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「鈴木家の嘘」(2018)

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とても評判のよい作品、やっと観ることができました。評判通りのすばらしい作品、2018年度邦画のTOPクラスです。(^)o(^ )

 
「第31東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門」(2018)に出品され、同部門の作品賞を受賞しています。
 
テーマは、家族とは何かです。長男の自死によって巻き起こる家族の混乱と再生というとてもシリアスな問題を、ユーモアを交えて暖かく描き、家族とは何かを考えさせてくれます。
 
監督、脚本は、橋口亮輔石井裕也・大森立嗣さんなどの数多くの作品で助監督を務め、本作が劇場映画初監督作となる野尻克己さんです。
出演は、父・幸男役を岸部一徳さん、母・悠子役を原日出子さん、長男・浩一役を加瀬亮さん、長女・富美役を木竜麻生さんがそれぞれ演じるほか、岸本加世子さん・大森南朋さんらが脇を固めています。
 
あらすじ:
ある日突然、この世を去った浩一の姿を目にしてショックで記憶を失った母のため、父と長女は「浩一は叔父の手伝いをするためアルゼンチンに旅立った」と大嘘をつきそのアリバイ作りにいそしむ。
母が意識を取り戻し、嘘がばれ、父は息子が生きていた証を探し、娘は兄と仲良くできなかったことを悔やみ、母親は息子が抱えていた痛みを味わおうとし、家族は浩一を喪った現実と向かい合い、お互いが心を通わせるようになっていく。
 
母の笑顔を守るためにつく嘘が、悲劇のなかでの嘘だけに、笑えます。ここでの嘘の伏線がよく練られていて、嘘が次第に本当になっていくところがまた面白い。
 
物語の冒頭近くで描かれる、父親が浩一の残した書類?を見つけその後ソープランドに出向くシーンと娘がグリーフケアに参加するシーンのふたつの伏線が、母の作る料理などともに、物語の進展に合わせ回収され、その先に家族の絆が見えてくるという筋書は見事です! “脚本の良さ”が光っているドラマです。

出演者の演技は、自然で、見応えがあります。なかでも長女・富美は感情変化の多い難役ですが、木竜麻生さんが自然な演技でしっかり演じています。また、大森南朋さんが母親の弟・博役で、ひょうきんに演じて物語を面白くしています。
 
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冒頭で、長男・浩一が、自室をきれいに整頓したのち押し入れに綱を張り首を吊る。
母・悠子が買い物から帰りリビングでオムレツを作り、二階の浩一に声を掛けるが返事がなく、部屋を訪ねるとぶら下がって浩一を見てリビングに降りて包丁を持ち・・。学校から帰った富美が「おかあさん」と声を掛けるが返事がない。二階に上がり見た景色は、つり下がった兄と手首に傷があり意識のない母の姿。
 
浩一は何故死を選んだか? 母親は何をしようとしたのか、この家族にこれまでに何があったのかという大きな伏線を残して、次のシーンに。観る人の視線を絶対に外させない展開が見事です!
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浩一の死から数日後、
父幸雄は浩一が使っていた机から、封筒を見つけ中身を確認。そしてソープランドを訪ねイヴという女性の客になる。
一方、富美は大学の新体操部の練習に参加。先輩から「兄が自死したのは愛がないからだ」と嫌味(本人には)を言われる。浩一の自殺は引きこもり“によるもので鈴木家にとっては世間に知られたくない秘密であった。
 
ソープランドから富美に電話が入り、出向くと父と店主がサービス料で揉めている。(爆笑) 富美は2万円を出し、「こんな時に何しているの」と怒る。
妻が入院で、夫は変な気でも起こしたかと富美の目線で観ていましたが、これがとんでもない大きな伏線でした。( ^)o(^ )
 
富美は兄の誕生日に喧嘩したことを思い出し、次の日「グリーフケア・サポートセンター」を訪ね、ミーテイングに参加します。
ここで子供の自死で悩む女性・日比野(吉本菜穂子)、電車に飛び込み自死した夫を持つ米山(川面千晶)などの話しを聞くが、富美は何も話さない。富美は兄の死にいかなる想いがあるのか? ここでも大きな伏線が張られ、グリーフケアを通じて富美が成長していく様が描かれます。
 
夫が自死したにもかかわらず何故か陽気な米山さんの振舞いに爆笑させられます。「きゅうりの漬物」は何を意味するのでしょうか?
 
