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「あのこは貴族」(2021)階層社会から脱出して自分たちの生きる場所を掴みとろうとする女性たちの物語!

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原作は映画「アズミ・ハルカは行方不明」の原作者山内マリコさんの同名小説、未読です。主演が門脇麦さんと水原希子さん。これで観ることに決めました。

階層社会に苦悩する女性たちが、シスターフッド “対立するのではなく穏やかな連携”で自分たちが住む場所を得ていくころがなんとも感動的でした。

「アズミ・ハルコは行方不明」(”15)に比べて、女性の連携がより優しいものになっていて、男性は“女性の笑顔の恐ろしさ”を知るべしです。(笑) 私にとってはある種の衝撃的な作品でした。

監督・脚本:岨手由貴子、撮影:佐々木靖之、音楽:渡邊琢磨。

出演者:門脇麦水原希子高良健吾石橋静河山下リオ、他。


映画『あのこは貴族』予告編

あらすじ(ねたばれ):

2016年元旦の東京。東京中心部の夜景が美しい。開業医の榛原一家のホテルでの夕食会へ、三女の華子(門脇麦)がタクシーで急いでいた。運転手がホテルに着くと「うらやましい!」という。確かに高貴な方はこんな豪華なところで食事をするんですね。(笑) 華子が着くや「婚約者はどうした?」と聞かれる。「結婚できないというの」と言えば、「27歳になって、探しなさい!」と結婚を急かされる。「どんな人が良いの?」と聞かれて「普通の人!」という。この普通というのが分からない。私のような田舎者には華子の普通は異常。(笑)結婚は他人任せで、決められた人と結婚するのが普通のようだ。

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幼いころからの友人は皆さんすでに結婚している。結婚してないのは華子とバイオリニストして活躍する相葉逸子(石橋静河)だけ。逸子は「ドイツで活躍したい!」と言い「焦らないで良い、1回の見合いでうまくいくことないから!」と慰めてくれるが、華子は焦りを感じて、仲人や友人の勧める人に会って見るが、彼女の住む世界の人とは違っていて気が進まない。彼女は上級社会に住む人でなければやっていけない!

そんなとき姉の勧める義兄(中山崇)の顧問弁護士・青木幸一郎(高良健吾)と見合いをした。幸一郎はハンサムで物腰が柔らかくて優しそう。帰りに彼の「また会って欲しい」に、華子はこれで万事うまく行くと思った。

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逸子に会ってお見合いの結果報告。「幸一郎はバイオリンをやったことがある」と話すと、「凄い名家かも。私たちより上の階層よ!その家は政治家。地方から出てきて頑張っている人とは本質的に出会わない。東京は住み分けされているのよ!」と華子には良い縁組だと喜んだ。このセリフ、社会に階層があることを見せつける凄みがあります!

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幸一郎の運転する高級車で彼の家を訪ねた。家の家業はリースであることや家族の話を聞き、母親譲りの指輪をプレゼントされた。ベッドでいよいよ結婚かと指輪を見ていると彼のスマホが鳴り、それは女性からだった。女性の名は“時岡美紀”。

東京で働く美紀は2017年元旦、故郷富山の実家に帰省した。そこはさびれた街並みだった。家でくつろいでこれまでを振り返っていた。

高校を卒業して、親友平田里英(山下リオ)と東京の名門私立大学に進学した。入学早々、里英が「この大学には付属校からの入学者=内部者と受験で入学してきた外部者というスクールカーストがある」とを教えてくれた。二者の対立エピソードは映画「愚行録」(’17)に詳しく描かれています。

美紀と里英は学友とホテルのラウンジに行くと、内部者はそれ見よがしに高価なお茶を注文する。こいつらには永久に付いていけない!里英が「こいつらは貴族よ!」と叫ぶ。同級生に幸一郎が居て、講義ノートを貸したことがあった。

美紀は父親の失業で授業料が払えなくなり大学を中退し、キャバレーでホステスとして働いて凌いだ。キャバレーにやってきた幸一郎と再会し、結ばれた。彼の紹介でIT企業に勤めるようになり、ふたりの関係は10年も続いていた。美紀は大学や東京で働くことの悲哀、苦しさを嫌というほどに知っていた。しかし、さびれた何もない故郷?に帰る気はない。東京で生きるしかないが・・・。

