映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「透明人間」(2020)いじめや家庭内暴力、女性蔑視などの現代社会のテーマを抱えた透明人間物語!

f:id:matusima745:20220407195436p:plain

「透明人間」とはまた古臭い!とWOWOWプレミアムでこの作品を選んでみました。

H・G・ウェルズが1897年に発表した小説「透明人間」を原作としており、1933年に公開された映画「透明人間」を“現代風”にリブートした作品

原案・監督・脚本「ソウ」シリーズのリー・ワネル。そしてホラー映画界をリードするブラハム・プロダクションとのタグ作品。撮影:ステファン・ダスキオ、美術:アレックス・ホームズ、衣装:エミリー・セレシン、編集:アンディ・キャニー、音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ視覚効果監修:ジョナサン・ディアリング。

出演者:主演は、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(17)、「アス」(19)などのエリザベス・モス。共演にオリバー・ジャクソン=コーエン、オルディス・ホッジ、ストーム・リード、ハリエット・ダイア、マイケル・ドーマン、他。

あらすじ

富豪の天才科学者エイドリアン(オリバー・ジャクソン=コーエン)の豪邸で。束縛され生活していたセシリア(エリザベス・モス)は、ある夜、計画的に妹エミリー(ハリエット・ダイア)の手を借りて脱出を図り、友人で警察官のジェームス(オルディス・ホッジ)の家に身を隠した。

2週間後、エイドリアンの兄トム(マイケル・ドーマン)から「エイドリアンは手首を切って自殺、あなたに500万ドルの資産贈与があった。受け取って欲しい」と知らされた。しかし、セシリアは「自分に強い執着心を示し、子供を欲しがった彼が自殺などしない!」と彼の死を疑っていた。やがて彼女の周囲で不可解な出来事が次々と起こり、見えない誰かに妹のエミリーが殺され、その犯人に仕立てられ精神病院に収容されるに至った。

セシリアは「自分は犯人でない、エイドリアンンだ!」と主張してもジュエームスでさえも信じてくれない。ある大雨の夜、セシリアは自ら犯人を探し出す決意をして病院を脱出、・・・・。

主人公は透明人間による被害者で、彼の執拗なストーカーによる「見えない恐怖」現在の社会現象の中で描くという社会ドラマになっているところが面白い。まさに社会の闇を突くブラハム・プロダクションの狙い通りの作品になっています!

感想(ねたばれ:注意):

セシリアのエイドリアン邸からの脱出。エイドリアンに睡眠薬を飲ませて眠らせ、厳重なセキュリテイを掻い潜っての脱出。ここでのエリザベス・モスの怯えた表情を見ていると、この人は本当にこういう怖い作品に似合う人だなと思います。後半になってこの表情が強い女に化けていくところが凄い!ゴーン・ガール」(2014)のような怖い、面白さがある。

f:id:matusima745:20220407195501p:plain

セシリアは彼の大豪邸で過ごすことになったが、彼は発明の才能はあるがエゴイストで、執念深く、DV男だった。彼女は避妊薬を呑んで子どもを作らないようにして、脱出機会を狙っていた。

拘束されDVを受け、ストーカーされるセシリアは、まさに今の社会で話題になる事件の被害者です。この視点がこの物語を面白くしています。

セシリアが豪邸から脱出するとき、エイドリアンの部屋に入り、透明人間用のステレス・スーツを探すが、見つからなかった。邸を出るとき、飼い犬のゼウスを放った。そしてエイドリアンに追われて睡眠薬を落とした。これらの伏線がうまく繋がっていきます。

原作の透明人間は化学薬品を呑んで透明になるが、本作ではステレス・スーツを着けて透明になるというのが大きな違い!ステレス・スーツとはいかなるスーツか?これが物語を面白くしています。

セシリアはエイドリアンの豪邸から脱出し、外出せず、ジェームスの家に閉じ籠っていた。トムによるエイドリアンからの資産贈与を、“犯罪を犯さない”という条件で受け取ることにした。

カメラの目線は誰の目線か?これが怖い

 2週間後、セシリアは就職しようと会社を訪ね、バックに入れたはずのデザイン作を提示しようとするが無くなっている。ないはずの睡眠薬がバックに入っている。気分が悪くなって倒れ病院で検査を受けると、医者から睡眠薬のせいだと言われ、後日血液検査の結果が知らされることになった。

夜、寝ていると傍にエイドリアンがいる。起きて探すが誰もいない、幻覚かと思ったが・・。ジェームスの娘シドニーが「セシリアと一緒に寝たい!」と言い出すと、シドニーが突然誰かに殴られ、吹っ飛ばされた。

f:id:matusima745:20220407195554p:plain

セシリアはこのアパートには「誰かが潜んでいる」と天井裏を探すと、ナイフと彼女の寝姿が写された携帯電話が放置され、“サプライズ”と書かれていた。誰かが逃げる気配にペンキを掛けると台所まで足跡の痕跡があり、水の音とともにここで消えていた。周りを探すが誰も見つからない。

一部ネタを与え過ぎるきらいもありますが、こころあたりまではヒチコックばりの映像とモスの演技で、“見えないことでの恐怖”がしっかり描かれています。

妹エミリーが「エイドリアンからの嫌がらせメールが送られてくる」と怒りだす。トムに弟は生きているのではと聞くと、「灰にした」という。

f:id:matusima745:20220407195624p:plain

セシリアはエイドリアンの豪邸を調べることにした。邸に入ると誰にも会わないが犬のゼウスが寄ってきた。エイドリアンの部屋にはステレス・スーツがあった。「エイドリアンは生きていて、私をストーカーしている」とカフェでエミリーに話しているとき、誰かにエミリーは首を切られ、セシリアがナイフを「握っていた。

セシリアがその場で逮捕され、警察で取り調べられたが、「エイドリアンがいる!」と口走った。このとき「サプライズ!」という声が聞こえた。

セシリアは精神安定剤を撃たれ、サンタマリーナ精神病院に入院することになった。刑事やジェームスの取調べで「彼は生きている!」と話すが信じてもらえない。そこに医者から「一カ月前に妊娠している!」と血液検査結果が知らされた。セシリアは「彼にやられた!」と思った(モスの表情から)。

トムが訪ねてきて「弟のことは残念だが君を家族だと思っている。犯罪を犯したから弟の遺産贈与はなくなるが、出産を目指して彼のところに戻るなら継していい」と提案してきた。セシリアは「あなたはクラゲだ!」と追い返した。

大雨になるという天気予報。セシリアは精神病院からの脱出し、エイドリアンを追い詰めることにした。ここからのセシリアは怖い女に変身!

 夜、トイレで隠していたペンを取り出し手首を切って、透明人間のエイドリアンを誘き寄せた。まんまとエイドリアンが引っかかった。駆けつける警備員とエイドリアンの戦い!ここまで派手に透明人間と警備員が戦うと恐ろしいというより滑稽になってくる。(笑)ホラーに“過ぎたる”はダメ!

セシリアは警備員が落とした拳銃をもって病院の外に出て、エイドリアンが出てくるのを待った。そこに現れた透明人間に「あの娘が死ぬぞ!」と脅された。

f:id:matusima745:20220407195710p:plain

セシリアは「シドニーが危ない!」と車をかっぱらってジェームスの家に急いだ。

ジェームスが帰ってきて、セシリアはふたりで透明人間と対決した。拳銃で透明人間を倒し、頭巾を取るとトムだった!

