映画って人生!

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「真実」(2019) 真実を確かめるより、もっと大切なことは!

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是枝裕和監督が、フランスの名優カトリーヌ・ドヌーブジュリエット・ビノシュ、さらにイーザン・フォークの参加を得てフランスで撮り、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品として披露された作品です。どのような作品かと、楽しみにしておりました。
スッタフもキャステイングもみなさんフランス人。しかし、作品はこれまで是枝さんが描いてきた家族の絆の物語で、さらにドヌーブさんやビノシュさんによって押し上げられ、とてもハイセンスな物語になっています。

フランス国民的大女優の自伝本。そこに描かれなかった真実が、母と娘の心に影を露わにしていき、ふたりはどこに行き着くかという物語。

大女優が書く自伝に“真実”などあろうはずがありません。(笑) 都合がいいように書かれているのは自明です。にも拘わらずこの「タイトル」、フランス流の冗談でしょうか。重々しい予告編が大げさだと思っています!

“おかしい”と問うところに、絆ができて、それが大団円となって繋がっていく絆の物語です。この物語には、もうひとつ女優の女優魂に触れています。これに振り回される周囲の人々が、是枝監督特有のなにげない日常のなかにあるエピソードと名優たちのアドリブ演技で、とてもユーモラスに描かれています。晩秋の落葉が降るパリ郊外、これにドヌーブさんの映像が載れば、香りが匂うようで、その色彩に、音に、「おお、フランス映画!」という感じです。

賞には該当しませんでしたが、キャストが全員白人で、豪華な邸宅に住む女優さんの話、さらに政治色がないからではなかったかと。劇中で、ドヌーブさんが「女優が政治など語るようになったら、女優であることから逃げている」というセリフがありますが、まさにそのような作品です。
是枝さんの家族の絆の物語が、国際的な作品となっているということを喜びたいです。この物語は、どこの国でも受け入れられるでしょう。次回に大きな作品を期待したいです。

****(ねたばれ)
冒頭、大女優ファビアンヌ(カロリーヌ・ドヌーブ)がパリの洒落た自宅で、今撮影中の「母の記憶」について取材を受けていた。「大した映画じゃない」と言い、「女優として誰のDNAを受け継いでいますか?」と聞かれ「フランスにはいない!」というように気儘で不遜。この役のドヌーブがまさに大女優にふさわしくオーラがあります。しかし、この女優が、ある小娘の女優と共演し、自分の演技を見失って落ち込むという弱いところもある。

自叙伝出版を祝ってニューヨークから出てきた娘・リミュール(ジュリエット・ビノシュ)には強い母親の顔を見せるが、再婚の夫で料理人でもあるジャック(クリステイン・クラエ)には甘えるという色々な顔を見せてくれます。是枝監督では書けない艶のあるセリフを吐き、おそらくアドリブでしょうか、とてもユーモアがあります。
日常が女優で、演じているのかそうでないのか、境目がわからない。真理なんぞくそくらえと演じますが、ドヌーブの素の姿かもしれませんね!

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脚本家のリミュールはTV俳優として売れ始めた夫・ハンク(イーサン・ホーク)と7歳になるシャルロット(クレモンティーヌグルニエ)を伴って訪ねてきます。
リミュールは妻として母親としてのやさしい顔を持ちながら、母親とは激しく対立する。母親の撮影に同行し、その芝居を観るまなざしには、深い演劇への情熱が滲みでています。
この映画の脚本は、是枝監督によって書かれたものに、ビノッシュさんが加わり出来上がったというだけに、彼女にとっての女優の顔は見せ場です。

ハンクはパリまで何しに妻に付いてきたのかと思われるのですが、(笑)、娘を可愛がり、ファビアンヌの女優魂に圧倒されるという役で、真実なんてものは見方を変えればどうにでも変わるんだという重要どころの役を、娘とともに演じます。陽気でやさしく、気の利いた、こういう人を夫に持ったら幸せと思えるよううまく演じます。

娘シャルロットは、感じたこと思いついたことを何でも口にする、“これぞ真実”というキャラクターです。グニニエが可憐にうまく演じます。この邸宅には大きな亀(名はピエール)が飼われていて、シャルロットはこれを見て「お婆ちゃん(フアビエンヌ)は怖い魔法使い。魔法でお爺ちゃんを亀に変えたの?」と問います。(笑) リミュールの母親への恨みがここまで徹底しているということです。(笑)

お爺ちゃんことファビアンヌの元夫・ピエール(ロジュ・ヴァン・オール)も出版祝いに、多少の恵みはあるだろうと訪ねてきます。人当たりのいい人で、どこかハンクに似ています。これもリミュールの母親への当てこすりというのが面白い。ピエールは自叙伝「真実」では亡くなっているが、何の恨みも感じていない。真実なんてこんなもんなんです!(笑)

フアビエンヌには夫として、料理人を兼務する元男優のジャックがいます。料理を一切しないという女優一筋の女です。是枝監督作品には必ず料理がでてきますので、こうなりますね。大女優でも希林さんとは大違いです。(笑)

ファビエンヌには昔から仕えているマネージャー・リュック(アラン・リボル)がいます。彼は小説「真実」でまったく無視されているという理由で、マネージャーを下りて、リュミールにその役を譲ります。本当の理由は謎?これが面白いところです。

このようにファビエンヌの周りにいる亀や犬も含めて、いろいろなおもしろい個性をもつキャラクターが小説の「真実」に関わってきます。

リュミールが小説「真実」が嘘だという理由は、子供のころ母親に掘っておかれて、母親の友人であるサラ叔母さんに育てられたということ。文化祭で演劇に出ても観に来てもらえなかったという恨み。女優という仕事がどういうものか分からない頃の記憶です!

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セザール賞を取ったというが、あの作品はサラ叔母さんの出演が決まっていたのに、お母さんが監督と寝て、役を奪ったからよ。それで叔母さんは自殺した」と責める。これに「力のない女優の運命よ。私はひどい役者、母だった。あんたが許さなくてもフアンが許すのよ!」。このやりとりのおふたりの演技は凄かった。

ところがサラの再来と評判の新進女優マノン(マノン・ヴァン・オール)と共演する映画「母の記憶」。SF作品で、2年の命しかないと分かって宇宙で暮らし、7年ごとに地球にやってくる母の記憶という物語。母・マノンを演じるマノン・ヴァン・オールは、オードリー・ヘプバーンのような瞳をもった人、とても魅力的です。将来が楽しみです! 娘役がフェビアン。(笑)

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「母の記憶」の母娘関係が、まったくフェビアンとリュミール母娘と真逆で、お互いを思い合う母娘になっている。さらに、フェビアンが演じる娘が73歳になったとき、マノン演じる母は、宇宙では歳をとらないので、34歳という設定です。もうフェビアンとリュミールをヒック返した設定です。大笑いです。

