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「ナイトメア・アリー」(2021)

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ウィリアム・リンゼイ・グレシャムのノアール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」(1946)を、「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督が独自の世界観と豪華キャストで映画化したサスペンス・スリラー大作。第94回アカデミー賞では作品賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞の4部門にノミネートされ、注目されています。

過去に秘密を抱え抱えた男が社会の底辺からのし上がるも、自分の仕掛けた罠に始まり、運命の歯車に狂っていく様をドラマチックに描いた作品。原作は過去の物語ですが、テーマは今の社会に繋がる“人間の条件とはなにか”で、これまで監督が描いてきたテーマです。ここではクリーチャーではなく生身の美男美女を使って、人間の心の闇を繊細に描いてみせてくれます!

監督:ギレルモ・デル・トロ脚本:ギレルモ・デル・トロ キム・モーガン撮影:ダン・ローストセン、美術:タマラ・デベレル:編集:キャメロン・マクラクリン、衣装:ルイス・セケイラ、音楽:イサン・ジョンソン。

出演者:主演は「アメリカン・スナイパー」「アリー/ スター誕生」のブラッドリー・クーパー、共演にケイト・ブランシェットトニ・コレットウィレム・デフォールーニー・マーラロン・パールマン、アリー・スティーンバージェン、デビッド・ストラザーン、リチャード・ジェンキンスと豪華です。

あらすじ(ネタバレあり:注意):

1939.父親の遺体を袋詰にして床下に置き、家に火を放って旅に出たスタン(ブラッドリー・クーパー)。辿りついたのはカーニバルの地。幻想的なショーが繰り広げられるテントや郷愁を誘う観覧車、ロマンティックなメリーゴーラウンドなどが立ち並ぶ地だった。巨大な施設はアカデミー賞もののセットで、すばらしい景観です。

スタンはその中にある「獣人ショー」のテントに入り見学した。餓鬼化した人間が生きた鶏の首に喰らいつき食べるというもの。「これが人間か!」と思った。

カーニバルのマネージャー・クレイム(、ウィレム・デフォー)に「過去のことは気にしなくていい、働かないか?」と誘われ、「風呂があるよ!」と読心術を操るジーナ(トニ・コレット)に一目惚れされて、この店を手伝うことになった。

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ジーナには相棒のピーター(デビッド・ストラザーン)がいて、ジーナは舞台下にいるピーターの指示で客の心を読むというトリック読心術だった。実はピートはその道を究めた男で、「霊媒ショーをやって霊媒を信じる人々を騙すことに罪悪感を抱き今はこれをやめてリック読心術をやっている」という。ピートはスタンに読心術を教えたが「霊媒は絶対にやるな!」と釘を刺し、自分がまとめた術書(暗号書)を見せなかった。ジーナはタロット占いで「スタンには死の願望がある」という。ピートは「過去がまとわりつく。若い者は女道楽だ」と戒めた。

スタンはクレイムのテントを訪ね異形品人間の収集品を見せてもらった。その中にホルマリン液の瓶に保管され浮かぶ胎児を見た!「エノク」と名付けられていた。

カーニバルには電気を流す“電気ショー”を演じる穢れのない美しいモリー(、ルーニー・マーラ)という娘がいた。スタンは新しいショーを考えて助言してモリーの心を掴もうとし、メリーゴーラウンドに誘って「一緒にやろう!」と誘った。次第にモリーも心を開くようになってきた。

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ある日、スタンはクレイムに頼まれ一緒に、死んだ獣人を病院前に捨てに行った。その帰り道で、クレイムから「街をうろついているやつを酒で誘い、薬を与え、獣人が見つかったと言って、薬が切れたときに鶏を投げ入れるんだ」と獣人ショーの“こつ”を聞かされ、「この道だけは辿るまい!」と思った。こもセリフは覚えておくといい。

スタンはピートに酒を与えた。ピートは「暗号書を悪用するととんでもないことが起きるぞ!次から次へと嘘をつくようになる」と呟いて亡くなった。スタンは暗号書を手に入れた。

ピートを埋めようと穴を掘っているところにパトカーで警官がやってきた。モリーも公然わいせつ罪で逮捕するという。スタンは警官と読心術で会話し、この場を収めた。スタンはモリーとショービジネスの世界での成功を目指して大都会へと旅立った。

2年後、スタンとモリーは一流ホテルで、スタンは目隠してモリーがアシスタントでそばにいて暗号で知らせ、上流階級の人たちに読心術を披露して喝采を得ていた。そんな中でエレガントな女性にトリックを見破られた。しかし、スタンは落ち着いて女性のバッグの中身が拳銃であることを当て、隣にいた男性に「亡くなった男の子がいる」と霊媒シューを仕掛けた。男性はキンブル判事で女性はリリス・リッター心理博士だった。モリーはスタンに霊媒ショーを止めるよう注意した!