警官隊がエイドリアン邸を捜索すると、「兄に幽閉されていた」とエイドリアンが出てきた。

f:id:matusima745:20220407195809p:plain

「これで事件は終わりだ」という警察とジェームス。セシリアは「犯人はエイドリアン、トムは利用されただけ!」とエイドリアン邸に乗り込んだ。邸の外にジェームスを配置し、エイドリアンと自分のやり取りを傍受するよう処置していた。

エイドリアンが「やり直したい」というが、セシリアは「本当のことを話さないとだめ」と泣きながら抗議した。エイドリアンが「もうサプライズしない!」と約束したので、セシリアは「化粧を直したい」と洗面所に立った。

f:id:matusima745:20220407195833p:plain

エイドリアンは誰かに首を斬られたこれを発見したセシリアが「エイドリアンが自殺!早く来て!」と叫び、救急車を呼んだ。セシリアが「サプライズ!」と呟き微笑んだ。このときのエリザベス・モスの表情が秀逸だった!

状況を傍受していたジェームスは「確かにエイドリアンは自殺した!」と確信を持った。

まとめ

前段、目に見えない“何か”、目に見えない脅威に怯える心理がしっかり描かれ、透明人間ドラマの面白さを味わいました。

後段セシリアがエイドリアンに復讐するというサスペンスドラマ。突っ込みどころも散見されましたが、犯人が二転三転し、セシリアが女の執念を見せるところが面白く、それなりに楽しめました。全般を通じていいドラマだったと思います、

ドラマの背景が心理的虐待やDVといった要素が盛り込まれ、いじめや家庭内暴力、女性の意見が軽視されていることなど現代社会において重要なテーマが盛り込まれているのがすばらしい。

私も最近あることで嵌められ警察に差し出され留置生活を体験。いずれ詳しく書きます。(笑)透明人間も怖いが、強い女性がもっと怖い!という所見を持っています。(笑) エリザベス・モスの演技が最高でした。

               ****

「とんび」(2021)昭和、平成、令和、未来へとつながる家族の絆!

f:id:matusima745:20220409203034p:plain

原作は岡山県津山市出身の作家重松清さんの同名ベストセラー小説。ほとんどを県内金光街の商店街や倉敷市をはじめ、笠岡、玉野、瀬戸内、備前市美咲町で撮影されたという。同郷の者としてこれは欠かせない!ということで早朝出掛けました。なんとフロアーが老人で溢れているではありませんか!こんな光景は最近見たことがない!

すでに2度ドラマ化されており、内野・佐藤版を見ています。映画化は初めてで、監督が「明日の食卓」「護れなかった者たちへ」(2021 )で社会問題化している人と人との関係を描いてきた瀬々敬久さん、とんび親父を阿部寛さんが演じると、さてどんな作品になるか!

小林旭の歌「ダイナマイトが百五十トン」で繋がる父と子の絆、息子の名・アキラが旭からとった名とは知らなかった。(笑)雪の降る海辺で息子のために“海になれ”と説く和尚。この言葉に諭され自然に出てくる阿部さんの涙、幼くして別れた母親と娘の再会に阿部さんが歌うバタヤンの「十九の春」懐かしい昭和!ここから平成、令和へと続く家族の絆物語です。自分の人生を重ね、泣けます!!

脚本;港岳彦、撮影:斉藤幸一、美術:磯見俊裕 露木恵美子、編集;早野亮、音楽:村松崇継主題歌:ゆず。

出演者:阿部寛北村匠海薬師丸ひろ子、杏、安田顕大島優子麻生久美子麿赤兒濱田岳、他。

あらすじ

昭和37年、瀬戸内海に面する備後市(架空)。運送会社に勤めるヤスは武骨で人情に篤い不器用な男ヤス(阿部寛)。最愛の妻・美佐子(麻生久美子)の妊娠にも、上手に喜びを表すことができなかった。やがて愛らしい男の子アキラが生まれ、「トンビが鷹を産んだ」と言われ、幸せいっぱいのヤスだった。昭和40年、アキラが3歳の時、ヤスの働き場でアキラの不注意で荷崩れが起き、妻・美佐子が身を投げてアキラを救ったことで亡くなった。ヤスはこの事故を自分の不注意で妻を死なせたとアキラに嘘をつくことにした。

昭和43年、アキラ6歳。アキラは小学生となり母がいないことで友達と喧嘩になった。ヤスはアキラを一人で育てることへの戸惑いで途方に暮れた。が、檀家の和尚・海雲(麿赤兒)の「海が雪を溶かすように、お前は海になってアキラに降りかかる難儀を溶かせ!」という言葉を胸に、和尚の息子で親友・照雲(安田顕)とその妻(大島優子)、飲み屋“夕なぎ”の女将・たえ子(薬師丸ひろ子)ら町の人々の優しさと励ましに支えられ、何とか反抗期のアキラと折り合いをつけながら過ごしてきた。

昭和54年、アキラ17歳。アキラの受験勉強が始まった。ヤスはアキラをひとりで東京に行かせることが不安で酒びたりになり寝込むという状態。アキラは照雲に引き取られ寺で受験勉強。結果は合格!ヤスは「二度とここに帰ってくるな!」と、言いたいことも伝えず、不器用に送り出した。アキラはしっかり成長していてひとり暮らしになるヤスに注意事項をしたためて出発した。

昭和57年、アキラ20歳。照雲から送られてきた手紙で母の死の真相を知った。しかし、アキラが備後市に帰ることはなかった。大学を卒業して出版社の入社試験を受験。ここで書いた作文“父の想い出”がユニークと認められ入社が決まった。

昭和63年、アキラは7歳上で3歳の子持ちの由美(杏)に出会い愛し合うようになった。ヤスは義弟(田中哲司)の招きで自分を捨てた父に会いに東京に出てきた。父が自分のことを心配しいたという話を聞いて、アキラに会うことにした。

出版社を訪ねるとアキラは不在だったが、編集長(豊原功補)からアキラ入社の経緯を聞かされた。トラックで帰り始めたところにアキラが戻ってきて、「由美と結婚したいという。ヤスは物も言わず備後に帰った。

備後に戻ったヤスは酒に溺れ、入院するハメに。それを聞いたアキラと由美はヤスを見舞に居酒屋“夕なぎ”にやってきた。ヤスがふたりの結婚を認めそうでないと知った女将が、照雲と図ってヤスにふたりの結婚を認めさせようとするが、ヤスは家族とは何かを考えていた。

時代は平成となり、小説家となったアキラはふたり目の子・娘を持ち、ヤスの老後を考えて東京で暮らすことを勧めたが、「お前らが困ったときに故郷がいる」と備後でのひとり暮らしを選んだ。

令和元年、ヤスはアキラの家族と一緒に暮らす夢の中で亡くなった。アキラの家族が備後を訪れ葬儀。長男が「どんなおじいちゃんだったのかな」とヤスの写真を選んだ。ヤスの部屋はアキラの家族との思い出写真やアキラの小説で埋まっていた。

感想(ねたばれ:注意):

令和になり、コロナ禍の中で、人と人の関りが一層希薄になり、いじめ、幼児虐待、家庭内暴力などが増えている社会環境から、今、描かれねばならない“家族の絆物語”。時代が変わっても変わらない家族の絆を描くのが本作のテーマ。ここでは4代に繋がる父子の絆が描かれています。

このために、原作にない“ヤスの一一代記”となっています。時間を詰めるために、ヤスが昭和63年に上京して1日を過ごす時間軸と、昭和37年にヤスの息子アキラが生まれて大人になっていくまでの広い時間軸を交差させながら、ふたりの絆エピソードが感動的に浮かび上がるよう演出されています。しかし、時間軸に戸惑う人もいるかもしれませんね。

感動的な絆シーンについて触れておきます。

6歳のアキラ、小学校に上がり他の生徒と交わることで母親を恋しがる。ヤスは落ち込むが、住職・海雲が雪の降る寒い海辺に誘い「ヤスが抱いてやれば正面の寒さは防げるが、背中の寒さは防げない。これは母がいない子の宿命。誰かがそれを埋めてやる、埋めてくれる」という説教。

f:id:matusima745:20220409203116p:plain

これに照雲やその妻、夕なぎの女将が手を差し伸べるという“世間の温かさ”。地域で子供は育てられてきた。この暖かさがよくでた作品でした。麿赤兒さんの説得力、そして阿部さんの涙の演技に泣けます!

