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「花腐し」(2023)切ないピンク映画だった。なんで“あの時代”に撮らなかった!

 

タイトルに魅せられ、荒井晴彦監督作で綾野剛柄本佑さんが出演するR18指定作品これで観ることにしました。「花腐し」は万葉集に登場する、花を腐らせてしまうほどの長雨のこと。

原作は芥川賞を受賞した松浦寿輝氏の同名小説。“ピンク映画へのレクイエム”という荒井監督ならではのモチーフを取り込んで大胆に脚色された、ふたりの男とひとりの女が織りなす切なくも純粋な愛を描くというもの。

第33回日プロ大賞(2023年)の作品賞、監督賞、新進女優賞作品。

荒井監督が描くピンク映画、ラストはアダルトビデオだったが、監督はこれを描きたかった。(笑)監督の描きたかったのはその奥にあるメッセージ“時代に流されるな!”。“ひとりの女”、この女性の運命に泣けた!

監督:荒井晴彦脚本:荒井晴彦 中野太撮影:川上皓市 新家子美穂、美術:原田恭明、編集:洲崎千恵子、音楽:柴田奈穂 太宰百合。

出演者綾野剛柄本佑さとうほなみ、岡睦雄、MINAMO、マキタスポーツ奥田瑛二、他。

物語は

廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷(綾野剛は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関(柄本佑はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子(さとうほなみであることに気づく。3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、それぞれの人生が交錯していく。(映画COMより)


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あらすじ&感想

2012年の冬、荒川の河口で男女の遺体が発見された

女性は女優の桐岡祥子、男性はピンク映画監督の桑山篤(吉岡睦雄)だった。5年間祥子と同棲していたピンク映画の監督・栩谷が祥子の葬儀場に訪れるが、線香もあげられず追い返される。次いで桑山の葬儀場を尋ねると、仲間が多数集めっていた。TVに政権が自民党が戻ったニュースが流れていた。

「業界は厳しいが、6年間も同棲していて何で撮ってやらんかった」と非難される。「ザリガニが死んだからだ」と応えた。答えが見つからなかった。

アパートのオーナー金昌勇(マキタスポーツ)に家賃滞納を申し出に行くと、交換条件として、古いアパートに住む伊関という男の退去説得を言い渡された

大雨の中、栩谷は古いアパートに住む伊関を訪ねた

 女の声がする。ドアを開けた伊関は「帰ってくれ!」とそっけない。栩谷が粋がると部屋に入れてくれた。「女は?」と聞くと、「いない」と言う。栩谷が「ピンク映画の監督だ」と挨拶。すると「あのころはよかった。女優を目指す女と一緒だった。名は聞かなかった」と言う。

栩谷は伊関とは初対面。「女が女優」ということで、この女優を巡ってふたりの話が弾む。現在はモノカラーで、この女優の記憶はカラーで描かれる生と死を行き来するミステリアスな展開になる

伊関が「飲み屋でバイトしていたとき、酔っぱらって吐く女に出会った(2000年)」と話す。

この話に、栩谷は「(2006年)バーで女に出会い、激しい雨だったが、バーを出たところで女にキスされ、ふたりで転んだ。そのとき女がザリガニを捕まえた。その後、女が自分のアパートにこいつを連れてきた」と言う。

伊関「ザリガニは“やりまん“だったか?」、栩谷が「その女は処女だったか?」と聞き返した。(笑)伊関は「女の部屋で、セックスしたいというから、押し倒した。まあ、やるにはやった」と笑う。栩谷が「”あなたでふたり目“と言ったか?」と聞く。伊関「それはなかった」。(笑)

このような調子でふたりは自分と付き合った女の思い出をぶつけ合う

栩谷はカラオケバーで、主役をやりたいと楽しそうに歌う女に「脚本が出来たら決める」と答えた話をした。伊関も「脚本を書くために付き合っていると話した」という。

伊関が脚本家になるためピンク映画のベテラン脚本家・沢井(奥田瑛二)の講義に出た話をする。

栩谷が沢井とバーで飲んでいたとき「あいつは脚本家になれない」と話した男がいたことを思い出した。(笑)ザリガニを沢井に「女優だ」と紹介すると「ゴッコか」と言われ、女が激怒したことを伊関に話した。「ゴッコか!」と相槌を打った。

伊関「女に尻でやるやつを教えた」。(笑)栩谷もザニガニから求められ「ザリガニ、上手い」と声を上げたことを思い出した。(笑)

