映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「アダマン号に乗って」(2023)まさか精神疾患施設とは、ここに求められるものを問うドキュメンタリー!

 

「ぼくの好きな先生」「人生、ただいま修行中」などで知られるフランスのドキュメンタリー監督ニコラ・フィリベールが、パリのセーヌ川に浮かぶデイケアセンターの船「アダマン号」にカメラを向けたドキュメンタリー

精神疾患デイケア施設、私には映画「月」(2023)のイメージしかない、一体どういう施設なのかと観ることにしました。3度寝落ちし、4度目で何とか感想を書き上げました。(笑)

冒頭で字幕“大切なのは余白を持つこと。余白がなければどこからイメージが湧くか?”(フェルランド・ドウリニィの言葉)から始まるドキュメンタリー。

この字幕に惹かれて最後まで観たいと思ったが途中で眠くなる。ずっと余白だった。(笑)

何の説明も、音楽もなく、雑音環境の中で、次々と登場してくる患者たちとスタッフ。患者とスタッフの区別もつかない、果たして彼らの言葉はどこまで信じられるのか?初心者には随分不親切な監督だなと思った。(笑)しかし、セーヌ河に浮ぶアダマン号が圧倒的に美しい、これ見ているだけで心が癒される。

 

ラスト近くで“この施設のすばらしさ”が新しく赴任する医師から明かされ、そういうドキュメンタリーだったのかと感動し、締めの字幕に納得しました。

物語は

パリの中心地・セーヌ川に浮かぶ木造建築の船「アダマン号」は、精神疾患のある人々を迎え入れ、文化活動を通じて彼らの支えとなる時間と空間を提供し、社会と再びつながりを持てるようサポートしている、ユニークなデイケアセンターだ。

そこでは自主性が重んじられ、絵画や音楽、詩などを通じて自らを表現することで患者たちは癒しを見いだしていく。そして、そこで働く看護師や職員らは、患者たちに寄り添い続ける。誰にとっても生き生きと魅力的なアダマン号という場所と、そこにやってくる人々の姿を、フィリベール監督によるカメラが優しいまなざしで見つめる。

2023年・第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、最高賞の金熊賞を受賞。2003年の「パリ・ルーヴル美術館の秘密」以降のフィリベール作品を日本で配給してきたロングライドが共同製作。(映画COMより)


www.youtube.com

あらすじ&感想

冒頭、男性患者フランソワがテレホン曲だと断わり「人間爆弾」曲を熱唱する。実に歌が上手い、この人が精神病だというのが分からない。

歌詞は「人間爆弾は君が持っている。君の心の近くに起爆装置がある」「自分の人生を他人に任せたら終わり」「誰も自分自身を手放すべきではない」。ある種の狂気のある詩だ!彼の好きな詩だ。「薬さえあれば正常だ。ここに来る必要はない!」と病状を明かす。しかし彼はここにやってきて歌う。矛盾している!

これがこの施設の必要な理由、テーマだ

アダマン号は二階建ての木造建築の船

セーヌ河の川面に浮ぶラマダン号の影がゆらゆらと漂いながらその実態を現す。うつくしい絵だ!アダマン号は係留されていて、図書館か美術館のような外観をしている。特に窓に特色がある。カーテンが木製で作られ、飛行機のフラップ翼のように動いて光を取り入れる。これで絶妙の光量を取り入れる。

患者の1日は自分の1日の予定をスタッフとともに作ることから始まる。

 女性患者のミュリエルはスタッフとワークショップの「音楽、ラジオ、絵」参加とスケジュールを打ち合わせる。自分の意志で行動するようになっている。「新人にお会いたい」「サッカーの試合結果を聞きたい」と自分の計画で動き、ワークショップ“シネマクラブ”に顔を出す。

“シネマクラブ”の患者から10周年記念としの映画上映企画が示された。彼らが自主的に企画している。「1週間、テーマを決め1日1本、キャッチコピーは“よくも悪くも一緒に”だ。誰がどんな仕事をやりたいか話し合いたい」と告げられた。

ミュリエルがいかなる病なのかは明かされない。いまどういう状態なのかもわからない。観る人に任されている。ミュリエルは「早く医者に会いぶちまけたい。でもあまり話さないようにする。ここの活動に参加できなくなる」と嘆く。新人の人に話しかける。父も兄も死に今は母だけと“孤独”を嘆く!

 コーヒーを飲む男性患者。彼は「ガキの頃から映画を観ている。リノ・ヴァンチュラ、ミシェル・コンスタンタン。ここにはいい俳優がいるが本人に自覚がない。何故か?病気のせいだとは思えない」という。一体この人の病は何だ?専門家の悦明が欲しい!(笑)

アダマン号のカフェ。

患者たちが集まり店の売上を勘定し始めるなかなか売り上げ額とお金が合わない。(笑)アダマン号の運営にも、患者自身が関わっている。

絵を画く若い男性患者アレクミス

アレクミスは「ビザンツユスティニアヌス帝は大きな宮殿にひとりで住んで宮殿を守るために戦争を起こした。僕の物語では小さな戦争だ」と言い、このドキュメンタリーを見て小説を書き絵にするという。かなりの古代史マニアらしい。(笑)また、彼は赤い鶏冠で針や注射器を、禿げた男からミカンを連想する。厚い唇は言葉を伝える表現、ピュレで不安、死を連想するという。絵を通してスタッフと話すことでアレクミスの症状が分かるように思う。

自分が描いた絵を説明する若い男性患者

ファニーゼとシャザンヌのふたりの女性の絵。とてもシンプルな絵だ。スタッフの質問に答えながら描いた絵をひとつの物語にしていく。治療に一環だと分かる。

ギター演奏する男性患者。

「ギターを弾いて1日が始まると気分がよくなる」という。「朝、何をするかが一瞬できまる。写真家が一瞬を捕らえるのと同じ。ロベール・ドアノーが市庁舎前で恋人のキスを撮ったように、戦場記者が撮影するようにだ!」と言う。すごい知識の持ち主だ、この人も正常なのかどうかわからない!(笑)

“コロナワクチンについて”のミーテイング

スタッフが「社会と文化にそして心と体に如何なる影響があるか」を示し意見を求める。「身体がどうなるのかビデオを作って欲しい」「ワクチン薬の体への影響を知りたい」などの意見が提示された。「専門家を招いてワークショップを立ち上げる」で意見集約となった。患者たちの討議だとは思われない出来っぷり!

 ソニック・プロテスト”についての報告

ミュージシャンのプレディリは中年の紳士然とした知的な男で、患者とは思えない。「すばらしかった。現代ヒッピーらしい2日間を楽しんだ。自閉症の人々が雄弁に喋り価値観を覆させた。固定概念がひっくり返る」と説明した。また、プレディリは「ヴィム・ヴェンダース監督は自分を「パリ、テキサス」作品のモデルにしている」という。この話の真偽も分からない、解説が欲しいところだ!

ミシンを使う男性患者

スパイダーマンの“S”をミシンを使ってTシャツに縫い付ける男。この男はこのTシャツで船内を歩き廻る。

帰化した女性ナディアの受け入れ

スタッフが仲間にナディアを紹介。ナディアはフランス国歌を歌えないが、故郷の歌を唄って仲間に入れてもらった。仲間の勧めで「何かを書く」ことにした。

顔の絵を説明する男性患者

「これが目、髭、首」と説明する。鼻がちょっと大きかった。スタッフと会話すながら“こうなるべき鼻”という題をつけた。抽象的な絵だが説明としては見事だ!

息子を養子に出して精神不安定になった母親

「頭が混乱し育てられないと施設に預けられ、その後里親に引き取られた養子に会えるようになった。産んだときは周りの人が攻撃的で敵に見えたが、今は幻聴もなくなり、友達が救ってくれ、息子と話せるようカウンセラーも入ってくれるようになった」と喜びを表す。

絵のワークショップ

妊婦の女性患者はある抽象画を「幸せに溢れている。見たい形が全て入っている」と評価する。ミュリエルが「女性を感じる!解剖学的に女性そのもの、女性器よ!」と絵を指先でなぞって見せる。ミュリエルは自分の絵は雌のカマキリで“生と愛と死”を現したという。キリンを描いていてセバスチャンにカマキリに間違えられこうなったという。(笑)。

映画のワークショップ

カサブランカ」を観ての感想。老女の患者が「エバー・ガードナーはハンフリー・ボガードを愛していたのか、共犯的な関係だ」と言い出す。これに「映画の話かそれとも私生活か」と議論が起こる。(笑)こうして時が経っていく。

音楽のワークショップ

ピアノで「蘇る過去、この絶望に耐え続ける。誰も完璧でない」と弾き語りする男性患者。“人は完璧でない”の歌。歌詞はもう患者の域ではない!

