映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「哀愁」(1940)一日も早く平和が訪れますようにと、“哀愁”だけの映画ではない!

f:id:matusima745:20210225063610p:plain

恋愛映画の名作中の名作、NHKBSプレミアムで初観賞しました。公開が1940年で、物語は1939年9月から始まるという物語。それが戦時下の悲哀だという、驚きました。よくこんな映画が作れたなと!日本なら戦時意識の高揚ということで発禁でしょう。(笑) 木下恵介督は「陸軍」(‘44)で女々しい母親を描いたと陸軍に叱責され、浜松の田舎に雲隠れしました。(笑)

原作はロバート・E・シャーウッドで、第一次世界大戦時の悲恋物語。この物語の冒頭とラストシーンに、まさに今フランスの戦場に向かう老大佐の回想を付け加えて第二次世界大戦冒頭の物語にしたことで、哀愁物語となり平和の願いが込められた作品になっていると感じます。

監督:マービン・ルロイ、脚色:S・N・ベールマン ハンス・ラモウ ジョージ・フローシェル、撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ、作曲:ハーバート・ストサート

出演:ビビアン・リーロバート・テイラー、ルシル・ワトソン、バージニア・フィールド、マリア・オースペンスカヤ、他。


哀愁(映画)/ 別れのワルツ(蛍の光) Waterloo Bridge (film)/ Auld Lang Syne 

あらすじ:

1939年9月3日、イギリスがドイツへ宣戦布告し、開戦により慌ただしくなるロンドンの街。子供たちが粛々と避難を開始している。

ロイ・クローニン大佐(ロバート・テイラー)はフランスへ赴くため車で駅へ向かう途中、ウォータールー橋へ立ち寄ると、運転手に橋の向こうで待つように告げて歩き出す。その手には幸運のお守りのビリケン人形があった。

この人形を手にした20年前の記憶が蘇る。

第一次大戦、連合軍の危機を救うべくカンブレーの戦に派遣されるロイ大尉(ロバート・テイラー)。のちにカンブレーの戦は戦史に名を遺す激戦地となるのですが・・・。

9月3日、ウォータールー橋を歩いて駅に急いでいたところ、突然の空襲警報で、地下鉄に避難。そこで出会ったのがバレリーナのマイラ・レスター(ビビアン・リー)。マイラはロイが戦場に行く人だと知って「戦争が憎い!」と言うと「戦争は興奮する」とロイ。彼女は心配して「御無事で!」とピリケン人形をプレゼントした。ロイはこの心遣いとマイラの美しさに心奪われてしまった!

f:id:matusima745:20210225063655p:plain

ロイはマイラの舞台「白鳥の湖」を観たのち、彼女を呼び出して、クラブで食事をした。ロイは「平和なときよりも戦時下の方が、出会いに生きる喜びを感じる」とマイラに近づくと、「高い代償よ!そのために殺し合うの?」とこれを諫める。ここでマイラが戦争を否定し、平和を主張するところにこの作品の隠れたテーマがあると思います。

ロイは「人生を楽しむためにだ」と言い直し、「私は未来を持てない。平和時なら出身校の話でもするだろうが、私たちは違う!」とマイラに迫る!ラストダンスを蛍の光で踊り、ふたりはキスをした。

しかしマライは素っ気なく「さよなら」と挨拶して劇団宿舎に戻った。

ロイは劇団のマダム(マリア・オースペンスカヤ)から夜中に帰ってきたことで叱責され、二度目は首にすると告げられた。しかしマイラはロイと素っ気ない別れをしたことを悔いて、親友のキディ(バージニア・フィールド)に胸の内を打ち明けた。

ふっと窓から雨の降る玄関を見ると、ロイのおろおろした姿が眼に入った。マイラにもう迷いはなく、走りだした。恋に燃えるビビアン・リーの美しさにうっとりです!

ロイは地雷のため出発が2日伸びたという。ロイは「結婚しよう!」とマイラを連れて連隊隊舎に急ぐ。結婚には連隊長の許可が必要だという。連隊長は踊り子との結婚を認める責任は取れないと、ロイの叔父である名誉連隊長(C・オーブリー・スミス)の許可を取れという。参謀長は「踊り子か!俺は断れてた!腹を括ってやれ!」と許可が下りた。

ふたりは指輪を買い花を持って教会に急いだ!ところが牧師さんに「3時以降の結婚式は禁止されている」と断られた。明日の結婚式を約束して、ふたりは別れた。ところがロイの出発が繰り上げとなり、マイラが駅に駆けつけたが、列車が蛍の光とともにホームを離れる瞬間だった。

劇団を首になったマライはキディとともに仕事を探しながら、戦場からのロイの手紙を唯一の希望を託す毎日だった。ある日、母に会って欲しいという手紙が届いた。マライはカフェで義母となるマーガレット(ルシル・ワトソン)を待つ間、ふと夕刊を見ると戦死欄にK・ロイの名があった。憔悴したマライはマーガレットにとまともな対応ができず、彼女は怒って帰っていった。

マライは落ち込み、病み、キディの世話になる有様。キディが娼婦として生活を支えてくれていたことを知り、自分も生きるためにと街頭に立った。

f:id:matusima745:20210225063737p:plain

ある日、駅に立っていたマイラは生きて帰ってきたロイに会った。驚いた!ロイは「待っていてくれたのか!」と笑顔で抱きしめてくれるが、マイラは複雑な気持ちだった。何度も告白しようとしたが、ロイの喜びように言い出せなかった。

ロイはマライを伴いスコットランドの大邸宅に帰還した。マーガレットは笑顔でふたりを迎えた。近所の人々が集まり盛大な帰還祝のパーティーが開かれた。

多くの参加者はマライを踊り子と見て、この家にふさわしくないと思っているなかで、ロイは終始マライと踊り、名誉連隊長もこれ見よがしにマライと踊ってくれた。マーガレットも怒って帰ったことを詫び良い友達になれると喜んでくれた。ロイは「いつも一緒にいれるから」とピリケン人形をマライに返した。しかし、マイラは自分が許せなくなり、真実をマーガレットに話して家を出た。

f:id:matusima745:20210225063827p:plain

マイラは霧のウォータールー橋を彷徨って軍のトラックに飛び込み自死した。駆けつけたロイが落ちていたピリケン人形を拾い上げた。

ロイ大佐はマイラの言葉「愛したのはあなただけ!」と思い出し、パリへと向かった。

感想:

公開日がダンケルク撤退作戦時に重なり、当時の人はこの結末に、ピリケンさんを胸にパリに向かった大佐が無事で、一日も早く平和が訪れますようにと祈ったでしょうね。“哀愁だけの映画”ではなかったのではないかと思います。

日本では1949年に公開されましたので、マライの境遇に泣き、原題はWaterloo Bridgeですが、邦題「哀愁」となったと思います。

戦闘シーンが全くない、空襲警報のサイレンのみでありながら、ロイとマライの運命的な出会いが戦争に振り回されるという、戦争の悲哀がしっかり伝わり、“蛍の光”が忘れられない作品でした。

この作品は一度見より二度見の方が、先を読んだようなマイラのセリフが胸を突き、泣けて、うまい脚本・演出だと思います。

ビビアン・リーの演技。出会って結婚を約束するまでの可憐で明るい笑顔の姿。一転して街の女に堕ち、ロイを再会しても、心が晴れない姿。ロイの邸宅で義母マーガレットに「お母さんは世間を知らなすぎですわ」と凄みを利かして喋る姿。全てを失い霧のウォータールー橋を彷徨する姿。これらの姿全てが心に残る作品でした。

             ****

「あのこは貴族」(2021)階層社会から脱出して自分たちの生きる場所を掴みとろうとする女性たちの物語!

f:id:matusima745:20210228144135p:plain

原作は映画「アズミ・ハルカは行方不明」の原作者山内マリコさんの同名小説、未読です。主演が門脇麦さんと水原希子さん。これで観ることに決めました。

階層社会に苦悩する女性たちが、シスターフッド “対立するのではなく穏やかな連携”で自分たちが住む場所を得ていくころがなんとも感動的でした。

「アズミ・ハルコは行方不明」(”15)に比べて、女性の連携がより優しいものになっていて、男性は“女性の笑顔の恐ろしさ”を知るべしです。(笑) 私にとってはある種の衝撃的な作品でした。

