映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

NHK「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」(2024)

 

3月29日公開の「オッペンハイマー」(2023)。これに先立ちNHK番組「映像の世紀」(2024.2.19)で放送されたもの。映画の参考になればと観てみました。

なかなかの力作日本の原爆開発視点からの描写もあり興味深かった。何よりも驚いたのはアインシュタインの提言が原爆開発に拍車をかけ、開発者は原爆が人類に何をもたらすかを全く考えていなかったこと。また、原爆投下の成功を米国民に告げる際、ルーマン大統領が微笑む姿に嫌悪した。ゲバラが訪日時「なぜ日本はアメリカを怒らない!」と語ったことを思い出した。

直後に撮った仁科博士監修の「広島・長崎における原子爆弾の影響」フィルムに衝撃を受けた。現在進行中の戦場でもこれほどの惨い映像はない!このフィルムは今どこに管理されているか。

内容

アメリカの原爆開発「マンハッタン計画」を指揮した天才科学者オッペンハイマーの生涯を描く。ニューヨークのユダヤ人家庭に生まれ、ハーバード大学飛び級しながら首席で卒業、「原爆の父」と呼ばれるオッペンハイマーは、アメリカ国内で「戦争を終わらせた英雄」と称えられたが、自分自身は深い罪の意識に苦しんでいた。戦後は、一転してアメリカの水爆開発に異議を唱える。そして赤狩りの対象となり、公職から追放された。

あらすじ&感想

オッペンハイマーヒンドゥー教の一節を思い出し「我は死、世界の破壊者」と語るシーンから物語は始まる。

1928年、原子力物理学の幕開け。

ドイツ・ゲッチンゲンに世界中から才気ある若者が集っていたゲッチンゲン大学原子力物理学の世界一の電動だった。その先頭にいたのがハイゼンベルグ(のちのナチ・ドイツの原爆開発者)で、“未確定性原理の発見”でノーベル賞を受賞。この近くで学んだものに日本の仁科芳雄(のちの日本の原爆開発者)がいた。

ハイゼンベルグの論文を読みたいとやってきたのがオッペンハイマーユダヤ人でハーバー大を飛び級で卒業した天才。人物評価は“人つき合いが悪い”だった。傲慢なやつと観られていた。ハイゼンベルグの指導で7個の論文を書き博士号を取得して米国に戻った。

帰国したオッペンハイマーは27歳でカリフォルニア大の助教授ごなり、ここで親友でありライバルのアーネスト・ローレンス(のちの米国原爆開発担当)と出会う。ローレンスはオッペンハイマーのはるかに上を行く業績を上げていた。

1930年、ローレンスが実験装置の研究でサイクロトロンを発明し、ミクロの粒子を超スピードで衝突させその変化を調べる研究が始まり、これが科学界の潮流となり、オッペンハイマーはその陰の存在だった。1940年ローレンスは“原子破壊の発見者”としてノーベル賞を受賞した。公演で「これまで発見されたものを凌駕する宝物が眠っている」と原爆を示唆した

アメリカの原爆開発が始まった

1939年9月1日、ナチ・ドイツ薫がポーランドに侵攻開始。

1939年8月、アインシュタインが時の大統領・ルーズベルトアメリカが原子爆弾開発に着手するよう書簡で訴えた。「ドイツが極めて強力な新型爆弾を開発するかもしれない。アメリカも核分裂を研究する物理学者と緊密に連携し、信頼できる人物にこの仕事を託されますように」と。

1942年、マンハッタン計画の発足

3つの研究施設からなる。ハンフォード(プルトニュウム)、ロックアラモス(爆弾)、オークリッジ(ウラン)。リーダーはローレンス。ローレンスの推薦でオッペンハイマーがロスアラモスの責任者に選ばれた

オークリッジはU235濃縮ウランの製造。7万5千人の新しい町が産まれ、有刺は細かく細分化され、従業員はそのひとつを担当し何が作られているか分からなかったという。

 ロックアラモスは爆弾の製造。原爆を戦争に間に合うよう作ること。6000人の研究者と軍人。オッペンハイマーは同胞ユダヤ人を排斥するナチスドイツへの怒りにもえていた。

このころドイツではハイゼンベルグが主導者で、アメリカに先んじて、大量の燃料ウランをチェコで発見、ノールウェーに化学工場を確保していた。アメリカはしっかりこの情報を得ていたという。

日本の状況。開戦3カ月後の記録映画「科学の殿堂」(1942)仁科芳雄博士が登場。サイクロトロンが存在し、ウラン濃縮実験に利用されていると述べている。

1945年。初夏。アラモゴート爆破試験場で史上初の原爆実験を実施

オッペンハイマーは「人間に何をもたらすかは視野になかった。技術的に美しいものを見たらまず試してみる。成功して初めて何をするかと話す。原爆はまさにそうだった」と述懐している。

1945年5月、ナチスドイツが降伏。ドイツの原爆開発の拠点が見つかった。小型の原子炉だった。ハイゼンベルグは連合軍の捕虜となった。

日本の戦況も決定的段階にあり、ロスアラモスでは原爆開発が問題視されだした。この声を封じたのがオッペンハイマーだった

なぜオッペンハイマーは研究を推し進めた?

 マンハッタン計画が始まって2年11カ月後、原爆が完成した。

1945年7月16日午前5時29分45秒、アラモゴート爆破場。原爆“トリニティ”が爆破した。中に詰められたのはプトニュムだった。オッペンハイマーは9km離れた場所で観測し「うまく行った」と喜んだ。

何故人間への影響を調べなかったのか

この情報はポッダム会議に出席中のトルーマン大統領に伝えられ、成功したとスターリンに伝えた。スターリンは「日本に使ってくれ!」と言った。トリニティはテニヤンに運ばれた。

8月6日の広島投下

オッペンハイマーは投下を指示する将校に「雲のある日は中止、決められた高度を守れ、高いところはダメだ」と指導した。

8時15分投下。(3時間後、爆心から3kmで撮った写真が示される)地獄だった!しかし、オッペンハイマーは知らなかっただろう。

 トルーマン大統領は控室で笑みを見せて、カメラに「史上最大の科学的ギャンブルに20億ドル以上費やし勝利した。金額以上に偉大だったことはこれを見事に隠しきったことだ。そしてこれを完成した科学者の頭脳だ」と語った。

ケンブリッジ近郊に収容されていたハイゼンベルグは広島の原爆について「それは原爆でない。アメリカに居るのは変人だ、うまくできなかったんだろう」と所見を述べた。

日本の仁科博士は自責の念に駆られ「腹を斬るときがきたと思う。米英の研究者は日本の研究者に対して大勝利を得た」と述べた。

3日後長崎にプルトニュウム型原爆が投下。広島と長崎で死者21万人にのぼった。

19458月14日、ポッダム宣言受諾

終戦の翌月、オッペンハイマーはトリニティ実験の跡地を計測した。オッペンハイマーが現れたことで誰が原爆を作ったかが明かされた。オッペンハイマーは原爆の父と言われアメリカの英雄となった。戦前まで科学界のスター・ローレンスはその座をオッペンハイマーに渡した。