ギターを弾く男性患者が「アニメの世界は消去と再生だ。魔法の杖は言葉として存在する。自分が持っていたらどうするか分からない。警官にあなたが殺したら30年刑務所暮らしだと言われた。銃を持っていたら隣人を撃っただろう。30年刑務所で暮らし被害妄想に駆られ何も考えられなくなる。だから薬を飲んでいる。飲まないと発作が起こり、何も分からなくなる」と言い「人が信じられない、今は身体が汚れていて水を浴びたい。本当に辛い、何年もの間、罵倒され続けてきた」と訴える。

これに他の患者が「テロを起こすのは精神病だからというのはバカげている。ここの患者はテロリストではない。自分も凄く不安定で傷つきやすい。問題は間違ったイメージが持たれていることだ。自分たちの表情が人と違うせいで好奇な目に晒されている。周りの物音にもの凄く敏感だ。雑音が怖い!物音を立てる人が怖い。首にクリスタルを付けて悪い波長を受けないようにしている」と悩みを訴える。

ワークショップ参加者全員で雑音を聞き堪える

 ここに「自由を失ったと、権利がない」と苦しむ患者がいた。

「夫は死んだ、ファハド王アビダッラーのために働いた。私はファハド王の建築デザイナーだった」という。

写真のワークショップ

カメラの扱いをスタッフから教わりながら、コロナの禍前と今の顔写真を撮り合う患者たち。

キーボードで作曲しながらプレディリが語る

「ヴィムはUCLAの学生であったA・ヴァルダンのように映画を撮りたがったが、飛行機で革命を逃れ、パリにやってきた。夢を追う者よ、諦めないで!」と“ドアーを開けて”の曲作りをしながら、自分史を語り、ジェラール・フィリップ、ジェームス・ディーン、ジム・モリソン等な何故事故に遭い不慮の死を遂げたか、その真実を知った。社会心理学的鍵を見つけたことでこの恐ろしい仕掛けを取が外すことができた」と言う。プレディリが正しいのか自分がおかしいのかと思った。(笑)

ミーテイングーの終了

来週からここに着任する精神科医サビーヌ・ベルリュールが「施設では気持ちが和らぐ、すばらしい場所にあると思う。そして欲求が叶えられる場所でもある。皆さんには存在したいという欲求がある。それが大切だ!」と挨拶した。

その後、皆でスーパーのgarbage boxを漁り、これでジャムを作って食べる。(笑)

スーパーの向かいのごみ箱に行って、外見は多少傷んでいても品質は問題なさそうなフルーツをゴム手袋で収穫し、みんなでジャムやムースを作って食べる。残りはそれぞれの名を付してカフェで売る。(笑)

身体を動かすワークショップでダンスを楽しむ

 その後、カフェでお金を払って楽しむ。ここでアルバイトもできる

 この日最後のミーテイング

映画祭の説明があって、「話がしたい」と映画「カサブランカ」を話題にした女性が、教える資格はないけれど元ダンサーで、身体を動かすことが大切だと、「ダンスのワークショップを作って欲しい」とひつこくスタッフに要求した。しかし、「資格の問題ではなく、やる人の問題がある」と却下された。

霧にかすむアマダン号。静かで美しい幻想的な映像だった。

まとめ:

アダマン号を訪れる精神患者たちの活動をだらだらと書きました。もっとまとめて文章にすれば良いのですが、患者たちが魅力的でなんとも捨てがたく、だらだらと書き連ねました。(笑)

これを纏めると

自分達の興味の物を書く、描く、歌う、演奏するという芸術活動、縫う、料理するという物を作ることで人と関わりながら生きる。あるいは正常といわれる人達の活動に馴染んでいく。その中での彼らの悩み恐れを知り、彼らの尊厳を認める社会であって欲しいと感じた。

個性的でこれが精神病患者だと分からない人が多かった。その教会は曖昧だ。また、治療に芸術が関わることの大切さを知った

締めの字幕

アダマンはパリを中心部の成人を受け入れるサン・モーリス病院付属デイケアセンターである。チームと患者の意見を基にセーヌ・デザインが設計。2010年7月に設立した。形式的な事務に追われて個を軽んじる世界にまだ属しない場所が存在する人間の言葉の想像力を生き生きと保つ場所である。

日本で心の療養施設というと人里離れたところに立地しているという印象だが、フランスのデイケアセンター・アダマン号はパリの中心地セーヌ川に浮かぶ木造建築の船で、まるで今時の図書館か美術館のような外観をしている。この姿を見るだけで我が国の施策の遅れを感じました。

              ****

「LOVE LIFE」(2022)愛という心理の揺れ、なくしてその存在に気付く!

 

「淵に立つ」(2016)「よこがお」(2019)の深田晃司監督作品。矢野顕子さんのアルバム「LOVE LIFE」(1991)に収録された同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描いたものベネチア国際映画祭(2022)コンペティション部門作品。

劇場で観ましたが、改めてWOWOWで観てよく理解できていなかったなと、所見を書き換えることにしました。

夫婦の交差する愛がサスペンスフルに描かれ、ヒリヒリする思いで観ましたが、その結末に「愛とはこういうもの、忍耐がいる」と唸った!(笑)

監督・脚本:深田晃司撮影:山本英夫美術:渡辺大智、編集:シルビー・ラージェ 深田晃司音楽:オリビエ・ゴワナール、主題歌:矢野顕子

出演者:木村文乃永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、嶋田鉄太、神野三鈴、鈴田口トモロヲ、他。

物語は

再婚した夫・二郎(永山絢)と愛する息子の敬太(嶋田鉄太)と、日々の小さな問題を抱えながらも、かけがえのない時間を過ごしていた妙子(木村文乃)。しかし、再婚して1年が経とうとしたある日、夫婦は悲しい出来事に襲われる。そして、悲しみに沈む妙子の前に、失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)が戻ってくる。再会を機に、ろう者であるパクの身の回りの世話をするようになる妙子。一方の二郎も、以前つきあっていた女性の山崎(山崎紘菜)と会っていた。悲しみの先に妙子が見つけた愛とは?人生とは・・。(映画COMより)

家族の物語。主として夫婦の目線で描かれる。

前段、二郎の父親・誠(田口トモロヲ)の誕生祝いを軸に淡々と描かれる人間関係・想いが、敬太の死を境にしてどう変化していくか。

機微な会話の中に、どのような気持ちで喋り、相手はどう解釈するかとこれを追う。会話のがこの作品の醍醐味だ。

“人生、不可思議なことが多い”。これを描くためにオセロ、天気、水、音楽の使い、特に手話を言語として取り入れ、二郎、パク、妙子の三角関係がミステリアスに描かれる。


www.youtube.com

あらすじと感想

二郎と妙子夫婦。二郎は福祉課の主任、妙子は福祉課の市民相談センター職員。二郎は同じ課の若い女性・山崎と付き合っていたが、妙子の生活弱者に対する献身的な仕事っぷりに惚れ一緒になった。しかし、妙子は山崎の存在に気付き、この結婚に拘りがある。山崎は元厚生部長の二郎の父親(田口トモロヲ)が部下から嫌われ者であることが気になっていた。

二郎は両親の承諾が得られず妙子と入籍していない。妙子にはオセロ好きの6歳の息子がいる。今だ、二郎には懐いていない。

ふたりは父の誕生会を祝うことにした

二郎は妙子との結婚を何とか両親に理解してもらうために、部下にお願いしてアパートの外からプラカードで誕生祝いにメッセージを送ることにし、料理を一切引き受けて準備をしていた。妻の妙子は啓大とオセロゲームにつき合っていた。

二郎たちのアパートの向かいのアパートに住む誠と妻の明恵(神野三鈴)がやってきた。誠が絵本を、二郎が飛行機のおもちゃをプレゼントした。敬太は絵本を喜ばなかった。

明恵が夫のご機嫌を取るように釣りの話を出し、「妙子さんは二郎の釣りにつき合っている」と言うと二郎が「海吊りにも行く、浮は中古だけど」と合図鎚を打った。これに父の誠が「中古でも良い物と悪い物がある」と喋った。妙子が興奮して「中古とは何ですか?取り消してください!」と食い下がった。明恵が仲介して収まったが「早く孫を抱かせて!」と付け加えた。

言葉の行き違いで、言葉が凶器になる。夫婦の間にいやな感情が走ったが、妙子が二郎に謝った

誕生会の開始。二郎の合図で職員一同からの「おめでとう」のプラカードがアパートの広場に掲げられ、これを見た誠は大満足で飲んでカラオケマイクを離さなかった。アパートの部屋は職員やボランティア仲間で溢れ、啓大は遊ぶ場所がなく水を張った風呂場で二郎がプレゼント飛行機で遊んでいていた。

敬太が水を張った風呂に落ち亡くなった

発見したのは妙子だった。警察の検視し「溺死」と判定され、遺体を引き取ることになった。妙子が「アパートにつれて帰りたい」と言うと義母の明恵が「斎場にして。あの部屋はわたしたちの思い出の部屋だから(穢れる)!」と反対した。誠のとりなしで明恵は自分たちのアパートに戻ったが、妙子は辛かった。

 お通夜の席で義母の明恵が「誰も悪くない!」と妙子を慰めたが、妙子は「自分が風呂水を抜かなかったのが原因」と自責の念に苛まれていた。

葬儀によれよれ服の前夫・パクがやってきた

パクは啓大の棺を覗き激しく泣き、妙子を見つけてぶん殴った。二郎が止めた。聾の男だった。妙子は激しく泣いた。

葬儀が終わり、妙子は仲間とホームレスたちへの見回りに出た

仲間と別れ、ひとり公園のベンチで休むパクに会った。パクが「結婚おめでとう」と言う。「何故逃げた?」と聞くと「上手く伝えられない」と手話で話す。

妙子はパクが残して出て行ったパスポートと韓国の家族からの手紙を渡し「私は許せない、もう会わない!」と別れた。

パクが福祉課に生活保護申請にやってきた

韓国人で手話でしか話ないということで、妙子に通訳の役目が回ってきた。二郎は「どんな気持ちか分からないが、しっかり面倒を見てやれ!」という。妙子はパクが電気器具の中古品販売店で働き自立できるよう面倒を見ていた。

義父母が田舎に引っ越すことになった

引っ越しの手伝い。義父が「部屋が売れるかどうかわからん、電気と水道は残しておくから使っていい」と言う。

夜、明恵は妙子をアパートに呼んで風呂に入るよう勧めた。ベランダに出て、ふたりはタバコを吸いながら話した。明恵が「敬太が突然亡くなって神もあてにならない、死が怖い」と言う。妙子が「お義父さんや二郎さんが居るのに」と聞くと、「居たってひとり。今すぐ死ぬわけではないから」と言う。

二郎は父母の手伝いで田の舎引っ越し先にいた

二郎はついでにと仕事を休んでいる山崎を見舞った。そんなとき、地震が発生、妙子が地に震怯えているところに二郎から安否確認の電話が入る。傍に山崎がいた。

山崎は「振られ悲しい思いをしたが今は恨んでない。しかし、妙子さんの顔を見ると腹が立ち、あなたたちがめちゃめちゃになればいいと願っていたら、こんなことになった」と泣く。二郎はそっと抱いてキスした。すると「こんな時でも、あなたは目を見て話さない!」と言う。

