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「658km、陽子の旅」(2023)菊池凛子が学んだことは人生におけるとてもシンプルなことだった。

 

NHK朝ドラ「ブギウギ」に淡谷のり子役で出演の菊地凛子さん。朝イチでのトークで、「この作品で私は変わった」と話す。いかなる作品なりやと観ることにしました。彼女の作品では「バベル」(2006)しか観ていない。

夢やぶれフリーターとして、人との接触を断ち孤独に生きる女性が、20年間会ってない青森に住む父親の葬儀に駆けつける中で、出会う人々から生きるための力を得て再生される様を描くロードムービー

監督:「ある男」(2014)の熊切和嘉、原案:室井孝介、脚本:室井孝介 浪子想、撮影:小林拓、編集:堀善介、音楽:ジム・オルーク

出演者:菊地凛子竹原ピストル黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、吉澤健、風吹ジュンオダギリジョー、他。

熊切監督と菊池凛子がタッグを組むのは22年ぶり。

物語は

就職氷河期世代である42歳の独身女性・陽子(菊地凛子)は、人生を諦めてフリーターとしてなんとなく日々を過ごしてきた。そんなある日、かつて夢への挑戦を反対され20年以上疎遠になっていた父(オダギリジョー)の訃報を受けた彼女は、従兄の茂(竹原ピストル)やその家族とともに、東京から故郷の青森県弘前市まで車で向かうことに。

しかし、茂の家族は途中のサービスエリアで子どもが起こしたトラブルに気を取られ、陽子を置き去りにして行ってしまう。

所持金もなくヒッチハイクで故郷を目指すことにした陽子は、道中で出会ったさまざまな人たちとの交流によって心を癒されていく。(映画COM)


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あらすじ&感想

陽子がカーテンを閉め切ったアパートで、ラーメンを食べながら、PCでカスタマーサポートの仕事をするシーンから物語が始まる。孤独で、人生ぎりぎりのころまで追い込まれている雰囲気がよく出ている。そこに従兄の茂が「叔父がなくなった。明日昼葬儀だ。弘前まで行く。俺の家族と一緒だ、車に乗れ」と迎えにきた。

陽子は数千円の金をもって、携帯は故障で持たず、車に乗った

東北高速道を走る。ちょっとした遊具公園のあるSAで休憩。陽子は幼いころ父とこの公園に来たことがあると散策中に、茂一家は子供が事故って、陽子を残して病院に急いだ。陽子は茂と連絡がつかず、悩んだ末に、ヒッチを思いついたが言葉がでない。トイレで「青森まで乗せてください」を練習して挑み、成功した。(笑)

拾ってくれたのは地元の勤め先が倒産で東京に仕事を求めて、その帰りだという女性(黒沢あすか)だった。

よく喋る人で、これでストレスを発散しているような人。(笑)陽子はほとんど喋れず、聞き役だった。

トイレ施設のみのSAで降ろされた

夜になった。しっかり身支度をした若い女性のハイカーに出会った。トイレを怖がるような女性(見上愛)だった。それでも愛嬌があって自販機のコーヒーを買ってくれる。プラカードを持って車を拾う方法を教えてくれた。やっとやってきた車。ひとりしか乗せられないということで陽子が譲った。

公衆電話で伯母に電話した。大丈夫かという優しいことばに電話を切った。不甲斐ない自分が嫌になった。気持ちが整理できていなかった。

東北の災害をレポートしているライター(浜野謙太)が拾ってくれた

これがとんでもない男だった。「断るなら元に返す」を脅され、ホテルに連れ込まれ、体を求められた。陽子は後悔した。

ホテルを出て彷徨するなかで父(オダギリジョー)が現れつき纏う。いつの間にか浜辺で眠っていた。打ち寄せる波で目覚め、防潮堤をとめどなく歩いた。

無人販売所に野菜を卸す木下老夫婦(吉澤健、風吹ジュン)に拾われた

みぞれの中、小銭を稼ぐために、この年でも働いている。仮設住宅に戻り、付近の人に野菜を分けて歩き、近くのSAまで陽子を送る車を捜してくれる。

大学生時代にボランティアで来て、この地が気に行ったと住み着き“なんでも屋”になったという女性(仁村砂和)に送ってもらうことになった。苦労してでも好きな土地で働く人がいる。いかに住む土地大切かということを知った。

木下さんがおにぎりを持たせてくれた。陽子はいくら感謝しても感謝しきれない気持ちだった。年寄りの大きな愛を知った。

津波災害の痕跡、復興状況を目にしながらSAに急いだ

SAではなりふり構わず車をピックアップするため走り回った。強引なお願いに怖がられる有様。(笑)ノートに行先を書いたプラカードと頭をしっかり下げることで「いいよ!」と子供の声がした。

子供の叔父(篠原篤)が運転する車の中。陽子は自分の過去を悔い、こんなバカな自分に車を提供してくれたことに感謝した

「20年会ってない父親がなくなり合いに行く。家を出て、むつかしいと思ったけど形にしないと帰れなかった。気付いたときにはまわりの人たちは苦しくても頑張っていろんなものを築いていた。私は努力をしないで逃げていた。自分には何もないことで喋れなくなった。自分が家を出たときの父の歳になって、父の死を聞いても受け入れられない。でももう一度家に戻って、父の死を受け入れたい。私がここまで生きてこれたのは、いろいろな人のお陰!ひとりでは絶対にできなかった。乗せていただきありがとうございました」と。黙って聞いてくれた。すると子供が「お兄ちゃんがバイクで送ってくれる」と言った。

陽子は二輪バイクで実家のちかくまで送ってもらい、雪の故郷を実感するように歩いて実家に戻った。そこに「出棺を遅らせている。父さんが待っているぞ!」という従兄の声に泣き崩れた。

まとめ

父の出棺に間に合った陽子。従弟の茂の「お父さん待っているぞ!」の声に泣き崩れた。父との対面シーンはないが、父へお詫びと感謝だった。物言わぬ菊池凛子さんの表情に彼女の決意をみることになる。いいシーンだった。

一泊二日の旅だったが、出会う人から学ぶことは多かった。何を学んだか。

人生は一日一日の積み重ね。気が付くと人生の折り返し地点に立っていて、自分の人生は何だったんだと気付く。こうならないよう日常をしっかり生きることが大切だということ。そして孤独は人生最大の敵だ!

従兄の茂の車に乗ったときから父(オダギリジョー)の亡霊がくっついていたが(笑)、親の想いはこういうものだ親の心子知らずだ!

 印象に残ったのは、東北の海辺で波に晒され目覚めるシーン。身体を癒すように纏わりついて離れていく波の映像、これは美しかった。人生の再生を感じる映像だった。これに続く、長い防潮堤、津波被害の痕跡と復興の現状を見せる映像は“人生諦めるな”という強いメッセージだった。

津波被害体験の老夫婦の生き方木下夫婦が孫にでも接するように、みぞれの中で、車を降りて陽子のために青森行きの車を捜す姿に、吉澤さんと風吹さんの好演技で、このとき陽子は車に乗ったままで眺めていたが、人がもつ愛がどれほどのものかが分かるいいシーンだった。

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