映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「リバー、流れないでよ」(2023)時間が流れないとどうなる!ヨーロッパ企画らしいコメディー!

 

「第33回日本映画批評家大賞脚本賞受賞おめでとうございます!

 

上田誠率人気劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画第2作目。“ヨーロッパ企画”となると、「四畳半タイムマシンブルース」(2022)が記憶にある。苦しめられ、難解だった記憶がある。(笑)

なぜ観るか?案内によると“冬の京都・貴船の名がある。これで観ることにしました。(笑)貴船神社に詣でて、蔵馬山に登り、霊感を感じ、牛若丸伝説にたっぷり浸かった記憶がまだ残っていた。(笑)

タイトルが良すぎる!リバーって何だ!貴船川だと思っていたら・・

 冬の京都・貴船を舞台に繰り返す2分間のタイムループから抜け出せなくなった人々の混乱を描いた群像コメディ

86分の尺なのに長く感じた!タイムループに嵌ったようだった。「四畳半タイムマシンブルース」ほどの衝撃はなかったが、ヨーロッパ企画らしい結末にスカッとした (笑)

監督:山口淳太、原案・脚本:上田誠撮影:川越一成編集:山口淳太、音楽:滝本晃司主題歌:くるり

出演者:藤谷理子、鳥越裕貴、永野宗典、角田貴志、酒井善史、諏訪雅、石田剛太、中川晴樹、土佐和成、早織、久保史緒里、本上まなみ近藤芳正

物語は、

京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で仲居として働くミコト(藤谷理子)は、別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを女将(本上まなみ)に呼ばれ、仕事へと戻る。だが2分後、なぜか先ほどと同じ場所に立っていた。そしてミコトだけでなく、番頭(永野宗典)や仲居(早織)、料理人、宿泊客たちもみな、同じ時間がループしていることに気づく。2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまうが、それぞれの記憶は引き継がれるのだ。人々は力をあわせてタイムループの原因究明に乗り出すが、ミコトはひとり複雑な思いを抱えていた。(映画COMより)


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あらすじ&感想

冒頭、猟師が雪の山道を蔵馬山へと消えていく。貴船神社を詣でた白いコートの美しい女性(久保史緒里)が赤い鳥居のある階段を下ってくる。美しい風景だ。

旅館“ふじや”では“モミジの部屋”に作家のオバタ(近藤芳正)と編集担当のスギヤマ(中川晴樹)が宿泊。スギヤマの激励でやっとオバタが「主人公が死んだ!」と書き始め、スギヤマが風呂に出掛けた。

ホトトギスの部屋”では会社の同僚らしいノミヤ(諏訪雅)とクスミ(石田剛太)が朝からしゃぶしゃぶで熱燗を楽しんでいる

女将が番頭に「今のところ客は2組、昼はこれで閉めよう!」と声を掛けた。厨房では料理長(角田貴志)が料理人のタクに「昼は先に行け!」と休憩を命じた。

女将と番頭、ミコトが客を送り出して女将がミコトに休憩を示した。

ミコトは貴船神社のお守りを持って貴船川の岸辺に立って祈る

貴船川の清冽な流れ、これが美しい。ミコトの表情が暗い!ミコトは旅館に戻って、デジャブの部屋を番頭と後片づけ。番頭の「サミットがあって駅でテロ、ここは安全だ。大学生の娘に彼氏が出来て会いに来る。これが心配だ」という話しにミコトは相槌を打っていた。

突然1、ミコトは貴船川の岸辺に立っていた変だという顔。

ミコトが旅館に戻り、番頭に出会って、デジャブの後片づけ。「サミットが・・」と同じ会話をする。

突然2、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトは旅館に戻り番頭とデジャブの部屋に。番頭が「2回目だ、おかしい」という。ミコトが女将に「誰もいないのに熱燗が戻っている」と訴えた。「おかしなことが起こっている」と駆けつけた料理人のエイジ(角田貴志)が「ループだ!」と声を上げた。そこに裸のスギヤマが現れた。(笑)「キャー!」の叫び声、ミコトが駆けつけると「鍋に銚子が戻される、分けわからん」と驚く仲居のチノ(早織)。(笑)

女将が「とにかく取り乱さない!沢山の困難に出会ったがループに出会ったことはない」と泣き出した。

突然3、ミコトが貴船川の岸辺にいる

旅館に戻ると女将さんが「相談に行く」と出かけ、番頭から「ホトトギスの部屋を見てくれ」と頼まれチノの一緒に顔出し。ノミヤとクスミが雑炊を食べていた。「時間が変になった!タイムループです」と伝えると「ずっと食べるのか?締めがしたい」と言う。ミコトらはそっと席を外した。(笑)

突然4、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノは熱燗を持ってホトトギスを尋ね「たっぷり飲んでください」と言うと「ここだけで起きているのか」とノミヤが聞く。「分からない!ゆっくり飲んでください!」。

突然5、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノと番頭はモミジの部屋に顔出し。オバタが「文章が消える」と混乱していた。(笑)タイムループを説明すると安心した。

突然6、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭がモミジの部屋に顔出し。作家のオバタが「文章が書いても消えるが大丈夫だ!締め切りがなくなった」と喜んでいる。(笑)

突然7、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭。少し休もうと休憩。番頭がスマホで確認して異変はここでしか起こってないと言う。そこにスギヤマが素っ裸で出て来た。(笑)

突然8、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭は風呂間に顔出し。スギヤマは「のぼせてしまう!外に出たい!」という。(笑)ミコトが「タイムループなんです。楽しんでください」と応えた。(笑)

突然9、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトが旅館に戻る。番頭が風呂に柚子をもっていくと奔る。チノが「トリガーがあるよね」と聞く。そこに冒頭の白いコートの女性が「車が凍結したらしい、車に詳しい人いない」と尋ねてきた。ミコトが「タイムループだから関係ない」と言うと「大変なんです!」と帰っていった。

突然10、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトが旅館に戻ると、料理人のエイジによるタイムループの説明会が始まっていた。「2分ごとに繰り返している。局所的な現象だ」と言う。

こうして幾度となくタイムループが繰り返される

料理人のエイジによって「発生地域は貴船周辺だけ。意識は続いている。感情を壊されないように。時間が進みだしたことを考えて出来るだけ破壊的な行動を控えるように」と注意がなされた。オバタから「糞したら、どうなる、戻るか?」と質問が出た。(笑)

作家のオバタはおかしくなって部屋から物を投げ、障子を破り出した

ホトトギスの部屋では仲の良かったノミヤとクスミがお互いの欠点を挙げて喧嘩が始まり止まらない。

この騒ぎに、部屋で休んでいたタクが貴船川の岸辺のコトミに「何が起こっている」と掛けた

何度かのタイムループを経て、ミコトがタクに「私が貴船川に流れないで欲しいと祈った、それでタイムループが起きた。タクが私の気持ちも知らずフランスに勉強に行くからよ」と喋った。これをチノが聴き、番頭に話した。

番頭らが「ミコトは超能力者だ」と逃げるミコトとタクを追う

ふたりは貴船川沿いの道を下流に上流にそして川を越え、これに猟師も加わって、はらはらどきどきで笑い一杯の追走劇。(笑)

オバタが「2分後には生き返ると」部屋から飛び降りた。(笑)これにはミコトもタクも驚いた。ミコトが「ちゃんと時間を動かします」とモミジの部屋に声を掛けた。オバタが「死の体験ができた」と喜ぶ。(笑)

貴船川の岸辺でミコトは皆さんに謝った。そして時を動かす祈りを始めた

 オバタは「連載がきついからこのままがいい」と言い、ノミヤとクスミは「会社に借金がるから時間が止まった方がいい。会社のきついことが忘れられていい」と言っていたが、ミコトの祈りで、オバタは「死んでみて妻の気持ちが分かった、書こうか!」と言い出し、ノミヤとクスミは「お互いに相談したいことがある」と部屋に帰っていく。みんなが未来に向かって動き出した。

料理人のエイジが「原因が分かった、物理的前哨だ」と皆さんと一緒に貴船神社に急いだ

そこで白いコートの女性に出会った。「サミットでタイムパトロールに来た。同じ時代にいるとパラドックスを防ぐために2分戻る」「ロケットのエンジンが凍結で止り、タイムマシーンが壊れて月に戻れない」と言う。(笑)

皆で燃料(ビール)を運びエンジンに注入し、猟師が猟銃射撃でエンジンが点火、ロケットは発進した!(笑)

皆が未来を誓った。ミカドは髪を切って“一度失恋したことにして”、3年後にタクがフランスから帰るのを待つことにした。

まとめ:

幾重にも繰り返されるタイムループシーンが長く感じられた!これがテーマだから“よく出来ていた作品”と言うべきか(笑)

ここで描かれる人情劇にくすくす笑った。あのロケットで月に飛ぶ結末には大笑い。ヨーロッパ企画らしいオフビートなSF作品だった!

京都の奥座敷貴船にいながらフレンチ料理の修行にフランスに行きたい料理人のタク。愛しいが故にタクの夢を止めたいミコト。ミコトが祈願した貴船神社のお守りの威力が効きすぎて起こったタイムループ。いや、月からやってきたタイムパトロールのせいだったという落ち!よく分からなかった!(笑)

イムループで自分に都合のいい生活が出来ると喜んだが、怠けた生活の苦しさを味わった。時が正常に戻り、苦しくても夢に向かう生活がいいと気付くエンデイング。ちょっと真ともすぎました!(笑)

ヨーロッパ企画のみなさんの演技、藤谷理子、早織さんのフレッシュな演技に好感が持てた。この作品のテーマにふさわしい。

貴船神社、赤い幾重にも重なる鳥居の映像、これをくぐってお参りしたい。“そうだ京都、ゆこう“の気分にしてくれました。次作はもっとオフビートが効いた作品を期待したい!

           ***

「アステロイド・シティ」(2023)宇宙人の出現で絆を取り戻す家族劇とこれを演出する舞台裏!