フェビアンはこの役を通してリュミールの子供のころの気持ちを思い、リュミールはファビアンヌの演技に母性を見るという、お互いを思いやります。リュミールは母親が役を投げ出すのではないかと心配するが、夫・ハンクの「大女優だ、大丈夫!」というアドバイスで母を見守ります。一方、フェビアンは母役・マノンの演技に対応できず、何回も撮り直しを求め、苦しみ、マノンの演技のなかにサラの記憶が戻り、サラとの過去の確執を乗り越えていきます。

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映画完成の打ち上げ会では、フェビアンの家族全員(ジャックもピエールも)が集まり、大通りで踊りまくるという盛り上がり、ひとつの絆に結ばれていました。が、家に戻るとフェビアンが大女優です。(笑)

リュミールは、娘シャルロットにお婆ちゃんに「女優になりたい」と言わせます。これに大いに喜ぶフェビアン。リュミ-ルの大嘘! 真実なんてこんなもの。しかし、そこにはしっかりした母と娘の絆が残りました!
               *
吹替版を演じたフェビアン役の宮本信子さん、リュミ-ル役の宮崎あおいさん。声が澄んでいて、複雑な感情をうまく表現され、心に届くものになっていました。


                                                  ****


是枝裕和『真実』予告編

“いだてん”第39回「懐かしの満州」

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脳出血を起こして倒れた志ん生ビートたけし)は一命をとりとめ、弟子の五りん(神木隆之介)に、戦争中に満州へ兵士たちの慰問興行に行ったときのことを語り出す。三遊亭圓生中村七之助)と共に満州を巡っていた孝蔵(森山未来)は、小松勝(仲野太賀)と出会っていた。やがて終戦。おりん(夏帆)は帰国しない孝蔵を占ってもらおうと、日本橋のバー「ローズ」を訪ねるが、そこに田畑(阿部サダオ)が現れる・・・。

感想:
懐かしいという気持ちにはなれませんでした。
第1回「夜明け」で登場した小松。志ん生に弟子入りして五りんの高座名を貰い、今回彼が小松勝の子であることが正式に判明する。

有力なマラソン選手だった勝は、東京オリンピックで金の夢が消えたが、いつの日にか再びと思っていたでしょう。その小松が出征し満州にいた。沖縄に転戦する際に生きるためと脱走し、出会った志ん生の落語を聞いて満足し、その感想を「絶品」と記した葉書を息子・金治に送ったあと、ソ連軍に撃たれて亡くなったという。志ん生を演じる森山未来さんの演技には志ん生が乗り移っているようで、すばらしい演技でした。

勝は落語「富久」を演じる志ん生の走る身振りに、自分が走る姿を重ねて大満足だったのでした。生きられないと知って、息子の金治に、自分のみじめな姿を見せたくないとマラソン選手になれとも言えず亡くなった。
“りく”(杉咲花)が、ハリマヤ足袋となって戻ってきた夫を迎えるシーンには泣きました。この時代の日本女性は、日本歴史のなかで最も悲惨な体験をもったかもしれません!

満州では、中立条約があるにもかかわらず突然のソ蓮軍の侵攻という国際条約違反で、多くの人が亡くなり、夢を失い人生のドン底に突き落とされた。日本人にとって決して忘れてはならない歴史であり、描かれてよかった。しかし、懐かしいとは思わない。

こんな辛い悲しいなかで、たとえ酒のため、女のためであっても(笑)、笑ってくれ!と満州の地で高座に上がる志ん生の心意気に感動です。終戦直後の混乱のなかで、生かされた命をどう使うか。孝蔵に変化が現れる回でした。

もう戦争の話はよして、オリンピックの話を聞きたいです!

***
脳出血を起こして倒れ入院中の志ん生、五りんが気を利かして酒を持ってくる。なんとウオッカを持ってきた。これはダメだろいと、満州での出来事を思い出し、五りんに話して聞かせる。

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昭和20(1945)年春、孝蔵は軍隊の慰問に1か月ほど満州にいかないかと誘われ、三遊亭圓生はこれを即決、孝蔵も酒が飲めると行く気になっていた。その晩、空襲で、家族が無事だったが、自宅が焼けてしまった。皆が反対したが、長女・美津子が家のことは心配しないで行っていいというので、「少年飛行兵になりたい」という長男・清を自分の弟子にして残し、満州に渡った。

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満州で、圓生と軍隊慰問と日本人相手の興行を続け、1か月予定が気がつけば2か月を過ぎていた。
大連の関東軍の部隊慰問を行っているとき、高座を終えた孝蔵のところに見知らぬ青年が訪ねてきた。それが学徒出陣でやってきた勝だった。
この日、孝蔵が「富久」を演じていた。これを見た勝が「主人公の久蔵が
走るホームがおかしい。短距離ホームだ。長距離ホームはこうだ。呼吸法がなっとらん」と言いがかりをつける。孝蔵が怒ると逃げ去った。

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7月、孝蔵と圓生奉天に渡り、新京の放送局から来た若い社員に出会う。小噺も歌も玄人はだしのその社員は、森繁久弥渡辺大知)と名乗った。森繁によると沖縄の日本軍は全滅したという。孝蔵は勝が沖縄に配置換えになると言っていたのを思い出し、彼も亡くなっただろうと思っていた。

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森繁によればソ連軍が中立条約を無視して奉天に攻め込んでくるという。
それから数日後、広島に、3日後長崎に原子爆弾が投下され、その噂が奉天まで伝わってきた。

8月10日、ソビエト軍が攻め込んでくるという情報が流れ、残留邦人たちが逃げ惑う中、孝蔵と圓生は路地で勝とぶち当たった。沖縄に向かうはずだった勝は、出発前夜、分隊長から「死にたいやつは行け!妻子を内地に残してきた者は今すぐ逃げろ、今なら見逃してやる」と言われ、軍服を捨てて逃げてきたという。「いい隊長に恵まれたな!」と孝蔵。

孝蔵と圓生は、このあと大連に戻って二人会をやることになっていて、ついて行きたいという勝に、圓生が「逃亡兵を連れていると、敵味方両方から狙われる」と断った。「俺たちはこっち、あんたはあっち」と別れたとき、突然中国人が日本人を銃撃する。自分たちにも銃を向けられたが、よく分からないが「次だ!」と言って逃げていった。小松の姿を見て逃げて行ったらしい。

3人はそのまま大連に行き、8月15日を迎えた。玉音放送を街頭のラジオで聞いた。中国人は大喜びで、ひっちゃかめっちゃかだった。
二人会を開く映画館に行ったところ、中は荒らされめちゃめちゃ。圓生が興行主から貰ったとウオッカの瓶が入った箱を抱えて戻ってきた。3人でそれを飲んだ。ウオッカに酩酊した勝が、四三とともに上京し、マラソン東京オリンピックを目指していたこと、あげんいい加減な男、働いているのを観たことがないと金栗を偲び(笑)、5歳になる息子がいることなど身の上を語った。「走りたか!走りたか!オリンピックは永久に来ない」と浴びるように飲んだ。

孝蔵が「引き揚げたら息子の噺を聞くのが楽しみだ」というと、勝は「息子がオリンピック選手になったらうれしいでしょうね」とつぶやいた。

二人会の当日、大混乱の中にもかかわらず、会場には100人ほどの客が集まった。どいつもこいつも暗い表情、話ばかり。
圓生が「居残り佐平次」という色っぽい噺で笑いを取る。どんなネタをやればいいかと孝蔵が考えていると、勝が「富久だ!」という。

