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「ベイビー・ブローカー」(2022)

監督はそして父になる」「万引き家族」「真実」」の是枝裕和さん。今やその動向が注目される中で公開されるのが、韓国の著名スタッフ・キャストと組んだ本作。子を“赤ちゃんポスト”に捨てた母とその子を盗んで養子先を斡旋する悪徳ブローカー、そのブローカーを追う刑事が織りなす物語何がテーマなのかと楽しみにしていました。

監督・脚本・編集是枝裕和撮影:ホン・ギョンビョ、美術:イ・モグォン、衣装:チェ・セヨン、音楽:チョン・ジェイル。

出演者:ソン・ガンホ、カン・ドンヴォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン、他。

第75回カンヌ国際映画祭ソン・ガンホが主演男優賞を受賞したという話題作です。


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あらすじ(ねたばれ:注意):

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)は“赤ちゃんポスト”がある施設で働く児童養護施出身のドンス(カン・ドンヴォン)と組んで「ベイビー・ブローカー」という裏稼業をやっていた。ある土砂降りの雨に晩、若い女ソヨン(イ・ジウン)が、気が動転していたか、赤ちゃんポストの前に置いて走り去った。

これを監視していた刑事のスジンぺ・ドゥナ)が赤ちゃんを拾い上げポストに入れて反応を待っていた。この日はドンスを除いて施設職員は誰もいない。サンヒョンとドンスは監視カメラ映像を消し、赤ちゃんをおんぼろワゴンでサンヒョンの店に運んだ。スジンとその相棒・イ刑事(イ・ジュヨン)がワゴンを追ってクリーニング店に着き、サンヒョンらを現行犯で捕まえると見張っていた。スジンは「ソヨンは無責任な母親だ」と思っていた。朝方、スジンの旦那が食べ物を差し入れた。

翌日、母親ソヨン(イ・ジウン)が思い直して亜太ちゃんを迎えに施設にやってきた。施設で保護されている赤ちゃんを見たが、見つからなかった。警察に届けられるのを恐れたドンスがソヨンをサンヒョンの店に連れてきて、「善意だ!最高の養子先を探す!謝礼が出る」と誘った。ソヨンは「ただのブローカー。善意ではない!」と反対したが、ついていくことにした。赤ちゃんの名はウソン。

店にふたりのヤクザ男が血のりがついたシャツを洗ってくれと持ってきた。ドンスが「何もの?」と聞くと「クレーマーだ」とサンヒョン。説明なくこういうエピソードが挟まれ、次第に明かされていく展開がミスレリアス!

おんぼろワゴンで養子探しが始まった。第1の候補はヨンドクのイム夫妻。「眉が薄い」「分割払いで」「レイプでできた子」と言われ、ソヨンが激怒して交渉にならなかった。釜山に帰ろうとしたが、ドンスの提案でドンスが育った児童養育施設を訪ねることにした。

ドンスは「妻だ」とソヨンを紹介し、1泊することにした。ドンスはこの施設では人気者だった。ウソンを見にくる園児たち。その中に「サッカー選手になる」という男の子・ヘジンがいた。

ソヨンがドンスに「施設に残ったら」と言ったことでドンスが傷ついた。ドンスには「施設にいたのは母親が迎えに来なかったから」と母への恨みがあった。「ソヨンも子供を捨て、手紙にい迎えに来ると書き残していたが、母と同じだ」と蔑むとソヨンが「母親ばかり責めないで、男も責めて!」とやり返した。

スジン刑事はワゴン車の中で歌いながらおむつを取り替えるソヨンを見た。

ドンスは夜、海辺で、サンヒョンと缶蹴りゲームをしながら、自分の気持ちをサンヒョンにぶち当てていた。

ドンスが部屋に戻るとソヨンがウソンを抱いて寝ていた。朝、ドンスがウソンを抱いて外を眺めている姿をソヨンが見て、「言い過ぎた」と侘び、「自分の人生は土砂降り人生だ」と告白すると、ドンスが「傘があればいい、大きな傘、二人入れる傘」と応じた。ここからドンスとソヨンの関係は大きく変わっていった。

刑事が女性を訪ね「殺されたホテルだ。この女、ここにいるか?」と監視カメラの映像を見せた。この情報にスジンが「子供が邪魔でソヨンは逃げた!」と思っていた。

サンヒョンは「2倍の値だぞ」と次の養子親と会うことに施設を出た。後部座席に違和感があり調べるとヘジンが乗っていた。「ウソンを売るんだろう」というから連れていくことにした。途中でパトカーに捕まったが、ヘジンの機転で逃れられた。

リゾートホテルで養子親に会った。ここで5人家族の写真を撮ったが、実はスジンも写真を取っていた!この養子親はスジンが「もう待ちきれない!」と準備した偽養子親だった。あまりにも不妊手術に詳しいことに気付いたサンヒョンが偽ものと見抜いた。

ホテルを出て、和銀車の洗車中にヘジンがウインドウを開けたため、みんながびしょ濡れになり大笑いした。これで5人が家族になったみたいだった。モーテルに泊まることにした。

スジン刑事が次の手を打った。ソヨンを呼び出しブローカーの情報を渡すことでソヨンの罪を軽くすると取引し、ソヨンに盗聴器を渡した。

ソヨンがモーテルに帰ると、サンヒョンが「ソウルに2000万ウォンの養子夫婦が現れた」と言い、翌朝までのヘジンの2時間交代の介護計画を明かした。これにはヘジンも加わった。もう大家族になっていた。

スジン刑事はこの状態(家族)を盗聴していた。

 夜半、ヘジンの様子がおかしい。病院にヘジンを運びこんだ。このときサンヒョンがソヨンとドンスに「お前らは夫婦!ヘジンの親だ!」として受診した。心配したがちょっとした発熱だった。退院時、ドンスがウソンを抱いていた。ソヨンとドンスは夫婦として医師と対応していた。

スジン刑事はヘジンの病気を知り「現行逮捕が難しい!」という。イ刑事が「子供には母が必要。なんであなたはソヨンに厳しいの」と反論した。スンジは「彼女は無責任!自分で産んで捨てた!この気持ちは私には分からない!」と答えた。

葬儀場の屋上。「あの女が子供を連れて逃げている」と配下に指示した。この映像が何を示すか?分からない!これがドラマに緊張感を与える。

サンヒョンが洗濯しているところに「金がいる、4000万ウォン!」と電話が入ってきた。

モーテルの中。ソヨンがウソンにミルクを与えているところで、ヘジンがソヨンにもたれて寝ていた。これを見たドンスが「こいつは売れ残った子だ。でも、こうやって子供は育つ。しかし、ソヨンは膝にウソンを乗せない!別れられなくからだ!」と話した。ソヨンはコンビニに行くと出ていく。ドンスは「傘を持っていけ!」と注意した。ソヨンが「持ってきて!」と言ったが、ドンスは「知らん!」と不愛想な返事をした!

ここでの会話シーンはふたりの想いがよくでた描写でした

ソヨンはスジン刑事を訪ね、ヤクザ親分殺人の顛末を話したスジンが「なぜ堕ろさなかった?」と聞いた。ソヨンが「産むのと堕すのとどちらに罪深い!」と問うてきた。スジンとソヨンが激しく言い合った。

ソヨンは「ウンチだよ、この声聞いて!」とスジンたちの車に携帯電話で声を送った。「そんなことはない!」と言あいながらスジンが泣いた!!

