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韓国映画「殺人の追憶」(2003)真犯人は刑事たちを翻弄し続けたポン・ジュノ監督!

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1999年に「ほえる犬は噛まない」でデビューしたポン・ジョノ監督の2作目、韓国のみならず、世界的に評価の高い作品。WOWOWの「ポン・ジュノ監督特集」で観賞。

1986年から1991年にかけて大韓民国の京畿道華城周辺の農村地帯で10代から70代までの10名の女性が強姦殺害された未解決殺人事件をモチーフにした刑事物語

事実がどこまで正確に描かれているかは分かりませんが、昔カタギの刑事と容疑者が繰り広げる当時の警察捜査実態を、ラストで見せる刑事の顔で問うという監督らしい作品。

変態殺人に挑む警察の捜査活動を、ミステリアスに、暴力や恐怖、グロ、笑いを持って描く超エンターテイメント作品でありながら、そこに社会正義を見せつける“ポン・ジョノ監督の覚悟”を見る作品でした。さらに、絶対に面白い映画を見せてやるという意気込みが伝わってきて黒澤明監督の匂いを感じました。

監督:ポン・ジュノ、脚本:ポン・ジュノ、シム・ソンボ、撮影:キム・ヒョング、音楽:岩代太郎

出演者:ソン・ガンホキム・サンギョン、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク、パク・ヘイル、チョン・ミソン、リュ・テホ。


『殺人の追憶』日本版劇場予告編

あらすじ(ねたばれ):

1986年10月29日。イナゴを追っかける子供たち。耕運機が走る道路の側溝、パク・トゥマン刑事(ソン・ガンホ)が側溝のコンリートパイプの中を覘いている。この田舎の風景・時代の描き方が良い。日本の60年代?

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最初の被害者パク・ポピの捜査。相棒の刑事チョ・ヨング(キム・レハ)が「彼女に去年振られた!」と写真を見せる。

あやしいと思ったやつを警察署に呼び尋問して記録を整理中に次の事件、イ・ヒャンスクの事件が起きた。現場が村の人だかりで大混乱。足跡も耕運機に消されてしまう始末。

捜査疲れを癒すように恋人のカク・ソリョン(チョン・ミソン)とセックス。「外すな!」とソリョンに注意して腰に注射をさせる。(笑)疲れの程度が分かるという詳細な表現。(笑) セリフが生々しく、リアルで、画面に引っ張る魅力があります。

ソリョンの「焼肉屋の息子ペク・グァンホ(パク・ノシク)がヒャンスクを追いかけていた」という話から、グアンホをしょっ引いて尋問。パク刑事、グアンホの履いている靴を現場に持ち出して靴跡を撮り、自らが作った作文をグアンホに喋らせて録音するという証言作り。反抗すればヨング刑事が暴力で喋りを強要する。

グアンホを現場に連れ出し現場検証。しっかり捜査してると見せるように大勢の村人が見ているなかで、シャベルも使えないグアンホに穴を掘らせて写真を撮る。「息子は殺していない!」と父親が飛び込み、現場は大混乱。

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長回しの混乱映像はリアルでうまいカメラだと思う。検察の手が入り、グアンホは釈放された。グアンホが知的障害者という設定が物語を面白くし、さらに刑事の横暴ぶりを浮き立たせるといううまい演出です。

これに伴い捜査課長が更迭され、シン・ドンチョル(ソン・ジェホ)が課長に着任。さらにソウルからソ・テユン(キム・サンギョン)刑事が派遣された。

新任課長への事件捜査経過ブリーフィング。パク刑事が触れない第3の殺人事件。テユン刑事が「トッコ・ヒヨンスンの家族から捜査願いが出ており速やかにソウル機動隊を要請して捜査する必要がある」と課長に進言。これにパクが「都会刑事は頭で稼ぐが、田舎刑事には“足で稼ぐ”というやり方がある」と反発。ふたりの対立が続く。そんな中で、機動隊によりヒヨンスンの遺体が発見された。課長のテユン刑事への信頼が厚くなる。一連の事件の共通店は「独身女性、赤い服装、夜間、雨、下着で絞殺、事故現場が限定」というもの。

女性警官のギオクに赤いスカートを着させ、雨の日の夜間、事故現場付近を歩かせオトリ捜査wp始めた。が、一向に犯人が現れない。

一方、テユン刑事は夜間現場付近を通る女生徒から「犯人は便所に隠れている」という噂を聞く。

第4の殺害事件が起きた。セメント工場まで傘を持って出た女性が工場付近で若い男に殺害されたというもの。現場調査を行うが、足跡とストッキングで絞殺された以外に証拠がない。

焦るパク刑事は「強姦に陰毛が残らないのはおかしい。お坊さんか?」と、犯人は無毛者と風呂屋で監視を続ける。(笑) こんなパク刑事にソリョンが「もう刑事やめたら!」と言い出す。(笑)

行詰まった捜索に、ギオク警官が面白い情報をもたらす。「事件の夕方には“憂鬱な手紙”という曲がFMで流れる。昨日のリクエストはテリョン村の寂しい男からだった」という。課長が「この曲で発情するか?」と聞く。(笑)

パク刑事はソリョンの勧めで霊媒師に頼り、御呪いの紙に現場の泥を塗れば犯人の顔が浮かび上がると聞き現場でやってくると、テユン刑事が“憂鬱な手紙”曲を聞きながら巡察していた。そこに不審な男がやってきてシコシコ始めた。(笑) 3人で追って捕まえた男がチョ・ビョンスン(リュ・テホ)。彼の妻は病弱で寝たっきり。家を捜索すると盗んだ女性下着にポルノ雑誌が溢れていた。こんな状況であるにも関わらず、パク刑事とヨング刑事はビョンスンを吊るして尋問。(笑)