監督・脚本:岨手由貴子、撮影:佐々木靖之、音楽:渡邊琢磨。

出演者:門脇麦水原希子高良健吾石橋静河山下リオ、他。


映画『あのこは貴族』予告編

あらすじ(ねたばれ):

2016年元旦の東京。東京中心部の夜景が美しい。開業医の榛原一家のホテルでの夕食会へ、三女の華子(門脇麦)がタクシーで急いでいた。運転手がホテルに着くと「うらやましい!」という。確かに高貴な方はこんな豪華なところで食事をするんですね。(笑) 華子が着くや「婚約者はどうした?」と聞かれる。「結婚できないというの」と言えば、「27歳になって、探しなさい!」と結婚を急かされる。「どんな人が良いの?」と聞かれて「普通の人!」という。この普通というのが分からない。私のような田舎者には華子の普通は異常。(笑)結婚は他人任せで、決められた人と結婚するのが普通のようだ。

f:id:matusima745:20210228144110p:plain

幼いころからの友人は皆さんすでに結婚している。結婚してないのは華子とバイオリニストして活躍する相葉逸子(石橋静河)だけ。逸子は「ドイツで活躍したい!」と言い「焦らないで良い、1回の見合いでうまくいくことないから!」と慰めてくれるが、華子は焦りを感じて、仲人や友人の勧める人に会って見るが、彼女の住む世界の人とは違っていて気が進まない。彼女は上級社会に住む人でなければやっていけない!

そんなとき姉の勧める義兄(中山崇)の顧問弁護士・青木幸一郎(高良健吾)と見合いをした。幸一郎はハンサムで物腰が柔らかくて優しそう。帰りに彼の「また会って欲しい」に、華子はこれで万事うまく行くと思った。

f:id:matusima745:20210228144219p:plain

逸子に会ってお見合いの結果報告。「幸一郎はバイオリンをやったことがある」と話すと、「凄い名家かも。私たちより上の階層よ!その家は政治家。地方から出てきて頑張っている人とは本質的に出会わない。東京は住み分けされているのよ!」と華子には良い縁組だと喜んだ。このセリフ、社会に階層があることを見せつける凄みがあります!

f:id:matusima745:20210228144427p:plain

幸一郎の運転する高級車で彼の家を訪ねた。家の家業はリースであることや家族の話を聞き、母親譲りの指輪をプレゼントされた。ベッドでいよいよ結婚かと指輪を見ていると彼のスマホが鳴り、それは女性からだった。女性の名は“時岡美紀”。

東京で働く美紀は2017年元旦、故郷富山の実家に帰省した。そこはさびれた街並みだった。家でくつろいでこれまでを振り返っていた。

高校を卒業して、親友平田里英(山下リオ)と東京の名門私立大学に進学した。入学早々、里英が「この大学には付属校からの入学者=内部者と受験で入学してきた外部者というスクールカーストがある」とを教えてくれた。二者の対立エピソードは映画「愚行録」(’17)に詳しく描かれています。

美紀と里英は学友とホテルのラウンジに行くと、内部者はそれ見よがしに高価なお茶を注文する。こいつらには永久に付いていけない!里英が「こいつらは貴族よ!」と叫ぶ。同級生に幸一郎が居て、講義ノートを貸したことがあった。

美紀は父親の失業で授業料が払えなくなり大学を中退し、キャバレーでホステスとして働いて凌いだ。キャバレーにやってきた幸一郎と再会し、結ばれた。彼の紹介でIT企業に勤めるようになり、ふたりの関係は10年も続いていた。美紀は大学や東京で働くことの悲哀、苦しさを嫌というほどに知っていた。しかし、さびれた何もない故郷?に帰る気はない。東京で生きるしかないが・・・。

久しぶりの帰省で高校の同窓会に参加した。誰とも話さないで里英を探した。やっと再会できて喜んだ。里英が「東京で企業する!あんた今の会社どうやって入った」と聞く。美紀は「客に紹介してもらった」と答えた。里英は騒ぐ男性たちを見て、「田舎ではあんなのが三代目なんがから!」と前向きに企業を考えていた。

男性が酔っぱらって近づいてくると、そのとき美紀のスマホに幸一郎からのメールが入った。「シャンペンパティーへの誘い」だった。

f:id:matusima745:20210228144314p:plain

華子は豪邸に招かれ、幸一郎と礼式にのっとった婚約を交した。幸一郎の両親から「調べさせてもらった。嫁にふさわしい!」と言われ、後で雄一郎に糺すと「興信所で調べた。うちは政治家だ、当たり前だ」という。華子にとってはもう一段高い階層の世界があることを知り“普通でない”違和感を持った。伝統的な美しい婚約の儀式を守ることが目的で、そこに喜びがあることとは全く違うように見えました!

幸一郎と美紀はシャンペンパティーに参加した。そこでは逸子がバイオリン演奏していた。美紀は演奏を終えた逸子が高く積み上げたカロンをつまみ食いしている姿に親しみを感じて、「今度演奏してもらえますか?」と声を掛けた。名刺を持っていなくて幸一郎の名刺を借り、その裏に自分の連絡先を書いて渡した。(笑)

f:id:matusima745:20210228144351p:plain

逸子は華子の幸せを願って、彼女を美紀に会せ、幸一郎に対する言持ちを話させることにした。ホテルのロビーラウンジに美紀を呼び出し、華子が幸一郎と婚約していることを話し、これを知った美紀の心情を聞いた。

美紀は「幸一郎とは10年来の付き合いだが、私をそういう女(ホステス)だと見ていたから」と自分は結婚する気はないと明かした。

逸子は「私の父親は不倫をしていて母はそれに目をつぶっているが、こういう場合私は別れられる女でありたいと思っている」と明らかに、「日本では女を分断する価値観がまかり通っているが、私はそれが嫌なんです」と華子に会わせる意義をはっきりさせた。

社会に揉まれてきた美紀は華子と対立して無為な時間を費やすより早く自分の住む場所を見つけたいとこの考え方に同意した。東京に住むために幸一郎を利用していたと言ってもよい。美紀は大学を中退したが社会でいろんな考え方を吸収し、痛みの分かる“賢い女性”に成長していた。そこに、華子がやってきた。

f:id:matusima745:20210303052902p:plain
華子は美紀にご挨拶代わりにと“お雛様展”のチケットを渡した。(笑)これに美紀は驚いた!自分の家ではお雛など飾らないし、同じ東京に居ながらこんなにもかけ離れた階層の人がいるのかと思った。美紀は「あなたは婚約しているんですね!私はつき合っていないし、婚約もしてない!」と応えた。

美紀は幸一郎の呼び出し「悲しいよ! 10年間も一緒にいて、私がどこの生まれかを聞かなかった!餞別!」と故郷のお土産を渡した。

そして里英に会って「企業するの?」と聞くと「コネがない!」という。「紹介できるやつと別れた」と告げると、「自分も経験がある。田舎から出てきて搾取されている」と。自転車にふたり乗りし、ふたりは歓喜しながら東京の街を走った!

華子は結婚したとたんに、幸一郎は政治家の叔父に駆り出され、ひとりぼっちになった。親族からの子供を産むプレッシャーに苦しむ毎日だった。

一方、里英は「このままで年を取ってしまう。時間がない、今しかない!」と一緒に郷里に帰って企業することを美紀に提案した。美紀は「待っていた!」とこれを受けた。突飛な展開に見えて、ふたりの関係、表情を見ていて、これが受け容れられるという演出がすばらしい。

幸一郎は父を亡くし、葬儀に内妻だった女性が現れ遺産を要求される。母は幸一郎に「あんたの出番!」と発破を掛け、幸一郎は抵抗もせず叔父の秘書となり政治活動にのめりこんでいく。華子は仕事を持ちたいと義兄に相談するが、これが同じ階層の人で、話にならない。母に相談すると「姑が往生するのを待ちなさい!」という。(笑)このセリフが最もこの階層の人の思考を表現しているように思えます。

華子が「夢はないの?」と幸一郎に聞くと「まともに家を継ぐだけでいい、そういう風に育った!お前もそうだろう」と言う。華子は涙が出てきた。この人に自分は理解してもらえないと。今の世襲政治家さんを観ていて、そうなんだろうと思いました。(笑)