 風呂あがりのソヨン。サンヒョンがボタンをつけて衣類を渡した。ソヨンは刑事と取引したこと、「殺人犯だ」と告げた。サンヒョンがワゴンを調べ盗聴器を発見した。しかし、「今回は金ではない、買い手がつくまで探す」とサンヒョンはソヨンを責めなかった。

男がウソンを取りに来たが、サンヒョンがこの男を殺し、処分した。

サンヒョンたちは列車でカンヌンからソウルに向かった。スンジたちは高速道で追った。

車中でソヨンは「もっと早く会っていたらウソンを捨てなかった」とサンヒョンに語り、ウソンの名は“未来の星”という意味だとヘジンに教えた。

ホテルの一室で第3の養子親に会った。赤ちゃんを亡くしたばかりで妻が「おっぱいを飲ませたい!」とう。養子親が「気にいった!将来実子として育てたい。これを最期にして欲しい!」と提案してきた。

サンヒョンたちはこれが最期とウソンを連れてウォルミドを観光旅行した。観覧車でドンスはウソンを抱いて、ヘジンも加えて一緒になりたいとソヨンにプロポーズした。「そうなれたらいいね!無理、すぐ逮捕される。」と「ウソンを捨てたのは人殺しの子にはしたくなかったから」とソヨンが返事した。

ヘジンはサンヒョンと一緒に観覧車に乗り、酔って吐き大変だった!(笑)

サンヒョンは分れた娘にあった。「もう来ないで!でもパパはパパ」と言われた。プレゼントも渡すことが出来なかった。

夜のホテル。サンヒョンが「最期だからウソンに声を掛けてやれ!」とソヨンに提案した。「どう言うの?」と聞くので「生まれてきてありがとうだ!」と言った。ヘジンが「皆に言って!」とせがむ。ソヨンはみんなにひとりづつ「生まれてきてありがとう」と感謝をした。

ここは泣けますね!

ソヨンは外出して「あの奥さんは怯えている、本当の親になれない!」とスジン刑事に訴えた。「ソヨンがいない」と心配するドンスに「ソヨンのために何でもしてやれ!親になったら分かる」と言い聞かせた。

朝、サンヒョンは「ここで自首しよう!ウソンを売りに行かなくてよい!またウソンと暮らせる」と提案した。

そしてやってきた養子親に「4000ウォンで決着だ!ドンスとは一切関係ないことだ。あいつは俺を必要としなかった」と話しているところに警官が飛び込み、ドンスは人身売買で逮捕され、ドンスは抱えていたウソンをスジン刑事に渡した。

3年後、ウソンはスジン夫婦の元で育てられていた。ソヨンは出所しガソリンスタンドで働いていた。ウソンの未来について話すために集まることになった。

 ソヨンは化粧して話し合いの場に急いだ。ワゴン車の運転席に掲げられた家族写真を見ながら急ぐ・・・?

感想

ストーリーは簡潔そうで、複雑だった。ソヨンの殺人事件を伏せて、前段をサスペンスフルでユーモラスに描き観る人を惹きつけ、後段で物語のテーマ、「この赤ちゃんに何をしてやれば幸せか?」が描かれるという、是枝監督らしい作品でした。

家族と言えば疑似家族だという程に持て囃されるが、母親の責任、母性をしっかり描いてくれたことにこれまでの作品にない感動を覚えました!

全員が傷を持っているが、その傷を引きずるにではなく、いい方向に持っていき、より強い絆に繋がっていく過程の描き方がよかった。作品がメルヘン調で設定の甘さはあるが、テーマがしっかりしていて、母の純粋な愛に酔うことができました。

是枝監督が何故韓国でこの作品を取ったか?ソヨンの生き方に樹木希林さんが浮かんできました。監督には希林さんへの想いが残っているなと思いました。

韓国トップの歌姫:イ・ジウンがどんどん強くなって、美しくなってくる演技はすばらしかった!

ソン・ガンホソヨンの服にボタンを縫い付けるシーン、希林さんそっくりでした!ソヨンもドンスの苦悩が分かる、大きな愛で物語を引っ張りましたね!ラストが恰好いい!

ぺ・ドゥナ、セリフはほとんどない。当初びっくりするぐらいに暗い顔で出てきましたが、この表情が変ってきて、海辺でウソンと遊ぶシーンはすばらしい。車の中でカップ麺を食べるシーンは「ほえる犬は噛まない」(2000)で出てくるシーン、すごい女優さんになりましたね!

カン・ドンヴォン、ソヨンを見て、自分の母の気持ちを理解していき、ソヨンが好きになるという役、この作品のなかで一番好きな役にしてくれました。

落としてはいけないのがヘジン役の男の子。この子で雰囲気が一変しました!

母親のイメージが傘とボタン。母親を思い出しました!

これまでの作品に比べてもの足りないという意見もありますが、是枝作品としての品格を持ち、楽しめ、これでよしです。

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「麦秋」(1951)“紀子”に残っていた記憶に泣け、これからの家族の在り方を想う!

小津安二郎監督は原節子さんを「紀子」という名で演じさせた作品が3本「紀子三部作」と呼ばれている)ありますが、本作は「晩春」(49))に次ぐ2番目の作品です。

監督:小津安二郎脚本:野田高梧 小津安二郎製作:山本武、撮影:厚田雄春編集:浜村義康、音楽:伊藤宣二

出演者:菅井一郎、東山千栄子笠智衆三宅邦子原節子淡島千景佐野周二杉村春子、他。

「晩春」では紀子と父親の物語で結婚相手を紀子が父の説得で受け入れましたが、この作品 “紀子”自らの意思で決めるところが、前作の紀子物語の差異です。

「晩春」より柔らかでユーモア溢れた作品ですが、終戦から6年、まだまだ戦争の傷が残っていて、その傷に触れることで泣けますが、ここから前に進もうとするところが爽やかで、日本の未来を見つめているような作品です


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あらすじ

間宮紀子(原節子)は、28歳で、東京の貿易会社の専務秘書をしている。彼女は今、東京の病院医である兄・康一(笠智衆)とその妻・史子(三宅邦子)、兄夫婦のふたりの男の子・實と勇、引退しているが植物学者の祖父・周吉(菅井一郎)とその妻・しげ(東山千栄子)の、計7人家族のひとりとして北鎌倉で暮らしている。

冒頭、祖父が鶯に餌を与え、康一が出勤準備、史子と“しげ”が台所で料理、紀子は子供たちと朝食を食べて出勤という大家族の風景が描かれる。紀子は、北鎌倉駅のフォームで、兄と一緒に働く医師・矢部謙吉(二本柳寛)と挨拶を交わす。

祖父の兄・茂吉が鎌倉に遊びにきていて、「紀子を嫁に出して“まほろば”の大和に戻って来い!」と誘う。祖父母は大和を離れて16年になり、これからの家族のことを考えていた。

紀子はふたりの子と一緒に、茂吉を大仏見物に案内する。そこで幼い孫・光子(2歳)を連れた謙吉の母“たみ”杉村春子)に出会い、「大和からお客様?」と聞かれ、「父の兄です」と親しげに挨拶を交わす、親しい間柄だった。

当時の子供の遊がユーモラスに描かれます。電気機関車モデルが人気だった!甥たちと一緒に暮らしていたから、紀子は子供たちの面倒見がよかった。

紀子には未婚の料亭の娘・アヤ(淡島千景)と既婚の二人は親友がいる。会っては未婚組と既婚組とに対立しながら、自分の結婚について考えていた。

そんなとき、紀子は専務の佐竹(佐野周二)から「先輩で東大出、初婚だ」という真鍋(40歳)との縁談を勧められ、一度は断ったが、「考えてくれ!」と写真を渡され受取った。紀子は帰宅して兄嫁の史子に「専務から縁談の話しがあった、」と真鍋の写真を渡した。

