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「火口のふたり」(2019)性愛こそが生きる力になる!

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原作は白石一さんの同名小説。荒井晴彦監督により、柄本佑瀧内公美さんの二人芝居で描かれる過去の別れへの後悔に向き合う物語。
荒井晴彦監督、柄本佑さんを信じて観ることにしました。性愛作品ですが、メッセージ性があり、とてもきれいな性愛というより大人の恋愛映画でした。
最近の若い人向けの恋愛映画にはない愛の本質に触れ、少子化、晩婚化、離婚、性暴力などの社会問題が顕在化する今だからこそ、この作品の存在意義があり、若い人が観るべき作品だと思います。

あらすじ:
従妹の永原賢治(柄本佑)と佐藤直子(滝内公美)。東日本大震災から7年目の夏。賢治は直子の結婚式に出席するため秋田に帰郷する。久々の再会を果たした賢治と直子は、「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」という直子の言葉をきっかけに、かつてのように身体を重ね合う。1度だけと約束したはずの2人だったが、身体に刻まれた記憶と理性の狭間で翻弄され、抑えきれない衝動の深みにはまっていく。
                 *
ふたり芝居で、大部がセックスシーンの115分R18指定作品です。
テーマは「身体の言い分」。これをしっかり表現するセックスシーンとセリフが絶妙で、ユーモアもあって退屈することはありません。

東北地震後7年の東北秋田を背景とし、断禁の愛に苦しんだふたりを通して、愛の根源、生と死、結婚などが論じられ、“どう生きるべきか”を問う脚本がすばらしい。そして、身体の言い分を聞く、ふたりの性愛演技がすばらしいです。佑さんでなければこの作品は成立しない。この作品でなにかの映画賞を挙げたいですね!また、滝内さんのきれいな身体、柔らかな表情、恥じらいのない自然な演技にも負うところが大きい。

****(ねたばれ)
賢治は東京で印刷会社に勤務していたが倒産、離婚。その後は独身で、プータロー。直子は地元でフリーター、47才の幹部自衛官と婚約。結婚式の日取りが決まり、父親からの知らせで賢治が秋田に帰り、ふたりは再会。

直子が賢治を誘って、写真集を見せる。見せたかったのは富士山火口のポスターを背景にセックスしているもの。「賢治に呼び出され、火口に吸い込まれて一緒に死のうと言われた時に撮った」という。直子にはこの記憶があるのに賢治にない。賢治がこの記憶を取り戻すように物語は進み、主役は直子ではないかと思ったりもします。富士山火口は女性を表しているようで、うまい表現だと思う。この写真のとおりの演技を見せてくれます。

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直子は賢治の身体は「蛇のようで、それが鞭に変わり、たまらないものになる」と言い、「賢治は気づいてない」と指摘する。とてもどきどきするセリフです。これが直子のいう「身体の言い分」。ふたりで交す会話は、それを身体で試すように描かれて行きます。

「一度だけ」と言った直子の言い分は賢治によって破られ、自衛官が戻ってくるまでの5日間、ふたりは、セックス・食べる・眠る毎日が続く。と言ってもこれ以降、会話が入るので、セックスシーンは抑えられます。

かってのふたりの性関係描写はわずか、賢治の結婚生活や直子と自衛官の婚約などはの映像はなくセリフのみ。これは「身体の言い分」を浮き上がらせる演出で、観る人が結末に納得するのではないでしょうか。

賢治が直子に何故結婚する気になったのかと問います。別れたときから賢治を忘れられなかったと言い、「子宮筋腫で産めないと思っていたが、回復したので子供が欲しいから」。
賢治は「そういう子宮がでしゃばるような結婚はいやだ!」。賢治は離婚で、5歳の子に会わせてもらえない。直子は自衛官との身体の言い分を思い出し、頭で考えた理由だと認識し始めます。

小さな地震の発生だったが、この時に東北地震に対するふたりの認識が問われる。直子は秋田で経験、賢治は東京で人ごととしての認識しかない。死生観、人と人のぬくもり感が違う。愛撫しながらこの問題を考えるとどうなりますか?(笑)
直子が言う「生きることのすばらしさ、裸になっても恥ずかしくない人と一緒にいたい」。賢治の身体にこの感情が刷り込まれていきます。

ふたりの最期の夜を西馬音内盆踊りで過ごす。あの世とこの世の堺で踊る亡者踊りとして有名。とても印象に残る映像でした!

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これで別れるという最後の夜、直子は「賢治が婚約者を抱いて、その手で自分に触られて感じることが嫌で逃げた。しかし、賢治は婚約者と上手く行かないと思った」、これが自分の身体の言い分だったいう。賢治は近親婚が怖かったと、当時を無念がった。

富士山噴火が報ぜられるようになる。突飛なようで、富士山噴火には関心を持つべき時期に差し掛かっており、この設定はおかしくない。人生何が起こるかわからない。直子に「この情況下で何もしないの?」と聞かれた賢治は「今の人生を生きる。直子と暮らしてセックスをするだけする。これが俺の身の言い分だ!」と返事した。

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性愛こそが生きる力になることを教えてくれて、若い人が観て考える映画だと思います。
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8.23(金)公開『火口のふたり』本予告

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「火口のふたり」「ジョーカー」…キネマ旬報ベスト・テン第1位
2/4(火) 12:43配信

 映画専門誌「キネマ旬報」の2019年のベスト・テン第1位と個人賞が4日、発表された。第1位は日本映画が「火口のふたり」(荒井晴彦監督)、外国映画が「ジョーカー」(トッド・フィリップス監督)、文化映画が「i―新聞記者ドキュメント―」(森達也監督)となった。第2位以降のランキングは、5日発売の同誌に掲載される。主な個人賞は次の通り。(敬称略)

 ▽日本映画監督賞=白石和彌(「ひとよ」「凪(なぎ)待ち」「麻雀放浪記2020」)▽同脚本賞阪本順治(「半世界」)▽外国映画監督賞=トッド・フィリップス(「ジョーカー」)▽主演女優賞=瀧内公美(「火口のふたり」)▽同男優賞=池松壮亮(「宮本から君へ」)▽助演女優賞池脇千鶴(「半世界」)▽同男優賞=成田凌(「愛がなんだ」「さよならくちびる」ほか)▽新人女優賞=関水渚(「町田くんの世界」)▽同男優賞=鈴鹿央士(「蜜蜂と遠雷」「決算!忠臣蔵」)