妙子は義父母が出て行ったアパートに「ここに住んでいい!」とパクを連れてきた。パクは猫を連れて来てとても喜んだ。翌日、妙子はパクを自分たちのアパートにつれてきた。パクは啓大の位牌を丁寧に拝んだ。妙子は「あなたにしか出来ない、協力して!」とパクを風呂場に誘い、自分が風呂を使うのを監視させた。妙子はこれまで入れなかった風呂に入り顔を沈めた。鏡を通してパクに「あなたは葬儀で涙を出して泣き、悔しさで私をぶん殴った。理不尽だったが誰かが怒るべきだった。皆は敬太にいない世界に慣れようとした。あなたは違った、怒ってくれた」と話した(韓国手話)。パクは与えられた部屋に戻ってひとり手話で感謝して眠った。

父母も夫の二郎も涙を出さなかった。これを妙子は敬太に対する愛がなかったと見ていた

二郎は父母の引っ越し作業が終って自分のアパートに戻った

部屋に妙子が居ない。父母が居たアパートのCD版の反射光が眩しく、そちらを見ると、妙子とパクがベランダで洗濯ものを干しながらふざけていた。

二郎が急いで父母が居たアパートに来ると、パクはひとりで洗濯ものを整理していた。妙子の姿はなかった。二郎はパクと話したいが通じない。諦めて、別の部屋で「パクさんあなたはずるい。4年も捨てておいて帰ってくる。妙子が必死に探すのを見ていた。俺は葬式で泣けなかった、悲しくなかったわけではない。妙子が泣くのを見て、早く子供を作りたいと思っていたからだ」と独り言ちた。パクは二郎の気配で部屋を出ようと準備していた。猫が逃げ出したが気付かなかった。

敬太の死の受け取り方に、二朗と妙子は大きく異なっていた

そこに妙子が戻ってきた

パクが猫がいないと騒ぎ出す。三人で団地内を猫を探して走った。探し出したのは二郎だった。「猫は飼ってもらいたい人を知っている」とパクが猫を二郎に渡した(妙子と同じだ!)。(笑)

そこに郵便配達員がパクへの転送手紙を渡した。「父危篤く」という。パクは「釜山に帰りたいから、金を貸してくれ!」と手話で話す。

二郎と妙子が車でパクを釜山行きフェリー泊港まで送っていくことにした

妙子が「パクは弱い人だから心配、ついていく」と言い出す。二郎が「やめとけ!」と促すと「結婚する直前に、あなたと啓大と一緒に公園で遊んでいたときパクを見つけていた。だから私はあなたを一度捨てていた!」という。二郎が「違う!先に君や敬太を捨てていたのはパクだ」と言い返した。

パクが「(二郎に)君は啓大のこと忘れていいが、妙子は啓大を忘れてはダメだ」と手話して車を降り、乗船場に向かった。これを妙子が車を降りてパクを追う。二郎は「車に乗れ!帰ろう!」と車をバックさせながら妙子を呼び戻するが、妙子は聞く耳を持たなかった。混雑する乗船場で、妙子は手話で「一緒に行く!」とパクに伝えた。

釜山のパクと妙子は“結婚式場”に急ぐ車に拾われた。

妙子は「結婚式」と聞いて驚いた。パクは「嘘ついていた、前の嫁の息子の結婚式だ」と謝った。(笑)式場ではパクの息子が待っていた。息子が「父を連れてきてありがとうございます、母は父を認めていません」と挨拶した。OPPA、OPPAと叫びながら結婚式を祝う。

パクが皆と一緒に式場に消え、妙子は雨の中に取り残され、ただただ放心状態だった。妙子は自分のアパートに戻ることにした。

妙子は韓国から元のアパート戻った

アパートには、CDの反射光が舞い、オセロが机の上に、猫が出てきて、敬太のゲーム機に触り、何にも今までとは変わりのない世界だった。妙子は啓大のオセロの対戦相手に敬太が亡くなったことを伝え、オンラインゲームを切った。そこに買い物していた二郎が戻ってきた。

まとめ:

釜山から戻った妙子が見つけた愛は「どんなに離れていても愛することができる(歌詞)」という敬太への愛。そして二郎には、人生で全てを失って知った「この世界は愛に満ちている」というこれまで見出せなかった愛「もう何も欲しがりませんから、そこに居てね。微笑みくれなくてもいい、でも生きていてね!(歌詞)」ではなかったかと。

まるでオセロゲームの黒が白に変わるように愛の見方で世界は変わっていく

妙子役の木村文乃さん大きく感情がぶれる、ちょっと理解しづらい感情をしっかり演じました。パクの息子の結婚式で、私は全てを失ったと佇む無力感、感情がよく出ていた。

二郎役の永山絢斗さん。感情を出さないがしっかりした妙子への愛情を持っていて妙子に振り回されながらこれを貫いていく、後段での聞こえないパクに思わず漏らす言葉、埠頭で車をバックさせながら妙子を説得する演技に二郎の心情が溢れていていい演技だった。

 

圧巻はパク役の砂田アトムさん手話を巧みに使って、とてもいい人に見えるがとんでもない曲者だったという、聾というハンディを感じさせない怪演が素晴らしかった。

 

会話の行き違いが夜の闇や室内の光の揺らぎ、CDの反射光で暗示され、観ていてふたりの先行きに不安と恐怖を感じる。愛という心理の揺れの怖さ。これを乗り終えてこそ本当の愛だ!これまでの監督作品とは違って、円熟味のある結末になっていた。

             ****

 

「ちひろさん」(2023)風俗嬢と弁当屋を掛けて描く人生訓、生きるに必要なこと全部教えてくれる。

 

ちひろ“という平凡な名にさん付けとは?監督が今泉力哉さんだから何か曰くがあるなとWOWOWで観ることにしました。(笑)

 作品紹介を見ると「弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢である」とある。

演じるのが有村架純さんとなると観ようかとなる。これを戒める作品。(笑)

この作品のテーマは元風俗という先入観でちひろさんを見るが、ちひろさんはどんな人がテーマで、“ちひろさん“は風俗店の源氏名であったかと、このタイトルはよく出来ている。風俗嬢と弁当屋を掛けて描く人生訓、これは凄いと思った。 (笑)

原作:安田弘之の同名コミック未読です。監督:今泉力哉、脚本:澤井香織 今泉力哉撮影:岩永洋、編集:佐藤崇、音楽:岸田繁主題歌:くるり

出演者;有村架純、豊嶋花瀬、嶋田鉄太、Van、若葉竜也佐久間由衣

長澤樹、市川実和子鈴木慶一根岸季衣平田満リリー・フランキー風吹ジュン

物語は

海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢であることを隠さず軽やかに生きる彼女は、自分のことを色目で見る男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も、誰に対しても分け隔てなく接する。

そんなちひろの言葉や行動が、母の帰りをひとり待つ小学生、本音を言えない女子高生、父との確執を抱える青年など、それぞれ事情を抱える人たちの生き方に影響を与えていく。ちひろ自身も幼少時の家族との関係から孤独を抱えて生きてきたが、さまざまな出会いを通して少しずつ変わり始める。

御案内のように、親子、恋人、友人、上司と部下とたくさんの人と人の関り方が何気ない日常と風景の中で、印象的なセリフを追い、その行き着く先にハラハラしながら観ることになる。が、登場人物のエピソードが断片的に羅列されるので混乱するところがある。これが逆に面白さにもなっている。ということで、あらすじが少し長くなります!


www.youtube.com

あらすじ&感想

ちひろが猫とじゃれたり、公園のブランコで遊び海岸道を気持ちよさそうに散歩する。これを中学生の久仁子(豊嶋花瀬)がストーカーして撮影していた。

このあと、ちひろ弁当屋“のこのこ”の店先で弁当を販売する。漁師の若者が「今夜どう」と誘う言葉も一向に気にしない。仕事が終わり、売れ残った弁当を持っての帰りにホームレスの男に会うと、この弁当を食べさせ、アパートに連れてきてフロにいれてやる。

ちひろが自分を語ることは少ないが、親の暴力、家出、風俗嬢の体験を経て、苦を抱えている人には徹底的にやさしい

 一方、久仁子は授業中にこの映像を見ていると、男子生徒から「風俗の人だろう」と言われる。放課後友達とカラオケ店にいても母から電話で呼び戻される。夕食は、母が豪華な料理を作って家族と一緒に食べる。会話は父中心で、母は父を大切にする。久仁子は自由がなく母に大切にされてないと孤独を感じていた。

 ちひろはタケノコ弁当をホームレスの男に与えようとしたが見つからず、海の見える廃屋で弁当を食べていて不登校の中学生・宇部千夏(長澤樹)に出会った。千夏はコミック好きで、ふたりはこれで盛り上がり、仲良しになった。

夜、風俗店にいたころの友人バジル(Van)が遊びにやってきた。ちひろが唯一心許せる人だった。

ちひろが公園でコミックを読もうとベンチに座ると、そこに蛇がいた。マコト(嶋田鉄太)の悪戯だった。マコトは友達がなく虐めを警戒してナイフを持ち歩く子だった。ちひろはマコトがお腹をすかしていると、弁当屋に連れてきて弁当を買い食べさせた。マコトはちゃんとお礼をいう子だった。これを久仁子が一部始終を見ていた。

夕暮れの海。ちひろが脚を海水に浸していると久仁子が写真を撮る久仁子がちひろの側にきて脚を海水に浸しながら「私の名前とか年齢とか気になりませんか?」と聞く。ちひろ「そんなのあてにしたことがない。それが本当かどうか、風俗嬢とはそういう仕事よ。でも人は目を見ればわかる。あなたは嫌いではない」と答えた。久仁子は泣いた。ふたりは脚で海水を掛け合った。

“のこのこ”の女将・多恵(風吹ジュン)は目が見えなくなり入院した。

「お母さんが入院してるから」とアヤという女性が多恵の部屋にやってきて折り紙を教える。多恵が「アルバイトのいい子がいるからもう戻るところがない」と話して聞かせる。(後に分るがアヤとちひろの本名)

千夏から最近ホームレスの人を見ないと聞いたちひろは彼を探し始めた

ホームレスの遺体を発見し、夜、ひとりで穴を掘り埋めた。これにはびっくりだ!

