
荒木飛呂彦の大人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ作品で、高橋一生の主演でテレビドラマ化されて2020年にNHKで放送された「岸辺露伴は動かない」の劇場版。と言われても高橋一生さん以外何も知らない。“ルーヴル”を見たいとそれだけの理由で観ました。
まさかルーヴルでロケしたとは思わなかった。いい目の保養になりました。
ルーヴル美術館に保管された無名の“絶対的な黒の絵”。この絵がここに存在する理由が贋作の世界感を絡めて解かれることの奇怪さ!これを解き明かすマンガ作家の奇抜なキャラクターに圧倒されました。
監督:渡辺一貴、原作:荒木飛呂彦、脚本:小林靖子、撮影:山本周平 田島茂、編集:鈴木翔、音楽:菊地成孔 新音楽制作工房。
出演者:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、池田良、前原滉、中村まこと、増田朋弥、白石加代子、木村文乃
あらすじ&感想:
○人気漫画家・岸部露伴は駆け出し時代に知った最も黒い絵を探すことにした。
露伴のマンガの描き方はインクを飛ばしてはみ出さずにベタを塗りして一気に広げて描く独特的なもの。その描き方を見て、黒いドレスの女性が「この世の中で最も黒い絵を知っている」と問われた絵のことは、その女性とともに忘れられない記憶になっていた。
露伴は何か手がかりはないかと骨董品屋を漁った。
露伴はギザギザした形状のヘアバンドに両耳たぶにペン先を象った耳飾りを着けている。店員が骨董品には関係ない者とみたか「美術品を扱っている」と挨拶した。露伴が「マンガ家だ」と答えると「何者だ?」と聞き返す。露伴はそこで売られている自分の色紙を「こいつは偽物だ!」と指摘した。他の店員が「止めとけ、露伴だ」と忠告した。露伴は「僕が本物か偽物かは分からない?リアルに描いてリアリティを求めている。盗まれた美術品を売る商売、古売屋を取材させてくれ!」と応えた。店員は「断る」と答えた。
露伴は「仕方がない!ヘブンズ ドア!心に扉を開く」とスタンドを掛けると、店員がダウンした。露伴は「これは僕に備わった能力だ。人の記憶を本にして読むことができる。人間の体には生きてきた記憶がある。100%リアルだ。これを作品に書くとリアリティがある。極上のエンターテインメントだ。全ての作品を全てリアルに取り扱う」と呟きながら、 黒で塗りつぶされた絵があるパンフレットを見つけ出した。
ここには外見から見た露伴とマンガ家露伴のスタンド“ヘブンズ ドア!”が描かれている。
○露伴はパンフレットを頼りに古売絵画オークションに参加し、この絵を手に入れた。
露伴は編集者の泉京香(飯豊まりえ)を伴ってオークションに参加した。パドル番号17。パンフレッドにあるモリス・ルグランの“黒い絵“の競りではパドル番号9と争い150万円で落札した。

○露伴はアトリエに戻り、この絵の絵の具の原料を調べ始めたところで、盗まれた。
アトリエには骨董屋で買い集めた各種の絵具がある。露伴は泉に絵具の材料を教えていた。泉は「これでカラー原稿書いたら面白いのでは」と勧めた。
露伴は「黒は何かを燃やした色だ。モリス・ルブランという画家も検討しているが検討違いか?」、「最も黒いもの、思い出しても存在しえないもの、それを使った黒い絵は山村仁左衛門の絵で、250年程前のものだ」と泉に話していた。
その時、外で犬は啼き、露伴がとっさにスタントを掛けて外に出るとオークションで争ったパドル9番を持っていた男(パドル9男)が倒れていた。アトリエで泉の悲鳴がする。オークションでパドル9と一緒にいた男が侵入してきて“黒い絵“を盗み森に中に逃げ込んだ。男が額縁の裏をはがして「あれ!ない」と呟いた。額縁の隅から虫が現れ、首に纏わる。そこに車が接近、男は逃げ出した。
