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「ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~」(2017)

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2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件(3人が死亡、282人が負傷)の被害者で両脚を失う被害を受けた実在の人物ジェフ・ボーマンの実話。原題は「STRONGER」。
ジェフがテロ事件の犯人特定に一役買ったことで一躍脚光を浴びるも、両脚を失うという大きな傷を、恋人や家族に支えられ、越えて再生していく姿を描いたもの。
 
事故前のジェフの映像は冒頭の僅かなシーンのみで、99%は事故後の姿なので、「ダメな僕だから英雄になれた」という見出しがぴんとこなかった。そうではない、英雄といわれるのが恥ずかしいジェフが自分のダメさに気付き、真に英雄と言われるにふさわしい人生を見つけるという作品でした!
 
対テロ撲滅キャンペーンを意識した作品ですが、テロで英雄になる話ではなく、両脚を膝から下を失ったジェフが、失意のなかで、生きる喜びを取り戻すという人生再生の普遍的な物語です。
 
監督はデビッド・ゴードン・グリーン。出演はジェフ・ボーマンをジェイク・ギレンホール、元カノ・エリンをタチアナ・マスラニー、ジェフの母親パティをミランダ・リチャードソンが演じています。
 
ジェイク・ギレンホールが両足のないジェフを、どうやって撮ったのでしょうか、見事に演じています。そして、彼を支えるエリン役のタチアナ・マスラニーがとても魅力的です。
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レッドソックスの試合を見るために、仕事を途中で放っぽり出してスポーツバーで出かけ、そこで会った元カノ・エリンに、撚りを戻そうと彼女が出場するボストンマラソンの応援を約束。当日、ゴール付近で応援していて、突然の爆弾テロ事件に巻き込まれる。
 
どのような惨状であったのかは、ここでは描かれない。何故描かないのか?が本作のポイントになります。
 
ジェフは救急車で病院に搬送。家族が駆けつけ、エリンも駆け、意識を取り戻したジェフが「犯人を見た」と筆談で知らせる。ジェフは、はっきりと犯人を見たと証言、これが犯人逮捕につながって大々的に報道された。テロの犯人が判明すると家族が「殺せ!殺せ!」となじる。これにはちょっとびっくりでした。()
 
医者が両脚を切断したことを伝えると、呆然とするジェフ。まだ、亡くなった足の感覚があるような表情が痛々しい。そして、抜糸。これが痛々しく、事件現場は描かれていないが、激しいテロへの憎しみを感じます。エリンが「応援にきてくれたことでこんなことになった」と謝る。
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退院して、ひとりで入浴しようとするが何もできない。ジェイク・ギレンホールがとてもうまい演技を見せてくれます。自分で車椅子を降りてベットに座ろうとして転び頭から出血。
 
本人に全く自覚がないにもかかわらず、テロに立ち向かった英雄として報道され、褒め讃えられ、アイスホッケー「ブルーインズ」の試合のオープニングセレモリーに招待される。しかし、ジェフは不安で、エリンの助けを借りて参加。会場で旗をふり観衆に応えるという簡単なものだったが、突然PTSDに襲われ英雄としての誇りもなく、最後には恐怖を覚えた。
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不安なジェフは、エリンに援助を求め、ふたりが同棲することになる。しかし、母パティは「息子はヒーローとオプラのインタビューを受けるなどジェフにこの種の催事やインタビュー参加を求めるが、本人は嫌がり逃げる。息子を労わるための母親の気持ちは痛いほど分かりますが、息子が障がい者として独り立ちし生きることには障害となっていた。
 
彼は、なにも出来ない自分に失望し、あるいはエリンに甘える気持ちもあったか、リハビリに熱心でなく、友人に誘われ英雄と持ち上げられ、酒に逃げていく。
 
こんなときにエリンが妊娠。エリンは、これでジェフは子供のために生きる意味を見出してくれると思ったが、自信がないから子供はいらないという。ここの喧嘩のシーンが秀逸です。「お前を応援に行ったためのこんなハメになった」とエリンをなじるジェフ。ここまで言うかという本気の喧嘩にエリンが下した“彼を放り出す作戦”が見事でした。
車にジェフを残して、エリンは家に戻り、地面を張って家に入るのを観ても手を貸さなかった。そしてエリンは去っていった。
 
これでジェフは自分が障がい者であることの本当の苦しみを知り、今まで思い出すことを避けていたテロ当日の記憶、とても凄惨な映像を思い出す。瀕死の自分に手を貸してくれた男・カルロスが自分と同じような状況で人のために強く生きていることを知り、これまでの自分は人任せで生きてきたと反省し、避けてきた痛みに立ち向かうと決心する。
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しっかりリハビリに励み、投球練習を積んで臨んだレッドソックスのオープニングセレモリーの始球式で、みごとに役割を果たし、観衆から「その姿で生きていることに元気づけられる」との言葉で、ジェフは生きる喜びを知るのでした
 
事故現場の記憶をうまく使い、レッドソックスの本拠地フェンウェイパークのオープニングセレモリーで彼が生き返っていく描写が見事でした。
 
ボストンには「レッドソックス」と「ブルーインズ」のチームがあり、チームの活躍から市民が如何に大きな生きる力を貰っているかが分かり、スポーツが人生の中で大きな役割を演じていると感じる映画でした。
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