夏祭り。ちひろはバルジと出かけ金魚すくいの店で元の風俗店長・内海(リリー・フランキー)に出会った。その帰りバルジが「あの人と出来ていたの、そう見える」と聞く。ちひろは「何もない」と答えた。

久仁子がマコトの宿題をみてやる。ちひろがおにぎりをサービスした。

久仁子が「お母さんは料理学校に行き、料理が上手だが味がない」という。ちひろが「それがお母さんの理想だよ。わたしはそういう人は苦手だ。昔、絵本で見た海苔巻きが美味そうで作ってひとりで食べたが美味しかった」と話すと久仁子が泣きながらおにぎりを食べる。マコトが「うちの母さんのはめちゃめちゃ美味い」と言う。ちひろは久仁子の孤独を癒すために千夏に会うことを勧めた。

母親の作る料理を子供はどう思うか。これが親子関係のひとつのバロメータになる

ちひろは弟から母親の死を知らされたが、葬儀に参加しないことにした

 マコトの母ヒトミ(佐久間由衣)が弁当のことで抗議にきた

ヒトミは「弁当のことで批判された。シングルだがしっかりやっている。余計なことはしないで」と激怒。ちひろは不承不承に「配慮が足りませんでした」と侘びた。マコトはひとりでスパゲッティを“ちん”して食べながら、TVで「母に花をプレゼントする」CMを見ていた。

久仁子の家では母が作った豪華な料理で夕食が始まった。父が「約束していた陶芸を見に行こう」と誘ったが、久仁子は友達と約束があると断った。父が「家族より大切なものがあるのか」と不機嫌。母が「友達を相談したら」と言い、久仁子はそうすることにした。

久仁子は千夏に会った。自己紹介、ちひろの紹介ということで意気投合し、ふたりはマンガ読みに熱中していった。このあと、千夏は登校するようになり、久仁子は「千夏は離せない友」と喜ぶようになっていった。

アヤがプレゼントだとドングリの実を持って多恵を見舞った。

多恵は娘が20歳のとき箱根に領してドングリを見つけ娘に渡したが退屈そうで目もくれなかった。娘はいつの間にか大人になっていた」と話す。アヤは「そうだね、そうだねと言ってくれたらそれでよかったのにね」と返した。

何気ない会話だが、母と娘の関係で、成長した娘の親への思いやりが必要なことを上手く言い当てている!

ちひろは夜の海辺を歩きながら“ドングリ”の忘れられない記憶を思い出していた。

幼い頃、海苔巻きを作って神社でひとりで食べていた。それを見た女性(市川実和子)が「自分で作ったの!食べさせて」という。食べて「美味しかった、夜は私たちの味方」と手を繋いで施設の近くまで送ってくれた。ちひろがドングリを渡すと「店に来たら指名して!」と名刺をくれた。その名が”ちひろ”だった

ちひろが食堂“門田”に入ると店員と客が揉めていた

客が料理を注文し、メニューにないを断った店員に因縁をつけていた。カウンターでラーメンを喰っていた谷口(若葉竜也)がこの客の胸蔵を掴み制止させた。ちひろは谷口と店をでた。谷口がこれで生きていると入れ墨「色即是空」を見せ、「ちひろさん、あんた本当に人殺しなのか?」と聞く。(笑)「ばれたか」と答えた。谷口は「下のやつ見ると何してもいいと思っているやつ見ると許せなくなる。父親がそうだった。親父が死ぬか俺が死ぬかいなり、気がつくとバットで殴っていて、それて家を出た。親父は生きていると思う」と打ち明けた。ちひろは「父親に会って死のうと思うなら、父親を殺せ!」と忠告した。(笑)谷口は「埋めるのを手伝ってくれ」と答えた。(笑)「したくなった」とちひろは立口を家に招きセックスをした。(笑)

ちひろは幼い頃、親の暴力を受けて生きてきた。弱者虐めを徹底的に嫌う。これが彼女の強さになっている

バルシがちひろのアパートに泊まりにきてタコ焼きを食べながら、「あんたは恋をしないのか」と聞く

「しない、恋愛なんかそんなもんだと思っている。人の心を独り占めできない。もしそれが恋愛なら、私には必要ない。恋愛に酔えないたち。酔うと死ぬ。セックスは生理現象」と答えた。

ちひろの恋愛観は風俗嬢として働き体得したものだった。決して恋にのめり込まない!

マコトの母・ヒトミが「あんたの入れ知恵か?」と激怒しひろみを訪ねて来た

ヒトミは「マコトが誕生日おめでとうと花束を寄こした」とちひろに花束を投げつけた。(笑)ちひろは「これゴミにしたが一生後悔するよ!お母さんの料理が一番美味いと言う子。もっとよく見てやって!花束のことなど知らない!」と花束を突っ返した。(笑)

親であっても子供のことで理解できないことがある

金魚屋の内藤から「一緒に飲まないか」と誘いを受けた

「バジルが金魚店でアルバイトすることになった、一緒に飲まないか」と誘いを受けた。「その気になれない」と断ると、「すこし池に沈んでいろ、藻掻くと死ぬ。人は浮かぶようにできている。じたばたするから死ぬ。浮かんだところで連れてゆく」と言って、電話が切れた。(笑)

ちひろは内藤に母の墓参りに連れていってもらった

母の墓にドングリを供えた。ちひろが内藤に「あのころ店長が身体を求めなかったわけが分かった。私の父だったんだよ」と話した。「なんで俺が?」と内海が笑った。

内藤が店に戻ってバジルに「ちひろは頭おかしいよ、とんでいる。しかし、乗ってやることにした」と話した。

バジルがちひろのところにやってきて「あんた店長とできていたの?」と激怒する。(笑)

「私は恋愛に酔えない。店長は好きだけどお父さん。男と女には恋愛しかないの(このバカタレ)」と答えた。「しょせん雄と雌よ」と言う。「あんたには社長は無理よ、止めな」と言うとバジルは怒って帰っていった。(笑)

唯一の友人でも自分のことが絡むと相手が見えなくなる。(笑)

 雨の夜、マコトが鍵を無くして家に入れず「お腹がすいた」と久仁子に電話してきた

久仁子はおにぎりを作って持って行こうとしたところを母に見つかった。母が「いい気なもんだ勝手にしなさい」と怒った。久仁子は「お母さんも同じ!私のことは何も知らない」と言い返し、おにぎりをもってマコトのところに駆けつけたべさせた。そこにマコトの母・ヒトミが帰ってきて目玉焼きを乗せた焼きそばを作ってくれた。マコトは美味しそうに食べる。久仁子は泣けて仕方がなかった。

料理は豪華だけでは駄目だ!作る人の愛情なんだ

 弁当屋では女将さんが病院からいなくなったと大騒ぎ

店員の永井(根岸季衣)が「アヤちゃんという子を話していて、アヤちゃんと一緒に居なくなった」と騒ぐ。アヤはちひろの本名だった。(笑)

ちひろと多恵は病院を抜け出し車の中でちひろが店にやってきたときのことを話していた。多恵は「ちひろが弁当を買いにきたときドキドキした」と言い、ちひろは「同じ星の人だと思った人は二人いる。ひとりは多恵さん。もうひとりは昔、海苔巻きを食べてくれたちひろさん」と答えた。ちひろは「母が亡くなったときは辛いとも悲しいとも思わなかったが、多恵さんが母ならどんな大人になったかな」と聞くと「今より素敵な人にはなっていなかった」とちひろを抱いた。ふたりは病院に戻り、多恵は退院した。

弁当屋の屋上でのお月見パーティー

“のこのこ“の皆さん、マコトの親子、久仁子の家族と一緒に月見の会を開いてお団子を戴いた。ちひろは誰にもわからないよう途中退座し海岸を歩いていた。そこに多恵から「中途で帰ったでしょう」と電話してきた。「何故分かった」と聞くと「寂しそうな気配が急に無くなったから。あなたがどこか遠くに行こうと思っている?もういいんじゃない、あなたはどこにも行っても孤独を手離さないで生きていける。さようなら」と言った。

ちはるが去った弁当屋“のこのこ”

多恵夫婦が栗の皮むぎをしていた。旦那が「多恵さんがこんな地味は稼業を楽しいというのを聞いて惚れ直した。良い嫁をもらった」と多恵に感謝する。多恵が「ちひろが居なくなってさみしいそう、いい人が見つかるといいね。ちひろを採用した理由は何だったの?」と聞く。旦那は『隠れて見ていたら、出した弁当をエビの尻尾まできれいに食べて「美味しかった」と感謝したことだと話す。

ちひろは新しい職場“牧場”で働いていた

牧場主に「前職は?」と聞かれ、「ただの弁当屋です」と答える。これに牧場主が「弁当屋か」の返事。風俗屋とは見られなくなったが、弁当屋かに、人は仕事という見える形に拘るようです。ちひろさんはこれでまた強くなるでしょう!多恵さんにこれ以上心配させたくなかった。

まとめ:

ちひろは親の暴力、家出、風俗嬢の体験を経て、弱いものを徹底的に助け、慕われ、もう孤独ではなくなった。が、恋愛はできないかもしれない。(笑)

親子、恋人、友人、上司と部下とたくさんの人と人の関り方が描かれたが、自分の立場、都合や見かけで人を判断する。立場や都合を捨てることでその人を理解できると訴えている。ちひろとバルジの関係にみるように、親しい関係にありながらバルジが内海に関心を持つことで、ちひろに対する見方が正反対になる。

 食べ物、料理がいろいろなシーンで数多く出てくる。料理は愛情、人と人を結び付けると訴えている。特にマコトと母ヒトミ、久仁子と母親の関りが面白かった。弁当屋というのが生かされた作品だった。

田舎の寂れた港町。この閉鎖的な環境の中で、おだやかな自然特に海によって人がもつ傷が癒されていく。特に、元風俗のちひろさんと母に愛されないクミコが夕陽の浜辺で脚を海に浸して交わす会話。このシーンが本作のテーマの全てを語るような美しい映像だった。

セリフがすばらしい。沢山の名言があった。元風俗店長の内海が寝込んでいるちひろを励ます「すこし池に沈んでいろ、藻掻くと死ぬ。人は浮かぶようにできている。じたばたするから死ぬ。浮かんだところで連れてゆく」。ラストシーン近くで弁当屋の夫婦が交わす会話もいい。

有村架純さん、風吹ジュンさん、リリーフランキーさん、ナイスなキャステイングで見事な演技でした。

風俗と弁当で描く愛の物語、人生についてのいい壺をついていた!!