12歳のアキラ。小学校6年生。母の死の真相を知りたがる。ヤスが不器用だが決してこれを明かさない!(笑)ところが女将に、若いころ婚家に残した娘が成人して会いに来るというハプニング。娘に顔を合わせないで育ての母に感謝する女将に、ヤスは「19の春」を唄い、これに飲み客が合わせて歌う。元には戻れない女将の運命の悲しみを皆で共有するいいシーンだった。女将はこれで救われた!

f:id:matusima745:20220409203146p:plain

17歳のアキラ。高校の野球部員。下級生を自分もやられたとバットでしごく。これを見たヤスはアキラをぶん殴って、下級生が受ける痛みを思い知らせるシーン。ヤスは母親がいないためにアキラは愛情に欠けた人間に育っているのではないかと危惧しての行動。自分がやったことでの“他人の痛み”を分かろうとしない今の世情には、このことは極めて大切。父親に殴られた記憶(暴力ではない)は一生ものです!

f:id:matusima745:20220409203208p:plain

18歳のアキラ。大学生となり上京ヤスとアキラの親子離れ。ヤスはアキラの顔をみようとしない。立ち去るアキラを追うヤスにアキラは振り向かない。こうやって別れてもふたりはどこかで結ばれている。これが父子の絆。ここでは北村匠海さんの父親に対する優しさと毅然たる態度の演技が光っていた。

f:id:matusima745:20220409203232p:plain

描かれたエピソードのどれをとても感動的で泣かされます。親子の関係なんて、こっぱずかしくて話せないが、よく描かれた脚本でした!

平成元年、アキラ27歳。ヤスに由美との結婚について承諾を求める。ヤスは由美が7歳年上で、離婚者。3歳の子持ちであることで、思い悩んだ。ヤスは由美の元夫の両親は孫に会いたいだろうと考えた。そしてアキラがいう「血のつながらない子でも愛せる」という言葉。ヤスは自分を捨てた父親に会ってみて「産ませてくれてありがとう!」と感じたこと。何よりも自分が孤独で過ごしたことの寂しさを知っていた。

ヤスはこの結婚を受け入れた。そして家族の一員として加わることで形に捉われない、絆で結ばれる新しい家族を作っていった。

f:id:matusima745:20220409203256p:plain

ヤスはアキラに同居を勧められたが、故郷で過ごすと断り、常に家族の記憶の中に生き、亡くなった。瀬戸の海で遊ぶアキラの家族に、ヤスが妻と幼いアキラと海で遊んだ記憶が重なっていくラストシーン、未来へとつながる家族の絆でした。すこし描き方が雑になりましたね!

まとめ:

刑務所に入ると、犯した罪を悔い、誰が、自分にとって大切かが分かります。これまで誰から愛を受けてきたか。恐らく家族を思いだすでしょう。

ヤスの最期、思い出の中で亡くなったが、そういう人生は最高です。老人に一番大切なことは「ありがとうございました!」という感謝の言葉です。自分を捨てた父親にさえ、「生ませてもらってありがとう」と言うヤスの言葉に、真の家族の絆を見る思いでした! 

               ****

「コーダ あいのうた」(2021)字幕がいらなくなるほどに手話は素晴らしい言語、そして音楽が聾者と健聴者を結ぶ!

f:id:matusima745:20220406093638p:plain

第94回アカデミー賞(2022)で作品賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞の3部門にノミネートされ、同3部門を受賞した作品。記念公開はうれしい!早速出かけました!

フランス映画「エール!」(2014)のリメイク作品とのこと、未鑑賞です。

家族の中でただひとり耳の聞こえる少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマ。

タイトルの「CODA(コーダ)」は、「Children of Deaf Adults=“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”」のこと。音楽の世界では、楽曲の終わりを表す音楽記号で次の章が始まる意味を持つということで、この子が新しい世界に旅立つというこのドラマにとてもふさわしいタイトルになっています。

監督:シアン・ヘダー、脚本:シアン・ヘダー、撮影:パウラ・ウイドブロ、美術:イアン・リーダーマン、衣装:ブレンダ・アバンダンドロ、編集:ジェロード・ブリッソン、音楽:マリウス・デ・ブリーズ、音楽プロデューサー:ニック・バクスター音楽監修:アレクサンドラ・パットサバス。

出演者;エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァ、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エウヘニオ・デルベス、エイミー・フォーサイス、他。コッツァー、マトリン、デュラントの三人は聾者です。

あらすじ

海の町でやさしい両親、父フランク(トロイ・コッツァー)、母ジャッキー(マーリー・マトリン)と兄レオ(ダニエル・デュラント)と暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、ルビーはひそかに憧れるマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)を慕って合唱クラブに入部した。合唱クラブ顧問のV先生(エウヘニオ・デルベス)はルビーの歌の才能に気づき、ボストンの名門音楽大学バークリーの受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するが……。

感想(ねたばれ:注意)

冒頭シーン。小さなトロール船上。忙しく漁する父と兄、荒波の中でのふたりの手話。高校生だが大人びたルビーが歌う「心をとらえて離さない!この思いを伝えたい!不思議な気分!」。ルビーが歌に惹かれているというテーマソングが、力強くて、爽快だ!

f:id:matusima745:20220406093709p:plain

港に上がり、ルビーがセリで値段交渉して売りさばく。父と兄がこれにスラングで文句を言う。この冒頭シーンでコーダの役割が分かります。

ルビーが高校に登校。部活に合唱クラブを選んで、下校しようとすると、そこにカーラジオを大音響で鳴らす父フランクの車がルビーを迎えにくる。聾の世界に音がないことを表し、これが健聴者にいびられる原因になり、ルビーの悩みでもある。

こんなフランクがどうやって音楽を理解するのか?

ルビーは皮膚科に連れていかれ通訳する。「死にほどかゆい!火事になったみたいだ!まさに燃える大根だ!」。ルビーにしか訳せない!(笑)診断結果はインキンタムシ!これどう訳す?(笑)

この作品ではフランクが笑わせてくれます。演じるトロイ・コッツァーはまさにフランクで、そこにいるだけで可笑しい!(笑)アカデミー賞助演男優賞は当然でした!

食事中の家族。とても静寂!ところが兄のレオが携帯(電話)をいじっている!母が「交際サイトは止めなさい!」という。今の時代、携帯が聾者の翻訳機になっている。彼Gはこれで恋人を探し、将来を夢見ている。

合唱クラブの練習。ルビーは当初自分の声は笑われるのではないかと歌うことができなかった。V先生は身振り手振りで大きな犬や小さな犬の発生法を真似て“身体を動かして声を出せ!”と手話のようにして発声法を教える。ルビーはこの教育で歌うことに興味を持ち出す。V先生役のエウヘニオ・デルベスが面白可笑しく演じてくれます!