スタンはリリスが持つ客の心理情報を利用して稼ぐことにした。リリスはこれに同意し、キンブルの情報を渡した。そしてスタンの真実を知りたいと質問をしてきた。「酒を飲まない」「父は酒飲み」「母は美しい人でピアノを弾く」「ピートから読心術を学んだが、俺のミスで酒で亡くなった」「父みたいな男にはならない」と答えた。

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モリーはカーニバルからブルーノ(ロン・パールマン)とジーナを呼び寄せ、スタンに会わせた。ジーナはスロット占いで「ラストカードが吊るされた男で凶だ」と告げた。しかしスタンは逆にすれば「上がりだ!」と無視した。

スタンの霊媒ショーは好評で、リリスとの取り分は五分五分とした。スタンはリリスが差し出す酒を飲んだ!

リリスが「大富豪だ!」とグリンドル(リチャード・ジェンキンス)を紹介してきた。グリンドルの豪邸を訪ねると、嘘発見機を装着させられて霊媒ショーをやるはめになった。「亡くなった女性に流産させた」というと「なぜ分かる!」と取り乱した。

リリス「権力者を裏切ったらとんでもないことになる」とグリンドルの情報を出さない。リリスはスタンに胸の傷を触らせた。スタンは密かにリリスの書斎の鍵を盗みグリンドルの資料を見た。亡くなった女性の名はドリーだった。グランドルは「早く合わせろ!1万ドルを出す!」と急かす。

スタンは嫌がるモリーに「越えてはならない一線を越えたのだから怖がるな!」と自分が描いたドリーの絵を見せ、ドリーに変装させてグランドルに遭わせることにした。この頃、キンブル夫妻が息子に会うために拳銃自殺して天国に旅立つという事件が起きた。やはり霊媒ショーは危険だ!

変装したモリーを見たグリンドルは感激してモリーを抱くと「赦して!」と喋った。グランドルは偽物だと分かった!スタンは怒るグランドルをメッタ打ちし、付き人も車でひいた。モリーはスタンを殴って去って行った。

スタンがリリスの事務所に顔を指すと「これをもって逃げて!」とバックを渡した。バックを開けると1ドル札ばかりだった。リリスは「失望した!私は金なんかどうでもいいの!あなたは人を騙せない!オクラホマの田舎者!」と拳銃で撃ってきた。スタンが反撃しようとすると警備員が部屋に飛びこんできた。スタンは逃げて、貨物列車に飛び乗った。着いたのは名前が変わった別のカーニバルだった。トラックの事務所に顔出すとそこに「エノク」の標本が飾ってあった。一体これは誰の胎児か?

ここで読心術の仕事を探すがない。「獣人が見つかるまでの仕事をやらないか」と勧められた。スタンは「宿命だ!」と笑った!

感想:

スタンは二度と来ることはないと思っていたカーニバルに戻ってきて、「獣人ショー」に出演することになるという結末。因果応報と言うか、人を騙したつもりが騙されてのこの結末。アメリカン・ドリームに魅せられ、やってはいけない霊媒ショーに手を出し、元の木阿弥に戻った。

スタンは「獣人ショー」に出ることが決まって「これが運命!」と微笑むところがギレルモ・デル・トロ監督の真骨頂でした!我々を醒めぬ悪夢、出口なき迷宮へいざなうこの結末は怖い、ダークな映像で想像を絶する人間の闇を見ることができました。

我々も心しなければなりません。成功すると更なる欲に走る。スタンは人生で一番大切なものは何か?“金”かリリーか、愛するモリーかが分からなくなっていった。人生で最も大切なものは“愛”。これを守ることが大切なんですが、これに気付かない!

リリスの欲が権力欲であったことに注目です。彼女につけられた胸の傷、これこそが彼女の権力欲に繋がっていた。今日の女性運動に繋がるテーマです。

出演者皆さんの演技が凄かった!ブラッドリー・クーパー。無口で小心そうな男が次第に多弁になって欲に狂っていく、最後に獣人に堕ちて笑うという何を考えているのかわからない闇の男の表情がすばらしい。一方のケイト・ブランシェット冷たい美しさで見るからに毒を抱えているという演技は存在感がありました。そしてルーニー・マーラこんな暗い奇怪な世界のなかで人間の美しさをひとりで背負っているような無垢で輝くばかりの存在感、これもすばらしい!

アカデミー賞発表時期が近づいてきました。楽しみにしています。

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