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「アステロイド・シティ」(2023)宇宙人の出現で絆を取り戻す家族劇とこれを演出する舞台裏!

 

ウェス・アンダーソン監督といえば、私にとっては「犬が島」(2019)。あの色彩、絵の構図、ユーモア、テーマ性、日本通であることが忘れられず、映画COMの案内で、観ることにしました

ところが本作ちょっと違った。案内と違う

話が頭に入らず眠くなる(笑)監督作品だから何とか見終えようと何度も目覚めて挑戦し、やっと見終えました。(笑)

眠くなる原因はセリフが難しい上に話すスピードが速く、さらにセリフが多くて頭に残らない。翻訳に問題があり?とも思いました。(笑)もうひとつは映画案内に全く触れられていない、劇中劇とその舞台裏が描かれ、その繋がりが分からない。苦労しました!(笑)

さて観終えてしまうと、やはり監督作品は面白い!痛快でした

19050年代、砂漠で宇宙人との遭遇を描いたSFコメディですが、年代が映画「オッペンハイマー」に被り、核の匂いがプンプンする。どちらも難解だ!(笑)

さらに驚いたのは時代の匂いが今の時代に似ているということ。監督の製作企図はどこにあったのかなと妄想しています。

監督・脚本:ウェス・アンダーソン原案:ウェス・アンダーソン ロマン・コッポラ撮影:ロバート・イェーマン、美術:アダム・ストックハウゼン、衣装:ミレーナ・カノネロ、編集:バーニー・ピリング アンドリュー・ワイスブラム、音楽:アレクサンドル・デスプラ

出演者:ジェイソン・シュワルツマンエドワード・ノートンティルダ・スウィントンらアンダーソン監督作の常連俳優陣に加え、スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーらが参加。

物語は

1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーなど、参加者たちがそれぞれの思いを抱える中で授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽する中、子どもたちは外部へ情報を伝えようとするが……。(映画COM)

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。


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あらすじ&感想:

冒頭、劇中劇「アステロイド・シティ」を放送する“チャネル8“の司会者(ブライアン・クランストン)が番組紹介で「新作劇の創作過程を舞台裏から見ていきます」と作品紹介するシーンから始まる。「アストロイド・シテイは架空のドラマ。登場人物もキャストも空想、起きる出来事も作り話。テキストも空想。起きる出来事も作り話。でも、現代演劇の内膜を忠実に反映している」と。

このコメントな何だ?劇中劇より大切なのかも知れない

スタッフ、キャストの紹介があって、

アストロイド・シテイは人工87人の砂漠の町。座席12の軽食堂、ガソリンスタンドがひとつ、10棟のモーテル。核実験場があるが、5000年前の深さと直径が30mの隕石衝突クレーターがあり、これを観光施設にして天文台が設置されている。

落下記念日には毎年青少年から宇宙活動に貢献するアイデアを募集して“青少年ジュニア宇宙科学賞”を付与、最優秀賞には奨学金を贈呈することになっている。物語は1955年7月から始まる

劇は3章からなりカラーで適時、舞台裏がモノカラーで描かれる。

劇の開始

戦場カメラマンのオーギーが車で長男のウッドロウ(ジェイク・ライアジ)と三人の幼い姉妹を伴い、ウッドロウの宇宙科学賞受賞式に参加するためにこの町にやってきた。車の調子がおかしいのでガソリンスタンドでチェックすると廃車になった。義父のザック(トム・ハンクス)に迎えを依頼したがサックは不機嫌。というのは、オーギーは3週間前に妻を亡くしたが、いまだそれを子供たちに伝えておらず、ザックは子供を引き取れないこと。

オーギーは伝え方が分からず申し訳なかったと妻の死を子供らに話し「お爺ちゃんがいるから大丈夫!」と伝え、「ここにいる」と妻の骨壺を見せた。

オーギーを演じるジェーンズ・オールは脚本家コッラド・アープ(エドワード・ノートン)が見出した俳優で元は大工だった。ふたりはレズの関係にあった。

宇宙科学賞受賞者は5名で、他の受賞者たちも家族とともに、そして式典を見物する生徒たち、カーボーイたちもやってきて、町が華妬いてきた。

食堂でオーギー家族は女優のミッジ(スカーレット・ヨハンソン)とその娘ダイナ(グレイス・エドワード)に出会った。オーギーがいきなり食事中のミッジを、いつもの癖で、カメラに収め揉めたが、戦場カメラマンということで収まった。こうしてふたりのお付き合いが始まった。