V先生は秋のコンサートで歌うためにと、ビリーとマイルズにマーヴィン・ゲイ&タミー・テルのデュエット曲“Youre All I Neeg To Get By”を歌わせることにした。「運命の人だとわかった!人生をあなたのために尽くす!・・・」という歌詞が良い。こんな曲で歌うふたりは絶対にくっつくよ!(笑)

f:id:matusima745:20220406093734p:plain

V先生がルビーに「音楽大学に行かないか」と勧めるが、「考えたこともない」という。「歌うということはどういうことか?」と聞くと、ルビーは笑って手話で答えた!V先生は「手話は歌うことに繋がっている!」と納得した。

ルビーはマイルズを自宅に呼んで練習をすることにした。ところがとんでもないことが起こった!フランクとジャッキーのセックスが始まった。その声が大きい!(笑)。ルビーが注意するとフランクが「お前は騎士にならねばならぬ!鎧の装着法・・」とコンドームの使い方を教えてくれる。このシーン、通訳がなくてもちゃんと分かります。(笑)これをマイルズが学校で喋り、これ以来ふたりは疎遠になっていった!

f:id:matusima745:20220406093801p:plain

V先生はルビーに個人教育としてジョニ・ミッセルの曲「青春の光と影」をレッスンすることにした。先生には自分が叶えられなかった夢をルビーに重ねていた。

そんな中で政府から漁獲生制限が課せられ、監視員が船に乗り込むことになった。集会でフランクは「チンポをしゃぶれ!」とルビーに通訳させて(笑)、この案に反対し、漁師組合を作って自家売りをすることにした。これでルピーは交渉の通訳で一層忙しく、先生のレッスンに遅刻するようになり、歌どころではなくなっていった。

先生から「大学はどうする?」と聞かれ、家族に進学することを話した。両親は「お前の歌を聞いたことがない!一生家族と一緒だ!」と全く受付なかった。ルビーは「もう疲れた!歌うのが好きだ!」と伝えた。

マイルズから「なんでもするから付き合ってくれ!」とデートを申しこまれた。この日、漁を休んでルビーはマイルズと湖でデートしていた。そして、ルビーはマイルズの愛を知った。

f:id:matusima745:20220406093857p:plain

ところがこの日、運悪く漁船に女性監視員が乗り込んできた。沿岸警備隊船が注意勧告に近づいたが、父と兄はそれに気づかず、女性監視員は役立たず、拿捕され、以後監視員を乗せなければ営業禁止となった。家族にとって漁業を続けるにはルビーは欠かせない。ルビーは残ることにした。

母のジャッキーは喜んだ。「生まれたとき耳が聞こえると分かったときどう育てていいか分からなかった」という。ルビーも「いつも3人は一緒で私だけ別だった!聾であったらよかったと思った」という。聾者と健聴者の両世界に生きるルビーの悩みが分かるセリフでした。

兄のレオだけは違っていた。「家族の犠牲になるな!お前は特別だ!」と進学を勧めた。レオの大きな愛だった。レオはルビーが家族に加わったことで、健聴者社会を恐れず、自ら事業を起こしたいという夢を持ち、健聴者の彼女と付き合っていた。ルビーに頼りっきりの両親にはうんざりしていた。

秋のコンサート。会場には父母に兄、そして兄の彼女が駆けつけた。ルビーとマイルズが歌う。ここからは父母と兄の立場でコンサートが描かれ、なんの音もない!無音!フランクとジャッキーは感激する周りの人を眺めて、そういうものかと、拍手に合わせて手を叩く。

コンサートが終ってV先生が「大学にやってはどうですか?」とフランクに進めた。これをルビーが止めた。

夜、家に戻ったところで、フランクが「あの歌を唄ってくれ!」とルビーに求めた。ルビーは「人はお互いに誰かを必要としている歌だ」と説明して歌った!フランクはルビーの喉に手を当て振動でその歌を聞いていた!

朝起きると、漁に出ず、家族は車でバークリー大学のオーデション会場に向かった。

ルビーは飛び入りのV先生のピアノ伴奏で「青春の光と影」を、手話を交えて歌った!会場の二階で聞く家族にしっかり伝わった。

そしてある日、合格の発表はあった。ルビーは両親とは離れて新しい生活が始まるが、家族には歌で繋がることになった。

f:id:matusima745:20220406093918p:plain

まとめ:

聾者の中にたったひとりの健聴者がいるという複雑な家族関係の中で、お互いが駆け引きするが、そんな中にも信じられないほどの大きな愛があること、そして人生は自分で選べ!という結末に感動しました!

聾者の会話は手話で翻訳され字幕で表示されますが、この映画を見ているうちに字幕がいらなくなるほどに手話に慣れ、手話は素晴らしい言語だということがわかります。そして音楽が聾者と健聴者を結ぶという感動的なシーンに絶対に泣かされます!笑いが一杯で、明日への希望が湧いてくるという誰にでも受け入れられる良作。

テーマは聾者のアイデンティティを受け入れる多様性社会の実現。

 エミリア・ジョーンズ。美しくって力強気演技、歌、手話、そして漁師の娘としてすばらしい演技でした。そしてコッツァー、マトリン、デュラントの三人は聾者家族、これは圧巻でした。彼らがいうように聾の演技には聾の俳優さんを使うべきですね!

テーマの副題にあるように、音楽がすばらしい!サウンドトラックを購入したいですね!

脚本勝負の作品!この作品がアカデミー賞作品賞となったことで、今後、日本映画にも受賞チャンスはあるぞ!と喜んでいます。

                *****

「モービウス」(2022)

f:id:matusima745:20220403200356p:plain

“モービウス”の生誕物語。ここにきてSPUMC(ソニー・ピクチャーズユニバーバース・オブ・マーベル・キャラクターズ)作品の主人公として映画初出演。今後の「スパイダーマン」シリーズ、ひいてはマーベル作品にも強く濃い影響を与える可能性が非常に高い。ということで観ておくべき作品と駆けつけました。

監督:チャイルド44 森に消えた子供たち」(’14)「ライフ」(’17)「のダニエル・エスピノーサ脚本:マット・サザマ バーク・シャープレス、撮影:オリバー・ウッド、美術:ステファニア・セラ、衣装:シンディ・エバンス、編集:ピエトロ・スカリア、音楽:ヨン・エクストランド。

出演者:主演は「ダラス・バイヤーズクラブ」「スーサイド・スクワッド」でジョーカーを演じたジャレッド・レト。共演に「ラストナイト・イン・ソーホー」(’21)のマット・スミス、タイリース・ギブソンアドリア・アルホナジャレッド・ハリス、アル・マドリガル、他。

多くの命を救ってきた天才医師モービウスが、禁断の治療の代償として自らの肉体が大きく変貌していく中、医師としての良心と血に飢えた怪物としての本能のはざまで揺れる葛藤の行方を、激しいバトル・アクションとともに描き出すというもの。

久しぶりにみるSPUMC。やはり面白い!ジャレッド・レトが演じるモービウス。善と悪の二面性で揺れる心理的な闇を抱えるヒロインの登場に、これからの作品展開を期待し得るものでした!

あらすじ(ねたばれ:注意):

冒頭、ヘリで進入しコスタリカの深い森の中にある洞窟に住む蝙蝠を採集するマイケル・モービウス(ジャレッド・レト)の行動から物語が始まる。この深度のある映像と爆音でSPUMCの世界に一気に連れていかれます。久しぶりの映像体験でした!