原爆投下後のオッペンハイマー

終戦から数カ月後、広島・長崎の状況視察者の報告会が開かれた。長崎の視察者が「たてがみの片方が完全に焼かれた牛がうまそうに草を食んでいた」と話すとオッペンハイマー「原爆が善意ある武器のように語るな!」と注意したという。

オッペンハイマーはこの発表会で原爆の人類への影響を悟ったのでなないか。

 トルーマン大統領に招かれたオッペンハイマーは「自分の手が血で汚れておる」と話すとトルーマンは「それは私だ」と言い、その後、「あの者は泣き虫だ、二度と連れてくるな!」と言ったそうだ。

軍主催の祝賀会で、オッペンハイマーは「誇りは深い懸念にある。原爆が各国の武器庫に加われば、いつか人類はロスアラモスと広島の名を呪う」と演説し、ロスアラモス所長を退任した。

そのころ日本では一本の記録映画が撮られていた。「広島・長崎における原子爆弾の影響」で監修者は仁科博士だ。2時間40分の映画は原爆の炎と放射線の被害を克明に捉えていた。仁科博士は初めて「自分が作ろうとした原爆が人間に何をもたらすかを知った」と述べている。フィルムは試写のあと米軍に押収された。

1952水素爆弾の実験に成功、米ソの核競争が始まっていた。水爆開発を推進したのはローレンスだった。ローレンスはこの成功で栄光の座を取り戻した。

一方、政府の原子力委員会のアドバイザーとなっていたオッペンハイマーは核開発競争に警告を発していた。米ソで核を管理することを訴えていた。

1954年、オッペンハイマー原子力委員会から定職処分を受け、さらに赤狩りで追及された。かっての親友ローレンスが弁護することはなかった。ローレンスは「オッペンハイマー二度と政策に関与させてはならない」と政府側に伝えていた。

1960年9月、オッペンハイマーが訪日。しかし、広島・長崎を訪れることはなかった。記者の問い「原爆関わったことを後悔しているか」に「後悔はしていない。それは申し訳ないと思っていないということではない」と語った。

1967年2月18日62歳で亡くなった。

まとめ

映画「オッペンハイマー」を観るポイント。

 オッペンハイマーは何を作ったか?その苦悩をしかと確認したいと思った。何かをどう見せるか?

              ****

「エゴイスト」(2023)性愛で描く、エゴイストが愛に目覚める物語!

 

昨年の邦画の中で評判のよかった作品見逃していてWOWOWでやっと観ることができました。

男性カップルの性愛をここまで描くようになったかと思った。これがあるから「エゴイスト」のタイトルが分からる作品だった。(笑)

原作:エッセイスト・高山真さん(2020没)の自伝的小説「エゴイスト」。未読です。

監督:松永大司脚本:松永大司 狗飼恭子撮影:池田直矢、編集:早野亮、音楽:世武裕子LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉。

出演者:鈴木亮平宮沢氷魚柄本明阿川佐和子、他。

物語は

14歳の時に母を亡くした浩輔(鈴木亮平)は、田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごし、現在は東京でファッション誌の編集者として働きつつ自由気ままな生活を送っている。

そんなある日、浩輔は母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。浩輔と龍太はひかれ合い、時には龍太の母・妙子(阿川佐和子)も交えて満ち足りた時間を過ごしていく。

母に寄り添う龍太の姿に、自身の亡き母への思いを重ねる浩輔。しかし2人でドライブの約束をしていた日、龍太はなぜか現れず……。(映画COMより)


www.youtube.com

あらすじ&感想

撮影スタジオ。浩輔がモニターを見て「もうすこし濃くして!」と指示して、出て行く。この指示をする鈴木さんのアクセントと指先でこの人は“あれと気付く、うまい演技だ。夜、居酒屋でのゲイ仲間との会話。ここでは完璧だった。(笑)

彼は18歳で東京に出て来て、服が鎧だったという。今だ、父には嫁はまだかと言われ、亡くなった母親の言葉「あなたのお嫁さんを見ないと死ねない」が心の重石になっていた。

雨の日。浩輔がフィットネスジムでパーソナルトレーナー龍太に出会った

龍太が浩輔の身体をマッサージしながら「身体がきれいだ」と話す。会話とマッサージで“あれ”と感じる。これもうまい演戯だ。

食事しながら、龍太が「中卒で仕事は選べない。母子家庭で俺が働くしかない。ゆくゆくはこの仕事をしたい」と話す。

浩輔はゲイ仲間に「いいやつがいる」と自慢し、ジム通いが始まった。トレーニングを終え、ふたりで外に出ると龍太が腕を組みたがるが、浩輔が止せと注意。浩輔の高級マンションに入るといきなりふたりは身体を探り始める。見せどころのシーンだ。終わったあとの激しさをカメラで追い回す。

浩輔は「お母さんに!」と手土産を持たせる。こんな逢瀬が続き、浩輔はすっかり龍太にのめり込んだ。

ある日、おかんさんにと手土産を渡すと龍太が「終わりにして欲しい。俺は売りをやっている。あなたに会って苦しい。何もないからこの仕事でしか母を養えない」と帰っていった。

龍太が顔を見せなくなった。

浩輔は仕事が手に憑かない。スマホで龍太の所属クラブを捜す。一方の龍太は一晩で数人の客を取っていた。

浩輔は龍太のクラブを発見、予約してホテルで待った。そこに龍太がやってきた。浩輔が「俺はお前が好きだ。お母さんのために働くのも好きだ」と切り出すと「迷惑を掛けられない。母がいなかったらこんなに辛くない」と俯いた。浩輔は「俺は君を買う。月10万円を払う、それ以上は無理だ。駄目なら諦めて消える。自分で決めてくれ!」と自分の気持ちを話した。龍太は泣いた!

ふたりは激しく抱き合った。(前回シーンよりも丁寧に描かれている)

龍太は昼間清掃会社に勤め、夜も働くことがある。しかし、「本当の仕事を母に話せるのがうれしい」と感謝していた。龍太が疲れ眠るときは、浩輔は気遣って休ませてやる。

龍太は、いつも母親が世話になっていると浩輔を自宅に招いた

母の妙子はとても気さくな人で、浩輔のために風呂を準備し、手料理でもてなした。浩輔は自宅で龍太がキスしようとすることに戸惑った。三人で家族になったような写真を撮った。帰りには妙子が手作りの料理を持たせてくれた。

妙子が入院すると、浩輔が先に病院に駆けつけ、龍太を待つようになった。

浩輔は「車を持つとすこしは楽になる」と龍太に薦めると「そこまでしてもらうのは」と渋ったが、軽乗用車を買った。車が納車され、龍太に電話した。

母親から「龍太は亡くなった」と聞かされた

龍太はお通夜に顔を出すが、涙が止まらず、終始妙子に支えられていた。妙子が「何故あなたが泣くの、あなたは龍太の大切な人です。龍太が答えに困ったとき、相手が男性でも女性でもうでもいい、大事な人ができたらそれが一番いいと言った。すると龍太が浩輔さんに救われた、この世界は地獄でなかったと言った。本当にありがとうございました」と打ち明けた。浩輔は驚いた。

