古典落語の演目「柳田格之進」を基に、冤罪事件によって娘と引き裂かれた男が武士の誇りをかけて復讐に臨む姿を描いた作品。
人情噺が一杯だ。この人情を今の時代だからこそ大切にしたいという作品。美しく生き方が、美しい江戸の風情と共に語られる作品。「昔の話と思わず、今に生かして欲しい!」という白石和彌監督らしい作品だと思いました。就中、草彅剛さんが“この男ならこう生きるか”と思える味のある演技を見てくれます。着物姿も鉄板になってきた清原果耶さんの演技も清々しくてよかった。
監督:白石和彌、脚本:加藤正人、撮影:福本淳、編集:加藤ひとみ、音楽:阿部海太郎。
出演者:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、立川談慶、中村優子、斎藤工、小泉今日子、國村隼。
物語は、
身に覚えのない罪をきせられたうえに妻も失い、故郷の彦根藩を追われた浪人の柳田格之進(は、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしていた。実直な格之進は、かねて嗜む囲碁にもその人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心がけている。そんなある日、旧知の藩士からかつての冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は復讐を決意。お絹は仇討ち決行のため、自らが犠牲になる道を選ぶが……(映画COMより)。
あらすじ&感想:
○5年前にある事件で、柳田格之進(草彅剛)と娘のお絹(清原果耶)は彦根藩から追われ江戸に出て長屋で生活していた。
格之進は囲碁が趣味で大部の時間をこれに費やしているが、本業は印鑑師。お絹の針仕事を会わせて生計を立てていたが苦しい生活だった。ふたりは仕事を通して吉原の遊廓“松葉屋”の女将・お庚(小泉今日子)と顔なじみであった。
○格之進はで碁会所で質屋“萬屋”の旦那・源兵衛に出合い、ふたりは囲碁を通して信じあえる仲になっていった。
最初の出会いは格之進が質屋“萬屋”を訪ねたとき、先客の武士が茶碗を高価な額で売ろうとするのを「それは唐ものでない」と口を挟み、萬屋の商いを助けたこと。
次に会ったのが碁会所で勝負したこと。格之進が勝つと思ったが、勝負を投げた。
このことが気になった源兵衛は格之進の長屋を訪れ、何故勝負を投げ出したかを聞いた。格之進は「正々と偽りなく打ちたいからだ」と答えた。源兵衛は10両を掛けて打ったが格之進が負け、源兵衛は格之進が損得で囲碁を打つのではないことが分かった。
ここからふたりは川舟で、大豪邸で、長屋で場所を変え、夏から冬、そして風鈴の季節と時を経て、囲碁を打ち続けた。そしてお互いが信じられる囲碁友達となって行った。源兵衛は商売でも格之進の影響で生々堂々と商売するようになっていった。墨田川の川船、風鈴祭りなど江戸の風情が美しく描かれる。
○源兵衛の手代の弥吉とお絹も仲のいい関係になって行った。
源兵衛は手代の弥吉(中川大志)にも囲碁を習わせ、格之進の娘・お絹と囲碁勝負をさせ、ふたりは仲の良い関係になっていった。源兵衛は安吉は武家の出で、将来は跡を継がせると話していた。
○源兵衛が月見の宴に格之進とお絹を招き、そこで大きな事件がふたつ起こった。
お絹は母親の形見の着物をお庚に着付けてもらって月見の宴に参加。とても美しい娘になっていた。
源兵衛と格之進が囲碁に熱中していた。
宴たけなわ、番頭の徳次郎(音尾琢真)が寝込んでしまい、弥吉が代行を務めていた。伊勢屋が50両の返済におやってきた。弥吉が受け取り、囲碁中の源兵衛に伝えた。このことが、のちに50両が消え、「この部屋で消えたのだから」と徳次郎により格之進に嫌疑が欠けられた。
もうひとつは、彦根藩藩士の梶木左門(奥野瑛大)が訪ねてきて、格之進が彦根藩を離れた後、妻が殺害されたことが知らされた。
格之進は彦根藩で起こった事件を回想していた。
彦根城内での囲碁大会。格之進は藩内唯一の棋士といわれる柴田兵庫(斎藤工)と対戦し、格之進が勝利した。格之進に遺恨を持った柴田は下城路で格之進を待ち伏せ太刀を抜いて斬り掛かった。これを見た藩士が駆けつけ、柴田の暴挙を止めに掛かった。この藩士を柴田が斬ったため、格之進は太刀で柴田の腕を斬った。