康一は診断に訪れたアヤの母から紀子の縁談相手の話を聞いた。康一は乗り気になって、すぐに父・周吉に「身元もしっかりしる。話を進めたい」と同意をとった。

康一は妻の史子に紀子に真鍋との結婚を勧めるよう急かした。史子に紀子に糺すと「いい人らしい」と曖昧に答えた。

紀子の縁談の聞き合わせが “たつ”のところにあった。“たつ”が周吉のところにその知らせにきた。そこで、謙吉と同級生の(周吉の次男)省二のその後の消息が話題になった。周吉は「もう諦めた!」と話すが、“しげ”は「今でも生きている」という。省二の戦死?は周吉夫婦にとって心の大きな重しだった。

康一が会社関係者から真鍋の評判を聞いて、周吉夫婦にこの縁談を進めようとすると“しげ”が「歳の差が気になる紀子が可哀そうだ!」と反対した。康一は「しっかりした人だから年齢差など問題でない!」と押し切った。

康一が子供たちにお土産とパンを買ってきたが、實は電車でなかったことで気にいらなかった。康一が不平を言う實に手を挙げたことで、實は勇を誘い家を出て夜になっても帰ってこない。家族で探すが見つからない!康一は開業医の西脇(宮内精二)のところで、殴ったことを反省しながら碁を打っていた。

紀子は「ここに居るのでは?」と“たみ”の家を訪ねた。息子の謙吉がいて、すぐに走り出した!ふたりは夜遅く家に帰ってきた。

謙吉の秋田県立病院の内科部長転出の話がきて、康一は「いい話だ!」と賛成した。

謙吉は母・しげに転勤の話をしたが、“たみ”はいい返事をしなかった。が、謙吉は「それでも秋田に行く!」と伝えた。

康一は紀子を交えて謙吉の送別会を設けた。そこで、謙吉が徐州で書かれた省二の軍事郵便を持っているので、それを紀子に譲るという話がでた。

紀子は手土産を持って“たみ”を訪ねた。すると“たみ“が「気を悪くしないで欲しい。あなたが謙吉の嫁になってくれたらと思うことがある!」と明かすと、紀子は「お嫁さんになりたい!」と即答した。”たみ”は驚いたが大喜びで、帰宅した謙吉に紀子の気持ちを伝えた。

帰宅して紀子は兄・康一に謙吉との結婚意思を伝えると、康一は周吉夫婦を居間に呼び、家族会議となった。家族が「歳が離れている、子供がいる」と反対したが、紀子は「おばさんに言われて、自然にその気になった。後悔はない!」と答えた。

紀子はアヤに会って「近くにいて分からなかったの!気が休まるから」と話すと「好きだったのよ」とこの結婚に大賛成だった。ふたりが秋田弁でやりとりして笑わせてくれます。しかし家族はまだ紀子の言い分に納得していなかった。

紀子は義姉の史子を茅ケ崎の海辺に誘い、家族が心配することについて「40歳でぶらぶらしている男性は嫌いで信用できない!」、これは耳が痛い人がいるでしょう(笑)、「自分は子供が好きだ!貧乏も気にならない」と自分の気持ちをしっかり伝えた。そのあと打ち寄せる波の砂浜をふたりで歩いた。

紀子は挨拶に専務を訪ねると、「東京を見ていきなさい!」と快く送り出してくれた。

紀子は謙吉に嫁ぎ、これを契機に康一は開業を決意した。周吉夫妻も大和の家へ引きあげて行った。

感想

紀子は戦場で亡くなった兄・省二の友・謙吉を結婚相手に選んだ!理由は「心から安心できる」だった。

この作品では兄のふたりの子供が出てきて、いたずらっ子ですが、とても仲良しでよく遊ぶ。ふたりの子の姿が紀子と戦場で亡くなった次男・省二の幼いころの姿に重なります。ふたりは露坐の大仏前で、正一とその友・謙吉と一緒に遊び、慣れ親しんでいたでしょう。省二が戦場で亡くなってもその関係は続き、転勤で謙吉を失うとわかった時、自分が「ず~と謙吉が好きだった!」と気付いた。省二の戦死がこういう形で報われることに泣けます!小津監督作品にはどこかに戦争の傷が残っていて、これを癒すように描かれる。

 この作品の中で、ふたりの子供の関係がしっかり描かれるのはここに繋がっていたんですね!回想シーンが全くない”ですが、こうして映画の裏側を読むのが楽しい!

女性が、こうして自分の意思で人生を選択するのも、当時としては新しい生き方だったと思います。

紀子が嫁に行くと、康一が家で開業すると言い出す。そこで周吉夫婦は「若いものの邪魔してはならない!自分たちの幸せを探そう」と兄・茂吉が勧める故郷・大和へと帰っていった。大家族が崩壊して、新しい家族が生まれていく。しげの寂しげな顔が目に残りますが、新しい老後の生き方を示したものだった!

家族の愛情表現を、説明はなく、短いセリフで、繊細に描かれていました。紀子の兄嫁への気遣い!夜中、子供に見られないようにふたりでケーキを食べるシーン。紀子がひとりで食事するシーンなど今の人にうまく伝わりましたかね!(笑)

ドラマの中で、礼儀作法と節電シーンがきちんと入っており、当時のつつましい日本人の生活がしっかり描かれていました。

小津監督作品特有のエピソードの合間に差し込まれる風景映像とぶれないカメラワーク紀子が秋田に行く前に見た東京のビル群。ここには戦争の傷跡はもうなかった。

茅ケ崎のうねる様な砂丘。紀子が本心を兄嫁の史子に伝え、海辺に出るシーン。初めてクレーンを使って撮ったそうですが、とても印象的なシーンだった。

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「PLAN75」(2022)高齢者排除システムがとてもリアルで恐ろしくなり、自分はどう生きるかを考えた!

75歳以上の高齢者には死を選択する権利を認め支援する制度“プラン75”が施行された架空の世界を舞台に、選択を迫られる当事者や制度の運」営に関わる若い人々の葛藤を描くという本作。今年の第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰に輝いたヒューマン・ドラマです。

監督・脚本是枝裕和監督が総合監修を務めた「十年Ten Years Japan」(2018)の短編「PLAN75」を撮った早川千絵さん、長編デビュー作です。撮影:浦田秀穂、美術:塩川節子、編集:アン・クロッツ、音楽:レミ・ブーバル。

出演者:賠償千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優美、ステファニー・アリアン、大方緋沙子、串田和美、他。

作品はとてもリアルで、エピソードが“ほとんど説明なく”紡がれていくので、まるでドキュメンタリーを見ているようで、答えを探しながら観ることになります。久しぶりに頭を刺激してくれる作品にぶつかりました!ということで、感想の入ったあらすじとなります。


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あらすじ(ねたばれ:注意):

少子高齢化が一層進んだ近未来の日本。満75歳から生死の選択権を与える社会制度が施行された。「プラン75」と名づけられたその制度は、75歳以上の人が申請すると、国の支援のもとに安らかな最期が迎えられるという。人口比に占める高齢者の著しい増加策によって起きる軋轢を解決しようとするもので、社会は歓迎ムードだった。

87歳の角田ミチ(賠償千恵子)は夫とは死に別れて、今では仲間の牧稲子(大方緋沙子)らとホテルの客室清掃をしていた。TVで「プラン75」のCMが流れても興味を持たなかった。みんなでカラオケに行って、パンフレットを見せられて知った。「良いね!」という者もおれば「家で死ぬのが一番!」というものもいた。が、ミチは家に帰ればひとりぼっちだった。

寿司を買って稲子の家に泊まることもあったが、そんな稲子が仕事中に倒れ、会社の一方的な言い分で、高齢者のミチも首になった。さらに悪いことに、住んでいたアパートが取り壊されることになった。住むところを探すが、お金が都合できず見つからない。仕事を探すがこれもダメ。こんなときホームレスの炊き出し場で会ったのが役所で「プラン75」の勧誘をしていた若い岡部ヒロムだった。ヒロムが差し出してくれた炊き出しがありがたかった。