ここから25年前のギリシャで難病で病院医療する少年マイケルとマイロ。マイロは1日3回の輸血を必要とする重い血液の病でした。ここでふたりは兄弟のようにいたわり合いながら療養。マイロの輸血装置が停止したときマイケルがとっさの判断でボールペンのバネで修理したことでマイロは事なきを得た。このことでマイケルの能力が認められ、大学に入り血液の研究を続けて、ノーベル賞を受賞するまでの研究者になった。

しかしマイケルは多くのこの種病の患者を救えない、就中、マイロ(マッド・スミス)を救えないと、研究パートナーのマルティーヌ(アドリア・アルホナ)とニューヨークのホリゾン研究所で研究を続けていた。

f:id:matusima745:20220403200426p:plain

マイロは豪華なアパートで二コラ医師(ジャレッド・ハリス)の治療を受けながらマイケルの研究成果を楽しみにしていた。

モービウスは蝙蝠のDNAと自分のDNAを混合した血液を体内に取り入れてみたらという禁断の治療法を実験することにした。マウス実験で成功し、期待できりとマイロに報告。マイケルは、マイロの支援でコンテナ船をチャーターし、東海岸沖の中立海で、ルティーヌによって自分の体に混合DNAを注射するという人体実験を実施した。これまでびっこだった脚が治り健常体になり、拳銃弾をも避けるほどに敏捷に運動でき、蝙蝠のように天井に張り付き、空を飛べ、音響で回りの状況が把握できるバッドレーダー能力をもった。さらに鋭い歯と爪を持つ異形の怪人に変身し、人を襲うというとんでもない力を持つに至った。

モービウスはコンテナ船の乗組員6人を殺害した。モービウスは自分が犯した犯罪ビデオを見て自傷行為にはしり、慌ててSOSを発信して船を去っていった。マルティーヌはモービウスの異形に気を失って、船に残っていた。

FBIのロドリゲス(アル・マドリガル)とストラウド(タイリース・ギブソン)刑事がこの事件を追うことになり、マルティーヌに付きまとうようになった。

f:id:matusima745:20220403200455p:plain

モービウスは研究所に戻り人工血液(“レッド”)を呑んで落ち着いた。実験は成功したが血液が必要だとわかり、血液の接種間隔を調べた。6時間で効果が切れることが分かった。

実験に成功したと聞いたマイロが研究室に「恋愛はするな!」とやってきた。ちょうどそのときモービウスはレッドの効果が切れて苦しんでいた。それを見たマイロが“レッド”を飲ませるとモービウスは正常に戻ったのを見て、 “レッド”が飲みたいと訴えた!モービウスは激しく反対したがマイロは「俺に死ねということか!」とこれを持ち去ってしまった。

f:id:matusima745:20220403200525p:plain

モービウスが病院で子供の治療中に、レントゲン技師が何者かに襲われ血を抜かれるという事件が起きた。モービウスは「あいつだ!」と“レッド”をもって駆け出したが、FFIのロドリゲスとストラウド刑事に出会い、怪人になって逃げようとしたが捕まってしまった。“レッド”を逃げる途中で失ってしまった!

マンハッタン留置場で“コンテナ船事件”についてふたりの刑事の尋問を受けた。血液効果が切れる時間になって体が震えてきた。そこにマイロが弁護士に化けて面会にやってきて「必ずここから出してやる!」と“レッド”を置いて去って行った。

モービウスは“レッド”を呑み、異形に変身して留置所を破り、街に出てビルの狭間を飛び越えながらバッドレーダーでマイロを追った。留置場は日本のものより劣悪だったが、尋問から面会のシーンはよくできていた!(笑)

マイロはスタンドで新聞を買って、その店主を殺害しようとしていた。モービウスはマイロの前に立ち塞がるとマイロが襲ってきた。ふたりがそこで格闘。警官隊が駆けつけてきたのでモービウスは地下鉄構内に逃げ、走ってきた電車の前を走りトンネルの外に逃げた。マイロは地下鉄のホームで乗客を襲い、警察隊の追跡を振り切った。

翌朝、バスで通勤中のマルティーヌ。地下鉄事件を報じる新聞を見ていると後ろの席から「俺ではない!」とモービウスが声を掛けた。ふたりはカフェに立ち寄った。

f:id:matusima745:20220403200552p:plain

カフェで、偽札で支払いする男たちを見つけたモービウス。男たちをつけて偽札製造工場に入り込み、男たちの指を圧し折り、印刷機をぶっ壊した!モービウスはこういう不正義が許せないらしい。

一方のマイロはめかしてバーに入り女を誘うと男たちが寄ってくる。男たちを外に連れ出し殺害して血を吸う。マイロは病弱だったころに蒙った仕打ちを晴らすように“レッド“で得たパワーを使う。

ふたりのパワーの使い方の違いをこういうエピソードで描いているが、ここはちょっと安っぽい!

モービウスは研究を続けて「吸血鬼になっても人は殺さない!」とマルティーヌに語り、ふたりは屋上で街の灯を眺めていた。この姿をマイロが隣のビルから見ていた。

FBIのふたりはバーでの殺人事件はモービウスの仕業として捜索を始めた。

ニコラス医師がマイロを訪ね「何をやった?」と追い詰めた。マイロは「あなたは兄のことしか見てなかった」と言い、「マイケルに言え!いくらでも殺す!」とニコラスを襲った。ニコラスの叫び声を聞いたモービウスは駆けつけ、ニコラスから「君がマイロを止めろ!」と聞かされた。

マイロはマルティーヌを呼び出し襲った。マルティーヌの声を聴いて駆けつけたモービウスにマルティーヌは「私の血を呑んで!」と言って亡くなった・・・・。

モービウスはマルティーヌの血を呑み、異形の怪人に変身し、夜のニューヨークの街にマイロを追った。街中でのふたりの決闘、決着がつかない。ふたりは下水道に落ちて戦う。そこに大量の蝙蝠がマイロを襲った。身動きが取れなくなったマイロの胸にモービウスがナイフを突き刺した!

感想:

物語はシンプルでバイオロジーSFの面白さとアクション。蝙蝠のもつ力=音響で回りの状況を把握するというバッドレーダの映像化と威力、ダークな世界感の中で繰り広げられた善悪二面性で苦しむマイケルとマルティーヌの恋愛、マイケルとマイロの変化していく兄弟愛を楽しみました。

医者という崇高な使命を果たすことを志ながら血の渇きから突然襲ってくる殺意で、6人の男たちを殺し、恋人の血を吸って同じ病を持つ愛する弟を刺殺したモービウスがこれからどういう運命を辿っていくのか?

“レッド”を呑み続け精神的に狂っていく演技がすばらしい。ジャレッド・レトーの演技もそうですが、マット・スミスの演技は兄への嫉妬も加わり荒れていく演技に迫力がありました、特にラストの兄に敗れ死に行く異形の表情がすばらしかった。

アクションの見どころ、異形の怪人となり地下鉄、下水道、夜間のニューヨークの街中で繰り広げたシーンは、派手さはないが、それなりに楽しめ、ラストの蝙蝠の大群は迫力がありました。変身描写としての特殊メイクの使い方、特にラストでマイロが苦しみの中で亡くなるシーン、すばらしかったと思います。

予告で映し出されたモービウスとバルチャーの出会い。ヴィランアベンジャーズとも言える“シニスター・シックス”の誕生を予感させます。

                 ***

「ドリームプラン 」(2021)KING RICHARD

f:id:matusima745:20220331073432p:plain

今年のアカデミー賞は何が選ばれたかより、ウイル・スミスによるプレゼンター・クリス・ロックの殴打事件満載という感じ。この事件で、「ドリームプラン」がどんな映画だったかより、彼の名がアカデミー史に残るでしょう。(笑)

この作品が忘れられてしまう!作品を観たが記事にしていなかった!ということで書くことにしました。書かなかった理由、実はスミスと同じ間違いをしていて、〇〇〇にいたからです。😅そのうち詳しく書きます。(笑)

ウィル・スミスが女子テニス界のスーパースター、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てた破天荒な父親リチャードを演じた伝記ドラマ。アカデミー賞では作品賞・脚本賞・主演男優賞・助演女優賞賞・歌曲賞・編集賞の6部門にノミネートされましたが、結果はスミスの主演男優賞のみでした。

スミス演じるリチャードはふたりの娘が貶されたことで、貶した相手を殴ったか?