露伴と泉がこの男を追い、額縁の裏が破られた絵を拾った。泉が残された絵の裏に書かれた「ルーヴルで見た、後悔」を日本語に訳して読んだ。パドル9男は隠れて、泉が読むのを聞いて逃げ出した。泉が「作家はなくなっているし、どういう意味かな」と呟いた。

露伴はアトリエに戻り、「次の取材先はルーヴル」と決めた。
パドル9男はフランス語で「露伴はおかしい。俺は降りる、絵の裏には何もなかった」とスマホで報告していた。絵を投げ出して逃げた男は車に追われ森深く逃げ込み、虫に差されて亡くなった(誰が確認したのか?)。
○露伴は「山村仁左衛門の絵」を教えてくれた女性のことを思い出していた。
露伴(長尾謙杜)がマンガ雑誌にレヴューした夏、祖母(白石加代子)の家に下宿して画を書いていた。古物商の出入りはあったが、マンガに集中できるところだった。
祖母の下宿条件には該当しない女性が下宿していた。名は奈々瀬。これを指摘しても祖母は笑っていた。
露伴はこの女性が洗濯物を干す姿を写生した。これに気付いた奈々瀬が抗議にやってきた。露伴は奈々瀬に「女性が上手く描けないので」と謝った。奈々瀬は露伴が黒いインクで書き上げるマンガを見て、「マンガ家なの、マンガが好きだから読んでみたい」と言った。

ある夜、奈々瀬が「マンガを読みたい」と露伴を部屋に呼んだ。
奈々瀬は「よく分からないが、あなたの描いたものを見たいだけ」と言い、「この世で250年前に描いた山村仁左衛門という絵師がいた。御神木から採れる液、その黒を練って絵を描き亡くなった」と話した。「その絵はどこにあるの?」と聞くと「ルーヴルよ、見てはいけない、触ってもいけないがあなたは見ていい」と答えた。
露伴が部屋に戻り画を描いていると奈々瀬が出ていく音が聞こえた。朝、奈々瀬の部屋を訪ねたが、彼女の姿はなかった。
ある日、二階で変な音がするのでその部屋に行くと、そこに奈々瀬がいた。
奈々瀬が「あなたの力になりたい」と言う。露伴が女性を黒で描いたマンガ原稿を見せると「黒?私を描くなんて!」と絵の女性をハサミで切り取った。
奈々瀬はこれ以降、二度とここに戻って来なかった。
祖母が「蔵の絵は買い手がついた、外国の人だ」と教えてくれた。最初は川取という人が買う予定だったが、TVで川取は溺死したと報じられた。
露伴は奈々瀬の痕跡がなくなり、彼女が本当にいたのかと思うようになり、祖母の家を出た。
○露伴と泉はパリ見物を終えて、早速にルーブル美術館を訪れた。
案内人は美術館職員のエマ・野口(美波)だった。露伴は「広い美術館だが効率的に回り、バックヤードも見学する」と要望した。露伴はパリでも人気のマンガ作家でサインを求められた。

ルーヴル美術館の中庭を見て、露伴は「広いので効率的に回りたい。バックヤードも見たい」と言った。荘厳な天井画を見て、モナ・リザを見た。そこで模写している男を見た。野口に聞くと「美術の普及のために、条件付きで許可おしている。問い合わせがあったモリス・ルグランも、よく模写をしていた」と答えた。泉がパンフレット黒い絵を示して「模写された?」と聞くと「ルブランのものです。遺族が処分した」と応えた。露伴が「実がもうひとりの画家村山仁左衛門の絵だと思うが?」と聞くと、「存在する可能性がある。地下倉庫の一部がセーヌ川の氾濫で水没する危険があるため、収蔵品を新資料館に移す作業で、地下倉庫から1000点以上も新しい絵画が見つかった。その中には日本の絵もあるので、黒い絵もあるかも知れない」と答えた。
