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「理想郷」(2022)閉鎖社会の野獣たちにどう立ち向かう?いかにして理想郷を手に入れる!

 

スペイン・フランス合作作品。「閉鎖的な地方のコミュニティーにおける差別と対立をスペインで実際に起きた事件」を基に映画化した心理スリラー。

第35回東京国際映画祭で東京グランプリ(最優秀作品賞)、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞を受賞した作品。これで観ることにしました

原題は原題:As bestas(野獣たち)。理想郷のためにこの野獣たちにどう立ち向かうか?これをホラーっぽく描き、理想郷って何だと考えさせられる作品だった。身近な問題でもあり興味深く観ました

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン、脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン イサベル・ペーニャ、撮影:アレハンドロ・デ・パブロ、編集:アルベルト・デル・カンポ、音楽:オリビエ・アルソン。

出演者:「ジュリアン」のドゥニ・メノーシェ、「私は確信する」のマリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン、他。

物語は

フランス人の夫婦アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)は、スローライフを求めてスペインの山岳地帯ガルシアにある小さな村に移住する。しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、穏やかとは言えない生活を送っていた。隣人の兄弟は新参者の夫婦を嫌い、彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく。そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐって夫婦と村人の意見が対立。夫婦はここを安住の地とすることが出来るのか。


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あらすじ&感想

冒頭、「ガルシア地方の男は野生の馬を素手で捕まえ印をつけて再び野に放つ」と紹介し、3人の男が馬を捕らえ首を締めあげる映像から物語が始まる

 村の唯一のパブで、男たちがドミノゲームをしながらエロワという男の違法取引を話題に村の結束を訴える男シャン(ルイス・サエラ)。シャンはアントワーヌの隣家の長男でフランス人のアントワーヌに反感を持っている。ナポレオンまで持ち出してフランス人を嫌う。

パブでコーヒーを飲むアントワーヌに「挨拶ぐらいしろ」と嫌悪感を露わにする

 アントワーヌは教員を辞めて、自然の中で自由な人生を送ろうと夫婦で移住し古民家を改造した家に住み、化学農法で生産した野菜を町の市場で販売して生活をしている。将来は古民家の再利用で村を復活する構想を持っていた。

 夫婦仲はとてもいい。池で水浴を楽しみ、お揃いの椅子で自然を感じながら読書するという、小さな牧場を営む隣家のシャンには「このブルジョアが好き勝手に暮らして!」と見えた。

朝、アントワーヌが町に出掛ける途中で車が故障。通りがかったシャンが乗せてやるとドアーをあけ、乗せるふりして走り去る。

パブでコーヒーを飲むアントワーヌをドミノゲームに誘って、「フランス人は大嫌いだ」と言い、アントワーヌが有機農法と観光事で成功しても自分は受け入れない、さらに自分たちが進めている風力発電機の誘致にアントワーヌが反対することに怒りをぶつけて来た

シャンは「ここは私の故郷だ!」というアントワーヌを無視した

フランス人であることや風力発電反対に対する嫌がらせ、さらに宅地に酒ビンが投げ込まれ、お揃いの椅子に小便を掛けられた。

アントワーヌはシャン一の暴言や悪行を警察に訴えた。しかし、警察は証拠もなく「これはご近所騒動だ」と本気に取り上げない。

アントワーヌはビデオカメラでシャンの行動を撮影することにした

手始めにシャンの農場に入り込み、シャンと弟のロレンソ(ディエゴ・アニード)がアントワーヌを罵倒する会話を録音した。すると、夜中に屋外で騒ぐシャンの声に、妻のオルガが怯える。

アントワーヌがパブで飲んでいるとシャンが「フランス人は猫を食べる」」と挑発する。

アントワーヌがカメラで隠し撮りすることに妻のオルガが「諍いが拡大する」と心配する。アントワーヌのやり方を“やりすぎだ”と批判するオルガの忠告は的を得ていると思う。

オルガはチョリソーを持って訪ねてきて農作業を見てくれる地主のペピーニョと心を通わせていた。しかし、アントワーヌは彼と話そうともしない。

アントワーヌはシャンの車を追った。シャンはガソリンスタンドでバッテリーを買った。いいがかりとつけてこれを映像化しようとして、見つかり唾を掛けられた。アントワーヌは唾を掛けられたことに恨みを持った。

菜園のトマトが腐る事件が起こった。アントワーヌは鉛素でやられたと井戸を調べ2コのバッテリーを発見した。このことでアントワーヌのシャンに対する怒りは頂点に達した。オルガは再度撮影を止めるよう促した。

アントワーヌは隣家に抗議に行った

馬に蹴られて頭がおかしくなったシャンの弟ロレンソにトマト被害を白状させようと挑かかった、そこにシャンと彼の母親が現れ掴み合いの喧嘩になった。ローレンが猟銃を持ち出したので喧嘩は収まった。

地主のペピーニョが訪ねてきて「村は風力発電機を誘致したいと考えている。村の皆は金のことしか頭にない」と知らせにやってきた。アントワーヌがこれに反対すると「ここはよそ者には厳しいぞ!」と忠告した。それでも「山羊のチーズには時間がかかる」というアントワーヌの質問に「山羊より羊を飼え!チーズの量が増える」と知恵を与えて帰っていった。

夜、オルガが「貯金が底をついた。隣家との諍いを考えると不安」と漏らす

しかしアントワーヌは「逃げたくない」と言う。オルガは「彼らには失うものがない。カメラ撮りを止めて!」と訴えた。アントワープは「他に方法はない!仕方がない」と言い返す。これにオルガは「他にいい解決策はないの」と返すと「羊を飼わないか」と勧めた。