ヒロムは役所を訪ねてくる高齢者に、丁寧に、歩けない老人には車椅子を準備するなどして、「プラン75」申請を勧めていた。勧誘マニュアル通りに「支度金は10万円、何に使ってもいい。葬儀費は不要です。質問は?」と15分間で終わる。(笑)ベンチに寝るホームレスを排除するため、業者と一緒にベンチの改良を考えるなど上からの達し通りに仕事をする若者だった。

ところがある日、何年も会ってない叔父・岡部幸夫(たかお鷹)が「プラン75」の申請書を持って訪ねてきた。ヒロムは親近者ということで担当を他の者に代ることになったが、気になった。ヒロムは叔父のアパートを訪ねた。すでに備品はすっかり整理されていて、いつでも「プラン75」ホーム(以下ホームという)に入れる状態だった。叔父の献血手帳を見つけて話を聞くと、「日本中を渡り歩き橋やビルを作った。そして献血をした」と話してくれた。ヒロムは「ホームに入る日(入所日)に迎えにくる」と約束して役所に戻った。

「社会に十分尽くした!」と自負する幸夫は「不要な老人」と見られることに堪えられなかった。この気持ちは嫌というほど分かります!

ヒロムは上司から「焼却炉の故障で入所日変更だ」と聞かされ、ネットでそのホームを検索して事業実態を知り「葬儀代がいらない」理由がわかり驚愕した。

心臓疾患のある5歳の娘を残して、フィリピンから日本にやってきた若い母親・マリアは老人ホームで働いていた。娘に手術が必要と分かり、日本のフィリピンコミュニティがマリアを支援しようと献金活動が始まった。さらに、老人ホームより稼げると誘われ、「プラン75」関連の寝たきり老人専用の老人施設で先輩の藤丸に串田和美)とペアで働くことになった。現在、こんな施設はありますから現実味のある設定です。仕事は亡くなった老人の持ち物処理で、財布や時計などもある。ある時、藤丸から「死者を忘れるな!」と注意され、高級時計が渡された。マリアはコミュニティの暖かさに支えられ、命の重さ、年寄りの悲しさが分かる女性だった

ミチは役所で仕事を探すが{ない!}と言われ、パソコンで検索しても年齢制限で、仕事はなかった。交通整理の仕事についた、たいして車の通らない寂しい現場だった。この映像は観ていて耐えられなかった!こんな仕事でもやるというミチの根性に泣いた。もう少しの社会に暖かさがあったらいくらでも働ける人だった。

そんなとき稲子が誰にも看取られずに亡くなった。ミチは考えに考えた末に「プラン75」の申請をした。

担当の成宮揺子河合優美)がミチに電話をしてきた。ミチは2度の結婚の思い出話を聞いてもらった。15分で終わりだった。ミチは「支度金の使い道がない。お願いがある!」とボーリングをしたいと申し出た。

揺子はミチの声の良さに、会うことは禁止されているが、会ってみることにした。ミチが支度金を渡すと「ありがとう」と揺子は受取り、ミチの手を取ってボーリングを教えた。ミチは笑顔でボーリングを楽しんだ。

ホームの入所日がやってきた。

ヒロムは叔父を車に乗せホームに向かった。途中で食事をした。叔父は目いっぱい美味しそうに食べ、お酒も飲んでもらった。叔父は何のためらいもなくホームに入って行った。そこで叔父は睡眠薬を飲み、ガスマスクを装着してベットで眠り、息絶えるのを待った。ヒロムは帰り始めたが、帰れなかった!車でホームに戻り、叔父のベットを探した

ミチには前々日寿司が配達され、揺子から「入所日当日、鍵を部屋に残して出発するよう」注意があって、「気持ちが変ったなら中止していい」と連絡があった。ミチは「先生にはお世話になりました。ありがとうございました」と挨拶した。そのあとミチも揺子も泣いていた!

ミチも睡眠薬を飲み、マスクをつけてベットに寝ていたが、眼が開いた。そのときヒロムと目が合った炊き出しを与えてくれた人だった!

ヒロムは叔父を探し出したがすでに呼吸がなかった。駆けつけたマリアの助けを借りて、叔父を車に乗せてホームを離れ、火葬場に急いだ。途中、スピードの出し過ぎでパトカーに捕まったが、叔父の名は建設界では広く知られていて、難を逃れた!

マリアはホームの外を眺めたあと、娘の手術は上手くいったかと自転車で家に急いだ。

ミチは木々の囲まれた道路を彷徨しなら、暮れなずむ夕日を眺め、「リンゴの木の下で」を歌っていた。

感想

ミチは「プラン75」の施設からマリアの手を借りて脱出して、夕日を眺め「リンゴの木の下」の一節「明日また会いましょう!黄昏、赤い夕陽が沈む・・」と歌った。もう一度揺子やヒロムに会いたい!と。

何故彼女が死ぬのを止めたかは分からないが、私は「ミチには死んで欲しくない!」と思っていました。私はおそらく岡部と同じような死を選ぶかもしれないが、「この年では嫌だ!」(笑)

冒頭、若者が老人ホームを襲撃し「日本の未来を憂える」と訴えて自殺するシーンは、実際に起こった某障害者施設事件をモチーフにしていて、こんな事件が生起するのを防ぐために「プラン75」を定めるという着想がとてもリアルだ!

そして、78歳のミチが頼りにしていた友人・稲子を亡くし、仕事を失い、「プラン75」を選択していく様が、“説明はほとんどなく”まるでドキュメンタリーのように展開していき、観るひとが答えを探すことになる。

「プラン75」を定められたマニュアル通りに進めていく若者たちの姿が今の若者の姿そのもので、またリアルだ。そして最後に観る人に「プラン75」の是非を問うてくる。

この作品はとても“リアル”で、「国はこういう制度を採るのでは?」と思わせてくれ、経済的理由でこの制度を設けた国に腹が立ってしかたがなかった。(笑)

とにかく脚本がすばらしかった!!

出演者の演技が作品をリアルにしてくれました。時にミチを演じた倍賞千恵子さん。よくぞこんな老人役を引き受けましたね!役そのものでした。しかしその立ち振る舞いに、もう少し社会が暖かかったら、「この人がこの制度を選択しなかった?」と思わせてくれ、その結末に説得力がありました。

老人たちを「プラン75」に勧誘したが、会ってみると親戚であったり、(禁止されているが)直接会って遊んでみてその人柄を知り、「プラン75」に誘ったことに疑問をもつ若者たちに未来を託したいと思います!とても考えさせられる作品でした。早川千絵監督の次作を楽しみにしています。

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「峠 最後のサムライ」(2019)黒澤映画の継承!美しい侍の生き様だった!

