観たい作品でしたが風邪で遅れ、やっと観ることが出来ました。
山田風太郎の小説「八犬伝」の世界を、8剣士の活躍で描く“虚構”パートと、その作者滝沢馬琴の創作の真髄に迫る“実話”パートで描くというもの。
予想した以上に面白かった。八犬伝を読んだことはないが、馬琴の生き様、「虚の世界でも書き続ければ実の世界だ」と正義を描き続けた人生に感動しました。馬琴と北斎の友情に笑い、馬琴を支える家族の絆に涙しました。
監督・脚本:「鋼の錬金術師」の曽利文彦、原作:山田風太郎、未読です。撮影:佐光朗、編集:洲﨑千恵子、音楽:北里玲二。
出演者:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、立川談春、黒木華、寺島しのぶ、他多数。
物語は、
人気作家の滝沢馬琴(役所広司)は、友人である絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に、構想中の新作小説について語り始める。それは、8つの珠を持つ「八犬士」が運命に導かれるように集結し、里見家にかけられた呪いと戦う物語だった。
その内容に引き込まれた北斎は続きを聴くためにたびたび馬琴のもとを訪れるようになり、2人の奇妙な関係が始まる。連載は馬琴のライフワークとなるが、28年の時を経てついにクライマックスを迎えようとしたとき、馬琴の視力は失われつつあった。絶望的な状況に陥りながらも物語を完成させることに執念を燃やす馬琴のもとに、息子の妻・お路(黒木華)から意外な申し出が入る。
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
“虚構”パートと“実話”パートの時間配分はほぼ同じ。しかし、ストーリーとして、“虚構”パートは力を入れて描かれているが飾り物みたいなものだから、“実話“パートで話を進めます。
※「南総里見八犬伝」の書き出しから物語は始まる。
飢餓に苦しむ里見に里。3年まえ飢餓で苦しむ際に助けた恩を忘れ、隣接の領主・景連が攻め込みすでに1カ月にもなろうとしていた。里見の領主・義実(小木茂光)は霊験ある犬・八房に「伏姫を嫁にやるから景連の首を獲って来い」と命じた。みごと八房は任務を果たし、景連の城は落ちた。影連を操ったとして女狐・玉梓(栗山千明)の首を跳ねた。玉梓は「里見を呪い尽くしてやる」と怨念の炎となり消えた。伏姫(土屋太鳳)は里見家の安泰のため八房に嫁ぎ懸命に玉梓の霊を解くべく祈った。八房から伏姫を取り戻そうと義実の家臣が八房を銃殺、散弾を受けた伏姫は死の間際に「玉梓の怨霊を解けなかった。祈りを込めた八つの珠。この珠を持つ者を探し出し里見家を安泰して欲しい」と「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の八つの珠を空に放った。
〇馬琴はこの物語を北斎に語った。北斎は「石頭に、よくこれ程のものが書ける」と驚いた。
北斎は物語を3枚の絵で表現し馬琴に渡すと、馬琴は「挿絵を描いて欲しい」と熱望するも、北斎は絵師の柳川重信を紹介し、自分が書くことを断わった。そして3枚の絵で鼻をかみ、捨てた!(笑)
この時期、馬琴は売れっ子作家で、藩主が話を聞きたいと駕籠を差し向ける程だった。馬琴は忙しいとこれを断わる。断りはひとり息子の鎮五郎(磯村勇斗)の役目、彼は馬琴の執筆校正も引き受けていた。馬琴は鎮五郎を武士にしたい夢があった。元々馬琴は武家の出でだが、下駄屋の娘・お百(寺島しのぶ)の婿になった人。こんな馬琴にお百は優越感からか文句たらたら。(笑)
※八犬伝の続き、
義実の家臣、考の珠を持つ犬塚信乃(渡邊圭祐)がお家安泰のため関東菅領・扇谷定正に水をも切れる名刀春雨を献上するために旅立つ。
許嫁の浜路(河合優実)が同行したいと言い出し、これを断わっていると、漁をする浜路の義父が川に落ち、これを助けに川に飛び込んだ信乃が溺れ、彼を助けたのは信乃家の下僕・大川荘介(鈴木仁)で、義の珠を持っていた。 (笑)信乃は寝ている隙に浪人に村雨をすり替えられた。一方、浜路は義母に縁談を勧められ逃げることにした。ややこしい、こんな話、分からない。(笑)
名刀春雨の争奪を巡り、珠を持つ男たちが引き合い寄って来るという話です。
〇北斎が訪ねて、この話は面白いと言う。
どこが面白いか?(笑)北斎は重信の絵を馬琴が気に入ったか確認に訪れた。馬琴はよく売れていると満足そうだった。北斎が「なぜ書くか?」と聞くと「虚だから、家族は実だ」という。北斎は「家族は虚だ」と答えた。北斎は八犬伝の続きを画いて馬琴に見せた。馬琴が欲しがったが「重信に悪い」と破いた。北斎は馬琴の虚の世界で遊んでいたかった?