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テユン刑事はパク刑事のいう足で捜査することにして、学校便所を訪れ、ここで用足中の女性教師から「ここで泣いてる女性を見た」という情報から、学校裏のあばら屋を探すと犯人に襲われ女性だった。この女性から犯人像として「“柔らかい手”で首を絞められた」という情報を得た。

テユン刑事がビョンスンの手を見てパク刑事に「犯人でない!」と忠告。ふたりが大喧嘩を始めた。そこに、ギオク警官から「今、あの曲が流れている」と報告。放送局を調べにギオクが走った。

現場付近を巡察する警官によって遺体が発見された。被害者はアン・ソミンと判明。

放送局を調べた結果、曲のリクエスト者はテリョン村のパク・ヒョンギュ(パク・ヘイル)と判明、逮捕した。

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彼の手が“柔らかい”手であったことからテユン刑事が自分のシナリオで攻め自白を強要した。パク刑事を同じムジナの刑事に成り下がっていた!ヒョンギュが「あんたたちが拷問していることは子供でも知っている。俺が犯人でない!」とテユン刑事を挑発。テユン刑事が「目撃者だろうがなかろうが、自白すればいいんだ」と攻める。ヨング刑事がぶん殴ってヒョンギュを気絶させた。

これを見ていたパク刑事が「クアンホが見たことを喋っていたんではないか?」と自分の作ったシナリオとが違うことを喋ったクアンホのことを思い出した。

クアンホを再尋問と薬肉店を訪ねたがここで大混乱となり、「3回顔を見た!俺より男前だった」と言い列車に飛び飛び込んで自殺した。

大々的に「容疑者自殺、拷問が原因!」と報道され、報道陣に嗅ぎつかれると課長がヒョンギュを釈放した。(笑)

アン・ソミンの遺体から精液が採取され、DNA鑑定をすることになったが韓国では出来ず米国での結果を待つことになった。テユン刑事はヒョンギュに間違いないと彼を追っていた。雨の夜、居酒屋で飲んだヒョンギュがバスに乗る。追うとするがエンジントラブルで追えなかった。

この夜、殺人事件が起きた。陰部にペンとスプーンが入っていた。テユン刑事が現場を確認し、ヒョンギュの家に向かった。「お前が殺した!」と拳銃を突き付けると「全部殺した!」とヒョンギュが投げやりに告白。そこにパク刑事が「アメリカからのDNA鑑定書が届いた」と飛び出してきた。鑑定結果は「一致しない」。

パク刑事は「やったのか?俺の目を見て答えろ!」とヒョンギュに問うた。「俺はもう分からない!」というヒョンギュに「飯は食っているか、行け!バカ野郎!」と声を掛け泣いた。テユン刑事も泣いた。ヒョンギュはトンネルの中に掛けられた手錠のままの姿で去って行った。

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2003年、パク刑事はとある企業に就職。仕事中に昔関わった事件あと、側溝のコンリートパイプの中を覘いていると、通りがかりの女学生に「前に同じように覘いていた人がいて、自分がここでしたことを思い出して久しぶりにきた」と言ったという。パク元刑事の顔が。無念だ!

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感想:

冒頭とラストのコンリートパイプの中を覘くシーン。ふたつのシーンの時の流れに作品のテーマを乗せるという、うまい演出でした。まだ犯人生きていて、ここに来ている!恐怖!

犯人は誰か?ヒョンギュ?刑事たちを翻弄し続けたポン・ジュノ監督ですね!これがテーマです。

実は犯人は2019年に掴まっています(別件で服役中)。この事実を知らずに作品を観ていただけにこの結末に驚きました。

画面から目が離せない、とても面白い、緊張連続の作品でした。作品全体が波のようにリズムがあり、犯人に近づいたり離れたり、そこに緊張感や笑いや恐怖が襲ってくるという、とにかく目が離せない! 

さらに各シーンにも恐怖や笑い、涙が組み合わされている。ラスト近くのテユン刑事がヒョンギュを捕え拳銃を突き付け、そこにパク刑事がDNA鑑定結果を持ってくるシーン。このシーンに作品の面白さが全部入っています!

無茶苦茶な尋問。クアンホとかビョンスンのような人物を容疑者を仕立てての芝居、これに振舞わされる刑事たち。こんなに笑った刑事物語を知らない!(笑)容疑者に社会の弱者を持ってきて、これに対する警察の横暴。これは国民に訴える力が大きかったでしょう。科学的捜査の必要性を訴えた作品で、韓国での大ヒットが分かるような作品でした。

映像が素晴らしい。韓国の闇を映し出すような陰鬱な夜間の闇。そこでうごめく殺害現場、放置された死体、これが生々しい。事件を巡っての群衆騒動や焼肉店での騒ぎなど、集団格闘シーンがまるで現場にいるような感覚になりとうに撮ってあり、実に上手い。暴行された被害者の写真が生々しく、細かいところまで徹底的に描き上げている。

役者さんの演技がリアル、セリフが生きている。無駄な会話がない。全てを映像でみせるという配慮で、突然差し込まれる映像に困惑させられますが、目で見て楽しめる作品になっています。韓国映画から目が離せないですね!

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