クリストファー・ノーラン監督作を観ようと「メメント」「プレステージ」に次いでこの作品を選び、WOWOWで鑑賞しました。監督らしい夢というマジックで度肝を抜かれるストーリーでした。(笑)
人が眠っている間にその潜在意識に侵入して他人のアィデアを盗みだすという犯罪スペシャリストが、その才能ゆえに最愛の妻殺しとなり、国際指名手配犯となった。そんな彼に、大企業主から、相手の夢に入り込んで潜在意識に種つけ(インセプション)し、競合会社を潰す作戦を依頼された。彼は子供たちに会うために、この難度の高いミッションを実行することになったが・・・。
本作は第83回アカデミー賞で8部門ノミネートされ、撮影、視覚効果、音響編集、録音の4部門受賞作です。
監督・脚本:クリストファー・ノーラン、撮影:ウォーリー・フィスター、編集:リー・スミス、音楽:ハンス・ジマー。
出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、トム・ハーディ、キリアン・マーフィー、トム・ベレンジャー、マイケル・ケイン、他。
「メメント」での時間、「プレステージ」での奇術に継ぎ、夢の世界と現実が交差するサスペンス物語。アクションありラブストーリーありで、ラストシーンは夢なのか現実なのかと問われる秀逸なシーンになっています。
前2作に比してより壮大で“難易度の高い物語”ですが、人物描写がしっかりしていて、アクションや驚くような映像が出てきて楽しめます。
冒頭、いきなり夢の中にはいり潜在意識からアイディアを盗む“というエクストラクト”劇から始まりますが、まったく分けわからない。(笑)しかし、このストーリーが終わって、次の“インセプション”劇に入ると、丁寧に、インセプションについて解説してくれ、物語は1回では掴み切れない深みがあり、何度観ても楽しめるものになっています。
あらすじ(ねたばれ):
ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)はコボル社の依頼を受けて、仲間アーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)とナッシュと組んで、大会社社長・サイトー(渡辺謙)を新幹線車内に誘い出し、夢共有装置にコブ、アーサー、ナッシュ、サイトーを繋ぎ、ナッシュ設計による夢に見て、サイトーから重要な情報を抜き取ろうとする(エクストラクト)。 ここではコブが何故失敗したか、クストラクトのやりかたの基本的なことが描かれています。
夢の中で夢を見ることで夢が深くなる。何層の夢にするか、万一の場合の逃げ道(迷路)は、夢からの脱出起爆(キック)、夢の中で“死ぬ”と夢は終わる、夢見る時間、これらを設計する設計士、夢か現実かの判断アイテム(トーテム)、各階層の夢は誰のものか(ドリーマー)など物語のキーワードになります。
夢は現実に比べて時間経過が速い、夢5分は現実の1時間に相当します。これも物語を面白くする大きなファクターとなります。
コブが失敗した原因はサイトーがしっかり対抗策を持っていて、ナッシュの夢設計が単純でサイトーに見破られたこと、さらにコブの潜在意識にある妻・モル(マリオン・コティヤール)が夢に出てきてサイトーに協力したことでした。モルは何故コブの潜在意識に現れるのかも大きなテーマです。
「インセプション」の依頼受け
彼らは京都で下車して逃亡。後日サイトーから、敵対する燃料会社の会長モーリス・フィッシャーの息子ロバート(キリアン・マーフィー)の潜在意識に“会社を潰すという意識を植え付ける”というインセプション作業を依頼される。代償は子供たちに合わせるというもので、困難な作業だが、コブはあえてこれを受けることにした。
夢設計士捜し
コブは妻の父親で大学教授マイルス博士(マイケル・ケイン)に夢の設計士の紹介を要請。アリアドネ(エレン・ペイジ)を紹介された。アリアドネはギリシャ神話に登場する女神のこと。英雄テーセウスがクレタ島の迷路から脱出するのを手助けしたことに因んだ名前でその役割を追うことになります。
