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「帰れない山」(2022)どう生きるか?森羅万象の仕組みから解いてくれる!

 

タイトルから山岳遭難の話かなと思っていたら、イタリアの作家パオロ・コニェッティの世界的ベストセラー小説が原作で、深い意味のある作品だった。未読です。2022年・第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した大人の青春映画とのこと。

ある事情で百名山を88座で止めざるをえなくなった人生を嘆いていたが、この作品を観て、これでよかったかもしれない。また、「悪は存在しない」(2023)を観てよく分からなかったが、この作品に出会い分かる気がする。そんな作品だった。

作品の鑑賞をお勧めします

小難しいことは嫌いでもトレッキング趣味の人には堪らない映像がありますカメラは「TITANE/チタン 」(2021)のルーベン・インペンス。そして音楽に癒されます。

監督・脚本:「ビューティフル・ボーイ」で知られるベルギーの俊英フェリックス・バン・ヒュルーニンゲンと、「オーバー・ザ・ブルースカイ」などで脚本も務める俳優のシャルロッテ・ファンデルメールシュ、実生活でふたりは夫婦。

撮影:ルーベン・インペンス、編集:ニコ・ルーネン、音楽:ダニエル・ノーグレン。

物語は

北イタリア、モンテ・ローザ山麓の小さな村。山を愛する両親と休暇を過ごしに来た都会育ちの繊細な少年ピエトロは、同じ年の牛飼いの少年ブルーノと出会い、一緒に大自然の中を駆け巡る中で親交を深めていく。しかし思春期に突入したピエトロは父に反抗し、家族や山と距離を置いてしまう。時は流れ、父の悲報を受けて村を訪れたピエトロは、ブルーノと再会を果たす。ふたりは再会を喜んだが、幼いころとは自然に向き合う姿勢が違っていた。ふたりが辿り着く運命は?


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

1984年の夏両親が借りた別荘で都会育ちのピエトロ(アンドレア・パルマ)が同じ年11歳の牛飼いの息子ブルーノ(フランチェスコ・パロンベッリ)に出会った。

ふたりは会ったとき直ぐに意気投合し、野を駆けまわる。父親のジョヴァンニ(フィリッポ・ティーミ)はトリノの街で仕事に就いていが、休日のこちらに来て山歩きを楽しむ。その相棒にピエトロを連れ出す。初めて連れて行かれた山から、マッターホルン、ウグン・トルナレン、ブライトホルン、リスカム(人食い尾根)を望んだ。忘れられない記憶になった。ジョヴァンニはケルンに登山記録を書き残した。帰宅すると大きな地図に歩いたルートを書き込む。

次の休み、ジョバンニはピエトロとブルーノを連れ雪渓のある山に登った。

ジョバンニは2人の子に小さなクレパスを跳び越えさせるが、ピエトロがひるんで飛び越せない。これで登山を諦め帰宅した。このことにピエトロは2度と山に登ると言い出さなかった。

ジョバンニはブルーノを気に入りトリノの学校に入れようとした。本人もその気になり、ピエトロも喜んだが、ブルーノの父親が出稼ぎに連れ出し、これ以降ふたりは会うことはなくなった。

思春期を迎えたピエトロは父親に反発、誘われても山には出かけなかった。15年間ブルーノと会うことはなかった。

青年に育ったピエトロ(ルカ・マリネッリ)は、ドキュメンタリーを撮ったり、小説を書いたりで大学に顔を出さず、ジョバンニから「人生を無駄にするな!」と注意を受け、ふたりの間には大きな壁があった。

そのような状況下、ジョバンニが62歳で急逝

ピエトロは別荘に戻った。暖炉に火が入っていた。ブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)の心使いだった。15年ぶりの再会。お互いの成長ぶりに驚いた。ブルーノはオートバイにピエトロを乗せ、徒歩4時間かかる高地に存在する廃墟に案内した