 

ウェス・アンダーソン監督といえば、私にとっては「犬が島」(2019)。あの色彩、絵の構図、ユーモア、テーマ性、日本通であることが忘れられず、映画COMの案内で、観ることにしました

ところが本作ちょっと違った。案内と違う

話が頭に入らず眠くなる(笑)監督作品だから何とか見終えようと何度も目覚めて挑戦し、やっと見終えました。(笑)

眠くなる原因はセリフが難しい上に話すスピードが速く、さらにセリフが多くて頭に残らない。翻訳に問題があり?とも思いました。(笑)もうひとつは映画案内に全く触れられていない、劇中劇とその舞台裏が描かれ、その繋がりが分からない。苦労しました!(笑)

さて観終えてしまうと、やはり監督作品は面白い!痛快でした

19050年代、砂漠で宇宙人との遭遇を描いたSFコメディですが、年代が映画「オッペンハイマー」に被り、核の匂いがプンプンする。どちらも難解だ!(笑)

さらに驚いたのは時代の匂いが今の時代に似ているということ。監督の製作企図はどこにあったのかなと妄想しています。

監督・脚本:ウェス・アンダーソン原案:ウェス・アンダーソン ロマン・コッポラ撮影:ロバート・イェーマン、美術:アダム・ストックハウゼン、衣装:ミレーナ・カノネロ、編集:バーニー・ピリング アンドリュー・ワイスブラム、音楽:アレクサンドル・デスプラ

出演者:ジェイソン・シュワルツマンエドワード・ノートンティルダ・スウィントンらアンダーソン監督作の常連俳優陣に加え、スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーらが参加。

物語は

1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーなど、参加者たちがそれぞれの思いを抱える中で授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽する中、子どもたちは外部へ情報を伝えようとするが……。(映画COM)

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。


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あらすじ&感想:

冒頭、劇中劇「アステロイド・シティ」を放送する“チャネル8“の司会者(ブライアン・クランストン)が番組紹介で「新作劇の創作過程を舞台裏から見ていきます」と作品紹介するシーンから始まる。「アストロイド・シテイは架空のドラマ。登場人物もキャストも空想、起きる出来事も作り話。テキストも空想。起きる出来事も作り話。でも、現代演劇の内膜を忠実に反映している」と。

このコメントな何だ?劇中劇より大切なのかも知れない

スタッフ、キャストの紹介があって、

アストロイド・シテイは人工87人の砂漠の町。座席12の軽食堂、ガソリンスタンドがひとつ、10棟のモーテル。核実験場があるが、5000年前の深さと直径が30mの隕石衝突クレーターがあり、これを観光施設にして天文台が設置されている。

落下記念日には毎年青少年から宇宙活動に貢献するアイデアを募集して“青少年ジュニア宇宙科学賞”を付与、最優秀賞には奨学金を贈呈することになっている。物語は1955年7月から始まる

劇は3章からなりカラーで適時、舞台裏がモノカラーで描かれる。

劇の開始

戦場カメラマンのオーギーが車で長男のウッドロウ(ジェイク・ライアジ)と三人の幼い姉妹を伴い、ウッドロウの宇宙科学賞受賞式に参加するためにこの町にやってきた。車の調子がおかしいのでガソリンスタンドでチェックすると廃車になった。義父のザック(トム・ハンクス)に迎えを依頼したがサックは不機嫌。というのは、オーギーは3週間前に妻を亡くしたが、いまだそれを子供たちに伝えておらず、ザックは子供を引き取れないこと。

オーギーは伝え方が分からず申し訳なかったと妻の死を子供らに話し「お爺ちゃんがいるから大丈夫!」と伝え、「ここにいる」と妻の骨壺を見せた。

オーギーを演じるジェーンズ・オールは脚本家コッラド・アープ(エドワード・ノートン)が見出した俳優で元は大工だった。ふたりはレズの関係にあった。

宇宙科学賞受賞者は5名で、他の受賞者たちも家族とともに、そして式典を見物する生徒たち、カーボーイたちもやってきて、町が華妬いてきた。

食堂でオーギー家族は女優のミッジ(スカーレット・ヨハンソン)とその娘ダイナ(グレイス・エドワード)に出会った。オーギーがいきなり食事中のミッジを、いつもの癖で、カメラに収め揉めたが、戦場カメラマンということで収まった。こうしてふたりのお付き合いが始まった。

授賞式が始まった。テーマは小惑星の日。1955年強いアメリカのために”と示されていた。

ギブソン元帥(ジェフリー・ライト)が、元帥は黒人、ここまで登りつめるための苦労を披露したのち、「諸君の脳と精神で未知の領域に踏み出せ」と挨拶した。その後、受賞者たちが各々自分の製作作品を説明、展示した。

ウッドロウは“天体への画像投影の研究”とその装置。ダイナは“燃料の宇宙線”とその物質。この他に航空誘導での成果“と空中散歩装置、・・等。

この後、町のツアー、そして食事会は始まった。

宇宙人は居るのかが問題になり、ギブソン元帥から応募作品から派生した特許及び発明品はアメリカ政府のものだという発言があった。

受賞者たちとその父兄の集いが始まった。ウッドロウは人見知りで仲間に加われなかったが、ダイナが仲間に引き込んでくれた。ウッドロウはダイナに魅かれていった。

ミッジを演じるメンセデスは劇団から抜けカリフォルニアに向った折、演出家のシューベルト(エイドリアン・フロディ)が「君が居ないと劇団が潰れる」と呼び戻しに向かわせ、連れ戻したのがウッドロウを演じる男だという。

オーギー家族とミッジ親子のモーテルが道路を挟んで向かいあった。ミッジが入浴前で、窓超しにオーギーを見つけ、脚本の離婚シーンを読みながら「写真撮って!」と誘う。オーギーがミッジのガウン姿を撮った。

オーギーの娘たちは道路に母親の骨壺を、お祈りしながら埋めていた

そこにお爺ちゃんのザックが現れ止めようとするが、孫たちの「私たちを虐めたら生贄にする」の言葉で、「いずれ牧場に連れ帰る」と止めた。ザックは妻を亡くし孤独で孫たちと一緒に暮らしたいと考えていた。

夜の天体観測会が始まった

ヒッケンルーパー博士(ティルダ・スウィントン)の指導の元天体観測会がクレーターで始まった。そこに宇宙船が出現し、ひとりの宇宙人が会場に降りて展示している隕石を奪って宇宙船で去って行った。このときオーギーが宇宙人をカメラに収めた。会場は大混乱。

宇宙船がグリーンの光の中で降下するシーンが美しい。これは演出家のシューベルトの工夫で出来たもの。彼は妻に三行半を言い渡されてもここが居場所と劇場に住みついて頑張っていた。(笑)

民兵が出動し町は厳戒態勢に入った

ギブソン元帥が「緊急措置計画X」で地球外惑星の知的生命体と不測事態が発生した場合の手順を示した。健康診断、心理テスト、FBIによる聞き取りが始まった。

ウッドロウとダイナはヒッケンルーパー博士の天文台で衛星を捜索していた

「盗まれた隕石がダミーだから、衛星は必ず現れる」と捜索していた。ダイナが「ママは鬱陶しい!地球外の方が楽だ」と言い、これにウッドロウが「俺も同じだ」と賛成した。(笑)

オーギーたちはモーテルに缶詰め状態だった

オーギーが窓から向かいのミッジに宇宙人の写真を見せた。ミッジは「それはいい、ヌード写真を見せて」と言う。(笑)ミッジは「いい写真」と褒め、自分が男たちから暴行を受けた話をして「貴方も戦場で傷を負いながらその痛みの深さを見せない。私と同じだ」という。オーギーが「そうだ!」と同調すると、ミッジの部屋をザックが訪ねていた。(笑)

ザックがオーギーに「孤独の中で学んだ。愛する人に純粋・誠実であることの大切さだ」と同居を勧めるが、オーギーは「かまわないでくれ!」と断った。

表彰者のひとり“宇宙散歩装置”を製作したリッキーが歩哨兵を騙して家族に事態を知らせニュースになった。

ここから第3章になるが、脚本家のコンラッドは劇団のゼミで「登場人物の皆が人生の心地よい眠りに訪れる幻覚的な神秘を体験させたいが描けない」と意見を求めた。

テーマは“人生の心地よい眠り”で最終章をどう締め括るか

男性団員が「マッサージ台で死ぬ役で終りまで本当に眠った」と発言。(笑)これには「睡眠は死ではない」と反論、団員たちで場面の外枠から入ってゆっくり夢の中に入る練習をした。ここは全く分からなかった。(笑)

ギブソン元帥がリッキーに「反逆罪だ」と言えば、リッキーは裁判で戦うという。ギブソン元帥の締め付けに反対して軍隊と衝突するものが現れてくる。

そんな中でオーギーとミッジはモーテルの窓越に会話をしていた

ミッジがオーギーを相手に苦手のセリフ練習を始めた。「壊れたものを壊す」とオーギーがト書きを読むと、ミッジが「壊してよ!」という。ミッジは電球を割った。ミッジが「昨日、窓から入るあなたをダイナが見た。あの子は口が堅いけど私たちは発展しない」と言う。オーギーがこれに反対しふたりは揉め、オーギーが側にあった電熱器を手で叩き火傷した。

ウッドロウはヒッケンルーパー博士の協力を得て、宇宙人を誘う投影像を送った。それに何の反応もなかった。

ギブソン元帥が奨学金付与者を定めるとクレーター会場に関係者を集めた。

そこに宇宙船が現れ宇宙人が降下し隕石を返して去って行った。隕石が破裂した。ウッドロウが自分の発明装置でその瞬間の隕石の写真を撮った。そこにはウッドロウとダイナの文字が付いたハートマークだった。(笑)会場は軍隊が衛星を追い大混乱となった。

ジェーンズはミッジと顔を合わせ「オーギーは何故火傷したのか、この芝居が分からない」と舞台裏に入り、演出家のシューベルトに意見を求めた。彼は「少し作り込み過ぎた。申し訳ない、役を超えてオーギーが乗り移っている」という。ジェーンズが劇場のベランダに出ると、カットされて出番がないオーギーの妻役の女優(マーゴット・ロビー)に出会った。彼女がカットされたセリフ「あなたに新しい母親がいると話した」という。

初日から半月ほど経ったころ脚本家のコンラッドは事故で亡くなっていた。しかし登場人物の皆が人生の心地よい眠りに誘われる幻覚を体験していたおかげで舞台は続けられていた。

ラストシーン、厳重隔離が解かれ、参加者がそれぞれ自宅に帰ることになった

オーギーはザックから「ミッジは元マネージャーと法科だ」と聞かされた。そして妻の遺骨は子供たちの「ママはここの土の中にいる」の願いで、ここに埋葬することにした。ザックも認めた。

オーギーは子供たちと一緒にザックの農場に戻ることにした。ウッドロウは奨学金を手に入れダイナのために使うという。オーギーにはミッジから私書箱の住所が教えられた。

まとめ

オーギーと子たち、義父のザックは一緒に住むことになった。やっと戦場カメラマンのオーギーが心に愛を、家族の絆を取り戻すことができた孤独を避けるというザックの願いも叶った。家族とは何かがしっかり描かれていた。

妻の遺骨のは子供たちがお祈りして土に戻し、深く母の愛を胸の中に仕舞いこんだ。死とはなにかも子供に分るよう描かれていた。特に子供たちの宗教心、母への想いがよく伝わる作品だった。何しろ3人姉妹の可愛らしさにはやられた。

舞台劇のテーマは脚本家コンバットが劇に託した“人生の心地よい眠り”。この意味はよく分からなかったが、オーギーの家族の物語を通して、こういうことなんだと理解した。

この作品にはもうひとつのテーマがある

舞台裏で描かれる脚本家、演出家の生き様、そして俳優たちの役割と絆。脚本家がなければ劇に精神は吹き込めない。演出家がなければ脚本家の精神は生きず、俳優も作品のもつテーマを表現できない。俳優たちの演技力とその持てる力をさらにアップさせるスタッフとの絆。

オーギーを演じるジョーンズ・オールはホモでありながら4人の父親役を演じるが最後に子供たちと一緒にどう生きていくかに迷う。カットされたシーンを演じた女優に会い、彼女のせりふを聞いて自分の演技が固まるシーンや脚本家コンラッドは亡くなっても彼の残した精神を頑なに追及す演出家シューベルトの演出など、劇に携わるみんなの協力で演劇が成立していく過程が面白く描かれていた。

スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーの演技が、最初誰か分からなかったが、ウェス・アンダーソン監督色に染まっているのもテーマのうちのひとつ、面白かった!

