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「楽園」(2019) 楽園はすぐそこにあります!

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吉田修一さんの短編集「犯罪小説集」を映画化したサスペンス・ドラマ。監督が瀬々敬久さん。主演は綾野剛杉咲花佐藤浩市さん。共演に柄本明村上虹郎片岡礼子黒沢あすかさんが配されています。

短編集「犯罪小説集」の中から、「青田Y字路」「万屋善次郎」を主体に、監督創作の一遍を加え、「Ⅰ罪」「Ⅱ罰」「Ⅲ人」の3篇で描かれている。
あらすじ:
田園が広がるとある地方都市で小学生の女の子・愛華がY字路でこつ然と姿を消す事件が起きたが、必死の捜索もむなしく発見されることはなかった。しかし、外者の得体の知れない男・中村豪士(綾野剛)と失踪時愛華と一緒にいた紡(杉咲花)に猜疑の目が向けられる。それから12年後、紡と豪士はひょんなことから心を通わせていた。そのとき、同じ場所で同じような事件が起こった。村人は豪士を犯人と見て追及。豪士は非業の死を遂げる。

そんな中、都会から地元へ戻ってきた養蜂家・田中善次郎(佐藤浩市)は、豪士の死に立ち会う。が、のちに村の意に沿わないと村八分となり、善次郎の怒りが限界を超え、豪士と同じ運命をたどる。この村で育ち、自らが関わった2つの事件と顔見知りの善次郎が起こした事件を目に当たりにした紡が、これらの事件を乗り越え、どう生きるべきかと自らに問うすばらしい物語だ。

物語のすばらしさは、まず、3篇を通じて、紡の目線で物語が紡がれ(だから紡という名!)、物語が進むにつれて、閉鎖された村の陰鬱さが明らかになり、テーマが明確になってくる。壮大な火祭りと火ダルマの豪士をダブらせる映像がこれを際立たせている。犯罪を扱っているが、限界集落という閉塞された社会での集団心理・不条理の怖さ、これが今日社会の犯罪に繋がっている。

さらに、最後まで豪士は犯人なのか?という、犯人捜しの物語になっていて、サスペンシフルだ。特に3編の紡の回想をどう捉えるかという秀逸なエンデイングとなっている。ラストの希望の持てる結末がよい。

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役者さんの演技が凄い!
祭りで母親が闇で屋台を出しその筋に痛めつけられる姿に怯える姿に言葉はいらない、立ってる姿だけで豪士の全部が伝わってくる綾野剛さん。村八分になり孤独を陥り、壊れ、土を食ってでもここで生きるという佐藤浩市さん。愛華を守れなかったといまだに罪悪感を拭えず、決して笑わない紡が一瞬微笑みを見せ最後まで豪士を信じる杉咲花さんの演技。いずれも圧巻です!

あらすじ(ねたばれ):
第1編 罪
豪士と母親・洋子(黒沢あすか)が東アジア外国系で、日本を楽園だと思ってやってきたという。母親は祭りに闇で屋台をだして、その筋に痛めつけられる。豪士は村の有力者・藤木(柄本明)に仲裁を求めた。震えている豪士、横柄な藤木。豪士は母親と車でY字路を通って母親のアパートに戻った。そこには男がいて「めしを食べて行け!」というのを断った。自宅に戻り弁当をむしゃぶり食った。この食い方は何かを暗示させる?
そのころ、藤木家では孫の愛華が家に帰らないと大騒動。警察、村人も出て本格的な捜索を開始。これには藤本、豪士も参加していて、豪士が愛華のランドセルを発見した。

12年後に飛び、スーパーでアルバイトしていた紡は、仕事が引けると祭りの笛の稽古に参加。稽古を終えての帰り、言い寄る野上広呂(村上虹郎)を振り切って、夜道を自転車で帰宅中、後から走ってきた豪士の車に動揺として転倒。豪士が運転席から飛び出し紡を助け、笛が壊れたお詫びにと、翌日、一緒に町に出て新しい笛を買い弁償した。豪士の紡に漏らした「この村には居場所がない」という言葉が紡の心に刺さった。紡は明日の祭りに豪士を誘った。

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この翌日、Y字路で幼い子が誘拐される事件が起こり、村人の誰ということなく豪士が怪しいと、豪士の部屋が藤木らにより捜索される。部屋に子供はいなかった。そこに戻ってきた豪士はこれを見て、逃げ出し、蕎麦屋に逃げ込む。集まった村人の騒ぎに興奮して暴れ回り、自らガソリンを被りライターで「アイカちゃん」とつぶやき着火した。火ダルマになる。駆けつけた母親・洋子は「豪士は何もしてない」と泣き叫んだ。この声は豪士の耳に届き、彼は泣いた! 駆けつけた村人のなかに善次郎が居て、燃え上がる豪士の姿を見つめた。

罪とは誰の罪か?豪士をここまで追い込んだ村人、それとも愛華ちゃん行方不明犯人としての豪士か。アイカちゃんと叫んだのは愛華ちゃんのいる世界、誰にも邪魔されない楽園ではなかったか。いずれにせよ、村人のやり方には激しい憤りを覚える。

