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「関心領域」(2023)音響ホラーで!無関心の罪を問う!

 

第96回アカデミー賞(2024)で作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した作品。いかなる作品なりやと覗くことにしました。

ホロコーストを取り扱う作品にあって、ちょっと視点が違う。

冒頭から3分にも及ぶ嫌な音響、ラストでまた数分に渡る嫌な音響。何んの音か!!終始赤ちゃんが泣き続ける!この音の中にテーマが隠されている作品

原作:イギリスの作家マーティン・エイミスの小説、監督・脚本:「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のジョナサン・グレイザー撮影:ウカシュ・ジャル、美術:クリス・オッディ、編集:ポール・ワッツ、音楽:ミカ・レビ。

出演者:白いリボン」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のクリスティアン・フリーデル、「落下の解剖学」のサンドラ・ヒュラー

物語は

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランドオシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所のルドルフ・ヘス所長とその家族の暮らしを描いていくというもの。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、タイトルが表示され、これがフェードアウトして約3分間真っ黒なスクリーンに奇妙な音響が鳴り響く。そのうち鳥の鳴き声があって、明るいルドルフ一家の水辺で遊びのシーンから物語が始める

妻のヘートヴィヒが赤ちゃんを抱いている。多くの子供たちがいる家族だ。2台の高級車で館に戻る。これだけで幸せな一家に見える。

ルドルフ誕生日

朝、ルドルフは目隠しされて庭に出ると、家族から「アウシュビッツ収容所所長おめでとうございます」とテーブルの上にプレゼントのカヌーが置いてある。お祝いの言葉で食事をとり、ルドルフは馬で収容所に出掛ける。所長在任4年になる。収容所の特徴である三角屋根の塔が見える。

子供たちが学校に出て行く。ヘートヴィヒは赤ちゃんに庭の花や虫の名を教える。

家族の生活は楽園だ

そこに、収容所の囚人が手押し車に囚人らの遺品を乗せて持ってくる。食べ物は厨房に、衣類がテーブルの上にぶちまかれる。

ポーランド人の家政婦たちが「ダイエットが必要かしら」などと品定めしなから選ぶ。ヘートヴィヒは毛皮のコートを持って化粧室で試着してみる。ポケットに口紅がありこれを試してみる。幼い子供らが遺品の中から人の歯を探し出す。

彼等の生活はこれで成り立っていることなど考えたこともない

出勤したルドルフが収容所から戻り、執務室に入る。靴は下男が洗い、磨く。

焼却炉の業者が訪ねてきて、二重窯で温度が1000度にもなる効率のよい窯を勧める。ルドルフはこれを採用する。収容所で働く将校たちが誕生日の挨拶にやってくる。ルドルフはナチス将校冥利に尽きる仕事だと思っている

ルドルフが息子を連れて馬で邸内を散策。にぶい嫌な音が響くが気のもしない!

夜になると、家族で豪華な食事を楽しむ。赤ちゃんが泣き続ける。消灯の前、ルドルフは煙草を吸いながら収容所を眺める。ゴーという音がする。煙突から赤い炎が上がる。

嫌な音の中で、ルドルフは1階の部屋の灯りを消して、2階の夫婦の寝室に入る。子供部屋では、電池をつけて人の歯で遊んでいる

ルドルフが小さな女の子に本を読み聞かせる。夫婦の会話、ヘートヴィヒが「イタリアの温泉に連れていってほしい」と話し、笑い声が絶えない。

そのころ、ユダヤ人の若い家政婦が収容所の塀に沿った土盛に、見つけて食べて欲しいと、リンゴを埋めている。邸内ではこのことに気付かない。犬でさえも!(笑)

収容所の兵士の騒ぐ声、呻き声、何かが焼かれる気配を感じるが、邸内の人は何も感じない。何故か?