浩輔は久しぶりに実家に戻り母の仏前に手を合わせた。父(柄本明)に『お母さんの病気は大変だった?」と聞いた。父は「母さんがこれ以上迷惑を掛けたくないと言ったが、お前が嫌いというなら別れてやる、もうそんなこと言うな」と言って、ふたりでボロボロ泣いた!』と話した。

浩輔は何故龍太が亡くなったかを考えていた。父親のこの話に答えを見出した
浩輔は月命日に龍太の仏前に顔を見せた。浩輔は思い切って妙子に「私が龍太を死なせたようなもの。これまで彼を援助していた10万円の受け取って欲しい」と申し出た。妙子は断り、幾度も押し問答があったが、「ありがとうございます」と妙子が受け取った。

こうして浩輔は月命日には顔を出してお金を渡し、妙子に感謝され、まるで親子のように料理を食べ、妙子の愚痴を聞き、風呂に入り、泊まった。

突然妙子が倒れ入院した

浩輔が病院に駆けつけると、酸素マスクで呼吸する状態。「膵臓癌で、ステージ4、先は長くない」という。浩輔が「龍太に無理させ、今度はお母さんの病に気付かなかった」と謝ると、「あなたに過ちはないよ、私はあなたが好きだし、あなたは龍太も私も愛してくれた」という。浩輔は「愛がなんなのかよくわからない」と答えると「分からなくていい。私たちは愛だと思っている」という。浩輔はこの言葉に泣いた。

隣のベッドの女性が「息子さん?」と聞くと「いいえ」と返事をする。それが「私の息子です」と言って「帰らないで」と手を差し出すようになり、浩輔はしっかりその手を握った。

まとめ

これまで浩輔はお金で男性を買う男だった(エゴイスト)。しかし、龍太にはすぐに金だけの関係ではなくなった。突然の龍太の死で浩輔は父が聞かせてくれた言葉により、龍太の死は自分を愛するため疲労で亡くなったと理解した。龍太の死に報いるため、お金で龍太の母・妙子の面倒をみたいと申し出たが、妙子の人柄を愛し、愛され、ふたりは母子の関係になっていった。

浩輔と龍太、浩輔と龍太の母が“愛で結ばれた関係になる物語”だった。この関係がリアルでまるでドキュメンタリーを観るようで腑に落ちた。

浩輔はエゴイストだったか、自分が相手を愛することで相手に愛されることを知った

性愛を見ればふたりの関係は愛だと分る作品にしなければならない

この難しい要求に鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんは見事に応えた。この作品凄さだ。「第78回毎日映画コンクール」の男優主演賞と男優助演賞をそれぞれが受賞、これに値すると思った。そして阿川佐和子さんの自然な演技もすばらしかった。驚いた!

                ****

「コヴェナント 約束の救出」(2024)友を見捨てないとガイ・リッチーが描くアフガン戦場描写の見事さ!

 

スナッチ」「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督が、アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て撮りあげた社会派ドラマ

2021年8月21日、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退することに伴い自衛隊機が救出に向かい邦人1名を救出したというニュースを覚えている。この米軍撤退に遡る3年前の米軍の状況が描かれる。

ガイ・リッチーのこれまでの作風、スタイリッシュで、ユーモアに満ちた痛快なクライムアクション作風とは異なる!という触れ込みに、いかなる作品に出来上がったかと、公開初日の劇場に掛け駆けつけました。なんと長い列が出来ている、それは「マッチング」狙いで、こちらはガラ空き!(笑)

生々しい戦場で咲いた米軍曹長と通訳の友情をリアルな戦場環境の中で、スタイリッシュに見せてくれ、なかなかのものでした。特に米国政府に“米国の信義”を問うテーマとしたことが良かった。

監督:ガイ・リッチー脚本:ガイ・リッチー アイバン・アトキンソン マーン・デイビス撮影:エド・ワイルド、美術:マーティン・ジョン、編集:ジェームズ・ハーバート、音楽:クリス・ベンステッド。

出演者ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、エミリー・ビーチャム、

ジョニー・リー・ミラー、アレクサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター、ボビー・スコフィールド、ジェームズ・ネルソン・ジョイス、他。

物語は

2018年、アフガニスタンタリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、優秀なアフガン人通訳アーメッド(ダール・サリム)を雇う。キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を送り込まれキンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。

キンリーも瀕死の重傷を負ったもののアーメッドに救出され、アメリカで待つ家族のもとへ無事帰還を果たす。

しかし自分を助けたためにアーメッドがタリバンに狙われていることを知ったキンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへ向かう。(映画CMより)

米軍は2001年9月11日のウサーマ・ビン・ラーディンによる同時多発テロに対抗すべく同年10月に1300人の兵士がアフガニスタンに進出。これが2011年には10万人、米軍に雇われたアフガニスタン通訳は5万人に及んだという。彼らはアメリカへの移住ビザが貰えると約束されていた。進駐から20年後、2021年多くの米軍協力のアフガニスタン通訳(数千人)を残して撤退した。物語がその3年前のタリバンのテロに苦しむ戦況下の物語


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、キンリー曹長の部隊が検問所でIED(即席爆破物)検問中に一両の車が突然爆破炎上、通訳が爆死するシーンからはじまる

キンリーは「頭に毛がないやつ」と数人の応募者のなかからアーメッドを通訳に選んだ。(笑)

隊の任務、タリバンの武器、爆薬物の隠し場所を暴くことを伝え、さっそくアーメッドを連れて、アヘン吸引所を捜索。アーメッドが状況をしっかり把握し的確に訳していることを確認した。

キンリーは諜報部からタリバン関係者ファラッシュの紹介を受け、バザールでごった返す路上で彼と接触し車に乗せて交渉。キンリーは「買値を上げろ」と指示するが、アーメッドはうまく交渉して、2か所のIED製造工場の位置情報を得た。基地に戻って、部下のデクソン軍曹(アレクサンダー・ルドウィグ)から「うまくやったのは彼がタリバンと組んで麻薬の仕事をしていたから。息子がタリバンに殺されて寝返った」と聞かされた。

キンリーはアーメッドを呼び「勝手なことをするな」と注意すると「貴方の目的に叶うからそうした、謝る」という。アーメッドの仕事は通訳だけでなく何をなすべきかを知っていた。キンリーは「ありがとう」と感謝した。

会話は少ないが、これでふたりが心を交わしていくところが本作の醍醐味

 30km先の工場を第1の目標にして捜索に出発

もうひとりの通訳ハディが悪路だからと進路変更を言い出す。これにアーメッドがおかしいと言い出す。キンリーは車を止めて、ドローンで偵察開始。

ハディとアーメッドの殴り合いの喧嘩が始まった。キンリーが止めに入った。8km先にタリバン兵を発見、キンリーは基地へ帰ることにした。ハディは家族がタリバンに捉われていたことが判明。アーメッドは高い戦術判断能力を持ち、遠慮なくキンリーを補佐する