なぜここまで舞台裏を描いたか。Chat GPTの出現やハリウッドの最近の動きに危惧したのかなとも思った。

劇中劇のラストは観光で生きようとしたアステロイド・シティが宇宙人騒ぎで人が居なくなり核実験の町になる。ギブソン元帥の“強いアメリカ”演説、宇宙人対策はまるでトランプ元大統領の移民阻止対策だと思った。ということで“きな臭い”現在アメリカ社会を妄想した。(笑)

ポップで暖かい、ユーモアのある絵で、観ているだけで楽しめるが、やはりストーリーは分るとその良さが引き立つもっと分り易いものして欲しい!(笑)

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「オッペンハイマー」(2023)核のパンドラの箱を開けた男の栄光と没落!理論先行、結果後回しの罪!

クリストファー・ノーラン監督作品で、原発の父と言われるオッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。最も関心を持つ被爆国日本での公開が危ぶまれるというので心配していた作品。公開初日に駆けつけての鑑賞でした。

物語の背景となる政治状況や米ソ核競争を知らず、かつ厖大な人名の登場、さらに監督特有の時制を操る演出法に戸惑い、1回や2回の鑑賞で理解するのは無理だと思った。ということで、まともなものになっているかと危惧を覚悟に感想を書いてみました。間違っているところはご容赦を!

観るにあたって、広島・長崎の惨状を描かずに原爆の恐ろしさが伝わるか、惨状を見ないで苦悩するオッペンハイマーの根拠は何かという視点で見ましたが、全くの危惧に終わりました。もっと高い視点、科学に立脚した反核を訴える作品だった。国際的核管理を唱えるオッペンハイマーを、個人的な妬みで葬り去ったという事実。核の恐怖はこれを運用する人にかかっている。こんなつまらない私憤、その背後にある国家体制に恐怖を感じた。これこそが本作のテーマだと思ったアインシュタインが大きな役割を担っていたことに驚いた。(笑)

原作:2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「“原爆の父”と呼ばれた男の栄光と悲劇」、未読です。

監督・脚本:クリストファー・ノーラン撮影:インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、美術:ルース・デ・ヨンク衣装:エレン・マイロニック、編集:ジェニファー・レイム、音楽:「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。

出演者:キリアン・マーフィエミリー・ブラントロバート・ダウニー・Jr.マット・デイモンラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナーら豪華キャストです。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、神の火を盗んで人類に与えた男神プロメテウスにオッペンハイマーをなぞらえ、原爆の父と崇められる中で吐いた彼の言葉、ヒンドウ教の1節「我は死なり。世界の破壊者なり」から物語が始まる。オッペンハイマーとはいかなる人物か”を問う印象的なプロローグだ

いきなり1954年オッペンハイマーキリアン・マーフィ)のスパイ容疑を審議したAEC(原子力委員会)の聴聞会シーン(FISSIN:核分裂)がカラーで描かれ、オッペンハイマーが自らの人生をケンブリッジ学生時代からを語り始めると、1959年のストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)の商務長官適否を問うモノクロの公聴会シーン(FISION:核融合)に移り、ストローズがオッペンハイマーとの出会いを語りはじめる。

カラーはオッペンハイマーの視点、モノカラーはストローズの視点でオッペンハイマーという人物を捉える。そしてFISSNとFISIONの対決、すなわちウラン原爆を開発者で水素原爆に反対するオッペンハイマーと水素原爆を推進するストローズとの対決が描かれる。

オッペンハイマーが語る物語を主軸して、頻繁に1954年の聴聞会と1959年の公聴会を行き来しながら描くことで、複雑で分かり難い物語になっているが、サスペンスフルで、その結末はあっと驚くものになっている。エンターテインメント作品としてすばらしい伝記物語だ。

オッペンハイマーの大学生時代

ハーバード大学の化学学科を飛び級で卒業したオッペンハイマー(21)はケンブリッジ大に留学したが、実験が苦手で、厳しい指導の教授を毒入りリンゴを作って殺害しようとする。(笑)

ニールス・ボーアケネス・ブラナー)教授の講演を聞き、実験嫌いな彼はボアーの勧めで理論物理学を志しドイツのゲッチンゲン大に移る。ここで彼は人生で最高の友人となるオランダの物理学者イジドール・ラビ(デビッド・クラムホルツ)と出会う。原子構造を楽譜を描くよう数式で表現できる天才であったが、音楽、絵画、語学でもその才を発揮した。理論家というのがひとつのテーマになると思った。

23歳でカリフォルニア、バークレー校に助教授で迎えられた

原子物理学者のアーネスト・ローレンスジョシュ・ハートネット)と親交をむすぶ。一方で弟の素粒子学者フランク(ディラン・アーノルド)を通じてフランス語教授のシュバリエ(ディン・デハーン)ら共産党員と交わる。その中のひとり精神科医ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)に出会い、奔放なセックスで結ばれた。ここでのフローレンス・ビューの身体を張った演技は見ものだった!

彼は結果を考えないで行動に移る精神の持ち主のようだ

1939年に共産党員で植物学者のキティエミリー・ブラント)と結婚した。彼女は数度の結婚歴を持っていた。子供を出産するが子育ては苦手で、夫を支えて強く生きる女性だった。

実験家のローレンスと理論家のオッペンハイマー核分裂の原理を見つけ原子爆弾の登場を予測していた。実験屋のローレンスはノーベル賞を取ったが理論屋のオッペンハイマーは叶わなかった

1939ナチス・ドイツポーランド侵攻が始まり、ドイツの原子爆弾開発を恐れたアルベルト・アインシュタイントム・コンティ:アルベルト)は原子爆弾開発を大統領に進言した。ユダヤ人のオッペンハイマーはキティから「ローレンスではない、あなたの時代よ」と押され原子爆弾開発に携わることになった。

1942年、国家プロゼクトマンハッタン計画”に参加

原子爆弾製造を担うロスアラモス研究所の所長に就任した。就任に当たっては計画指揮官のレスリー・グローヴス大佐マット・デイモン)から秘密保全上の身体検査を受け、共産党員との接触はあるが、物理学者の能力が認められ所長に就任した。

大量の人が集められロスアラモスは町となり、工場施設は鉄条網で囲まれ、厳重な秘密保持が求められた。グローヴスはケネス・ニコルズ中佐(デイン・デハーン)に秘密保全を担当させ、実はオッペンハイマーも中佐の監視下にあった。

研究者の選定はオッペンハイマーに任された。彼は真っ先にラビを選んだが、ラビは倫理的に原爆を作ることに反対で辞退し、リンス・ベーテ(ダグラス・スカルドガルト)を推薦した。こうして選んだ理論物理学者のなかに後に水爆の父と言われるエドワード・テラーベニー・サフディ)、デヴィッド・ヒルラミ・マレック)らがいた。

テラーから「計算上、連鎖反応が止まらず地球大気をぶっ放すことになる」と提言され悩み、アインシュタインに協力を求めたアインシュタインは協力を断り、「可能性があるならドイツに教えて開発を中止せよ」と忠告した。その後、テラーが再度計算し“可能性はほぼゼロ”という結論を出した。

このことが理論物理学オッペンハイマーの重大関心事になっていった

 エンリコ・フェルミ(ダニー・デフェラーリ)の研究所で連鎖反応を見せてもらい、確信を持ってウラン爆弾を提案するが、テラーが水素爆弾を推奨し論戦となった。テラーには別の場所で水素爆弾を研究させることにした。

1943年になりオッペンハイマーはシュバリエに預けていたノイローゼの妻と子をロスアラモスに移した。この際、シュバリエからロシアへの情報供与を打診されたが断った。さらにジーンとの浮気の発覚、ジーンの死。研究員ジョヴァンニ・ロッシ・ロマニッツ(ジョシュ・ザッカーマン)のウラン秘密漏洩疑惑でニコルズ中佐に逮捕され、自らがFBIの防諜担当官ボリス・パッシュケイシー・アフレック)の尋問を受けるなどオッペンハイマーにとって不条理な秘密保全に関わる事案が起こった。

ここでも事の後先を考えず直感で走ってしまう性癖が出ている。

1943年のクリスマスにゴアーが訪ねてきた。「トイツより進んでいる。君はアメリカのプロメテウスになる」と警告して帰っていった。

1945年5月ナチス・ドイツ降伏。素内で爆弾開発停止の運動が起こった。デヴィット・ヒルが原爆製造中止請願書を持ってきたが、これを拒否した。そして「我々は理論家だ。戦争が終わるまでやる。核はルーズベルト大統領によって国際管理される。米国の戦争勝利に貢献したい」と所員を説得した。

原爆投下検討会?に参加したオッペンハイマーは核の効果を強調し「倫理の問題がある」と日本に告知することを付け加えた。京都を避け、広島ともうひとつの投下が決まった。

トリニテイ実験

ポッダム会議に間に合うよう実験日を7月16日に設定し準備に入った。弟のフランクを呼び寄せた。

当日の天候は嵐だった。この日を外すとポッダム会議に間に合わない。慎重に準備を進め、グランドゼロから16km離れた観測所で発火を待った。成功を妻に知らせる暗号は「白いシーツをしまえ」だった。