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「これはケチつけられたからいやだ」というと、勝が「距離を伸ばせいい。浅草から日本橋までは4~5kmだが、久蔵が大騒ぎして走る噺だから、10kmにしたらいい」という。「そんなに走るやつはいない」と言えば、「俺が走っていた」と勝。孝蔵は久蔵の行き先を日本橋から芝に変えて、“ススハハ”と小松の走る振りを真似て、喋った。森山さんの熱演でした。

孝蔵の落語を思い出しながらの帰り道、ポストを見つけて、絵葉書に「志ん生の富久は絶品」と書き、ポストを投函した直後、ソ連軍兵士が乗ったトラックがやってくる。逃げる勝に機関銃の銃声が響いた。

路上に倒れている勝を見つけた孝蔵が駆け寄り「起きろ、起きろ」と促すが、動かない。ソ連兵の姿を見て、そのままにして戻った。落語を聞く人たちの笑いのなかで、この悲劇を描くという演出、孝蔵の無念さが伝わってくる、悲しいシーンでした。

五りんはこの話を、りくの元に戻ってきた勝の履いていた足袋を抱いて泣く姿を思い出し、亡き父が母りくに送った絵葉書を手にして泣いた。ここは貰い泣きでした。

志ん生は話を続けた。
ひどいもんだった。女はみんな連れて行かれ逆らったら自動小銃で撃たれる。いっそ死んでしまおうと残ったウオッカに手を伸ばすと、圓生に「せがれの高座、見るんじゃねえのか」と止められ、悔しさで瓶を叩き割った。

この頃k、内地では息子の清が高座に上がり一生懸命に喋るが芽が出ない。友人の万朝(柄本時生)も孝蔵はダメかもしれないと心配しだす。おりん(夏帆)は心配のあまりバー「ローズ」のマリー(薬師丸ひろ子)7に占をお願いに行くと「諦めろ!」と言われる。そこには生彩のない政治もやってきていた。

昭和21年1月、孝蔵と圓生は帰りの船を待っていたが、いつになるか分からない。圓生は小唄の師匠と所帯を持つことになり、孝蔵にも義太夫の師匠を紹介する。和服美人の写真を見せられ孝蔵もその気になって会ってみると、写真とはまるで違い、酒癖がひどく、孝蔵はほうほうの体で逃げ出した。(笑)
そこからが本当に惨かった。食うために何でもやった。

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昭和22(1947)年1月、引揚船が出ることになった。この2年間は芸の肥やしになった。もぅ2度と満州には来ないと孝蔵は思った。ところがそこに、中国人の服装で美川(勝地涼)が現れ、「昔がなつかしい」と思ったがそれどころでないと別れた。これには驚きです。

圓生とも離れてさらに極貧生活を続けた孝蔵は、昭和22(1947)年1月、ようやく引き上げ船に乗ることができた。圓生が2か月後に戻ってきた。

孝蔵が家族の元に戻ると、ありんと子どもたちが涙で迎えた。孝蔵は「また貧乏に逆もどりか。俺たちだけではない。日本が本当に貧乏になった。みんなでやっていけばいい」と高座に上がる。孝蔵の第一声は「ただいま帰って参りました!」で、富久を語り始めると、どっと座が沸く。
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「蜜蜂と遠雷」(2019) あちらの音をこちらの音に映像化、すばらしい!

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監督は「愚行録」の石川慶さん。松岡茉優さん出演作ということで、楽しみにしていました。クラシック音楽などとは縁遠いですが、クラシック音楽ってこんなにすばらしいんだと感動させてくれました。( ^)o(^ )

 

原作は直木賞本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸さんの同名ベストセラー作品。未読です。本屋さんを覘いてみると上中下3冊からなるボリュームのある作品。これに石川監督が挑むという注目作です。

あらすじ:
3年に一度開催され、若手ピアニストの登竜門として世界から注目を集める芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む4人のピアニスト。かつて天才少女と称されたが7年前に母を亡くし表舞台から消えていた亜夜、亜夜の幼なじみで名門ジュリアード音楽院に在籍する優勝候補最右翼のマサル、楽器店勤めで年齢制限ギリギリのサラリーマン奏者高島明石、そして謎に包まれた無名の天才少年・風間塵。彼らはコンクールを通して刺激し合い、それぞれが自分の音を見出し、・・・。

4人が絡み、影響し合い、短期間だけど、ピアニストとしての成長を見せるという脚本がすばらしい。

文字で書かれた音楽作品をどう映像化して、観る人に“俺はクラシックフアンになるぞ”と思わせる作品にするか?これが本作のテーマです。
音楽コンクールで競う4人のピアニストの演奏を聞くことで、「音楽は一瞬一瞬で消えていくけど、その消えていく音符を通して、聞いている人たちは“永遠”に触れている」という音楽の本質に触れる演出がすばらしい。音の世界のすばらしさに導いてくれます。

主役亜夜に松岡茉優さん、共演に明石役・松坂桃李さん、マルサ役・森崎ウィンさん、塵役・鈴鹿央士さんを配し、皆さんの表情を見ていれば、キャラクターの心情が分かるよう、感情豊かに演じてくれます。
さらに超一流のピアニストを配し、それぞれのキャラクターに添った演奏を披露してくれます。亜夜には河村尚子さん、マサルには金子三勇士さん、明石に福間洗太郎さん、塵に藤田真央さん。すばらしい音が耳に入り、鍵盤を叩く指先に魅入り、これまでの音楽映画とは一線を画しています。

****(ねたばれ)
冒頭、亜夜がピアノで「雨」を弾くときの感じがわからないといつぶやき、一時審査ステージに上がる前の、亜夜の笑みから物語が始まる。このつぶやきと亜夜の微笑みの変化が、作品のテーマです。4人のピアニストは、いろいろなシーンで笑みを見せてくれ、この笑みが、彼らの心情を的確に表しており、その変化を楽しむことになります。

4人は一次審査を経て2次審査へ。2次審査は課題曲「春と修羅」です。作曲は藤倉大さん。この曲には、演奏者が妙技を発揮できるようカデンツァが挿入されている。これを聞くことで、キャラクターのバックグランドが分かるというもの。
課題曲にどう挑むか。準備段階とステージでの演奏で描かれます。

塵は、海辺でイメージを膨らませながら、ピアノではなく、板の鍵盤を激しく叩く。
マサルは、海辺でランニングしたのち、ピアノで練習。亜夜は楽譜をゴミ箱に捨ててしまい、「あの音がどこにいったのかな」とつぶやく。

明石は練習時間がないとこぼしながら課題曲のことを妻・智子(臼田あさ実)に話すと「曲名が宮澤賢治の小説のなかにある」と言う。彼は「音楽は生活のある」という考えを持っていて、いろいろな情景を描きながらピアノを弾き妻の意見を求めていた。

