映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「ザ・フォーギブン 襲撃地帯」(2022)理不尽な流言飛語で警察に潰される村落、国家の闇が見える!

 

ニュージーランド製作作品。2007年、ニュージーランド東部の先住民マオリ系住人が暮らすルアトキ集落で、警察特殊部隊による行き過ぎた強制捜査が行なわれ、やがて国家を揺るがす大論争や激しい抗議デモを巻き起こした。本作は、ニュージーランド国民に深い傷を残すこの事件をもとに、住民側の視点から事件の顛末を映画化した作品だという。しかもルアトキは観光スポットらしい。

 事件の背後にいかなる闇があるかと大いに興味をそそられた

 古い昔の日本の田舎のように、自然が一杯で人は穏やかで絆の強い村が、噂や流言のため、官憲の理不尽な襲撃を浮けるというなんとも痛々しい物語だった。しかし、この村には住んでみたいほどの魅力を感じた。

 最近観た「福田村事件」(2023)に匹敵する作品だか、小難しいことを言わず、ミステリアスなストーリーでアクションを見せるところが素晴らしい。

期待した事件の背景は隠されているが推察できる。目立たない作品だけにタイトルが残念だ。原題はMuru。タイトルが分かり難い。襲撃地帯は不要だ。観たくなるようなタイトルが欲しい!

監督・脚本:テアレパ・カヒ、撮影:フレッド・レナータ、編集:ジョン・ギルバート、音楽:マフイヤ・ブリッジマン=クーパー。

出演者:アバター ウェイ・オブ・ウォーター」のリフ・カーティス、「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」のジェイ・ライアン、「ホビット」シリーズのマヌー・ベネットシモーヌ・ケッセル、リア・テ・ウイラ・パキ、タメ・イティ。

物語は

ニュージーランド軍の特殊部隊が、テロリストが潜んでいるとして先住民マオリ族の村を襲撃した。警察官タフィが政府と村人たちとの間で板挟みになる中、思わぬ誤解から暴力の連鎖が始まってしまう。(映画COMより)


www.youtube.com

あらすじ&感想

冒頭、字幕で「ニュージーランド警察は本作の見解を否定している」と示される。さらにこの作品は「被害者の認識である」と断わりがついている。当局の介入を避けるために付けたと思うが、よりリアリティがある話だと感じた。

10月13日夜、16歳の少年ラスティがキングスレイ少年院から出所した

長老のタメ(タメ・イティ)とラスティの両親、村人の有志が彼を出迎え、ラマ(決起)のためのアジトでラスティの出所を祝っていた。タメはベトナム戦争に参加した後帰国して武装集団を創設したらしい

タメが「我々オラオエ族は月をも喰う星のような部族だったが迫害を受け、人々から忘れ去られようとしている。存在を示したいなら車に旗を取り付けはためかせ!俺の名前を出せば値引きしてくれる」と檄を飛ばす。

両親は弁護士では果たせなかったラスティの出所がタメのよってかなえられたことに感謝。そして全員で“ルア・ケナナ”を歌う。マウナ・ポハトウ村から警察に連れ去られた先人ルア・ケナナ、トコ・ケナナを鎮める歌だ

ラスティが父親不在時に逮捕され少年院で虐待されたことに拳銃を振りかざして悔しがり、これを鎮めるためにひと騒動あった。

この状況を警察本部の幹部警官キミオラ(マヌー・ベネット)が暗視カメラで録画・監視し謀議だと判断した

 

警察本部の局長が「タメを謀議犯として逮捕する」に決した

局長はキミオラでなく幹部警官のギャラガー(ジェイ・ライアン)に警察特殊部隊指揮官を命じた。キミオラにはこの人事に悔しさが残った。

10月14日

朝、巡査部長タフィ(クリフ・カーティス)は腎不全の父を残して通学バスで子供を学校に送るために出勤した。地方勤務警官は警官業務の他にこういう業務を兼務するというのは面白い!