爆発を確認した!成功だった。直ちにポッダムに伝えられた。2発の原爆がサイパン島の米空軍基地へ送り出された。オッペンハイマーは「運用は俺たちの権限はない。思いもしない戦争になる」と側近に伝えた。

オッペンハイマーは原爆の広島投下を大統領発表ニュースで知った

 オッペンハイマーは英雄になった。タイム紙の表紙になった。

所員たちが成功を祝う席で「世界は今日を忘れない。しかし日本は嫌がっているだろう」と挨拶したが、喜ぶ所員の姿が被爆者に代る妄想に愕然とした。

オッペンハイマーは現場を見ないでも計算通りの惨状が見えた

 トルーマン大統領に招かれ労をねぎらわれたが、「私の手は血塗られている」と応えた。大統領はオッペンハイマーを下がらせ「あの泣き虫を二度とよこすな」と側近に漏らしたという。

長崎の被害状況の記録フィルムが上映された。オッペンハイマーはほとんど見ないで、黒焦げの遺体を踏む悪夢の中にいた。

オッペンハイマーは研究所を去ることにした

所員に「核が兵器に加わったら人類はロスアラモスを呪うだろう」と挨拶した。

1947年、プリンストン高等研究所所長となりAECのアドバイザーに就任

委員長のストローズからの紹介でプリンストン高等研究所の所長に就任するとともにAECのアドバイザーを6年間務めるがことになった。

ストローズがオッペンハイマーにこの役を依頼したとき、庭園に初代所長のアインシュタインの姿を認め、オッペンハイマーを紹介しようとすると彼が先に走り出て挨拶、なにやら話した。

ストローズが挨拶にと近づくとアインシュタインは不機嫌に去って行った。高卒で原子力の教育を受けておらず不安を抱いていたストローズはこのふたりは国の原子力政策を担う自分をバカにしていると捉えたこのことが1954年の聴聞会開催の大きな伏線となっていった。一方、オッペンハイマーはそのときのアインシュタインの驚きの行動にとんでもない恐怖を感じた。

オッペンハイマーはAECのアドバイザーとして国が進める水素爆弾開発反対し、アイソトープの輸出問題でストロープと対立していった。委員のひとり元空軍パイロットのウィリアム・ボーデン(デビッド・ダストマルチャン)が語ったドイツ軍のVロケット攻撃が原爆に結びついていった。

1954年、オッペンハイマーはスパイ容疑でAECの聴聞会が開かれた

ロスアラモス所長時代の共産党との関り、ソ連への情報漏洩がウィリアム・ボーデン(デビッド・ダストマルチャン:)により厳しく追及され、検察官ロージャー・ロブジェイソン・クラーク)により裁かれたが結論が出ない。マッカーシー赤狩り資料共産主義者の烙印が押され、原爆技術に関する秘密保持許可がはく奪され、AECアドバイザーの地位を追われた。その後、オッペンハイマーはAEC外で水爆反対運動を続け、物理学者らの賛同を得て行った。

1959年のストロークの商務長官就任適否の公聴会

米ソの核競争の中で、ストローズの水素爆弾推進姿勢への批判が起き、期せずして1954年のオッペンハイマー聴聞会審議が取り上げられ、裁かれた。その結末はデヴィット・ヒルの証言で思わぬ結末、オッペンハイマーをAECから追放するためのストローズが仕組んだ聴聞会であったとが判明したそしてストローズが漏らしたひとこと“俺をバカにした恨みだ”

まとめ

カラーとモノカラーで描かれるオッペンハイマーとは何者か

カラーで表現される天才の理論物理学者で先見性に富むが起きる結果読みの軽視。ケンブリッジ大時代のリンゴの話、女性関係がいい例だ。モノカラーで見る人への配慮の無さ。一筋縄でない人物伝、面白かった。

核分裂の学理証明を優先したトリニテイ実験だった。その結果について知っていたが疎かにし、そのつけで彼は苦しむことになった

1947年、アインシュタインと交わした会話がオッペンハイマーにとっての恐怖となった。

アインシュタインは「核の連鎖反応で地球の大気がぶっ飛ぶ」と協力依頼にきたオッペンハイマーを覚えていた。アインシュタインが「時が収まればメダルは貰える」と声を掛けるとオッペンハイマーは「やっちゃった」と話した。アインシュタインは恐怖で頭を抱えて逃げ出した。この姿を見たオッペンハイマーは「自分が開発した原爆技術が各国に核の連鎖反応のように拡散し使用され大気が破裂する!」恐怖に陥った。

冒頭近くでのアインシュタインオッペンハイマーの会話シーンで内容を伏せて、ラストに持ってきて明かし、国際的な核管理の必要性を説くこのラストシーンは見事だ。絵もすばらしかった!

広島・長崎の惨状を描く必要があったか

トリニテイ実験の描き方。爆弾が破裂した瞬間の閃光、世界は吹っ飛んだような静寂、その後のオッペンハイマーの苦悩。音楽と映像で見事に恐怖は伝わった。

さらに長崎の被害状況が上映されたときのオッペンハイマーの頭の中にある被害者の姿。この作品はオッペンハイマーの苦悩を描いた作品だからこれで十分だ。

キリアン・マーフィの演技。彼の自慢の帽子にパイプと端正な姿勢だけでオッペンハイマーのすべてを演じていた。

ストーリー、映像、音楽、テーマ、演技とよくできた作品。1回や2回では消化しきれない!

            *****

「波紋」(2023)不条理の始まりは原発事故!それを赦し我慢、我慢で堪え、その先に見えたものは!

 

荻上直子さんの監督・脚本作品。震災、老々介護、新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に次々と翻弄される家族の姿を描いた人間ドラマ。(映画COM)

前作「ムコリッタ」は孤独をテーマにほっこりしたユーモアたっぷりの物語で楽しめましたから、今回も期待して観ることにしました。ところが少し違っていた!私には主役の奥さんが怖かった。(笑)

監督・脚本:かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」「ムコリッタ」の荻上直子撮影:山本英夫編集:普嶋信一、音楽:井出博子。

出演者:筒井真理子光石研磯村勇斗安藤玉恵江口のりこ平岩紙津田絵理奈木野花、他。

物語は

須藤依子(筒井真理子)は「緑命会」という新興宗教を信仰し、祈りと勉強会に励みながら心穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、10数年前に失踪した夫・修(光石研)が突然帰ってくる。自分の父の介護を依子に押しつけたままいなくなった修は、がんになったので治療費を援助してほしいという。

さらに息子・拓哉は障害のある恋人タマミ(津田絵理奈)を結婚相手として連れ帰り、パート先では理不尽な客に罵倒されるなど、自分ではどうしようもない苦難が次々と依子に降りかかる。湧きあがってくる黒い感情を、宗教にすがることで必死に押さえつけようとする依子だった。依子に幸せと思える時間がやってくるのか。


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あらすじ&感想

物語は修が出奔したところから始まる

依子は夜、舅を徹夜で介護。朝、カーテンを開けて夫が手入れした立派な花壇を見た。依子と修は会話がなくなっていた。テレビで「原発事故による汚染で飲料水に水道を使うな!」というニュースがあったその日の夕方、会社から戻ってきた修はこのTVを観て、花壇を手入れして消えた。依子の怒りが爆発した。

依子の胸に怒りの波紋が広がった

 この後、依子は舅の介護を施設に送り、スーパーのキャッシャーとして働き始めた。舅がなくなり遺産を相続して家を改築、庭の花壇を枯山水の庭に替え、砂で波紋を描き、毎日これをきれいに描く。(笑)陳家の猫が入ると抗議する。

信仰宗教団体“緑命水”会に入信し、日々を宗教の教えで生きることにした

「信仰があれば恐ろしいものはない」と自己犠牲の精神を守る教えを信じた。支部長宅で説教を聞き、信者たちと歌い踊る。自宅は“緑命水”の水瓶で溢れ、祭壇に水晶玉を戴き、出勤帰宅時に祈りを捧げている。

そこに10数年ぶりに夫修がみすぼらしい恰好で戻って来た

お腹が空いているというので食べさせた。すると「癌だ!」と告白し「最期は君のところだ!」としゃあしゃあと喋る。依子は宗教の教えに従い夫を家に置いてやることにした

出勤時、隣の猫が枯山水の庭を荒らすと、しっかり砂の波を描き直す。(笑)

自転車での出勤時にはタンタカタカタ、タカタカタンタタと胸騒ぎがする。これも波紋に次ぐ怒りの印だ。(笑)

仕事に就くと卵が割れていると難癖をつけ「値段を半額にせよ」と迫る男(柄本明)がいる。嫌なこと重なる!我慢!嫌の毎日が続く。依子は清掃員の水木(木野花)に相談すると「殺してしまえ!辛いときは水泳がいい」という。(笑)

修は家の登記書はどこにあるかと捜し始めた

依子が帰宅すると夫が水晶玉に触った形跡を発見し、一気にこれで殺したい感情になったが思い留まった。(笑)

支部長に相談すると「人を憎むと憎み殺される。夫を赦すこと。他者に寛容で犠牲になれる香水がある」と勧められ、高価な香水を買った!(笑)

修が病院で見てもらうのでつき合ってくれという。プールで水木に会って話をすると「我慢してはダメ、仇を取れ!」という。依子の心はタンタカタカタ、タカタカタンタタだった。(笑)

依子と修は波紋の中で話し合った。

依子は「名義は義父が亡くなる前に自分のものに書き換えられた。このお金で緑命水を買った。緑命水ならあなたを救える」と持ち出すと、修は「助けて欲しい」と依子の言うことに従うことにした。(笑)

緑命会のホームレスたちを救うチャリテイで、

焚き出しになんと修がホームレスの列にいた。修はプレゼントされた弁当を喰っているとそこにホームレスの男(ムロツヨシ)が近づき「あんた雄カマキリだ。雌カマキリに喰い殺されるぞ」と脅す。(笑)

修は依子に「ホームレスを助けて、俺はどうなる?」と抗議した。依子は「薬代は持つ、その代わりに教会の礼拝に参加して!」と求めた。

治が礼拝に参加し「妻の姿を見て、信仰で救われるとはこういうことかと加感謝した」と挨拶した。これが信者たちを感激させた。(笑)そして依子は近所の時の人になった。(笑)

修の癌治療が始まった。

3回に分けて投薬が始まった。各々に150万円かかると言われ、450万円を支払うことにした。投薬には一滴ごとに勘定した。(笑)

水木は「念じだけなら罪にはならない」と言う。依子は自宅の“お水様”に祈った(笑)

息子の拓哉が聾の彼女タマミを伴って立ち寄った

拓哉は依子が信仰を始めて、これを見るのが嫌で九州の大学に進学、職を得て、タマミと同棲している。東京出張でタマミを伴って上京した。拓哉は修を赦せないらしい。

依子はタマミが聾で6歳年上と知って受け入れられなかった。タマミはこんな依子に明るく接する。偏見をぶっ飛ばすような津田絵理奈さんの快演で笑った!

