映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「コヴェナント 約束の救出」(2024)友を見捨てないとガイ・リッチーが描くアフガン戦場描写の見事さ!

 

スナッチ」「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督が、アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て撮りあげた社会派ドラマ

2021年8月21日、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退することに伴い自衛隊機が救出に向かい邦人1名を救出したというニュースを覚えている。この米軍撤退に遡る3年前の米軍の状況が描かれる。

ガイ・リッチーのこれまでの作風、スタイリッシュで、ユーモアに満ちた痛快なクライムアクション作風とは異なる!という触れ込みに、いかなる作品に出来上がったかと、公開初日の劇場に掛け駆けつけました。なんと長い列が出来ている、それは「マッチング」狙いで、こちらはガラ空き!(笑)

生々しい戦場で咲いた米軍曹長と通訳の友情をリアルな戦場環境の中で、スタイリッシュに見せてくれ、なかなかのものでした。特に米国政府に“米国の信義”を問うテーマとしたことが良かった。

監督:ガイ・リッチー脚本:ガイ・リッチー アイバン・アトキンソン マーン・デイビス撮影:エド・ワイルド、美術:マーティン・ジョン、編集:ジェームズ・ハーバート、音楽:クリス・ベンステッド。

出演者ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、エミリー・ビーチャム、

ジョニー・リー・ミラー、アレクサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター、ボビー・スコフィールド、ジェームズ・ネルソン・ジョイス、他。

物語は

2018年、アフガニスタンタリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、優秀なアフガン人通訳アーメッド(ダール・サリム)を雇う。キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を送り込まれキンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。

キンリーも瀕死の重傷を負ったもののアーメッドに救出され、アメリカで待つ家族のもとへ無事帰還を果たす。

しかし自分を助けたためにアーメッドがタリバンに狙われていることを知ったキンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへ向かう。(映画CMより)

米軍は2001年9月11日のウサーマ・ビン・ラーディンによる同時多発テロに対抗すべく同年10月に1300人の兵士がアフガニスタンに進出。これが2011年には10万人、米軍に雇われたアフガニスタン通訳は5万人に及んだという。彼らはアメリカへの移住ビザが貰えると約束されていた。進駐から20年後、2021年多くの米軍協力のアフガニスタン通訳(数千人)を残して撤退した。物語がその3年前のタリバンのテロに苦しむ戦況下の物語


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、キンリー曹長の部隊が検問所でIED(即席爆破物)検問中に一両の車が突然爆破炎上、通訳が爆死するシーンからはじまる

キンリーは「頭に毛がないやつ」と数人の応募者のなかからアーメッドを通訳に選んだ。(笑)

隊の任務、タリバンの武器、爆薬物の隠し場所を暴くことを伝え、さっそくアーメッドを連れて、アヘン吸引所を捜索。アーメッドが状況をしっかり把握し的確に訳していることを確認した。

キンリーは諜報部からタリバン関係者ファラッシュの紹介を受け、バザールでごった返す路上で彼と接触し車に乗せて交渉。キンリーは「買値を上げろ」と指示するが、アーメッドはうまく交渉して、2か所のIED製造工場の位置情報を得た。基地に戻って、部下のデクソン軍曹(アレクサンダー・ルドウィグ)から「うまくやったのは彼がタリバンと組んで麻薬の仕事をしていたから。息子がタリバンに殺されて寝返った」と聞かされた。

キンリーはアーメッドを呼び「勝手なことをするな」と注意すると「貴方の目的に叶うからそうした、謝る」という。アーメッドの仕事は通訳だけでなく何をなすべきかを知っていた。キンリーは「ありがとう」と感謝した。

会話は少ないが、これでふたりが心を交わしていくところが本作の醍醐味

 30km先の工場を第1の目標にして捜索に出発

もうひとりの通訳ハディが悪路だからと進路変更を言い出す。これにアーメッドがおかしいと言い出す。キンリーは車を止めて、ドローンで偵察開始。

ハディとアーメッドの殴り合いの喧嘩が始まった。キンリーが止めに入った。8km先にタリバン兵を発見、キンリーは基地へ帰ることにした。ハディは家族がタリバンに捉われていたことが判明。アーメッドは高い戦術判断能力を持ち、遠慮なくキンリーを補佐する

その夜、キンリーはロサンゼルスの家族、妻のキャロライン(エミリー・ビーチャム)とふたりの子供にオンラインで話をする。戦場から家族に電話する時代なんですね!妻が「早く帰って!」という。キンリーは任務達成という他に“無事に帰る”ことが何よりも大切なことだった。

一方のアーメッドは妻のところに帰宅していた。妻は妊娠しており、タリバンに監視されているのが怖いという。アーメッドは何よりも妻を安全にしてやりたいという願いがあった。

キンリーとアーメッドは米軍曹長と通訳の関係で結ばれている他に、家族を守ることで結ばれていた。この関係を見過ごすことはできない。

2の目標は100km先の工場

険しい山岳路、荒廃した原野、河床地の通過を必要とし、所属部隊トップのヴォークス大佐(ジョニー・リー・ミラー)にヘリを要請したが断られた。車両と武器、金をたっぷり与えられた。(笑)

厳しい地形を踏破して目的地に着いた鉱山の跡地のようなところだった。30分かかる航空支援を要請、アーメッドを残して隊は施設の捜索に入った。

施設の人物を尋問すると「あっちだ!」という。細い鉄橋を渡った先に急ぐ。

施設の地下坑道でIEDを発見。激しい撃ち合いになった。タリバン本部から増援部隊が戦闘加入してきた。キンリー隊は全滅!工場は大音響とともに爆破炎上した。

キンリーはアーメッドの運転でタリバンピックアップトラックで逃亡。これを追ってくるタリバンとのカーチェイスタリバンが「生け捕りにする」と追ってくる。ふたりは逃げ切った

この戦闘シーンは鉄橋の通過、タリバンの増援と迫撃砲射撃、友軍のヘリ攻撃などと、見せ場の多いスリリングな戦闘シーンで、見事だった

夕暮れの中で、部下を失ったキンリーはしょんぼりと腰を下ろしていた。それをじっとアーメッドが見ていた。ここで寝ることにした。

朝起きるとタリバンの捜索が始まっていた

キンリーとアーメッドがバディとなってタリバンと戦いながら脱出を図る。接近する敵兵をふたりで刺し殺して、急峻な坂を転げながら逃げた深い渓谷の中をふたりが協力しながら、接近戦で相手を倒し逃げる。

無人小屋で一泊。タリパンの無線をアーメッドが聞く。敵は近い!小屋を出たところでキンリーが脚を打たれタリバンに捕獲された。銃床で頭をぶん殴られ引き回される。意識を失っているとことにアーメッドが拳銃(キンリーが貸し与えもの)をぶっ放してタリバンを皆殺しにしてキンリーを救出した

アーメッドが廃材を集めてソリを作成、これで空軍基地を目指す

敵に隠れての移動、悪路ばかりだ。アーメッドが食べさせ、ふたりで毛布にくるまりキンリーの体を温める。

途中で車を買う

検問に出会うが、アーメッドひとりで戦う。住民の群れに出会い、痛み止めと車を交換した。そこにタリバンが現れた。住民たちが「逃げなさい!」と車力をくれた。

車力を押すアーメッド。山道に疲れ果てて、天を仰ぐ

しかし諦めなかった。キンリーもかすかな記憶として残っていた。痛がるキンリーにアヘンを吸わせる。

空軍基地が見える丘までやってきた。店で水を買い、キンリーに飲ませ、自分が飲んだ。ほっとしたところに水を買いにタリバンが現れた。あわや・・。そこに基地から救援隊が駆けつけた。(笑)