鎮五郎は医者の免許が許され名を宗伯と変えたが、まだ禄がいただくまでにはないという。
※八犬伝の続き。
浪人が持つ春雨を浜路が奪って逃げる、浜路を追って来た宗介が浪人を斬った。そこに犬山道節(上杉柊平)が現れ浜司から村雨を奪い火遁の術で消えた。道節が忠の珠を持っていた。
信乃が関東菅領・扇谷定正に刀を献上すると偽物と見抜かれ、定正に憑りついている玉梓に「里見の反乱!」と進言され、信乃が逃亡。屋敷の屋根で斬り合った男・犬飼現八(水上恒司)と共に利根川に落ちた。現八は信の珠を持っていた。
〇北斎はこの話を聞き、「浜路と伏姫が可哀そうだ」という。(笑)
ここは実話と虚構のパートが合っている。(笑)馬琴は「ここから正義を書くから問題ない」と言う。「鉄砲を持っているのか?」と聞くと「室町の話しだから鉄砲はないが、虚の世界だから持たせてもいい」と答えた。馬琴は「正しい者が勝つ世界を書く」という。「世間はそうでない」と問うと「だから書く。別の世界を味わって欲しい」と答えた。馬琴は「一発で物語が書けるような絵を描いてくれ」と求めると、北斎は一枚の絵を描き「富士を描く旅に出るから帰る」とこの絵を持ち帰った。(笑)馬琴はこの絵を見て、衝撃を受けた。
※八犬伝の続き、
利根川に落ちた信乃と荘介は犬田小文吾(佳久創)に救われた。彼は悌の珠を持っていた。扇谷の追っ手が迫っているので、3人は逃げた。山道で伏姫の珠を捜している里見家家臣・金碗大輔に出会い、珠の持つ意味を教えられ、急ぎ残りの珠を捜すことにした。
〇北斎は「虚の世界」が気になり、馬琴を中村座で興行されている鶴屋南北の歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」に誘った。
「東海道四谷怪談」から始まり、間に「仮名手本忠臣蔵」を挟む、二日間の芝居だった。松の廊下のシーンで「お待ちを」とお岩(尾上右近)が吉良の裾を引いている。(笑)「これは何だ、辻褄が合わない」と馬琴。芝居は2日間続いた。芝居が終り、菊五郎の案内で奈落を見せてもらいことになった。
奈落の天井に鶴屋南北(立川談春)が張り付いていた。馬琴が「怖い芝居だったが、辻褄が合わない」と南北に話しかけた。南北は「こうしないと四谷怪談の上演をお上が許さない」と言う。「悪人の話しになぜ勧善懲悪の物語を持ってくる」と問うと南北が「四谷怪談は怖い、実の話だから。忠臣蔵は虚だ。正義の話は虚にしかない」と答えた。馬琴が「お岩の世界は有害だ」と言うと「有害の方が意味がある」と返した。馬琴は「帰る!」と奈落を出る。南北が丁寧に「お許しのほどを」と頭を垂れた。
馬琴は「正義は虚にしか存在しない」が気になって仕方がなかった。
※八犬伝の続き、
道節は村雨を扇谷定正に献上した。定正は大いに喜び夜の宴席に道節を招待した。宴の観覧席に八剣士のうち道節を覗いて5人が参加していた。宴たけなわとなり定正がひとりの舞妓を招いた。この舞妓は智の珠をもつ犬坂毛野(板垣李光人)で、舞妓が定正を斬りつけ、これを見た八剣士が定正に駆け寄り、会場は大混乱。道節の火遁の術で、逃げ切った。
北斎は「富嶽三十六景」を持参し馬琴邸を訪れた。馬琴に「版元の関係で遅れているだけ」と何気ない答えだった。北斎は富士の絵を見せると「どこにこの力がある」と驚き、「南北の言った言葉が気になる」という。北斎は一枚の絵を描いて頑張れと渡した。取り戻して破ろうとすると北斎が破いた。北斎は「こんどは富嶽百景を描く」と帰っていった。
北斎は帰りにタドンを母と一緒に作る宗伯の嫁・お路(黒木華)を見て、よく働くいい嫁だと思った。お百は「世間に会った作品を作ればいいのに」と相変わらずの小言を言っていた。