監督:「ジョー・ベル ~心の旅~」のレイナルド・マーカス・グリーン。脚本:ザック・ベイリン、撮影:ロバート・エルスウィット、美術:ウィン・トーマス ウィリアム・アーノルド、編集:パメラ・マーティン、音楽:クリス・バワーズ、音楽監修:スーザン・ジェイコブス、エンディングテーマ、ビヨンセ主題歌:「Be Alive」ビヨンセ

出演者:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィンジョン・バーンサル、他。

あらすじ:

カリフォルニア州コンプトンに住むリチャード・ウィリアムズ(ウィル・スミス)。結婚して5人の子をもうけたが離婚して親権を失っていた。3人の娘を持つオラシーン(アーンジャニュー・エリス)と再婚。

ビーナスとセリーナが生まれる前にバージナル・ルジッチ選手がフロリダのトーナメント試合で優勝し4万ドルの小切手を受け取る姿をTVで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意し、テニスには全く素人の彼が78ページにも及ぶ選手育成計画書(ドリーム・プラン)を作成したという。

これは金儲けのためではなく“娘のための人生計画”。コンプトンで黒人として蔑まれた生活からの脱出、離婚を経験し再婚で子供を持つことの夢ではなかったかと。リチャードの固い決意が、よくできた妻・オラシーンと娘たちの努力に助けられ、ドリームプランと言われるようになったと思われます。

ドラマはこのドリームプランと娘の練習ビデオをもってコーチを探すシーンから始まる。誰も引き受けない。

リチャードは昼間郵便配達、夜は警備員として勤務。オラシーンは看護師。娘たちと郵便配達した後、公営のテニスコートに急ぎ、夫婦でビーナス(サナイヤ・シドニー)とセリーナ(デミ・シングルトン)を鍛える。どうやらオラシーンにテニス経験があるらしい。激しくふたりの娘の動きにクレームをつける。

f:id:matusima745:20220331073501p:plain

こんな家族を見て、ストリートギャングが「バカな家族だ!」と練習を妨害する。リチャードはこいつらに「ほっといてくれ!娘には手を出すな!」と注意するが、決して手を出さない。逆にギャングに袋叩きされる。リチャードはこうやって娘たちを守っていた。こんな姿を娘たちは見て育った!今のセリーナの強い姿を見れば分かります!

リチャードは何故手を出さないのか?「昔は喧嘩したが、こんなことで問題は解決しない!」と気づいていた!

リチャードはテニス雑誌を見て、トレーシー・ホスティンを育てたテニスコーチ・ビッグ・プレイデンを訪ね、娘ふたりの練習ビデオを見せた。「金をかけねば無理だ!」と断られた。これでリチャードは「自分がコーチになるしかない!」と決意した。

リチャードは娘たちにしっかり聖書を読ませ食事はかならず家族一緒にとった。そして彼自身が一生懸命にボールを打つ練習をした。こんなリチャードをストリートギャングが襲った。リチャードは夜、密かに彼らを襲って傷を負って家に戻ってきた。こんな夫にオラシーンもついていくことにした!

f:id:matusima745:20220331073523p:plain

リチャードは「プランに従えば可能だ!」とコーチのポール・コーエン(トニー・ゴールドウィン)を訪ねた。その時彼はマッケンローをコーチしていた。マッケンローが時間を空けてくれたので娘たちがコーエンのコーチを受けることになった。コーエンはふたりの力を認めた!「ウインブルドンに出たい!」というビーナスのコーチを引き受けた。実はリチャードにはふたりのコーチ料は払えなかった。リチャードはビーナスの練習にカメラをもって付き合い、その映像をセリーナが見て練習。妻オラシーンが常に付き添っていた。常に“ビーナス優先”というのもよかったと思います。

ビーナスの練習にリチャードが付き添って「オープンで打て!」と口を出す。コーヘンが怒るがリチャードは止めなかった。彼が一番よくビーナスの力を知っていた!

コーヘンの意見でビーナスはジュニア大会に出場することになった。当初ちょっと戸惑ったが、難なく勝利。家族は自分のことのように喜んだ。ビーナスはこの大会で優勝したが、リチャードは「勝てたことを自慢するな!相手のことを考えろ!」と教えた。また、「セルフジャッジに公正であること」を厳しく指導した。この公正こそがビーナスとセリーナを試合でも、人としても強くしたと思います。

雨の中でも練習させ、子供虐待!と警察に通報されたこともあった。黒人の地位向上のためと納得させた。

コーエンはスポンサーをつけてプロの道に入ることを勧めたが、「ちゃらちゃらしたアイドルにはしない!大切なのは謙虚だ!これでなければ試合に勝てない」と断り、フロリダにあるリック・メイシーテニス・アカデミーを選んだ。リック・メイシー(ジョン・バーンサル)がふたりの力を確かめて入学が認められた。

テニスアカデミーには家族で移動し、リチャードはここに職を求めた。アカデミーはテニスの聖地だった。トーミーホーやエリック・タイノ、ジョン・ロディック等がいた。ジェニファー・カプリアティの練習を見て、ふたりの娘はコートに駆け出し練習を始めた。

リックがジュニア大会に出場することを求めてきたが、リチャードは「ジュニア大会には出さずにプロにしてくれ!教養を身につけ普通の子として育てる、オープンスタンスで打たせろ!」と要求し、この条件を譲らなかった。

妻オラシーンは頑なリチャードのやり方に「ひとりで決めないで!ビーナスの人生よ!」と注意した。ともすればやり過ぎるリチャードにラシーンの存在は歯止めになった。

リチャードはビーナスの練習に付き添って、「試合に出たいか?」と聞いた。ビーナスは「準備できている」と自信をのぞかせた。リチャードは「俺は白人に触れただけで怒られてきた。俺は大した奴ではないがお前らを守りたい!だから厳しい!すべての黒人女性を代表する女性にしたい。逃げる女性を見たくない!」と話すと、ビーナスは「世界を見せてあげる!」と答えた!

f:id:matusima745:20220331073548p:plain

3年後、契約金で揉めたが、ビーナスのプロ戦初登場となった。試合は、プロの試合になじむまで不利であったが、次第に力を発揮して勝利した。静かにコートを去ったビーナスはトイレの鏡で自分の顔を見て微笑んだ。リチャードはセリーナに「姉はこれで世界一になる!お前のためのプランがある、全てが分かるときがくる!」と告げた。

全仏オープン

ビーナスはアランチャ・サンチェス・ピカリオと対戦した。1セットをビーナスがとって休憩。リチャードは会場のTVで観戦し観覧席に現れることはなくなっていた。顔を見せない。娘を信じ慰めに徹することでメンタルな支援に徹していた。とても自分の立場をわきまえた男だった!

ピカリオがトイレに入って出てこない。これで調子が狂ってビーナスは敗戦。萎れて戻ってきたビーナスを「よくやった。相手はランキング2位の選手だ。気品のある試合だった!」と抱くリチャードとオラシーン。ところが会場を出ると多くのフアンが押しかけ「ビーナス!ビーナス!」と試合を称えた。

感想;

ドラマは簡潔でテンポよく、テニスの試合も楽しめます。音楽もいい!

 リチャードはどんなお父さんだったか?徹底的に家族を守る人だった。黒人の地位向上が狙いという大きな世界感を持っていた。このためにテニスのテクニックより人として謙虚という人格育成を大切にして娘たちを育てた。これで常に努力をいとわず、ビーナスとセリーナは世界チャンピオンへと育っていった。

どうやらリチャードは「貶された!」とウイル・スミスのように暴力を振るう人ではなかったようです。(笑)

スミスはこの役を当初躊躇し、熟慮した上で受けたと言います。これまでの役と違って、頑固だが静かで我慢強いリチャード役に躊躇したのでしょう。演技の上では見事にリチャードを演じ、これが認められアカデミー賞主演男優賞となりました。が、まだまだリチャードの域には達していなかったということではないでしょうか。会場にはビーナスとセリーナも駆けつけこの事件を目撃し、スミスの受賞スピーチスに涙していましたが・・・。

2018年9月8日の全米オープン・女子シングルス決勝大坂なおみが、世界ランキング1位のセリーナ・ウィリアムズにストレート勝ちするという快挙を遂げた。しかし表彰式では大坂がブーイングを受け、敗者であるセリーナが会場を静めるという異様なものになった。セリーナは「なおみは、いいプレイをしました。そしてこれが彼女の初めてのグランドスラムです。今この時をできる限りいい時間にしましょう。ブーイングはやめましょう」と大坂の肩を抱いた。まさにリチャードに育てられたセリーナの言葉でした!