タフィは生徒を集め学校に送る途中、父の腎臓透析のため家に立ち寄ると、そこにタメが父親の病気見舞に訪れていた。父はかって武装集団のリーダーだった。ベトナム戦争にも参加した経歴を持つ。タフィはタメからラマに参加するよう促された。

少年院を出所したラスティが4輪駆動車を駆ってドライブ中、河川の中で立往生。車を捨て、馬を盗み走り出す。

警察本部の指示で地方の女性警官ブレイク(リア・パキ)がラスティを捜索していて4隣駆動車を発見するが、本人が見つからない

タフィが生徒を学校に届け終ると老人たちを健康診断車が待機する広場に輸送するよう依頼された。そこでブレイクに出会い「家に寄って親の様子を見てくれ」と頼んだ。こうやってお互いを庇いながら仕事をする。

バスが広場に着くと、なんとバスにラスティが忍び込んでいた。彼はここで彼女に会うために潜んでいたらしい。(笑)医者のフーン先生から明日のマウナ・ポハトウ村での診察業務の援助を求められた。警察は何でも屋なんだ!(笑)

タフィは元妻のハラダを呼び出しラスティのことで話そうとするが「捨てて出て行ったくせに!」と話しに応じない。ラスティはタフィの子だった。

ブレイクがラスティを捜していて不審車に跳ねられた

そこにバスで通りがかりのタフィがブレイクを救出した。ブレイクの負傷はわずかで勤務には支障なかった。タフィが逃亡車は警察本部の車と確認し、11時30分警察本部に報告した。

ブレイクを撥ねた車は警察本部監視チームの情報通信車でギャラガーの現地入りに備え、この村に配備されるものだった

ギャラガーがセスナ機で現地に到着

ギャラガーは情報通信車で局長の指示「ここ半年の間、タメたちは戦闘訓練を行っている。監視チームは26種以上の重機を破壊した。近いうちにテロが起きる。タメは若者を勧誘し首相の暗殺を計画している」を聞く。

ギャラガーがマリアに「タフィはタメの一味か」と聞く。マリアは「今の段階では判断できないがラマには参加している映像がある」と答えた。

ギャラガーはタフィの電話報告(1130)「同僚がそちらの人間に襲われた。なぜこの村に通告なく入り込んだ。理由を聞かせてくれ」を見て、マリアに「タフィを追跡しろ!監視対象だ」と指示した。

タフィはタメと自宅で会ったこと、バスにラスティが乗っていたこと、さらにこの電話で“敵性分子”と判断された

ギャラガーは「タフィが敵に回ると暴動になる」と局長と協議に入った

夜、自宅のタフィに電話は入る。バスで出向くとラスティが両親に愛されてないことに不満で、商店のガラスを割って暴れていた。タフィは「罰金だ、明朝、店の清掃をしろ!」と注意した。

タフィはバスでラスティをタメのラマに送った

タメは「闘いを終わりにしよう。平和を見つけるんだ」と説いていた。この状況をタフィの同僚警官ポウトカが撮影していた。タフィが追うと情報・通信車に行き着きギャラガーと対峙することになった。

ギャラガーは古い写真を示し「タメは軍事訓練を行っている。君はそんなタメにつき合っている」とタフィをタメの一味に仕立ててくる。タフィは「昔、警官がルナ・ケナナを襲ったときと同じことをしている」と反論した。「タメは首相を暗殺しようと4人を訓練している」と主張するギャラガーに「タメのやっていることは冗談だ!真に受けてはいけない」と言い返した。しかしギャラガーはこれを無視して局長に作戦実行を具申した。ギャラガーには出世欲があった。

タフィが家に戻るとポウトカが待っていた。

ポウトカがタフィに「警察本部の作戦い加われ!」と盗聴器をチラつかせ迫った。タフィは「子供が安全な土曜日なら」とこの申し出を受けた。ポウトカが出て行ったあと盗聴器に「部族の仲間に何かあったら、そいつを突き止め、死ぬまで後悔させてやる」と吹き込んだ。

10月15日(金曜日)

タフィはいつものように生徒を学校に送るためスクールバスで出かけた。ラスティはガラスを割った店の清掃にと箒を担ぎ馬で出かけた。ブレイクはハラダと一緒に昨日ラスティが川中に放置した車の回収に向った。