4週間後、キンリーはロサンゼルスの病院で目覚めた

「100km這って帰ってきた。勲章だ」と言われ、「勲章はアーメッドにやって欲しい」というと「アーメッドの弟が言うには、彼は受け取らない、タリバンに追われ、消えた」という。

ここからキンリーの苦しみが始まった

キンリーはアーメッドを救うために移民局に電話するが取り合ってもらえない。キンリーの怒りが爆発した。ヴォークス大佐に電話すると9カ月後だと言われ、「待てない」と返事した。

毎晩キンリーはアーメッドと過ごした記憶を思い出し、「何故助けないのか」と悩み眠れない。

妻のキャロラインが「貴方が死んだと言われたときは苦しんだ。あの人には奥さんがいる。アーメッドはあなたの命の恩人、行きなさい!必ず帰って!」とキンリーを後押しした。

キンリーはヴォークス大佐に会い「貴方に貸した借り(8年前に命を救った)を返して欲しい。旅券と軍の協力だ。アフガニスタンに単独で行きアーメッドを米国に脱出させる」と告げた。

キンリーがアフガニスタンに戻ってきた

民間航空機会社のパーカー(アントニー・スター)に予約のヘリを確認すると「今は無理だ」と言われ、車でアーメッドの弟に会うことにした。パーカーには救出時のヘリ輸送と軍への要請を依頼した。

アーメッドはタリバンに発見され、弟のトラックで別の隠れ家に移動していた。キンリーは弟に会い、弟と一緒に隠れ家を尋ね、トラックで脱出した。しかし、タリバンに発見され、ダム湖の堰堤に逃げ込み、狭いところでタリバンと対峙し、軍の支援を待つことにした。

激しい銃撃戦。もはやダメかと思われたところに武装のC-130が現れた

まとめ

ラストシーンは空軍基地から飛び立つC-130の中で、アーメッドがビザを確認しキンリーに笑みを送るシーンで終る。そして、エンデイングで「300人以上の通訳とその家族が殺害され、今なお数千人が身を隠している」という字幕が現れる

アメリカの信義に対する強烈なメッセージとなっている

ドキュメンタリーにインスパイアされたガイ・リッチー。丁寧に多くのエピソードを集めリアルなストーリーを作り上げたという。キンリーとアーメッドに焦点を当てふたりの絆が、戦場を通して、シンプルに描かれていた。通訳の役割が如何に重要であったかが分かる。

ストーリーは3つのエピソード、米軍によるタリバンの隠匿武器の摘出作戦、戦場からの脱出、アーメッド救出のための作戦からなり、ふたりが生きて再会することが分かっているからハラハラドキドキ感は薄いが、バディで行動するふたりが真の友情になっていく過程が詳細に描かれていて感動した

戦場シーンをスペインロケで撮っているが、これがアフガニスタンの風景によく似ていて、戦闘アクションによく馴染み、見所のある戦闘シーンになっている。ドローンを使った空撮がスケール感を醸してよかった。

              ****

「肉弾」(1968)自らが体験した太平洋戦争。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる!

 

WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」で放送された第2作目の作品。「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)をとばしてこの作品ということが分かる作品だった。

岡本監督は1945年1月に松戸の陸軍工兵学校に入隊し愛知県豊橋市にあった第一陸軍予備士官学校終戦を迎えた軍歴を持っている。青春真っ只中で敗戦を経験した。これを怒りでぶちまけた作品。自主映画のような作品で、調べてみると夫人がプロデューサーとなり二人三脚で地道に制作費を集め、制作にこぎつけたとのこと。この熱意に感動!

田舎のおばちゃんでも感じた“沖縄を取られて勝ち目があったの”、“敗戦を知らず特攻隊員として海に浮んでいた悔しさ”が作品の軸になっている。この作品を観ておくと先に述べた2作品に岡本監督がどう挑んだかが分かる

監督・脚本岡本喜八撮影:村井博、編集:阿良木佳弘、音楽:佐藤勝。

出演者:寺田農大谷直子天本英世笠智衆北林谷栄春川ますみ伊藤雄之助小沢昭一、他。


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あらすじ&感想:

陸軍予備士官学校の候補生から急遽、遠州灘防備隊の特攻要員に、次いで特別特攻隊員を経て終戦を迎えた“あいつ”(寺田農)の生き様を描くというもの

 魚雷に繋がれたドラム缶の中の“あいつ”、何故彼がここにこの恰好でいるかの説明から物語が始まる

候補生時代。訓練で失敗ばかりする“あいつ”は罰として素っ裸で訓練させられ、失敗してまた殴られる。その原因はお腹が空いて訓練意欲が出てこないこと。食料庫に入り食べ物を捜していて、区隊長(田中邦衛)に捕まり気合を入れられる。倉庫には食べ物が一杯あるのに食べられない。理由が本土決戦のためだという。食べないから沖縄を失ったと言って殴られる。“あいつ”はまるで殴られるために陸軍に入ったようだった。(笑)この男が寺田農さんだとは分からなかった。(笑)上層部はこれで勝てると思っていた。

そこに突然広島に原爆が落とされ、ソ軍が参戦し、状況が変わった

予備士官学校は解散され、君たちは神だと対戦車特攻隊員として遠州灘正面に配置された。対戦車特攻というのは土を掘って穴を作り、そこに火薬を背負って隠れ、敵戦車M4が接近したら、穴から飛び出しぶつかっていくという戦法。

配置前、白いめしとお酒で祝ってもらって、1日の休暇が与えられた

“あいつ”は活字好きで古本屋を訪ねたが活字本は電話帳しかなかった。(笑)親父さん(笠智衆)は日露戦争で両手を失い小便時に手を貸してくれという。(笑)その次が女性を体験しておくことだった。女郎屋に行くと受付で因数分解を勉強している少女(大谷直子)に出会った。部屋で待つとやってきた女郎はフンドシ姉さん(春川ますみ)だった。(笑)何の感激もなかった。

雨が降り出し、車両めがけて特攻訓練で気分晴らしをしていると少女が傘を届けてくれ、訓練姿に感動して一緒に訓練してくれる。防空壕で「君のために死ねる」と結ばれた。これが彼の人生最大のいい思い出で、これをもって任務についた。

広大な遠州灘の砂浜、特攻担当地域が付与された

ひとりで穴を掘り、ここに隠れて、火薬箱(火薬が入ってない)を担いで走り出す出す訓練を繰り返す。ご飯は本部に3日分をまとめて受け取る。耐えられない孤独の中で過ごすことになる。

そこで幼い少年(雷門ケン坊とその兄(頭師佳孝)に出会った。兄は「美しい国は日本のみ、神の国」と教科書を暗記しこれを繰り返し暗唱する。先生(園田裕久)が来て不十分だと殴る。“あいつ”がなぜ殴ると棟と、精神で戦うという。

怖い怖いというモンペのおばちゃん(三戸部スエ)アメリカ兵が来ると女性は全員強姦されるという。(笑)そして沖縄を取られたらお臍を見られたのと同じだ。もうおしまいだという。“あいつ”は考えることが嫌で因数分解を唱える。(笑)苦しいときは少女を思い出していた。

