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「哀愁」(1940)一日も早く平和が訪れますようにと、“哀愁”だけの映画ではない!

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恋愛映画の名作中の名作、NHKBSプレミアムで初観賞しました。公開が1940年で、物語は1939年9月から始まるという物語。それが戦時下の悲哀だという、驚きました。よくこんな映画が作れたなと!日本なら戦時意識の高揚ということで発禁でしょう。(笑) 木下恵介督は「陸軍」(‘44)で女々しい母親を描いたと陸軍に叱責され、浜松の田舎に雲隠れしました。(笑)

原作はロバート・E・シャーウッドで、第一次世界大戦時の悲恋物語。この物語の冒頭とラストシーンに、まさに今フランスの戦場に向かう老大佐の回想を付け加えて第二次世界大戦冒頭の物語にしたことで、哀愁物語となり平和の願いが込められた作品になっていると感じます。

監督:マービン・ルロイ、脚色:S・N・ベールマン ハンス・ラモウ ジョージ・フローシェル、撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ、作曲:ハーバート・ストサート

出演:ビビアン・リーロバート・テイラー、ルシル・ワトソン、バージニア・フィールド、マリア・オースペンスカヤ、他。


哀愁(映画)/ 別れのワルツ(蛍の光) Waterloo Bridge (film)/ Auld Lang Syne 

あらすじ:

1939年9月3日、イギリスがドイツへ宣戦布告し、開戦により慌ただしくなるロンドンの街。子供たちが粛々と避難を開始している。

ロイ・クローニン大佐(ロバート・テイラー)はフランスへ赴くため車で駅へ向かう途中、ウォータールー橋へ立ち寄ると、運転手に橋の向こうで待つように告げて歩き出す。その手には幸運のお守りのビリケン人形があった。

この人形を手にした20年前の記憶が蘇る。

第一次大戦、連合軍の危機を救うべくカンブレーの戦に派遣されるロイ大尉(ロバート・テイラー)。のちにカンブレーの戦は戦史に名を遺す激戦地となるのですが・・・。

9月3日、ウォータールー橋を歩いて駅に急いでいたところ、突然の空襲警報で、地下鉄に避難。そこで出会ったのがバレリーナのマイラ・レスター(ビビアン・リー)。マイラはロイが戦場に行く人だと知って「戦争が憎い!」と言うと「戦争は興奮する」とロイ。彼女は心配して「御無事で!」とピリケン人形をプレゼントした。ロイはこの心遣いとマイラの美しさに心奪われてしまった!

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ロイはマイラの舞台「白鳥の湖」を観たのち、彼女を呼び出して、クラブで食事をした。ロイは「平和なときよりも戦時下の方が、出会いに生きる喜びを感じる」とマイラに近づくと、「高い代償よ!そのために殺し合うの?」とこれを諫める。ここでマイラが戦争を否定し、平和を主張するところにこの作品の隠れたテーマがあると思います。

ロイは「人生を楽しむためにだ」と言い直し、「私は未来を持てない。平和時なら出身校の話でもするだろうが、私たちは違う!」とマイラに迫る!ラストダンスを蛍の光で踊り、ふたりはキスをした。

しかしマライは素っ気なく「さよなら」と挨拶して劇団宿舎に戻った。

ロイは劇団のマダム(マリア・オースペンスカヤ)から夜中に帰ってきたことで叱責され、二度目は首にすると告げられた。しかしマイラはロイと素っ気ない別れをしたことを悔いて、親友のキディ(バージニア・フィールド)に胸の内を打ち明けた。

ふっと窓から雨の降る玄関を見ると、ロイのおろおろした姿が眼に入った。マイラにもう迷いはなく、走りだした。恋に燃えるビビアン・リーの美しさにうっとりです!

ロイは地雷のため出発が2日伸びたという。ロイは「結婚しよう!」とマイラを連れて連隊隊舎に急ぐ。結婚には連隊長の許可が必要だという。連隊長は踊り子との結婚を認める責任は取れないと、ロイの叔父である名誉連隊長(C・オーブリー・スミス)の許可を取れという。参謀長は「踊り子か!俺は断れてた!腹を括ってやれ!」と許可が下りた。

ふたりは指輪を買い花を持って教会に急いだ!ところが牧師さんに「3時以降の結婚式は禁止されている」と断られた。明日の結婚式を約束して、ふたりは別れた。ところがロイの出発が繰り上げとなり、マイラが駅に駆けつけたが、列車が蛍の光とともにホームを離れる瞬間だった。

劇団を首になったマライはキディとともに仕事を探しながら、戦場からのロイの手紙を唯一の希望を託す毎日だった。ある日、母に会って欲しいという手紙が届いた。マライはカフェで義母となるマーガレット(ルシル・ワトソン)を待つ間、ふと夕刊を見ると戦死欄にK・ロイの名があった。憔悴したマライはマーガレットにとまともな対応ができず、彼女は怒って帰っていった。

マライは落ち込み、病み、キディの世話になる有様。キディが娼婦として生活を支えてくれていたことを知り、自分も生きるためにと街頭に立った。

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ある日、駅に立っていたマイラは生きて帰ってきたロイに会った。驚いた!ロイは「待っていてくれたのか!」と笑顔で抱きしめてくれるが、マイラは複雑な気持ちだった。何度も告白しようとしたが、ロイの喜びように言い出せなかった。

ロイはマライを伴いスコットランドの大邸宅に帰還した。マーガレットは笑顔でふたりを迎えた。近所の人々が集まり盛大な帰還祝のパーティーが開かれた。

多くの参加者はマライを踊り子と見て、この家にふさわしくないと思っているなかで、ロイは終始マライと踊り、名誉連隊長もこれ見よがしにマライと踊ってくれた。マーガレットも怒って帰ったことを詫び良い友達になれると喜んでくれた。ロイは「いつも一緒にいれるから」とピリケン人形をマライに返した。しかし、マイラは自分が許せなくなり、真実をマーガレットに話して家を出た。

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マイラは霧のウォータールー橋を彷徨って軍のトラックに飛び込み自死した。駆けつけたロイが落ちていたピリケン人形を拾い上げた。

ロイ大佐はマイラの言葉「愛したのはあなただけ!」と思い出し、パリへと向かった。

感想:

公開日がダンケルク撤退作戦時に重なり、当時の人はこの結末に、ピリケンさんを胸にパリに向かった大佐が無事で、一日も早く平和が訪れますようにと祈ったでしょうね。“哀愁だけの映画”ではなかったのではないかと思います。

日本では1949年に公開されましたので、マライの境遇に泣き、原題はWaterloo Bridgeですが、邦題「哀愁」となったと思います。

戦闘シーンが全くない、空襲警報のサイレンのみでありながら、ロイとマライの運命的な出会いが戦争に振り回されるという、戦争の悲哀がしっかり伝わり、“蛍の光”が忘れられない作品でした。

この作品は一度見より二度見の方が、先を読んだようなマイラのセリフが胸を突き、泣けて、うまい脚本・演出だと思います。

ビビアン・リーの演技。出会って結婚を約束するまでの可憐で明るい笑顔の姿。一転して街の女に堕ち、ロイを再会しても、心が晴れない姿。ロイの邸宅で義母マーガレットに「お母さんは世間を知らなすぎですわ」と凄みを利かして喋る姿。全てを失い霧のウォータールー橋を彷徨する姿。これらの姿全てが心に残る作品でした。

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