依子がタマミの東京見物に付き添った。依子はどうしてもタマミを息子の嫁として受け入れられず「別れて欲しい」と言い出した。するとタマミが「お母さんが別れろと言ったら言え」と言った拓哉の言葉「二度と家に帰らない!あの人は頭がおかしいから何を言われても気にするな!」をにこやかに伝えた。(笑)依子はタマミを教会に連れて行って教会の皆さんに紹介した。

帰宅して波紋の中で依子、修、拓哉、タマミが話し合った

依子が修に「あなたは原発事故のとき家族を捨てて逃げて、癌になって帰ってきた」と波紋を起こし、修がこれに反発した。拓哉は「タマミと結婚する」と波紋を起こした。依子の「許さない!」に拓哉は「お父さんは放射能を浴びて母さんから逃げた」と答えた。タマミが「妊娠している」と告白した。

依子は枯山水の波紋を消した。妙子には新しい家族の姿が見えてきた。

サウナで依子が水木に息子に騙されたことを話すと「どこかで皆そう思っている」と言い「自分の息子は家に帰ってこない。亀が救いだ」と話した。依子は帰宅し枯山水の砂に波を描き「椰子の実」を歌いながらその波紋を消した

そんなある日、プールで泳いでいて水木が倒れて入院した。依子は亀の面倒を頼まれ水木のアパートを訪ねると、亀は生きていて、亡き夫の祭壇があるが、部屋の中はゴミだらけだった。これを見た依子は「水木の心は今だに震災の中にある、」と泣いた。水木の許可を得てこの部屋をきれいに掃除させてもらった。

スーパーに出ても、あの嫌な男が「これ傷だ!」と言っても腹が立たなくなった。(笑)

修が枯山水の庭を見ているとカマキリが岩山に張り付いていた。(笑)これに水をかけようとして倒れた。そこに依子が戻ってきた。

教会で顔色の悪い依子に支部長が「特別な玉名水だ、癌に利く」と高価な水を勧められた。依子は買わないで、家に戻って砂の波紋を書いた。(笑)

修のベッドには息子の拓哉が付き添っていた。拓哉が「枯山水は水を使わず水を表現する。存在しない水だから面白い」という。修は「ないのにある、あるのにない」と応えた。拓哉が「父さんが居なくなったあと、母さんが雨の中、庭に出て花を抜いて笑っていて怖かった」と言った。修は「さっさと死ぬ」と答えた。

修が亡くなった。葬儀屋さんが修の棺を霊柩車に乗せようと枯山水の庭に出たところで転んで棺から修の腕が出た。(笑)依子が「もういい加減にして」と笑った!依子の心に波紋が広かった。

九州の戻る拓哉が「昔やっていたフラメンコ踊って見たら!」という。依子は喪服の下に赤いドレスを着こみ、砂の波を消し、タンタカタカタ、タカタカタンタタと手拍子でフラメンコを踊った。タンタカタカタ、タカタカタンタタの音はフラメンコのメロディーだった。おこに天気雨、依子の新しい生活へのスタートだった

まとめ

原爆事故という災害のせいで家庭崩壊の憂き目にあった依子。それだけではなかった。舅を看取って、宗教で救われたと思ったが、家族を捨てて出て行った夫が癌を患い戻ってきた。これを許し、堪えに堪えて見送りできた。息子の拓哉に聾の嫁、親友の水木に救われた。ラストシーンの狂ったように雨の中、枯山水の上を喪服でフラメンコを踊る依子の姿に、全てをリセットし新しい人生へのスタートと見た。

ブラックな笑いが満載だった。それに水の波紋、タンタカタカタ、タカタカタンタタの音に枯山水で描く依子の心象。ラストのフラメンコ、これは見事だった。

 筒井真理子さんの演技に怖い人なのか優しい人なのか、我慢!我慢!の姿がよく出ていたが、夫に向ける視線が怖かった。(笑)

地震災害で我先にと妻のことを忘れる人がいるらしい。こうならないよう肝に銘じておかねばなりませんね!(笑)

           ****

「デューン 砂の惑星 PART2」(2024)ストーリー、映像の美しさ迫力がグレードアップ、次作を期待!

 

期待していた作品、1週間遅れで観ました。この間にたくさんのレポートが出ており、感想も今さら感がありますが、自分のメモということで書いてみました。本作は第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアドベンチャー大作「DUNE デューン砂の惑星」の続編です。

原作:ハーバートのSF小説(1965)、未読です。監督:「メッセージ」レードランナー2049」のドゥニ・ビルヌーブ脚本:ドゥニ・ビルヌーブ ジョン・スパイツ、撮影:グレイグ・フレイザー美術:パトリス・バーメット、衣装:ジャクリーン・ウェスト、編集:ジョー・ウォーカー、音楽:ハンス・ジマー

出演者:ティモシー・シャラメゼンデイヤレベッカ・ファーガソンら前作のキャストに加え、「エルヴィス」のオースティン・バトラー、「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のレア・セドゥが新たに参加。

あらすじ

“その惑星を制する者が全宇宙を制する”と言われる砂の惑星デューンで繰り広げられたアトレイデス家とハルコンネン家の戦い。ハルコンネン家の陰謀により、たった一日の戦闘で、一族を滅ぼされたアトレイデス家の後継者ポール(ティモシー・シャラメ)と母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)はアラキスの首都アラキーンを脱出し、砂漠の民フレメンの作戦拠点タブールのシエチ(群居洞)に身を隠した

ここで生きると決めたポールはフェレメンのリーダー・スティルガー(ハビエル・バルデム)に守られ、女性戦士チャニ(ゼンデイヤ)と心を通わせながら、フレメン戦士へと成長していく

母のジェシはスティルガーに請われってフレメンの教母となり、ポールを救世主へと導いていく。

ポールはフレメン兵士としてハルコネンのスパイス採取阻止の戦を繰り広げ、その成果でフレメンの兵士名ポール・ムアディブ・ウス―ルとなり、砂虫を自由に操れるフレメン兵士(フェダイキン)となった。さらに、母ジェシカの導きで救世主として民を率いることになった

一方、宿敵ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)は甥のラッパーン(デイヴ・バウティスタ)の統治能力に不満でもうひとりの甥フェイド=ラウサ(オースティン・バトラー)を次期男爵に据え、新たな支配者としてアラキスに送り込んだ。

因縁のアトレイデス家とハルコネン家の戦いがポールとフェイドの手に移るが、両家の戦が皇帝の陰謀であったことが明かされ、宇宙帝国の権力闘争へと発展していく。はたしてポールは予言されたごとく帝国皇帝クウイサッツ・ハデラックになりうるのか。


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感想

冒頭、アトレイデス家とハルコネン家の戦いが、たった1日で終り、ハルコネンの兵士が大量のアトレイデ兵の死体を積み上げ火炎放射器で焼却を始めた。

前作のラストから数時間後から物語は始まる

〇前作に比しての本作の特性は

前作はアトレイデス家とハルコネン家の戦いだったが、敗者のアトレイデス家の後継者ポールがフレメンの救世主として出現したことで、フレメンとハルコネンの戦いがハルコネン男爵の野望により、皇帝を巡る権力闘争となっていく “物語の壮大さだ”。物語の空間(戦場)は広大し、新たな戦法・兵器が出現、前作に比して見るべきところの多い作品になっていた。前作同様映像が美しい、どのシーンも頭に残るという、上映時間166分を長尺と感じさせない作品だった。

〇ポールの救世主への成長とチャニとの悲恋の物語だ。

ハルコネンとの戦闘で敗者となったポールの生きる場所はフレメンの中にしかなかった。スティルガーが予言を信じ、赤ポールは救世主になる人だと認めても、フレメンの民は誰も信じない。砂漠のサバイバル術や砂虫に気付かれない砂歩きを体得し、大型の砂虫を操縦できるフレメン戦士となったティモシー・シャラメの顔は精悍さに溢れてきた。

こんなポールを支えたのがチャニ。サバイバルの知識、砂歩きを教え、ふたりで戦場に立ち、ハルコネン兵士に立ち向うことでふたりは強く結ばれていった。

しかし、ポールは常に“救世主になると多くの犠牲者が出る”という恐怖があった。チャニと恋に落ちてからは、彼女を失うという悪夢に苦しむ。ポールの苦しむ表情にチャニもまた苦しんだ。

ジェシカから救世主になるための“命の水”を飲むことを勧められるが、ポールは母の誘いに乗らなかった。しかし、ハルコネン軍の指揮官がフェイドに代り、戦傷者の増大に苦しめられ、悩んだ末に、フレメンの民のために何をなすべきかと自分に課せられた運命を考え、“命の水”を飲む決心をした。

フレメンの故事にのっとり、ポールは“命の水”を飲んで一度死に、チャニの涙で蘇生した。それほどに深いふたりの絆だが、救世主の出現にフレメンの民は歓喜したが、チャニはこれを喜ばなかった。

ポールは皇帝の地位を掛けて皇帝シャッダム4世(クリストファー・ウォーケン)に戦いを挑み、皇帝の代役フェイドと決闘し皇帝の座にものにするが、チャニは喜ばなかった。退席し砂漠で砂虫を呼び寄せて泣いた。この姿が切ない!これがラストシーンとなるので後味が悪い!本作はチャニの出現に始まって、チャニの涙で終る、チャニの物語でもあるんだ!ゼンデイヤの精悍で憂いのある演技が素晴らしかった!

〇ポールの存在が脅威となり皇帝の座を巡る壮大な権力闘争物語になっていく。

ハルコネン男爵は甥のラッパーンを無能とみなし、もうひとりの甥のフェイドの能力をアトレイデス家戦士と戦わせて試した。古代ローマの競技場を模した競技場での壮大な決闘シーンだった。

フェイドは人を斬ることになんの感情もないサイコパスだったサイコパスを血のない人間として、フェイドが関わるシーンはモノカラーで描かれる

ハルコネン男爵はフェイドに2年後男爵位を譲渡すると約束し「皇帝の陰謀を明かせば全大領家からしっぺ返しだ、これでお前が皇帝だ」とアラキスの統治者として送り出した。サイコパスとしての狂気を演じるオースティン・バトラーの怪演がすばらしい!