赤十字の女性たちが現れ“あいつ”が身を隠すと、蓋を開けようとする。(笑)さらに突撃訓練をする若者の一団が現れる。それぞれがここでの決戦の準備をしていた。夜になると男たちが女性を追いかけ狂態を演じていた。

B-29 の爆撃を受けた

少年が駆けつけ「兄ちゃんが亡くなり、あの少女も亡くなった」と教えてくれた。“あいつ”はどうやって仇をとりかを考えた。少年はどこからか手榴弾を盗み出した。ふたりで穴に入り戦うことにした。

本部から伝令兵がやってきて特別特攻隊に配置替えを傳えられた

特別特攻というのは魚雷にドラム缶をしばり、敵駆逐艦の進路に配置され、目標が至近距離に入ったら魚雷を発進させるという戦法。“あいつ”は少年を残して去った。少年は穴で手榴弾を並べて算数の勉強をしていた。

食料が3日分。“あいつ”はドラム缶の中で海から現地調達した魚を焼き食べていた。機銃射撃を受け浸水。戦闘はないが地獄を味わっていた。接近空母を発見し魚雷を発進させたが、魚雷が沈没!“あいつ”はドラム缶の中で、流されていた。

終戦ビラが航空機で巻かれたが“あいつ”のは届かなかった

一隻の船が近ずく。オワイ船だった。船長(伊藤雄之助)から戦争は終わったと聞かされた。船に乗れと言われたが、このままでと曳航してもらうことにしたが途中でロープが切れた。

昭和43年(1968)、“あいつ”は若者が集う海水浴場に白骨となり辿りついた

まとめ:

市民目線で戦争をどう感じていたかがよく分かる。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる作品だ。古臭い、「今観てどうなの?」と感じる人は少なくないかもしれないが、作り手の熱意、狂気を感じる作品だった

 おばあちゃんの沖縄の話、少年の無邪気に手榴弾で遊ぶ姿、お兄ちゃんの国語本の暗唱。どのシーンも強烈な反戦メッセージを傳えてくれる。特に、女郎屋の少女を演じた大谷直子さんが微笑んで全裸姿を見せるシーン。輝いていて、生ることのすばらしさを感じる映像だった。

目にべったりと闇が張り付いた夜、たったひとりで魚雷を抱えて海に浮んでいた男が何を考えたか。こんな経験をしたものが居るか、生きるとはどういうことか。よく伝わる作品だった。

             *****

「658km、陽子の旅」(2023)菊池凛子が学んだことは人生におけるとてもシンプルなことだった。

 

NHK朝ドラ「ブギウギ」に淡谷のり子役で出演の菊地凛子さん。朝イチでのトークで、「この作品で私は変わった」と話す。いかなる作品なりやと観ることにしました。彼女の作品では「バベル」(2006)しか観ていない。

夢やぶれフリーターとして、人との接触を断ち孤独に生きる女性が、20年間会ってない青森に住む父親の葬儀に駆けつける中で、出会う人々から生きるための力を得て再生される様を描くロードムービー

監督:「ある男」(2014)の熊切和嘉、原案:室井孝介、脚本:室井孝介 浪子想、撮影:小林拓、編集:堀善介、音楽:ジム・オルーク

出演者:菊地凛子竹原ピストル黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、吉澤健、風吹ジュンオダギリジョー、他。

熊切監督と菊池凛子がタッグを組むのは22年ぶり。

物語は

就職氷河期世代である42歳の独身女性・陽子(菊地凛子)は、人生を諦めてフリーターとしてなんとなく日々を過ごしてきた。そんなある日、かつて夢への挑戦を反対され20年以上疎遠になっていた父(オダギリジョー)の訃報を受けた彼女は、従兄の茂(竹原ピストル)やその家族とともに、東京から故郷の青森県弘前市まで車で向かうことに。

しかし、茂の家族は途中のサービスエリアで子どもが起こしたトラブルに気を取られ、陽子を置き去りにして行ってしまう。

所持金もなくヒッチハイクで故郷を目指すことにした陽子は、道中で出会ったさまざまな人たちとの交流によって心を癒されていく。(映画COM)


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あらすじ&感想

陽子がカーテンを閉め切ったアパートで、ラーメンを食べながら、PCでカスタマーサポートの仕事をするシーンから物語が始まる。孤独で、人生ぎりぎりのころまで追い込まれている雰囲気がよく出ている。そこに従兄の茂が「叔父がなくなった。明日昼葬儀だ。弘前まで行く。俺の家族と一緒だ、車に乗れ」と迎えにきた。

陽子は数千円の金をもって、携帯は故障で持たず、車に乗った

東北高速道を走る。ちょっとした遊具公園のあるSAで休憩。陽子は幼いころ父とこの公園に来たことがあると散策中に、茂一家は子供が事故って、陽子を残して病院に急いだ。陽子は茂と連絡がつかず、悩んだ末に、ヒッチを思いついたが言葉がでない。トイレで「青森まで乗せてください」を練習して挑み、成功した。(笑)

拾ってくれたのは地元の勤め先が倒産で東京に仕事を求めて、その帰りだという女性(黒沢あすか)だった。

よく喋る人で、これでストレスを発散しているような人。(笑)陽子はほとんど喋れず、聞き役だった。

トイレ施設のみのSAで降ろされた

夜になった。しっかり身支度をした若い女性のハイカーに出会った。トイレを怖がるような女性(見上愛)だった。それでも愛嬌があって自販機のコーヒーを買ってくれる。プラカードを持って車を拾う方法を教えてくれた。やっとやってきた車。ひとりしか乗せられないということで陽子が譲った。

公衆電話で伯母に電話した。大丈夫かという優しいことばに電話を切った。不甲斐ない自分が嫌になった。気持ちが整理できていなかった。

東北の災害をレポートしているライター(浜野謙太)が拾ってくれた

これがとんでもない男だった。「断るなら元に返す」を脅され、ホテルに連れ込まれ、体を求められた。陽子は後悔した。

ホテルを出て彷徨するなかで父(オダギリジョー)が現れつき纏う。いつの間にか浜辺で眠っていた。打ち寄せる波で目覚め、防潮堤をとめどなく歩いた。

無人販売所に野菜を卸す木下老夫婦(吉澤健、風吹ジュン)に拾われた

みぞれの中、小銭を稼ぐために、この年でも働いている。仮設住宅に戻り、付近の人に野菜を分けて歩き、近くのSAまで陽子を送る車を捜してくれる。

大学生時代にボランティアで来て、この地が気に行ったと住み着き“なんでも屋”になったという女性(仁村砂和)に送ってもらうことになった。苦労してでも好きな土地で働く人がいる。いかに住む土地大切かということを知った。

木下さんがおにぎりを持たせてくれた。陽子はいくら感謝しても感謝しきれない気持ちだった。年寄りの大きな愛を知った。

津波災害の痕跡、復興状況を目にしながらSAに急いだ

SAではなりふり構わず車をピックアップするため走り回った。強引なお願いに怖がられる有様。(笑)ノートに行先を書いたプラカードと頭をしっかり下げることで「いいよ!」と子供の声がした。