アーサーを呼び寄せて夢工房を開設。アリアドネの教育を開始。夢共有器にアリアドネとコブが繋がれ実習が始まる。アリアドネの描く夢、街が折り重なる、道路が防壁となりこれを歩く、突然橋を出現させこれを渡る、鏡を2枚向かい合わせて長く続く一本道を作るなどの夢を設計。コブが絶賛。この映像が楽しめます。アベンジャーズの「ドクター・ストレンジ」(2017)に匹敵する映像、こちらが真似たんですかね。😊ところが近寄って刺そうとする女性が現れ、コブが止めた。アリアドネはコブの潜在意識になにか大きな問題があると感じた。記憶を再現すると現実が夢になるからたってはならないと教わった。
偽造師捜し
コブは偽造師が必要だとケニアのモーサッパ市にイームス(トム・ハーディ)を訪ねた。偽造師というのは夢の中である人物に化ける役割。「父親の築いた大企業を息子に潰させる」と「インセプション」の目的を話せば「基本から責めるべきで、親子関係だ!」という具合に、相手の心理を読むのが優れていた。真面目に攻めるアーサーと違って、鷹揚でヒョウキン、このふたりの相反するキャラクターが物語を面白くしています。
調合師捜し
夢は深くなると揺らぎが生じるためこれを安定するために鎮静剤を使用できる調合師が必要と、ユスフ(ディリープ・ラオ)という男に会いに行く。モーサッパ市がコボル社の本拠のある地で、サイトーの凋落失敗で、コボル社に狙われ、監視が厳しかった。モーパッサ市の迷路の中を監視員を巻きながらユスフの店に急いだ。ここでの“追走劇”が見所です!途中でサイトーの車に拾われてユスフの店に着いた!
アリアドネはアーサーから3階層の夢をつくるには迷路が必要と、“ペンローズの無限階段”を使うこと各層には身を隠せる複雑な構造にすることを教わった(実行段階で出てきます)。
コブはユスフに3階層の夢のための調合が必要だと同行を求め同意を得た。するとサイトーも「相手を知っている」と同行を言い出した。
試しにユスフの調合した鎮静剤を使ってみると深い夢の中でモルと列車の中にいた。12人ぐらいと共有睡眠なら40時間は大丈夫だという。
コブが調合の試験台に立った。深い夢の中でのモルの記憶に浸った。
夢の設計
調略の相手・ロバートの人物像を分析すると、ロバートは病床にある父親と確執がり、父親の側近であるブラウニング(トム・ベレンジャー)との関係は彼の言いなりらしいというもの。
コブ、サイトー、アーサー、イームス、ユスフが協議し、夢の設計指針を次のように決定した。決定の主役はイームスだった。
第1階層 父親の跡を継ぐ(父の遺言は“会社分割”)
第2階層 自分で何かを作りだす(父の遺言を確認したい)
第3階層 「自分の道を勧め」(遺言の確認)
実質の10時間はそれぞれの階層1週間、6カ月、10年に相当。キックは音楽による内耳刺激とした。
実行はロバートが使うシドニー発ロス行き(10時間)の747機のファーストクラスとして借り上げるというもの。
アリアドネは夢の設計だけだったが、いつも見ているコブの夢が気になり、夢共有装置を繋ぐと、エレベーターで繋がる3つ部屋にそれぞれの夢があるというものだった。地下1階はモルと子供たちが海辺で遊んでいる。地下2階はモルの部屋、地下3階は荒れた部屋でオルと結婚記念日を過ごした部屋、モルがソファーに座って「列車を待っている」という。アリアドネは「これは現実でないの?」と反すると抗議すると「俺には償うべき過去がある」と無視。コブのこの潜在意識が夢の設計に影響かあるかもしれないと同行することにした。
「インセプション」の決行
アーサーの知らせ「フィッシャーが亡くなった!葬儀はロス、木曜日!」で、夢の設計が動きだした。
予定機に搭乗し、ロバートにうまく睡眠剤を飲ませ、全員が夢共有装置に繋がった。
第1階層、ドリーマーはユスフ。
雨だった。ロス空港を出てタクシーを奪いユスフが運転、同乗者はコブ、アリアドネ、サイトー。迎えのロバートの車にブラウニングに化けてイームスとアーサーが同乗。いきなり機関車が発砲しなはら走ってくる。(笑)いたるとことからロバートの警護員が機関銃を発砲、道路は大混乱。サイトーが重傷を負った。迫力のあるカーアクションを見せてくれます!