皇帝ジャッダム4世はポールの生存を知り精鋭部隊サーダカーをアラカスに送りポールを葬ることにした。アトレイデス家抹殺を皇帝に進言したモヒアム教母は「フェイドを皇帝の後継者とする」と皇女イルーラン姫(フローレンス・ピュー)に指示した。

そして、教母マーゴット(レア・セドゥ)がフェイドの子を孕んだ

一方、ベネ・ゲセリット出身の教母ジェシカはポールを産み、今は亡きレト侯爵の子を身ごもっていた。ジェシカは生きるために“命の水”を飲みフレメンの教母となり過去を見る力を得た。そこで自分の父親がハルコネン男爵だと知った。ポールも知った。ポールはハルコネン男爵の甥にあたる。ポールとハルコネン男爵の戦いは叔父と甥、ポールとフェイドの戦いはハルコネン男爵の甥同志の戦いという同じ血縁の中での戦いとなる。

ジェシカ役のレベッカ・ファーガソンは悲劇の中から立ち上がりフレメンの教母となり顔にフレメンの文字を入れ墨して妖気を漂わせ、ポールとお腹の子のふたりで皇帝の座を狙う気丈な女性をうまく演じていた。

となります

帝国皇帝の座を巡るシャッダム4世、ハルコネ男爵(フェイド)、ポールの三つ巴の争奪戦が始まった。これが数千年にわたり遺伝を操作して救世主を出現してきたベネ・ゲセリットという女性の結社(教母)の思惑で行われるところにこの物語の世界感がある。

〇ポールが皇帝の座に就くための戦略・戦法の面白さ。特に原爆の運用。これは今の時代に繋がる問題だった

フレメンの戦法は砂虫を操って敵を混乱し、この敵を砂漠に身を隠していたフレメン兵が飛び出し刺殺するゲリラ戦法だった。この戦法で成果を上げたが損害も多かった。ポールはスパイス密輸団討伐戦でアトレイデス家の師ガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)に再会し、アトレイデス家が秘密裏に原爆92発を保管していることを知った

この力を得て、ポールは母の勧める“命の水”を飲み救世主となり、フェレメンの戦法と原爆で皇帝の地位に挑むことにした。

フレメンの戦闘に有利な地、首都アラキーンに、砂漠の砂嵐の時期に合わせ、皇帝を呼び出すことにして手紙を送った。

皇帝は巨大な宇宙船で大軍を携えやって来た。フレメン軍は、皇帝の宇宙船を攻撃できるよう各戦闘部隊の配置につけた。大規模な砂嵐で重要施設が吹っ飛び、精鋭のサーダカー兵たちもフレメンが仕組んだ砂虫起振装置(サンバー)の発見に苦しんだ。そこに巨大な大量の砂虫で攻撃を掛けて混乱させ、混乱したサーダカー兵を砂漠に身を隠していたフレメン兵が襲い勝利した。壮大な戦闘パノラマだった。こんな映像は滅多に見られない!(笑)

勝利したところでポールたちが宇宙船に乗り込む。ポールがハルコンネン男爵の首を剣で刺し、殺した。ポールは皇帝シャッダム4世との戦いに挑む際、チャニに「命ある限り、君を愛する」と伝えた。皇女イルーランに結婚を申し込み、皇帝に決闘で決着を求めた。この際、諸大領家に対して「アラキスを攻撃するなら原爆でスパイスを焼き払う」と牽制した。

フェイドがシャッダム4世の代役を務めることになり、フェイドとポールの死を賭けた決闘でポールが皇帝の座にものにした。決闘シーンはいずれが勝つか分からない迫力あるものでよく出来ていた。

ルーラン姫がシャッダム4世の助命を求め、ポールはこれを認めた。ジェシカがモヒアム教母に「あなたは間違った側に付いた」と声を掛けると「敵も味方もない」と言い返した。チャニは黙って砂漠に向った。

まとめ

ポールは皇帝の座を得たが諸大領家の承認は得られていない。モヒアム教母の曖昧な態度も不気味だ。さらに教母マーゴットがフェイドの子を孕んでいる。皇女イルーランも妻となったがその行動も読めない。あまりにもチェニが不憫だ!(笑)これで終りと言うことはない。次作を期待したい。

本作は砂漠の中で原住民とそこへ入植した部族との闘い、原爆による威嚇など今の世界に繋がるところがあり興味深く観ました。

      *****

「ザ・ホエール」(2022)人生って懺悔だらけだ!最期はこういう死であって欲しい!

 

死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描くというA24 作品以下肥満症の男をデブと呼びますが、他意はない、ご容赦のほどを。

いかなるホラーを見せてくれるかと思ったら全く違っていた。長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれていた。泣けた!まさかのA24 作品だった。(笑)

原作:劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇。小説“白鯨”がメタファーになっているが、未読です。

監督:ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー脚本:サム・D・ハンター、撮影:マシュー・リバティーク美術:マーク・フリードバーグ ロバート・ピゾーチャ、衣装:ダニー・グリッカー、編集:アンドリュー・ワイスブラム、音楽:ロブ・シモンセン

出演者:ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、サマンサ・モートン、タイ・シンプキンス。

物語は

40代のチャーリー(ブレンダン・フレイザーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)に助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリー(セイディー・シンク)に会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。(映画COMより)

第95回アカデミー賞フレイザーが主演男優賞を、メイクアップ&ヘアスタイリング賞とあわせて2部門を受賞。


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あらすじ&感想

田舎町。バスからひとりの男性が下車。とぼとぼと歩き出した。この町にやってきた新興宗教ニューライフ教の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)だ。

オークリー大学遠隔指導プログラムの講師・チャーリーが自宅のカウチソファーに272kgの身体を沈め文学表現について講義中。モニターの講師映像には姿を見せず、「文章を書くポイントは明確で説得力のある文章を書くことだ。推敲を重ねるといいものになる」と講義中。この言葉は耳に痛い!(笑)

物語は月曜日から始まる

月曜日

チャーリーは講義を終え、エロビデオを観ていてリモコンを落とした。(笑)慌ててリズを呼ぶが不在。リモコンを捕獲棒で取り上げるのに苦しむ。この姿を見るのが辛い!そこに現れたのが宣教師のトーマスだった。

チャーリーは読みかけのエッセイをトーマスに「読んでくれ!」と渡した。トーマスは何が起きているのか分からず「見事な小説“白鯨”で語り手のイシュメールが海での体験を話す。・・・」と読み始めた。読み終わって「これ何ですか?」と聞くと、チャーリーは「エッセイが俺の仕事だ。オンライン講座で教えている」とだけ答えた。

そこに看護師のリズが部屋にやってきた。ニューライフ教宣教師がいることを怒った。そして血圧を図り「上が238、下が134、悪化している。うっ血性心不全。このままでは週末までに死ぬ」とチャーリーを責めた。チャーリーが歩行補助器でトイレに入った。その間にリズは「幼い頃ニューライフ教会に養子に出されたが最悪だった。チャーリーの恋人(アラン)もこの宗教に殺された。彼は終末論など信じない」とトーマスに退去を命じた。

リズはチャーリーに「病院に行って!」と忠告するが拒否される。「行かないならナイフで刺す」と脅すが、チャーリーが「食べたい」と言えば好物を与え、チャーリーが愛しいようだ。

チャーリーは“白鯨“のエッセイを読み返した。

「語り手はイシュメールと名乗る。彼は小さな海辺の町にいる。一人の男と同宿している。名はクィークェグ。ふたりは教会に行く。その後、ふたりは船で旅立つ。船長は海賊のエイヘブだ。船長は片足がなくある鯨を殺したがっている。モビーディックだ。白い鯨だ。この本の中でエイハブは多くの困難に遭う。彼の人生はその一瞬の鯨を殺すこと。悲しいと思う。何故なら鯨は感情がない、ただ大きいだけの哀れな生き物だ。エイハブのことも気の毒に思う。彼は自分の人生が鯨を殺せばよくなると信じているから。でも実際はどうにもならない・・・」と書かれていた。チャーリーはこれを読み「自分の人生を考えた、考えた、考えた」と繰り返した。そして娘エリーに「会いたい」と伝えた

火曜日

チャーリーは配達されたピザ2枚を喰って、PCで病名と血圧で検索しステージ3の症状でsると確認した。結果は「入院せよ!」だが、チョコレートをばりばり食べて、髭剃りをしていた。そこに、

エリーが「将来、私もこうなるの」と現れた

チャーリーは8年ぶりに会った娘の美しさを喜び{ママは元気?学校は?}と聞いた。「停学中よ、8歳で捨てて、学生と一緒になった。来たのが間違いかな!」という。「卒業しよう」と勧めると、「1科目でも点を取れば卒業できる」という。チャーリーは「手伝いうから俺のためにエッセイを書いてくれ、一流になれる。それに12万ドルを渡す」と提案した。エリーは「帰る!」と帰り始めが、止まって「ここまで来たら書く!」という。チャーリーは立ち上がって歩き始めたが、転んだ。エリーは帰って行った。

そこに「カンビ-ノ」とピザ配達員が声を掛け、安否を確認してピザを郵便受けの置いて帰った。

リズが戻ってきてエリーが来たことを知り反対した

リズはエッセイを見て、エリーがここに来たことを知った。チャーリーはPCでエリーのホームぺージを開き「友人がいなく孤独だ、死んだ犬の写真なんか貼っている。輝きがない。宿題を手伝う」と言った。リズは「8年も別れていて、母親もいる。若い子特有の不安定な感情よ、この身体で宿題を手伝うのは無理」と反対した。チャーリが食べ物で喉に詰まるとリズが彼の背中に乗り掛かり叩いて吐かせる。リズの献身的にチャーリーを介護していた。吐いた後、リズはそっとチャーリーに食べ物を渡す。

水曜日

チャーリーは学生たちにオンラインで「文章の書き方を教えてきたが、一番大切なのは書き手自身の発想や分析に基づかない文は意味ないこと。よく考え、書き、推敲して主張の真実性に向かうこと」と抗議しラインを切った。

チャーリーは全力でエリーに付き添うことにした

尋ねてきたエリーとエッセイの題材について話す。チャーリーはホイットマンの“ぼく自身の歌”を提示したがエリーが「長くてひつこくて、繰り返しばかりよ。比喩ばかりで深みがなくバカらしい。19世紀のろくでもないカマ野郎だ!」と反対し(笑)、「“定義の炸裂”で書いて欲しい」という。チャーリーはひとりで書くと伝えた。チャーリーは男子学生(アラン)と恋に落ち、家を出たことを話した。エリーは8歳だったが、このことを知っていた。