そこに臨時雇いの東洋美術の調査員で鑑定士でもある辰巳隆之介(安藤政信)が、露伴に会いに来た。

辰巳が「山村をよく知らないが、モリスは良く売れる人でした。事故でなくなりました」という。その時、複写していた男が階段を転げ落ち、「やめてくれ、助けてくれ」と悲鳴を上げ倒れ、「蜘蛛!黒い髪」と呟いた。この男、救急車で病院に送られた。

泉はパンフレットの黒い絵を示し「蜘蛛にも髪にも見える」と露伴に聞いた。
露伴は「モリスが死んだのは事故というから、モリスはルーブルで見た何かを描いて後悔した。あのフランス語の“後悔は後悔を見た”であろう」と答えた。
野口は自分のオフィスに戻り複製していた男・ジャックが調べていたパソコンを調べた。そこで地下倉庫に仁左エ門の絵があることを見つけ、「20年以上使われていないから美術品は無いと思うが、絵があるとすれば地下Z-13倉庫だ」と露伴に伝えた。野口が辰巳に確認すると「オークションになかったから、見つかるとは思えない」と答えた。ジャックの同僚のマリは「ジャックは仁左衛門の絵を見に行ったのでは」と話した。
露伴、泉、野口、辰巳の4人はZ-13に向かった。
ふたりの消防士、ニコラとユーゴが加わった。消防士は万が一事故があった場合絵を持ち出すために同行した。
マリから野口に「ジャックは20数年前に山村の絵を買い取ったキュレーターから話を聞いたそうよ、今は彼はなくなっている」と連絡が来た。露伴がキュレーターの写真を見せてもらうと、露伴の祖母の家に絵を取りに来た男だった。「まさか」と思った。
Z-13の部屋に入った。
真っ暗で、露伴は絵があるとは思えなかった。辰巳がライトをつけると絵が見つかった。露伴は「タッチはフェルメールだ」と言うが、辰巳がこれを否定した。野口が「あったんです。フェルメールなら世界中が大騒ぎになります」と言った。泉が「保管センターにあるはずなのに、何故ここにあるの?」と聞く。辰巳は「これは贋作だ」と答え二コラに処分を命じた。露伴が「本物だ!本物のリアリティがある。俺が云うから間違いない」という。露伴というのは随分と自己中心的な人のようだが!(笑)
泉が「保管センターに行ったのはなに?」と聞く。その時、露伴がモリス・ルグランとサインがある絵筆を見つけた。露伴が「モリスはここで贋作を描き、管理センターに送ったのは贋作だ」と主張した。辰巳が「ルーブルで模写する場合オリジナルより20%小さくする規則がある。模写は展示されているものだけだ。このフェルメールは展示どころか発表されてない」と言う。露伴が「だからここを使った、忘れられた倉庫を」と反論した。
露伴が「新作のプロットだ!モリスは窃盗グループの一員だ。ここで贋作を作り、贋作を保管センターに送る。オリジナルはモリスが持ち帰り自分の絵の裏に本物を入れて売る。ルーヴル美術館内を自由に行き来できる消防士がいるから最初から必然だった。わざわざ漫画家に会いにきたり、妙に接近してきたり、鑑定士が偽物だと言い切るのはリアリティがなさすぎる」と説明した。
辰巳が「とんでもないプロットだ」と反対した。
ニコラが悲鳴を上げ「何でここに兵隊がいる」と騒ぎ出した。二コラが倒れ「撃たれている」と言い、顔に蜘蛛が這っていた。そして彼は亡くなった。
ユーゴが露伴に「お前は何をした。日本で雇ったやつがお前がやばいと連絡してきた」と怒りを爆発させた。露伴は「オークションの男も繋がっていたか!」とユーゴを格闘し組伏した。ユーゴが「辰巳、お前はモリスと同じように・・・」と辰巳に抗議した。辰巳が「あんたは俺たちを調べに来たのか」と露伴に抗議した。露伴は「仁左エ門の絵に接するだけだ」と答えた。
トン、トンの音がする!