久しぶりの帰省で高校の同窓会に参加した。誰とも話さないで里英を探した。やっと再会できて喜んだ。里英が「東京で企業する!あんた今の会社どうやって入った」と聞く。美紀は「客に紹介してもらった」と答えた。里英は騒ぐ男性たちを見て、「田舎ではあんなのが三代目なんがから!」と前向きに企業を考えていた。

男性が酔っぱらって近づいてくると、そのとき美紀のスマホに幸一郎からのメールが入った。「シャンペンパティーへの誘い」だった。

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華子は豪邸に招かれ、幸一郎と礼式にのっとった婚約を交した。幸一郎の両親から「調べさせてもらった。嫁にふさわしい!」と言われ、後で雄一郎に糺すと「興信所で調べた。うちは政治家だ、当たり前だ」という。華子にとってはもう一段高い階層の世界があることを知り“普通でない”違和感を持った。伝統的な美しい婚約の儀式を守ることが目的で、そこに喜びがあることとは全く違うように見えました!

幸一郎と美紀はシャンペンパティーに参加した。そこでは逸子がバイオリン演奏していた。美紀は演奏を終えた逸子が高く積み上げたカロンをつまみ食いしている姿に親しみを感じて、「今度演奏してもらえますか?」と声を掛けた。名刺を持っていなくて幸一郎の名刺を借り、その裏に自分の連絡先を書いて渡した。(笑)

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逸子は華子の幸せを願って、彼女を美紀に会せ、幸一郎に対する言持ちを話させることにした。ホテルのロビーラウンジに美紀を呼び出し、華子が幸一郎と婚約していることを話し、これを知った美紀の心情を聞いた。

美紀は「幸一郎とは10年来の付き合いだが、私をそういう女(ホステス)だと見ていたから」と自分は結婚する気はないと明かした。

逸子は「私の父親は不倫をしていて母はそれに目をつぶっているが、こういう場合私は別れられる女でありたいと思っている」と明らかに、「日本では女を分断する価値観がまかり通っているが、私はそれが嫌なんです」と華子に会わせる意義をはっきりさせた。

社会に揉まれてきた美紀は華子と対立して無為な時間を費やすより早く自分の住む場所を見つけたいとこの考え方に同意した。東京に住むために幸一郎を利用していたと言ってもよい。美紀は大学を中退したが社会でいろんな考え方を吸収し、痛みの分かる“賢い女性”に成長していた。そこに、華子がやってきた。

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華子は美紀にご挨拶代わりにと“お雛様展”のチケットを渡した。(笑)これに美紀は驚いた!自分の家ではお雛など飾らないし、同じ東京に居ながらこんなにもかけ離れた階層の人がいるのかと思った。美紀は「あなたは婚約しているんですね!私はつき合っていないし、婚約もしてない!」と応えた。

美紀は幸一郎の呼び出し「悲しいよ! 10年間も一緒にいて、私がどこの生まれかを聞かなかった!餞別!」と故郷のお土産を渡した。

そして里英に会って「企業するの?」と聞くと「コネがない!」という。「紹介できるやつと別れた」と告げると、「自分も経験がある。田舎から出てきて搾取されている」と。自転車にふたり乗りし、ふたりは歓喜しながら東京の街を走った!

華子は結婚したとたんに、幸一郎は政治家の叔父に駆り出され、ひとりぼっちになった。親族からの子供を産むプレッシャーに苦しむ毎日だった。

一方、里英は「このままで年を取ってしまう。時間がない、今しかない!」と一緒に郷里に帰って企業することを美紀に提案した。美紀は「待っていた!」とこれを受けた。突飛な展開に見えて、ふたりの関係、表情を見ていて、これが受け容れられるという演出がすばらしい。

幸一郎は父を亡くし、葬儀に内妻だった女性が現れ遺産を要求される。母は幸一郎に「あんたの出番!」と発破を掛け、幸一郎は抵抗もせず叔父の秘書となり政治活動にのめりこんでいく。華子は仕事を持ちたいと義兄に相談するが、これが同じ階層の人で、話にならない。母に相談すると「姑が往生するのを待ちなさい!」という。(笑)このセリフが最もこの階層の人の思考を表現しているように思えます。