華子はタクシーで病院からの帰り、自転車で走っている美紀を見つけて、タクシーを降りて美紀のアパートを訪れた。美紀の部屋はいろいろなもので飾られ美紀らしい部屋だった。うらやましいと思った。部屋から見える欠けた東京タワーもこれまで見たことのないもので、東京に違う場所があることを知った。美紀は「そっちの世界と、うちの地元。似ているね」とアイスキャンディーを食べながら東京の街を見ていた。

f:id:matusima745:20210228144646p:plain

美紀が「事情は知らないが、どこにいても、最高に楽しいと思える日があるよ!あんたの旦那さんとでも!」と話しかけた。「階層は違うが、想い悩んでいることは同じで、これにはお互い連携しなければ」という気持ちで。華子の覚悟が出来た。華子は夜の街をタクシーに乗らず“歩いて”自宅に帰った。

その夜、幸一郎に「会った最初の日に、観て欲しいといった映画を覚えている?」と絶対に答えがないことを知りながら聞いて、ふたりはビールを飲んで眠った。映画はオズの魔法使いで華子はドロシーの旅にでることにした。眠っている幸一郎は「まさかこれが・・」と気づかなかった。これが“普通の男性”ではないかと思っているのですか。(笑)

華子が離婚を口にすると「政治家は離婚で揉めるわけにはいかない」と義母から殴られた。 華子は家を出た。

美紀と里英は「これが見納め!」と東京をカメラに収め、故郷を東京っぽくすればいいだけと東京を後にした。

f:id:matusima745:20210228144718p:plain

1年後、華子は逸子のマネージャーとなり、逸子を車に乗せて信州?の演奏先に急いでいた。児童養護施設での演奏会。そこに「自分の選挙区」と訪れていた幸一郎と再会した。逸子の演奏を聞きながら、二階にいる幸一郎を見て微笑んだ!

感想:

シスターフッドで階層・格差世界は変えられる。

絶対に相いれない階層の華子と美紀が、互いの世界の生き苦しさを共有し、連携して、新しい世界に飛びだすという痛快な物語になっていた。物語は華子の人生を綴るように「東京」「部外」「邂逅」「結婚」「彷徨」という章立てで、実にテンポよく物語が展開し、分かりやすいセリフが秀逸でした。

岨手由貴子さんは本作が監督2作目ですが、その脚本・演出力はすばらしく、今後の作品を注目したいと思います。

映像で見せてくれる作品。

東京って住み分けさえていて、違う階層の人とは出会わないように出来ている」という逸子の言葉のように、見たことのない華子の住む階層世界を徹底的に映像とセリフで見せてくれ、この世界から華子が飛び出す瞬間が圧巻でした。

階層を表す映像、特に高級ホテルのラウンジや豪邸、美術品などがすばらしかった。そして階層社会で交わされるセリフが、「姑が往生するまで待て」など、絶妙で面白かった。

階層の生き苦しさから放たれるように変化していく感情が、自転車やタクシー、車の運転、食べ物(アイス、ジャム、マカロンの山)、名刺交換、雨の変化などで表現され、ユーモアがあって、テーマの本質をつく演出になっています。

キャステングと演技のすばらしさ。

東京に住む華子と富山から出てきた美紀。これを演じる門脇麦さんと水原希子さんは、観る前、これまでのイメージから役が逆ではないかと思いました。(笑)

ところが良家の門脇麦さんが普通の人になっていく。これに反して水原希子さんは東京に出てきたが故に、とても大きな洗練された決意をする人になっていくという、ふたりのキャステイングが役にぴったりだったことに驚いています。水原希子さんが主演のように見える作品でした。なにか賞をいただけるかもしれませんね!

さらに華子と美紀を会わせるというシスターフッドのコーディネーター役を勤める逸子役の石橋静河さん。バイオリニストで、ドイツで活躍しているという雰囲気をうまく出して、登場シーンは少ないが、納得させてくれる演技でした。

また、美紀の親友里英役の山下リオさん、明るくて“あの際どいセリフ”をペラペラと喋る肝っ玉お嬢さんらしい雰囲気があり、これも見事でした。作品の気風を表すように女性4人の演技が光っていました。

            ****

「TOKYO!」(2008)

f:id:matusima745:20210218094711p:plain

ポン・ジュノ監督作をほぼ観終わって、この作品を選びました。本作はミシェル・ゴンドリーレオス・カラックスポン・ジュノという3人の監督が、東京の街を独自の視点で描くオムニバス作ということで、まさにコロナ禍、オリンピック組織委会長問題で揺れる今、観るべき作品だと挑んでみました。ゴンドリー監督は本作が初めて、カラックス監督作は「ボンヌフの恋人」(’91)のみです。


映画『TOKYO!』予告篇 『TOKYO!』movie_trailer

それぞれの作品タイトル:

ミシェル・ゴンドリー監督:生きることに思い悩む女性の体が徐々に木になっていく「TOKYO!/インテリア・デザイン」

■カラックス監督:水道から現れる謎の怪人が街を恐怖に陥れる「TOKYO!/メルド」

ポン・ジュノ監督:10年間引きこもっていた男が、恋する女性を追って外界に足を踏み出す「TOKYO!/シェイキング東京」

各々が30分程度の作品ですから、作品の感じ方は大きく観る人次第で、何を語っているのかな?と想像逞しくして楽しみました。

監督は“自作の色彩”をしっかり出しながら、大きな視点で東京を見てくれ、それでいて辛辣でした!

いずれの作品も謎が一杯でしたが、ぐっと胸を刺す忠告がカラックス監督、ユーモアたっぷりに夢をくれたのがポン・ジュノ監督、しかり東京を見て嘆いてくれたのがゴンドリー監督???

いずれの作品からも、「日本は内向的だ!」と、もっと外に開かれた社会を目指さないといけないと思いました。

「TOKYO!/メルド」

出演者:ドゥニ・ラバン、ジャン=フランソワ・バルメール石橋蓮司、他。

f:id:matusima745:20210218094812p:plain

突然銀座にドゥニ・ラバン扮するゾンビがゴジラのマーチに合わせマンホールから這い出して、手当たり次第通行人を攻撃し、花菜とお札を求めて闊歩し市民を驚かせる。警察に追われて地下道に潜り、旧軍の残した手榴弾で、東京の各所に出現してテロ攻撃、“下水道の怪人”と称される。警察に捕えられるが、この男の話す言葉がわからない。唯一言葉の分かるフランスの弁護士ボランズの通訳のもと裁判を実施。名前はメルド(糞)だという。(笑)テロの目的を糺すと「罪のない人が好きでない。人間が好きでない。自分は生きることが好きだ。日本人は汚らわしい!日本人の目は女性のあれに似ているから」「母が聖女でお前たちみんなで犯したから、私はお前たちの息子だ」とよく分からないことをいう。(笑) 法廷の外には裁判を擁護、反対派が現れ大混乱。判決は「死刑」だった。

3年後、突然に刑を執行。絞首刑だった!検視官たちが去ろうとすると、メルドが生き返り「次はニューヨーク公演だ」という。(笑)

                  

菜っ葉服と義眼がよく似合うドゥニ・ラバンの熱演でカラックス監督の描く世界に入り込めます!

メルドの出現で、政府は海外の渡航を突然制限し、赤いひげの外人が襲われる事件が頻発する。そして3年後に突然に絞首刑執行。日本人の人権に対する姿勢が問われ、また地下水道に眠る戦車や日章旗が描かれることから、日本人は大きな戦争犯罪を犯しながら俺のやった小さな殺人罪を問えるのかと言っているように感じられるのですが? 花と札束は増えたが人として大きく育ってないと言っているように!

「TOKYO!/インテリア・デザイン」

出演者:藤谷文子加瀬亮伊藤歩大森南朋、でんでん、妻夫木聡、他。

f:id:matusima745:20210218094849p:plain

大雨が続き約100万人が避難しているという夜、映画監督志望のアキラとその恋人ヒロコが車で、東京の友人アケミのアパートに、東京での職が見つかるまでと訪ねてきた。アケミのアパートはひと間で風呂はなかった。駐車場は中古家具店の前(閉店中)を厳守するように言う。アケミは「大きな会社に勤める者は小さなアパートに住む」という見栄っ張り子だった。

翌朝、ヒロコが暗いうちに起きると、もうアケミは出勤していた。アキラとヒロミはアパーツ探しに走るが、モダンなアパートを紹介されるが猫の死骸がベランダにあったり、借賃が高すぎる。仕事探しもラッピング程度の仕事で、採用されたのはアキラだけで、ヒロミは手先が不器用でダメだった。その後もアパートは見つからず、おまけに駐車違反でどこかに車を移動されてしまった。

何とか車を探し出してフィルムを取り出して映画試写会は実施出来たが、アキラは持て囃され、ヒロコは孤独感を感じる。

アケミに嫌味を言われアパートを追われるように出た。ヒロコは腹を空かせて職探しに出て、足が、腕が棒木となり、椅子となっていった。(笑)

夜中に音楽家大森南朋)が座って、座り心地を確認して家に持って帰った。ヒロコは音楽家に座って仕事をしてもらい、彼が居なくなると、風呂入り、好きなことをしている。こんなに自分が役に立つとは思わなかったという。

                  *

大雨の中での車の渋滞、車のウインドウから見る東京の街並み、猥雑な東京の街がよく描かれた、美しい映像だった。狭いアケミのアパート。アケミの仕事っぷりや薄っぺらな人との関係、大量の駐車違反車の集積所。現実をしっかり見て、東京の住み難さをよく描いています。ヒロコがここで住むためには、椅子となって、人の役に立ち好きなことができると満足していますが、若い人がこれで良いのでしょうか?