ブルーノは「ジョバンニが理想の土地と決めた場所だ」と言いと、「廃墟を山小屋に改造する」と言う。ふたりは麓から馬で資材を運び、泊まり込みで、ひと夏で山小屋を作り上げた。ピエトロが木を植えようとするとブルーノが「生きたところでは強いが、別のところではどうか」と言った。この言葉が最後まえ気になる。

ピエトロは父を偲び久しぶりに最初に登った山に出掛けた。父の匂いがした。父がブルーノと山に登ったことを思い出し、ブルーノに感謝の気持ちで一杯だった。今になって、大切なものを失ったと後悔した

ピエトロは「毎年、夏にはここに来る」とトリノに帰った。ブルーノは「俺は先祖代々の山の民だ!叔父の残した牧場を始める」と一生ここで生活することにした。

ピエトロはレストランの厨房で働きながら小説を書き始めた

休みにはティスコに出掛け、飲み踊る。そこでラーラ(エリザベッタ・マッズッロ)に出会った。

ピエトロはラーラら仲間3人とブルーノが始めた牧場を訪ねた。ラーラは牧場の風景にそして熱く「自然の中にエコ村を作る」と語るブルーノに惹かれた。しかし、ブルーノは「融資や銀行のことが心配だ」と言い「昔ながらのチーズは作れる」とこれに賭けていた。

厨房で働くピエトロのところにブルーノから電話があった。

「ラーラが牧場を手伝うとやってくる。君たちの関係を知っているが良いか?」と聞いてきた。ピエトロは「自分は今だ独身だ。小説も書けず、何物をも成し遂げてない」とピエトロブルーノの成長を喜んだ。

ピエトロがブルーノの牧場を尋ねると、ラーラが妊娠していた

ブルーノはそんなラーラに手しぼりに拘る搾乳を教えていた。ブルーノはまさに山の民になっていた。いかし、町への出荷はピエトロに任せる。ピエトロは小説を書くために山小屋を使った。

翌年、ラーラは娘アニータを抱いていた。ピエトロは「父はもうひとりの自分とは逆の息子を見つけていた」と自分が嫌になり旅に出て変化したくなった。

ピエトロはネパールのトレッキングに出掛けた

山間の村を歩いていて、「ブルーノはこの光景に何を考えるか?」と思った。「土地の利用法、女性の手、家畜と遊ぶ子供たち。世界中の山の民はひとつだ」と思うだろう。

ピエトロがブルーノの牧場を訪ねた

ピエトロはネパールで見たヤクのバターの話をした。あらゆる用途がり、鳥葬にも使われる。人が鳥葬で骨になると、これを砕いてバターと小麦粉で練り込み鳥に食わせ完全に遺体がなくなると。

ラーラは恐ろしいといったがブルーノは「鳥になって人生を終わりたい」と返事し「お前も本1冊で有名になった」と皮肉を言う。ピエトロはブルーノの生き方が心配になった。ネパールで聞いたもうひとつの話「真ん中に高い山・須弥山、その回りを八つの山が取り巻いている。よく学ぶ者はどちらの山に登る?」と質問し「俺は八つの山に登る、これが正解だ」と話して聞かせた。

ピエトロは再び旅に出た

この旅には、カフェテラスで小説を書いていて出会ったアズミ(ラクシャ・パンタ)が一緒だった。

ピエトロは旅を終え山小屋に戻ってきた

小屋を修理しているところにブルーノが顔を出した。ふたりで料理を作りながら話した。ピエトロは「いい女性が見つかり居場所を見つけた、もうここには来ない」と告げると、ブルーノは帰っていった。