授賞式が始まった。テーマは小惑星の日。1955年強いアメリカのために”と示されていた。

ギブソン元帥(ジェフリー・ライト)が、元帥は黒人、ここまで登りつめるための苦労を披露したのち、「諸君の脳と精神で未知の領域に踏み出せ」と挨拶した。その後、受賞者たちが各々自分の製作作品を説明、展示した。

ウッドロウは“天体への画像投影の研究”とその装置。ダイナは“燃料の宇宙線”とその物質。この他に航空誘導での成果“と空中散歩装置、・・等。

この後、町のツアー、そして食事会は始まった。

宇宙人は居るのかが問題になり、ギブソン元帥から応募作品から派生した特許及び発明品はアメリカ政府のものだという発言があった。

受賞者たちとその父兄の集いが始まった。ウッドロウは人見知りで仲間に加われなかったが、ダイナが仲間に引き込んでくれた。ウッドロウはダイナに魅かれていった。

ミッジを演じるメンセデスは劇団から抜けカリフォルニアに向った折、演出家のシューベルト(エイドリアン・フロディ)が「君が居ないと劇団が潰れる」と呼び戻しに向かわせ、連れ戻したのがウッドロウを演じる男だという。

オーギー家族とミッジ親子のモーテルが道路を挟んで向かいあった。ミッジが入浴前で、窓超しにオーギーを見つけ、脚本の離婚シーンを読みながら「写真撮って!」と誘う。オーギーがミッジのガウン姿を撮った。

オーギーの娘たちは道路に母親の骨壺を、お祈りしながら埋めていた

そこにお爺ちゃんのザックが現れ止めようとするが、孫たちの「私たちを虐めたら生贄にする」の言葉で、「いずれ牧場に連れ帰る」と止めた。ザックは妻を亡くし孤独で孫たちと一緒に暮らしたいと考えていた。

夜の天体観測会が始まった

ヒッケンルーパー博士(ティルダ・スウィントン)の指導の元天体観測会がクレーターで始まった。そこに宇宙船が出現し、ひとりの宇宙人が会場に降りて展示している隕石を奪って宇宙船で去って行った。このときオーギーが宇宙人をカメラに収めた。会場は大混乱。

宇宙船がグリーンの光の中で降下するシーンが美しい。これは演出家のシューベルトの工夫で出来たもの。彼は妻に三行半を言い渡されてもここが居場所と劇場に住みついて頑張っていた。(笑)

民兵が出動し町は厳戒態勢に入った

ギブソン元帥が「緊急措置計画X」で地球外惑星の知的生命体と不測事態が発生した場合の手順を示した。健康診断、心理テスト、FBIによる聞き取りが始まった。

ウッドロウとダイナはヒッケンルーパー博士の天文台で衛星を捜索していた

「盗まれた隕石がダミーだから、衛星は必ず現れる」と捜索していた。ダイナが「ママは鬱陶しい!地球外の方が楽だ」と言い、これにウッドロウが「俺も同じだ」と賛成した。(笑)

オーギーたちはモーテルに缶詰め状態だった

オーギーが窓から向かいのミッジに宇宙人の写真を見せた。ミッジは「それはいい、ヌード写真を見せて」と言う。(笑)ミッジは「いい写真」と褒め、自分が男たちから暴行を受けた話をして「貴方も戦場で傷を負いながらその痛みの深さを見せない。私と同じだ」という。オーギーが「そうだ!」と同調すると、ミッジの部屋をザックが訪ねていた。(笑)

ザックがオーギーに「孤独の中で学んだ。愛する人に純粋・誠実であることの大切さだ」と同居を勧めるが、オーギーは「かまわないでくれ!」と断った。

表彰者のひとり“宇宙散歩装置”を製作したリッキーが歩哨兵を騙して家族に事態を知らせニュースになった。

ここから第3章になるが、脚本家のコンラッドは劇団のゼミで「登場人物の皆が人生の心地よい眠りに訪れる幻覚的な神秘を体験させたいが描けない」と意見を求めた。

テーマは“人生の心地よい眠り”で最終章をどう締め括るか

男性団員が「マッサージ台で死ぬ役で終りまで本当に眠った」と発言。(笑)これには「睡眠は死ではない」と反論、団員たちで場面の外枠から入ってゆっくり夢の中に入る練習をした。ここは全く分からなかった。(笑)