「TOKYO!/シェイキング東京」

出演者:香川照之蒼井優竹中直人荒川良々、他。

f:id:matusima745:20210218094923p:plain

私(香川照之)はひとり暮らしで10年間、TVも観ず世間と付き合わず、父から送金を受けて働かず、引きこもりしている。そのせいか、部屋はしっかり整理されて見事です。十年分のピザ箱が積み上げられている。土曜日にピザをデリバリーしてもらうぐらいで人に会うことはない。運動を兼ねてご飯は立って食べる!うんこはロール紙の芯で手に痣が出来るほどに時間を掛けて、よい夢を見る!(笑)

ある土曜日、可愛い女の子(蒼井優)がピザを配達してくれた。11年ぶりに目を合わせた!ぐらぐらと胸騒ぎがしたが、地震だった!彼女が失神。どうしていいのか分からなかったが、腕にいくつものボタン(針のつぼ)が書いてある。ガーターにも絵が描いてある。ボタンを押すと彼女は「完璧!」と立ち上がり、帰っていった。

もう一度彼女に会いたいと2日間考えて、ピザ店に電話すると店長(がやってきて、配達員が皆引きこもりだという。

自分で出掛けるしかないと、白いスニーカーで外にでた。眩しい!渋谷のスクランブル交差点にも誰ひとり人がいない。ピザはロボットによって配達されていた。

地震が起きると一斉に人が建物から出てきて道路は一杯になるが、地震が収まるとまた人がいなくなる。

家にいる彼女を見つけて「今出ないと、一生出れないよ!」と呼び出し、LOVEのボタンを押すと彼女がうれしように笑った!するとまた地震

                 

会話がほとんどないが香川照之さんの仕草で孤独の寂しさ、不安、彼女に会ったときの驚き、喜びが分かるという、ユーモアたっぷりの演出でした。ピザにスニーカーは監督作では定番のグッズ。めっちゃめちゃに可愛い蒼井ちゃん!ペ・ドゥナ以上でした!

ポン・ジュノ監督にとって日本人は優秀で、地震が発生すれば一斉に同じ行動がとれが、引っ込み思案な国民。広い世界に出てきなさいという監督のエールだと思っています。まるで天岩戸神話のようでした!

             ****

「あの頃。」(2020)“一生ものの友”と“心の休まるところ”がある青春!

f:id:matusima745:20210222100647p:plain

今泉力哉監督作ということで楽しみにしていました。いろいろな愛の形、片思いをユーモアをもって描き愛の本質を問うてくれますが、本作では“ハロー!プロジェクト”に魅せられ、アイドルに青春のすべてを捧げ、仲間たちと熱く語り合ったアイドルオタクたちのバカバカしくもかけがえのない日々が描かれます。 

アイドルオタクのバカバカしい話どころか、宇佐見りんさんの著書「推し、燃ゆ」芥川賞を受賞するという、今日ではしっかり社会に認められるに至っている話なんです!(笑)

原作は劔樹人さんの自伝的コミック「あの頃。男子かしまし物語」、未読です。

脚本は「素敵なダイナマイトスキャンダル」の富永昌敬さん、撮影は「愛がなんだ」「いちごの歌」の岩永洋さんです。これは観ないわけにはいきません!

出演者は松坂桃李・仲野太賀・山中崇若葉竜也・芹澤興人・コカドケンタロウ・大下ヒロト・木口健太・中田青渚さん、他。

前段でアイドルオタクのバカバカしさ?を笑って、後段でオタクたちの友情に泣いて、ラストで「あのころ。」が在って今の俺があるんだ!と思わせてくれるユーモアがあって、切なくて、暖かい作品でした。

ハロプロオタク6人の面子。最初は胡散臭いやつらだと思っていましたが、ラストでは名前も性格もしっかり覚えて、みんな愛すべきやつらで、もっと観ていたいと思わせてくれるような作品でした!出演者のみなさん、それほどに演技が嵌っていました!


松坂桃李主演!映画『あの頃。』予告編

あらすじ(ねたばれ):

2004年、大坂。音楽を志す劔樹人松坂桃李)はバンドチーフから「アルバイに一生懸命でこっちがダメ」とダメ出しされて、自室に篭っているところに「これでも観ておけ」とDVDが差し入れられた。これが「松浦あやの“桃色片思い”」だった。観たとたんに口ずさみ涙が出てきた。好きなことに没頭せよ!です。自転車CDショップに走り、「ハロー!プロジェクト」に彩られたコーナーを物色していると、店員のナカウチ(芹澤興人)が「見て!」と「ハロプロあべの支部」のイベントちらしを差し出した。

劔は早速ライブホール“白鯨”で行われるイベントに参加してこのバカバカしいオタクトークの「男の最高の趣味や!」に笑った!終わって、「打ち上げ会に!」と誘われ、居酒屋でまたまたオタクの話をきく。最初に「挨拶せい!」と声を掛けてくれたのがコズミン(仲野太賀)だった。石川梨華推しのヒロ(山中崇)がリーダーだという男たち6人。実際は誰がリーダーなのか分からない連中だった。

f:id:matusima745:20210222100937p:plain

イトウ(コカドケンタロウ)の部屋に集まり、ライブイベントのDVD鑑賞や推しアイドルの話。劔はオタクグッズの製作を一手に引き受けている西野(若葉竜也)から「お前はこれ!」と松浦あやのポスターを貰い、嬉しくて自室に飾り、グッズを揃えた。

f:id:matusima745:20210222101008p:plain

支部のイベントに大学の女友達、奈緒(片山友布)と靖子(中田青渚)を誘った。これが縁で大学祭に参加することになった。「無職のおっさんの集まりでこんなイベントは受けん!」と思っていたところ、大受け!もうそんな時代だったんだ!メンバーは大喜びで、学生と一緒に藤本美貴「ロマンチック浮かれモード」を唄って大盛り上がりだった。(笑)

f:id:matusima745:20210222101035p:plain

メンバーはもう一心同体、風呂に入って盛り上がった。「俺たちには卒業式はない!中学10年生がずっと続けばいい!」と、こんな集まりだった!

コズミンに「目を見て、ありがとうと言って来い!」と松浦あやの握手会に行くよう勧められた。劔はあや(山崎夢羽)に会った。しかし何か物足りなさを感じた!「俺は音楽と向き合うことから避けていた」と気付いた。

メンバーにバンドやることを提案し、西野の知合いで藤本美貴推しのアール(大下ヒロト)を加え7人の「恋愛研究会」というバンドを作った。イベントでは揃いのキャップとTシャツでモーニング娘恋INGを熱唱し遅い青春謳歌していた。

劔は石川梨華卒業コンサートに参加し、「これで卒業です!」という姿に感動し「梨華ちゃん!」と声を出して応援し、涙した。「アイドルには卒業があるのか!俺は・・」と思った。

チケットを贈ってくれた中学校の先生(西田尚美)には「素敵な卒業式でしたね。また!」と声を掛けられ、握手して別れた。アイドルの卒業式には摩訶不思議な魅力があるんだ!