ルドルフの耳に転属の噂が入って来る。彼はしっかりやっているとこれまでの成果をヒムラーに送る。

ルドルフが子供たちと河で遊んでいて、収容所から出た灰が流れているのを見て、子供らを連れて邸に走り込む。子供たちを風呂で洗う。ヘートヴィヒは庭の花の手入れで気付かない。

ルドルフがラジオでサッカーの試合を聞いているところに電話が入った。転属の話だった。幼い息子が収容所から伝わる音に合わせてドラムを叩いていた。

ヘートヴィヒは母親を邸に呼び寄せた

母に準備した寝室を見せ、庭に連れ出し、プール、花壇、温室、菜園などを見せる。母親が隣の壁を気にするが「全て私のもの。塀は蔦で覆っている」と気にしない。母親は「これだけの生活が出来るとは!あなたは幸せ!」と褒めた。このとき銃の発射音で犬が哭くが、ヘートヴィヒは全く気にしない。

家族が庭にプールで遊んでいた。ルドルフがヘートヴィヒに「よそに行くことになった、オラニエンブルダ、副指揮官だ」と伝えた。(降格だ!)

ルドルフは一度邸に戻り、川辺に出て行った。「何で?頭にくる」とヘートヴィヒが彼を追った。川辺でふたりは話し合う。ルドルフは「編成替えの移動だ」と説明するがヘートヴィヒは「総統の世界。彼のいう通りにしている。ここに残る!」と言い出す。ルドルフは「頼んでみる」と話を治めた。

庭にはひとり残された母親がプールサイドの椅子で異変に気付き考え込んでいた。

夕食時、ルドルフは転属を匂わせる話をしたが子供たちは眠いと寝室に戻った。邸の灯が消える。ヘートヴィヒは寝室で赤ちゃんが泣く中で、酒を呑んでいたゴーゴーと嫌な音がする。カーテンが赤く染まる

ルドルフは上司から正式に辞令を受け、ヘートヴィヒをここに残れるよう要請した。

夜、ルドルフは子供の本を読み聞かせていた。そのころユダヤ人家政婦がバッグを持って収容所の外柵に食べ物を並べて設置していた。彼女は邸宅に戻り、ピアノを弾き、苦しみを乗り越え、陽が見つかると唄っていた。ルドルフはユダヤ人の家政婦を犯してここを去ることにした。

ルドルフは子供たちに見送られ、オラニエンブルダに異動した

朝、ヘートヴィヒが起きると母親が見えない。お手伝いに探させるが、母親は手紙を残し邸を出ていっていた。お手伝いを呼び「あなたたちも夫に言いつけて焼き殺す」と言い出す始末。

強制収容ユダヤ人の取扱いについての最終会議

強制収容所所長が一堂に集められ、ルドルフもこれに参加した。全体の20%をアウシュビッツで焼却。残りを各収容所で行うとして編成替えが行われた。ルドルフはマイダネク強制収容所所長に任命された。

参集者は会議の後、大ホールでパーティーをやる。これも異常だが誰もそう思わない!単身のルドルフは二階から眺めていた。

ルドルフはヘートヴィヒに「全員をガスで殺すことに決まった」と電話すると「もう寝る!」と返事してきた。ルドルフはマイダネクで起こる悲劇を想像し2度吐いた。ここではアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の歴史遺産を提示して描かれる。これには圧倒され、目を覆いたくなった。

なぜ、彼らはアウシュビッツで楽園のように生活ができたのか 

まとめ

何げない日常と地獄が隣り合う異常な空間を目の当たりにした。彼らは関心領域で無関心だった。何故彼らが異常兆候に気付かなかったか。彼らはヒトラーの世界に嵌り、全てのものを手にしていた。人間の欲望だ。普通の人が嵌る悲劇を見た。ということは、未来にも同じことが起きる可能性がある。これがメッセージだった。

「今の世界に無関心ではないか」と問われる!日常に慣れることの恐ろしさを衝く作品だった。

壁の向こうの暴力や惨殺は一斉描かれない。見えない看守の怒鳴り声、囚人の叫び声、銃声、ボイラーの唸り音だけだ。異常に気付いたのは赤ちゃんと母親のみ。“なるほど”と思った。音響でテーマを描くという面白い作品だった。

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