ペピーニョの甥のグレイショが「ペピーニョが投票権を行使すれば風力発電機誘致が決まる。急がないと他の村に取られる。ここの住人は仕事がない。貴方たちは余暇で村に来ているだけだ。村びとはあなたの計画は理解できない。やりたいなら他の場所でやればよい」と誘致賛成の説得にきた。

アントワープ夫妻は村の集会に参加しての帰り、夜道で猟銃を構え待ち伏せするシャン兄弟に脅された。オルガは激しい恐怖に晒された。

アントワープはパブでシャンに自分の考える村の復活計画を説得することにした

ここは両者の考えがしっかりと描かれ面白いシーンだが長い!(笑)まとめると、

シャンの考えはグレイシが伝えたことと同じだった。

両者が折り合うことはない。アントワープは「補償金だけでは生活は賄えない。ノルウエーの会社が儲かるだけで、あなたたちが騙されている」と説得を試みた。シャンは「売春婦に臭いと嫌われる身分だ、金が欲しい」と言い、「ここは俺たちの故郷だ!あんたが村を去ろうとしても金がないと言うのはあんたの責任だ」と言い捨て、店を出て行った。

アントワープ村八分状態に陥った

そして森の中、犬のティタンを連れて散策中にシャン兄弟が現れた。アントワープは襲われる気配でカメラを落ち葉で隠し作動状態で兄弟に立ち向かった。冒頭のガルシア地方の男が野生の馬に印をつけるように首を絞められ殺害された。犬のティタンがローレンに懐いているのがなんともむなしいシーンだった!

ここから後段に入る

妻のオルガは犬のティタンを伴ってアントワーヌを捜し続けた

地図に捜索した区域を記入し警察に捜索を訴えるが、「捜索したが見つからない」と回答あるのみ。自分で探すしかないと決意した。

雪の季節になったオルガはグレイショと一緒にビニールハウスで野菜をつくり、ひとりで野菜を売って生活していた。隣家との交渉はない!

娘のマリー(マリー・コロン)が母オルガを心配して訪ねてきた

シングルマザーのマリーは「ここは無法地帯で危険だ!一緒に暮らそう」とフランスに帰ることを勧めた。オルガは「そういうところではない!シャンは真実が明かされることを恐れていて怖くない」というが、マリーにはこの感覚は理解できない。マリーは「精神科では現実を直視できない心に傷を負っている人だと言われる。知人もお明かしいという。パパが敷いた人生を歩いているだけだ!パパに支配されている」と説得した。しかし、オルガは「違う!これが私の人生!いつかあなたも愛を見つけて!人の心が分かるようになる!」と娘の誘いを断った。

しばらくの間、マリーはオルガの夫探しやペピーニョと一緒にしるビニールハウスでの菜園作業を手伝い、父が残したフルムを見た。そこには嬉しそうに菜園作業に励む母の姿を見た。

春になりオルガはアントワーヌが言い残した羊を飼うことにした

オルガはマリーを連れて市場で羊を買う。横柄な仲介人にも負けず、必要な羊を手にする。また近寄るシャンをぴしゃりとはねつける。この強い母を目の当たりにしたマリーは「ママが羨ましい」とフランスに戻って行った。

オルガが雪の消えた森の中を捜索していてビデオカメラを発見した

「このあたりにアントワーヌはいる」と警察に訴えた。警察の捜索が始まった。

警察から「発見した、遺体を見るか」と知らされたオルガはシャンの母親を尋ね「息子さんが刑務所に行くことになる」と伝えた。母親が「どうすればいい」と聞く。オルガは「わたしもひとり、ここで暮らす。必要なことがあれば」と援助することを申し出た。

そしてアントワーヌに会うためパトカーで出発。不安そうなシャンの母親を見て、微笑んだ!「ここで亡き夫と不安なく一緒に生きるぞ!」と。 

まとめ

実話に基づき“閉鎖的な村への移住”の問題点を細かく分析して描かれた作品。

これをホラーっぽく見せる。そして夫の視点で前段を、妻に視点で後段を描き、異なる視点で問題点を見せ、解決策を見出そうとする監督の意図に感銘を受けた

前半は、夫アントワーヌの視点で描かれる

自分が望む理想の故郷を作るため、風力発電誘致で補助金を得たい原住民らと対立を「いかにしてどう原住民と折り合いをつけるか」が描かれた。パブでのトークバトルは見せ場だった!

アントワーヌは自ら村人を交わろうとしない。妻のオルガが何度も諫めるが、隣近所のシャンらの子細な悪戯を警察に訴えて解決しようとして両家の関係が悪化した。悪化した中での説得。これに自分の考えが絶対に正しいと上から目線で臨む。この態度で住民の協力を得ることは無理だと思った。ここは「人を見て法を説く」釈迦の教えと、忍耐が必要だ!

後段は妻オルガの視点で描かれる

娘マリーと「ここで生きる」というオルガの激しい絡み合い。その中でマリーは「母は父への愛でここに生きる」と見つけ「羨ましい」と伝えた。そしてオルガは自分でアントワーヌの遺体を見つけ、結果としてシャン兄弟を刑務所に送るが、シャンの母に援助の手を差し伸べる。これならオルガは安心してこの地を故郷として生きていけると思われる。

オルガの生き方に「いかにして理想郷を手に入れるか」の回答が提示されたように思う

ホラーで見せるところがいい。理想郷がそうではなくなるのを強調するかのごとくに。スペインの田舎はホラーっぽかった。登場人物、嫌な雑音と余って、怖さがつき纏う。特にドゥニ・メノーシェの巨体は生かされていた。(笑)

この作品は瀬々敬久監督作「楽園」(2019)と同じテーマを取り扱っていると思った。が、本作の背景がフランスとスペイン、これにノルウエーの風力開発会社が絡むことで国際的な問題として捉えられる。これがすばらしいと思った。

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