コズミンがアールの恋人奈緒にちょっかい出したことで、メンバーも絡んで揉めに揉めたが、コズミンのみっともない「スイマセンデシタ」という謝罪で決着した!メンバー全員が絡んで決着したところがいい。(笑) 

 こんな日々が流れるなかで、それぞれが人生の中でハロプロと同じくらいの大切なものを見つけていった。

2008年、東京。劔はナカウチの勧めで一緒に東京に出てきて、ライブハウスで働きながらベーシストとしての音楽活動を開始していた。

f:id:matusima745:20210222101117p:plain

バンドメンバーに正式に加えられた日、コズミンのネット呟きで、ガンであることを知った。「あいつは何している?」と思った。

コズミンは相変わらずのアイドルオタクで、風俗店でガンをネタに値切っていた。(笑) メンバーが駆けつけ本人の望を聞いて、恋愛研究会イベントで生前葬を行い、本人が望むブロンズ像を贈ることになった。ずっとオタクでいたいらしい!

当日、コズミンは松場杖でやってきて白装束で、定番の「恋ING」をボーカルとして熱唱した。そして棺に入り「人生で一番楽しいのは、皆で過ごしたあの頃。切なかった!東京で何してる?アイドルは幾つになっても可愛い!」という。劔はこれを聞いて泣いた!

f:id:matusima745:20210225053814p:plain

 コズミンの最期は看護師にイヤホーンを着けてもらって「恋ING」を聞きながら逝ってしまった。

感想:

好きなことに熱中し、そこで知り合った仲間たちとの“あの頃”。後段のアイドルオタクのままのコズミンとアイドルオタクを卒業した他のメンバーが生前葬で“あの頃”の想いを語るシーン。これがテーマでした!

アイドルオタクのままのコズミンの人生はつまらないものであったのかと言うと決してそうではない。今の時代にこんな葬儀を行って貰える人は珍しいでしょう。僅かな時間ではあったが一生ものの友を得て、心の休まるところがあるという、アイドルオタクであったが故の、すばらしい人生であったと思います。

f:id:matusima745:20210222101429p:plain

アイドルを終えて次の人生に向かっている劔たち。メンバーの名前を聞けばあの頃を思い出し、今が一番楽しいと感じ、“あの頃”が励みになるという未来に繋がる“あの頃”、いずれにとっても忘れられない青春の記憶です。

このまま続いて欲しいと思えるハロプロあべの支部の6人。まさか松坂さんがと思わせてくれるオタク化けぶりがすばらしい。次の推しが仲野さん。短気でけちなお騒がせオタクであったが、後半では主役に躍り出て、精一杯オタクで生きる姿は、愛しい人生を全うしたいと願う気持ちが伝わる演技でした。「すばらしき世界」に次ぐ本作で、大きな俳優さんに育ったなと思いました。

もうひとり終始松坂さんと行動するナカウチ役の芹澤さんの暖かい雰囲気が、“オタク”と言う莫れと作品の品格を保証しています!(笑)

 私のブログ説明「宮﨑あおいさんを応援します」。この面子と同じ想いです!(笑)このころ。2005年、NANAに嵌りました!そして「純きら」、「篤姫」・・。 “推し“の意義をしっかり描いてくれた作品、すばらしい作品でした。

             ****

「ヘレディタリー 継承」(2018)ミニチュアで作った物語が現実になっていく家族崩壊物語!

f:id:matusima745:20210218202606p:plain

アリ・アスター監督の長編レビュー作、“現代ホラーの原点”と言われる話題作をWOWOWで観賞しました。祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に見舞われて崩壊していく一家を描いたホラー作品です。

ホラー作品をあまり観ないのでホラー作品のなかでの評価づけをすることはできませんが、観た後に尾を引くという恐怖の重さとストーリーの緻密さ、深みに圧倒されました。絶賛されているとおりの素晴らしい作品です。「ミッドサマー」(2020)に繋がる作品になっていて、観ておくべき作品だと思います。

家系の中に流れる血の秘密を隠して家族が崩壊する様に、家族にとって生きていくなかで何が大切かを感じました。

監督・脚本:アリ・アスター、撮影:パウエパヴェウ・ポゴジェスキー、音楽:コリン・ステットソン。

出演者:トニ・コレット、ミリー・シャピロ、アレックス・ウルフ、アン・ダウト、ガブリエル・バーン、他。

ねたばれを見ないで観賞することをお勧めします。


【超恐怖】これが現代ホラーの頂点 11.30公開『ヘレディタリー/継承』90秒本予告

あらすじ(ねたばれ):

2018年4月3日、長い闘病生活の末、エレン・リーは78歳で娘アニー(トニ・コレット)の家で死去。夫と長男はすでに故人。娘の夫はスティーブ・グラハム博士(ガブリエル・バーン)。子供は長男のピーター(アレックス・ウルフ)と娘のチャーリー(ミリー・シャピロ)です。

グラハム家で葬儀場への出発にあったて、スティーブが自室に寝ているピーターを起こし、庭に作られた小さな小屋(ツリーハウス)でエレンを偲んで出てこない娘チャーリーを迎えに行く。このシーンに親子関係が現れており、チャーリーはエレンに特別に可愛がられていたようだ。

葬儀でアニーが挨拶をした。「母は秘密主義で内向的でしたが、こんなにたくさんの人が・・・」。このときチャーリーはチョコを食べていて、スティーブが「ナッツは入ってないな!」と確認をする。彼女には“ナッツアレルギー”がある。

葬儀後の日々。ミニチュア・ジオラマ作家のアニーは「小さな世界アニー・リー」の新作発表に取り掛かった。今は終末医療のシーンだった。

f:id:matusima745:20210218202646p:plain

アニーがチャーリーの部屋に行くとリーの絵を描いている。チャーリーは「お婆ちゃんに男の子になれと言われた」という。アニーも「ママもそうだった。あなたは赤ちゃんのとき泣かなかった!」と答えた。本棚に「サトニ」の背表紙の本があるのを見た。

アニー母の遺物を整理していると遺言が出て来た。「どうか許して、多くを言えなかった。失うものを嘆かないで!“犠牲は恩恵”のためにある」。アニーはこれを見て怒り、整理を止めた。

チャーリーの奇行が始まった。チャーリーを演じるミリー・シャピロの感情を無くした表情にぞっとさせられます。

授業を聞かず、ミニチュアで遊び、絵を描く。放課後撃たれた鳩の死骸の首を斬り落とす。彼女は絆かったが遠くからこの行為を見ている人がいた。

ピーターは授業には興味がない、そこに「マニファナやるか!」のメールが来る。これに嵌っていた

アニーはアトリエでジオラマ製作に熱中。「リーの墓が荒らされた!」という電話連絡をスティーブが受けたが、アニーには言わなかった。

f:id:matusima745:20210218202738p:plain

その夜アニーは「映画を観てくる」と夫に話し、実はグループセラピーの会に参加した。「2年前に、強制的にこういう会に出た。救われました」と言い「母は解離性同一性障害でした。父は自分が赤ちゃんのころ餓死、妄想性のうつ症。兄は統合失調症で母の寝室で首つり自殺“母に身体の中に何者かを招き入れた”と言った。母は人を操るので夫が不干渉ルールを定め、長男は母に近づけなかった。その替わりに娘を差し出した。罪悪感で苦しんでいます。責められています」と告白した。

すこし丁寧に書きました。このなかに、あとで気付くのですが、物語の始まりでこんなにも沢山の伏線が仕込まれ、これが逐次明かされていく展開は鳥肌ものです!怖い!

チャーリーに異変が続く。森に入るとお婆ちゃんが見える。ミニチュアに触っていて念波が走る。窓に光は走る・・・。

f:id:matusima745:20210218202817p:plain

ピーターにパーティの誘いが入り、出かけようとすると、アニーは嫌がっているのにアニーが連れていってという。アニーには「済まなかった」という気持ちがあった。

パーティで、ピーターは友達に誘われ二階でマリファナを喫っていた。チャーリーはひとりぼっちで、ケーキに手を出し、それにココナッツが入っていた。激しく痙攣するチャーリーを車に乗せ病院に走行中、道路上の障害物で急ブレーキを掛けると車がサイドスリップし、窓から顔を出していたチャーリーの首が電柱にぶつかり吹っ飛んだ!ピーターが驚くが、何を想ったが納得したようにそのまま家に戻り、チャーリーの遺体を残したまま自室で眠れない夜を過ごした。朝になって、出かけるアニーの悲鳴が上がった!

