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「肉弾」(1968)自らが体験した太平洋戦争。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる!

 

WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」で放送された第2作目の作品。「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)をとばしてこの作品ということが分かる作品だった。

岡本監督は1945年1月に松戸の陸軍工兵学校に入隊し愛知県豊橋市にあった第一陸軍予備士官学校終戦を迎えた軍歴を持っている。青春真っ只中で敗戦を経験した。これを怒りでぶちまけた作品。自主映画のような作品で、調べてみると夫人がプロデューサーとなり二人三脚で地道に制作費を集め、制作にこぎつけたとのこと。この熱意に感動!

田舎のおばちゃんでも感じた“沖縄を取られて勝ち目があったの”、“敗戦を知らず特攻隊員として海に浮んでいた悔しさ”が作品の軸になっている。この作品を観ておくと先に述べた2作品に岡本監督がどう挑んだかが分かる

監督・脚本岡本喜八撮影:村井博、編集:阿良木佳弘、音楽:佐藤勝。

出演者:寺田農大谷直子天本英世笠智衆北林谷栄春川ますみ伊藤雄之助小沢昭一、他。


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あらすじ&感想:

陸軍予備士官学校の候補生から急遽、遠州灘防備隊の特攻要員に、次いで特別特攻隊員を経て終戦を迎えた“あいつ”(寺田農)の生き様を描くというもの

 魚雷に繋がれたドラム缶の中の“あいつ”、何故彼がここにこの恰好でいるかの説明から物語が始まる

候補生時代。訓練で失敗ばかりする“あいつ”は罰として素っ裸で訓練させられ、失敗してまた殴られる。その原因はお腹が空いて訓練意欲が出てこないこと。食料庫に入り食べ物を捜していて、区隊長(田中邦衛)に捕まり気合を入れられる。倉庫には食べ物が一杯あるのに食べられない。理由が本土決戦のためだという。食べないから沖縄を失ったと言って殴られる。“あいつ”はまるで殴られるために陸軍に入ったようだった。(笑)この男が寺田農さんだとは分からなかった。(笑)上層部はこれで勝てると思っていた。

そこに突然広島に原爆が落とされ、ソ軍が参戦し、状況が変わった

予備士官学校は解散され、君たちは神だと対戦車特攻隊員として遠州灘正面に配置された。対戦車特攻というのは土を掘って穴を作り、そこに火薬を背負って隠れ、敵戦車M4が接近したら、穴から飛び出しぶつかっていくという戦法。

配置前、白いめしとお酒で祝ってもらって、1日の休暇が与えられた

“あいつ”は活字好きで古本屋を訪ねたが活字本は電話帳しかなかった。(笑)親父さん(笠智衆)は日露戦争で両手を失い小便時に手を貸してくれという。(笑)その次が女性を体験しておくことだった。女郎屋に行くと受付で因数分解を勉強している少女(大谷直子)に出会った。部屋で待つとやってきた女郎はフンドシ姉さん(春川ますみ)だった。(笑)何の感激もなかった。

雨が降り出し、車両めがけて特攻訓練で気分晴らしをしていると少女が傘を届けてくれ、訓練姿に感動して一緒に訓練してくれる。防空壕で「君のために死ねる」と結ばれた。これが彼の人生最大のいい思い出で、これをもって任務についた。

広大な遠州灘の砂浜、特攻担当地域が付与された

ひとりで穴を掘り、ここに隠れて、火薬箱(火薬が入ってない)を担いで走り出す出す訓練を繰り返す。ご飯は本部に3日分をまとめて受け取る。耐えられない孤独の中で過ごすことになる。

そこで幼い少年(雷門ケン坊とその兄(頭師佳孝)に出会った。兄は「美しい国は日本のみ、神の国」と教科書を暗記しこれを繰り返し暗唱する。先生(園田裕久)が来て不十分だと殴る。“あいつ”がなぜ殴ると棟と、精神で戦うという。

怖い怖いというモンペのおばちゃん(三戸部スエ)アメリカ兵が来ると女性は全員強姦されるという。(笑)そして沖縄を取られたらお臍を見られたのと同じだ。もうおしまいだという。“あいつ”は考えることが嫌で因数分解を唱える。(笑)苦しいときは少女を思い出していた。

赤十字の女性たちが現れ“あいつ”が身を隠すと、蓋を開けようとする。(笑)さらに突撃訓練をする若者の一団が現れる。それぞれがここでの決戦の準備をしていた。夜になると男たちが女性を追いかけ狂態を演じていた。

B-29 の爆撃を受けた

少年が駆けつけ「兄ちゃんが亡くなり、あの少女も亡くなった」と教えてくれた。“あいつ”はどうやって仇をとりかを考えた。少年はどこからか手榴弾を盗み出した。ふたりで穴に入り戦うことにした。

本部から伝令兵がやってきて特別特攻隊に配置替えを傳えられた

特別特攻というのは魚雷にドラム缶をしばり、敵駆逐艦の進路に配置され、目標が至近距離に入ったら魚雷を発進させるという戦法。“あいつ”は少年を残して去った。少年は穴で手榴弾を並べて算数の勉強をしていた。

食料が3日分。“あいつ”はドラム缶の中で海から現地調達した魚を焼き食べていた。機銃射撃を受け浸水。戦闘はないが地獄を味わっていた。接近空母を発見し魚雷を発進させたが、魚雷が沈没!“あいつ”はドラム缶の中で、流されていた。

終戦ビラが航空機で巻かれたが“あいつ”のは届かなかった

一隻の船が近ずく。オワイ船だった。船長(伊藤雄之助)から戦争は終わったと聞かされた。船に乗れと言われたが、このままでと曳航してもらうことにしたが途中でロープが切れた。

昭和43年(1968)、“あいつ”は若者が集う海水浴場に白骨となり辿りついた

まとめ:

市民目線で戦争をどう感じていたかがよく分かる。青春を無駄にされた監督の悔しさが伝わる作品だ。古臭い、「今観てどうなの?」と感じる人は少なくないかもしれないが、作り手の熱意、狂気を感じる作品だった

 おばあちゃんの沖縄の話、少年の無邪気に手榴弾で遊ぶ姿、お兄ちゃんの国語本の暗唱。どのシーンも強烈な反戦メッセージを傳えてくれる。特に、女郎屋の少女を演じた大谷直子さんが微笑んで全裸姿を見せるシーン。輝いていて、生ることのすばらしさを感じる映像だった。

目にべったりと闇が張り付いた夜、たったひとりで魚雷を抱えて海に浮んでいた男が何を考えたか。こんな経験をしたものが居るか、生きるとはどういうことか。よく伝わる作品だった。

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