チャーリーは「今あるこの詩について考えを書いて欲しい!思ったまま本心を書いて欲しい」と言ってトイレに立ち、洗面所で泣いた!エリーが描き始めていた。

そこにニューライフ教宣教師トーマスがやってきた

トーマスが「チャーリーがニューライフ教に興味を持っているので資料をもってきた」と言う。エミーは「宗教が面白いのは、人間はみんなバカだと思っている。それでイエスを信じる者は優れていると思っている」と批判した。エミーはチャーリーに「明日までに書ける!」と伝え、トーマスの名前を確認し自分の名を教えて帰っていった。

トーマスがチャーリーに“終末論”を溶き始めた。

チャーリーは「知っている」と勧誘を断るが、トーマスは「ここのドアを叩いたのは神の御導きだ」と引き下がらない。チャーリーは「君はタイプでないが正直に言ってくれ!俺は悍ましいか?」と聞いた。トーマスは「いいえ、力になりたい」と答えた。チャーリーは部屋のドアを渡した。そこにリズが車椅子を携えて戻ってきた。

リズが戻ってきてトーマスにチャーリーとニューライフ教との関りを話し、退去を求めた

チャーリーは車椅子を喜んだ。リズはトーマスと部屋を出て、ベランダで話し合った。

リズが「兄アランはニューライフ教の宣教師で南米に渡ったが、父親に同じ宗教の人と結婚するよう迫られ帰国した。しかし、チャーリーと恋に落ち、教会と家族から追い出された。教会のことを忘れようとしたが出来ず、自死した。チャーリーの最愛の人は私と兄のアラン。チャーリーの救いにあなたは必要ない。数日でチャーリーは死ぬ。あなたは不必要」と話した。トーマスは帰っていった。

このあとリズは夜勤に出掛けた。チャーリーはピザの配達を受け、TVの大統領選挙報道を見て、エリーが描いたエッセイを読んだ。

鯨の描写の退屈な章にうんざりさせられた。話し手は自ら暗い物語を先送りする。すこしだけ、このアパートの匂いは臭い!みんな大嫌いだ」と書かれていた。

木曜日

チャーリーは訪ねて来たエリーに続きを書くことを促すが描かないという。チャーリーは自分が家を出て何があったかを聞いた。エリーは「ゴミのように捨てて出て行ったが、大事なことを教えてもらった。せめてお金を送って欲しかった」という。チャーリーは「金はママに送った。君はすばらしい娘だ、最高の娘だ」と褒めた。チャーリーはサンドウイッチを食べ、エリーの差し出す薬を飲んで眠った。

エリーがチャーリーの眠る姿を写真に撮っているところにトーマスが訪れた

エリーはトーマスに大麻タバコを吸わせて写真を撮って、何故薬を飲ませ写真を撮るかを明かさず、「友情が芽生えたから・・」と告げてトーマスの本心を語らせた。

トーマスは「大麻を吸った罰として父親によりニューライフ教に入れられた。パンフレットを配るだけで嫌になり、金を盗んで逃げ出した。この金で布教しようと思ったが金がなくなり、ここに辿りついた。どうすればいい?」と語った。エリーはアランのサインがある教書をトーマスに渡し、「アランはこれで亡くなった」とアランがマーキングした箇所を読ませた。

そこにチャーリーの妻のメアリーがリズに伴われて現れた

リズは目覚めたチャーリーを見て「あの娘は危なかった!」という。エリーが「たった2錠よ」と否定した。メアリーがいきなりチャーリーに「お金いくらくれる」と聞いた。エリーは「あなたなんか気にもしてない!早く死んで!」と言って部屋を出て行った。

チャーリーとメアリーはエリーの教育のことで言い争った。

メアリーは「あの子はただ反抗的だと思っていたが邪悪な子だ」と言う。チャーリーは「そうではない」と言い、ふたりの想いには食い違いがあって批判し合うが次第に邂逅していった。メアリーが「9年ぶりで聞きたい」とチャーリーの心臓に耳を当てて心音を聞いた。チャーリーは幸せだった頃のオレゴンの海水浴を思い出していた。

チャーリーは「俺は死ぬ、エリーは俺の人生で唯一の正しいことなのだ」とメアリーにエリーを託した。メアリーは帰っていった。

チャーリーは学生に「エッセイなんか忘れろ!何かを書け!正直な気持ちが全てだ」とメッセージを送って、食べまくった。

トーマスが慌てふためいて飛び込んできた。

「エリーが教会と家族に大麻を吸っている写真と録音を送った。親が『たかがお金だ帰って来い』と言って来た」という。チャーリーは「エリーは自分を傷つけるため、あるいは救うためにやったことなのか」とトーマスに「俺に何をしたくれきた!」と聞いた。トーマスはアランの教本を示しながら「アランは神の実心に背いてあなたを選び、その一節から逃れられなくなった。霊でなく肉に従ったからです。あなたはまだ間に合う」と答えた。チャーリーは「俺がアランとひと晩中愛し合った、悍ましいか?」と答え「神などいなくてよい。家族の元に返れ」と告げた。

金曜日

チャーリーは学生たちに「正直に書け」という言葉を残し、退官することを伝えた。そしてデブの自分の姿を見せた。学生たちは驚いたようだった。

リズが戻ってきてチャーリーの血圧を図りながら、「あなたが兄を愛さなかったらとっくに死んでいた。人はだれかを救うことなど出来ない」という。チャーリーが「そうではない!トーマスは救われた。エリーがトーマスを家に帰して救った」と話しているところにエリーが戻ってきた。

エリーがチャーリーとふたりで話したいという

エリーは「昨日渡されたエッセイは何か」を確認にきたという。チャーリーは「ママが4年前に送ってくれたものだ。読んでくれ」と頼んだ。そしてエリーを捨てたことを侘びた。エリーは「デブのくそったれ!知るか!」と読み始めた。これを聞き終えたチャーリーはオレゴンの浜辺で幸せを感じていた記憶の中で後ろに倒れた。

まとめ:

死期を知ったチャーリーは娘エリーが4年前に描いた小説“白鯨”のエッセイ「鯨の描写の退屈な章にはうんざりしたが、語り手は自らの暗い物語を再送りする。“すこしだけ”この本は私の人生考えさせてくれてよかった」を発見した。チャーリーはこれを読み上げるエリーの声を聴きながら、「誰もがおぞましいという自分の存在をエリーが認めてくれた」とあの世に旅立った。

宗教と小説“白鯨”を題材に描く舞台劇。セリフがすばらしい。この作品では宗教と同性愛、終末思想に痛烈な批判がなされている。これもテーマのひとつだ

チャーリーには、ゲイとなったことで妻のメアリーとエリーとの別れ、そしてゲイの相手アランの自死を救えず、さらにデブとなりアランの妹リズの介護を受けるという大きな後悔、贖罪を残したが、エリーがトーマスを国に返しチャーリーがゲイであったことを赦した行動とこの短いエッセイで彼の人生は救われた

冒頭からチャーリーの暗い、汗や食い物の臭いが充満するような中での陰鬱な物語。と思いきや、チャーリーことブレンダン・フレイザーの声の良さ、気品に救われ、彼が言う“デブのおぞましさ”を感じず、自分の生き方に対する正直さや彼が説く小説作法がストレートに伝わり、陰鬱な気分にならず、人生の最期をどう閉じるかという醍醐味を味わうことができた。ブレンダンのすばらしい演技だった。そして272kgのデブ。椅子、シャワーの使い方がリアルだった。

ラストでドアからさっと部屋に光が入ってきて、胸の中に閊えていたものが吐き出されるよう感覚になり“観てよかった!“と思った

長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれた、泣ける一品だった。

                                                   ★****

「アダマン号に乗って」(2023)まさか精神疾患施設とは、ここに求められるものを問うドキュメンタリー!

 

「ぼくの好きな先生」「人生、ただいま修行中」などで知られるフランスのドキュメンタリー監督ニコラ・フィリベールが、パリのセーヌ川に浮かぶデイケアセンターの船「アダマン号」にカメラを向けたドキュメンタリー

精神疾患デイケア施設、私には映画「月」(2023)のイメージしかない、一体どういう施設なのかと観ることにしました。3度寝落ちし、4度目で何とか感想を書き上げました。(笑)

冒頭で字幕“大切なのは余白を持つこと。余白がなければどこからイメージが湧くか?”(フェルランド・ドウリニィの言葉)から始まるドキュメンタリー。

この字幕に惹かれて最後まで観たいと思ったが途中で眠くなる。ずっと余白だった。(笑)

何の説明も、音楽もなく、雑音環境の中で、次々と登場してくる患者たちとスタッフ。患者とスタッフの区別もつかない、果たして彼らの言葉はどこまで信じられるのか?初心者には随分不親切な監督だなと思った。(笑)しかし、セーヌ河に浮ぶアダマン号が圧倒的に美しい、これ見ているだけで心が癒される。

 

ラスト近くで“この施設のすばらしさ”が新しく赴任する医師から明かされ、そういうドキュメンタリーだったのかと感動し、締めの字幕に納得しました。

物語は

パリの中心地・セーヌ川に浮かぶ木造建築の船「アダマン号」は、精神疾患のある人々を迎え入れ、文化活動を通じて彼らの支えとなる時間と空間を提供し、社会と再びつながりを持てるようサポートしている、ユニークなデイケアセンターだ。

そこでは自主性が重んじられ、絵画や音楽、詩などを通じて自らを表現することで患者たちは癒しを見いだしていく。そして、そこで働く看護師や職員らは、患者たちに寄り添い続ける。誰にとっても生き生きと魅力的なアダマン号という場所と、そこにやってくる人々の姿を、フィリベール監督によるカメラが優しいまなざしで見つめる。

2023年・第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、最高賞の金熊賞を受賞。2003年の「パリ・ルーヴル美術館の秘密」以降のフィリベール作品を日本で配給してきたロングライドが共同製作。(映画COMより)


www.youtube.com

あらすじ&感想

冒頭、男性患者フランソワがテレホン曲だと断わり「人間爆弾」曲を熱唱する。実に歌が上手い、この人が精神病だというのが分からない。

歌詞は「人間爆弾は君が持っている。君の心の近くに起爆装置がある」「自分の人生を他人に任せたら終わり」「誰も自分自身を手放すべきではない」。ある種の狂気のある詩だ!彼の好きな詩だ。「薬さえあれば正常だ。ここに来る必要はない!」と病状を明かす。しかし彼はここにやってきて歌う。矛盾している!