宗伯が寝込むようになった。それでも北斎の原稿校正だけは止めなかった。どんどん弱っていく宗伯にお百は「馬琴がいびった影響だ」という。これを聞いた馬琴は「恐ろしいことだ」と嘆いた。
※八犬伝の続き、
金碗大輔が八剣士を連れて里見に戻った。そこには浜路もいた。浜路は鷹に攫われた義実の娘だと分かり義実は大いに喜んだ。大輔の進言で藩として扇谷定正を討つことにした。(どこにも北斎が悩んだという形跡はない)
〇宗伯の病を見舞に渡辺崋山が馬琴邸を訪れた。
見舞のあと、馬琴は南北の言葉「正義は虚の世界だ」に悩まされていると話した。崋山は「私は八犬伝を読み励まされている。書きつづければそれは実になる」と励ました。
宗伯は亡くなった。馬琴は「自分より早く死ぬとは申し訳ない」と嘆いた。
〇北斎が絵を描いたと渡すと馬琴がいい画だと喜ぶ。
北斎は何も描いてなかった。馬琴が全盲だと分かった。馬琴73歳。忙しいからと邸をあとにした。
北斎は「漢字が書けない者には無理だ」と断ると「昨年から学んできたので分からない字は教えてくれればよい」と言いう。北斎はお路に漢字を教えながら八犬伝を描いた。妻・お百の死にも「やらねばならぬ仕事がある」と書き続けた。何度も挫折しそうになりながら仕上げた。お路の字は北斎と同じような字になったと言われている。
※八犬伝の続き、
里見軍は海から攻めた。陸に上がり、八剣士が坑道から城に侵入し、定正と玉梓を天主閣に追い詰めた。玉梓が定正を突き落とした。信乃は他の剣士に定正を追わせ、自らは玉梓と対峙した。玉梓は「ひとりでは叶うまい」と呪い術で信乃に挑んできたが、信乃は8つの珠を投げてこれを打ち破った。
まとめ:
「八犬伝」という奇想天外な物語。すごい作品だと知りました。28年をかけて全98巻という長期の執筆活動。よき補助者の息子・宗伯を失い、さらに盲目となるという苦難に遭遇するが、これを克服するのに宗伯の嫁・お路の助けがあった。何よりも、崋山の言葉「虚の世界であっても書き続ければ実の世界になる」が支えになった。
鶴屋南北の「四谷怪談」を見物し、南北と馬琴の“今の世に正義は存在するか”の論争シーン、これは秀逸だった。この時代に南北という変哲の戯作家がいたということにも驚いた。芸術の自由さ、これこそが虚の世界だと思った。
北斎が馬琴を訪ねてくるのは馬琴の虚の世界に嵌れるからだ。
“実話”パートの馬琴と北斎、
役所さんと内野さんの演技、両名とも皮肉屋で口が悪いが思いやりがある、何とも言えない友情を感じる演技、とてもよかった。役所さんの老いていく、妻や息子の死に見せる表情がいい、名優です。馬琴を婿にした嫁・お百の寺島しのぶさん、板に付いた年上女房の演技もよかった。(笑)一押しはお路の黒木華さん、控えめだが意志が固い、目立たないところでしっかり存在感を見せる、すばらしかった。
“虚構”パート。
馬琴の描く「八犬伝」の凄さを芝居で見せようと、派手なパフォーマンスとVFXで壮大な物語として描かれるが、断片的な繋がり、登場人物も多く、分かり辛い。安っぽくなった。物語を知らない人には分からない。馬琴の苦悩はどこにあったか。“虚構”パートの意図は何かを問いたい。
悪を象徴する玉梓の栗山千明さんの怖さ、これは怪演でした。すばらしい!(笑)
ラストシーンは馬琴が八剣士に見送られ笑顔であの世に行くシーン、「死を虚の世界で迎えるのはいいかもしれない」と楽しみました。
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