そのとき襖の奥から女の声が聞こえてきた

伊関が「リンリンと言う名の女だ、キノコにやられている。外で待ってくれ!」。栩谷は外に出て韓国バーで飲むことにした。そこに追っかけて伊関がやってきた。

マッコリを飲みながら話は続く

栩谷が「リンリンは大丈夫か?」と聞いた。「彼女は富豪の娘でAV監督が夢だ。俺がAVシナリオを描いてみたが、ダメなんだ」。栩谷「お前最低だぞ」と話し、女から「あなたの脚本を読んだ、その役をやりたい」と言われ「俺の映画に出るために一緒にいるのだ。お前向きの脚本を書く!」と言った話をした。伊関が「書いたか」と聞きくから「書かなかった」と答えた。

伊関「脚本が書けず、親の希望を応えるため子供を産むよう話すと、女は女優を諦めないと言いながら妊娠して、何度も堕した」。栩谷「女が妊娠3か月で産みたがったが家族はいらんと怒った」。すると伊関が「あんた腐っている卯の花の頃の雨は、今日のような雨だ、卯の花を腐らせる」と言いながら「俺は書く能力がないのに、何故堕したと𠮟った」。(笑)

栩谷「女が堕したあと、ゴミの処理などの些細なことで喧嘩するようになり、女は桑山と浮気した。殴ればよかった、俺は腐っていた」。伊関「小さな劇場で女の芝居を観て泣いて、セックスして別れた。名前は桐岡祥子」。栩谷「死んだ!半月前に心中した」。

栩谷は祥子が「親のところに行く、3日もしたら帰る」と出て行くので、戻ってくると何も言わなかったことを思いだした。

ふたりはすっかり酔っ払って、店を出た

ふたりは路地に座り込み、政権が自民党に戻り、原発も元に戻り、沖縄はほったらかしと時代を嘆き、「祥子はいい女だった」と褒めあった。栩谷は「あの頃、映画は夢でなくなっていた。しがみついていただけだ!俺は映画にも祥子にも捨てられた」と呟いた。

ふたりは伊関のアパートに戻った

リンリンが大学の仲間ユジョン( MINAMO)を呼び寄せ、レズっていた。これに伊関が加わり、伊関はリンリンにお尻を攻撃される。(笑)終わるとユジョンが「撮って!」と栩谷にカメラ渡し襲い掛かる。これはもうアダルトビデオだ?(笑)

朝、栩谷が目覚めると伊関と女たちの姿がない。伊関のワープロを調べるとタイトル「花腐し」の脚本があった。読むと昨晩伊関と会話したことが全部書いてあった。最後の祥子と別れるシーンに「キスして別とれた」を付け加えた。

栩谷はアパートに戻り、玄関の鏡で自分の姿を見ていると、真っ白な結婚衣装の祥子がやってきた。何も言わず通り過ぎて2階の部屋に入る。栩谷は祥子を追って、その部屋を見た!・・・・

まとめ

このピンク映画は面白かったしっかりしたストーリー、テーマもあり、セックスシーンも声とアップの映像だけでなく(笑)、身体でストーリーを表現する作品となっていた。ピンク映画だが“せつなくも純粋な愛の物語”だった。こんなピンク映画を知らない!

日プロ大賞を獲得したのも頷ける。脚本こそ映画だ!と思った。モノカラーとカラーの映像で展開する物語、このアイデアは面白かった。

栩谷はピンク映画がアダルトビデオと争った混迷の時代に、描くべきものを見失った。もし栩谷が描くならこんなピンク映画だという作品。これは荒井監督の想いではないか

コロナ禍で映画存在意義が問われた今、これを世に問う意義のある作品だと思った。

性愛部分は柄本佑とさとうはなみが担ったピンク映画の規定に従い情交シーンが入る。(笑)「火口のふたり」より数倍露出シーンが高いが、ふたりはあっけらかんと自然で堂々と演じていた。カメラを引いて撮り、嘘のない映像になっていた。

“さとうはなみ”さんは、オーデションで、監督から明るすぎると言われて、「落ちたと思っていて受かって驚いた」と言うとおり、この時代のピンク女優をおおらかに演じていてよかった。歌だけじゃない、新しい働き場を見つけたようだ!

綾野剛さんの花腐しの表情。全てが腐っている表情がなんともいい。ラストシーンで幽霊の祥子が消えた部屋を覗きくシーン。何を見たか?「ザリガニではなかったかな」と。彼は生きたのか死んだのか、いい表情だった。

荒井監督のメッセージがよく伝わる作品だった。

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