           ****

「52ヘルツのクジラたち」(2024)家族という呪いから解かれた命、聞こえない弱者の声を捜して生きる!

 

タイトルがいい!これで観ることにしました

多用な家庭環境、ヤングケアラー、児童虐待トランスジェンダーと苦を抱える人たちの物語。ラストで涙に溢れた。何もしてあげられないが、泣けたことが少しはみなさんに近づけたかなと思わせてくれる作品だった

ストーリーに当初違和感を覚えたが、アウチングとはこういうことかと、現実の問題として受け入れ、ラストで涙に溢れた。

原作:2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説、未読です。

監督:「八日目の蝉」「ファミリア」成島出脚本:龍居由佳里脚本協力渡辺直樹撮影:相馬大輔、編集:阿部亙英、音楽:小林洋平、主題歌:Saucy Dog、トランスジェンダー監修:若林佑真、LGBTQ+インクルーシブディレクター:ミヤタ、インティマシーコーディネーター:浅田智穂。

出演瑳:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬真飛聖:三島由紀池谷のぶえ余貴美子倍賞美津子

物語は、

自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚(杉咲花)。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年(桑名桃李)と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさん(志尊淳)との日々を思い起こしていく。(映画COM)


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、貴瑚は東京から大分の祖母が暮らしていた、クジラが見える丘の家に引っ越してきた。よく海が見えるようにとテラスの張り出工事中。

貴瑚が母親の暴力とヤングケアラーとして苦しんでいた時に救い出してくれたのが安吾だった。彼女はトランスジェンダーに対する配慮なさで安吾を失った。海を見ながら、彼が贈ってくれた52HZのクジラの鳴き声(MP3 プレーヤ)を聞き、どう生きるべきかを考えるためここに来た。

52HZのクジラとは、他の仲間たちには聞こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと

貴瑚は坂を下り埠頭に出て、海を見ながらMP3を聞きながら「何で私を置いて逝った」と安吾と会話し、その帰り道で突然の雨でお腹の切り傷(後述)が痛み出し座り込んだところに、女の子が傘を差しだしてくれた。この子の髪の長さ、服装から尋常でないと家に連れ戻り、身体を拭いてやった。男の子(桑名桃李)だった。身体に傷、大きな痣がある。しかし、晴が逃げ出し捕まえることが出来なかった。

幼いころ母から虐待された貴瑚はこの少年を見過ごすことが出来なかった

工務店の村中(金子大地)の紹介で、博多でアイドルだったが子供を連れて戻ったという、食堂店員の琴美(西野七瀬)に会った。が、「知らない、やってない!」と激怒する有様。

再び少年が家に現れた。殴られていた。テラスに少年を誘い、アイスを食べさせ、MP3を聞かせ、「このクジラもひとりぼっち。しかし私があなたの声を聴いた。私にも聞いてくれる人がいたの」と話して聞かせ、やさしく少年を抱きしめた。

貴瑚は自分の過去を振り返り、この少年にどう対応しようかと考え始めた

3年前、貴瑚は3年前に倒れた義父の介護に明け暮れていた。

貴瑚の給仕で喉を詰まらせた義父が緊急入院。病名は肺炎だった。激怒した母の激しい暴力で貴瑚は一時意識朦朧となった。病院からの帰り、貴瑚はトラックに飛び込もうとしたところ、塾の先生・岡田安吾と親しい友人の牧岡美晴(小野花梨)に救われた。

居酒屋での貴瑚の回復祝い。

貴瑚は初めてビールを飲んだ。安吾が「3年の介護はきつかっただろう。もう十分だ。ここで死んで生き返ろう。第2の人生を生きてみないか。そのためには家からの開放だ」と勧められた。

貴瑚には思いもしなかった案だったが、ふたりの協力で義父を在宅介護サーブスで実施できるよう資料を揃え母に渡して、母との関係を絶った。

貴瑚はすっかり可愛い娘に戻っていた。これを契機に貴瑚は安吾を「命の恩人」と感謝し、ふたりの関係は「アンコとキナコ」の関係になっていった。(笑)安吾「貴方は魂の番に出会う」と貴瑚に伝えた。貴瑚は「愛されること」と聞くと「寂しくて死にそうになっても眠れる」と52HZnクジラの声を録音したMP3プレーヤーを渡した。ふたりはイヤホーンで繋がってクジラの声を聴き過ごした。

貴瑚は安吾から救われた記憶から、今の世界に戻った

貴瑚は彼氏のスポーツカーに乗っている琴美を捕まえた。子供を預かっていると言っても「あの子はいない。私の人生を狂わした。ムシけらだ」と言う。「預かる」と言うと「どうぞ!」と去って行った。

家に戻って少年に名を聞く。紙に「ない」と書く。「どんな名前がいい」と聞くと「52!」と書いた。これに決めた。「家族はいるの?」と聞くと「ちほちゃん」と書いた。

そこに友人の美晴が「急に消えて、放ておけない」と尋ねて来た。うたりで52を連れて小倉に出て「ちほちゃん」を探すことにした。三人で観覧車に乗った。すると52が喜んだ。52がここに来たことがあると分かった。美晴が「あんた、新名さん(宮沢氷魚)とどうなったの?」と聞く。

2年前

貴瑚は化粧品会社の倉庫で商品発送の仕事に就き、忙しく働いていた。安吾に会い「貴方が好き、私のことは好きですか」と聞くと「キナコのことは大事に思っている。心から幸せを祈っている」というが、キスもなし。しかし、安吾は苦しんでいた。貴瑚は気づかなかった!

社員同士の喧嘩のとばっちりで貴瑚が負傷し入院した

社長の息子で専務の新名が入院見舞に訪れ、怪我させた相手を責めない貴瑚お優しさが気にいって、交際を申し込んできた。貴瑚はこれを受けた。新名はタワーマンションの一室を貴瑚に与え、ふたりはここでの生活が始まった。

新名は貴瑚の友人安吾、晴美と晴美の彼氏(若林佑真)をホテルのレストランに招いた

紹介時、新名は安吾に「男の方だった。安という名で女性だと思っていた」と挨拶した。食事が始まっても安吾と貴瑚の関係を見ていた。新名が「貴方は魂の番の活動をしていて貴瑚と出会い男だとは思わなかった」と安吾に話しかけた。安吾が「男で問題ですか?男と女とかの関係ではない」と開き直った。新名は「これからは自分が貴瑚の面倒をみる」と言い返した。

現在に戻って、

貴瑚と美晴は小倉の路地に入り、ちほさんの家を探した。すると隣のおばあちゃんが「ちほさんはいない」と52を自分の家に連れ込んだ。

おばちゃんは「琴美はこの子をちほさんに預け仕事をしていた。この子は言葉の遅い子で琴美が帰ってきたときママでなくちいちゃんと呼んだ。これに腹を立てた琴美は煙草をこの子に押し付け、これでこの子は言葉を失った。琴美がこの子を連れて出たあと、ちほさんは亡くなった」と話した。ちほさんと一緒に写った写真を見せられた。裏に52の名が記されていた。愛だった

貴瑚は愛と大分の家に戻りイヤホーンを繋いでクジラの声を聴いた。

1年前

貴瑚は街で安吾に会った安吾が「新名と別れた方がいい。あなたを泣かせる」と忠告してくれたが貴瑚は「幸せよ」と意味が分からなかった。

貴瑚は新名から「父の勧めで結婚することになったが、本当に愛しているのは君だ。このまま続けてくれ」と言われ、これを受け入れた。ところが安吾の投書でふたりの関係がバレ、父と結婚相手が激怒しているという。新名は「おまえが安吾に相談したか?」と疑い、激しく貴瑚を殴る。

さらに安吾の母・岡田典子(余貴美子)と安吾を呼び出し、典子には「安吾は女性でありながら男の恰好で妻をストーカーしている。障害があることを知らなかったのか」と責めた。典子は「知らなかった」と絶句した。安吾には「子供を作って貴瑚を幸せにする。あとは母と話せ!」と去った。安吾は泣いた。

このあと新名は貴瑚の部屋に戻り、貴瑚を殴り続けた

安吾と母はアパートに戻り、安吾トランスジェンダーであることを母に伝え、東京に逃げてきたことを話した。母が「気付かなかった、障害を持っているとか」という。安吾は「障害か?俺がが」と怒った。母は「女には戻れないのか」と聞き、「長崎に帰ろう。どこでもいい逃げよう」と言った。安吾は居場所を失ったと考えた

貴瑚が安吾のアパートを訪ねると安吾は風呂場で自死していた

遺書が2通、貴瑚と新名宛に遺されていた。貴瑚は典子と安吾の遺骨を長崎まで送った。典子は「安吾の分まで生きて!」と言った。その帰に新名宛の遺書を読んだ。そこには「悔しいが貴瑚を幸せにしてくれ!」とあった。

貴瑚がマンションに戻ると、新名は泥酔し茫然自失としていた

貴瑚が新名宛の遺書を渡すと燃やしてしまい「全部忘れよう」と言った。貴瑚は包丁で自殺しようとしたが止めに入った新名と揉めたが、自分の腹を刺した。

貴瑚は大分の家のベランダで安吾の遺書を読み、安吾を忍んでいた。

遺書には「誰も幸せには出来ないと思っていたが、キナコが人生を豊かにしてくれた。どうか彼女を幸せにしてください。永遠の幸せを」とあった。貴瑚は「魂の番は私だと言って欲しかった」と話すと「出会いの時から番だった」と安吾が話す。貴瑚は「私を愛してくれてありがとう」と泣いた。このシーンの杉咲さんの泣き演技が一番よかった。

工務店の村中と彼の母親・村中サチエ(倍賞美津子)が「誘拐犯で捕まる」とやってきた。「少し時間を「ください」と帰ってもらった。夜明け前、愛は居なくなった。気付いた貴瑚は埠頭に走った。そこで愛を見つけた。

貴瑚は「死なないで!ふたりで生きよう。家族になろう。必ずあなたを守る」と叫んだ。愛が「ああ」と声を発した。巨大なクジラが跳ね上がった!