                 ****

「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(2007)最期、すべてを燃やしてゼロから生きる!

愛の讃歌」「ばら色の人生」など、数々の名曲を残したフランスの国民的シャンソン歌手、エディット・ピアフの伝記ドラマ。その波乱に満ちた47年間の生涯を描き、フランスで500万人以上を動員。ピアフになりきった主演マリオン・コティヤールは、第80回アカデミー賞主演女優賞受賞しています。

エディット・ピアフシャンソンはよく耳にしましたが、その私生活は知りませんでした。この作品で彼女の悲劇的な生い立ちを知り、なぜ彼女が残しでた歌が「愛の讃歌」「ばら色の人生」なのか?

監督:オリビエ・ダアン、脚本:オリビエ・ダアン イザベル・ソベルマン、撮影:永田鉄男、音楽:クリストファー・ガニング。

出演者:マリオン・コティヤール、シルビー・テステューシ、パスカル・グレゴリーエマニュエル・セニエ、ジャン=ポール・ルーブ、ジェラール・ドパルデュー、他。

あらすじ:

1015エディット・ピアフ大道芸人の父とストリートシンガーの母に出来た子で、両親が離婚し、ノルマンディーで売春宿を営む父親の母親に預けられた。ここで売春婦のディティーヌ(エマニュエル・セニエ)に可愛がられ、売春婦の悲惨な生活を目にして育った。そして数年にわたり角膜炎で苦しんだ。

その後、父親に引き取られ、サーカス団でしばらく暮らし、父親がここを辞めて大道芸で生計を立てるとになり、初めて観衆の前で歌ったのがフランス国歌だった。とてもいい声で大喝采を得た。

父親から離れ、友人のモモーヌ(シルビー・テステューシ)とストリートシンガーになり歌っているとことをナイトクラブのオーナー・ルイ・ルプレ(ジェラール・ドパルデュー)によって見出され、彼の店で歌を歌うようになり、大評判となった。ルプレはエディットの身長が小柄にも関わらず迫力のある声であることに、“ピアフ”(小さなスズメ)という芸名をつけた。ピアフは酒を呑み、男と付き合い始めた。そんな中で、ルプレーが悪組織から刺殺されるという事件が起き、ピアフとモモーヌは共犯者と告発されたが、ピアフは無罪となり、モモヌは連行されてしまった。歌っても娼婦上がりの女と軽蔑されるようになった。

ピアフはレイモン・アッソ(マルク・バルベ)のもとで基礎から歌を仕込まれ舞台に立った。大変な成功を収め、ツアーにレコードにと引っ張りだとなっていった。

1940にはジャン・コクトーの舞台に出演し、戦場に発つ兵士が持ち込む曲にも気さくに応じて歌った。「ばら色の人生」はこのころの歌だった。

1947年、ピアフはアメリカへの公演旅行に旅立ち好評を得た。運命の人プロボクサーのマルセル・セルダン(ジャン=ピエール・マルタンス)と出会った。マルセエルの世界選手権試合を観戦し、その勝利に狂喜した。もう彼への愛が止らなくなっていった!愛の讃歌はマルセル・セルダンに捧げられた曲だった。そんな中で出会ったのが大女優で歌手でもあるマレーネ・ディートリヒ(カロリーヌ・シロル)。ふたりは意気投合した。しかし、彼の家族には迷惑をかけないと結婚を迫ることはなかった。

1949年10月、マルセルに「飛行機で会いに来て!」と伝え、その夜彼との逢瀬を楽しむ夢を見た後、彼が飛行機事故で亡くなったことが知らされ、大きな悲しみを味わうことになった。

1955年8月、ピアフは最初の夫ジャックと仲間たちとカリフォルニアを旅行中自動車事故に遭い、その後深刻なモルヒネ中毒に苦ししみ、しばしば公演中の倒れることがあった。貧しかった頃の育ちの悪さを露骨に出し、横柄な態度で人に接するという悪い生活スタイルを見せ見苦しいピアフになっていった。薬を首に打ちながら「歌がなくなったら死んでしまう」と舞台に立ち続けた。そして倒れ、南仏グラースで療養生活に入った。

1960、パリの「オランピア劇場」で、療養中のピアフはようやく立てるという体調でコンサートを開いて「水に流して」を唄った。これが最後のコンサートとなった。ピアフは再度入院し、1963年10月10日、47歳で、二番目の夫:テオ・サラポスに看取られ亡くなった。

感想:

作品は、舞台で突然倒れ歌を唄えなくなくなったピアフが病院で苦しむ姿を主軸に、悲劇的な幼少時や劇的な歌手レビューと名声、ボクサー・マイセルとの大恋愛とその死、モルヒネ中毒による苦しみ等の人生エピソードを交差させながら描き、“人生に後悔なし”と呟いて亡くなるという感動的な結末になっています。

病魔による意識の混濁の中で若いころ幼い娘・マルセルを網膜炎で死なせた罪に苦しみながら、ラストの舞台で歌った「水に流して」を思い出しながら「すべてを燃やしてゼロから生きる!」と亡くなった死に様に感動しました。

自分の人生最期に何を残すか!これまで生きたことへの感謝しかない!愛の思い出をもって天国に行きたいと思っています。

ピアフの死の直前の容姿は、80歳台にも見えるほどに老け込んでいました。若いころの苦労が祟ったのでしょうか。マリオン・コティヤールが若いころからここに至るまでのン・コティヤールが歌っているとのこと。ほとんど見分けがつかないほどで素晴らしい円・コティヤールが歌っているとのこと。ほとんど見分けがつかないほどで素晴らしい円技でした。

              ***

「ナイトメア・アリー」(2021)

f:id:matusima745:20220327072333p:plain

ウィリアム・リンゼイ・グレシャムのノアール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」(1946)を、「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督が独自の世界観と豪華キャストで映画化したサスペンス・スリラー大作。第94回アカデミー賞では作品賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞の4部門にノミネートされ、注目されています。

過去に秘密を抱え抱えた男が社会の底辺からのし上がるも、自分の仕掛けた罠に始まり、運命の歯車に狂っていく様をドラマチックに描いた作品。原作は過去の物語ですが、テーマは今の社会に繋がる“人間の条件とはなにか”で、これまで監督が描いてきたテーマです。ここではクリーチャーではなく生身の美男美女を使って、人間の心の闇を繊細に描いてみせてくれます!