子供の叔父(篠原篤)が運転する車の中。陽子は自分の過去を悔い、こんなバカな自分に車を提供してくれたことに感謝した

「20年会ってない父親がなくなり合いに行く。家を出て、むつかしいと思ったけど形にしないと帰れなかった。気付いたときにはまわりの人たちは苦しくても頑張っていろんなものを築いていた。私は努力をしないで逃げていた。自分には何もないことで喋れなくなった。自分が家を出たときの父の歳になって、父の死を聞いても受け入れられない。でももう一度家に戻って、父の死を受け入れたい。私がここまで生きてこれたのは、いろいろな人のお陰!ひとりでは絶対にできなかった。乗せていただきありがとうございました」と。黙って聞いてくれた。すると子供が「お兄ちゃんがバイクで送ってくれる」と言った。

陽子は二輪バイクで実家のちかくまで送ってもらい、雪の故郷を実感するように歩いて実家に戻った。そこに「出棺を遅らせている。父さんが待っているぞ!」という従兄の声に泣き崩れた。

まとめ

父の出棺に間に合った陽子。従弟の茂の「お父さん待っているぞ!」の声に泣き崩れた。父との対面シーンはないが、父へお詫びと感謝だった。物言わぬ菊池凛子さんの表情に彼女の決意をみることになる。いいシーンだった。

一泊二日の旅だったが、出会う人から学ぶことは多かった。何を学んだか。

人生は一日一日の積み重ね。気が付くと人生の折り返し地点に立っていて、自分の人生は何だったんだと気付く。こうならないよう日常をしっかり生きることが大切だということ。そして孤独は人生最大の敵だ!

従兄の茂の車に乗ったときから父(オダギリジョー)の亡霊がくっついていたが(笑)、親の想いはこういうものだ親の心子知らずだ!

 印象に残ったのは、東北の海辺で波に晒され目覚めるシーン。身体を癒すように纏わりついて離れていく波の映像、これは美しかった。人生の再生を感じる映像だった。これに続く、長い防潮堤、津波被害の痕跡と復興の現状を見せる映像は“人生諦めるな”という強いメッセージだった。

津波被害体験の老夫婦の生き方木下夫婦が孫にでも接するように、みぞれの中で、車を降りて陽子のために青森行きの車を捜す姿に、吉澤さんと風吹さんの好演技で、このとき陽子は車に乗ったままで眺めていたが、人がもつ愛がどれほどのものかが分かるいいシーンだった。

                                                     ***

「ボーはおそれている」(2023)これ、アリ・アスター作品、大笑い。こんなやついる一杯!親の責任だ!

 

2023年度製作作品。「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたコメディースリラー。A24作品。ということで駆けつけました。

アリスターも3度同じにはしないだろうとは思ったが、そうだった。スリラーというよりコメディーだった。(笑)しかし、テーマは3作の中で一番わかり易い母性(血縁)の話だった。

監督・原作・脚本アリ・アスター撮影:パベウ・ポゴジェルスキ、美術:フィオナ・クロンビー、衣装:アリス・バビッジ、編集:ルシアン・ジョンストン、音楽:ボビー・クルリック、劇中アニメーション:ホアキン・コシーヌア、クリストバル・シオン。

出演者:ホアキン・フェニックス、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンエイミー・ライアンネイサン・レインパティ・ルポーン、ドゥニ・メノーシェ、他。

物語は、

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボー(ホアキン・フェニックス)は、つい先ほどまで電話で会話していた母(、パティ・ルポーン)が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。


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あらすじ&感想(ねたばれ含む:注意)

冒頭、闇の中で、大音響、おめでとうの声、女の悲鳴、赤ん坊の泣き声、子供を隠す、どこにという会話など、わけのわからないシーンから物語が始まる。出産シーンらしい

ボーを訪ねてきた医者のフリール(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)に「うがい水を飲んだ」と訴える。そこに母親のモナから電話が入る。「明日、父親の命日だから来なさい」という電話。

フリールが「なんか目的があるのか?母親を殺す気があるか」と聴く。物騒な話をする。(笑)新薬のシプノチクリルを与え必ず水と一緒に飲むようにと注意して帰って行った。

薬を飲んだが水道水が出ない。慌てたボーがコンビニに走り、水を買う。アパートの帰ると顔中いれずみの男に追われ(笑)、部屋に戻った。

錯覚なのか頭がおかしいのか?気持ち悪い男だなと

ボーは目覚ましをセットして寝るが、真夜中に数度「音量を下ろ!」とペーパーが投げ込まれる。これにいちいち反応し、寝すぎた。「誰の陰謀か?」と慌てて出て行くボー。「歯磨きを忘れた」と部屋のドアに鍵を残したままでトランクを置いて洗面所に引き返した。ドアの戻るとトランクがない。(笑)こんなボーにいらいらさせられる。(笑)

ポーは困り果て母のモナに電話する。ボーは自分で決められない。母は「来なさい、あなたに任せる」という

ボーは薬を飲んだ。水を飲むのを忘れた。これで大混乱。寝間着でコンビニへ。水を飲んで財布の金を全部叩いた。(笑)アパートに戻ると2階で喧嘩が始まっていた。部屋に入れない。夜部屋に戻った。

朝、目覚めて母に電話すると男に繋がった。「臭い匂いがするから来てみると女性が倒れていた。シャンデリアが落下して頭が破壊されている」という。ボーは「どうすればいい」と聞いた。(笑)「名前はモナ・ワッサーマン」と聞かされ、電話を切った。フリールに電話すると「後で電話する」と切られた。

風呂に入って考えていると天井に男がいる。(笑)こいつが降りてきてバスの中で格闘。真っ裸で外に飛び出て、警察に追われ、車にぶち当たった。(笑)この物語、ボーが頭を打つと次のエピソードに移るらしい。(笑)

ポーが派手な女の子の部屋で目覚めた

医者のロジャー(ネイサン・レイン)と妻のグレース(エイミー・ライアン)の邸宅に寝かされていた。

「2日寝ていた。跳ねたのは私たちだが、怪我はあなたがつけたもの」と罪悪感なし。(笑)

「すぐ母のところに行きたい」と交渉するが、ロジャーが「傷は深い、睾丸が潰れている」と反対する。(笑)するとボーはその気になってしまう。

ワッサーマン邸に電話すると弁護士から「モナの意志で3日目に埋葬する。早く来い」と言われた。

邸に誰もいないとき、PCで母の死のニュースを検索した。「シャンデリアの落下で死亡。MW社の大物です」とエレイン(パティ・ルポーン)が語っている映像だった

娘のトニ(カイリー・ロジャーズ)が自分の部屋をボーに占領されたことが不満で、男男ジーヴス(ドゥニ・メノーシェ)と一緒に車でボーを連れ出し薬を吸わせて追放しようとした。

このタバコのせいで昔の夢を見た

 

幼いころマーサという子が好きだったが、母に「人生で大切なのはいい伴侶を見つけること」と薦められエイレンと付き合うことになった。青年になって、キスしようとすると母に妨害される。常に母に監視されていた。(笑)

目が覚めときロジャーとグレースに保護されていた

グレースがチャネル15を観ておいてと仕事に出て行った。観ると、ここに来てからのこと、立派になった自分が写っている!「なんだ、これは?」と部屋の壁を調べた。(笑)

トニが「あんたをSNSで晒す」と壁にペイント塗りを始めた。突然自分の顔に塗料をぶっかけた。なにがあったかとグレースが飛び込んできて心臓マッサージを始めた。そしてボーに「八つ裂きにする」と言い出すジーヴスに追われ、庭に逃げ出して、立ち木に頭をぶつけた。(笑)