何度も公開延期となり、やっと公開になりました。原作は司馬遼太郎の同名ベストラー小説。監督・脚本は「影武者」(80)など数々の黒沢明作品の助監督として関ってきた小泉堯史主演が役所広司とくると、これは正統派時代劇と観る気になります。

幕末、東西両軍どちらにもつかず、和平独立に挑んだ知られざる北越戦争の英雄・河井継之助の最期の1年を描いた作品。

原作は読みましたが、当時ではめずらしいガットリング砲で戦ったこと、そして終焉地が八十里峠、これぐらいしか思い出せない!(笑)しかし、継之助が我が故郷・備中松山藩の家老・山田方谷から藩政改革について多くを学んだことは承知していました。

スタッフには黒澤組スタッフが終結

監督・脚本小泉堯史撮影:上田正治美術:酒井賢、音楽:加古隆主題歌「何処へ」:石川さゆり

出演者:役所広司松たか子香川京子田中泯永山絢斗芳根京子坂東龍汰榎木孝明佐々木蔵之介吉岡秀隆、他。


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あらすじ(ねたばれ:注意):

冒頭、1867年10月の徳川慶喜東出昌大)が二条城に40藩の諸侯、重臣を集めて大政奉還に意義を述べるシーンから物語が始まる。7分間にわたる長回し、東出さんのしゃべりも分かり易くてよかった。(笑)

「戦争を避け、天下泰平のため、朝廷の赦しを得て、王政に留まり万民のために心血を注ぐ!」という慶喜の正義。この正義を河合継之助(役所広司)が引き継ごうとする。しかし、西軍は慶喜の首を欲しがり戦の道を採った。

時代は一気に北越戦争前夜に飛ぶ。

継之助は長岡の民の暮らしを守るためには武装中立が唯一の策であると横浜でガットリング砲を買い付け、長岡に戻り、信濃川河畔の調練場に幼馴染・川島億次郎榎木孝明)を訪ね、フランス式訓練を視察しながら、「東軍、西軍どちらにもつかない。会津には申し開きさせる」と武装中立を説くが、川島は「自分の案を押しつけるのか」と反論した。

藩医の小山良運佐々木蔵之介)を訪ねた。武装中立を説き、「ガットリング砲を購入した。万一の場合、藩主をフランスに亡命させる。すでにスネルと話はついている。その際の渡航を頼む」と武装中立が準備万端であることを伝えた。さらに「息子の正太郎(坂東龍汰)には、武士の世はこの戦争で終わるから、好きな絵を描かせたらと、息子の将来についてアドバイスした。

継之助は大変な勉強家で将来をしっかり見据えていたようです。

城に出仕し、多くの藩士とともに、藩主・牧野雪堂に謁見した。雪堂に「西軍が二手で攻撃してくる。長岡藩にいかなる策があるか」と問われ、「策はない!殿が思った通りにしたらいい」と具申した。雪堂は「薩長の振る舞いは受け入れられない」と口にした。

継之助は妻・おすが(松たか子)と旅籠“枡屋”で芸者をあげて遊ぶ約束をしていた。継之助が枡屋に着くと娘のむつ(芳根京子)が対応してくれる。むつが「なぜカラスの掛け軸を見るの?」と聞く。「カラスは常に太陽に向かって飛ぶから好きだ!」と応じた。これがラストシーンに繋がる伏線です。

「自分では戦わないと言いながらなぜ戦の準備をする」という“むつ”に「戦わねばならないときに戦う!負けぬよう戦うが、勝てはしない!長岡は大事ない!」と答えた。

こんな調子で継之助の武装中立の姿が明かされていきます。

おすがやってきて宴席が始まった。よく飲むふたり(笑)継之助が長崎で教わったというカンカン踊りを見せ、おすがに一緒に踊れと促す。これもうまい踊りでした(笑)

このふたりはよく心が通じていて、この宴席で継之助の“死の覚悟”が見え、これが武士の覚悟でしょうか。

枡屋からの帰り、藩の若い侍の一群に囲まれた。継之助は従者の松蔵(永山絢斗)に「妻を連れて家に帰れ」と指示して、若者たちと渡り合い、「武力中立しかない」と説得した。敬之助の父・代右衛門(田中泯)は門前で刀を抜いて敬之助お帰りを待っていた。

代右衛門(田中泯)の妻・お貞(香川京子)を含めて、エピソードは少ないが、河合家の家族の絆が美しく描かれます

西軍が小千谷に進出してきた。藩主・雪堂が「朝廷のやり方が当を得ているとも思えない!独立自存だ!民を案じるは徳川の恩に報いるものだ」と独立することを明かし、その細部を継之助に一任した。

その夜、敬之助は横浜からオルゴールを取り寄せ、妻・おすがに贈った。これがふたりの最期だった。

継之助は従者として荻原要人(進藤健太郎)を伴い、西軍の小千谷屯所に談判に出かけた。交渉相手は土佐藩軍監・岩村精一郎吉岡秀隆)だった。若い傲慢な男だった。

継之助は返事の遅れたことを侘び、礼を尽くし、「会津、米沢は説得する!民のため、世界に恥じない強国になるためだ!」と嘆願書を差し出すが、「計略だろう」と受け取ってもらえなかった。継之助は諦められず、荻原にもう一度会えるよう交渉を命じ、夜まで門前で、番兵に槍でつつかれる中で待った。この様を伝令から聞いた岩村は「槍で追い返せ!」と命令した。交渉相手の位が違いすぎましたね!長岡は奥羽越列藩同盟に加盟した。

継之助は西軍の進行を阻止するため、要所・榎峠に兵を送ったが、敵もここに目をつけていた。榎峠を巡る両軍の激しい銃撃戦、斬り込み。長岡が奪取した。さらに朝日山も。しかし、新潟に上陸した敵兵が信濃川を渡河し長岡城に迫ってきた。これほど容易に信濃川が渡河されるとは思っていなかった。この正面の配備は薄かった!継之助は榎峠から兵の転進を命じ、長岡城正門に陣を引くことにした。自ら指揮し、ガットリング砲を配置した。

多勢に無勢、長岡兵は敗れ、城は焼かれ、町は破壊され火を掛けられた。

民の苦しさに答えようと、誰もが予想もしない八丁沖を渡河して城に斬り込む作戦を立て、鬼頭熊次郎(櫻井勝)に渡河計画の作詞を命じた。彼は水深を綿密に調査し、渡河経路を選定した。みごとな案だった。攻撃に当たって会津桑名藩兵が到着し、軍議で継之助が大将に決まった。

夜間の渡河、月が出ると一斉に停止し船とは分からないように行動する。ここでの映像がすばらしいです!

渡河は成功し、城内に進入して城を奪回した。が、城を巡る攻防戦で、継之助が新町口の戦闘で脚に銃弾を受け、歩けない状態となった。

「俺の首は敵には渡すな!まさか死ぬ前にこれほどの痛さがあうとは!」と気丈に振舞った。兵には「常在戦場を忘れるな!長岡に戻り、万泯のために教育を進めてくれ!自由と平等、民の教育こそ国の基礎だ」と説いた。しかし、兵の士気低下はどうしようもない、長岡城の守ったのはたったの4日で、遂に会津へ脱出することになった。

、代右衛門は入城してくる西軍に備え刀を振るい力をつける、おすがは父母と長岡い留まることにして月泉和尚(井川比佐志)からこれからの生き方、生きぬ抜くを教わる。

八十里峠道の宿。継之助は雪堂から贈られた裃を着て、「骨を埋めるな!」と松蔵に命じて、火を焚き、「武士はもう、俺が死んで、最期だ!」と火の中に消えていった。カラスが赤い空を目指して飛んでいった!

感想

北越戦争が現地ロケで壮大にして詳細に、CGにはない、フィルムで美しく描かれ、黒沢映画を彷彿とさせます。

“最期の武士としての美しさ”を描くという製作意図、啓蒙家の河合らしく最期まで日本の未来を信じ、徳川の忠義に自らの死を賭けた生き様が、わずか1年間の戦闘の中ではあったが、描くことができていたと思います。“葉隠れ“の武士道を見る思いでした。日本人にはこれを美しいと感じる心があるようです!

作品を通じて品格を感じる。小さなエピソードではあるが家族の絆や未来の生き方が暗示され、言葉使い、礼儀、戦闘アクション、建設物などすべてが美しい。最近見ることのない、懐かしい日本がここに描かれていました。

特筆すべきが戦闘シーンのこだわり。前哨戦である榎峠・朝日山の戦闘、長岡城の攻防、城と市街地の炎上、八丁沖の夜間渡河作戦等、兵士たち(エキストラ)の動きと映像の美しさ!スケール感がありました。石原莞爾が八丁沖の夜間渡河作戦を研究したと聞いて、“宜るかな”と思い、継之助は戦術家としても優れていたのだと思います。

役者さんたちの立ち振る舞いがすばらしい。役所さん、松さん、田中泯さん、香川京子さんらの時代劇ベテランの中にあって、永山絢斗さん、芳根京子さんの誠実な演技がよかった!若い人がこうやって育っていくのがいい。

すがすがしい日本の映画でした!

