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宮﨑あおいさんを応援します

「ザ・ホエール」(2022)人生って懺悔だらけだ!最期はこういう死であって欲しい!

 

死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描くというA24 作品以下肥満症の男をデブと呼びますが、他意はない、ご容赦のほどを。

いかなるホラーを見せてくれるかと思ったら全く違っていた。長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれていた。泣けた!まさかのA24 作品だった。(笑)

原作:劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇。小説“白鯨”がメタファーになっているが、未読です。

監督:ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー脚本:サム・D・ハンター、撮影:マシュー・リバティーク美術:マーク・フリードバーグ ロバート・ピゾーチャ、衣装:ダニー・グリッカー、編集:アンドリュー・ワイスブラム、音楽:ロブ・シモンセン

出演者:ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、サマンサ・モートン、タイ・シンプキンス。

物語は

40代のチャーリー(ブレンダン・フレイザーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)に助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリー(セイディー・シンク)に会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。(映画COMより)

第95回アカデミー賞フレイザーが主演男優賞を、メイクアップ&ヘアスタイリング賞とあわせて2部門を受賞。


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あらすじ&感想

田舎町。バスからひとりの男性が下車。とぼとぼと歩き出した。この町にやってきた新興宗教ニューライフ教の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)だ。

オークリー大学遠隔指導プログラムの講師・チャーリーが自宅のカウチソファーに272kgの身体を沈め文学表現について講義中。モニターの講師映像には姿を見せず、「文章を書くポイントは明確で説得力のある文章を書くことだ。推敲を重ねるといいものになる」と講義中。この言葉は耳に痛い!(笑)

物語は月曜日から始まる

月曜日

チャーリーは講義を終え、エロビデオを観ていてリモコンを落とした。(笑)慌ててリズを呼ぶが不在。リモコンを捕獲棒で取り上げるのに苦しむ。この姿を見るのが辛い!そこに現れたのが宣教師のトーマスだった。

チャーリーは読みかけのエッセイをトーマスに「読んでくれ!」と渡した。トーマスは何が起きているのか分からず「見事な小説“白鯨”で語り手のイシュメールが海での体験を話す。・・・」と読み始めた。読み終わって「これ何ですか?」と聞くと、チャーリーは「エッセイが俺の仕事だ。オンライン講座で教えている」とだけ答えた。

そこに看護師のリズが部屋にやってきた。ニューライフ教宣教師がいることを怒った。そして血圧を図り「上が238、下が134、悪化している。うっ血性心不全。このままでは週末までに死ぬ」とチャーリーを責めた。チャーリーが歩行補助器でトイレに入った。その間にリズは「幼い頃ニューライフ教会に養子に出されたが最悪だった。チャーリーの恋人(アラン)もこの宗教に殺された。彼は終末論など信じない」とトーマスに退去を命じた。

リズはチャーリーに「病院に行って!」と忠告するが拒否される。「行かないならナイフで刺す」と脅すが、チャーリーが「食べたい」と言えば好物を与え、チャーリーが愛しいようだ。

チャーリーは“白鯨“のエッセイを読み返した。

「語り手はイシュメールと名乗る。彼は小さな海辺の町にいる。一人の男と同宿している。名はクィークェグ。ふたりは教会に行く。その後、ふたりは船で旅立つ。船長は海賊のエイヘブだ。船長は片足がなくある鯨を殺したがっている。モビーディックだ。白い鯨だ。この本の中でエイハブは多くの困難に遭う。彼の人生はその一瞬の鯨を殺すこと。悲しいと思う。何故なら鯨は感情がない、ただ大きいだけの哀れな生き物だ。エイハブのことも気の毒に思う。彼は自分の人生が鯨を殺せばよくなると信じているから。でも実際はどうにもならない・・・」と書かれていた。チャーリーはこれを読み「自分の人生を考えた、考えた、考えた」と繰り返した。そして娘エリーに「会いたい」と伝えた

火曜日

チャーリーは配達されたピザ2枚を喰って、PCで病名と血圧で検索しステージ3の症状でsると確認した。結果は「入院せよ!」だが、チョコレートをばりばり食べて、髭剃りをしていた。そこに、

エリーが「将来、私もこうなるの」と現れた

チャーリーは8年ぶりに会った娘の美しさを喜び{ママは元気?学校は?}と聞いた。「停学中よ、8歳で捨てて、学生と一緒になった。来たのが間違いかな!」という。「卒業しよう」と勧めると、「1科目でも点を取れば卒業できる」という。チャーリーは「手伝いうから俺のためにエッセイを書いてくれ、一流になれる。それに12万ドルを渡す」と提案した。エリーは「帰る!」と帰り始めが、止まって「ここまで来たら書く!」という。チャーリーは立ち上がって歩き始めたが、転んだ。エリーは帰って行った。