その夜、キンリーはロサンゼルスの家族、妻のキャロライン(エミリー・ビーチャム)とふたりの子供にオンラインで話をする。戦場から家族に電話する時代なんですね!妻が「早く帰って!」という。キンリーは任務達成という他に“無事に帰る”ことが何よりも大切なことだった。

一方のアーメッドは妻のところに帰宅していた。妻は妊娠しており、タリバンに監視されているのが怖いという。アーメッドは何よりも妻を安全にしてやりたいという願いがあった。

キンリーとアーメッドは米軍曹長と通訳の関係で結ばれている他に、家族を守ることで結ばれていた。この関係を見過ごすことはできない。

2の目標は100km先の工場

険しい山岳路、荒廃した原野、河床地の通過を必要とし、所属部隊トップのヴォークス大佐(ジョニー・リー・ミラー)にヘリを要請したが断られた。車両と武器、金をたっぷり与えられた。(笑)

厳しい地形を踏破して目的地に着いた鉱山の跡地のようなところだった。30分かかる航空支援を要請、アーメッドを残して隊は施設の捜索に入った。

施設の人物を尋問すると「あっちだ!」という。細い鉄橋を渡った先に急ぐ。

施設の地下坑道でIEDを発見。激しい撃ち合いになった。タリバン本部から増援部隊が戦闘加入してきた。キンリー隊は全滅!工場は大音響とともに爆破炎上した。

キンリーはアーメッドの運転でタリバンピックアップトラックで逃亡。これを追ってくるタリバンとのカーチェイスタリバンが「生け捕りにする」と追ってくる。ふたりは逃げ切った

この戦闘シーンは鉄橋の通過、タリバンの増援と迫撃砲射撃、友軍のヘリ攻撃などと、見せ場の多いスリリングな戦闘シーンで、見事だった

夕暮れの中で、部下を失ったキンリーはしょんぼりと腰を下ろしていた。それをじっとアーメッドが見ていた。ここで寝ることにした。

朝起きるとタリバンの捜索が始まっていた

キンリーとアーメッドがバディとなってタリバンと戦いながら脱出を図る。接近する敵兵をふたりで刺し殺して、急峻な坂を転げながら逃げた深い渓谷の中をふたりが協力しながら、接近戦で相手を倒し逃げる。

無人小屋で一泊。タリパンの無線をアーメッドが聞く。敵は近い!小屋を出たところでキンリーが脚を打たれタリバンに捕獲された。銃床で頭をぶん殴られ引き回される。意識を失っているとことにアーメッドが拳銃(キンリーが貸し与えもの)をぶっ放してタリバンを皆殺しにしてキンリーを救出した

アーメッドが廃材を集めてソリを作成、これで空軍基地を目指す

敵に隠れての移動、悪路ばかりだ。アーメッドが食べさせ、ふたりで毛布にくるまりキンリーの体を温める。

途中で車を買う

検問に出会うが、アーメッドひとりで戦う。住民の群れに出会い、痛み止めと車を交換した。そこにタリバンが現れた。住民たちが「逃げなさい!」と車力をくれた。

車力を押すアーメッド。山道に疲れ果てて、天を仰ぐ

しかし諦めなかった。キンリーもかすかな記憶として残っていた。痛がるキンリーにアヘンを吸わせる。

空軍基地が見える丘までやってきた。店で水を買い、キンリーに飲ませ、自分が飲んだ。ほっとしたところに水を買いにタリバンが現れた。あわや・・。そこに基地から救援隊が駆けつけた。(笑)

4週間後、キンリーはロサンゼルスの病院で目覚めた

「100km這って帰ってきた。勲章だ」と言われ、「勲章はアーメッドにやって欲しい」というと「アーメッドの弟が言うには、彼は受け取らない、タリバンに追われ、消えた」という。

ここからキンリーの苦しみが始まった

キンリーはアーメッドを救うために移民局に電話するが取り合ってもらえない。キンリーの怒りが爆発した。ヴォークス大佐に電話すると9カ月後だと言われ、「待てない」と返事した。

毎晩キンリーはアーメッドと過ごした記憶を思い出し、「何故助けないのか」と悩み眠れない。

妻のキャロラインが「貴方が死んだと言われたときは苦しんだ。あの人には奥さんがいる。アーメッドはあなたの命の恩人、行きなさい!必ず帰って!」とキンリーを後押しした。

キンリーはヴォークス大佐に会い「貴方に貸した借り(8年前に命を救った)を返して欲しい。旅券と軍の協力だ。アフガニスタンに単独で行きアーメッドを米国に脱出させる」と告げた。

キンリーがアフガニスタンに戻ってきた

民間航空機会社のパーカー(アントニー・スター)に予約のヘリを確認すると「今は無理だ」と言われ、車でアーメッドの弟に会うことにした。パーカーには救出時のヘリ輸送と軍への要請を依頼した。

アーメッドはタリバンに発見され、弟のトラックで別の隠れ家に移動していた。キンリーは弟に会い、弟と一緒に隠れ家を尋ね、トラックで脱出した。しかし、タリバンに発見され、ダム湖の堰堤に逃げ込み、狭いところでタリバンと対峙し、軍の支援を待つことにした。

激しい銃撃戦。もはやダメかと思われたところに武装のC-130が現れた

まとめ

ラストシーンは空軍基地から飛び立つC-130の中で、アーメッドがビザを確認しキンリーに笑みを送るシーンで終る。そして、エンデイングで「300人以上の通訳とその家族が殺害され、今なお数千人が身を隠している」という字幕が現れる

アメリカの信義に対する強烈なメッセージとなっている

ドキュメンタリーにインスパイアされたガイ・リッチー。丁寧に多くのエピソードを集めリアルなストーリーを作り上げたという。キンリーとアーメッドに焦点を当てふたりの絆が、戦場を通して、シンプルに描かれていた。通訳の役割が如何に重要であったかが分かる。

ストーリーは3つのエピソード、米軍によるタリバンの隠匿武器の摘出作戦、戦場からの脱出、アーメッド救出のための作戦からなり、ふたりが生きて再会することが分かっているからハラハラドキドキ感は薄いが、バディで行動するふたりが真の友情になっていく過程が詳細に描かれていて感動した

戦場シーンをスペインロケで撮っているが、これがアフガニスタンの風景によく似ていて、戦闘アクションによく馴染み、見所のある戦闘シーンになっている。ドローンを使った空撮がスケール感を醸してよかった。

              ****

「肉弾」(1968)自らが体験した太平洋戦争。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる!

 

WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」で放送された第2作目の作品。「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)をとばしてこの作品ということが分かる作品だった。

岡本監督は1945年1月に松戸の陸軍工兵学校に入隊し愛知県豊橋市にあった第一陸軍予備士官学校終戦を迎えた軍歴を持っている。青春真っ只中で敗戦を経験した。これを怒りでぶちまけた作品。自主映画のような作品で、調べてみると夫人がプロデューサーとなり二人三脚で地道に制作費を集め、制作にこぎつけたとのこと。この熱意に感動!

