元旦。武田先生が「私のような至らぬものによくついてくれました」と挨拶され初釜が始まる。「同じことができるのが幸せ!」と先生。そして、12年ごとに一度見る戌の描かれた茶器を手にして「次の時まで元気でいたい」と正客。
「それでは、私は100歳です」と先生。次にこの茶器を使うまでしっかり生きようと思わせてくれるのでした。
典子は「世の中にはすぐわかるものとすぐわからないものがある。すぐわからないものは年月をかけてわかるようになる。「道」の映画のようにわかるようになる」とお茶を続けようと思うのでした。
「教えることでわかることが一杯あります」と先生。ここからが本当のお茶の始まりかもしれないと典子は思うのでした。
なんとなく言わんとするところはわかったように思うのですが、わかってないですね。(笑) そのうちわかる時がくるいでしょう。名作です!!
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