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「晩春」(1949)行き遅れた娘へのメッセージだけでなく当時の日本人の生き方を問う?

 

“娘の結婚を巡るホームドラマ”を小津安二郎監督が初めて描いた作品で、その後の小津作品のスタイルとなり、また原節子さんと初めてコンビを組んだ作品で、小津作品の中でも評価の高い作品とのこと。こんなことも知らず、戦後4年目の作品に何が描かれたのかと興味を持ってWOWOWで鑑賞しました。横須賀線の電車、1等車が1両連結されて、他は3等車という映像がありました。1等車は米軍専用だったんでしょう。今の人には分からないですよね!(笑)

行き遅れた娘の結婚を巡る父親と娘の情愛を描いた作品ですが、結婚を嫌がる娘に「結婚で幸せになれ!」と説く父親の愛情に、戦後4年米軍施政下の混沌とした世相の中にあって「日本人はどう生きるべきか」を問うた作品のように受け取り、今、この作品を観る価値があると思い、とても感動しました!

監督:小津安二郎原作:廣津和郎「父と娘」、脚本:野田高梧小津安二郎撮影:厚田雄春編集:浜村義康、音楽:伊藤宣二

出演者:笠智衆原節子月丘夢路杉村春子青木放屁宇佐美淳三宅邦子三島雅夫、他。


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あらすじ

北鎌倉に住む大学教授の曾宮周吉(笠智衆)。妻を亡くし、今は娘の紀子(原節子)と生活を共にしている。

冒頭、茶会のシーンから物語が始まる。この席に紀子は叔母・田口まさ(杉村春子)と参加し、そこには叔母の友人・三輪秋子(三宅邦子)もいた。ここではしっかりと茶の作法が描かれます!

戦後4年目、和服でお茶席などというのは贅沢の極みで大きな批判を浴びたようですが、監督にはこのような日々が早く来ることを望んでいたんだろうと思います。

自宅の1階、書斎では周吉が助手の小野寺(三島雅夫)の手を借りて論文を作成していた。周吉は密かに紀子が三島と一緒になってくれたらという思いがあった。しかしこのことを言い出せなかった。

そこに茶会から帰ってきた紀子は満面の笑顔でふたりにお茶を出して、2階の洋間の自室に!こんな紀子の表情に周吉はほっとしていた。

紀子は父と一緒に、横須賀線で東京に出て、病院に。東京の復興は急速に進んでいた。父の友人・勝義(青木放屁)に誘われて食事。勝義が再婚していることを聞き「叔父さんは不潔だ!」と言ってしまった。勝義は笑っていた。勝義は周吉の元に紀子を送ってきて、ふたりで一杯飲んで、紀子の結婚を勧め、帰っていった。

紀子は小野寺に誘われ、七里ガ浜を自転車で散策。小野寺には婚約者がいることが分かった。

周吉が“まさ“の宅を訪れると、「もう歳だから、紀子に相手はいるの?」と聞かれ、周吉は「服部だといいんだが」と曖昧に答えた。「紀子にはっきり聞きなさい」と”まさ“にせかされた。

周吉は、自宅に戻り紀子に服部のことを持ち出すと、「服部には決まった人がいる」と聞かされ、がっかりした。

離婚して書記の仕事を持つ友人・北川アヤ(月丘夢路)が訪ねてきて、泊まってた。「結婚したくない」と相談すると、アヤは「良い人がいたら再婚する、あなたはいいお嫁さんになれる」と紀子を元気づけてた。

父に勧められて“まさ”の宅を訪ねると「東大出の佐竹さん会ってみない!ゲーリー・クーパーに似ている」と見合い話を言い出された。「私が嫁にいったらお父さんが困る」と見合いを断ると、「三輪秋子さん、父さんにどう?」と紹介された。家に戻って父に口を利かなかった。

周吉は紀子を誘って能舞台を鑑賞。周吉は能を堪能しながら、向こう座席の三輪秋子に目線を送った。これに気付いた紀子が一気に不機嫌になった。この不機嫌が収まらない。帰り路、父と別れてアヤを訪ねて不平を聞いてもらった。アヤは「さっさと嫁に行きな!」と言われ喧嘩別れした。

家に帰っても機嫌の悪い紀子に、周吉は「佐竹さんに会っていたら、会ってみていい人だった。自分のことは考えないでいい、再婚する」と明かした。紀子はこの言葉が信じられなかった。“まさ”が「明後日来てくれ」と連絡があったと伝えた。

紀子は“まさ“の家で佐竹に会った。

見合いは終ったがなかなか紀子が返事をしない。周吉と“まさ”は鶴岡八幡宮にお参りし、いい話が聞けるようにと祈願した。このときまさが財布を拾うという好運を引き当てた。まさは「財布はかならず警察に届ける」と言ったが・・(笑)

紀子がアヤを訪ねて相談していた。アヤは「あなたには恋愛結婚はできない!結婚なんてパッとして、駄目なら別れたらいいんだ」と結婚を勧められた。

家に戻った紀子に、周吉は紀子の返事を聞きたいが聞けない。そこで“まさ”が聞きに2階に上がった。返事は「結婚する!」だった。

周吉は紀子を京都の旅に誘った。度の途中で床について、紀子は「実はお父さんが大嫌いだった!」と呟いたが、周作はすでに寝入っていた。

京都の旅を終えて帰る夜、紀子が「このままお父さんの側にいたい!」と言い出した。周吉は「夫婦で幸せを探せ!」と結婚による幸せを説いた。紀子は「幸せになります」と誓った。

 結婚式の日。紀子は周吉に「お世話になりました!」と丁寧に挨拶して家を出て行った。

結婚式を終え、周吉はアヤと一緒に小料理屋で飲んでいた。アヤが周吉に「再婚をするの?」と尋ねると、「ああでも言わないと紀子は結婚すると言わなかった」と答えた。

家の戻った周吉はひとりリンゴの皮をむいていて、ことりと項垂れた・・

七里ガ浜に新しい波は打ち寄せていた!

感想

ここで描かれる親子関係は古すぎる、男性優位社会での物語、恋愛して結婚!と今の人には受け入れられかもしれない。

しかし、見合いで結婚を受け入れ、父と京都に最後のふたり旅をして、やっぱり結婚は止めるという娘・紀子に「結婚して、当初は苦労するが、ふたりで努力して、自分たちの幸せを作りなさい!」と滾々と説く父・周吉の言葉には、時代を超えて、父親としての愛情が溢れていました。

ここでの父親の言葉はそのまま日本人の生き方に繋がるように感じました。

冒頭、お茶会。鎌倉の寺参り、能の鑑賞、京都旅行での寺巡り、これらは日本文化を代表するもの。監督の映画作法で挿入される風景カットに、銀座風景、横須賀線の通勤風景や電車から見る風景、緑の森、塵ひとつない清潔で整頓された部屋。これらは日本人の心の拠所、勤勉さを表現しているようで、何にもかも西洋を模倣するのではなく、特に能の鑑賞シーンが長く「なぜこれほどに能に拘ったか」と、「日本らしい生き方をしよう」と訴えているように思います。

自宅は1階が日本間、2階が洋間、原節子さんをヒロインに登場させたのも、西洋化の波は留まらないが、その中で伝統的な日本の良いものを残そうという考えではなかったかと。

ストーリーはシンプルで余計なことを描かない。セリフが短く、しっかりと心情を描くという作風。定点観測のようにブレない映像、モノクロール映像の美しさ、これも日本人らしい!

