9・11後のアメリカをイラク戦争へと導いたとされるディック・チェイニーを描いた社会派エンタテインメントドラマ。本年度アカデミー賞8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した作品。
小泉元首相が当時「私に聞いても分からん」と答弁したイラクの大量破壊兵器存在の嘘がどう作られたのかと知りたく出かけました。肩透かしでした! 小泉さんなんて小者、騙されたんですね。隠されたユーモアは沢山あるようですが、内容が浅すぎる。(笑)
監督は「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のアダム・マッケイ。出演はチェイニー:クリスチャン・ベール、妻リン:エイミー・アダムス、ラムズフェルド:スティーブ・カレル、ブッシュ:サム・ロックウェルとアカデミー賞常連の豪華キャストです。
あらすじ:
1960年代半ば。酒癖が悪くしがない電気工に甘んじていた若きチェイニーは、婚約者のリンに叱咤されて政界を目指し、やがて下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治のイロハを学び、次第に頭角を現わしていく。
その後、政界の要職を歴任し、ついにジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の地位に就く。
するとチェイニーは、それまでは形だけの役職に過ぎなかった副大統領というポストを逆用し、ブッシュを巧みに操り、権力を自らの元に集中させることで、アメリカと世界を思い通りに動かし、取返しのつかない悲劇の種を撒き散らしていった。
アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しただけに、それぞれの人物へのなりすましぶりが見事で、大笑いです。特にジョージ。まだまだ記憶に残っている政治劇だけに、作品理解には大いに役立ちました。なかでも、クリスチャン・ベールとエイミー・アダムスの40年にわたる容貌の変化、演技はすばらしかった。
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冒頭、これは真実だが不完全。ベストは尽くしたという言い訳がついた物語。
学生の分際で飲酒運転により逮捕される姿から、2001年9月11日のワールドトレードセンターアメリカ同時多発テロ事件で「いかなる航空機も敵とみなせ!」と交戦規定を独断で変更するまでになったチェイニー。どうやってこの権力を得たかが前段。
後段では、この権力を使って、チェイニーが何をしでかしたかが描かれます。
1963年、大学を止め、配線工として電柱で作業するテイニー。落下して笑われ、酒で泥酔して喧嘩、これでブタ箱行き。成績オールAの才女である妻リンに「2度はない!態度で証明して!わたしは名門大学にも政治家にもなれないからあなたが必要なの」と言われ、「二度と君を失望させない」と誓った。チェイニーの出世はリンの喜び、リンの喜びがテイニーをさらに上に押し上げた。これが彼の仕事をするエネルギーであった。
1968年にチェイニーはインターシップに参加、ここで共和党の下院議員ラムズフェルドに出会う。ラムズフェルドの指南は彼を権力の権現にする最大の力になった。当時ラムズフェルドはニクソン大統領の補佐官で、チェイニーは彼のやり方を学んだ。「理念なんぞより権力、あとはなんとでもなる」。ラムズフェルドとは一体いかなる人物かが描かれてない!
このあと、ニクソンが失脚するのを目の当たりにし、リンは「権力者は常に狙われる」と注意する。一方、チェイニーは、これでは大統領の地位が下がると、「一元的執政府論」を研究し始めた。これが彼の権力主義を決定的なものにしたと思う。
そして、ニクソンの失脚を「チャンスだ」と読み、ラムズフェルドを誘い、フォード政権では彼が首席補佐官に、キッシンジャーを放り出し、ラムズフェルドが国務長官の地位についた。こうして“チェイニーとラムズフェルドの結びつき”が強くなっていった。
父ジョージブッシュの大統領就任で、国防長官を務めた。次期大統領という時に、娘メアリーの同性愛問題で娘に寄り添ってやりたいと政界を去り、ハリバートンのCEOとなり、ヴァージニアでのどかな生活を送ることにした。ハリバートンの時代がほとんど描かれていない。
チェイニー、このままで終わればよかったのに、息子ジョージブッシュから副大統領就任を要請された。(笑)
受諾するかどうか最後まで臭わさず、妻リンと語らいながら、2度にわたりジョージから受諾条件を引き出す。ここでのチェイニーとジョージの関係は大人と子供です。これが実態だったんですかね。「副大統領などつまらない仕事」という妻リンの説得の方が大変だった。「君は動的なリーダーだ。物事を勘で決める。それならわたしが平凡な任務を担当できるかもしれない」と人事、官僚、軍事、外交、エネルギーを引き受けた。
人事の次に情報の集中管理、大統領より先に持ってくること。軍にイラク侵攻を指示。CIAに腹心を放り込む・・・・。
「エネルギー政策、太陽光などどうでもいい。油を入れよ」と指示しているところに9・11事件が勃発。これが、彼のイラン侵攻に口実を与えた。イラン攻撃の宣戦布告で、ショージの脚は震えていた。(笑)
カーという男は何者だ!(笑)
法を捻じ曲げ、国民への情報操作もすべて意のままで、チェイニーは自らの存在感を消したまま、その後のアメリカと世界の歴史を根こそぎ変えてしまった。
カーの心臓を移植したチェイニー、「なすべきことをやった。私は光栄だ、国民に仕えて。国民に頼まれてやっただけだ」とインタビューで吠えている。
多くの存命者があるなかで、このような作品が公開されることが驚きでした。
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