母・悠子が病院で目覚める。しかし、“あの日”の記憶がないことに気付く。母の笑顔を守るためと富美が「お母さん、お兄ちゃんはアルゼンチンにいる」と大嘘をつく。この嘘は叔父・吉野博(大森南朋)がアルゼンチンのエビ取引してることから思いついたもの。() この嘘にみんなが乗っかり、嘘の上塗りをしていくところに大爆笑です。
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富美が兄への手紙を書き、これをアルゼンチンにいる博の友人に送り、母への手紙にしてもらう。アルゼンチン人が浩一の様子を語るビデオを作って母に見せる。病室にはアルゼンチンの写真を張る。父・幸男は革命家ゲバラのプリント入りTシャツを買ってきて、浩一からのプレゼントだと囃し立てる。(爆笑)
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母・悠子の意識が戻り退院、早速、浩一の好物である“よもぎ餅”を作りアルゼンチンに送ろうとするが、宅急便社から出来ないと言われる。() また、夫の洋服ポケットにソープランドの名刺があることに疑惑を抱きはじめる。そして、富美には浩一とクリスマスに喧嘩をしたことを問い詰める。

幸男と富美は母に浩一の死をどう伝えるかと悩む。幸男は冒頭で見つけた封筒の中身を富美に明かします。それは生命保険証書で富美が1000万円の受取人となっていた。「兄のお前への想いだ、受け取れ」と言われ富美は何故と驚きます。しかし、その詔書にはソープランドのイヴちゃんからのメールが張られていた。
 
幸男は、浩一は鬱ではないかと医者に行くことを勧め大喧嘩したことを思い出し、保険証書に添付されたイヴちゃんのメールに、「鬱なんかで亡くなったのではない、結婚の約束でも・・」と浩一の生きた証を求めて再度ソープランドを訪ねるが「イヴなんて子はどこの店にもいる」と追い出される。幸男の息子を想う気持ちに泣かされます。
 
幸男は諦められず、シャベルを持ってソープランドを訪れ、「イヴの身元を調べてくれ、でないと・・」と脅しをかける。()  このときも富美が父を迎えに行くがその態度はやわらかいものになっていた。
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一方、富美は母から兄への態度を責められたことから、遂に耐えきれず「あの日、兄に死ね!と暴言を吐いた。これまで本当に兄への愛情があったのだろうか」と、グリーフケアで兄への想いを吐き出します。ここでの木竜麻生さんの思い詰めた演技がすばらしい。
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*富美の心情変化は、父母の浩一への想いやグリーフケアでの体験が生かされ、緻密に描かれていきます。
 
叔父・博が、アルゼンチンでの商売をやめ岐阜に引っ越すことになり、これを機に愛人・フランシスカレベッカ・ヤマダ)と結婚することになる。
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この披露宴の席で、母・悠子が「皆さんには浩一がお世話になりました・・」と浩一への愛情一杯の挨拶する姿を見て、富美は「母のために何をしてあげたか」と恥じ、「お兄ちゃんはアルゼンチンにいない」と全て嘘であったことを明かします。
 
母・悠子は、これを契機に「あの日、二階に上がり浩一が首を吊った綱を必死に包丁で切りつけ、浩一を救おうとして自分の手を傷つけ気を失った」記憶が蘇る。
自分がいつもの時間に食事をさせていたらあんなことにはならなかった、いや私が産まなかったらよかった、私が浩一を殺したんだ!」と浩一の部屋に籠ってしまう。
 
富美は母のこの姿に「自分の暴言が兄を死に向かわせた」と告白し川に向かって彷徨しはじめるが、追ってきた母親によって癒されます。
一方、夫・幸男もこのような妻の姿を見て、浩一のことを妻に任せっぱなしにしたと大いに反省します。
 
家族は霊媒師を招いて、浩一と対面することにする。
霊媒師に「イヴちゃんのこと覚えているか」と聞くと、部屋に貼ってある犬の写真を見て「犬?」と言う。これに妻・悠子が「霊媒師はあてにならない」と言い出す。(爆笑)もう大丈夫、家族は同じ方向に歩めるようになっていた。

ソープランドから「イヴは青森にいる」という連絡がはいる。浩一の死を忘れるために岐阜に引っ越すという案もあったが、これを取りやめる。
浩一の納骨を終えて、三人は「押しかけたらイヴちゃんに迷惑かな!」と大きな荷を車に積み、青森へ発ちます。
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このラストでの余白、浩一の死という悲しみを背負って、前に進む家族の絆に泣けます。
 
どこかに自分の家族と重なるところがあり、家族の絆を再確認させてくれました。そして、家族として仏事は大切にしたいですね!( ^)o(^ )
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