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ステージでマサルは弾き終わり、大喝采を得るが不安そう。審査委員の一人でマサルの師匠であるナサニエル(アンジェイ・ヒラ)に“やった”という態度で意見を求めると「オクターヴのパッセージは危険だ。偉くなったつもりか。もっと完璧にたたけ!」と注意される。素人の私には、見事だと思いましたが。(笑)

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明石は、亜夜や塵が口ずさむように弾く。大きな拍手を得た。同じ曲でも弾く人によって全く異なる曲になることに驚きです。
明石の曲を聞いた亜夜はピアノを弾きたくなり、その夜、明石に紹介された調律師宅を訪ねて課題曲を弾いていると、そこに塵も訪ねてくる。「あなたはステージを下りるとき寂しそうに見える。私は誰もいないでも、野原でも弾く」と、ふたりで、月の光を浴びながら、「月の光」「月光」を連弾する。素人のわたしにもこの曲のすばらしさが伝わりました。(笑) 亜夜の顔に変化が出てくる。

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塵は養蜂家の父とともにヨーロッパに渡りホフマン教授についてピアノを学び、教授から「世界は音に溢れている、そんな音を聞きなさい」と言われ、音を探していると話す。
作品のタイトル「蜜蜂」は、音を求めて旅する塵、そして彼に触発されるピアニストたちでしょうか!

調律師が語る明石のピアノ評「かどがとれてきた。コンクールだとぼんやりしているけど浸み込んだ音だ」には納得です。

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こんな塵が作ったカデンツァは、ガチャガチャのすざましい曲。楽譜は心情を表現しているような尖った波形だった。これを聞いた審査員たちはきょとんとしている。明石は微笑んだ。塵は「楽しかった!ホールで弾くのが・・」と感想を漏らす。

最後に亜夜がステージに上がり、母と一緒にピアノを弾く記憶のなかで、楽しくて仕方がないという状態で弾き終わった。楽譜は白紙でした。これにマサルが「信じられない」と驚く。

二次審査を終えたところで、明石は「生活者の音楽は敗北でした」とインタビューに応じ、悔し涙を見せた。

4人は、冬の海に出かける。塵が砂浜に足跡を作り、ベートーベンと言えば、亜夜がアイネクと応じ、マサルは凄いねという。明石は「悔しいけどおれには分からない、あっちの世界は・・」と漏らす。

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塵が「何かが聞こえる?」と言うと、亜夜が微笑む。しかし、マサルには何も聞こえない。塵が示す方向に遠雷が、そして海が光る。

コンクール参加の4人は、相戦うというより、お互いの音楽を交差させながら、リスペルトして、自分の音を探してて、天才とは遠雷を聞き取る能力ということになります。作品のタイトル「雷雲」とは、求めてやまない音ということでしょうか?

本選はオーケストラとの共演です。指揮者は世界最高峰のマエストロ・小野寺(鹿賀文史)。審査前演奏で、マサルはフツートが合わないと3度やり直しを求めた。小野寺から、これ以上のやり直しを断られる。また、亜夜は演奏の途中で、母の死のショックで失った音のために、演奏が中断してしまう。塵は板の鍵盤を叩いての練習で指から血が噴き出す。それぞれが問題を抱え本選に。

本選当日、不安を漏らすマルサに亜夜が「踊るような気分で、さらおうか」と連弾してやる。これでマサルは自信を持ってステージに立った。弾き終わると万雷の拍手。小野寺も満足そうで、満面の笑顔でステージを去った。

亜夜は審査委員長・嵯峨(斎藤由貴)から「辞め時」と忠告されて、会場を後にしようとしていると、塵が激しく弾くピアノ音が耳に入り、母と一緒に弾いた音を思い出し、ステージに立つことにした。演奏を終えると、小野寺が祝福してくれ、塵が「いい音を見つけた」と笑顔で声を掛けた。亜夜も満面の笑顔だった。

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明石は天才たちの音楽を聞いて、自分は音楽が好きだということが分かったと微笑む。

コンクールの順位、一瞬、発表シーンを見たように思うのですが、思い出せない。(笑)
               
脚本・映像・音楽がうまく噛み合い、クラシック音楽って、こんなに楽しいぞとしっかり伝わる作品でした。主演の松岡茉優さん、繊細な感情演技でしっかり頑張りましたね!
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映画『蜜蜂と遠雷』予告【10月4日(金)公開】

「ジョーカー」(2019)  これしか生きる道はない、現在に通じる物語

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バットマン」のビラン、ジョーカーの生誕物語。アメコミ作品からから生まれた作品でヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞という話題作。これはもう観なければと駆けつけました。彼がなぜ巨大な悪のカリスマに堕ちたか?「ゴッサム・シティ」という都市のもつ世界感のなかで、貧困、就職難、差別、賤民思想、福祉・介護などいびつな社会構造に翻弄され、ビランに変貌していく心理過程の描写は見事で、こうなるのは当たり前だと納得です。ジョーカーを応援したくなります!

その社会構造は現在社会にも投影されていて、本作は、社会派エンターテイメント性の強い作品となっており、いわゆるアメコミ作品とは異なるところが評価されての受賞でしょう。

監督は「ハングオーバー」シリーズのトッド・フィリップス。主演はザ・マスター」「her/世界でひとつの彼女」のホアキン・フェニックス。共演にロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツらです。

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脳に傷をもつ主人公アーサー(ホアキン・フェニックス)のやさしい、気弱な男が、社会の不条理にもまれ、次第にジョーカー化していくところが見どころですが、「ゴッサム・シティ」の持つ雰囲気を出すロケーション、美術、そして、アーサーの心理状況を表すような音楽が一体となって盛り立て、すばらしいアート映画になっています。

****(ねたばれ)
頭に障害のあり緊張すると笑いの発作に襲われるアーサーは、母・ペニー(フランセス・コンロイ)から「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」と教えられ、芸人の道を志して勉強しながら、ピエロ姿で看板を持つ宣伝マンとして生活している。

TVニュースでゴッサム・シティのゴミ問題で市の職員がストライキに突入し、街がゴミの山と化していることを伝えている。ゴッサム・シティはまさに1970年代のニューヨークの街として描かれ、ペイントだらけの地下鉄の電車やホームに犯罪の匂い、不潔さ、治安不安、恐怖など当時を感じる見事な絵になっている。

アーサーが看板を持って立っているところに、3人組のストリート・ギャングがやってきて、嫌がらせで看板を取り上げ壊してしまう。この風景は今日でも観られる風景。彼は看板をとり返そうといてもみ合い、メタメタに殴られる。こんな不条理はない。彼はトイレで「どうしてだ」と泣いた。そして、店に帰ると、ピエロ派遣プロダクションの店長から看板を壊したと責められ首にするぞと脅される。
頭に傷のある彼にはあまりにも厳しい仕打ち。そんな彼に、用心のために拳銃を持てと仲間から拳銃を譲り受けた。

拳銃を持ったことで、彼の気持ちがすこし和らぎ、これを持って踊ってみる。踊りが、現状を抜け出すというアーサーの感情表現になっている。家では母親に食事をさせ髪を洗ってやるという孝行息子。わずかのアーサーの稼ぎでふたりは生活していた。ふたりでマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)のバラエティ番組を楽しみ、いつかこの番組に出演する日を夢見ていた。

小児病棟の慰問で子供たちを笑わせているときに、この拳銃を落として、これで店長から首を言い渡される。その帰りの地下鉄電車の中で3人のエリート・サラリーマンに揶揄われる少女を見て、救ってやろうと笑うと、その笑いが気に入らないと3人にめった蹴りされる。たまらず拳銃を一発発射して難を逃れたが、ホームを下りた3人を追って射殺した。このときは無音になり、彼は耳鳴りがして、走って逃げた。
「犯人はピエロだ」というニュースを見て、この社会ではやらねば殺されることがあるとアーサーは笑い、足が震えた。過剰防衛ではあるが、アーサーの苦しみを知ると許せるという気持ちになります!

