
2021年度製作フランス・ベルギー作品。頭にチタンを埋め込まれた主人公がたどる数奇な運命を描き、2021年・第74回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた作品。「30分観て、げ~と思ったらやめろ!」という案内を見て、“観てやろう!”と、WOWOWで観ました。
一回目は痛かった!何を見せたいのか?すこし解説を読んで、また観た!面白い!自分なりに感想を書きたいと思いました!
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー、撮影:ルーベン・インペンス、美術:ローリー・コールソン、衣装:アン=ソフィー・グレッドヒル、編集:ジャン=クリストフ・ブージィ、音楽:ジム・ウィリアムズ。
出演:バンサン・ランドン、アガト・ルセル、ガランス・マリリエール、ライ・サラメ、他。
物語は、
幼少時に交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれたアレクシア(アガト・ルセル)。それ以来、彼女は車に対して異常なほどの執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになってしまう。自身の犯した罪により行き場を失ったアレクシアは、消防士ヴィンセント(バンサン・ランドン)と出会う。ヴィンセントは10年前に息子が行方不明となり、現在はひとり孤独に暮らしていた。2人は奇妙な共同生活を始めるが、アレクシアの体には重大な秘密があった。(映画COMより)
あらすじ&感想:
医者の父親(ベルトラン・ボネロ)が運転する車の後部座席で、エンジンの音に合わせて唸る少女アレクシア。
アレクシアの唸りにラシオの音量を上げる父親。遂にアレクシアはシートベルトを外した。父親がシートベルトを着けようと後ろを向きバランスを崩し、車が側壁に衝突して、アレクシアは頭蓋骨損傷で切開手術を行った。

チタンプレートの頭蓋骨をつけたアレクシアに、担当医は「衝撃を与えねばプレートは動かない!」と言った。脳障害については語られなかった。
成人になったアレクシア。モーターショーのショーガールとしてステージでエロチックなダンス、車に絡みつくようなダンスで参加者を魅了する。

帰宅しようと車に乗ったところに男が近づきサインを求めキスしようとする。アレクシアは男性を車の中に引き入れ、髪止めで首を刺し、刺殺した。
その後、車庫でシャワーを浴びていると車が呼ぶ声がする。ドアーを開けると1台の車があった。アレクシアは後部座席に乗り、両手をシートベルトで拘束して呻き声を上げた。
アパートに戻り、ベッドの中で異変を感じる。下着が黒く汚れていた。翌日、父の診断を受けたが異常ないという。
思いを寄せるダンス仲間のジャスティーヌ(ガランス・マリリエール)と彼女の部屋でセックスをした。その後、腹が痛くなり黒い血が出る。妊娠しているとトイレに入り、髪止めを性器に入れて子宮を掻き廻し悲鳴を上げる。ドロリと黒い油が流れる。このあと求めてくるジャスティーヌを髪止めで刺し殺した。駆けつけるハウスメイドを椅子の脚で口を刺し、さらに同居の黒人を刺殺した。