京都旅行の宿で、床に入って父に「私はお父さんが大嫌いだった!」と告白するシーンで、ここで挿入される壺の映像に大きな論争「壺のカット論争」があるそうですが、「父が寝たので“この言葉”、壺にしまっておこう」で、「父のいう幸せな結婚に成し遂げて見せる!」という紀子の決意に繋がるものだと解釈しました。(笑) 父に対する感謝であり、愛だとおもいます。これが日本人!

               *****

「オールド」(2021)死の恐怖に晒されるが、その結末に唖然!

スリラー映画の名手と呼ばれるM.ナイト・シャマラン監督作です。といっても初めてお目にかかります。WOWOWで鑑賞。

異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われた一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラー。

伏線がうまくつながり、ラストで「あっ!と驚く結末。もう一度見直しが必要となるような作品でした。結末を知らないで観ることをお勧めします。

 監督・脚本:M・ナイト・シャマラン原作:ピエール・オスカル・レヴィー、フレデリック・ペータース「Sandcastle」。撮影:マイク・ジオラキス、編集:ブレット・M・リード、音楽:トレヴァー・ガレキス。

出演者ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、チャールズ:ルーファス・シーウェル、イーモン・エリオット、エリザ・スカンレン、エンベス・デイヴィッツアビー・リー、ケン・レオン、アーロン・ピエール、ニキ・アムカ=バード、M・ナイト・シャマラン、他。


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あらすじ(結末抜き):

カッパ一家が、3日間の予定で製薬会社の経営するリゾートホテルにやってきた。申し込みは博物館員の妻・プリスカ(ヴィッキー・クリープス)によるもの。夫婦はプリスカの希望で離婚することになり、これが夫婦としての最期の旅行だった。保険数理士の夫・ガイは、離婚に反対だったが、妻の意思を重んじて決断した。夫婦には長男・トレント(6歳)と長女・マドックス(11歳)がいた。

ホテルに着くと、玄関で、マネージャーの丁寧な歓迎挨拶を受け、ドリンクをサービスされて、部屋に案内された。部屋に着くと「ホテルの浜では子供は遊泳禁止」と聞かされる。トレントすぐにマネージャーの甥・イドリブと仲良くなり、絵文字で会話するようになった。

マネージャーから「特別サービス」だとして、「秘境のプライベイトビーチ」を勧められ、「子供を泳がせられる」とカッパ一家は参加することにした。このときロビーで、黒人婦人がてんかんで倒れるという、ちょっとした騒ぎがあった。

このころ、ビーチにはひとりの男が海に入っていく金髪女性を見つめていた。

(この突飛な映像はなんとかならなかったのかな!)

ツアーにはカッパ一家のほかに、チャールズ一行が加わり、車で秘境入口まで送られた。出発時、トレントは別れを惜しむイドリブから絵文字の手紙を受け取っていた。チャールズ一行は心臓外科医のチャールズ(ルーファス・シーウェル)、彼の母アグネス(キャスリーン・チャルファント)、美人妻のクリスタル(アビー・リー)、6歳の長女・カーラの4人。

ビーチへの出発にあたってガイが与えられた食料がやたら多いので運転手(M・ナイト・シャマラン)に質問すると、「子供が沢山食べるから!」と教えられた。

いかに伏線がうまく繋がるかを提示するため、物語の出だしをすこし泥濘に書いてみました。

ビーチに着くととても美しいビーチだった。ガイとプリスカの間には会話もないが、トレントはカーラと仲良しになった。マドックスはラッパーのミッドサイズ(アーロン・ピエール)を見つけて興奮していた。かくれんぼで、トレントが洞窟内の海水に浸かってると、金髪女性死体が流れてきた。

 海辺は大騒ぎ!チャールズが、鼻血を流して男・ミッドサイズに「お前が怪しい!」と疑ったが、彼は強く否定した。そのとき、母親のアグネスが心不全で亡くなった!チャールズがいきなり「お前のせいだ!」とミッドサイズの顔をナイフで斬りつけた。チャールズには神経疾患があった。しかし、顔に傷があるはずなのに無い!

ここに「遅れたが、来たぞ!」とロビーで“てんかん”を起こした黒人女性パトリシア(ニキ・アムカ=バード)と彼女の介護師ジャリン(ケン・レオン)がやってきた。

プリスカが苦しみ出し、腹部に腫瘍が発見され、ガイの指示でチャールズが執刀して取り出した。メロン大の腫瘍だったが、傷がすぐに癒えていた。

金髪女性の遺体が骨になっており、プリスカの治験から30年経過していることが推測された。美人のクリスタルの顔にしわが出来、彼女が衝撃を受けた。

チャールズの精神が狂ってきて、遂にナイフでミッドサイズを殺害した。

ガイの推測で、時の進みは30分が1時間、1日は50年、ほぼ一生に相当するのではないかと分かってきた。

トレントとカーラが16歳になっていて、カーラが妊娠しどんどんお腹が大きくなっている。クリスタルは精神混乱で逃げ出し、マドックスとプリスカで生まれる子を取り上げたが、死産だった。あまりにも早い成長が求められ、これに赤ちゃんが追いつけなかった。カーラの精神がおかしくなっていく。

脱出のための救助を求めると、水泳に自信があるジャリンが海に泳ぎ出した。また、カーラが「何の記憶もなく死ぬのは嫌だ!」と絶壁を登って脱出しようとするが、墜落して亡くなった。

マドックスも脱出して救助を求めようと海に泳ぎ出し、ジャリンの遺体に出会い引き返した。

パトリシアがてんかんの再発で亡くなった。クリスタルは、醜い姿を見られるのが嫌で洞くつに逃げ込み、複雑骨折で動けなくなり亡くなった。狂ったチャールズがガイとプリスカをナイフで襲ったが、プリスカが錆びたナイフでチャールズに傷をつけ、これがもとでチャールズが亡くなった。

残されたのはカッパ一家だけとなった

老いたガイとプリスカ。ガイが「本当のことが言えなかったが君がつき会っていた男は悪いやつだった。それでも君が好きだった」と告白すると「私は自分が赦せなかった。あなたを愛していた」とプリスカも本音を明かし、ふたりは元の仲のよい夫婦に戻っていた。ガイが眠るように亡くなると、これを追うようにプリスカもなくなった。このシーンは泣けますね!

両親を見送ったトレントとマドックス。マドックスはここで最期を向かると砂で家をおもちゃの家を作っていた。そのときトレントはイドリブがくれた手紙を思い出し、取り出して読んだ。そこには「叔父は珊瑚が好きでない!」とあった。トレントは珊瑚群が管の役割をしてくれ、この中を抜ければ老化する力を受けないで脱出できるのではないかと考えた!

ここからは伏せます!

感想

突然、分けわからず人が亡くなり、精神がおかしくなって人に斬りかかる、斬ったはずなのに傷がない。そのうち1日が50年間に相当する速さで時間が進んでいることが分かっての不安!死にたくないと足掻く精神的に追い込まれ、最期にはこれを受け入れて死を待つという心境。怖い!そして諦観!よく描かれていました。

結末を知ると、急速に年老いるというSFが実話っぽくなり、死の問題を真剣に考えます。この結末こそが本作の面白さだと思います。

 人は長い時間を掛けて死を受け入れていくが、常に死と向き合っていることを忘れている。何時死んでもいいようにその日をしっかり生きること。愛、絆こそが死の恐れを排除してくれると教えてくれます。

スリラー好きの人には、急速に年取っていく設定にもやもや感が残り、気にいらないかもしれませんね。

               ****

「はい、泳げません」(2022)泳ぎで人生は癒される!