彼は市のソーシャルワーカーにカウンセリングを受けていたが、予算削減でこれが受けられなくなり、精神安定剤の交付が受けられなくなる。彼の精神安定に致命的な影響を与える。

ナイトクラブもコメディーを見てネタを仕入れ、コメディアンクラブでステージに立つが、全く笑いがとれない。彼のネタ帳には、「人生以上に高価な死を求める」という落書きが遺されており、彼の心は何時しか死が蝕んでいた!

こんなときに母がTVでゴッサム随一の富豪トーマス・ウェイン(ブレッド・カレン)が市長になったことを知り、「アーサーの面倒を見て欲しい」という手紙を書いてアーサーに投函するよう頼む。が、アーサーはこれを開封して見た。これを知ったアーサーはトーマス邸を訪ねるが、使用人にバカにされ、父親であることが確認できない。コンサートホールに忍び込み、トーマスに会うと俺は父親でないと殴られる。

母に確認しようとするが精神病の再発で緊急入院。母がかって入院していたアーカム州立精神病院を訪ね、管理人を脅して手にいれた資料には、養子縁組で虐待され、あげくにネグレクト。母親とは血の繋がりはない。これを知ってアーサーは泣いた!

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これまで恋人関係にあると思っていたアパートの隣人・ソフィーに救いを求めるが、出て行ってと断られる。薬が切れたことによる幻覚であったとは!

アーサーは入院中の母親を訪ね、俺は人を笑わせことはできないと首を絞め殺した。
そして、地下鉄の殺人事件で警察が訪ねてきて困るという社長をハサミで首を刺して殺し、ピエロ姿で街に出た。

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警察官がこれを見つけて追ってくる。電車に乗ると、客が皆、ピエロの面をつけている。アーサーは、市当局に反感を持つ人たちのシンボルになっていた。たくさんのピエロ面を着けた人たちの中に身を隠して逃げ切った。

アーサーは、全く自分が望んだことではなく不条理な社会に翻弄され、悪い方に悪い方へと運が傾くが、なんとか耐えようとしてきた。しかし、遂に限界を迎える。

アーサーが望んでいたマレーからのTV出演依頼が来た。マレーはアーサーの拙い喋りを逆手にとって、喝采をとっていた。

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アーサーは、ステージの袖で踊って、「ジョーカー」と呼ばれステージに。ジョーカーは自分でつけた芸名だ。

マレーのネタを見せてくれに、ネタ帳の「人生以上に高価な死を求める」を見て、「地下鉄で3人殺した!と告白する。マレーが「人生のまさかの喜劇だ」と言えば、「善悪を主観で判断するな」と返事。「それが殺人の理由か」というマレーに、「おれの映像を流して人気を取ってくるおまえこそ、くそくらえだ!」と拳銃で撃った。

TVでこれを知った市民が街に出て、暴動となり、ウェイン夫妻が殺された。護送される車にトラックがぶつかり、意識を失っていたアーサーは群衆によって救い出され、ボンネットに立って口を両手で広げ、笑顔を作った。大歓声のなかで、アーサーは英雄となった。

アーサーは精神病院のカウンセラーに「理解できないだろう、これが人生、冗談みたいだ」と語り、殺害して、姿を消した。

アーサーは死にたかった。これしか生きる道はない。あるとすればジョーカーとしての道。
ホアキン・フェニックスが、24㎏の減量でガリガリの肉体となり、苦悩で苦しむアーサーを見事に演じてくれ、一生モノの作品になりました。


映画「ジョーカー」オンライン60秒(ストーリー編) 2019年10月4日(金)公開

“いだてん”第38回「長いお別れ」

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嘉納治五郎役所広司)の死によって求心力を失う組織委員会日中戦争が長期化するなか、1940年の東京オリンピック開催への反発は厳しさを増していく。追い詰められたIOC委員の副島(塚本晋也)は招致返上を提案するが、嘉納に夢を託された田畑(阿部サダオ)は激しく葛藤する。金栗(中村勘九郎)の弟子、勝(仲野太賀)はりく(杉咲花)と結婚するが、戦争が2人の将来に立ちはだかる。同じころ、孝蔵(森山未来)は志ん生を襲名する。

感想:、
昭和14(1939)年に第2次世界大戦が、そして昭和16(1941)年12月、太平洋戦争が勃発。日本でのオリンピック開催は夢と消えた。ロサンゼルスオリンピック前に、嘉納治五郎東京オリンピックを夢見て完成させた神宮外苑競技場で修学半ばの大学生を戦場に送るセレモニーをするという、オリンピックの理想と全く異なる光景を前に政治が慟哭し、「ここで必ずオリンピックをやる!」と決意した気持ちが伝わってきます。

なぜこうなったのか?戦争の経緯は全く描かれないが、陸軍の梅津美治郎中将(千葉哲也)が、聖火リレーを行うことについて、紀元2600年の記念行事である東京オリンピックで異国のギリシャから火を借りるなど言語道断だと言ったという、バカにもほどがあります。軍発表には「嘘でも喜べ!」と何も考えず万歳、万歳と手を上げた。こんなバカな時代があった。
こういう人たちに戦争が指導されていたという事実が描かれたのはよかった。

小松勝とりくは結婚し、子供を授かった。しかし、勝は東京オリンピックの夢を諦め、陸軍兵士として戦場に赴くという。りくは母・シマを失い、次は夫を失うかもしれない。
りくが千人針に5銭(五輪旗)を縫い付けた手ぬぐいを渡して泣く。「必ず生きて帰るのよ」というスヤの言葉に皆が泣いた。
皆は勝の運命を知ってか知らずか、泣きながらバンザイと見送った。りくのあまりにも悲しい運命に泣いた。当時、日本にはこういう女性が大勢いたことを思うと、あまりにも惨い。

昭和18年ごろの、勝てない戦争に、戦死することを知りながらバンザイと叫んだこの悔しさに、市民の悲しみはよく描かれている。
平和と“長いお別れ”、戦争への激しい怒りを感じる回でした。戦場の惨さを描くことなく、二度とこのような愚かな戦をしてならないと訴えるところがよかった。