車庫に逃げ込みサイトーの傷の手当をしながら、
「なんで機関車が出てくる」「なんで待伏せだ」とアーサーがコブを責めた。「サイトーが死んだら目覚めるのか」とイームスが聞く。ユスフが「鎮静剤が強いから潜在意識以外ななにもない世界“虚無の世界”に落ちる」という。コブはここに落ちたことがある。第4階層ではない、自殺すれば戻れる。「これが予定どおりなのか」とメンバーで揉め始めた。(笑)
ブラウニングに化けたイームスがロバートに「金庫の遺言は社を分割してフィッシャー帝国を終わりにせよとある」と告げると「俺が会社を潰すのか」「ベッドに臥していた親父が俺に“失望した”と言った」という。これで第1階層でやるべきことは終わりで、警護員に襲われ危険だと第2階層に潜ることにした。
アリアドネはコブに機関車を走らせたのは貴方と責めた。コブは「妻と深い夢を求めるようになり虚無の席に50年いた。現実に戻っても信じられず虚無の世界に戻るために、俺が虚無の夢の中で話した“列車に乗れば希望の場所に行ける”を信じて、結婚記念日を祝うホテルの部屋から飛び降り自殺した。そのとき「夫に殺される」と遺書を残していた。
警護員が追ってくる。ロバートからホテルの部屋番号を聞き出し、白いワゴン車に全員乗って移動開始した。ユスフの「飛ぶぞ!」の合図でユスフを残して全員が夢共有器で繋がり眠って第2階層へと飛んだ。
第2階層 ドリーマーはアーサー
ホテルロビーで待ち合わせしているロバート。金髪女性に化けたイームスがロバートの財布を抜き取って去る。頃合いを見て警備責任者・グリーンに化けたコブが近付き「俺がやつを追ってやる」と信頼を得て、トイレに連れ込み、ロバートが今夢の中にいると信じ込ませた。部屋番号528を聞き出して他のメンバーに知らせ、この部屋に集合した。
第1階層ではユスフはフィッシャー社の警備車に追われていた。他のメンバーは座席で夢共有器に繋がり2階層の夢の中。雨の中での激しいカーチェイス。揺れる、この揺れが身体を通して2階層に伝わる。(笑)キックは橋梁のフェンスに衝突したとき方と決めていた。(途中で入水時に変更)
528号室。そこにブラウニングが入って来て「父の遺言は“失望”ではなく挑戦状だ!“自分の力で何とか成し遂げろ”と言っているんだ。父に会って確認しよう!」とロバートを説得した(ロバートの夢)。これで第2階層は終わり第3階層へ移行する。アーサーが夢共有器の管理のためこの部屋に残り、コブ、イームス、サイトー、アリアドネ、ロバートがベットに横たわり、夢共有器を繋いで3階層の夢に中に。
第1階層のユスフが警備員に追い詰められ、フェンスを突き破って河に飛び込むが宙づりになりながらゆっくりと河に落ちていく。これが下の階層に衝撃、無重量状態となって伝わる。
ここからは第3階層を主体に、第1階層、第2階層の3つの階層が連携しながら相互に描かれます。
第3階層 ドリーマーはイームス
モーリスが入院している病院は雪で閉ざされた山峡にあった。風景が一変するのでびっくりです。
父に会いに行くロバートにサイトーが付き添う。警備隊の攻撃を予想しイームスがロバートらの行動を直接サポート。コブとアリアドネが後方から重機関銃で援護。作戦開始!警備隊が雪上車、スノーモービルで攻撃してくる。イームスがこれを奪いロバートとサイトーを支援。雪中での銃撃やカーアクションをしっかり見せてくれます。めずらしい映像です。
1階層でユスフ車がフェンスを破った衝撃で雪崩が発生!これを回避するロバートとサイトー。やりすぎです!(笑)