目が覚めた。森に中のキャンプ地だった。

妊婦に誘われ「孤独の森」という劇を鑑賞することになった。ボーは孤独の男の衣装を着けて参加した。

芝居が始まった

家を焼かれ孤児になった孤独男。「父母を失ったことで自分を無くした」と放浪の旅に出る。季節がどんどん変わり(アニメ)冬となり、そこに能面の女性(天使)が降臨、「あなたは家を再建する。ここに留まってはだめ鎖を解きなさい」と予言した。鎖を解き歩き出すと村に出会い、土地を見つけ、家を建て、友人ができ、運命の人に出会った。そして3人の子が産まれた。

ボーは自分の運命に似ていると思った(笑)ところが災害で家も家族も流され、孤独男は見知らぬ国に家族を捜す旅に出た。そこで大きくなったふたりの兄弟に会った。しかし母が居ない!孤児院で育ち叔父は亡くなったという。

ボーは「身ごもったときに父はいなくなった。私の腹の上で亡くなった。このことがトラウマとなり私を変えた」という母の話を思い出していた。(笑)

この芝居、自分の話によく似ているとボーは気分が悪くなった。そこに男が近づき「お父さん生きている」という。ボーは大混乱。狂った男に爆弾で襲撃され、ボーは倒れた。

ボーが目覚めヒッチハイクで、ワッサーマン邸を訪れた

ボーは歓迎され、邸に入ると母モナの功績をたたえるテープが流れ、モナの写真で埋まっていた。その中にボーと一緒の写真もたくさんあった。最後のMW社社員の顔で作ったモナのモザイク顔の中に、ボーがここに来るまでに出会った人たちの顔があった。(笑)シャンデリアが落下した位置に記念碑が作られ、そこにモナの棺が安置されていた。

ここに来るまでにボーが蒙った事件はボーを試す母の企みであったとは

ボーが2階に上がろうとするとエイレンが「追悼にきた」と降りてくる。ふたりは一気に燃え上がりベットを共にして3回はやった。(笑)ところがエイレンがその直後亡くなった。(笑)

死体はマーサだった。エイレンが現れ激怒する。ボーはモナの罠に嵌った!さらにフリール医師が駆けつけていた。

モナはボーを幼い頃2階の隠し部屋に上げて、内部を見せた

そこには鎖で縛られた兄弟と父の遺体が大きな男根とともにあった。(笑)モナは「嘘ついた意味が分かった?」という。ボーは許して欲しと謝ったが、「人生を捧げたのに、与えてくれたのは屈辱だけ、苦しみだけだ」という。

ポーは「実行できる」とモナを水槽の中に沈めた。そして、小型ボートで湖水に逃げ出した

そこは巨大アリーナで母モナによる“母親冷遇裁判”場だった。ボーは母の申し立てに反論したがエンジンから出火してボートとともに湖水に沈んだ。

まとめ

母親に支配され続けた息子ボー。ラストシーン、ボートが炎上、ボーは浮かんでくるかどうか?胎内に戻ったかもしれない。とんでもない母親の元に産まれたなとボーに同情した。(笑)親の血が問題だった。だから薄めるために水を飲むんだ。水の物語になっている。

ボーを襲った事件はすべて母が自分の愛を試すものだった。最後のボーの裏切りは母が最も忌み嫌うものだった。(笑)

 アリスターはこの作品を最初に発表したかったらしい。確かに血縁の恐ろしさは、分かりやすく、この作品にそれが一番よく出ていると思った。メッセージ性が、今の社会に繋がっていて、この視点でも一番だと思った。

ホアキン・フェニックスがよく出演を受けたたなと。(笑)彼がこれまでのキャリアーを持ってこのみじめの老息子を演じるから余計面白い。冒頭近くの全裸姿で走る姿、ラストのセックスシーン、苦悩の表情から満足の表情、もうたまらなかった!(笑)

途中で母親の企みがバレるが、最後までユーモアで楽しませてくれた。3時間を長いとは思わなかった。

親の葬儀に駆けつける話なら、宮崎駿さんの「君たちはどう生きるか」熊切和嘉さんの「658km 陽子の旅」があり、再会では成長するが、血縁をテーマのアリスターならこうなるかと、個性丸出しの作品だった。ボーの80%幻覚の話、面白かった!(笑)

               ****

「侍」(1965)圧倒される時代劇だった!侍になれなかった男の話にテーマを感じる。

 

岡本喜八作品で観ているのは「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)のみということで、WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」での鑑賞です。

大老井伊直弼落胤が、桜田門外の変で実父を斬るまでを描くというもの

 原作:群司次郎正の「侍ニッポン」(1931)、未読です。監督:岡本喜八脚色:橋本忍撮影:村井博。

出演者:三船敏郎小林桂樹伊藤雄之助、初代松本白鸚新珠三千代、田村奈己、八千草薫杉村春子東野英治郎平田昭彦、稲葉義男。


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あらすじ&感想

ナレーションから物語が始まる。下手なナレーションだと思ったら劇中の記録方だと後で分かった。(笑)

万延元年(1860)2月17日、水戸浪士星野監物(伊藤雄之助)を首領とする同志32名が桜田門を望む茶屋で井伊直弼松本白鸚)が登城するのを待ち構えていた。しかし、井伊は登城しなかった。

メンバーは品川の相模屋で暗殺情報が漏れたと詮議。星野と副長の佐田(稲葉義男)が協議し、横柄な尾州浪人新納鶴千代(三船敏郎)と彼と昵懇の上州浪人栗原栄之助(小林桂樹)の身辺調査をすることにした

新納の行状についての調査結果は、土蔵に住む素性がはっきりしない浪人だが、めっぽう剣の腕が立ち、捕吏に追われる水戸浪士を助け「侍になりたい!」大老暗殺計画に加わった男だった。さしたる裏切る理由は見つからなかった。

この新納、相模屋にいりびたりだった。女将のお菊(新珠三千代)はそろそろお金を入れて欲しいと催促するが、これを無視して「一緒にならんか」と口説く。断られると「お前のためにこうなった」と宣う。(笑)

一方、栗原は道場主で学問に秀でた男だった。嫁みつ(八千草薫)は回船問屋阿賀谷の娘で経済的にも豊か、井伊大老のやり方に反抗して同志となった男で、新納同様、裏切る理由は見つからなかった。

お菊が新納の身元引受人の木曽屋の政五郎を尋ねると、政五郎が「そっくりだ」と顔を覗く。そして新納の身上を語り始めた。

「ある高名な方の妾腹の子で学問・武道に励み立派に成長したが、あなたに似た高家の娘に惚れた。しかし、父親の名が明かせないことで一緒になるのを断られた。それからの新納は道場破り、酒に入り浸りだ」と。

このころ新納は栗原家を尋ね、栗原の妻みつのもてなし料理で夢を語り、いい気分で土蔵に戻っていた。そこに星野が待っていた。

星野は「犯人は栗原。栗原が喋ったことが妻の口を通して松平家に伝わった」という情報を掴んだ。星野は栗原を誘い出し新納に斬らせることに決めた。

 屋新納はこの役を一度は断った。しかし、侍になるためには仕方がないと引き受けた。栗原はまさか新納が刺客とはと思わず、「何故だ?」声を発しながら斬られた。

新納は相模屋で酒浸りとなった。そこに真犯人の情報がもたらされた。新納が犯人宅に乗り込んだとき、星野が犯人・松井源兵衛を斬ったところだった。新納はこの不条理を詰め寄ったが決行日を明かされ、侍になるため、これを受け入れた。