大河「八重の桜」(13)で夫婦だった長谷川博己さんと綾瀬はるかさんが主演で演じるハートフル・ストーリー。泳げない長谷川さんが、水泳コーチ綾瀬さんに魅かれていく物語?「まあいいや!」と観ることにしました。まったく違っていました!(笑)

原作:ノンフィクション作家・高橋秀実の同名エッセイ。未読です。監督・脚本:映画「舟を編む」(13)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した渡辺謙作、大胆にアレンジされているという。撮影:「赦されざる者」の笠松則通、編集:日下部元孝、音楽:渡邊琢磨、主題歌「生きなくちゃ」:Little Glee Monster

出演者:長谷川博己綾瀬はるか麻生久美子阿部純子、他。


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あらすじ(ねたばれ:注意):

大学で哲学を教える小鳥遊雄司(長谷川博己)は、泳げない。水に顔をつけることも怖い。屁理屈ばかりをこねて、人生のほとんどで水を避けてきた雄司はある日、ひょんなことから水泳教室に足を運ぶ。訪れたプールの受付で、強引に入会を勧めて来たのが水泳コーチの薄原静香(綾瀬はるか)だった。静香が教える賑やかな主婦たちの中に、体をこわばらせた雄司がぎこちなく混ざる。

その日から、陸よりも水中の方が生きやすいという静香と、水への恐怖で大騒ぎしながらそれでも続ける雄司の、一進一退の日々が始まる。

雄司はトイレだ、準備ができてないと理屈ばかりでプールに入らない。遂に見かねた主婦が是中を押した。こうして水に入った雄司、顔づけからトレーニンが始まった。

次は顔をづけして水に浮ぶ。「浮かぼうとしないで浮かぶ!」と静香。もう分けわからない。(笑)「死んだふりしなさい!」(笑)「俺は死んだことがない!」と雄司。

バタ脚で泳ぐ。「力を入れ過ぎない、息継ぎが大切」「手の平を立てて泳ぐ!手の平を立てると体がうまくよじれて泳げる」。この教え方がすばらしい!理屈が合っている。

「息継ぎは息を吐き切れ!」「歌を唄え!」「亭主の悪口を言う」、面白い息継ぎ法です。雄司は歌を唄ってこの息継ぎをマスターした。

雄司は上手くなっていると酒を呑んでマンションに帰ると5年前に水死した息子・智也の声が聞こえた。

次の日、体の中心を意識して泳ぐ。中心が分からない。(笑)「力を抜いて無心に泳ぐ」と静香の声。雄司は歌を唄って泳いだ。智也の声を思い出し息継ぎができず、立ってしまった。泳げない。

レッスンを休んで水族館にやってきて、魚が泳ぐのを眺めていた。そこに静香から電話。

静香は「交通事故で将来に絶望したが、水泳でリハビリが出来、救われた」と雄司にレッスンに出てくるよう説得をした。

魚になったつもりで腰を振って泳げ!」と言われ、(笑)雄司がアザラシの気分で泳いだ。気がついたら25m泳いでいた。スイマーの仲間入りができた瞬間だった。

雄司には付き合っている水野奈美恵(阿部純子)がいた。彼女はシングルマザーで順也という智也と同じ年ごろの男の子がいた。雄司は25m泳げたことで奈美恵に、5年前、自分が助けることができず智也を水死させたこと、飛びこんでからの記憶がないことを打ち明けた。奈美恵は雄司が水泳を始めた理由を知り、「私でいいんですか?順也を見て辛くならない?」と聞いた。「それはない!」と返事した。

静香に「雄司さんのレベルはもっと先、前へ前へではなく、何となく前に進んで!生きようとするのではなく、生きていた。水と喧嘩しない!」と言葉を掛けられ、雄司は無心で泳いだ。が、智也の記憶が出てきて、混乱し、溺れて、静香によってプールサイドに引き上げられた。

眼を覚ますまでに、智也を亡くして元妻美弥子(麻生久美子)が「何で私だけが苦しむの?あんたは何故泣かない!」と激しく責められたことを夢見ていた。

雄司は回復し、喫茶店で奈美恵に会って「俺はダメな人間だ!人の人生を背負う資格がない」と告げた。奈美恵は静香に会って話を聞いた。静香は「余計なことを考えながら泳いでいる。これが原因で立ってしまう」と話した。

奈美恵は雄司に「今夜、静香さんがプールで待っている」と伝えた。

雄司がスイミングスクールを訪ねると、静香は「自分を責めれば許されると思っているの!逃げるな!今泳がないと前にも後ろにも行けない!上に進むしかない」と雄司を抱いてプールに沈め、「水中の世界は外の世界は違う」としっかり泣かせた!

これで雄司はクロールで魚になった気分で謡いながら泳げるようになった。

雄司はマンションを売り払いアパートに移った。静香が訪ねてきて「貴方の中に智也さんはいる。一緒に遊んでください。泳ぐのと生きるのはよく似ているようで違う」と話し、またスクールに顔を見せて欲しいと伝え帰っていった。

マンションの整理に美弥子がやってきた。美弥子は「私も自分勝手やった!悪かった」と雄司に謝罪した。智也のおもちゃや智也が描いた絵を整理した。そこに智也の姿があった。ふたりは泣いた!

雄司は奈美恵に結婚を申し込んだ!

感想

とてもコミカルにコーチの静香による雄司へのレッスンが進み、ともにレッスンを受ける4人のおばちゃんたちの「理屈ばかりで何で泳げない!」という男性・雄司批判も面白く、笑っているうちに雄司のトラウマが明かされ、「彼が何故水泳を覚えたいか」が明らかになるというミステリー・ヒューマンドラマ。このバランスが絶妙で、脚本がよく出来ています。

泳ぎ方の教え方はとてもユニーク。こんな教え方を知らなかった!原作を読んでみたい!

そして泳ぐことが雄司の人生に繋がり、元妻の美弥子と恋人の奈美恵との関係が美しく描かれ、感動的な物語になっている。そこには「泳ぐことと生きるは似ている」というメッセージがあり、「人は何故生きているの?」という問いの答えを見つけることができます。「日々新しいことの発見で生きている」という学生の回答。そのうち「人のために生きる!」と分かってくると思っています!(笑)。

プールの中のシーンが多い作品。水族館の映像もある。水中シーンがとても美しい!

トラウマから水泳教室に顔を出さなくなった雄司を静香が電話で出席を促すシーン。静香の説得が雄司に届くか、届いて欲しいというクライマックスシーン。“まさかマルチバースではあるまいに!”とびっくりしましたが、「人にものを教えるにはこのくらいの熱意と覚悟がいる」という監督の熱意が伝わる映像でした。(笑)

綾瀬さんの水泳コーチは自信に溢れていて、明るく、人に優しい静香役はぴったりで、この作品のメッセージを伝えるために、雄司に対してベタベタした感じが全くしない!というのが良かった!

長谷川さんの屁理屈ばかりで前に進まない哲学者役は合っていました。泳げない演技もリアルで面白かったですね!麻生さんの大阪弁で太っ腹だが涙もろい元妻役、これには驚きましたが、ふたりの会話が面白く、よく泣いて、感動的なドラマにしてくれました。

恋人役の阿部純子さん。強く生きていく佇まいがしっかり出ていて、存在感がありました。これからの出演作が楽しみになります。

4人のオールドガール伊佐山ひろ子広岡由里子占部房子上原奈美さん。男社会だった過去の不満を無器用な雄司にぶつけるが、それでいて雄司を励ますという、作品をとても楽しくしてくれましたね!

辛い過去の記憶を引きずっている人に、沢山泣いて、笑うことの大切さを教えてくれます。

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