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「カツベン!」(2019)サイレント映画は大正キャラメルの味!

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「舞子はレディ」以来5年ぶりの周防正行監督作品ということで楽しみにしていました。今回は「活動写真」と呼ばれていた大正時代のサイレント映画に携わる人々を描く青春群像劇。今年一番、笑った映画でした!

大きな日本映画史を見ながら、映画とは恋や笑い、アクションが一杯あってこんなに楽しんだと、監督の映画愛いっぱいの作品でした。
どたばた喜劇風に作ってありますが、このことがこの時代の映画だと体験させてくれます。このために弁士が扱うサイレント映画12本を撮り直し、大正の風情を残すロケ撮影に拘ったことに驚きます。そしてキャスターのみなさんの弁士トレーニングもしっかりなされています。それだけに、どたばたでも品があって、“監督の品位”を感じます。

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原作・脚本は長年周防監督の助監督を務めている片島章三さん、初作品。主演は成田浚さん、初主演作品。共演はヒロイン役を黒島結菜さんほか、永瀬正敏高良健吾井上真央音尾琢真竹野内豊さんら周防組初参加のメンバーの他に、竹中直人渡辺えり小日向文世さんら周防組常連陣です。

あらすじ:
当時の人気職業であった活動弁士を夢見る俊太郎(成田浚)が流れ着いた小さな町の閑古鳥の鳴く映画館・靑木館。隣町にあるライバル映画館に人材も取られ、客足もまばらな靑木館にいるのは、人使いの荒い館主夫婦、傲慢で自信過剰な弁士・茂木(高良健吾)、酔っぱらってばかりの弁士・山岡(永瀬正敏)、気難しい職人気質な映写技師・浜本(成河)とクセの強い人材ばかり。

雑用ばかりを任される毎日を送る俊太郎の前に、幼なじみの初恋相手・梅子(黒島結菜)、大金を狙う泥棒親分・安田(音尾琢真)、泥棒とニセ活動弁士を追う警察・木村(竹野内豊)などが現れ、俊太郎はさまざまな騒動に巻き込まれていく。
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当時のサイレント映画作製現場、映画興行、弁士活動、映画を楽しむ観客などをユーモラスに描き、ラストに向けて、サイレント映画風で大仰な“どたばた”追跡劇を見せてくれます。幼なじみの俊太郎と梅子の愛が、無声映画の運命をなぞるようで、なんとも言えない余韻のある結末に、唸らせられます!

****(ねたばれ)
〇1912(大正元年)、映画撮影の現場
ある境内で牧野省三監督(山本耕史)が「後藤市之亟」を取っているシーン。ふたりの侍が、「ゆめみしおくやま!」(掛かって来い!)、「いろはにほへと」(ようし!)と斬り合うのに笑った!サイレントだが口だけは動かす。日が陰ると「動いたらいかん!」「お日様がでるまで」。この撮影が行われているところにキャラメルを盗んだ俊太郎と梅子が木村警官に追われて、撮影カメラに入るが、これがカットされず映画館に出回るという当時の映画事情。

俊太郎と梅子が芝居小屋に忍び込み「怪猫伝」を観る。子供も加わった5人の弁士が壇上に上がりセリフをしゃべっていた。アニメの声当てシーン。観客は大喜びです。

山岡秋聲の登壇。舞台挨拶ののち、「後藤市之亟」をひとりで声を変えて喋る。これを観た俊太郎は秋聲になることを夢とする。一方梅子が女優に憧れる。

梅子が引っ越すことになり、ふたりは大きな銀杏の木の下で夢を語り、俊太郎が盗んだキャラメルⅠ箱をプレゼントした。梅子は辛いときにキャラメルをⅠ個食べることに決めた。これがラストシーンにつながるという幼い恋ものがたりが微笑ましい!

〇10年後、泥棒稼業としての弁士
俊太郎は、町の人たちを小屋に呼び集め活動写真を見せている隙を練って泥棒に入る泥棒集団に加わり、弁士をしていた。(笑)こういう映画巡回は終戦直後、田舎ではよく見られました!
俊太郎は、木村警官に見つかり、再び追われることになる。これを機会に、親分の安田と縁を切った。逃げるトラックの俊太郎がすがりつく安田の手を放すシーンに笑った。

〇俊太郎、活動弁士として演台にたつ。
青木館で世話になることに。古い館の二回に住み、掃除夫、アンパンの売り子から始まった。]

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青木館には3人の弁士と3名編成の楽団(三味線、太鼓、クラリネット)、それに映写技師がいた。個性ある弁士のしゃべりで笑わせてくれます。
活動の主役は「映画は俺のしゃべりでもっている」という茂木。舞台に立ち舞台を代表して挨拶し十八番は「不如帰」。声色を変えて、楽団が音を入れて、お宮と寛一の物語を語る。高良さんのしゃべりはみごとでした!「治りますか私の病!」でどっと泣き出す女性たち!(笑)
映写技師の浜本が映写スピードは茂木の話すスピードに合わせているという。館長(竹中直人)は、客回りをよくするため「早く回せ!」と注文する。(笑)、