愛の長い髪を切って寄贈することにした。

ソーメン流しで集う人々の中に貴瑚、愛、美晴の姿があった。愛が貴瑚にアイスキャンデーを持ってくる。サチエさんが「クジラが見たかったらここで暮らさねば」という。愛が皆の中に溶け込んでいる。貴瑚は「何があっても生きる。ここで笑って!」と返事した。

まとめ:

貴瑚が愛を助けるとともに再生されていく物語。

とてもシンプルだ。しかし、登場する人物の発するセリフには深い考察がある。これまで目にしないスタッフたち。トランスジェンダー監修、LGBTQ+インクルーシブディレクター、インティマシーコーディネーターたちによる指導だと知った。彼らに対する正しい見方を教えてくれた。自分がいかに傍観者だったかが分かる作品だった

 悪のように見える新名も琴美も貴瑚の母も、みんな傷を持っているんだ!これを想像できるように描かれているのもいい。

大きな傷を持つ貴瑚の愛で“愛”が救われるというだけでなく、ラストのソーメン流しのシーンで、集まった人々の中でふたりが再生されていくエンデイングが、集まったすべての人がクジラの声に耳を傾けているように見えてすばらしいエンデイングだと思った。

出演者みなさんの演戯はすばらしい。主演の杉咲花さん、「市子(2023)」に次ぐ社会派ドラマへの出演だが、これに優る演技だった。「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)で血の繋がらない母・宮沢りえさんに抱きしめられるシーンがあったが、この作品では血の繋がらない母となって桑名桃李君を抱くという、その成長に感無量だった。

ヤングケアラー、児童虐待トランスジェンダーという社会問題に関心を持たせるいい作品だった。

              *****

NHK「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」(2024)

 

3月29日公開の「オッペンハイマー」(2023)。これに先立ちNHK番組「映像の世紀」(2024.2.19)で放送されたもの。映画の参考になればと観てみました。

なかなかの力作日本の原爆開発視点からの描写もあり興味深かった。何よりも驚いたのはアインシュタインの提言が原爆開発に拍車をかけ、開発者は原爆が人類に何をもたらすかを全く考えていなかったこと。また、原爆投下の成功を米国民に告げる際、ルーマン大統領が微笑む姿に嫌悪した。ゲバラが訪日時「なぜ日本はアメリカを怒らない!」と語ったことを思い出した。

直後に撮った仁科博士監修の「広島・長崎における原子爆弾の影響」フィルムに衝撃を受けた。現在進行中の戦場でもこれほどの惨い映像はない!このフィルムは今どこに管理されているか。

内容

アメリカの原爆開発「マンハッタン計画」を指揮した天才科学者オッペンハイマーの生涯を描く。ニューヨークのユダヤ人家庭に生まれ、ハーバード大学飛び級しながら首席で卒業、「原爆の父」と呼ばれるオッペンハイマーは、アメリカ国内で「戦争を終わらせた英雄」と称えられたが、自分自身は深い罪の意識に苦しんでいた。戦後は、一転してアメリカの水爆開発に異議を唱える。そして赤狩りの対象となり、公職から追放された。

あらすじ&感想

オッペンハイマーヒンドゥー教の一節を思い出し「我は死、世界の破壊者」と語るシーンから物語は始まる。

1928年、原子力物理学の幕開け。

ドイツ・ゲッチンゲンに世界中から才気ある若者が集っていたゲッチンゲン大学原子力物理学の世界一の電動だった。その先頭にいたのがハイゼンベルグ(のちのナチ・ドイツの原爆開発者)で、“未確定性原理の発見”でノーベル賞を受賞。この近くで学んだものに日本の仁科芳雄(のちの日本の原爆開発者)がいた。

ハイゼンベルグの論文を読みたいとやってきたのがオッペンハイマーユダヤ人でハーバー大を飛び級で卒業した天才。人物評価は“人つき合いが悪い”だった。傲慢なやつと観られていた。ハイゼンベルグの指導で7個の論文を書き博士号を取得して米国に戻った。

帰国したオッペンハイマーは27歳でカリフォルニア大の助教授ごなり、ここで親友でありライバルのアーネスト・ローレンス(のちの米国原爆開発担当)と出会う。ローレンスはオッペンハイマーのはるかに上を行く業績を上げていた。

1930年、ローレンスが実験装置の研究でサイクロトロンを発明し、ミクロの粒子を超スピードで衝突させその変化を調べる研究が始まり、これが科学界の潮流となり、オッペンハイマーはその陰の存在だった。1940年ローレンスは“原子破壊の発見者”としてノーベル賞を受賞した。公演で「これまで発見されたものを凌駕する宝物が眠っている」と原爆を示唆した

アメリカの原爆開発が始まった

1939年9月1日、ナチ・ドイツ薫がポーランドに侵攻開始。

1939年8月、アインシュタインが時の大統領・ルーズベルトアメリカが原子爆弾開発に着手するよう書簡で訴えた。「ドイツが極めて強力な新型爆弾を開発するかもしれない。アメリカも核分裂を研究する物理学者と緊密に連携し、信頼できる人物にこの仕事を託されますように」と。

1942年、マンハッタン計画の発足

3つの研究施設からなる。ハンフォード(プルトニュウム)、ロックアラモス(爆弾)、オークリッジ(ウラン)。リーダーはローレンス。ローレンスの推薦でオッペンハイマーがロスアラモスの責任者に選ばれた

オークリッジはU235濃縮ウランの製造。7万5千人の新しい町が産まれ、有刺は細かく細分化され、従業員はそのひとつを担当し何が作られているか分からなかったという。

 ロックアラモスは爆弾の製造。原爆を戦争に間に合うよう作ること。6000人の研究者と軍人。オッペンハイマーは同胞ユダヤ人を排斥するナチスドイツへの怒りにもえていた。

このころドイツではハイゼンベルグが主導者で、アメリカに先んじて、大量の燃料ウランをチェコで発見、ノールウェーに化学工場を確保していた。アメリカはしっかりこの情報を得ていたという。

日本の状況。開戦3カ月後の記録映画「科学の殿堂」(1942)仁科芳雄博士が登場。サイクロトロンが存在し、ウラン濃縮実験に利用されていると述べている。

1945年。初夏。アラモゴート爆破試験場で史上初の原爆実験を実施

オッペンハイマーは「人間に何をもたらすかは視野になかった。技術的に美しいものを見たらまず試してみる。成功して初めて何をするかと話す。原爆はまさにそうだった」と述懐している。

1945年5月、ナチスドイツが降伏。ドイツの原爆開発の拠点が見つかった。小型の原子炉だった。ハイゼンベルグは連合軍の捕虜となった。

日本の戦況も決定的段階にあり、ロスアラモスでは原爆開発が問題視されだした。この声を封じたのがオッペンハイマーだった

なぜオッペンハイマーは研究を推し進めた?

 マンハッタン計画が始まって2年11カ月後、原爆が完成した。

1945年7月16日午前5時29分45秒、アラモゴート爆破場。原爆“トリニティ”が爆破した。中に詰められたのはプトニュムだった。オッペンハイマーは9km離れた場所で観測し「うまく行った」と喜んだ。

何故人間への影響を調べなかったのか

この情報はポッダム会議に出席中のトルーマン大統領に伝えられ、成功したとスターリンに伝えた。スターリンは「日本に使ってくれ!」と言った。トリニティはテニヤンに運ばれた。

8月6日の広島投下

オッペンハイマーは投下を指示する将校に「雲のある日は中止、決められた高度を守れ、高いところはダメだ」と指導した。

8時15分投下。(3時間後、爆心から3kmで撮った写真が示される)地獄だった!しかし、オッペンハイマーは知らなかっただろう。

 トルーマン大統領は控室で笑みを見せて、カメラに「史上最大の科学的ギャンブルに20億ドル以上費やし勝利した。金額以上に偉大だったことはこれを見事に隠しきったことだ。そしてこれを完成した科学者の頭脳だ」と語った。

ケンブリッジ近郊に収容されていたハイゼンベルグは広島の原爆について「それは原爆でない。アメリカに居るのは変人だ、うまくできなかったんだろう」と所見を述べた。

日本の仁科博士は自責の念に駆られ「腹を斬るときがきたと思う。米英の研究者は日本の研究者に対して大勝利を得た」と述べた。

3日後長崎にプルトニュウム型原爆が投下。広島と長崎で死者21万人にのぼった。

19458月14日、ポッダム宣言受諾

終戦の翌月、オッペンハイマーはトリニティ実験の跡地を計測した。オッペンハイマーが現れたことで誰が原爆を作ったかが明かされた。オッペンハイマーは原爆の父と言われアメリカの英雄となった。戦前まで科学界のスター・ローレンスはその座をオッペンハイマーに渡した。

原爆投下後のオッペンハイマー

終戦から数カ月後、広島・長崎の状況視察者の報告会が開かれた。長崎の視察者が「たてがみの片方が完全に焼かれた牛がうまそうに草を食んでいた」と話すとオッペンハイマー「原爆が善意ある武器のように語るな!」と注意したという。