タフィは生徒の「車の前に忍者がいる!」で警察の特殊作戦が始まったことを知った

ラスティが馬で店に急ぐ姿を見た。タフィはバスの生徒を特殊部隊員のレンに預けラスティを追った。

乗馬のラスティを発見したマリアは箒を武器と判断し「暴動が発生!」と出動部隊に放送した

一気に特殊部隊の行動が激化し次々と住民家屋に侵入し容疑者を逮捕。ギャラガーは部隊にタメ、ラスティ、タフィの捕獲を命じた。

ラスティは特殊部隊員レンに追われ自宅に逃げ込むところでもみ合うが、レンが銃で即死。この一部始終をタフィが見ていた。

ラスティは川に逃げた。これを警官のポウトカが追った。橋の上からギャラガーがラスティを撃ったが、ポウトカに命中。ラスティはブレイクに救助されパトカーで脱出。これをギャラガーが撃った。ラスティに命中した。

ギャラガーが局長に「警官ふたりを失い、テロリストの3人が逃亡中。この村はテロの巣窟だ!」と報告した。

タメはギャラガーに電話するが繋がらない。ギャラガーの指揮所にデモを掛けた。

タメは自首、タフィの父も逮捕された。タフィは逮捕されギャラガーの前に引きずり出された

タフィはギャラガーに「父を釈放しろ!警官レンの死はラスティの犬に噛まれて転び暴発だ。弾丸を捜せ!」と話した。すでに村人のデモが指揮所に押し寄せていた。ギャラガーは長官にこの件を報告しタフィの父親の開放を求めた。長官からは「ラスティへの銃撃を見られたか?弾を捜せ!」と指示され動揺した。

ギャラガーとキミオラはタメとタフィをヘリの乗せラスティの行方を追った

ヘリが飛び立つ前に局長はキミオラに「指揮をとれ!」と命じていた。

ギャラガーは「行先を吐かねばタメを空中放棄する」とタフィを脅す。タフィは「フーン先生の健康診断車だ」と喋った。

ギャラガーはブレイクの車を発見した

ギャラガーは射撃を禁じたが、キミオラが射撃する。タフィは体当たりしてキミオラとともにヘリから地上に落下、タフィは大怪我を負った。地上に降り立ったギャラガーはブレイクらに救助の手を貸し、キミオラに「情報は大嘘でテロリストは存在しなかった」と挑み掛かった。ふたりの死闘が繰り広げられた。

ブレイクは銃尾でキミオラに挑み掛かった。

この間に、ラスティはブレイクと両親と支えられて健康診断車に運ばれ、フーン先生による弾の抜去手術を受けた。

ブレイクが「私たちの谷で何をしていた?」とキミオラに拳銃を突きつけた。が、キミオラが逆手を取りブレイクを抑え込み、タメを呼ぶ。タメが「首相を殺そうとした。テロは間違っていた」とキミオラに告白してブレイクを開放させた。「反逆者め!」と声を上げるキミオラに「自分自身を解き放せ!」とラスティが弾を渡した。ギャラガーが拳銃でタメを撃とうとするキミオラの手を止めた。

タメは亡くなったタフィを抱き「大丈夫だ、何も心配ない!逝くがいい、我が兄弟!」と見送った。

まとめ

前段は物語の背景となるテロリスト容疑のタメや少年ラスティ、警察内部の状況などがゴタゴタ描かれ、ストーリーを追うのが大変だったが、後段、特殊部隊がタメをテロリストとして逮捕に踏み切り、暴動に陥るかと見せながら、警察内部の抗争に納める結末。非常に見ごたえのある作品に仕上がっていた。

映画作品として、特に後段の特殊部隊出動からの展開は敵味方が入り乱れミステリアスでアクションもスリリングだった。原語で言葉が分からないものもあったが、俳優さんの演技がとても自然でリアル。すばらしかった。素朴な音楽もよかった。

冒頭で示されるように相当に警察当局に配慮した描き方になっていると推察。特にタメのテロリストだったと自白するシーンは、タメに警察特殊部隊介入の責任を取らせたが嘘っぽかった。(笑)

この事件で亡くなったタフィは“ルア・ケナナ”の歌詞に生かされ歌われ続けるのではと心配だ。これでは事件の解決にはならない。こういう悪循環をどう断ち切るか!これが地方警察官の役割だが、彼等の意見が取り上げられず残念に感じた。

しかし、美しい大自然、生き残った警官のブレイクの優しさ、勇気、力強さ、笑顔の子供たち、ゆったりと生活を楽しむ老人たち、村人の絆と優しさなど、この村には今失われつつあるすばらしいものが一杯残っている。この村を生かすも殺すも警察次第だ!大問題を提起している作品だと思った。これを映画化した勇気を称えたい。

            ****