華子が「夢はないの?」と幸一郎に聞くと「まともに家を継ぐだけでいい、そういう風に育った!お前もそうだろう」と言う。華子は涙が出てきた。この人に自分は理解してもらえないと。今の世襲政治家さんを観ていて、そうなんだろうと思いました。(笑)

華子はタクシーで病院からの帰り、自転車で走っている美紀を見つけて、タクシーを降りて美紀のアパートを訪れた。美紀の部屋はいろいろなもので飾られ美紀らしい部屋だった。うらやましいと思った。部屋から見える欠けた東京タワーもこれまで見たことのないもので、東京に違う場所があることを知った。美紀は「そっちの世界と、うちの地元。似ているね」とアイスキャンディーを食べながら東京の街を見ていた。

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美紀が「事情は知らないが、どこにいても、最高に楽しいと思える日があるよ!あんたの旦那さんとでも!」と話しかけた。「階層は違うが、想い悩んでいることは同じで、これにはお互い連携しなければ」という気持ちで。華子の覚悟が出来た。華子は夜の街をタクシーに乗らず“歩いて”自宅に帰った。

その夜、幸一郎に「会った最初の日に、観て欲しいといった映画を覚えている?」と絶対に答えがないことを知りながら聞いて、ふたりはビールを飲んで眠った。映画はオズの魔法使いで華子はドロシーの旅にでることにした。眠っている幸一郎は「まさかこれが・・」と気づかなかった。これが“普通の男性”ではないかと思っているのですか。(笑)

華子が離婚を口にすると「政治家は離婚で揉めるわけにはいかない」と義母から殴られた。 華子は家を出た。

美紀と里英は「これが見納め!」と東京をカメラに収め、故郷を東京っぽくすればいいだけと東京を後にした。

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1年後、華子は逸子のマネージャーとなり、逸子を車に乗せて信州?の演奏先に急いでいた。児童養護施設での演奏会。そこに「自分の選挙区」と訪れていた幸一郎と再会した。逸子の演奏を聞きながら、二階にいる幸一郎を見て微笑んだ!

感想:

シスターフッドで階層・格差世界は変えられる。

絶対に相いれない階層の華子と美紀が、互いの世界の生き苦しさを共有し、連携して、新しい世界に飛びだすという痛快な物語になっていた。物語は華子の人生を綴るように「東京」「部外」「邂逅」「結婚」「彷徨」という章立てで、実にテンポよく物語が展開し、分かりやすいセリフが秀逸でした。

岨手由貴子さんは本作が監督2作目ですが、その脚本・演出力はすばらしく、今後の作品を注目したいと思います。

映像で見せてくれる作品。

東京って住み分けさえていて、違う階層の人とは出会わないように出来ている」という逸子の言葉のように、見たことのない華子の住む階層世界を徹底的に映像とセリフで見せてくれ、この世界から華子が飛び出す瞬間が圧巻でした。

階層を表す映像、特に高級ホテルのラウンジや豪邸、美術品などがすばらしかった。そして階層社会で交わされるセリフが、「姑が往生するまで待て」など、絶妙で面白かった。

階層の生き苦しさから放たれるように変化していく感情が、自転車やタクシー、車の運転、食べ物(アイス、ジャム、マカロンの山)、名刺交換、雨の変化などで表現され、ユーモアがあって、テーマの本質をつく演出になっています。

キャステングと演技のすばらしさ。

東京に住む華子と富山から出てきた美紀。これを演じる門脇麦さんと水原希子さんは、観る前、これまでのイメージから役が逆ではないかと思いました。(笑)

ところが良家の門脇麦さんが普通の人になっていく。これに反して水原希子さんは東京に出てきたが故に、とても大きな洗練された決意をする人になっていくという、ふたりのキャステイングが役にぴったりだったことに驚いています。水原希子さんが主演のように見える作品でした。なにか賞をいただけるかもしれませんね!

さらに華子と美紀を会わせるというシスターフッドのコーディネーター役を勤める逸子役の石橋静河さん。バイオリニストで、ドイツで活躍しているという雰囲気をうまく出して、登場シーンは少ないが、納得させてくれる演技でした。

また、美紀の親友里英役の山下リオさん、明るくて“あの際どいセリフ”をペラペラと喋る肝っ玉お嬢さんらしい雰囲気があり、これも見事でした。作品の気風を表すように女性4人の演技が光っていました。

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