星野は「雛祭りの日、井伊は大奥への挨拶のため必ず登城する」と、この日を決行日に決めた。

その夜、お菊が土蔵を尋ね雛人形を飾った。新納がうれしそうに「いよいよ侍になる、一緒になってくれ!」という。お菊は「侍を捨てて私のところに」と勧めたが「夢は捨てられん」と断られた。

政五郎とお菊は土蔵を訪ねた。新納が居ない。政五郎は新納が水戸の天狗党と関りがあることで訪ねていた。「万一、新納が父の井伊直弼を・・」とお菊に明かした。お菊は「それで侍になるならいい、徳川がなくなるわけではない」と新納を庇った。これを隠密が聞いていた。

星野は新納に9名の刺客を差し向けた。雪の降る早朝、新納は刺客を襲われたがすべてを斬った。

井伊の登城が始まった

そこに新納が現れた。新納は「朝方、井伊家に襲われた」と言いながら、「あなたの仕業では」と脅した。

行列が四周から攻撃できる地域に入ったところで一斉に斬りかかった。止めを刺したのは新納だった。井伊の首を掲げ、狂ったように「侍だと雄叫びを挙げていた。このシーンはすばらしい!

星野は記録方に「記録を焼却しろ」と命じていた

まとめ

痛快な三船敏郎剣劇を楽しんだ!今の時代、これに優る人はいない

 鶴千代が井伊直弼の首を搔いて雄叫びを上げるが、事前に星野が記録方に記録の焼却を命じていた。それを知らずに雄叫び続ける鶴千代(狂気)。「この物語は寓話だ」という落語でいう“落ち”で終わる

橋本忍による脚本の妙、時代の狂気を演出する岡本喜八三船敏郎の狂気と殺陣の上手さ。村井博が撮る映像、見るべきところの多い作品だった

 しかし、原作の「侍ニッポン」でなく「侍」というタイトルがよくわからない。“落ち”で分かるように侍を目指して侍になれなかった男(記録がない)の物語だ。

 桜田門の変から100年後、60“安保闘争直後に作られた作品であることを考えると、60”安保闘争に挑んで消えて行った男たちに繋がる。のちの岡本監督作品「肉弾」「日本の一番長い日」、「激動の昭和史 沖縄決戦」からこの推論はあながち間違いではなさそうだ。大きなメッセージを託した作品だと思った。

 “侍”をパソコンで検索すると”侍JAPAN“が出てくる。ちょっと悔しい!(笑)

物語の面白さが、観終わってからこみ上げてくる作品だった

               *****

「夜明けのすべて」(2024)出会ってよかった!人は助け、助けられ、夜は明ける!

 

監督が「ケイコ目を澄ませて」(2022)の三宅唱さん。タイトルの“すべて”とは何か。これで観ることにしました。

主人公はPMS月経前症候群)を抱える女性とパニック障害に苦しむ青年が出会い、生きる道を見出す物語前作の障害者ボクサーの生き様を上回るこの設定に度肝を抜かれた。

穏やかで優しさに溢れた映像で描かれる宇宙規模の話だった。(笑)

原作:「そして、バトンは渡された」の瀬尾まいこ、未読です。監督;三宅昌唱、脚本:和田清人 三宅唱撮影:月永雄太、編集:大川景子、音楽:Hi'Spec。

出演者:松村北斗上白石萌音光石研、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、久保田磨希、他。

物語は

PMSのせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢美沙(上白石萌音)は、会社の同僚・山添孝俊(松村北斗)のある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。

転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添だったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。

職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、美沙と山添の間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。(映画COMより)


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

物語は美沙のPMSの悩みから始まる

高校生の美沙。通学時発作が起きて警察に保護され、母親(りょう)によって連れ戻される。その症状はイライラして攻撃的になり、下腹部痛や頭痛等があるらしい。対処法は医者のカウンセリングや生活指導、薬の内服。上白石萌音さんが症状を上手く演じてくれる。暴れ方がちょっと怖い!

美沙が大学を卒業し、化学メーカーに勤めるが、薬で眠くなり大失態。周りの社員も素気ない状況で退職せざるを得なかった。

問題を抱える人に理解がある社長(光石研)の栗田科学、小学校の科学工作セットの開発・製造する会社に再就職した。症状が出ると周りの社員が上手く対応してくれる。美沙はこれに応えるよう何気なくお菓子を渡し感謝の気持ちを表す。

5年後、山添が転職で入社してきた

 山添はコンサルティング会社に勤めていたがパニック障害のため課長・辻本(渋川清彦)と栗田社長が昵懇の仲であることからこの会社に引き取ってもらった。

辻本と栗田社長は自死家族会の会員だった。辻本は姉の自死、栗田は弟の自死でこの会に参加しお互いに慰め、救いを求めていた。ふたりが人を大切にするのは身内の自死に対する贖罪の気持ちだった。

パニック障害は電車や車、飲食店、美容室など逃げ場がない場所で起きる。山添が電車、車に乗れない。苦痛、不安、恐怖などが突然襲われ短時間で回復する。対処法はカウンセリング、薬の内服、暴露療法がある。パニックの状況を松村北斗さんがうまく演じてくれる。彼は薬の内服のほか、辻本に言われた歯磨と炭酸水を飲むことでコントロールしている。

美沙は山添が飲む炭酸水の缶を開ける音、臭いに文句をつけて発作を起こした

副社長の住川(久保田磨希)、ベテラン営業マンの平西(足立智充)に介助されてその場を去ったが山添は驚いた。

美沙がひとりで昼食を食べている山際に迷惑を掛けたとクリーム菓子を渡すと「嫌いだ」と受け取らない。次に甘みを控えた菓子を渡すと「クリームは嫌いなんだ」と言い受け取った。

そんなある日、山添がパニックった。

美沙は化粧室で山添が落とした薬を拾い、水と一緒に山添に渡した。社長が部屋から連れ出してパニックは収まった。社長の指示で美沙が山添を彼のアパートに送っていった。「何で俺に薬を!」と山際は聞く。「同じ薬だから」と答えた。ふたりはなんとなく同志だという気分になった。

美沙は通勤が大変だろうと休暇中の山添に自転車を譲ろうと訪れると、髪を切るところだった。美沙が替って切った。とんでもない切方にふたり大笑いした。

これを契機にふたりは助け、助けられる関係になっていった

山添は医師からPMS関連本を借りて勉強し、美沙の状態が危ないと察知し外に連れ出し、お茶を買ってきて与えるようになった。

小学生のリポーターが会社を紹介したいとインタビューに訪れた

リポーターは日本人の女の子に黒人の男の子。この組み合わせは珍しい。他作品で見たことがない!男の子は副社長・住川の子。彼女は米国人と結婚したが離婚、息子とふたり暮らしで住川も問題を抱えている。しかし、朗らかだ!これもこの作品の狙い!