そこに「カンビ-ノ」とピザ配達員が声を掛け、安否を確認してピザを郵便受けの置いて帰った。

リズが戻ってきてエリーが来たことを知り反対した

リズはエッセイを見て、エリーがここに来たことを知った。チャーリーはPCでエリーのホームぺージを開き「友人がいなく孤独だ、死んだ犬の写真なんか貼っている。輝きがない。宿題を手伝う」と言った。リズは「8年も別れていて、母親もいる。若い子特有の不安定な感情よ、この身体で宿題を手伝うのは無理」と反対した。チャーリが食べ物で喉に詰まるとリズが彼の背中に乗り掛かり叩いて吐かせる。リズの献身的にチャーリーを介護していた。吐いた後、リズはそっとチャーリーに食べ物を渡す。

水曜日

チャーリーは学生たちにオンラインで「文章の書き方を教えてきたが、一番大切なのは書き手自身の発想や分析に基づかない文は意味ないこと。よく考え、書き、推敲して主張の真実性に向かうこと」と抗議しラインを切った。

チャーリーは全力でエリーに付き添うことにした

尋ねてきたエリーとエッセイの題材について話す。チャーリーはホイットマンの“ぼく自身の歌”を提示したがエリーが「長くてひつこくて、繰り返しばかりよ。比喩ばかりで深みがなくバカらしい。19世紀のろくでもないカマ野郎だ!」と反対し(笑)、「“定義の炸裂”で書いて欲しい」という。チャーリーはひとりで書くと伝えた。チャーリーは男子学生(アラン)と恋に落ち、家を出たことを話した。エリーは8歳だったが、このことを知っていた。

チャーリーは「今あるこの詩について考えを書いて欲しい!思ったまま本心を書いて欲しい」と言ってトイレに立ち、洗面所で泣いた!エリーが描き始めていた。

そこにニューライフ教宣教師トーマスがやってきた

トーマスが「チャーリーがニューライフ教に興味を持っているので資料をもってきた」と言う。エミーは「宗教が面白いのは、人間はみんなバカだと思っている。それでイエスを信じる者は優れていると思っている」と批判した。エミーはチャーリーに「明日までに書ける!」と伝え、トーマスの名前を確認し自分の名を教えて帰っていった。

トーマスがチャーリーに“終末論”を溶き始めた。

チャーリーは「知っている」と勧誘を断るが、トーマスは「ここのドアを叩いたのは神の御導きだ」と引き下がらない。チャーリーは「君はタイプでないが正直に言ってくれ!俺は悍ましいか?」と聞いた。トーマスは「いいえ、力になりたい」と答えた。チャーリーは部屋のドアを渡した。そこにリズが車椅子を携えて戻ってきた。

リズが戻ってきてトーマスにチャーリーとニューライフ教との関りを話し、退去を求めた

チャーリーは車椅子を喜んだ。リズはトーマスと部屋を出て、ベランダで話し合った。

リズが「兄アランはニューライフ教の宣教師で南米に渡ったが、父親に同じ宗教の人と結婚するよう迫られ帰国した。しかし、チャーリーと恋に落ち、教会と家族から追い出された。教会のことを忘れようとしたが出来ず、自死した。チャーリーの最愛の人は私と兄のアラン。チャーリーの救いにあなたは必要ない。数日でチャーリーは死ぬ。あなたは不必要」と話した。トーマスは帰っていった。

このあとリズは夜勤に出掛けた。チャーリーはピザの配達を受け、TVの大統領選挙報道を見て、エリーが描いたエッセイを読んだ。

鯨の描写の退屈な章にうんざりさせられた。話し手は自ら暗い物語を先送りする。すこしだけ、このアパートの匂いは臭い!みんな大嫌いだ」と書かれていた。

木曜日

チャーリーは訪ねて来たエリーに続きを書くことを促すが描かないという。チャーリーは自分が家を出て何があったかを聞いた。エリーは「ゴミのように捨てて出て行ったが、大事なことを教えてもらった。せめてお金を送って欲しかった」という。チャーリーは「金はママに送った。君はすばらしい娘だ、最高の娘だ」と褒めた。チャーリーはサンドウイッチを食べ、エリーの差し出す薬を飲んで眠った。

エリーがチャーリーの眠る姿を写真に撮っているところにトーマスが訪れた

エリーはトーマスに大麻タバコを吸わせて写真を撮って、何故薬を飲ませ写真を撮るかを明かさず、「友情が芽生えたから・・」と告げてトーマスの本心を語らせた。

トーマスは「大麻を吸った罰として父親によりニューライフ教に入れられた。パンフレットを配るだけで嫌になり、金を盗んで逃げ出した。この金で布教しようと思ったが金がなくなり、ここに辿りついた。どうすればいい?」と語った。エリーはアランのサインがある教書をトーマスに渡し、「アランはこれで亡くなった」とアランがマーキングした箇所を読ませた。