***
昭和13(1938)年、嘉納治五郎を失った日本スポーツ界は力を失っていった。横浜港で、オリンピック旗に包まれた嘉納を棺をゆかりに人たちが出迎え、皆が泣いた。清さん(峯田和伸)は「オリンピックを見せくれねえのか」と泣き、政治は平沢(星野源)から渡された治五郎のストップウォッチが何時に押されたのかと気にかけ、四三は「必ずオリンピックをやる」と誓った。

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居酒屋に永井道明杉本哲太)、可児徳古舘寛治)、野口源三郎永山絢斗)、田畑が集まり酒を飲み、治五郎を偲んだ。
可児が「嘉納さんはさっさと死んでずるいよ!あんた国技発揚のためにオリンピックをやれ」と田畑にけし掛けると、「嘉納治五郎がいかに偉大だったか証明してやる」と言明した。しかし、その後のオリンピック委員会は迷走を続けた。

東京オリンピック東京大会組織委員会では、
陸軍の梅津美治郎聖火リレーに異を唱えた。紀元2600年の記念行事である東京オリンピックで、異国のギリシャから火を借りるなど、言語道断だというのだ。
スタジアムは依然として決まらず、東京市長牛塚虎太郎(きたろう)が12万人収容の駒沢競技場の建設を提案すると、大量の鉄骨を使用することに梅津が反対した。

副島(塚本晋也)が田畑と東龍太郎(重松豊)に、IOC委員長のラトーゥルから私信が届いていることを告げた。イギリスとフランスが正式に東京オリンピックのボイコットを申し出たのだった。
副島は「返上しよう」と言い、その場で近衛首相に電話をかけようとした。田畑が「やらないってことはゼロだ。成功すればプラス。失敗すればマイナス、でも返上はゼロだ。これでは何も残らない何も学ばないことなる。嘉納さんはやって欲しいんじゃないか」と電話するのを止めた。
副島が「嘉納さんはもういない」という。治五郎のストップウオッチを出して「
ここにいるんだ。総理に電話するなら戦争を止める、一時停戦だよ」と喰って掛かったが、副島は「君が持っており。いつかやれる!」と止め津態度を変えなかった。

副島は近衛首相に電話し、7月14日、政府は正式にオリンピックの中止を決定した。
副島は「売国奴と呼ばれても後悔はしない。返上が半年遅れたら、どの国でも開催できない。このたびの責任をとりIOC委員を辞職します。いつの日はアジアで、願わくばこの東京で、オリンピックが開かれることを夢見て」と書き送った。

政治は神宮競技場で練習する四三と小松を訪ね東京オリンピック返上を伝えた。四三は「耐え忍びますが、小松が・・」という。政治が小松に「返上、走らんでよい」と伝えると「まだ、ヘルシンキがある」と意気込む。
政治はストップウォッチを捨てようとしたが、動いているのでやめて、大切に保管することにした。

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昭和14(1939)年9月1日、ヒトラー率いるナチドイツ軍はポーランドに侵攻した。これにイギリス、フランスが宣戦布告し、第2次世界大戦が勃発。世界中が戦争に巻きこまれた。

ハリヤマ製作所では四三(中村勘九郎)、スヤ(綾瀬はるか)、辛作(三宅弘城)が勝を囲んで話し合っていた。四三が「東京オリンピックも中止となり、ヘルシンキもおそらく中止になるだろう。熊本に帰ったらどうだ」と言い出すと「箱根がある」という。四三が「競技場の軍事教練はスポーツでない、心気臭で!」というと辛作が「何年も置いてやってんのは楽しいからだ。バカみたいに笑え!」と怒り始める。この時代、笑うことがなくなっていた。すると、スヤが「あんたもオリンピック中止になったとき同じことを言っていたよ。勝さんには東京に残りたいわけがあるでしょう」とりくに話を向ける。

勝がちょっと走ってくると駆け出すと、りくが自転車で後を追った。坂道を走る勝にりくが伴走し、追い抜こうとしたところで勝が「りくちゃん、俺と一緒になってくれんね!」と叫んだ。りくは返事もせずに全力疾走し。勝は必至に追いかけた。これスヤと四三の出会いに同じ。(笑)

しばらくして、ハリマヤで勝とりくの結婚を祝うささやかな宴が開かれた。
男手ひとつでりくを育てた増野(柄本佑)は、亡き妻・シマ(杉咲花)を思って「大切にしなかったら殺す」と泣き出したり、勝をどなりつけたりと大騒ぎだった。(笑) 

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翌年の秋、りくは金治という男の子を産んだ。

同じころ、孝蔵は古今亭志ん生を襲名した。古今亭志ん生を継いだ者は代々短命であり、先代も長く患ったあと、50で亡くなっている。おりんが「50ならあと1年、さんざ貧乏して、ようやく内職しないで人並みの生活ができるぐらいになったのに」と涙ぐむ。孝蔵は「早死にするというが、法律でもあるのか?そんなものは、御破算にしてやる」と言い放った。

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昭和16(1941)年、
志ん生が寄席にくると「紺屋高尾」を山崎松雄(中村七之助)が喋っていて、それを憲兵が聞いている。「付き馬」が禁止、いや大半が禁止という状況に志ん生が怒る

昭和16(1941)年12月8日、日本海軍のハワイ・真珠湾攻撃により太平洋戦争が勃発。大本営発表では連勝連戦と報道されたが、戦況が正確に伝えられることは次第になくなった。軍発表には「嘘でも喜べ!」と何も考えず万歳、万歳と手を上げた。こんなバカな時代があった。
箱根駅伝も2年連続の中止。明治神宮富士浅間神社駅伝という長い名の駅伝、これには小松も参加した。

兵力不足が清国化した昭和18(1943)年には、学徒出陣が決定した。20歳以上の文科系大学生が徴兵対象となった。
これにより、勝も出征することになった。ハリマヤで食卓を囲みながら、四三が「無理してでも熊本に連れ帰っていたらよかった」と口にした。勝は「そしたら、金治も生まれてこなかった」と金治の顔を見た。
そこに、増野が現れ、勝に「約束を破った!」と掴みかかる。柄本さん登場でいっぺんに戦時下ムード。すばらしい演技でした!