露伴が「仁左エ門!この世で最も黒くて邪悪な絵だ」と叫んだ。辰巳が「モリス!お前は!」と暴れ始めた。野口が「ピエール!あなたはピエール!」と叫びだす。泉が「何が起こっているの?」と露伴に聞いた。露伴は「幻覚だ!彼らは幻覚を見ている」と答えた。
野口が「あの時、公園の池で手を離さなければ、全部ママのせい。許して!」と謝り、大量の水を吐き出す!露伴は上着を脱いで野口に着せ、泉に「外に出るんだ」と指示した。
辰巳が倒れて(モリスに)「謝る、お前は正しいやつだ。でもお前を殺す気はなかった」と呟いて亡くなった。
ユーゴが「あんたは来るな!あんたを知っている、小さな家で死んだ人だろう。爺さんがいかれて油を撒いた」と叫んだ。
露伴は「絶対的な黒とは光が反射する黒だ。黒が写し出すものは何か?それは過去だ。そして襲ってくるのは罪と後悔だ。そして心に刻まれた罪、先祖が犯した罪でも逃れられない。モリスは罪に苛まれフェルメールの贋作を描き、黒い絵に誘われて、そこに自分の後悔を見た。そして死に至る中キャンパスに向かって、これはルーヴルで見た黒、後悔とサインしてオリジナルを隠した。これでモリスは辰巳に殺された。黒い絵をみた者にか必ず後悔が襲ってくる」と黒くなった自分の手を見て「俺には痛みだ!」と震えた。
露伴は燃える絵を見ていた。
仁左エ門が露伴にハンマーで殴り掛かる。露伴「仁左エ門は死んでいて“ヘブンズ ドア!”が利かない。描き込めない。邪悪が強すぎる」と叫んだ。奈々瀬が「全て忘れて、何もかも忘れて」と現れた。露伴が「記憶を全部消す!」と言うと、奈々瀬が露伴の顔を白く塗った。露伴は顔に書かれた文字を消して、燃える絵を見た。
美術館の外の泉と野口。
泉が野口に「ピエールが見えたとしても、野口さんを責めようとは思わない。ただそっと居たかった。わたしもそんな感じでパリにきた。ピエールが好きなんだけど亡くなった。野口さんはこれ、近くにいた感じがする」と話した。野口が泣いた。泉がそっと野口を抱いてやった。
〇露伴は地下室から脱出し泉とカフェで会っていた。
泉が露伴に「地下室で幻覚を見た。あんなことになって」と聞くと「幻覚で喧嘩することはよくある」と言った。泉が「地下室であったことは忘れる!ルーヴルの作品はネットで観れるから」と言うと、露伴は「どうかな?」と答え、「ルーヴルでは幻の絵が発見されている。人間が手に入れる美術品ではない」と話した。
泉が「奈々瀬さんはきれいな人でした」と言うと「君は見ていたのか、なんともなかったか。そういうことだ」と応えた。
〇露伴は祖父母の旅館近くで樹液から黒の絵具を作ったという森で奈々瀬の墓に会った。
奈々瀬が「ああする以外なかった。あの人を止めて、全てを終わらせるには」と謝った。
露伴は「ヘブンズ ドア!」で奈々瀬の記憶を言葉にした。
私は8月の吉日、山村家に嫁ぎ仁左エ門の妻になった。仁左エ門は私が髪を梳くのが好きでよく描いた。絵がよく分からなかったが蘭画だった。「これを許さない、止めないなら当家にはおけない」と仁左エ門は父から叱責された。
私と仁左エ門は山村家を出て、襖絵など描いて静かな生活を送っていました。
私は黒髪につける黒がないと悩み、病で倒れました。仁左エ門は父を図り家に戻りました。条件は父の絵を引き継ぐことでした。それからは、仁左エ門は父のいう絵を描き続けました。
私の病さえなればと苦にしていたところ、ある日、御神木から流れる水を仁左エ門に渡すと、「その黒が、俺が求めていたものだ」と喜ぶ姿に、私はこの樹水を集めに出掛けました。
ところが「何かに憑りつかれ樹液を取り御神木に傷をつけた」と弟に捕らえられ、私も謝ったが許されず、怒り狂った仁左エ門は御神木を斧で傷つけ、真っ黒の樹液となり、これで絵を描きました。
ふたりは死に、黒い樹液は蜘蛛のようになって絵に沁み込み、人を後悔させ、邪悪な絵となり、私も離れることが出来ず・・・。
奈々瀬は「あなたを巻き込んでしまいごめんなさい」と誤った。露伴は「いや、あの夏のことは必要な過去の日だった。忘れない!」と感謝した。
まとめ:
話しは分かり辛かった!現実か幻覚か、全てが露伴のスタンド「ヘブンズ ドア!」が利いた話だから!荒木飛呂彦独特の世界感か!
250年前の幽霊と話をするというなんとも不思議な感覚になる話だった。
露伴に「「ヘブンズ ドア!」というスタンドがあるのだから、リアリティのある話に思えましたが。(笑)
話の核心はルーヴル美術館の地下室Z-13での“黒い絵”との出会い。
この部屋でルブランが贋作を描き、贋作を資料庫で保管し、絵の裏に実物の入れて売り、売れたら本物を回収するという窃盗グループの話。仁左エ門の“黒い絵”がこの窃盗グループを罰する話、これは面白かった。
高橋一生さんの岸辺露伴演技、原作のイメージを忠実に表現していたのではないでしょうか、面白かった。
描かれた絵だけでなく、何故ここに絵があるかを含めて、絵を鑑賞する面白さを教えてくれたように思います。
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