葬儀の後、スティーブがチャーリーの部屋に入り壁がサザスであることに気づき、ツリーハウスでチャーリーの描いた絵「犬や猫に追われる鳩。歯との首に王冠が乗っている」を見た。アニーもこの部屋で眠っていた。

ピーターは学校でマリファナに誘われ、夜、自転車で帰宅する。誰かにこの姿を監視さられている。アニーがこれを見た。次の日、アニーがカウンセリングに出掛けると、「私も苦しんでいる。相談して!」と連絡先を渡された。「ジョーン(アン・ダウト)」とあった。

郵便受けに「著名な霊能力者との一夜!死者からのメッセージ」というパンフレットが届き、アニーがジョーンを訪ねた。玄関マットに見覚えがあった。チャーリーの遺体の状況を話すと「ピーターとの関係は?」と聞くので、「当時自分は夢遊病者で、ある夜、ふたりを道連れに自殺しようとしたが、ピーターに気付かれそれ以来喧嘩ばかり」と話をした。この日はこれで終わった。

f:id:matusima745:20210218203046p:plain

アニーがジオラマにチャーリーの事故現場を付け加えたことに夫が「ピーターの気持ちも考えたら・・」と注意した。夕食の席で、アニーとピーターがどちらがチャーリーを殺したかで大喧嘩になった。この時のトニ・コレットの形相が怖い! アニーは席を蹴ってアトリエに篭った。

アニーはジョーンを訪ね、チャーリーを呼び戻してもらった。が、途中で怖くなり止めてもらった。「自分でやってみなさい!」とローソクと呪文が書かれた紙が渡され「あんたがやったんでしょう?」と暗示を掛けられた!

f:id:matusima745:20210218202928p:plain

アニーが寝室で寝ようとして、窓に虫がぞろぞろと這ってるのが目に入った。この虫がチャーリーの顔にたかっているように思え、ピーターの部屋に入って行った。ふたりがぶつかった。ピーターが「あんたは何故、俺を殺そうとする」という。アニーは「救うためよ!」と泣いた。アニーはピーターを産みたくなかった。流産をしようとしたがかなわなかった。

アニーは嫌がるピーターとスティーブを説得し、居間でチャーリーを呼び出す儀式をすることにした。激しくが泣く。部屋が振動するなかで、ローソクが突然吹き上がり、チャーリーが現れたと思ったが、ふたりの「止めろ!!」コールで、この儀式を止めた。

ピーターが授業中に念波を感じるようになった。アニーは個展を目前に控えているにも関わらずジオラマを壊してしまった。学校からの電話にも出なかった。スティーブが学校にピーターを迎えにいった。

家に戻ったスティーブが異臭に気付き、アニーのアトリエを見てアニーの異常さに気付いた。

夜、アニーの夢遊病が始まりピーターの部屋に入り諍いになる。チャーリーの部屋でピーターの顔が描かれた絵を発見、この絵に油をかけて燃やそうとするが、自分が火傷して、焼却できなかった。

アニーはこのことをジェーンに相談しようと訪ねるが不在だった。玄関のマットに見覚えがあり家に取って返し、リーの遺品を調べた。するとオカルト教団のバイブルがあり「招換」というページがマーキングされていて「地獄の王、ベイモンは儀式は完了後、定められた者の身体に残る。王の臣下への財産は(絵)」、さらにアルバムにはリーがジョーンと並んで写っていたグラハム一家の写真もあった。この写真が信徒によって祈られている。

アニーはアルバムを抱え、屋根裏に上がるとそこにリーの首がない遺体がオカルト教団の紋章とともにあった。

ティーブは友人にアニーの状態がおかしいので調べて欲しいと墓の状態を調べて貰った。友人から暴かれた墓の写真が送られてきた。

ピーターは教室で念波を感じ外に出るとジェーンから「お前を追い払う!サンタニー!ピーター!肉体から出ていけ!」と大声で叫ぶ。ピーターは教室に戻り顔を机にぶつけ気を失った。学校から連絡があり、スティーブが家に連れ戻した。

ティーブとアニーのふたりで車からピーターを降ろし部屋に寝かした。アニーが「屋根裏にリーの遺体がある、調べて欲しい」とスティーブに頼むと「あんたが墓から連れてきた。いい加減にして警察に委ねるべきである」と渋った。が、一応確認した。そしてこの写真を焼いて欲しいと燃やそうとして焼却できなかった写真を「焼いて欲しい!」とストーブの前で油を振りまいて渡した。スティーブが渋るのでストーブの火を点けた。スティーブは黒焦げに焼けた!

f:id:matusima745:20210218203227p:plain

ツリーハウスの光で目覚めたピーターが居間でスティーブの遺体を見て驚いているところに、アニー(?)が近付いてくる。屋根裏に逃げた。そこでアニーが首を吊って切り落とす姿、全裸の男女の姿が眼に入り、庭に飛び降りた。

ピーターの身体に光を放つ虫が留まり、アニーの亡霊に導かれツリーハウスに入ると、首のないリーとアニーが傅くなかで戴冠式が行われ、ベイモン王となった。ベイモン王は地獄の8王のなかのひとり。オカルト教団信者のベイモン万歳の声が響いた!

ピーターがベイモン王になり、これに傅く教団のミニチュアが残されていた!

感想:

ぐだぐだと書きましたが、精巧に作られた伏線の繋がりを追うためでした。記録に残しておかないと分からなくなります。さほどによく出来たドラマです。

葬儀挨拶、遺書、遺品、セラピーでの懺悔、霊媒師への告白。これらがチャーリーの死や母の墓地暴き、アニーとピーターの確執の謎へと繋がっていく。この謎をなぞるように音響や犬の鳴き声、意味不明な絵などを通して恐怖に陥れ、それがクライマックでは別次元のオカルト的恐怖の世界へと誘ってくれます。

いくつかの疑問が解けないままですが、これを探す中で、深みにはまっていきます!眠れなくなりますよ!(笑)

グラハム家は代々オカルト教団信者で、教義に基づき長男を悪魔に差し出し、その犠牲の上で繁栄を保ってきた。しかし、アニーの反逆でこの継承が断たれ、教団の怒りに触れて滅亡するという話でした。

冒頭、ツリーハウスからミニチュア・ジオラマ、家族の住む部屋へと映像が移動し、物語の進展にともないこれが逆に動いてツリーハウスでピーターがベイモン王となりグラハム家が滅亡する。

アニーはグラハム家の安泰を願って、母リーの魂を鎮めるよう、ピーターがベイモン王になるジオラマを製作しようとした。母の魂を鎮めるため“スプリチュアルリズム”に関する論文に基づき綿密に母の魂を入れるようスタートしながら、チャーリーの死、ピーターとの確執から、精神が侵されていき、最後にはジオラマを破壊してしまう。まさかジオラマの世界が現実のものになるとは思わなかった。家族を失ったアニーの悲しみが伝わります。

トニ・コレットのどんどん怖くなっていく怖い顔とミリー・シャピロの無表情な顔に圧倒される作品でした。

                                   ****

「ノンストップ」(2020)韓国映画は面白い、すかっとした!

f:id:matusima745:20210216054133p:plain

コロナ禍の憂鬱を吹っ飛ばして欲しいと本作を選びました。一日2回の上映、それにパンフレットなし。大丈夫か?と思いましたが、そんな心配はいりませんでした。すかっと見事に鬱を吹っ飛ばしてくれました。

 ハワイ旅行の懸賞に当たった一家が、乗り合わせた飛行機で、北朝鮮のテロリストにハイジャックされ、果敢に立ち向かうというミステリアスなアクション・コメディ。

密室旅客機のなかで、100分間のドラマ。何を見せてくれるのかと思っていましたが、これが凄かった。始めから終わりまでドンデン返しの連続テンポが良い。最後にあっと驚く“落しどころ”、みごとでした。背景にたっぷりと韓国でなければ描けない南北問題が組み込まれ、アクションと家族愛、南北の友愛が描かれていました。

監督:イ・チョルハ

出演者:オム・ジョンファ、パク・ソンウン、イ・サンユン、ぺ・ジョンナム、イ・ソンビン、キム・ナムギル、他。


韓国映画『ノンストップ』予告編動画

あらすじ(ねたばれ):

冒頭、モンゴル・ウインバートルのロシア・北朝鮮原子力合同研究所から極秘資料を持ち出そうとする男女の秘密工作員。発覚され逃げるなかで女工作員が発砲。なんのことかさっぱり分からないオープニングでした。(笑)

ソウルに住む、ミヨン(オム・ジョンファ)とソクファン(パク・ソンウン)夫婦、その娘で小学生の娘ナリ。ミヨンは人気の揚げパン屋を営み、ソクファンはパソコン修理工で、貧しいながらも仲良くくらしている。ふたりは瓶蓋についているハワイ旅行の懸賞を目当てに、オロナミンを飲み続けてきた。(笑)スポンサーはこれでしたね!(笑)