浜本には好きな女優のフィルムの切れ端をアルバムとして保管するという趣味がある。

もうひとりの弁士・内藤(森田甘路)、喋りながら裸になり、終えるまでに脱いだものを身につけるという男。
山岡が舞台に上がるころには客はまばら。しずかに「椿姫」を喋るが、客から「聞こえん!」と罵声が飛ぶありさま。

一方競争相手のタチバナ館。館長(小日向文世)は活動部門を娘・琴江(井上真央)に任せている。オーケストラの演奏で「十戒」を上映。青木館の茂木をスカウトすることにやっきになっている。

山岡が酔いつぶれて演台に立たなくなり、代わりに俊太郎が山岡の十八番「椿姫」で立つ。成田さんのカツベンがすばらしかった。女性たちが皆泣く。この舞台を女優沢井松子(梅子)が見ていた。

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山岡がふたりの山岡秋聲はいらんと言い、俊太郎は国定天院の名で演台にたつことになる。

松子の美しさに目を奪われた茂木が部屋に松子を呼び手を出そうとしたとき、隣の部屋の俊太郎がタンスの引き出を押しすぎて、そのタンスが茂木に頭にあたり、俊太郎と茂木のタンスの引き出し押し引きバトルが始まった。このトタバタに大笑い!逃げた松子が俊太郎と改めて再会。茂木は「“火車お千”はやるな」と言い残して青木館を去っていった。
バトル騒動で俊太郎が持ってカバン(泥棒時代に稼ぎ金)を見つけた楽団の三味線弾き・定夫(徳井優)がこれを持ち逃げた。

俊太郎が松子を送って青木館を出たところでばったり泥棒の親分・安田にばったり出会った。持ち逃げした金を寄こせと取っ組み合いになり、俊太郎は首を絞められ声が出なくなる。

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この状態で演台に立って「火車」お千」をしゃべり始めたが、声が出ない。これを観ていた松子が舞台に上がり、俊太郎とふたりで「カツベンをやった。大喝采だった。このカツベンは面白かった。客の中には映画監督の二川文太郎(池松壮亮)、茂木、琴子もいた。終わって、琴子が俊太郎に抱き着くのを見た松子は外にでた。茂木が松子をタチバナ館に連れ込む。

タチバナ館。琴子から俊太郎が好きな訳を聞かれて「幸せという大切なものくれた。キャラメルの味や!」。恋の味に泣かされます。

その夜、飲み屋で酔っぱらった山岡を連れて帰ると、泥棒の親分・安田が青木館に乗り込み荒らし回り、フルムはほどけて切られ、上映できない状態になっていた。安田から「女の命が欲しいならタチバナ館に来い」と電話があった。

山岡が「何でもいいからフルムをつなげ!国定はつないだフルムで喋れ!」と指示。映写技師の浜本が自分の持っている女優のアルバムフィルムも含めていろいろな映画のフィルムをつないで一本の映画を作った。

〇奇想天外なカツベンと木村刑事、安田親分に追われる俊太郎のドタバタ大逃走劇。
サイレント映画の面白さであるドタバタ喜劇とチャプリンの映画の面白さも取り入れて、派手にやってくれます。

俊太郎はタチバナ館に松子を助けに駆けつけ、番兵と格闘、琴江のキスを交わし、松子を連れ出そうとして、大男に殴られ、壁を破ってふたりはタチバナ館の舞台に飛び出し、観客の笑い者になった。ここから脱出した俊太郎は「待っててくれ!仕事がある」と青木館に取って返し、繋がれたフィルム映画で「金色や差」をしゃべる。が、出てくるシーンは「金色夜叉」、「椿姫」、「ノートルダムにせむし男」、「南方のロマンス」・・・を実にうまくまとめて物語に。大喝采

一方松子はいくら待って俊太郎が来ない。居合わせた二川監督に「坂東妻三郎で代表作を撮るのに参加しないか」と誘われ、京都行きの列車に乗った。

青木館が息を吹き返したことに、タチバナ館長が安田親分を使って暴動を起こさせると、そこに木村刑事も駆けつける。青木館は大混乱、俊太郎が自転車で逃走、これを安田がオート三輪車で、木村刑事が人力車で追うという大追跡劇。(笑)

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〇「もういいわ、」大正キャラメル
「ほんまに死にたいぐらい憎たらしい」と刑務所に面接にきた松子。収容者のために俊太郎がしゃべる「カツベン」が響いていた。松子は「もういいわ!」とキャラメルがひとつ残っていた「大正キャラメル」の箱を看守に預けて去って行った。

サイレント映画史を文句の付けようのないすばらしいエンターテイメント作品として見せてくれました。
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映画『カツベン!』予告2