第2章 罰
豪士の事件後、紡は村を出て、東京の青果市場で働いていた。祭りの季節になり手伝ってと誘われ、村に戻り祭りに参加。火祭りの炎を見ると、火ダルマになった豪士の姿が想い浮かんだ。しかし、紡はあの夜、祭りで笛を吹いていて豪士の最期を見てなかった。祭りが終わり返ろうとすると広呂が近付き「犯人の豪士が死んだから、俺に付き合え!」とキスを求めるが、そこにレオがいて吠え、キスは不発に終わった。(笑)
紡は、出会った善次郎に、豪士は殺人者に見えたかと聞くが、燃えていて分からなかったと言われる。レオと仲のよい善次郎の姿が紡の心に強く印象に残った。藤木が「豪士がやったと言ってくれ!お前だけが幸せになっていいのか!」と泣き、これに紡も泣いた!

善次郎は、妻の希望である先祖代々の地、この村に住み始めたが、白血症で妻を亡くし、養蜂業を営みながら愛犬レオと穏やかに暮らしていた。村の集会で村起こし案として養蜂を提案し皆が賛同を得た。さっそく役所と交渉を始めると、村の予算を相談なく使ってもらっては困ると圧力が加えられ、連絡に来た村人にレオが噛みついたことで、村八分状態になる。しかし善次郎にはこの地で、妻の望を叶えてやりたいと、木を植え、妻の案山子を立て、妻の骨を土に戻し、その土を食ってここを離れないと抵抗した。
夫を亡くし子供を連れて名古屋から村に戻っていた黒塚久子(片岡礼子)は、こんな善次郎に手を差し伸べる。しかし、役所がユンボを携え乗り込み、植えた木を根こそぎ引き抜く行為に、遂に切れて、夜間村人を襲った。

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善次郎が村人によって罰を受けた。善次郎がこの地の者であれば、こうはならなかった。村人のこの閉鎖性にはうんざりする。現実の政治の世界でも、議員先生の不祥事の責任を取らされる公務員の死なども、おなじようなもの。強い者に迎合し反対意見を潰してしまう。

紡が東京に帰ると、「田舎にいるのが耐えられない。紡の会社で働く」と広呂が来ていた。

第3章 人
広呂は白血症で入院。紡が見舞うと、「病気になって東京は広いと感じる、ここで働きたい」と言い出す。紡は病院のTVでレオンが警官に噛みつくニュース映像を見た。

紡の母・洋子から、「紡の荷物の中にあなたの財布が見つかったから訪ねて」と連絡があった。財布は笛を買うために町で出る際に、車に置き忘れたもの。
洋子に会うと、「豪士のことに決着をつけないと生きて行けない」と話し出す。

「あの日、私は豪士と一緒だったことを刑事に認めてもらった」と言い、「豪士は生きているのか死んでいるのかユーレイみたいだった、母ちゃんは俺を捨てるのかと泣いた。『どうしてあんなこと』と聞いたら、『あそこは楽園だ、どうして人は生まれ、どうして死ぬのかなど答えられん』と言った」と話し、サイフを渡した。

中に「紡さんは犯人ではない」」と書いた紙があった。洋子は「あの子が生きられる場所はここではなかった。あんたは救われた。他のやつらと同じだ!」と思いの丈を吐き出した。紡はむっとして部屋を出た。

自分が犯人だということか、それとも自分は犯人でないが苦しんでいるから紡の気持ちが分かるということか。いずれにせよ、紡の豪士への気持ちに揺るがなかった。

紡は、改めて、愛華と別れたY字路の見える場所にやってきた。そのとき、カマで腹を切った善次郎を病院に搬送中の救急車に出会った。レオがその後を追っていた。

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そこに藤木がやってきて「誰かが犯人になればいいと思っていた。炎が上がってほっとした。誰が犯人なのか区別なんかできない、もう年だ!」という。紡は「皆が殺した!」「犯人なんか分からないでいい、生きて、生きて、生きる」と泣いた。そして、立て看板「犯人の捜査に協力」を倒し、川に投げ捨てた。

紡がY字路を見ると、豪士が愛華に出会い花輪を頭に乗せてもらい、左に消えるのを見た。まるでキリストのようで、この村の罪を全部背負っていた。
そのとき、善次郎がきて、捨てられた犬を拾い「名は!レオだ!」と車に乗せて帰って行った。紡は愛華も豪士も善次郎もレオも、みんな楽園に行ったと思った。

豪士は犯人なのか?こんなことはどうでもいい、紡はこれを乗り越えていた。生きてもっと優しい世界を見たい!犯人捜しはおわりです。(笑)

広呂から「5年生存率は50%だが退院だ。頑張る」という知らせがあり、東京に戻るとアイカの声が聞こえ、彼女が振り返ったような気がした。

罪の罰も人が作り出す。人に区別などしなければ、そこは楽園だ!今日、我々はいろいろな差別の中で生きている。なかでも日常の身近なところの不条理に、見て見ぬ振りをせず、悩んでいる人に手を差し伸べるよう注意したいものです。ここから始めよう!
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映画『楽園』本予告/綾野剛・杉咲花・佐藤浩市/衝撃のサスペンス大作