田舎のおばちゃんでも感じた“沖縄を取られて勝ち目があったの”、“敗戦を知らず特攻隊員として海に浮んでいた悔しさ”が作品の軸になっている。この作品を観ておくと先に述べた2作品に岡本監督がどう挑んだかが分かる

監督・脚本岡本喜八撮影:村井博、編集:阿良木佳弘、音楽:佐藤勝。

出演者:寺田農大谷直子天本英世笠智衆北林谷栄春川ますみ伊藤雄之助小沢昭一、他。


www.youtube.com

あらすじ&感想:

陸軍予備士官学校の候補生から急遽、遠州灘防備隊の特攻要員に、次いで特別特攻隊員を経て終戦を迎えた“あいつ”(寺田農)の生き様を描くというもの

 魚雷に繋がれたドラム缶の中の“あいつ”、何故彼がここにこの恰好でいるかの説明から物語が始まる

候補生時代。訓練で失敗ばかりする“あいつ”は罰として素っ裸で訓練させられ、失敗してまた殴られる。その原因はお腹が空いて訓練意欲が出てこないこと。食料庫に入り食べ物を捜していて、区隊長(田中邦衛)に捕まり気合を入れられる。倉庫には食べ物が一杯あるのに食べられない。理由が本土決戦のためだという。食べないから沖縄を失ったと言って殴られる。“あいつ”はまるで殴られるために陸軍に入ったようだった。(笑)この男が寺田農さんだとは分からなかった。(笑)上層部はこれで勝てると思っていた。

そこに突然広島に原爆が落とされ、ソ軍が参戦し、状況が変わった

予備士官学校は解散され、君たちは神だと対戦車特攻隊員として遠州灘正面に配置された。対戦車特攻というのは土を掘って穴を作り、そこに火薬を背負って隠れ、敵戦車M4が接近したら、穴から飛び出しぶつかっていくという戦法。

配置前、白いめしとお酒で祝ってもらって、1日の休暇が与えられた

“あいつ”は活字好きで古本屋を訪ねたが活字本は電話帳しかなかった。(笑)親父さん(笠智衆)は日露戦争で両手を失い小便時に手を貸してくれという。(笑)その次が女性を体験しておくことだった。女郎屋に行くと受付で因数分解を勉強している少女(大谷直子)に出会った。部屋で待つとやってきた女郎はフンドシ姉さん(春川ますみ)だった。(笑)何の感激もなかった。

雨が降り出し、車両めがけて特攻訓練で気分晴らしをしていると少女が傘を届けてくれ、訓練姿に感動して一緒に訓練してくれる。防空壕で「君のために死ねる」と結ばれた。これが彼の人生最大のいい思い出で、これをもって任務についた。

広大な遠州灘の砂浜、特攻担当地域が付与された

ひとりで穴を掘り、ここに隠れて、火薬箱(火薬が入ってない)を担いで走り出す出す訓練を繰り返す。ご飯は本部に3日分をまとめて受け取る。耐えられない孤独の中で過ごすことになる。

そこで幼い少年(雷門ケン坊とその兄(頭師佳孝)に出会った。兄は「美しい国は日本のみ、神の国」と教科書を暗記しこれを繰り返し暗唱する。先生(園田裕久)が来て不十分だと殴る。“あいつ”がなぜ殴ると棟と、精神で戦うという。

怖い怖いというモンペのおばちゃん(三戸部スエ)アメリカ兵が来ると女性は全員強姦されるという。(笑)そして沖縄を取られたらお臍を見られたのと同じだ。もうおしまいだという。“あいつ”は考えることが嫌で因数分解を唱える。(笑)苦しいときは少女を思い出していた。

赤十字の女性たちが現れ“あいつ”が身を隠すと、蓋を開けようとする。(笑)さらに突撃訓練をする若者の一団が現れる。それぞれがここでの決戦の準備をしていた。夜になると男たちが女性を追いかけ狂態を演じていた。

B-29 の爆撃を受けた

少年が駆けつけ「兄ちゃんが亡くなり、あの少女も亡くなった」と教えてくれた。“あいつ”はどうやって仇をとりかを考えた。少年はどこからか手榴弾を盗み出した。ふたりで穴に入り戦うことにした。

本部から伝令兵がやってきて特別特攻隊に配置替えを傳えられた

特別特攻というのは魚雷にドラム缶をしばり、敵駆逐艦の進路に配置され、目標が至近距離に入ったら魚雷を発進させるという戦法。“あいつ”は少年を残して去った。少年は穴で手榴弾を並べて算数の勉強をしていた。

食料が3日分。“あいつ”はドラム缶の中で海から現地調達した魚を焼き食べていた。機銃射撃を受け浸水。戦闘はないが地獄を味わっていた。接近空母を発見し魚雷を発進させたが、魚雷が沈没!“あいつ”はドラム缶の中で、流されていた。

終戦ビラが航空機で巻かれたが“あいつ”のは届かなかった

一隻の船が近ずく。オワイ船だった。船長(伊藤雄之助)から戦争は終わったと聞かされた。船に乗れと言われたが、このままでと曳航してもらうことにしたが途中でロープが切れた。

昭和43年(1968)、“あいつ”は若者が集う海水浴場に白骨となり辿りついた

まとめ:

市民目線で戦争をどう感じていたかがよく分かる。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる作品だ。古臭い、「今観てどうなの?」と感じる人は少なくないかもしれないが、作り手の熱意、狂気を感じる作品だった

 おばあちゃんの沖縄の話、少年の無邪気に手榴弾で遊ぶ姿、お兄ちゃんの国語本の暗唱。どのシーンも強烈な反戦メッセージを傳えてくれる。特に、女郎屋の少女を演じた大谷直子さんが微笑んで全裸姿を見せるシーン。輝いていて、生ることのすばらしさを感じる映像だった。

目にべったりと闇が張り付いた夜、たったひとりで魚雷を抱えて海に浮んでいた男が何を考えたか。こんな経験をしたものが居るか、生きるとはどういうことか。よく伝わる作品だった。

             *****

「658km、陽子の旅」(2023)菊池凛子が学んだことは人生におけるとてもシンプルなことだった。

 

NHK朝ドラ「ブギウギ」に淡谷のり子役で出演の菊地凛子さん。朝イチでのトークで、「この作品で私は変わった」と話す。いかなる作品なりやと観ることにしました。彼女の作品では「バベル」(2006)しか観ていない。

夢やぶれフリーターとして、人との接触を断ち孤独に生きる女性が、20年間会ってない青森に住む父親の葬儀に駆けつける中で、出会う人々から生きるための力を得て再生される様を描くロードムービー

監督:「ある男」(2014)の熊切和嘉、原案:室井孝介、脚本:室井孝介 浪子想、撮影:小林拓、編集:堀善介、音楽:ジム・オルーク

出演者:菊地凛子竹原ピストル黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、吉澤健、風吹ジュンオダギリジョー、他。

熊切監督と菊池凛子がタッグを組むのは22年ぶり。

物語は

就職氷河期世代である42歳の独身女性・陽子(菊地凛子)は、人生を諦めてフリーターとしてなんとなく日々を過ごしてきた。そんなある日、かつて夢への挑戦を反対され20年以上疎遠になっていた父(オダギリジョー)の訃報を受けた彼女は、従兄の茂(竹原ピストル)やその家族とともに、東京から故郷の青森県弘前市まで車で向かうことに。