リポーターが「目標を聞かせてください」と質問。社長は「会社を潰さないこと」(笑)、副社長は「業務を標準化すること」、美沙が「ない」と答えると「プラネタリウムの解説でしょう」と聞かれ、「私です」と答えた。(笑)

美沙は度々食品を届けてくれるが、今はパーキンソン病で入院中の母を見舞った。赤い手袋をプレゼントしてくれた。

新年。美沙が山添のアパートに挨拶に逝くと、山添の恋人・大島千尋(芋生悠)に出会った。千尋は「あなたのような人がいてよかった」と言い去って行った。このあと千尋なロンドンに転勤し山添とは切れたようだ。

山添は正月休みを辻本と辻本の亡くなった姉の子と一緒に過ごした。辻本は「仕事に戻れるようにする」と力づけていた。

山添えがプラネタリウムの勉強を始めた。美沙に「この本読んで」と「POWERS OF TEN」(宇宙・人間・素粒子を巡る大きな旅)を渡した・

美沙は山添のアパートで、山添が2年前ラーメン店でパニックになった話や天体の話をした。たわいもない話の中で、「男女の関係が成立するかとよく話題にする人がいるが自分はお互いに助けられる関係だと思っている、君を観察しておれば、俺は君を助けられる」という。美沙は「私の生理を知っているということ。気持ちが悪い!」と言い、帰っていった。自分でコントロールできない心の病を抱えるふたりにとっては生きるためにどうするかが先決だ。ここでの松村さんと上白石さんのさらっとした演技がいい。

山添が自転車で走る姿に当たる光が明るくなってきた。医者もこれを認める。

山添はプラネタリウムのナレーション作成のため、社長と一緒に倉庫にある社長の弟・康夫の研究記録を捜した。康夫が過労死で亡くなり、栗田がこのことに気付かなかったことで苦しんでいることを知った。康夫のキャラクターも然り、作品に登場するキャラクター設定が緻密に設計されているのが特色だ

資料には天体観測記録、プラネタリウムの説明資料(テープ)があった。山添はこの資料に憑かれていった。

美沙は広告の仕事に就きたいと転職エーゼントに接触していた

美沙はヨガを始めた。ヨガ教室で発作の兆候が出てきた。アパートには戻らず日曜日というのに会社に出勤。プラネタリウムの説明資料作成中の山添えに会い、発作は収まった。

山添はプラネタリウムについて話す。「闇だから目標が必要だ。どの星も輝いている、そして北極星でさえいずれ他の星に替る。宇宙に変らないものは存在しない」と説明した。

美沙は体調不良で休暇。山添は資料を完成させ自転車で美沙に届けた。ドアーに資料とお菓子の入った袋を掛け、帰って行った。光が降り注いでいた。山添が社員にたい焼きを買って帰り、皆を驚かせた。(笑)

美沙の就職が決まった。社長が喜んだ。社員みんなが祝福した。山添も喜んだ。美沙は山添に「会えてよかった!」と伝えた。

小学校で行う移動式プラネタリウム展示(体育館にテント展張)と屋上での天体観測の夕べ

美沙が「先輩が作った夜のメモです。朝になる前が一番暗い、人間には夜明けの希望がいる」と紹介した。辻本も参加していた。展示は好評だった。

山添は辻本に「この会社に残る」と伝えた。辻本は涙して喜んだ。社長に報告するとまるで弟が戻ってきたように喜んだ。

美沙が去った栗田科学の昼下がり、明るい陽の中でのんびりとくつろぐ社員たち。山添が自転車で走り出した。

まとめ

心が軽くなり、ほっとするような気分にしてくれる。

山添と美沙は出会ったことで助け、助けられ、新しい人生(夢)に向って走りだした。ふたりの力だけではこうはならない。その背後にある栗田科学の力が大きい。さらにこれに繋がるすべての人。「すべて」は「すべての人に朝明けが」と解釈した。

“栗田科学”に纏わる人たち

自死、人種差別、難病、母子家庭と傷を負う人たち、お互いが助け、助けられて穏やかに生きている。こんな会社あるの?なにげない小さなことを見逃さないで他者を助けて、救うことでなりたつ社会。目指すべき“やさしい社会“のモデルだと思った。

原作と異なるところは後段のプラネタリウムに関わるエピソード

原作の映像化は難しい作品ではなかったかと。プラネタリウムのエピソードを加えることで、心の拠所を宇宙に求め壮大で全部を受け入れる気分にしてくれる。面白いと思った。

作品は16mmフィルムで撮られている

都会の夜景がまるで天体(宇宙)のように見え、自分が天体に繋がっているように思える。これも面白かった。そして秋の紅葉を映し出すことで、柔らかい陽、変わりゆく自然を見せる映像はドラマのテーマによく合っていた。

松村北斗さん上白石萌音の演戯

ふたりの関係がラブではなく“生きる“ため、仕事を捜すというのが清々しい。こんな男女関係を描いた作品は少ないからドキッとする!作品には脇の光石研さんと渋川清彦さんが演じる優しさの演戯が必要だった。すばらしかった。

                *****

「スープとイデオロギー」(2022)イデオロギーには裏切られるが、スープの味は裏切らない!

 

タイトル名、これは洒落ている!と観ることにしました。(笑)

監督・脚本が「かぞくのくに」(2012)のヤン  ヨンヒさん。韓国現代史最大のタブーとされる“済州4・3事件”を体験した母を主役に撮りあげたドキュメンタリー作品

物語は

朝鮮総連の熱心な活動家だったヤン・ヨンヒ監督の両親は、1970年代に「帰国事業」で3人の息子たちを北朝鮮へ送り出した。父の他界後も借金をしてまで息子たちへの仕送りを続ける母を、ヤン・ヨンヒ監督は心の中で責めてきた。

年老いた母は、心の奥深くに秘めていた1948年の済州島での壮絶な体た験について、初めて娘であるヤン・ヨンヒ監督に語り始める。アルツハイマー病の母から消えゆく記憶をすくいとるべく、ヤン・ヨンヒ監督は母を済州島へ連れて行くことを決意する。(映画COMより)


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あらすじ&感想

大動脈流の手術を終えた母親・康静姫(カン・ジョンヒ)が「怖かった!射撃の音。警察が校庭で撃ち殺した。皆の前で、妊婦もいた」などと喋り始めた。その後も事件の夢ばかり見る。母親18歳のとき体験した済州 済州4・3事件の記憶だった

ヨンヒ監督はこの話を初めて聞いたという前作「かぞきのくに」では一時帰国した兄との交流を描いたものだが、母親の体験を知らずに書いたものだった。改めて帰国事業の意味を問うものになっている。

2015年の夏、85歳の母はとても元気で道路に水撒き、これが夫の仕事だったと偲んでいた。

2009年亡くなった父は「お前の結婚相手は朝鮮人ならいい。国籍は問わない、アメリカ人と日本人はダメだ」と言った。(笑)「母ちゃんに全部面倒みて貰った」と笑い、済州島の自慢歌と歌い出す。「帰国事業」も母の強い意思でなされたことが伺われる。

母が父の遺骨をピョンヤンに持って行った。母も同じにして欲しいという。

ヨンヒさんが両親と自分がこれまで歩んできた人生を振り返る

 大阪市生野区、母はここで生まれ育った。この国で暮らす9割は韓国出身者。母は済州島出身者で20歳のときここで父に出会った。父は朝鮮総連大阪の活動家で、母がこれを支えた。3男1女の母親でもあった。  ヨンヒさんが6歳のとき兄たちは帰国政策で北朝鮮に渡った。大学生の長兄は優秀で金日成の還暦祝いのプレゼントとして贈られた。しかし鬱症で苦しみ、ピョンヤンで、母の介護にも関わらず、2009年亡くなった。