監督:ギレルモ・デル・トロ脚本:ギレルモ・デル・トロ キム・モーガン撮影:ダン・ローストセン、美術:タマラ・デベレル:編集:キャメロン・マクラクリン、衣装:ルイス・セケイラ、音楽:イサン・ジョンソン。

出演者:主演は「アメリカン・スナイパー」「アリー/ スター誕生」のブラッドリー・クーパー、共演にケイト・ブランシェットトニ・コレットウィレム・デフォールーニー・マーラロン・パールマン、アリー・スティーンバージェン、デビッド・ストラザーン、リチャード・ジェンキンスと豪華です。

あらすじ(ネタバレあり:注意):

1939.父親の遺体を袋詰にして床下に置き、家に火を放って旅に出たスタン(ブラッドリー・クーパー)。辿りついたのはカーニバルの地。幻想的なショーが繰り広げられるテントや郷愁を誘う観覧車、ロマンティックなメリーゴーラウンドなどが立ち並ぶ地だった。巨大な施設はアカデミー賞もののセットで、すばらしい景観です。

スタンはその中にある「獣人ショー」のテントに入り見学した。餓鬼化した人間が生きた鶏の首に喰らいつき食べるというもの。「これが人間か!」と思った。

カーニバルのマネージャー・クレイム(、ウィレム・デフォー)に「過去のことは気にしなくていい、働かないか?」と誘われ、「風呂があるよ!」と読心術を操るジーナ(トニ・コレット)に一目惚れされて、この店を手伝うことになった。

f:id:matusima745:20220327072358p:plain

ジーナには相棒のピーター(デビッド・ストラザーン)がいて、ジーナは舞台下にいるピーターの指示で客の心を読むというトリック読心術だった。実はピートはその道を究めた男で、「霊媒ショーをやって霊媒を信じる人々を騙すことに罪悪感を抱き今はこれをやめてリック読心術をやっている」という。ピートはスタンに読心術を教えたが「霊媒は絶対にやるな!」と釘を刺し、自分がまとめた術書(暗号書)を見せなかった。ジーナはタロット占いで「スタンには死の願望がある」という。ピートは「過去がまとわりつく。若い者は女道楽だ」と戒めた。

スタンはクレイムのテントを訪ね異形品人間の収集品を見せてもらった。その中にホルマリン液の瓶に保管され浮かぶ胎児を見た!「エノク」と名付けられていた。

カーニバルには電気を流す“電気ショー”を演じる穢れのない美しいモリー(、ルーニー・マーラ)という娘がいた。スタンは新しいショーを考えて助言してモリーの心を掴もうとし、メリーゴーラウンドに誘って「一緒にやろう!」と誘った。次第にモリーも心を開くようになってきた。

f:id:matusima745:20220327072438p:plain

ある日、スタンはクレイムに頼まれ一緒に、死んだ獣人を病院前に捨てに行った。その帰り道で、クレイムから「街をうろついているやつを酒で誘い、薬を与え、獣人が見つかったと言って、薬が切れたときに鶏を投げ入れるんだ」と獣人ショーの“こつ”を聞かされ、「この道だけは辿るまい!」と思った。こもセリフは覚えておくといい。

スタンはピートに酒を与えた。ピートは「暗号書を悪用するととんでもないことが起きるぞ!次から次へと嘘をつくようになる」と呟いて亡くなった。スタンは暗号書を手に入れた。

ピートを埋めようと穴を掘っているところにパトカーで警官がやってきた。モリーも公然わいせつ罪で逮捕するという。スタンは警官と読心術で会話し、この場を収めた。スタンはモリーとショービジネスの世界での成功を目指して大都会へと旅立った。

2年後、スタンとモリーは一流ホテルで、スタンは目隠してモリーがアシスタントでそばにいて暗号で知らせ、上流階級の人たちに読心術を披露して喝采を得ていた。そんな中でエレガントな女性にトリックを見破られた。しかし、スタンは落ち着いて女性のバッグの中身が拳銃であることを当て、隣にいた男性に「亡くなった男の子がいる」と霊媒シューを仕掛けた。男性はキンブル判事で女性はリリス・リッター心理博士だった。モリーはスタンに霊媒ショーを止めるよう注意した!

スタンはリリスが持つ客の心理情報を利用して稼ぐことにした。リリスはこれに同意し、キンブルの情報を渡した。そしてスタンの真実を知りたいと質問をしてきた。「酒を飲まない」「父は酒飲み」「母は美しい人でピアノを弾く」「ピートから読心術を学んだが、俺のミスで酒で亡くなった」「父みたいな男にはならない」と答えた。

f:id:matusima745:20220327072506p:plain

モリーはカーニバルからブルーノ(ロン・パールマン)とジーナを呼び寄せ、スタンに会わせた。ジーナはスロット占いで「ラストカードが吊るされた男で凶だ」と告げた。しかしスタンは逆にすれば「上がりだ!」と無視した。

スタンの霊媒ショーは好評で、リリスとの取り分は五分五分とした。スタンはリリスが差し出す酒を飲んだ!

リリスが「大富豪だ!」とグリンドル(リチャード・ジェンキンス)を紹介してきた。グリンドルの豪邸を訪ねると、嘘発見機を装着させられて霊媒ショーをやるはめになった。「亡くなった女性に流産させた」というと「なぜ分かる!」と取り乱した。

リリス「権力者を裏切ったらとんでもないことになる」とグリンドルの情報を出さない。リリスはスタンに胸の傷を触らせた。スタンは密かにリリスの書斎の鍵を盗みグリンドルの資料を見た。亡くなった女性の名はドリーだった。グランドルは「早く合わせろ!1万ドルを出す!」と急かす。

スタンは嫌がるモリーに「越えてはならない一線を越えたのだから怖がるな!」と自分が描いたドリーの絵を見せ、ドリーに変装させてグランドルに遭わせることにした。この頃、キンブル夫妻が息子に会うために拳銃自殺して天国に旅立つという事件が起きた。やはり霊媒ショーは危険だ!

変装したモリーを見たグリンドルは感激してモリーを抱くと「赦して!」と喋った。グランドルは偽物だと分かった!スタンは怒るグランドルをメッタ打ちし、付き人も車でひいた。モリーはスタンを殴って去って行った。

スタンがリリスの事務所に顔を指すと「これをもって逃げて!」とバックを渡した。バックを開けると1ドル札ばかりだった。リリスは「失望した!私は金なんかどうでもいいの!あなたは人を騙せない!オクラホマの田舎者!」と拳銃で撃ってきた。スタンが反撃しようとすると警備員が部屋に飛びこんできた。スタンは逃げて、貨物列車に飛び乗った。着いたのは名前が変わった別のカーニバルだった。トラックの事務所に顔出すとそこに「エノク」の標本が飾ってあった。一体これは誰の胎児か?

ここで読心術の仕事を探すがない。「獣人が見つかるまでの仕事をやらないか」と勧められた。スタンは「宿命だ!」と笑った!

感想:

スタンは二度と来ることはないと思っていたカーニバルに戻ってきて、「獣人ショー」に出演することになるという結末。因果応報と言うか、人を騙したつもりが騙されてのこの結末。アメリカン・ドリームに魅せられ、やってはいけない霊媒ショーに手を出し、元の木阿弥に戻った。

スタンは「獣人ショー」に出ることが決まって「これが運命!」と微笑むところがギレルモ・デル・トロ監督の真骨頂でした!我々を醒めぬ悪夢、出口なき迷宮へいざなうこの結末は怖い、ダークな映像で想像を絶する人間の闇を見ることができました。

我々も心しなければなりません。成功すると更なる欲に走る。スタンは人生で一番大切なものは何か?“金”かリリーか、愛するモリーかが分からなくなっていった。人生で最も大切なものは“愛”。これを守ることが大切なんですが、これに気付かない!

リリスの欲が権力欲であったことに注目です。彼女につけられた胸の傷、これこそが彼女の権力欲に繋がっていた。今日の女性運動に繋がるテーマです。

出演者皆さんの演技が凄かった!ブラッドリー・クーパー。無口で小心そうな男が次第に多弁になって欲に狂っていく、最後に獣人に堕ちて笑うという何を考えているのかわからない闇の男の表情がすばらしい。一方のケイト・ブランシェット冷たい美しさで見るからに毒を抱えているという演技は存在感がありました。そしてルーニー・マーラこんな暗い奇怪な世界のなかで人間の美しさをひとりで背負っているような無垢で輝くばかりの存在感、これもすばらしい!

アカデミー賞発表時期が近づいてきました。楽しみにしています。

                 ****