しかし、茂の家族は途中のサービスエリアで子どもが起こしたトラブルに気を取られ、陽子を置き去りにして行ってしまう。

所持金もなくヒッチハイクで故郷を目指すことにした陽子は、道中で出会ったさまざまな人たちとの交流によって心を癒されていく。(映画COM)


www.youtube.com

あらすじ&感想

陽子がカーテンを閉め切ったアパートで、ラーメンを食べながら、PCでカスタマーサポートの仕事をするシーンから物語が始まる。孤独で、人生ぎりぎりのころまで追い込まれている雰囲気がよく出ている。そこに従兄の茂が「叔父がなくなった。明日昼葬儀だ。弘前まで行く。俺の家族と一緒だ、車に乗れ」と迎えにきた。

陽子は数千円の金をもって、携帯は故障で持たず、車に乗った

東北高速道を走る。ちょっとした遊具公園のあるSAで休憩。陽子は幼いころ父とこの公園に来たことがあると散策中に、茂一家は子供が事故って、陽子を残して病院に急いだ。陽子は茂と連絡がつかず、悩んだ末に、ヒッチを思いついたが言葉がでない。トイレで「青森まで乗せてください」を練習して挑み、成功した。(笑)

拾ってくれたのは地元の勤め先が倒産で東京に仕事を求めて、その帰りだという女性(黒沢あすか)だった。

よく喋る人で、これでストレスを発散しているような人。(笑)陽子はほとんど喋れず、聞き役だった。

トイレ施設のみのSAで降ろされた

夜になった。しっかり身支度をした若い女性のハイカーに出会った。トイレを怖がるような女性(見上愛)だった。それでも愛嬌があって自販機のコーヒーを買ってくれる。プラカードを持って車を拾う方法を教えてくれた。やっとやってきた車。ひとりしか乗せられないということで陽子が譲った。

公衆電話で伯母に電話した。大丈夫かという優しいことばに電話を切った。不甲斐ない自分が嫌になった。気持ちが整理できていなかった。

東北の災害をレポートしているライター(浜野謙太)が拾ってくれた

これがとんでもない男だった。「断るなら元に返す」を脅され、ホテルに連れ込まれ、体を求められた。陽子は後悔した。

ホテルを出て彷徨するなかで父(オダギリジョー)が現れつき纏う。いつの間にか浜辺で眠っていた。打ち寄せる波で目覚め、防潮堤をとめどなく歩いた。

無人販売所に野菜を卸す木下老夫婦(吉澤健、風吹ジュン)に拾われた

みぞれの中、小銭を稼ぐために、この年でも働いている。仮設住宅に戻り、付近の人に野菜を分けて歩き、近くのSAまで陽子を送る車を捜してくれる。

大学生時代にボランティアで来て、この地が気に行ったと住み着き“なんでも屋”になったという女性(仁村砂和)に送ってもらうことになった。苦労してでも好きな土地で働く人がいる。いかに住む土地大切かということを知った。

木下さんがおにぎりを持たせてくれた。陽子はいくら感謝しても感謝しきれない気持ちだった。年寄りの大きな愛を知った。

津波災害の痕跡、復興状況を目にしながらSAに急いだ

SAではなりふり構わず車をピックアップするため走り回った。強引なお願いに怖がられる有様。(笑)ノートに行先を書いたプラカードと頭をしっかり下げることで「いいよ!」と子供の声がした。

子供の叔父(篠原篤)が運転する車の中。陽子は自分の過去を悔い、こんなバカな自分に車を提供してくれたことに感謝した

「20年会ってない父親がなくなり合いに行く。家を出て、むつかしいと思ったけど形にしないと帰れなかった。気付いたときにはまわりの人たちは苦しくても頑張っていろんなものを築いていた。私は努力をしないで逃げていた。自分には何もないことで喋れなくなった。自分が家を出たときの父の歳になって、父の死を聞いても受け入れられない。でももう一度家に戻って、父の死を受け入れたい。私がここまで生きてこれたのは、いろいろな人のお陰!ひとりでは絶対にできなかった。乗せていただきありがとうございました」と。黙って聞いてくれた。すると子供が「お兄ちゃんがバイクで送ってくれる」と言った。

陽子は二輪バイクで実家のちかくまで送ってもらい、雪の故郷を実感するように歩いて実家に戻った。そこに「出棺を遅らせている。父さんが待っているぞ!」という従兄の声に泣き崩れた。

まとめ

父の出棺に間に合った陽子。従弟の茂の「お父さん待っているぞ!」の声に泣き崩れた。父との対面シーンはないが、父へお詫びと感謝だった。物言わぬ菊池凛子さんの表情に彼女の決意をみることになる。いいシーンだった。

一泊二日の旅だったが、出会う人から学ぶことは多かった。何を学んだか。

人生は一日一日の積み重ね。気が付くと人生の折り返し地点に立っていて、自分の人生は何だったんだと気付く。こうならないよう日常をしっかり生きることが大切だということ。そして孤独は人生最大の敵だ!

従兄の茂の車に乗ったときから父(オダギリジョー)の亡霊がくっついていたが(笑)、親の想いはこういうものだ親の心子知らずだ!

 印象に残ったのは、東北の海辺で波に晒され目覚めるシーン。身体を癒すように纏わりついて離れていく波の映像、これは美しかった。人生の再生を感じる映像だった。これに続く、長い防潮堤、津波被害の痕跡と復興の現状を見せる映像は“人生諦めるな”という強いメッセージだった。

津波被害体験の老夫婦の生き方木下夫婦が孫にでも接するように、みぞれの中で、車を降りて陽子のために青森行きの車を捜す姿に、吉澤さんと風吹さんの好演技で、このとき陽子は車に乗ったままで眺めていたが、人がもつ愛がどれほどのものかが分かるいいシーンだった。

                                                     ***

「ボーはおそれている」(2023)これ、アリ・アスター作品、大笑い。こんなやついる一杯!親の責任だ!