これを救ったのが
「バッテン、バッテン」と騒ぐ子供たちと金治の笑顔だった。増野が「立派に戦ってお国のために」と言い、りくが千人針の5銭(五輪旗)を縫い付けた手ぬぐいを渡して泣く。「必ず生きて帰るのよ」というスヤの言葉に皆が泣いた。

勝は「金治が3歳になったら冷水浴をさせて欲しい」と四三に頼み込んだ。
増野の「勝君バンザイ!」に、皆は勝の運命を知っていてか、泣きながらバンザイと見送った。
昭和18年ごろの、勝てない戦争に、戦死することを知りながらバンザイと叫んだこの悔しさに、市民の悲しみはよく描かれている。

10月21日、出陣学徒壮行会が神宮外苑競技場で開かれた。オリンピックを呼ぶために治五郎が建設したスタジアムから、学生たちが戦地へと送り出されるのだった。当時の壮行会の写真がカラー処理され、うまくドラマに合うよう加工されていて、リアルだった。

田畑は「競技場にこんなに入るならオリンピックが出来た。残念」とスタンドから学生たちの行進を見ていた。田畑は、河野(桐野健太)の姿を見つけ、あとをつけて「これで満足かね、河野先生。俺は諦めん、オリンピックはやるぞ、必ず、ここでな!」と告げた。

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小松が、スタンドのりくに目線を送って、軍靴を響かせ消えていった。東條秀樹総理大臣のバンザイで今回の幕。二度とこのようなことがあってはならない!!
                             ***

「地獄の黙示録」(1980)

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「アド・アストラ」(2019)の作品について、監督・製作・脚本を務めたジェームス・グレイは、「地獄の黙示録」から着想が得たと語っています。さほどに、映画史に残る名作ですがすでに記憶が遠のいている。というわけでNHK・BS録画(2016)を引っ張り出しての観賞です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/地獄の黙示録

監督はフランシス・フォード・コッポラ、出演はマーロン・ブランドロバート・デュヴァルマーティン・シーンらです。

かってベトナムの特殊任務にあたっていたウィラード大尉(マーティン・シーン)が、再びベトナムに現れ、軍上層部から殺人鬼と化したカーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺を命じられ、4人の部下を連れ、異様な戦場の光景を目にしながら、哨戒艇で川をさかのぼって大佐を見出し、任務を達成するという物語。
ベトナム戦におけるウィラード大尉とカーツ大佐の戦場心理を追いながら、実はこの戦に隠された米国の闇を描き出しています。

この闇が、この国から消えたか?今日的な課題として、再びこの作品が見直されているのではないでしょうか。

戦場心理を問う作品ということで、カーツ大佐の心が鬼畜になったわけが類推できるよう、ベトナム戦の有名な逸話が映像化されており、リアルで、迫力がある。
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空中騎兵中隊の戦闘。
ウィラード大尉の援護が目的だが、サーフィンをするためにと、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」曲を鳴らし、大騒音のなかで村を襲撃する。たったひとりの少女のテロ行為に、狂って撃ちまくるヘリ編隊。

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このあと、波の高い海岸を求めて、サーフィン。
中隊長・キルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)は、戦場は自分の思うがままだという。ナパームでふっとんだ光景を思い出し、ナパームの匂いこそが彼の心は癒すという、彼の神経は麻痺している。
部下はこの隊長の「本国に帰れるぞ」の言葉に心躍り、命ぜられれば何でもやる。戦争をゲームのように楽しんでいる。
本国に一度戻ったことのあるウィラード大尉には、本国はベトナム反戦運動で、激戦に耐えた彼らを歓迎する状態にはないことを知っている。国民から支持されない戦争を行うことで、目の前のベトナム軍だけでなく、後方からも国民によっても苦しめられる。もはや、第一線部隊の士気を保つために、この愚行で凌いでいる。どう見てもこの戦争はおかしい!狂っている。

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ちゃくちゃです!自由を守るという作戦目的を達成するために、第一線部隊に具体的に任務が与えられているのか、兵士が狂ったのか。

民間船の臨検。
さらに河を遡る途中で、出会った民間船が武器を運搬してないかと臨検。ベトコンの恐怖を知る兵士による臨検は、犬が騒ぐだけで、機関銃を撃ちまくる。
兵士が撃たれ瀕死の少女を後送しようとするが、ウィラード大尉が自ら射殺する。これをなじる兵士。ウィラード大尉はさらに奥に進む任務があると受け付けなかった。カーツ大佐と同じ地獄に落ちたと感じる。この戦場に人間愛など存在しなかった。

プレイメイトによる兵士慰問。
アメリカ軍の前線拠点陣地、戦闘で痛めつけられた神経を癒すための女性ダンサーたちの基地慰問。ヘリで運ばれステージに立ち、兵士に腰を振って煽る。慰安どころか、兵士は女を見て興奮状態に追い込み、その激情が暴発する直前にヘリで飛び立つ。兵士には吐き出せない鬱感情が残るだけ。こんなことで兵士の士気を保てないことが分かっていても、これをやり続ける狂った戦争指導者たち。

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ベトナム最前線陣地。
敵の照明弾が上がれば、機関銃をぶっ放す兵士たち。ウィラード大尉は指揮官を探すが見つからない。だれが指揮しているのか。自分たちの恐怖を取り除くために戦っているだけだ。映画「野火」と同じだ!

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異常な戦況に適応できず同行した4名の兵士のうち2人が、麻、恐怖で発狂し亡くなった。

ベトナム国境を越え、カーツ大佐に接触
カーツ大佐は現地人や兵士のなかで、王国を作り暮らしている。いたるところに処刑した人が吊るされているという、異様な不気味さが漂う。

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ウィラード大尉は捕らえられ、拷問にかけられ、牢で入れられる。過酷な責めに耐え抜いたウィラード大尉は、牢から放たれ、カーツ大佐からなぜ自分が王国を作ったかを聞かされる。
ベトナム人の子らにポリオのワクチン注射を打ち、救ったと思ったが、この子たちの腕が切り落とされたのを見て、彼らの闘争心には勝てないと、すべてが恐怖!恐怖!恐怖!だと語る。
エストポイント出身、朝鮮戦争を経て、ベトナムで功績をあげながら、38歳でレンジャー隊員資格を取得したカーツ大佐。なにもせずとも将軍になれるであろうに、なぜ38歳でレンジャー資格を必要としたか? 異常な恐怖心があり、エリートだけにこれを隠すためにレンジャー資格をとり、特殊任務で多くの功績を挙げながら、彼の精神は侵されていったのではないか。将校が他のベテラン隊員を差し置いて、戦闘指揮するに必要な資質は何か?

カーツ大佐は、カメラマンを抱え、沢山の写真を撮らせていた。この事実を本国に伝えて欲しいとウィラード大尉に頼む。カーツ大佐は何を恐れていたのか?
ウィラード大尉は、与えられた任務どおりに、異常な戦場をいろいろ体験し、迷うこともあったが、カーツ大佐を暗殺した。
                
町山さんの解説によれば、マーロン・ブランドがアクション演技できる状態でなかったためにこの結末になったということですが、これでよかったと思います。
               ****


『地獄の黙示録 劇場公開版』 予告編

 

“いだてん”第37回「最後の晩餐」治五郎の夢のオリンピック

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嘉納治五郎役所広司)は開催が決定した1940年東京オリンピックの準備を勧めるが、日中戦争が始まった日本ではオリンピック反対論が沸き起こる。理想のオリンピックとは程遠い状況に激しく葛藤する田畑(阿部サダオ)を金栗四三中村勘九郎)が訪ねる。オリンピックへのふれる思いを語り合う2人。嘉納はエジプトでのIOC総会に参加し日本開催を危ぶむ声を封じ込める。帰国の船で乗り合わせた平沢和重(星野源)に、自らの夢を語るが・・・。