ミヨンが飲んだオロナミンでハワイ旅行に当選。これまで飛行機など乗ったことがないと三人家族でハワイの旅に。

搭乗機はボーイング777。集まってくる乗客にはヤクザ風の男たち、黒いマスクをした謎の女性((イ・ソンビン)と男たち、ハワイで出産するという姑と嫁、国会議員、等々。客室乗務員はチーフのキム(ぺ・ジョンナム)、ドジなヒョンミン(ぺ・ジョンナム)ら。

ミヨンとナリがビジネス室。ソクファンはエコノミー室の席に着いた。ソクファンの隣に温和な謎の老紳士が着席。ふたりはすぐに会話が出来るなかになった。

離陸時、怖い!と精神安定剤をたっぷり飲んで寝る居眠り紳士(キム・ナムギル)。

巡航飛行に入り、ピーナッツタイム。初めての飛行機旅、ミヨンはピーナッツが無料だと知って食べに食べた!(笑) トイレに走るが、謎の女が入って使えない。堪らない!とエコノミー室の夫の元に。「ナリを見て!」とエコノミーのトイレに走り込んだ。

f:id:matusima745:20210216054535p:plain

機が乱気流に入り、機内は大混乱。

エオノミー室のヤウザ風の男たち。リーダーのチョルソン(イ・サンユン)の指示で一斉に立ち上がり、部屋を捜索、乗客を前方の部屋に集める。この間、ミヨンは長いトイレ!(笑)さらに入念にお化粧をする。(笑)

パイロット室では犯人たちが機長を脅して航路変更。

f:id:matusima745:20210216054509p:plain

チョルソンはビジネス室にやってきて、“あの女に似ている”と謎の女に目をつけマスクを取る。なんとアクション女優として名の知れた女優アン・セラだった。テロリストが大喜びで写真を撮る。国会議員が「何故国会議員を・・」と抗議する。(笑)

ミヨンは捜索にきたテロ犯人を倒し、「昔の癖が出た!」と呟き、客室乗務員に化け、カートを押して客室に入り、派手にテロ犯人たちと戦うが・・・。

f:id:matusima745:20210216054437p:plain

一方のソクファンは床の羽板を外し貨物室に潜り、機のコントロールパネルに辿りついた。パソコンに繋いでハイジャック情報を発信した。

そこにドジのヒョンビンがやってきて、「もうひとり味方がいる」と通信機を渡す。これでミヨンと話すが、音声秘匿装置付きの声の判別が出来ない。一体だれが戦っているのか分からない。まさか妻が・・。韓国らしい発想です!

ソクファンはハイジャック犯人たちが北朝鮮工作員と知り、機の航路を変更する。

ソクファンはチョルソンに捕えられ個室に。そこにミヨンも連れて来られた。「こいつは元情報院にいた!」と明かされ、ミヨンは驚く。チョルソンはミヨンを「モクレン」と呼び、あのモンゴルウインバートル事件でのパートナーだった。ソチョルソンが「原子爆弾資料が・・・」と言い、「なんで俺を撃った!」、ミヨンが「外して撃った!」と揉め始めた。ソクファンはもう気が気ではない。(笑)

ミヨンはその後整形手術をしてソウルの焼き鳥屋にいた。これを監視していたのがソクファン。監視中に北工作員に襲われたところに揚げパンを持ってきて、これで難を逃れ、ふたりは結婚したという。ソクファンは「こんなことになったが、お前がモクレンでいい」と言い、これにミヨンが泣いた。(笑)

テロ犯人たちが「これからどうするか?」と揉め始めた。高度を下げて脱出、機体を爆破する」という犯人たちを「乗客は民間人ぞ!」と反対するチョルソン。

仲間割れしたテロ犯人たちに、ミヨン、チョルソン、それに乗務員、映画監督たちも加わって大乱闘。そして、ソクファンが電源を切った。

テロ犯人を制圧したところで、謎の老紳士が熊のぬいぐるみをナリに渡し、自らはオパラシュートを身に着け、ミヨンにパラシュートを着けるよう促す。これに刃向かうソクファンが撃たれて起きてこない!

機体ドアーを開けた瞬間にぬいぐるみを機外に。爆弾だった。ミヨンが蹴とばして老紳士を機外に。

なんとソクファンが目を覚ます。チョルソンから防弾チョックを着けてもらっていたという。(笑) チョルソンはパラシュートで機外に消えていった。

機長に「機は仁川に迎え!」と指示が入った。困ったソクファンがスタンガンで機長と交渉し、機の燃料放出が始まった。(笑)機は予定通りハワイに着陸した。

ハワイでくつろいだソクファンがミヨンに「全て俺の計画どおりだった!」と告白。ミヨンは「お金を頂戴!」(笑) 結婚式を挙げてなかったのでこれが目的だった。オロナミンの蓋の懸賞は誰が作った?やっと機内で目を覚ました居眠り紳士。この人はだれ? 

f:id:matusima745:20210216054352p:plain

感想:

次から次へと続く機内の危機エピソード、その中で繰り広げられる夫婦の物語。

原題はOKAY MADAM。邦題の「ノンストップ」の方が生きた題名に思えます!

南北エーゼントが結婚、北朝鮮のエーゼントだったふたりが韓国機の中で仲直りするという、ずいぶんと北に気遣いのある作品でした。(笑)

さらに今の韓国状況を伝えるかのような、国会議員の資質、嫁姑の問題、女優と監督、格差エピソードも笑えます。

エンドロールまで、はらはらドキドキしながら、謎解きをしてくれました。オム・ジョンファの熱演を楽しみました。イ・ソンビンを整形してオム・ジョンファになったというキャスティング。(笑) 万事、笑いが一杯でした!

                                     ****

「すばらしき世界」(2020)ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある! 

f:id:matusima745:20210213092147p:plain

西川美和監督作品で、主演が役所広司さん。これは見逃せない!と観て参りました。

人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯。見た目は強面ですぐカッとなるが、彼流の強い正義感がある。そんな彼が娑婆に出て、真っ当に生きようと悪戦苦闘するなかで浮かび上がる現実世界は・・・・というはなし。

「すばらしき世界」は何処にあるのか、ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある! 「人間社会は捨てたものではない!」と感じる作品でした。

原案は佐木隆三さんのノンフィクション小説「身分帳(1990)。監督・脚本:西川和美、撮影:笠松則通、音楽:林正樹。

出演者:役所広司、仲野太賀、北川有起哉、六角精児、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子橋爪功、他。

あらすじ(ねたばれ):

殺人罪で13年間を旭川刑務所で過ごした三上正夫(役所広司)、出獄時「罪を反省しているか!」と問われ「判決には不満がある」と言い、生い立ち・犯罪歴や服役中の態度が書かれた「身分帳」を放送局に送りつけて、営門を出た。“真っ白な雪の中”を歩いてバスに乗り、東京の保護司庄司弁護士(橋爪功)の元に急いだ。

f:id:matusima745:20210213092514p:plain

送られた身分帳を見た局プロデュ―サー吉澤(長澤まさみ)は小説家への転身を目指していたTVディレクター津乃田(仲野太賀)に「密着ドキュメンタリー番組」をやってみないかと勧めたが、「相手にしない方がいい!」とあまり乗り気ではなかった。

庄司夫妻にすき焼きで出所祝いをしてもらい「人の信頼を取り戻せ」と励まされた。「養子縁組」のTV番組を観て、「子供を捨てる親がいるか!」とカットする。

翌日、三上は庄司弁護士と福祉事務所に出掛け「生活保護申請」をするが、担当相談員・井口(北川有起哉)から「反社会勢力と関りがありませんか?」と問われ、庄司弁護士がうまくとりなしたが、「たかが生活保護費ごときで肩身が狭くなる、刑務所のほうがましだ!」とムカついた。血圧が上がっりふらついて入院することになった。

医師の診断は「頭に傷がある、体調をみながら生活するように!」と注意があった。そこに津乃田が挨拶に訪れた。三上は愛想よく「なんでも喋るぞ」という態度で、津乃田はほっとした。