 

2023年度製作作品。「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたコメディースリラー。A24作品。ということで駆けつけました。

アリスターも3度同じにはしないだろうとは思ったが、そうだった。スリラーというよりコメディーだった。(笑)しかし、テーマは3作の中で一番わかり易い母性(血縁)の話だった。

監督・原作・脚本アリ・アスター撮影:パベウ・ポゴジェルスキ、美術:フィオナ・クロンビー、衣装:アリス・バビッジ、編集:ルシアン・ジョンストン、音楽:ボビー・クルリック、劇中アニメーション:ホアキン・コシーヌア、クリストバル・シオン。

出演者:ホアキン・フェニックス、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンエイミー・ライアンネイサン・レインパティ・ルポーン、ドゥニ・メノーシェ、他。

物語は、

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボー(ホアキン・フェニックス)は、つい先ほどまで電話で会話していた母(、パティ・ルポーン)が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれ含む:注意)

冒頭、闇の中で、大音響、おめでとうの声、女の悲鳴、赤ん坊の泣き声、子供を隠す、どこにという会話など、わけのわからないシーンから物語が始まる。出産シーンらしい

ボーを訪ねてきた医者のフリール(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)に「うがい水を飲んだ」と訴える。そこに母親のモナから電話が入る。「明日、父親の命日だから来なさい」という電話。

フリールが「なんか目的があるのか?母親を殺す気があるか」と聴く。物騒な話をする。(笑)新薬のシプノチクリルを与え必ず水と一緒に飲むようにと注意して帰って行った。

薬を飲んだが水道水が出ない。慌てたボーがコンビニに走り、水を買う。アパートの帰ると顔中いれずみの男に追われ(笑)、部屋に戻った。

錯覚なのか頭がおかしいのか?気持ち悪い男だなと

ボーは目覚ましをセットして寝るが、真夜中に数度「音量を下ろ!」とペーパーが投げ込まれる。これにいちいち反応し、寝すぎた。「誰の陰謀か?」と慌てて出て行くボー。「歯磨きを忘れた」と部屋のドアに鍵を残したままでトランクを置いて洗面所に引き返した。ドアの戻るとトランクがない。(笑)こんなボーにいらいらさせられる。(笑)

ポーは困り果て母のモナに電話する。ボーは自分で決められない。母は「来なさい、あなたに任せる」という

ボーは薬を飲んだ。水を飲むのを忘れた。これで大混乱。寝間着でコンビニへ。水を飲んで財布の金を全部叩いた。(笑)アパートに戻ると2階で喧嘩が始まっていた。部屋に入れない。夜部屋に戻った。

朝、目覚めて母に電話すると男に繋がった。「臭い匂いがするから来てみると女性が倒れていた。シャンデリアが落下して頭が破壊されている」という。ボーは「どうすればいい」と聞いた。(笑)「名前はモナ・ワッサーマン」と聞かされ、電話を切った。フリールに電話すると「後で電話する」と切られた。

風呂に入って考えていると天井に男がいる。(笑)こいつが降りてきてバスの中で格闘。真っ裸で外に飛び出て、警察に追われ、車にぶち当たった。(笑)この物語、ボーが頭を打つと次のエピソードに移るらしい。(笑)

ポーが派手な女の子の部屋で目覚めた

医者のロジャー(ネイサン・レイン)と妻のグレース(エイミー・ライアン)の邸宅に寝かされていた。

「2日寝ていた。跳ねたのは私たちだが、怪我はあなたがつけたもの」と罪悪感なし。(笑)

「すぐ母のところに行きたい」と交渉するが、ロジャーが「傷は深い、睾丸が潰れている」と反対する。(笑)するとボーはその気になってしまう。

ワッサーマン邸に電話すると弁護士から「モナの意志で3日目に埋葬する。早く来い」と言われた。

邸に誰もいないとき、PCで母の死のニュースを検索した。「シャンデリアの落下で死亡。MW社の大物です」とエレイン(パティ・ルポーン)が語っている映像だった

娘のトニ(カイリー・ロジャーズ)が自分の部屋をボーに占領されたことが不満で、男男ジーヴス(ドゥニ・メノーシェ)と一緒に車でボーを連れ出し薬を吸わせて追放しようとした。

このタバコのせいで昔の夢を見た

 

幼いころマーサという子が好きだったが、母に「人生で大切なのはいい伴侶を見つけること」と薦められエイレンと付き合うことになった。青年になって、キスしようとすると母に妨害される。常に母に監視されていた。(笑)

目が覚めときロジャーとグレースに保護されていた

グレースがチャネル15を観ておいてと仕事に出て行った。観ると、ここに来てからのこと、立派になった自分が写っている!「なんだ、これは?」と部屋の壁を調べた。(笑)

トニが「あんたをSNSで晒す」と壁にペイント塗りを始めた。突然自分の顔に塗料をぶっかけた。なにがあったかとグレースが飛び込んできて心臓マッサージを始めた。そしてボーに「八つ裂きにする」と言い出すジーヴスに追われ、庭に逃げ出して、立ち木に頭をぶつけた。(笑)

目が覚めた。森に中のキャンプ地だった。

妊婦に誘われ「孤独の森」という劇を鑑賞することになった。ボーは孤独の男の衣装を着けて参加した。

芝居が始まった

家を焼かれ孤児になった孤独男。「父母を失ったことで自分を無くした」と放浪の旅に出る。季節がどんどん変わり(アニメ)冬となり、そこに能面の女性(天使)が降臨、「あなたは家を再建する。ここに留まってはだめ鎖を解きなさい」と予言した。鎖を解き歩き出すと村に出会い、土地を見つけ、家を建て、友人ができ、運命の人に出会った。そして3人の子が産まれた。

ボーは自分の運命に似ていると思った(笑)ところが災害で家も家族も流され、孤独男は見知らぬ国に家族を捜す旅に出た。そこで大きくなったふたりの兄弟に会った。しかし母が居ない!孤児院で育ち叔父は亡くなったという。

ボーは「身ごもったときに父はいなくなった。私の腹の上で亡くなった。このことがトラウマとなり私を変えた」という母の話を思い出していた。(笑)

この芝居、自分の話によく似ているとボーは気分が悪くなった。そこに男が近づき「お父さん生きている」という。ボーは大混乱。狂った男に爆弾で襲撃され、ボーは倒れた。

ボーが目覚めヒッチハイクで、ワッサーマン邸を訪れた

ボーは歓迎され、邸に入ると母モナの功績をたたえるテープが流れ、モナの写真で埋まっていた。その中にボーと一緒の写真もたくさんあった。最後のMW社社員の顔で作ったモナのモザイク顔の中に、ボーがここに来るまでに出会った人たちの顔があった。(笑)シャンデリアが落下した位置に記念碑が作られ、そこにモナの棺が安置されていた。

ここに来るまでにボーが蒙った事件はボーを試す母の企みであったとは

ボーが2階に上がろうとするとエイレンが「追悼にきた」と降りてくる。ふたりは一気に燃え上がりベットを共にして3回はやった。(笑)ところがエイレンがその直後亡くなった。(笑)

死体はマーサだった。エイレンが現れ激怒する。ボーはモナの罠に嵌った!さらにフリール医師が駆けつけていた。

モナはボーを幼い頃2階の隠し部屋に上げて、内部を見せた

そこには鎖で縛られた兄弟と父の遺体が大きな男根とともにあった。(笑)モナは「嘘ついた意味が分かった?」という。ボーは許して欲しと謝ったが、「人生を捧げたのに、与えてくれたのは屈辱だけ、苦しみだけだ」という。

ポーは「実行できる」とモナを水槽の中に沈めた。そして、小型ボートで湖水に逃げ出した

そこは巨大アリーナで母モナによる“母親冷遇裁判”場だった。ボーは母の申し立てに反論したがエンジンから出火してボートとともに湖水に沈んだ。

まとめ

母親に支配され続けた息子ボー。ラストシーン、ボートが炎上、ボーは浮かんでくるかどうか?胎内に戻ったかもしれない。とんでもない母親の元に産まれたなとボーに同情した。(笑)親の血が問題だった。だから薄めるために水を飲むんだ。水の物語になっている。

