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「崖上のスパイ」雪世界での美しいアクションスパイ劇、悲しい結末が希望に繋がる大局感を味わった。

2022年度製作作品。中国の巨匠チャン・イーモウが、1930年代の満州を舞台に描いたスパイサスペンス。監督名で観ることにしました。といっても高倉健出演「単騎、千里を走る」(2005)の監督であったことぐらいしか知りませんでした。本作も高倉健さんの香りがする作品でした。(笑)

歴史的には関東軍が絡む物語ですが、このこととは切り離して、日本の傀儡政権下のハルピン警察庁特務科と中国共産党のスパイとの対立が描かれ、画面に日本人はひとりも出てこないし、当時の日本の政策に触れることもないので、仮想設定のスパイ映画を観るという感覚で観ました。

監督チャン・イーモウ脚本:チュアン・ヨンシェン、チャン・イーモウ撮影:チャオ・シャオティン、音楽:チョ・ヨンウク。

出演者(役名):チャン・イー(張憲臣)、ユー・ホーフェイ(周乙)、チン・ハイルー(王郁)、リウ・ハオツン(小蘭)、チュー・ヤー(楚良)、ニー・ダーホン(高科長)、ユー・アイレイ(金志得)、フェイ・ファン(小孟)、リー・ナイウェン(魯明)、チェン・ヨンジョン(王子陽)、レイ・ジャーイン(謝子栄)、他。

物語は

1934、冬ソ連で特殊訓練を受けた男女4人のスパイチームが、極秘作戦「ウートラ計画」を実行するため満州国ハルビンに潜入する。彼らの目的は、日本軍の秘密施設から脱走した証人・王子陽を国外脱出させ、同軍の蛮行を世界に知らせること。しかし仲間の裏切りによって天敵・ハルピン警察庁特務警察に計画内容が察知され、リーダーの張憲臣が捕まってしまう。残された3人と彼らの協力者となった周乙は、どうにかピンチを切り抜けるべく奔走するが……。

チャン・イーモウにとってスパイ映画は初めての作品監督は既存の映画作品を研究してスパイのエピソードをしっかり盛り込んだ作品にしていますが、所謂スパイ劇とは違う感じがする。美しい映像と創意工夫されたアクションを楽しみながら、その結末に大きな人生を教わるという作品でした。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、中国共産党工作員の4人が雪の森林帯にパラシュート降下。夫婦の張憲臣と王郁、恋人同士の楚良と小蘭。隊長は張憲臣。彼の命令で二組に分かれて行動し、ハルピンの拠点に向かう。1組は張憲臣と小蘭、2組は王郁と楚良。雪の森林に降下するパラシュートを上空から撮ったとても美しい映像だった。北京オリンピックの開・閉会式の総監督チャン・イーモウの面目躍如という映像でした。

特務科は処刑と取引した共産党員の謝子栄からソ連で訓練を受けた4人のスパイが18日“ウートラ”という計画で侵入してくることを知った。予想降下地域に特務隊を派遣して捜索開始していた。

1組は小蘭の機転で特務隊の攻撃をうまく切り抜け、特務科に内通者がいることに気付く。一方、2組は協力者だという者たち(協力班)と行動することになった。実はこの協力者たちは特務科が侵入したスパイを捕えるために作った組織だった。協力班は周乙、金志得、小孟、魯明の4名からなる。

前情報なしで見ると、同じ民族で、よく似た服装、厳寒下の行動で顔を布で覆っていて、スパイと特務科員の区別がつかず混乱します。実戦的といえばそうなんですが、これを映画にすると分けわからない!(笑)

特務科の高科長は2組が列車でハルピンに移動するのに協力班を随行させ1組を確保することにした。

列車内における1、2組と協力班の対峙。1組と2組が話すことはない。周乙が奇妙な行動をする。トイレ通路に「密告あり」の文字を残す。異様な雰囲気の中で1組がどう協力班を回避するかが見どころです。

2組はひとつ前の駅で下車、1組は協力班の追随をうまくかわし、ハルピンの映画館“アジアシネマ“で会うことにして張憲臣と小蘭は別々に行動した。

小蘭のリウ・ハオツンはとても可愛らしい。スパイらしくない!(笑)ところがしっかりアクションも出来ます。

アジアシネマ当時のハルピンの街、ロシア風の洋館が立ち並ぶ映像が美しい(セット)。とても丁寧に作られていています。映画館で上映されている映画はチャップリンの「黄金狂時代」(1925)、この作品イメージが本作のタイトルで、映画ポスターが大きな伏線になっています。

スパイ映画の面白さのひとつは伏線の繋ながり。次から次へと何の変哲もない伏線がうまく繋がってきます。

張憲臣と小蘭はここで出会い、アジトに戻って、張憲臣は小蘭に作戦、コードネームはウートラ(ロシア語で夜明け)と暗号の解き方を教えた。

夜、張憲臣は雪の街を見下ろしながら、この街に残した二人の子供のことを小蘭に語った。スパイ映画で子供を忍ぶ作品はない!このあたりが監督の情を重んじる作風が出ています。