津乃田の車で古い住み家、木造アパート二階の部屋についた。部屋を整理していると、庄司弁護士の妻敦子(梶芽衣子)が古いミシンを持ってくる。これは三上が頼んでいたもので、刑務所で覚えたミシンによる剣道衣を作って自立して生きようと考えていた。とてもうまくバッグを作って見せて驚かせた。

f:id:matusima745:20210213092554p:plain

掃除洗濯、買い出し、カーテン作り、自炊、ゴミ出し等で毎日を過ごしていた。剣道衣製作会社に公衆電話から注文を入れるが、ない。

夜間一階で若い連中がゲームで騒ぐ。注意にいったところで「日中働いてる者に、生活費を貰っているやつが口出すな!」とばかりに言われ、カッとしてそのうちのひとりチンビラ風の男を外に呼び出し啖呵で脅した。この騒ぎに付近の住宅に住む人たちが驚く。

こんなことがあってか、井口が家庭訪問と称して、三上の生活を見にやっていた。こぎれいに生活し、お茶を出すことに“この人が殺人犯人”とびっくりした。「保護費はあなたの裁量で使っていい」というので携帯電話を買った。

河原で津乃田に相談しながら携帯で職を探す。自動車運転免許証を採ればなんとかなるという結論になった。津乃田が「罪の意識があるか?」と聞くが、三上は「ない!」と答えた。津乃田は理解できなかった。

三上は仕事を持ち生活費を稼いで普通に生きようと考えていた。それもいつ命を落とすか分からない健康状態で。ところが周りがそれを許さない!

さっそく無効になった免許証の更新に出向くが、新たに取得するよう求められた。ここで元妻の久美子(安田成美)似の女性を見て、久美子に会いに行った。彼の殺人刑は彼女を救うために相手をメッタ刺しし、殺意を認めたためだった。

彼女は仕事で不在で会えなかったが、娘に会った。自分の子かな?と指を折って歳を数えた。まだまだ男として生活したい。保護費ではヘルスにも通えない!(笑)

近所のスーパーに買い物していて、店長の松本(六角精児)に万引を指摘された。近所での騒ぎが影響したらしい。全身裸になって刺青も一緒に調べて貰った!(笑) 松本は恐縮してアパートまでやってきて食品を差し入れしてくれ、同じ福岡の出身ということで意気投合した。

f:id:matusima745:20210213092713p:plain

道路交通法を自習し、運転には自信があると免許試験場に出かけたが、13年間のブランクを埋めることはできなかった。車の構造機能が彼には合わなかった。(笑)

試験に失敗し憂ばらしにヘルスにでもと値段を聞いているところに津乃田と吉澤がやってきたので、焼肉店で番組について話すことになった。「三上さんが壁にぶつかり、トラップに掛かりながら更生していく姿を放送したい」という。三上は「トラップは嫌だ!」と反対したが、「母親が見ていて会えるかもしれない」ということで、受けることにした。

f:id:matusima745:20210213092752p:plain

その帰り道で若いふたり組が中年の男に因縁をつけているのに出会った。三上は躊躇なく戦闘加入して喧嘩が始まる。喧嘩は梯子を持ち出して殴り合うというエスカレートに、カメラに収めていた津乃田が逃げ出した。怒った吉澤が「あんたは終わっている。ここは喧嘩を止めるか、撮影し続けるだ!」と怒り投げつけて帰っていった。津乃田は「これでは殺人事件が起こる」と取材を続けるかどうか考えていた。一方、三上は意気揚々とアパートに引き上げた。(笑)

このことをスーパーの松本に話すと「喰いものに去れる。人の保護を受けている者のすることでない」と反対した。三上は「喰えるやつには分からん!俺は3000万くれれば人を殺す!金持ちが枕を高くして寝ているお調子もんではないぞ!」と脅すと「あんたはおかしい!」と、喧嘩別れをした。

三上は免許講習を受ける資金が生業扶助金で出ることを知って、庄司弁護士に相談すると福祉事務所に聞けという。井口を訪ねると、上司に話さねば回答できないと埒が明かない。

三上は電話で津乃田に借金を持ち掛けたが断られた。津乃田は「何で逃げないのか?」と三上のやり方を非難した。「見逃すのが人生か?都合がいいときだけ現場に出てきて!」と津乃田をなじった。津乃田は「あんたのその性格で、母親が逃げたんだろう!」と応じると、電話が切れた。津乃田は「言い過ぎた!」と気付き、図書館で暴力やネグレクトについて基本から勉強し始めた。

金が工面ができない。これでは人生が終わりと、博多の親分大稲葉(白竜)を訪ねることにした。空港に迎えがきて、ヘルスに案内してくれるなど暖かく迎えてくれた。

しかし親分は組に戻れとは言わなかった。女将さん(キムラ緑子)が「本当は廃業したかった」と言い、「あんたはこれが最後のチャンス。娑婆は我慢の連続よ。我慢のわりに面白うもなか。そやけど、空が広いち言いますよ!」と餞別をくれてた。

母親の居所が見つかったと津乃田が福岡にやってきて、三上はふたりで児童養護施設を訪ねた。母親の記録はなかったが、当時食事の面倒を見てくれた女性が歌を唄ってくれ、三上も一緒に唄った。そして園児とサッカーを楽しみ、まだ真っ白だった当時を思い出し、涙が止まらなかった。この姿に津乃田も泣いた。

温泉風呂で津乃田は「あなたが生まれて、生きてきたことを書きます。だから戻らないでください」と言いながら三上の背中を、まるで罪を流すように洗った。

東京に戻ると井口から介護施設で働いて見たらという提案され、施設を訪れ仕事を体験すると、三上のような几帳面な男には最適な仕事場だった。

松井が自動車講習費の一部を提供したいと言い、その残りを庄司弁護士が持つことになった。三上は自動車講習にも顔を出し始まった。

f:id:matusima745:20210213092854p:plain

就職祝が三上のアパートで、庄司夫妻、津乃田、松本が集まって開かれ、「もっといい加減に生きろ!」「必要なこと以外は捨てろ!」「逃げてこそ生まれる!」と言葉が贈られた。通勤のための自転車が贈られた。

津乃田は「普通の三上を書く」と小説を書き始めた。

介護ホームで若い障害を持つ阿部と花を植えた。その阿部が建物の影で、2人の職員に虐められているのを見た。三上は躊躇なく側にあったモップを持ってふたりを殴りつけ、いじめを止めた。このとき忸怩たる思いがこみ上げてきた。

作業室に戻って、女性職員とお手玉作りをしているところに、男が戻ってきて「阿部は前科もん!」と貶し、阿部の不自由な身体の動きを真似て「三上さん似ていますか?」と聞く。三上は側のハサミに目が入ったが、思いとどまり、笑顔で返した!

介護ホームから帰宅しようと外に出たところで阿部がにこやかにコスモスの花をプレゼントしてくれた。なんの反論もしてやれなかった俺に!と泣いた!

自転車にその花を乗せての帰り、久美子から「仕事みつかった?相手ともめとらん!昼ごはんたべよう」と電話が入る。雨が降って来て、家路を急いだ。

家に着いた三上は胸が痛み、コスモスの香りを嗅いで、静かに息を引き取った。このとき津乃田は三上が刑期を終えたところを書いていた。津乃田は現場に駆け付けたが、警察により会せてもらえなかった。庄司弁護士、松本、井口も駆けつけてきた。

雨が上がり、空が見えてきた。

感想:

真っ白な雪の日の出獄。真っ白になって娑婆に戻り、病を抱えながら、人に迷惑を掛けないよう仕事を求め、自分の正義を通そうとし、ある時は雨に日、ある時は晴天に歓喜し、最後は天職のような介護の仕事に就き、やっと社会と折り合いをつけて生きれると思ったところで、大雨に見舞われ、純白を意味するコスモスの花の香を嗅ぎながら、息を引き取った。

三上にとっては生きづらい世界ではあったが、暖かいものではなかったかと。嫌でも人と触れ合うことで、お互いの理解が進み、掛け替えのない人々になっていくという人間関係の不思議。この世界がすばらしいと思いますよ。

そこには三上のすこしの辛抱と忍耐と、周りの人たちには彼への少しの善意が必要でした。捨てる神に、拾う神ありです。人生は生きる価値があると思わせてくれるすばらしい作品でした。

この物語を牽引するのは言わずもがなの主演・役所さんでした。その演技に文句の付けようがない。ここでは気性の激しい三上に嫌悪感を抱きながら、彼の気性を認め、親のように馴染んでいく仲野さんの地味な演技もすばらしかった。そして、笠松さんの男気のある映像も忘れられません。

                               ****