オッペンハイマーはこの発表会で原爆の人類への影響を悟ったのでなないか。

 トルーマン大統領に招かれたオッペンハイマーは「自分の手が血で汚れておる」と話すとトルーマンは「それは私だ」と言い、その後、「あの者は泣き虫だ、二度と連れてくるな!」と言ったそうだ。

軍主催の祝賀会で、オッペンハイマーは「誇りは深い懸念にある。原爆が各国の武器庫に加われば、いつか人類はロスアラモスと広島の名を呪う」と演説し、ロスアラモス所長を退任した。

そのころ日本では一本の記録映画が撮られていた。「広島・長崎における原子爆弾の影響」で監修者は仁科博士だ。2時間40分の映画は原爆の炎と放射線の被害を克明に捉えていた。仁科博士は初めて「自分が作ろうとした原爆が人間に何をもたらすかを知った」と述べている。フィルムは試写のあと米軍に押収された。

1952水素爆弾の実験に成功、米ソの核競争が始まっていた。水爆開発を推進したのはローレンスだった。ローレンスはこの成功で栄光の座を取り戻した。

一方、政府の原子力委員会のアドバイザーとなっていたオッペンハイマーは核開発競争に警告を発していた。米ソで核を管理することを訴えていた。

1954年、オッペンハイマー原子力委員会から定職処分を受け、さらに赤狩りで追及された。かっての親友ローレンスが弁護することはなかった。ローレンスは「オッペンハイマー二度と政策に関与させてはならない」と政府側に伝えていた。

1960年9月、オッペンハイマーが訪日。しかし、広島・長崎を訪れることはなかった。記者の問い「原爆関わったことを後悔しているか」に「後悔はしていない。それは申し訳ないと思っていないということではない」と語った。

1967年2月18日62歳で亡くなった。

まとめ

映画「オッペンハイマー」を観るポイント。

 オッペンハイマーは何を作ったか?その苦悩をしかと確認したいと思った。何かをどう見せるか?

              ****

「エゴイスト」(2023)性愛で描く、エゴイストが愛に目覚める物語!

 

昨年の邦画の中で評判のよかった作品見逃していてWOWOWでやっと観ることができました。

男性カップルの性愛をここまで描くようになったかと思った。これがあるから「エゴイスト」のタイトルが分からる作品だった。(笑)

原作:エッセイスト・高山真さん(2020没)の自伝的小説「エゴイスト」。未読です。

監督:松永大司脚本:松永大司 狗飼恭子撮影:池田直矢、編集:早野亮、音楽:世武裕子LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉。

出演者:鈴木亮平宮沢氷魚柄本明阿川佐和子、他。

物語は

14歳の時に母を亡くした浩輔(鈴木亮平)は、田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごし、現在は東京でファッション誌の編集者として働きつつ自由気ままな生活を送っている。

そんなある日、浩輔は母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。浩輔と龍太はひかれ合い、時には龍太の母・妙子(阿川佐和子)も交えて満ち足りた時間を過ごしていく。

母に寄り添う龍太の姿に、自身の亡き母への思いを重ねる浩輔。しかし2人でドライブの約束をしていた日、龍太はなぜか現れず……。(映画COMより)


www.youtube.com

あらすじ&感想

撮影スタジオ。浩輔がモニターを見て「もうすこし濃くして!」と指示して、出て行く。この指示をする鈴木さんのアクセントと指先でこの人は“あれと気付く、うまい演技だ。夜、居酒屋でのゲイ仲間との会話。ここでは完璧だった。(笑)

彼は18歳で東京に出て来て、服が鎧だったという。今だ、父には嫁はまだかと言われ、亡くなった母親の言葉「あなたのお嫁さんを見ないと死ねない」が心の重石になっていた。

雨の日。浩輔がフィットネスジムでパーソナルトレーナー龍太に出会った

龍太が浩輔の身体をマッサージしながら「身体がきれいだ」と話す。会話とマッサージで“あれ”と感じる。これもうまい演戯だ。

食事しながら、龍太が「中卒で仕事は選べない。母子家庭で俺が働くしかない。ゆくゆくはこの仕事をしたい」と話す。

浩輔はゲイ仲間に「いいやつがいる」と自慢し、ジム通いが始まった。トレーニングを終え、ふたりで外に出ると龍太が腕を組みたがるが、浩輔が止せと注意。浩輔の高級マンションに入るといきなりふたりは身体を探り始める。見せどころのシーンだ。終わったあとの激しさをカメラで追い回す。

浩輔は「お母さんに!」と手土産を持たせる。こんな逢瀬が続き、浩輔はすっかり龍太にのめり込んだ。

ある日、おかんさんにと手土産を渡すと龍太が「終わりにして欲しい。俺は売りをやっている。あなたに会って苦しい。何もないからこの仕事でしか母を養えない」と帰っていった。

龍太が顔を見せなくなった。

浩輔は仕事が手に憑かない。スマホで龍太の所属クラブを捜す。一方の龍太は一晩で数人の客を取っていた。

浩輔は龍太のクラブを発見、予約してホテルで待った。そこに龍太がやってきた。浩輔が「俺はお前が好きだ。お母さんのために働くのも好きだ」と切り出すと「迷惑を掛けられない。母がいなかったらこんなに辛くない」と俯いた。浩輔は「俺は君を買う。月10万円を払う、それ以上は無理だ。駄目なら諦めて消える。自分で決めてくれ!」と自分の気持ちを話した。龍太は泣いた!

ふたりは激しく抱き合った。(前回シーンよりも丁寧に描かれている)

龍太は昼間清掃会社に勤め、夜も働くことがある。しかし、「本当の仕事を母に話せるのがうれしい」と感謝していた。龍太が疲れ眠るときは、浩輔は気遣って休ませてやる。

龍太は、いつも母親が世話になっていると浩輔を自宅に招いた

母の妙子はとても気さくな人で、浩輔のために風呂を準備し、手料理でもてなした。浩輔は自宅で龍太がキスしようとすることに戸惑った。三人で家族になったような写真を撮った。帰りには妙子が手作りの料理を持たせてくれた。

妙子が入院すると、浩輔が先に病院に駆けつけ、龍太を待つようになった。

浩輔は「車を持つとすこしは楽になる」と龍太に薦めると「そこまでしてもらうのは」と渋ったが、軽乗用車を買った。車が納車され、龍太に電話した。

母親から「龍太は亡くなった」と聞かされた

龍太はお通夜に顔を出すが、涙が止まらず、終始妙子に支えられていた。妙子が「何故あなたが泣くの、あなたは龍太の大切な人です。龍太が答えに困ったとき、相手が男性でも女性でもうでもいい、大事な人ができたらそれが一番いいと言った。すると龍太が浩輔さんに救われた、この世界は地獄でなかったと言った。本当にありがとうございました」と打ち明けた。浩輔は驚いた。

浩輔は久しぶりに実家に戻り母の仏前に手を合わせた。父(柄本明)に『お母さんの病気は大変だった?」と聞いた。父は「母さんがこれ以上迷惑を掛けたくないと言ったが、お前が嫌いというなら別れてやる、もうそんなこと言うな」と言って、ふたりでボロボロ泣いた!』と話した。

浩輔は何故龍太が亡くなったかを考えていた。父親のこの話に答えを見出した
浩輔は月命日に龍太の仏前に顔を見せた。浩輔は思い切って妙子に「私が龍太を死なせたようなもの。これまで彼を援助していた10万円の受け取って欲しい」と申し出た。妙子は断り、幾度も押し問答があったが、「ありがとうございます」と妙子が受け取った。

こうして浩輔は月命日には顔を出してお金を渡し、妙子に感謝され、まるで親子のように料理を食べ、妙子の愚痴を聞き、風呂に入り、泊まった。

突然妙子が倒れ入院した

浩輔が病院に駆けつけると、酸素マスクで呼吸する状態。「膵臓癌で、ステージ4、先は長くない」という。浩輔が「龍太に無理させ、今度はお母さんの病に気付かなかった」と謝ると、「あなたに過ちはないよ、私はあなたが好きだし、あなたは龍太も私も愛してくれた」という。浩輔は「愛がなんなのかよくわからない」と答えると「分からなくていい。私たちは愛だと思っている」という。浩輔はこの言葉に泣いた。

隣のベッドの女性が「息子さん?」と聞くと「いいえ」と返事をする。それが「私の息子です」と言って「帰らないで」と手を差し出すようになり、浩輔はしっかりその手を握った。

まとめ

これまで浩輔はお金で男性を買う男だった(エゴイスト)。しかし、龍太にはすぐに金だけの関係ではなくなった。突然の龍太の死で浩輔は父が聞かせてくれた言葉により、龍太の死は自分を愛するため疲労で亡くなったと理解した。龍太の死に報いるため、お金で龍太の母・妙子の面倒をみたいと申し出たが、妙子の人柄を愛し、愛され、ふたりは母子の関係になっていった。

浩輔と龍太、浩輔と龍太の母が“愛で結ばれた関係になる物語”だった。この関係がリアルでまるでドキュメンタリーを観るようで腑に落ちた。

浩輔はエゴイストだったか、自分が相手を愛することで相手に愛されることを知った

性愛を見ればふたりの関係は愛だと分る作品にしなければならない

この難しい要求に鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんは見事に応えた。この作品凄さだ。「第78回毎日映画コンクール」の男優主演賞と男優助演賞をそれぞれが受賞、これに値すると思った。そして阿川佐和子さんの自然な演技もすばらしかった。驚いた!

                ****

「コヴェナント 約束の救出」(2024)友を見捨てないとガイ・リッチーが描くアフガン戦場描写の見事さ!