2組は協力班によってひなびた洋館のアジトに案内され、ここで張憲臣の指示を待つ。

翌日、張憲臣はひとりで書店に暗号書として用いられる小説を買い求め、店を出たところで張り込んでいた特務科員(協力班)に追われる。彼らは2班の荷物にあったこの小説に興味を持っていた。ハルピンの雪の路地に逃げ込む張憲臣、追う特務班の逃走劇。ここでの銃撃アクションが美しい。

張憲臣は逃げ切って、かって住んでいた場所に行き男の子に出会い、「もしかしたらこの子が・・」と感慨に浸る。そこに特務班が現れ、逃げたが小孟の運転する車にぶつかり捕らえられた。このシーンは、各種のカメラアングルで撮った映像と編集で、迫力のある映像を見せてくれます

特務科の取調室で張憲臣は電気ショックで責められ、ウートラ計画の実施日、場所を吐くよう強制された。どんなに責められても吐かなかった。わずかな隙を狙って脱出したが周乙に捕まった。周乙が「特務科に潜入している共産党員だ」と名乗り「ウートタ計画とは何か」と聞く。張憲臣が「王子陽を国外脱出させることだ」と教えた。周乙は張憲臣を車に乗せ検問所を突破しようとするが無理だった。張憲臣に「自分を殺して成り代わって脱出しろ」と勧めたが、張憲臣は周乙を殺せなかった。

そして再び取調室に戻され一層厳しく追及された。張憲臣は眠らされ、巧みな誘導で「連絡場所はアジアシネマで始めの終わりだ」と喋った。一方、周乙も高科長から嫌疑の目が向けられるようになった。見張りとして小孟が監視することになった。

周乙がアジアシネマを監視しているとある男から「アスピリンをくれ」と近づいてきた。渡すと別のアスピリンを返してきた。その中に伝言文「イソップ物語は読んだか」のメッセージがあった。

周乙は2組のアジトを訪れ、王郁と楚良にメッセージを確認した。「裏切り者がいる」の意味だった。周乙は「自分は特務科に潜入している共産党員だ」と明かし、張憲臣の現況を説明した。そしてウートラ計画は他の者が継ぐ、脱出方法は考える」と、さらに子供は生きていると伝えた。王郁は泣いた!

周乙は金志得とアジアシネマをカフェから見張っていた。周乙は映画「黄金狂時代」ポスターの上映案内日時の「20日9時15分」欄に✓印を残した。これを見た金志得に「自分は共産党員だ、訴えるならそうしろ!」と金志得を試すことにした。

小蘭が映画館にやってきて上映案内日時「20日11時」欄に✓印があることを確認し、三枚のキップを買った。

周乙は2組のアジトを訪れ、協力組と一緒に王郁の誕生日を派手に祝った。実は酒に眠り薬を入れて眠らせ、小孟が部屋を出て行ったことを確認し、王郁にウートラ計画「今夜決行だ!〇〇大使館、大使夫人のパーティーだ。大勢集まるからやれる」と告げた。そこに小孟が戻ってきた。危ない!危ない!

夜、大使館に2組のふたりがタクシーで現れ、王郁がひとり大使館に入って行った。これを高科長、周乙、特務班が監視していた。ここでの2組と高科長、周乙の駆け引きが本作のハイライトです。降りしきる雪、凍った道路、車のコントロールができない中でのカーチェイス、そして銃撃戦。こんな面白いカーチェイスを見たことがない!

作戦は失敗。王子陽を自害に追い込んだことを周乙は泣いて悔やんだ。そして楚良も死なせてしまった王郁は逃げ切った(追わなかった)。

しかし、再び高科長が特務科の内部にスパイがいるのではないか、そちらの方が問題だと周乙が拘置室で取調を受ける。が、金志得を使ってうまく逃げ切った。張憲臣と金志得が処刑された。

20日、アジアシネマで映画を観ている小蘭に会い、車で郊外に出て王郁に会いそこでふたりの子供に会った。王郁は「私が夫を売った、殺した。あの列車で見たのに!」と悔やみ「ウートラは希望という意味だったが、希望があるのでしょうか」と周乙に聞いた。周乙は「開けない夜はない」と応えた。

まとめ

降る雪の中でのドラマ。雪の白とスパイと特務科員の黒い衣装で映える映像、これは美しかった。そしてハルピンのロマンあふれる街の中でのアクション、これは楽しめました

 厳しい使命と辛い試練、拷問、騙し、暗号、密告・・とスパイ映画に必要なエピソードは全部含まれています。特にウートラ計画を首謀者の張憲臣に変わり周乙が特務科長を騙して実行するプロットは面白い発想でした。しかし所謂スパイ映画ではない!(笑)

作戦の失敗、これで何を語りたいかがこの作品のテーマと捉えました。4人のスパイの中で残ったのは小蘭のみ(王郁は母となり引退)。スパイ作戦など困難な作戦には失敗はつきもの。小蘭がいれば次の作戦が続けられる。これが希望に繋がるという大きな人生の世界感を描いた作品だと感じました。それにしても小蘭のリウ・ハオツンが美しかった。期待しています!

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