父の登山ルートを辿りケルンからメモを取り出し読んだ。

1984年8月、11歳の息子と登山、息子に先導されて山に登る日も近い。最高の登山だった」「1994年7月、相棒と同じ21歳に戻った気分だ」と記されていた。そして父の最期の文「誰にも会わず、麓に下ることもなく暮らしたい」を見た。父は世界から離れた家を夢見ていたことを知った。自分にはふたりの父、20年間都会で同居したが他人同然に父とあまり会わなくてもよく知っていた父がいた。廃墟の再建は父からの大きな贈り物だと思った

ブルーノの牧場でラーラの不満を聞いた

「部屋を貸してグリーンツーリズムを開きたい。借金でチーズでは食っていけない」と言う。ピエトロは金の支援は出来ないのでここで働くことを申し出たが、ブルーノから「お前にはやることがある」と断られた。

しばらくしてブルーノから連絡が入った

「牧場が差し押さえられた。ラーラは娘を連れて実家に戻った。誰にも会いたくない、山小屋に籠る」というモノだった。ピエトロは「冬だぞ!」と注意したが「居場所がない」という。「俺も行く!」と伝えた。

冬準備の山小屋

ブルーノは薪を作り、羊を吊るしていた。ブルーノが「前の生活の方がよかった。が、これでいい」と言う。ピエトロは「お前はいい父親だ。ここでは嫁と暮らせない。この外にも世界がある。壁がそびえているのはお前の頭の仲だ。普通の仕事を捜せ!冬だけでも」と下山を勧めた。しかし、「帰ってくれ!出て行け!」と怒鳴られた。

ピエトロはトリノの戻りラーラに会った

ピエトロが「あいつを助けたい!」と切り出すと「無理!いろいろ選択岐があったが全て断った「。私より山を選んだ。山ってなんなの?」と泣いた。

ピエトロはブルーノ説得のため再度山小屋を訪ねた

雪山だった。ブルーノがスキーで出迎えた。ブルーノは前に会ったときの非礼を侘び「人間はいつか立ち上がり自問する時が来る。自分には何ができるのかと。俺は山で暮らせる」と言った。ピエトロは何も言わず抱いてやった。

ピエトロにラーラから電話があった。

「もの凄い積雪なので救助ヘリを要請。ヘリが出動したが、山小屋にブルーノの姿はなかった。これはあの人が選んだ道!」と伝えてきた。ピエトロは「違う!」と返事した。

春になって、ピエトロは「あの山小屋はすでに役割を終え長く持たなかった。人生にはときに帰れない山がある」と呟いた。

まとめ

モンテ・ローザ山麓の自然の中で育まれたピエトロとブルーノのかけがえのない友情。ピエトロが心の友ブルーノを失くした回想として描く物語。理想を追うか現実に生きるか。どちらの生き方を選ぶかはその人に任される。が、ピエトロの悔しさが伝わる作品だった

ブルーノは自給自足で生きる理想的な自然を愛する人生を選んだが現実の厳しさに負け、亡くなった。ラストシーンで鳥がついばむ肉片はブルーノのもの。彼は自らが選んだ鳥葬によって自然に還った。ブルーノにとって悔いのない人生だったと思う。

一方、ピエトロは愛する山を渡り歩きそれを糧に小説家として現実的な生き方をした。「一番高い最初の山で友を失くした者は八つの山を彷徨い続ける」とブルーノを偲んだ。親友を失った悲しみが伝わる言葉だ。

山好きのジョヴァンニが選んだ人生。彼は仕事に追われながら、楽しみをトレッキングに求め、最期は人里離れた山小屋で過ごしたかったが、叶えられず亡くなった。腹八分のような人生だが、理想的な人生だったと思う

ブルーノの妻ラーラは自然の中で暮らすのが好きだったが、子供が生まれ、経済的に成り立たないブルーノの生き方にはついて行けなかった。

アルプスの景観、トレッキング。この映像がすばらしい。また、ふたりの青春に会わせたテンポのよさや癒しの音楽よかった

人生や自然に対する名言が出てくるのが面白い。自然にどう向き合うべきかを考えさせてくれる作品でもあった。

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