どこまでが現実でどこから幻想か分からない!見ておれない、吐き気、痛みを感じる。
連続殺人犯として追われるアレクシアは10年前に行方不明者アドリアンの捜索ポスターを見て、アドリアンに化けることにした。駅のトイレで髪を切り、鼻を潰し、さらしを胸に巻き、化粧してアドリアンに化けた。鼻を潰す行為があまりにも痛かった!
警察に出頭し、アドリアンの父ヴィンセントの面通しを受けた。ヴィンセントはDNA照合を勧められたが断って息子をして消防隊の隊舎に迎え入れた。ヴィンセントはうれしさのあまり泣いた。アレクシアが逃げようとすると「必ず守る」という。
アレクシアは部屋に入るとすぐにさらしを外し解放感を味わった。ヴィンセントはアレクシアの衣類を着替えさせ、その際髪止めを発見した。アレクシアが会話しない、肌を見せないことに異常を感じたが何も言わなかった。
ヴィンセントはアドリアンを失って10年、これが原因で妻と別れた。消防士として常に死に向かい会い、さらに強く老いを感じてこっそりとステロイド注射を打ち続けていた。
アレクシアはしっかり腹・胸にさらしを巻き付けアドリアンとして男性見習い消防士となり救急救命訓練、消火訓練に参加した。ヴィンセントのダンス好きにつき合い、これがボクシングになっていき、次第にふたりは親しみを感じるようになっていった。
ヴィンセントがステロイド注射を打てず眠り込んでいたとき、殺そうと思ったが殺せなかった。アロリアンの幼いころの写真を見てワンピースを着ると、ヴィンセントは「我が子だI」と喜ぶ。もうアレクシアを離せなくなっていた。
救命要請で出動した。アレクシアはヴィンセントの指導で人工呼吸を行なったが助けることが出来なかった。こういうときは隊員全員でタンスを楽しむ。音楽に癒される。隊員のライアン(ライ・サラメ)が「アドリアンではない」と告げるが、ヴィンセントはこれを信じることはなく、「これ以上の詮索はするな!」と命じた。ライアンが「役に立たないから帰れ!」とアレクシアに耳打ちするが、ヴィンセントはアレクシアと踊って、守った!ふたりはもう絶対に離れられない関係になって行った。このシーンは泣きたくなるほど感動した。

ヴィンセントは元妻(ミリエム・アケディウ)にアレクシアを会わせた。元妻はアドリアンでないことに気付いたが、ヴィンセントを失望させないようこのことに触れなかった。アレクシアが自分の部屋で、さらしを外し腹を掻きむしり乳房を絞り、苦しんでいた(幻想)とき、元妻が部屋に入ってきてこの光景を見た。元妻は「ヴァンサンの幻想につき合って!彼を助けて!」と言い、去っていった。アレクシアはヴィンセントに注射をしてやる仲になっていた。
ヴィンセントが幻覚の中にいることが種明かしされている。
火災現場に出動。ライアンが「あれは息子でない」とヴィンセントに言った直後に火災に巻き込まれて亡くなった。
その夜、アレクシアは大きくなった腹を見て苦しんでいた。トイレで黒い血を流し出す。さらしを撒いているところにヴィンセントがやってきてその様を見た。「お前はいつまでも俺の息子だ」と言い切った。ヴィンセントはアレクシアが男だろうが女だろうがどうでもよかった!命を繋いでくれる子が欲しかった!
隊員たちのダンスパーティーの夜。隊員たちは激しく踊り狂った。そしてアレクシアを車のステージに上げて躍らせた。アレクシアは自分を忘れたように、車に絡みつき腰を動かすように踊った。ヴィンセントが止めに来たが止めなかった。隊員たちは好奇の目でこれを眺めた。
部屋に戻ったアレクシアはさらしを外し陣痛に苦しみ始めた。そこにヴィンセントが駆け付け、自分の衣類に火を点け痛みを共有した。生まれた子の背骨はチタンで出来ているように見えた。アレクシアは息を引き取った。ヴィンセントは子を抱き上げ「俺がついている」と呟いた。
まとめ:
ラストシーン。アレクシアが車とセックスして妊娠・出産、この子を取りあげて「護る」と決意するヴィンセント。この行動はふたりが幻覚の中で起こっている。これに至る過程が現実と幻覚の中で描かれる作品だった。
なぜふたりは幻覚を見るようになったのか。
アレクシアは事故でチタンの頭蓋骨をつけた拘束感を解放するように車とセックスし懐妊の恐怖に陥る幻覚。
一方ヴィンセントひとり住まいと老いのなかで、アドリアンに会いた執念に憑りつかれ、偽の息子と分かっても、美しい幻想的なアレクシアの魅力に取り込まれていった。
アレクシアの車を愛することで“性を超えた自由”を、ヴィンセントの“命を繋ぐ欲望”、生を感じる作品だった!
アガト・ルセルの演技、セクシーで自由を謳歌するダンスは圧巻でした。そして堕胎しようと苦しむ身体と顔の感情演技、ラストは全裸で子を産む、圧巻でした。映像も凄かったが音楽もすばらしかった!
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