梶木は「柴田は格之進を恨み、格之進の妻を辱め、妻は琵琶湖に身を投げた。その後、柴田を碁会所で見かけたという情報もある」と言い、「国元に帰ってくれないか」と要請した。格之進はこれを断った。
○格之進は妻の仇を果たそうとしたが、弥助により50両の盗み嫌疑を掛けられ、武士の恥と切腹を決意した。
格之進が旅に出ようとしたちころに弥吉が現われ50両行方を聞いた。格之進は盗んだ憶えはない」と激怒し「武士の約束、見つかったら弥吉と源兵衛の首を跳ねる」と言いつけた。源兵衛は弥吉からこの報告を聞き「格之進様がそんなことをしない。よくある話だ」と受け流した。
お絹は格之進が母の仇を取る旅を励ましたが、格之進が暗い顔して戻って来て、お庚への手紙を持たされた。途中で手紙を読むと「50両の盗みの嫌疑を掛けられ、武士の恥だ、切腹する。お絹を頼む」と書いてあった。お絹はお庚に事情を説明し、格之進の切腹を止めにかかった。
お庚が長屋に訪ねてきて「お絹を担保に50両貸す。大晦日までに返してもらえばいい。しかし、これが過ぎた場合、お絹を女郎として働いてもらう」と切腹を止め、仇を取ることを薦めた。
○格之進は柴田の仇を取る旅に出た。
格之進とお絹は誰にも言わず長屋を出た。格之進は中山道沿いに「大男の棋士を探している」と碁会所を片っ端から調べ始めた。
お絹は町で弥吉に出合い「50両で吉原に売った。私の前にもう現れないでほしい」と言った。弥吉は源兵衛の指示でお庚に50両の支払い誓約書を渡し、お絹の身を守ることにした。
塩尻の宿で、梶木が再度「藩に戻って欲しい」と尋ねてきて、ここからふたりの旅が始まった。
○大晦日、格之進は長兵衛が営む碁会所で柴田を発見した。
長兵衛は紹介のある者のみの碁会所だと断ったが、「どうしても会わねばならない人がいる」という格之進の言葉にその意味が分かり、碁会所に格之助と梶木を上げた。梶木が柴田を発見した。
長兵衛の立ち合いの中で囲碁による勝負で勝った者が首を跳ねることが決まった。ふたちの勝負はなかなか決まらなかった。長兵衛が柴田に打つよう促すと、柴田は太刀を抜き格之助に斬り掛かった。
長兵衛の若衆がこれに立ち向かって斬り合いに。最期は格之進が柴田を斬り、柴田は池に落ち、池を血で赤く染めた。柴田は「武士の情け、腹を切りたい!介錯を頼みたい」と申し出て、格之進が柴田の首を落とした。
○“萬屋”の大掃除、50両が発見された。
源兵衛は月見の宴で格之進と囲碁の最中に、一手考えるためトイレに行き、どこかに隠したことを思い出していた。弥吉が「私はこれでお終いです」と金を持って吉原に走った。
格之進も50両もって吉原に駆け付けたが、大門が閉じられていた。弥吉から50両が渡され「出てきたか!弥吉と源兵衛の首を貰い受ける」と“萬屋“に奔った。
弥吉と源兵衛が「自分に責任がある」と庇い合う。格之進はふたりの首を並べ太刀を降り下ろした。
斬ったのは碁盤だった。
正月、お絹が「店に出る」と女将に告げているところに格之進が「間に合わず申し訳ない」とお絹を迎えにきた。女将は「ようご無事でした」と言い、お絹を返した。
○お絹と弥助の結婚式
源兵衛が格之進に「弥吉に家督を譲る」と言い、囲碁に誘った。格之進が斬った碁盤を見て「申し訳ない」と謝っていると、源兵衛が新しい碁盤を取に席を外した。この間に格之進は席を外し旅に出た。
まとめ:
格之進が「金を奪った嫌疑を掛けられたのは、源次郎と弥助のせいでなく、ここで囲碁をいていた碁盤が悪い」と基盤を斬る“落ち”。落語の“落ち“ということではすこしインパクトが足りなかった!
格之進が二度の身に覚えのない裏切りに会い、大好きな囲碁を捨てるという結末。勝負事は人格が現れる“典型的な例がゴルフだ!そこまでしなくてもと思いますが、この覚悟が大切だということが分かります。監督はこれを言いたかったのでなないでしょうか。
白石監督作として少しインパクトに欠ける作品のように思いましたが、格之進と源兵衛、お絹とお庚など身分を越えた人情味あるストーリー展開、これがよかったと思いました。
****