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「花筐/HANAGATAMI」(2017)

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映像に、テーマに圧倒され、とても癌を患い余命宣告を受けながら撮ったとは思えない、穏やかな表情からは想像できないエネルギッシュなもので、大林宣彦監督の映画への情熱を感じる作品でした。感想を一口で表現することはできないですが、監督のお気持ちは受け取ったと申し上げておきます。(#^.^#)
 
原作は檀一雄さんの短編小説「花筐」、未読です。デビュー作「HOUSE/ハウス」以前に書き上げていた幻の脚本を、40余年の時を経て映画化されたとのこと。HANAGATAMIが添えられているように、監督の戦争への思いが詰まった「花筐」になっていると思います。
 
唐津くんち”で有名な佐賀県唐津市を舞台に、太平洋戦争勃発前夜の若者たちの青春とそれを呑み込んでいく戦争の暗い影を幻想的な構図と濃密な色彩で描き出しており、彼らが虚構のなかで無邪気に青春を楽しむ姿に強烈な痛みを感じます。
 
作品のテーマは「花筐」とはなんぞや!です。登場人物たちが体験した青春という花が盛られた花籠を受け取って、貴方はどう行動しますかと問われています。ヒントは「お跳び!お跳び!」というキーワードと「唐津くんち」です。
作品の冒頭で主人公がこの言葉を叫び、ラストで「自分は跳べたか?」と自問自答します。
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物語は、
1941年の春、榊山俊彦(窪塚俊介)アムステルダムに住む両親の元を離れ、佐賀県唐津に暮らす叔母江馬圭子(常盤貴子)の元に身を寄せることになります。
冒頭、唐津の立神岩に立ち「さあ、お跳び!お跳び!」という父母の声を聞き、祠に隠しておいた自転車で学校に走る。“隠した自転車”にこの時代を感じ、物語に入っていきます。
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「よう来た!」と手を叩いて迎えてくれる阿蘇柄本時生)。山内教授(村田雄浩)の英語授業が始まる。「戦争はこの教室は関係ない」とアランポーの短編小説、“黒猫”の一部を「読みなさい」と阿蘇を指名する。「戦争には・・」というセリフ、この物語にはこの種の戦争を否定する印象的なセリフがふんだんに出て来ます。
 
たどたどしい発音で読み和訳しはじめると、「わからん」と教授。「あほらしい!」と鵜飼が退室。「意気地なし!」と吉良。俊彦はいたたまれず身が縮む思い。「君たちは理解できない」という教授に、「理に叶わぬことをするのが人間!俺は卑怯者にならない」と吉良が退室する。吉良は足が不自由、また阿蘇は喘息を患っていて、ふたりは健康上の理由から“出征は叶わない”と世間に引け目を感じている。
 
ここでの鵜飼と吉良の度量にすっかり虜になった俊彦は、ふたりとの親交を深め、タバコ・酒を覚え、悪戯をし、遊郭に出入りする。悪戯のなかに、出征タスキを付けた馬を無断借用して素っ裸で乗り回すという“生”を感じるシーンがあります。今の人には“軍馬”が理解できないでしょうね! 
 
一方、江馬家では美那((矢作穂香)結核で吐血し、義姉の圭子がそれを口で吸い取る。この異常な行為は、夫を満州出兵で失った圭子が義妹を夫の身代わりとして何が何でも生かすという意志を表し、血は強烈な死のイメージを残します。いろいろなシーンで血が出てきます。
 
俊彦は、やってきた当初は病弱な美那に恋心を抱きますが、鵜飼いの紹介で、名護屋城跡でのピクニックを経て、あきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)と付き合うようになる。
しかし、千歳が吉良の従妹でありながらふたりが関係を持っていることを知り距離を置くようになり、健康で明るいあきねに惹かれるようになっていきます。
 
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俊彦を通して鵜飼、吉良が江馬家に出入りするようになり、美那の美しさは格別で、憧れの的に。しかし、美那は千歳に紹介され鵜飼に関心を持つようになる。これを知った吉良は千歳(カメラが趣味)を使って美那の裸体写真を手に入れます。
鵜飼の関心は美那からしだいに叔母圭子に向かい、美那にこれに不安を抱くようになります。この時代に、よくもこのような放胆な愛の構造ができるものだと驚きです。()
 
戦争が迫る中で、
阿蘇は兄が徴兵され農業を営む実家の働き手がいなくなり、実家に戻ることになります。世間の目を気にしながらどう生きるか?
そして、山内教授が出征することになる。この不条理な出兵命令に、教授は庭の草を抜き、書物を焼く。送別会での万歳は一回で止め、母(白石加代子)は息子への選別として詩をしたためる。教授にまで育てた母の怨念が感じられ、なぜこんなことが許されるかと憤りを感じます。
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11月、豪華絢爛な“唐津くんち祭り”。娼婦(池端新之助)が「“おくんち“を担ぐは町人、その面倒を見るのが侍。戦さが始まってもこの街には来ない」と唄います。
この祭りに連動するように、各人今をどう生きるべきかと苦悩する。俊彦は飲み屋で“くんち”の囃子を聞きながら「殺されないぞ、戦争なんかに!」とひとり自らの魂に火をつけようとする。
吉良に関係を清算された千歳は“鯛の頭”を持って「どこへ帰ればいいの」と“くんち”の中を彷徨する。
 
美那の容態が悪化。診察を終えて一条医師(武田鉄矢)は「この部屋にも警察が来る!」と注意します。パーテイーもできない不自由な時代になってきます。
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それでも、128日、圭子は容体が悪化した美那の思い出作りのためのパーティーを開きます。鵜飼は招集令状を受け取り海軍軍服で参加。圭子さんは赤いドレスで迎えます。皆さん、交叉する思いを抱いての参加。圭子、鵜飼、俊彦、あきねはその想いを確認するように踊ります。鵜飼と圭子の踊りが皆の目を引きます。これに美那が不安を抱く。吉良、美那、千歳は踊らない。あきなは鵜飼に惹かれていく。
 
パーティー終了後、吉良は俊彦に美那の裸の写真を鵜飼に見せると鵜飼から激しく殴られ、自らの卑怯な行動を恥じて海に身を投げます。
一方、鵜飼は「戦争の消耗品にはならん!」と立神岩絶壁から飛び込み命を絶ちます。
美那は「苦しむのは嫌だけれど、自分の裸を見れないのが悲しい」と遺書を残して亡くなります。俊彦はこれを見て「二度とこの国は戦争してはならない」と涙します。
 
時は一気に76年後(2017年)に飛び、現在の俊彦(伊藤孝雄)が美那の墓に詣で「私は跳ぶことが出来たのか?」と当時を回顧して終わります。
大雑把に物語の流れを説明したにすぎません。連続する絵画のような映像に、迫りくる戦争の足音と死の影の凄さを感じながら、ストーリーを追って戴きたいと思います。
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