感想:
ストックホルムオリンピックからオリンピックに関わり、日本でのオリンピックの開催の意義を世界に認めさせた嘉納治五郎。日本開催に責任を持つと公言しただけに、時代は変化しその意義を失っているにも関わらず、引けなかった。しかし、嘉納治五郎の名前だけで説得できたという、これが凄い。エジプトからの帰りの船で、自分の夢見たオリンピックを語る姿は涙ものでした。
病気で亡くなったが、すでに嘉納は死んでいたんですね!オリンピック旗にくるまれた棺に、涙しました。政治に贈った時計は時を止めるなという遺言、政治の涙にも涙でした。

小松とリクは恋に落ちていた!次回「長いお別れ」、「神宮競技場には雨が降っていました・・」というナレーション。小松の夢が戦争で消えるという悲劇を見ることになりそうですね。
戦争とオリンピック。平和の有難さを感じさせてくれる、いいドラマになっていると思います。

***
長嶋選手が生まれたころ東京オリンピック開催に意義を申し出るひねくれ者が現れた。
昭和12(1937)年、河野一郎桐谷健太)が国会で、「一触即発の日中関係のなかで平和の祭典。国防費のためにと国民に我慢と緊張を求める一方で、オリンピックというお祭りを開催する。このことが説明できないなら開催する資格がない」とオリンピック開催反対の狼煙を挙げた。

1937年7月7日、盧溝橋事件で日本と中国が全面戦争に入る。
委員会を開催するが、副島(塚本晋也)の「神宮競技場でいい」いう意見に、「ヒトラーのオリンピックを見て、こんなこじんまりしたものは出来ない」と治五郎が反対。ここに至っても、オリンピック開催会場さえも決まらない。

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バー「ローズ」、河野と政治。河野が「何故陸軍軍人を委員会に入れた、オリンピックを利用しようとしている。平和なオリンピックなど出来るわけがない」と政治を責める。政治は「そんなことは分かっている。もう、聖火ランナーの準備、オリンピックマークなど着々と進んでいる」と治五郎の気持ちを伝えた。

しかし、街の中は、出征兵士を送る日の丸の旗に溢れていた。だれもが戦争はすぐ終わると考えていた。が、

播磨屋。この年、辛作(三宅弘城)の妻が亡くなっていた。ツヤ(綾瀬はるか)が熊本から上京してきた。ツヤはリクを見て驚いたが、小松勝(仲野太賀)とリク(杉咲花)が恋していることに気付く。

8月、副島は近衛文麿にオリンピック開催の危機感を訴えた。500万の追加予算が認められないなら返上するもやむなしと。
開催委員会が開催され、副島が「日本は参加できない。名誉ある撤退を!」と訴えた。治五郎は「何が何でもやる」とこれを一蹴した。

政治は水泳選手育成の遅れを指摘すると野口(永山絢人)は「3年あるから何とかなる」と返事。これに怒る政治。選手たちが「出征しているなかで本当にオリンピックが来るのか」と不安がり始める。
河野が多くの者が出征しているのに、派手なユニフォームで練習するとはと怒りを露わにする。

四三が新聞社に「河野さんはどこに。東京でオリンピックは出来るんですか?」と飛び込んできた。「本当にやるんですか?1916年のベルリンオリンピック。自分は絶好調のとき戦争でダメになった。あの時よりイヤな感じ。戦争やっている国で平和の祭典は矛盾じゃないですか?」と聞く。

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政治は「兵を送り出す記事を見ながら、聖火コースを考えている。矛盾だ」と言えば、「今、選手たちは真暗くなっても走っている。梯子外される選手の苦しみ、夢を無くした選手の悲しみ、分かるでしょう。小松を走らせたいんです」とさらに問う。「スポーツに矛盾はつきもの。、なぜ走る、何故泳ぐ、答えはない。オリンピックしかない、戦争で勝つのではなく、これで勝ちたい」と政治。

これに応えるように小松は、四三、リクに励まされ、練習を励み成果を出していた。一方、政治も水泳選手に発破をかけていた。

12月、南京占領。日本は国際社会のなかで益々孤立化していった。政治の頭の中は戦争とオリンピックのことで大混乱。妻・菊枝(麻生久美子)から「カッパのまーやんに戻ってください」と気合を駆けられる始末。(笑)

オリンピック反対の声が高まる中で、治五郎はエジプトで開催されるIOC委員会出席に出発する準備をしていた。
副島が熱病で参加できないという。治五郎は「競技場も定まらず、報告すべきものは何もないが、日本は大国、済々堂々と引き受ける。嘉納最後の大芝居だ。付いて来ないか?」。「返上するなら同行する。返上してください。潔よく認めれば戦争が終わればもう一度オリンピックを開催できる」と泣いて訴えた。「返上しない!」と治五郎。

こんなことを知らず、四三と小松は走り続けていた。

カイロIOC総会。治五郎は四面楚歌、針の筵の上に座る思いだった。中国代表の王正廷が返上を求めてきた。治五郎は何も答えられない。返す言葉がなかった。全く情けない。

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「30年IOC委員を務める私を信じて欲しい。政治に関係ないオリンピックを証明して見せる。精力善用、逆らわずして勝!」と深く頭を下げ、改めてオリンピック開催が認められた。

開催されることになり、河野が政治に「違和感があるだろう」と聞く。「分かっている。日本は政治とスポーツを別にするなど考えられない。お国のためのオリンピックはいらない。しかし、嘉納さんは世界に認めさせた。やるしかない!河野助けてくれ!」と政治。

カイロからカナダを経由しての帰る途中で、治五郎は平沢平沢和重(星野源)に出会った。平沢がのちに1964年東京オリンピック開催立候補趣意説明演説を行った人。

出会ったのは食事のテーブルで。その時はステーキを食べ「精力善用すると疲れがとれる」と元気だった。横浜まで13日間お付き合いをしたという。しかし、時化で疲れが出て姿を消したが、数日後現れたとき、「人生で一番楽しかった時はなんですか」と聞き、自分の楽しかったこと話はじめた。

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「羽田の予選会でいだてんが現れたこと、日の丸を持ってストックホルムオリンピックに参加したこと、ロサンゼルスオリンピックで沢山の日の丸が上がり君が代を聞き俺は日本人だと叫んだこと」。
平沢が「一番は東京オリンピックではないんですか」と聞くと「それだ!一番おもしろいことをやる。東京で出来るということを、西洋人にあっと言わせてやる。みんなが驚く。オリンピックを見事にやって見せる。これが一番だ!」とそれは楽しそうに話したという。

昭和13年5月14日、太平洋沖で、嘉納治五郎は亡くなった。享年77歳だった。
ラトゥールは「氏はもっと永く生きて、氏の生涯の夢であった東京オリンピックを見るべきであった。この東京オリンピックこそ、氏が日本のあらゆるスポーツを今日の高き標準に引き上げるため費やした永年の労苦に対する報酬であったであろう」と追悼文を寄せた。

横浜に着いた治五郎の遺体と面会した政治に、嘉納先生からの預かりものだと懐中時計が渡された。時計が動いている。嘉納の気持ちを受け継げということだと「オリンピックはやる!」と政治は泣いた。嘉納治五郎の棺はオリンピック旗で包まれていた。

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