 

スナッチ」「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督が、アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て撮りあげた社会派ドラマ

2021年8月21日、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退することに伴い自衛隊機が救出に向かい邦人1名を救出したというニュースを覚えている。この米軍撤退に遡る3年前の米軍の状況が描かれる。

ガイ・リッチーのこれまでの作風、スタイリッシュで、ユーモアに満ちた痛快なクライムアクション作風とは異なる!という触れ込みに、いかなる作品に出来上がったかと、公開初日の劇場に掛け駆けつけました。なんと長い列が出来ている、それは「マッチング」狙いで、こちらはガラ空き!(笑)

生々しい戦場で咲いた米軍曹長と通訳の友情をリアルな戦場環境の中で、スタイリッシュに見せてくれ、なかなかのものでした。特に米国政府に“米国の信義”を問うテーマとしたことが良かった。

監督:ガイ・リッチー脚本:ガイ・リッチー アイバン・アトキンソン マーン・デイビス撮影:エド・ワイルド、美術:マーティン・ジョン、編集:ジェームズ・ハーバート、音楽:クリス・ベンステッド。

出演者ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、エミリー・ビーチャム、

ジョニー・リー・ミラー、アレクサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター、ボビー・スコフィールド、ジェームズ・ネルソン・ジョイス、他。

物語は

2018年、アフガニスタンタリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、優秀なアフガン人通訳アーメッド(ダール・サリム)を雇う。キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を送り込まれキンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。

キンリーも瀕死の重傷を負ったもののアーメッドに救出され、アメリカで待つ家族のもとへ無事帰還を果たす。

しかし自分を助けたためにアーメッドがタリバンに狙われていることを知ったキンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへ向かう。(映画CMより)

米軍は2001年9月11日のウサーマ・ビン・ラーディンによる同時多発テロに対抗すべく同年10月に1300人の兵士がアフガニスタンに進出。これが2011年には10万人、米軍に雇われたアフガニスタン通訳は5万人に及んだという。彼らはアメリカへの移住ビザが貰えると約束されていた。進駐から20年後、2021年多くの米軍協力のアフガニスタン通訳(数千人)を残して撤退した。物語がその3年前のタリバンのテロに苦しむ戦況下の物語


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、キンリー曹長の部隊が検問所でIED(即席爆破物)検問中に一両の車が突然爆破炎上、通訳が爆死するシーンからはじまる

キンリーは「頭に毛がないやつ」と数人の応募者のなかからアーメッドを通訳に選んだ。(笑)

隊の任務、タリバンの武器、爆薬物の隠し場所を暴くことを伝え、さっそくアーメッドを連れて、アヘン吸引所を捜索。アーメッドが状況をしっかり把握し的確に訳していることを確認した。

キンリーは諜報部からタリバン関係者ファラッシュの紹介を受け、バザールでごった返す路上で彼と接触し車に乗せて交渉。キンリーは「買値を上げろ」と指示するが、アーメッドはうまく交渉して、2か所のIED製造工場の位置情報を得た。基地に戻って、部下のデクソン軍曹(アレクサンダー・ルドウィグ)から「うまくやったのは彼がタリバンと組んで麻薬の仕事をしていたから。息子がタリバンに殺されて寝返った」と聞かされた。

キンリーはアーメッドを呼び「勝手なことをするな」と注意すると「貴方の目的に叶うからそうした、謝る」という。アーメッドの仕事は通訳だけでなく何をなすべきかを知っていた。キンリーは「ありがとう」と感謝した。

会話は少ないが、これでふたりが心を交わしていくところが本作の醍醐味

 30km先の工場を第1の目標にして捜索に出発

もうひとりの通訳ハディが悪路だからと進路変更を言い出す。これにアーメッドがおかしいと言い出す。キンリーは車を止めて、ドローンで偵察開始。

ハディとアーメッドの殴り合いの喧嘩が始まった。キンリーが止めに入った。8km先にタリバン兵を発見、キンリーは基地へ帰ることにした。ハディは家族がタリバンに捉われていたことが判明。アーメッドは高い戦術判断能力を持ち、遠慮なくキンリーを補佐する

その夜、キンリーはロサンゼルスの家族、妻のキャロライン(エミリー・ビーチャム)とふたりの子供にオンラインで話をする。戦場から家族に電話する時代なんですね!妻が「早く帰って!」という。キンリーは任務達成という他に“無事に帰る”ことが何よりも大切なことだった。

一方のアーメッドは妻のところに帰宅していた。妻は妊娠しており、タリバンに監視されているのが怖いという。アーメッドは何よりも妻を安全にしてやりたいという願いがあった。

キンリーとアーメッドは米軍曹長と通訳の関係で結ばれている他に、家族を守ることで結ばれていた。この関係を見過ごすことはできない。

2の目標は100km先の工場

険しい山岳路、荒廃した原野、河床地の通過を必要とし、所属部隊トップのヴォークス大佐(ジョニー・リー・ミラー)にヘリを要請したが断られた。車両と武器、金をたっぷり与えられた。(笑)

厳しい地形を踏破して目的地に着いた鉱山の跡地のようなところだった。30分かかる航空支援を要請、アーメッドを残して隊は施設の捜索に入った。

施設の人物を尋問すると「あっちだ!」という。細い鉄橋を渡った先に急ぐ。

施設の地下坑道でIEDを発見。激しい撃ち合いになった。タリバン本部から増援部隊が戦闘加入してきた。キンリー隊は全滅!工場は大音響とともに爆破炎上した。

キンリーはアーメッドの運転でタリバンピックアップトラックで逃亡。これを追ってくるタリバンとのカーチェイスタリバンが「生け捕りにする」と追ってくる。ふたりは逃げ切った

この戦闘シーンは鉄橋の通過、タリバンの増援と迫撃砲射撃、友軍のヘリ攻撃などと、見せ場の多いスリリングな戦闘シーンで、見事だった

夕暮れの中で、部下を失ったキンリーはしょんぼりと腰を下ろしていた。それをじっとアーメッドが見ていた。ここで寝ることにした。

朝起きるとタリバンの捜索が始まっていた

キンリーとアーメッドがバディとなってタリバンと戦いながら脱出を図る。接近する敵兵をふたりで刺し殺して、急峻な坂を転げながら逃げた深い渓谷の中をふたりが協力しながら、接近戦で相手を倒し逃げる。

無人小屋で一泊。タリパンの無線をアーメッドが聞く。敵は近い!小屋を出たところでキンリーが脚を打たれタリバンに捕獲された。銃床で頭をぶん殴られ引き回される。意識を失っているとことにアーメッドが拳銃(キンリーが貸し与えもの)をぶっ放してタリバンを皆殺しにしてキンリーを救出した

アーメッドが廃材を集めてソリを作成、これで空軍基地を目指す

敵に隠れての移動、悪路ばかりだ。アーメッドが食べさせ、ふたりで毛布にくるまりキンリーの体を温める。

途中で車を買う

検問に出会うが、アーメッドひとりで戦う。住民の群れに出会い、痛み止めと車を交換した。そこにタリバンが現れた。住民たちが「逃げなさい!」と車力をくれた。

車力を押すアーメッド。山道に疲れ果てて、天を仰ぐ

しかし諦めなかった。キンリーもかすかな記憶として残っていた。痛がるキンリーにアヘンを吸わせる。

空軍基地が見える丘までやってきた。店で水を買い、キンリーに飲ませ、自分が飲んだ。ほっとしたところに水を買いにタリバンが現れた。あわや・・。そこに基地から救援隊が駆けつけた。(笑)

4週間後、キンリーはロサンゼルスの病院で目覚めた

「100km這って帰ってきた。勲章だ」と言われ、「勲章はアーメッドにやって欲しい」というと「アーメッドの弟が言うには、彼は受け取らない、タリバンに追われ、消えた」という。

ここからキンリーの苦しみが始まった

キンリーはアーメッドを救うために移民局に電話するが取り合ってもらえない。キンリーの怒りが爆発した。ヴォークス大佐に電話すると9カ月後だと言われ、「待てない」と返事した。

毎晩キンリーはアーメッドと過ごした記憶を思い出し、「何故助けないのか」と悩み眠れない。

妻のキャロラインが「貴方が死んだと言われたときは苦しんだ。あの人には奥さんがいる。アーメッドはあなたの命の恩人、行きなさい!必ず帰って!」とキンリーを後押しした。

キンリーはヴォークス大佐に会い「貴方に貸した借り(8年前に命を救った)を返して欲しい。旅券と軍の協力だ。アフガニスタンに単独で行きアーメッドを米国に脱出させる」と告げた。

キンリーがアフガニスタンに戻ってきた

民間航空機会社のパーカー(アントニー・スター)に予約のヘリを確認すると「今は無理だ」と言われ、車でアーメッドの弟に会うことにした。パーカーには救出時のヘリ輸送と軍への要請を依頼した。

アーメッドはタリバンに発見され、弟のトラックで別の隠れ家に移動していた。キンリーは弟に会い、弟と一緒に隠れ家を尋ね、トラックで脱出した。しかし、タリバンに発見され、ダム湖の堰堤に逃げ込み、狭いところでタリバンと対峙し、軍の支援を待つことにした。

激しい銃撃戦。もはやダメかと思われたところに武装のC-130が現れた

まとめ

ラストシーンは空軍基地から飛び立つC-130の中で、アーメッドがビザを確認しキンリーに笑みを送るシーンで終る。そして、エンデイングで「300人以上の通訳とその家族が殺害され、今なお数千人が身を隠している」という字幕が現れる

アメリカの信義に対する強烈なメッセージとなっている

ドキュメンタリーにインスパイアされたガイ・リッチー。丁寧に多くのエピソードを集めリアルなストーリーを作り上げたという。キンリーとアーメッドに焦点を当てふたりの絆が、戦場を通して、シンプルに描かれていた。通訳の役割が如何に重要であったかが分かる。

ストーリーは3つのエピソード、米軍によるタリバンの隠匿武器の摘出作戦、戦場からの脱出、アーメッド救出のための作戦からなり、ふたりが生きて再会することが分かっているからハラハラドキドキ感は薄いが、バディで行動するふたりが真の友情になっていく過程が詳細に描かれていて感動した

戦場シーンをスペインロケで撮っているが、これがアフガニスタンの風景によく似ていて、戦闘アクションによく馴染み、見所のある戦闘シーンになっている。ドローンを使った空撮がスケール感を醸してよかった。

              ****