母は父の両親、弟、妹を北鮮に送り、兄たちに孫が生まれ、仕送りが増え続けた。母は30年間、毎年北鮮を尋ね、45年間仕送りを続け生活費を与えていた

 これに対してヨンヒさんは「借金してまで援助する必要はない。私はしない!」と促がすが母は返事しない。このことで母が負担になっていた。

ヨンヒさんは学校でも家でも祖国を批判することは許されなかった。教科書の内容に逆らいながら優等生を通し、30歳で日本を跳び出し家族と向き合うことにした。

アメリカの大学院を卒業し、日本に戻ってきた

2016年夏、ヨンヒさんの夫となるべき人、荒井香織さんがスーツ姿で訪ねてきた。

荒井さんは「長野市出身、39歳、今は記者です」と神妙に挨拶。母が「いい娘ではないがよろしく」とにこやかに返す。日本人の新井さんを受け入れ、もうすっかり親子になった感じ。新井さん本人もほっとしたようだった。(笑)

母はまるごと一羽の鶏に40個のにんにく、ナツメを積めて5時間煮込んだ“参鶏湯”を作って振舞った荒井さん、初めて食べる料理、スープに嵌った。

荒井さんは母と一緒にショッピングを楽しみ“参鶏湯”の材料の仕込みを覚え、次は母を招いて“参鶏湯”を御馳走する。

参鶏湯”で出来上がった親子の関係がタイトルの“スープ“の意味です

 父の遺言により、3人に父の遺影と一緒に家族写真を撮った。3人は朝鮮の民族衣装でとてもうつくしい。荒井さんがすっかり朝鮮の人になってしまった。(笑)葬儀屋からの母への案内状に激しい怒りを表すなど、荒井さんの母に対する気遣いも行き届いていた。

2017年11月、済州島から済州4・3事件研究メンバーが母を訪ねてきた

生き残りの人が少ない。記録が消されているので母の記憶は大切な資料となる。母は「川のように血が流れた。人を見つけたら射撃した。祖母から帰れとお金を送ってきたので3歳の妹を背負い、弟を連れて、帰ってきた」「結婚相手の医者がいた。山の部隊員になった。名はキム・ホガン」と話した。

この日から母の認知症が激しくなり、いるはずがない家族を捜すようになった

 夜、真っ暗な家の中を徘徊する。診断はアルツハイマーと下された。言葉は全て肯定するものになって行った。ヨンヒさんは母のいうように合わせることにした。母が革命歌(金日成を称える歌)を歌い始める。

韓国政府が主催する4・3犠牲者追悼式典に参加することにした

パスポートは1回切りのパスポートだった。文在寅大統領による配慮だった。  ヨンヒさん、荒井さん、母の三人が出席。母は車椅子での参加だった。70年ぶりの済州島の姿に母を目を輝かしていた。

済州4・3平和公園の慰霊塔の内部には犠牲者の名が地区ごとに記されていた。母の父母の名を案内人に探してもらうが見あたらなかった。

ここで母に何があったかが素朴なアニメで示される。残虐な殺害シーンはない。

 母がここにやってきたのは15歳のときだった。1945年3月の大阪大空襲で大阪は焼き尽くされ、日本に身寄りのない母と祖母が船でここにやってきた。1945年8月、植民地から開放された朝鮮は二分されアメリカとソ連が進駐し、ふたつの政府が産まれた。38度線での分断を決定づける南部の単独選挙に反対する声が青洲島では強かった。1948年城山で武装蜂起が起こり、非道な鎮圧作戦が始まり島民が巻き込まれた。軍と警察が城山5km以内を通行止にし、動く人影に発砲、共産主義者として無差別に殺害した。その数1万3482人が犠牲になった。母の婚約者の医者は山の武装部隊に行くと去り、山でなくなったと知らされた。婚約者が武装隊にいたとなれば母の命も危ないと祖母が準備してくれた船で脱出。母は3歳の妹を背負い、弟を連れて30kmの道を走ったという。

ヨンヒさんと荒井さんは母を車椅子に乗せこの道を歩いてみた母がどれほど恐ろしかったか、18歳の母の強さ。そして、母についてこの島とこの国について何も知らなかったことを認識した。美しい浜辺も見た。

2018年4月3日、済州4・3 70周年追悼式典に参列

海軍音楽隊が演奏する愛国歌(大韓泯国国家)で始まった。母は何も知らず口ずさんでいた。母は金日成バッチを胸に金日成から拝受した勲章を着けた夫の遺影とともに参加した。

 

文在寅大統領が国として初めて事件に対する謝罪の演説を行った

 このあと4・3研究所を尋ね署長に面会した。母はなにも分からない状況だった。ヨンヒさんが母に代って答えた。

「今回ここにきてあまりにも惨い話で、母は大阪に戻って韓国政府を信じたくないと北の政府を信じ生きて来た。大阪の総連関係者はそういう人が多い。3人の息子を北に送るほど、 済州4・3事件はそこまで影響したのかと。私はアナーキストだからどの政府も信用しない、そこまで韓国を徹底的に否認し北を支持する理由があるのか、 済州4・3事件がそこまで大きいのか理解できなかった。ここにきて、母がこんな故郷を胸にどうやって生きて来たか分かった。皆さんも辛いでしょう。

実は私は心の中で母を責めていた。何故3人の兄を北に行かせたかと。 済州4・3事件を知ったら責められなくなった。困っています」。

墓地にお参りした。見事に整備された墓地だった。母の婚約者の弟さんが生きていて母のことを覚えていることを知った。弟さんは兄をこの墓地に埋葬しないという。

ヨンヒさんたちは大阪に戻り、金日成の写真を外し家族の写真に替えた。そこに北の姪から手紙が届いた。ヨンヒさんは返事を書くことが出来ない。母のこと、映画を撮ったこと、夫が出来て彼が母を愛してくれることで涙が止まらない。アルツハイマーの母が帰国事業という言葉を湧捨てしまった、書けない。いつものとおり送れない手紙になりそうだという。母は家族と暮らしていると思って毎日祈るようなり、今は脳梗塞で入院中。何時の日か、ピョンヤンの父のところに母の遺骨を届けなければと漠然と考えているという。

まとめ:

ドキュメントの凄さをみる作品だった。 済州4・3事件の生々しい映像は出てこないが、出せないないだろうが、母の語る物語と 済州4・3事件後の今を知り、3人の息子を北に送り出し借金してまで家族を支援し続けた45年の歴史が明らかになれば、十分想像できる。

ヨンヒさんが現地を訪れ、「母に、そこまで韓国を徹底的に否認し北を支持する理由があるのか、 済州4・3事件がそこまで大きかったのが理解できなかった。ここにきて、母がこんな故郷を胸にどうやって生きて来たか分かった」と母がアルツハイマーで記憶を亡くした今気づくところに、母親への労わりがしっかり見えて泣ける。

イデオロギー”が屠殺の方便になるイデオロギーってなんなんだ。この記憶は理性を超え、消えることはない。国家のイデオロギーに二度三度と裏切られた母。これに反しスープで結ばれた絆に裏切りがない。母のイデオロギーはここにしかない。絶妙なタイトルだと思った。

帰国政策を支持した人たちの実情を知るいい作品だった。イデオロギーだけでない、家族の絆についてもみるところが多かった。

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