そこにチャーリーの妻のメアリーがリズに伴われて現れた

リズは目覚めたチャーリーを見て「あの娘は危なかった!」という。エリーが「たった2錠よ」と否定した。メアリーがいきなりチャーリーに「お金いくらくれる」と聞いた。エリーは「あなたなんか気にもしてない!早く死んで!」と言って部屋を出て行った。

チャーリーとメアリーはエリーの教育のことで言い争った。

メアリーは「あの子はただ反抗的だと思っていたが邪悪な子だ」と言う。チャーリーは「そうではない」と言い、ふたりの想いには食い違いがあって批判し合うが次第に邂逅していった。メアリーが「9年ぶりで聞きたい」とチャーリーの心臓に耳を当てて心音を聞いた。チャーリーは幸せだった頃のオレゴンの海水浴を思い出していた。

チャーリーは「俺は死ぬ、エリーは俺の人生で唯一の正しいことなのだ」とメアリーにエリーを託した。メアリーは帰っていった。

チャーリーは学生に「エッセイなんか忘れろ!何かを書け!正直な気持ちが全てだ」とメッセージを送って、食べまくった。

トーマスが慌てふためいて飛び込んできた。

「エリーが教会と家族に大麻を吸っている写真と録音を送った。親が『たかがお金だ帰って来い』と言って来た」という。チャーリーは「エリーは自分を傷つけるため、あるいは救うためにやったことなのか」とトーマスに「俺に何をしたくれきた!」と聞いた。トーマスはアランの教本を示しながら「アランは神の実心に背いてあなたを選び、その一節から逃れられなくなった。霊でなく肉に従ったからです。あなたはまだ間に合う」と答えた。チャーリーは「俺がアランとひと晩中愛し合った、悍ましいか?」と答え「神などいなくてよい。家族の元に返れ」と告げた。

金曜日

チャーリーは学生たちに「正直に書け」という言葉を残し、退官することを伝えた。そしてデブの自分の姿を見せた。学生たちは驚いたようだった。

リズが戻ってきてチャーリーの血圧を図りながら、「あなたが兄を愛さなかったらとっくに死んでいた。人はだれかを救うことなど出来ない」という。チャーリーが「そうではない!トーマスは救われた。エリーがトーマスを家に帰して救った」と話しているところにエリーが戻ってきた。

エリーがチャーリーとふたりで話したいという

エリーは「昨日渡されたエッセイは何か」を確認にきたという。チャーリーは「ママが4年前に送ってくれたものだ。読んでくれ」と頼んだ。そしてエリーを捨てたことを侘びた。エリーは「デブのくそったれ!知るか!」と読み始めた。これを聞き終えたチャーリーはオレゴンの浜辺で幸せを感じていた記憶の中で後ろに倒れた。

まとめ:

死期を知ったチャーリーは娘エリーが4年前に描いた小説“白鯨”のエッセイ「鯨の描写の退屈な章にはうんざりしたが、語り手は自らの暗い物語を再送りする。“すこしだけ”この本は私の人生考えさせてくれてよかった」を発見した。チャーリーはこれを読み上げるエリーの声を聴きながら、「誰もがおぞましいという自分の存在をエリーが認めてくれた」とあの世に旅立った。

宗教と小説“白鯨”を題材に描く舞台劇。セリフがすばらしい。この作品では宗教と同性愛、終末思想に痛烈な批判がなされている。これもテーマのひとつだ

チャーリーには、ゲイとなったことで妻のメアリーとエリーとの別れ、そしてゲイの相手アランの自死を救えず、さらにデブとなりアランの妹リズの介護を受けるという大きな後悔、贖罪を残したが、エリーがトーマスを国に返しチャーリーがゲイであったことを赦した行動とこの短いエッセイで彼の人生は救われた

冒頭からチャーリーの暗い、汗や食い物の臭いが充満するような中での陰鬱な物語。と思いきや、チャーリーことブレンダン・フレイザーの声の良さ、気品に救われ、彼が言う“デブのおぞましさ”を感じず、自分の生き方に対する正直さや彼が説く小説作法がストレートに伝わり、陰鬱な気分にならず、人生の最期をどう閉じるかという醍醐味を味わうことができた。ブレンダンのすばらしい演技だった。そして272kgのデブ。椅子、シャワーの使い方がリアルだった。

ラストでドアからさっと部屋に光が入ってきて、胸の中に閊えていたものが吐き出されるよう感覚になり“観てよかった!“と思った

長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれた、泣ける一品だった。

                                                   ★****