2階層ではフェンスの影響で528室が混乱、その後の車の宙づりで売重力状態となり、アーサーは宇宙飛行士のように泳いで、襲い掛かる警備員と戦いながら、部屋まるごと落とすようキックに備えて起爆薬を張り付ける。とても面白い映像になっています。
ロバートとサイトーは迷路エアダクトを通って病院に入り、父親の居る部屋の前に立った。そこにモルが現れロバートを撃った。援護射撃で銃を構えていたコブがモルを撃った。コブが病院に入り、ロバートとモルを調べるとふたりとも死亡、“虚無の世界”に落ちていた。
アリアドネの提案でコブとアリアドネは虚無の世界にロバートを連れ戻しに行くことにした。音楽に合わせてADM(自動蘇生機)で蘇生し、音楽が終わる瞬間に病院の爆発衝撃で全員上に戻ることにした。イーサムが起爆薬を設置し、これを妨害にくる警備隊をサイトーが阻止するため手榴弾を持たせた。ロバートの胸にADMを着けさせた。コブとアリアドネが夢共有器を繋いだ。
虚無の世界 ドリーマーはコブ
50年かけてコブとモルが“虚無の世界”で作った街を見て、モルの部屋に入った。モルはコブをここに誘うためにロバートを殺してここに拘置していた。モルが「この世界なら一緒にやれる」とコブを誘った。音楽が鳴り始めた。アリアドネはロバートの拘束を解き、3階層から伝わるADMの衝撃を待った。コブがモルの語り思い出に浸りここに居たがる。アリアドネは「アドリブよ」とモルを撃った!コブはこれで妻と別れることができた。
イーサムがADMを作動し、ロバートが蘇生して父親に会い遺言の内容を確認した。父は「失望したではなくわしを真似るな!」と言った。ロバートは納得した。
イーサムが病院を爆破!虚無階層ではコブがアリアドネに「戻れ!俺は落ちてくるサイトーを待っている」と指示した。
第2階層のアーサーは、キックが入水時に変更になり、眠っているメンバーをエレベーターに乗せ、部屋を爆破した!
第1階層、車が水没(キック)したが、迷路が準備されていた。全員酸素マスクを着けて岸辺に泳ぎついた。コブは水中の中でまだ虚無の中にいた。
サイトーはエアダクトから攻撃してくる警備隊を手榴弾で阻止した後、“虚無階層”に落ちた。コブはここで年老いたサイトーに会った(冒頭シーン)。「孤独で死を待っている」というサイトーを「戻ろ!」と誘った。サイトーは自殺した。
747機の中で何事もなかったように全員目覚めた。サイトーの入国手続きで無事コブは子供たちのところに戻った。コマを廻すと次第に回転速度が落ちてくる・・。
感想:
よく分からないというところが魅力。😊何度観ても新しい発見が楽しめます。映像がしっかりしていて飽きない!
「インセプション」の話は謎解きのようで楽しめますが、夢の中での断片的なモルの記憶は次第に繋がって、夫婦の悲しい愛の物語になっていく。コブとモルの切ない夫婦愛、虚無階層での最後の別れに泣かされます。これまでの作品にないノーラン監督の女性描写だと思います。マリオン・コティヤールの演技がすばらしい!
演技上手なキャストの中で、渡辺謙さんの頑張りは見事でした。
ロバートに潜在意識「我が道を行く」を植え付けたが、はたしてロバートがサイトーのもくろみ通り相続した会社を分割するかどうか?ロバートが「我が道を行く」という生き方を見出したことがいい。😊また、コブはこの「インセプション」で妻への贖罪から解き放たれ、新しい人生を模索することになるでしょう。コブにとっての人生の“インセプション”になりましたね!😊
****