ギブソン元帥がリッキーに「反逆罪だ」と言えば、リッキーは裁判で戦うという。ギブソン元帥の締め付けに反対して軍隊と衝突するものが現れてくる。

そんな中でオーギーとミッジはモーテルの窓越に会話をしていた

ミッジがオーギーを相手に苦手のセリフ練習を始めた。「壊れたものを壊す」とオーギーがト書きを読むと、ミッジが「壊してよ!」という。ミッジは電球を割った。ミッジが「昨日、窓から入るあなたをダイナが見た。あの子は口が堅いけど私たちは発展しない」と言う。オーギーがこれに反対しふたりは揉め、オーギーが側にあった電熱器を手で叩き火傷した。

ウッドロウはヒッケンルーパー博士の協力を得て、宇宙人を誘う投影像を送った。それに何の反応もなかった。

ギブソン元帥が奨学金付与者を定めるとクレーター会場に関係者を集めた。

そこに宇宙船が現れ宇宙人が降下し隕石を返して去って行った。隕石が破裂した。ウッドロウが自分の発明装置でその瞬間の隕石の写真を撮った。そこにはウッドロウとダイナの文字が付いたハートマークだった。(笑)会場は軍隊が衛星を追い大混乱となった。

ジェーンズはミッジと顔を合わせ「オーギーは何故火傷したのか、この芝居が分からない」と舞台裏に入り、演出家のシューベルトに意見を求めた。彼は「少し作り込み過ぎた。申し訳ない、役を超えてオーギーが乗り移っている」という。ジェーンズが劇場のベランダに出ると、カットされて出番がないオーギーの妻役の女優(マーゴット・ロビー)に出会った。彼女がカットされたセリフ「あなたに新しい母親がいると話した」という。

初日から半月ほど経ったころ脚本家のコンラッドは事故で亡くなっていた。しかし登場人物の皆が人生の心地よい眠りに誘われる幻覚を体験していたおかげで舞台は続けられていた。

ラストシーン、厳重隔離が解かれ、参加者がそれぞれ自宅に帰ることになった

オーギーはザックから「ミッジは元マネージャーと法科だ」と聞かされた。そして妻の遺骨は子供たちの「ママはここの土の中にいる」の願いで、ここに埋葬することにした。ザックも認めた。

オーギーは子供たちと一緒にザックの農場に戻ることにした。ウッドロウは奨学金を手に入れダイナのために使うという。オーギーにはミッジから私書箱の住所が教えられた。

まとめ

オーギーと子たち、義父のザックは一緒に住むことになった。やっと戦場カメラマンのオーギーが心に愛を、家族の絆を取り戻すことができた孤独を避けるというザックの願いも叶った。家族とは何かがしっかり描かれていた。

妻の遺骨のは子供たちがお祈りして土に戻し、深く母の愛を胸の中に仕舞いこんだ。死とはなにかも子供に分るよう描かれていた。特に子供たちの宗教心、母への想いがよく伝わる作品だった。何しろ3人姉妹の可愛らしさにはやられた。

舞台劇のテーマは脚本家コンバットが劇に託した“人生の心地よい眠り”。この意味はよく分からなかったが、オーギーの家族の物語を通して、こういうことなんだと理解した。

この作品にはもうひとつのテーマがある

舞台裏で描かれる脚本家、演出家の生き様、そして俳優たちの役割と絆。脚本家がなければ劇に精神は吹き込めない。演出家がなければ脚本家の精神は生きず、俳優も作品のもつテーマを表現できない。俳優たちの演技力とその持てる力をさらにアップさせるスタッフとの絆。

オーギーを演じるジョーンズ・オールはホモでありながら4人の父親役を演じるが最後に子供たちと一緒にどう生きていくかに迷う。カットされたシーンを演じた女優に会い、彼女のせりふを聞いて自分の演技が固まるシーンや脚本家コンラッドは亡くなっても彼の残した精神を頑なに追及す演出家シューベルトの演出など、劇に携わるみんなの協力で演劇が成立していく過程が面白く描かれていた。

スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーの演技が、最初誰か分からなかったが、ウェス・アンダーソン監督色に染まっているのもテーマのうちのひとつ、面白かった!

なぜここまで舞台裏を描いたか。Chat GPTの出現やハリウッドの最近の動きに危惧したのかなとも思った。

劇中劇のラストは観光で生きようとしたアステロイド・シティが宇宙人騒ぎで人が居なくなり核実験の町になる。ギブソン元帥の“強いアメリカ”演説、宇宙人対策はまるでトランプ元大統領の移民阻止対策だと思った。ということで“きな臭い”現在アメリカ社会を妄想した。(笑)

ポップで暖かい、ユーモアのある絵で、観ているだけで楽しめるが、やはりストーリーは分るとその良さが引き立つもっと分り易いものして欲しい!(笑)

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