これがこの施設の必要な理由、テーマだ

アダマン号は二階建ての木造建築の船

セーヌ河の川面に浮ぶラマダン号の影がゆらゆらと漂いながらその実態を現す。うつくしい絵だ!アダマン号は係留されていて、図書館か美術館のような外観をしている。特に窓に特色がある。カーテンが木製で作られ、飛行機のフラップ翼のように動いて光を取り入れる。これで絶妙の光量を取り入れる。

患者の1日は自分の1日の予定をスタッフとともに作ることから始まる。

 女性患者のミュリエルはスタッフとワークショップの「音楽、ラジオ、絵」参加とスケジュールを打ち合わせる。自分の意志で行動するようになっている。「新人にお会いたい」「サッカーの試合結果を聞きたい」と自分の計画で動き、ワークショップ“シネマクラブ”に顔を出す。

“シネマクラブ”の患者から10周年記念としの映画上映企画が示された。彼らが自主的に企画している。「1週間、テーマを決め1日1本、キャッチコピーは“よくも悪くも一緒に”だ。誰がどんな仕事をやりたいか話し合いたい」と告げられた。

ミュリエルがいかなる病なのかは明かされない。いまどういう状態なのかもわからない。観る人に任されている。ミュリエルは「早く医者に会いぶちまけたい。でもあまり話さないようにする。ここの活動に参加できなくなる」と嘆く。新人の人に話しかける。父も兄も死に今は母だけと“孤独”を嘆く!

 コーヒーを飲む男性患者。彼は「ガキの頃から映画を観ている。リノ・ヴァンチュラ、ミシェル・コンスタンタン。ここにはいい俳優がいるが本人に自覚がない。何故か?病気のせいだとは思えない」という。一体この人の病は何だ?専門家の悦明が欲しい!(笑)

アダマン号のカフェ。

患者たちが集まり店の売上を勘定し始めるなかなか売り上げ額とお金が合わない。(笑)アダマン号の運営にも、患者自身が関わっている。

絵を画く若い男性患者アレクミス

アレクミスは「ビザンツユスティニアヌス帝は大きな宮殿にひとりで住んで宮殿を守るために戦争を起こした。僕の物語では小さな戦争だ」と言い、このドキュメンタリーを見て小説を書き絵にするという。かなりの古代史マニアらしい。(笑)また、彼は赤い鶏冠で針や注射器を、禿げた男からミカンを連想する。厚い唇は言葉を伝える表現、ピュレで不安、死を連想するという。絵を通してスタッフと話すことでアレクミスの症状が分かるように思う。

自分が描いた絵を説明する若い男性患者

ファニーゼとシャザンヌのふたりの女性の絵。とてもシンプルな絵だ。スタッフの質問に答えながら描いた絵をひとつの物語にしていく。治療に一環だと分かる。

ギター演奏する男性患者。

「ギターを弾いて1日が始まると気分がよくなる」という。「朝、何をするかが一瞬できまる。写真家が一瞬を捕らえるのと同じ。ロベール・ドアノーが市庁舎前で恋人のキスを撮ったように、戦場記者が撮影するようにだ!」と言う。すごい知識の持ち主だ、この人も正常なのかどうかわからない!(笑)

“コロナワクチンについて”のミーテイング

スタッフが「社会と文化にそして心と体に如何なる影響があるか」を示し意見を求める。「身体がどうなるのかビデオを作って欲しい」「ワクチン薬の体への影響を知りたい」などの意見が提示された。「専門家を招いてワークショップを立ち上げる」で意見集約となった。患者たちの討議だとは思われない出来っぷり!

 ソニック・プロテスト”についての報告

ミュージシャンのプレディリは中年の紳士然とした知的な男で、患者とは思えない。「すばらしかった。現代ヒッピーらしい2日間を楽しんだ。自閉症の人々が雄弁に喋り価値観を覆させた。固定概念がひっくり返る」と説明した。また、プレディリは「ヴィム・ヴェンダース監督は自分を「パリ、テキサス」作品のモデルにしている」という。この話の真偽も分からない、解説が欲しいところだ!

ミシンを使う男性患者

スパイダーマンの“S”をミシンを使ってTシャツに縫い付ける男。この男はこのTシャツで船内を歩き廻る。

帰化した女性ナディアの受け入れ

スタッフが仲間にナディアを紹介。ナディアはフランス国歌を歌えないが、故郷の歌を唄って仲間に入れてもらった。仲間の勧めで「何かを書く」ことにした。

顔の絵を説明する男性患者

「これが目、髭、首」と説明する。鼻がちょっと大きかった。スタッフと会話すながら“こうなるべき鼻”という題をつけた。抽象的な絵だが説明としては見事だ!

息子を養子に出して精神不安定になった母親

「頭が混乱し育てられないと施設に預けられ、その後里親に引き取られた養子に会えるようになった。産んだときは周りの人が攻撃的で敵に見えたが、今は幻聴もなくなり、友達が救ってくれ、息子と話せるようカウンセラーも入ってくれるようになった」と喜びを表す。

絵のワークショップ

妊婦の女性患者はある抽象画を「幸せに溢れている。見たい形が全て入っている」と評価する。ミュリエルが「女性を感じる!解剖学的に女性そのもの、女性器よ!」と絵を指先でなぞって見せる。ミュリエルは自分の絵は雌のカマキリで“生と愛と死”を現したという。キリンを描いていてセバスチャンにカマキリに間違えられこうなったという。(笑)。

映画のワークショップ

カサブランカ」を観ての感想。老女の患者が「エバー・ガードナーはハンフリー・ボガードを愛していたのか、共犯的な関係だ」と言い出す。これに「映画の話かそれとも私生活か」と議論が起こる。(笑)こうして時が経っていく。

音楽のワークショップ

ピアノで「蘇る過去、この絶望に耐え続ける。誰も完璧でない」と弾き語りする男性患者。“人は完璧でない”の歌。歌詞はもう患者の域ではない!

ギターを弾く男性患者が「アニメの世界は消去と再生だ。魔法の杖は言葉として存在する。自分が持っていたらどうするか分からない。警官にあなたが殺したら30年刑務所暮らしだと言われた。銃を持っていたら隣人を撃っただろう。30年刑務所で暮らし被害妄想に駆られ何も考えられなくなる。だから薬を飲んでいる。飲まないと発作が起こり、何も分からなくなる」と言い「人が信じられない、今は身体が汚れていて水を浴びたい。本当に辛い、何年もの間、罵倒され続けてきた」と訴える。

これに他の患者が「テロを起こすのは精神病だからというのはバカげている。ここの患者はテロリストではない。自分も凄く不安定で傷つきやすい。問題は間違ったイメージが持たれていることだ。自分たちの表情が人と違うせいで好奇な目に晒されている。周りの物音にもの凄く敏感だ。雑音が怖い!物音を立てる人が怖い。首にクリスタルを付けて悪い波長を受けないようにしている」と悩みを訴える。

ワークショップ参加者全員で雑音を聞き堪える

 ここに「自由を失ったと、権利がない」と苦しむ患者がいた。

「夫は死んだ、ファハド王アビダッラーのために働いた。私はファハド王の建築デザイナーだった」という。

写真のワークショップ

カメラの扱いをスタッフから教わりながら、コロナの禍前と今の顔写真を撮り合う患者たち。

キーボードで作曲しながらプレディリが語る

「ヴィムはUCLAの学生であったA・ヴァルダンのように映画を撮りたがったが、飛行機で革命を逃れ、パリにやってきた。夢を追う者よ、諦めないで!」と“ドアーを開けて”の曲作りをしながら、自分史を語り、ジェラール・フィリップ、ジェームス・ディーン、ジム・モリソン等な何故事故に遭い不慮の死を遂げたか、その真実を知った。社会心理学的鍵を見つけたことでこの恐ろしい仕掛けを取が外すことができた」と言う。プレディリが正しいのか自分がおかしいのかと思った。(笑)

ミーテイングーの終了

来週からここに着任する精神科医サビーヌ・ベルリュールが「施設では気持ちが和らぐ、すばらしい場所にあると思う。そして欲求が叶えられる場所でもある。皆さんには存在したいという欲求がある。それが大切だ!」と挨拶した。

その後、皆でスーパーのgarbage boxを漁り、これでジャムを作って食べる。(笑)

スーパーの向かいのごみ箱に行って、外見は多少傷んでいても品質は問題なさそうなフルーツをゴム手袋で収穫し、みんなでジャムやムースを作って食べる。残りはそれぞれの名を付してカフェで売る。(笑)

身体を動かすワークショップでダンスを楽しむ

 その後、カフェでお金を払って楽しむ。ここでアルバイトもできる

 この日最後のミーテイング

映画祭の説明があって、「話がしたい」と映画「カサブランカ」を話題にした女性が、教える資格はないけれど元ダンサーで、身体を動かすことが大切だと、「ダンスのワークショップを作って欲しい」とひつこくスタッフに要求した。しかし、「資格の問題ではなく、やる人の問題がある」と却下された。

霧にかすむアマダン号。静かで美しい幻想的な映像だった。

まとめ:

アダマン号を訪れる精神患者たちの活動をだらだらと書きました。もっとまとめて文章にすれば良いのですが、患者たちが魅力的でなんとも捨てがたく、だらだらと書き連ねました。(笑)

これを纏めると

自分達の興味の物を書く、描く、歌う、演奏するという芸術活動、縫う、料理するという物を作ることで人と関わりながら生きる。あるいは正常といわれる人達の活動に馴染んでいく。その中での彼らの悩み恐れを知り、彼らの尊厳を認める社会であって欲しいと感じた。

個性的でこれが精神病患者だと分からない人が多かった。その教会は曖昧だ。また、治療に芸術が関わることの大切さを知った

締めの字幕

アダマンはパリを中心部の成人を受け入れるサン・モーリス病院付属デイケアセンターである。チームと患者の意見を基にセーヌ・デザインが設計。2010年7月に設立した。形式的な事務に追われて個を軽んじる世界にまだ属しない場所が存在する人間の言葉の想像力を生き生きと保つ場所である。

日本で心の療養施設というと人里離れたところに立地しているという印象だが、フランスのデイケアセンター・アダマン号はパリの中心地セーヌ川に浮かぶ木造建築の船で、まるで今時の図書館か美術館のような外観をしている。この姿を見るだけで我が国の施策の遅れを感じました。

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