ボーを襲った事件はすべて母が自分の愛を試すものだった。最後のボーの裏切りは母が最も忌み嫌うものだった。(笑)

 アリスターはこの作品を最初に発表したかったらしい。確かに血縁の恐ろしさは、分かりやすく、この作品にそれが一番よく出ていると思った。メッセージ性が、今の社会に繋がっていて、この視点でも一番だと思った。

ホアキン・フェニックスがよく出演を受けたたなと。(笑)彼がこれまでのキャリアーを持ってこのみじめの老息子を演じるから余計面白い。冒頭近くの全裸姿で走る姿、ラストのセックスシーン、苦悩の表情から満足の表情、もうたまらなかった!(笑)

途中で母親の企みがバレるが、最後までユーモアで楽しませてくれた。3時間を長いとは思わなかった。

親の葬儀に駆けつける話なら、宮崎駿さんの「君たちはどう生きるか」熊切和嘉さんの「658km 陽子の旅」があり、再会では成長するが、血縁をテーマのアリスターならこうなるかと、個性丸出しの作品だった。ボーの80%幻覚の話、面白かった!(笑)

               ****

「侍」(1965)圧倒される時代劇だった!侍になれなかった男の話にテーマを感じる。

 

岡本喜八作品で観ているのは「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)のみということで、WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」での鑑賞です。

大老井伊直弼落胤が、桜田門外の変で実父を斬るまでを描くというもの

 原作:群司次郎正の「侍ニッポン」(1931)、未読です。監督:岡本喜八脚色:橋本忍撮影:村井博。

出演者:三船敏郎小林桂樹伊藤雄之助、初代松本白鸚新珠三千代、田村奈己、八千草薫杉村春子東野英治郎平田昭彦、稲葉義男。


www.youtube.com

あらすじ&感想

ナレーションから物語が始まる。下手なナレーションだと思ったら劇中の記録方だと後で分かった。(笑)

万延元年(1860)2月17日、水戸浪士星野監物(伊藤雄之助)を首領とする同志32名が桜田門を望む茶屋で井伊直弼松本白鸚)が登城するのを待ち構えていた。しかし、井伊は登城しなかった。

メンバーは品川の相模屋で暗殺情報が漏れたと詮議。星野と副長の佐田(稲葉義男)が協議し、横柄な尾州浪人新納鶴千代(三船敏郎)と彼と昵懇の上州浪人栗原栄之助(小林桂樹)の身辺調査をすることにした

新納の行状についての調査結果は、土蔵に住む素性がはっきりしない浪人だが、めっぽう剣の腕が立ち、捕吏に追われる水戸浪士を助け「侍になりたい!」大老暗殺計画に加わった男だった。さしたる裏切る理由は見つからなかった。

この新納、相模屋にいりびたりだった。女将のお菊(新珠三千代)はそろそろお金を入れて欲しいと催促するが、これを無視して「一緒にならんか」と口説く。断られると「お前のためにこうなった」と宣う。(笑)

一方、栗原は道場主で学問に秀でた男だった。嫁みつ(八千草薫)は回船問屋阿賀谷の娘で経済的にも豊か、井伊大老のやり方に反抗して同志となった男で、新納同様、裏切る理由は見つからなかった。

お菊が新納の身元引受人の木曽屋の政五郎を尋ねると、政五郎が「そっくりだ」と顔を覗く。そして新納の身上を語り始めた。

「ある高名な方の妾腹の子で学問・武道に励み立派に成長したが、あなたに似た高家の娘に惚れた。しかし、父親の名が明かせないことで一緒になるのを断られた。それからの新納は道場破り、酒に入り浸りだ」と。

このころ新納は栗原家を尋ね、栗原の妻みつのもてなし料理で夢を語り、いい気分で土蔵に戻っていた。そこに星野が待っていた。

星野は「犯人は栗原。栗原が喋ったことが妻の口を通して松平家に伝わった」という情報を掴んだ。星野は栗原を誘い出し新納に斬らせることに決めた。

 屋新納はこの役を一度は断った。しかし、侍になるためには仕方がないと引き受けた。栗原はまさか新納が刺客とはと思わず、「何故だ?」声を発しながら斬られた。

新納は相模屋で酒浸りとなった。そこに真犯人の情報がもたらされた。新納が犯人宅に乗り込んだとき、星野が犯人・松井源兵衛を斬ったところだった。新納はこの不条理を詰め寄ったが決行日を明かされ、侍になるため、これを受け入れた。

星野は「雛祭りの日、井伊は大奥への挨拶のため必ず登城する」と、この日を決行日に決めた。

その夜、お菊が土蔵を尋ね雛人形を飾った。新納がうれしそうに「いよいよ侍になる、一緒になってくれ!」という。お菊は「侍を捨てて私のところに」と勧めたが「夢は捨てられん」と断られた。

政五郎とお菊は土蔵を訪ねた。新納が居ない。政五郎は新納が水戸の天狗党と関りがあることで訪ねていた。「万一、新納が父の井伊直弼を・・」とお菊に明かした。お菊は「それで侍になるならいい、徳川がなくなるわけではない」と新納を庇った。これを隠密が聞いていた。

星野は新納に9名の刺客を差し向けた。雪の降る早朝、新納は刺客を襲われたがすべてを斬った。

井伊の登城が始まった

そこに新納が現れた。新納は「朝方、井伊家に襲われた」と言いながら、「あなたの仕業では」と脅した。

行列が四周から攻撃できる地域に入ったところで一斉に斬りかかった。止めを刺したのは新納だった。井伊の首を掲げ、狂ったように「侍だと雄叫びを挙げていた。このシーンはすばらしい!

星野は記録方に「記録を焼却しろ」と命じていた

まとめ

痛快な三船敏郎剣劇を楽しんだ!今の時代、これに優る人はいない

 鶴千代が井伊直弼の首を搔いて雄叫びを上げるが、事前に星野が記録方に記録の焼却を命じていた。それを知らずに雄叫び続ける鶴千代(狂気)。「この物語は寓話だ」という落語でいう“落ち”で終わる

橋本忍による脚本の妙、時代の狂気を演出する岡本喜八三船敏郎の狂気と殺陣の上手さ。村井博が撮る映像、見るべきところの多い作品だった

 しかし、原作の「侍ニッポン」でなく「侍」というタイトルがよくわからない。“落ち”で分かるように侍を目指して侍になれなかった男(記録がない)の物語だ。

 桜田門の変から100年後、60“安保闘争直後に作られた作品であることを考えると、60”安保闘争に挑んで消えて行った男たちに繋がる。のちの岡本監督作品「肉弾」「日本の一番長い日」、「激動の昭和史 沖縄決戦」からこの推論はあながち間違いではなさそうだ。大きなメッセージを託した作品だと思った。

 “侍”をパソコンで検索すると”侍JAPAN“が出てくる。ちょっと悔しい!(笑)

物語の面白さが、観終わってからこみ上げてくる作品だった

               *****