18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描き、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したラブストーリー。
とても評判のいい作品。監督の経歴を調べていて興味を持ち、WOWOWシネマ初放送で観ることにしました。
監督・脚本:「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマ。今、フランスで最も勢いのある女性監督。同性愛者であることを告白しており、本作のエロイーズを演じるアデル・エネルとは07年頃から18年頃まで交際していたとのこと。
撮影:クレール・マトン:美術:トマ・グレーゾ、衣装:ドロテ・ギロー、編集:ジュリアン・ラシュレー、音楽:ジャン=バティスト・デ・ラウビエ。
出演者:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、バレリア・ゴリノ。
画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)はブルターニュの貴婦人から娘エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。
物語はマリアンヌがモデルとなって、生徒に描かせているシーンから始まります。生徒が「誰の自画像?」と尋ねる。この自画像を巡るマリアンヌの回想という形で描かれます。
あらすじ(ねたばれ):
マリアンヌは伯爵家から娘エロイーズの婚礼に必要な自画像の製作を依頼された。自画像は輿入れに先立ち、結婚相手に自分を差し出すために作られるもの。
マリアンヌが汽船を降りてボートーでエロイーズが暮らすブルターニアの孤島を訪ねる際、ボートが揺れ、海に投げ出された画具を自ら海に飛び込み拾い上げます。とても気丈な女性です。
伯爵館にはメードのソフィア(ルアナ・バイラミ)が待っていた。姉が縁談を断り断崖から飛び込み自殺しエロイーズがその代わりに嫁ぐことになった。が、彼女は自画像を画かせないという。肖像画はエロイーズにより顔が黒く塗りつぶされていた。
母親の伯爵夫人(バレリア・ゴリノ)に、「これまでの画家は画くことが出来なかった。あなたは画けますか?」と聞かれ、「画家ですから!」と自信をもって返事した。「エロイーズは散歩好きだから付き合って!」という夫人の示唆で、エロイーズをモデルとして椅子に座らせポーズをとって画くのではなく、散歩しながら彼女の特徴を押えて秘密裏に仕上げることにした。
エロイーズは修道院で生活していた。そのせいか、散歩中話すことなく自分勝手に歩き、海辺では姉を偲ぶように海に目線を送り、「泳ぎたい!」と言い出すが海に入ることはなく、閉ざされた中での生活しか知らない女性だった。荒れる海と殺風景な陸地がエロイーズの気持ちを暗示しているようです!
顔や手など露出した部分は観察した感で、洋服部分は自分が衣装を着て鏡で見て画いた。
エロイーズに見せると、「あなたは画家だったの。この絵は私でない」と怒った。伯爵夫人は「本土に帰るので、戻ってくるまでに仕上げて!」と厳命して家を出て行った。
厳しい伯爵夫人の態度に毅然としているマリアンヌに、エロイーズは「(この女は信頼できる)モデルになる!」と言い出した。エロイーズはマリアンヌに「結婚しているの?」と聞いてきた。「結婚したが今はひとり。これからずっとひとりで父の跡を継ぎたい」と答えた。
伯爵夫人不在で、箍が外れたようになり、散歩も今までと違って会話を交わしながら歩き、エロイーズは海に入り楽しみ、マリアンヌからギリシャ神話を借りて読むようになっていった。
ソフィアが妊娠してると告げた。マリアンヌとエロイーズはソフィアを原っぱに連れ出して、駆けっこしたり、転がすが、子は下りない。(笑)この時代の女性蔑視の惨めさが痛い。三人には連帯感が生まれ、エロイーズに笑みがみられるようになっていった。
ソファーで眠るエロイーズを画いて、マリアンヌは特別な感情が生まれてくる。
エロイーズがギリシア神話「オルフェウスとエウリュディケーの物語」で、冥界に妻を救いに行ったオルフェウスが地上に戻る寸前に、なぜ妻を振り返ってしまったのかと聞く。マリアンヌは「愛があったから!」と答えると、ソフィアが「振り向いてはだめなの!」と叫んだ。エロイーズはいずれ訪れる別れで“振り返ると愛は終わることを知った。
エロイーズの肖像画がこれまでのものとは異なり、真の愛情が篭った美しいものに仕上がっていった。
ソフィアが苦しみ始め、助産婦のところで下してもらうことにした。ソフィアは助産婦の子供のいる部屋で、股間を拡げ手術を受けた。マリアンヌは「見たくない」と言ったが、エロイーズはしっかり見るよう促した。手術が終わり館に戻った三人。ソフィアに手術時の姿勢を取らせ、エロイーズが助産婦役となり、マリアンヌに画かせた。エロイーズは堕胎を絵にして残し、女の性をしっかり自覚し始めた。
マリアンヌとエロイーズは村の火祭りに参加し、村人が一斉に歌い始め、ふたりもこの歌声に吸い込まれていった。エロイーヌの裾に火が移り燃え上がった!火の中のエロイーズの美しさ。マリアンヌがエロイーズにキスしていった。エロイーズがこれを受け入れた。
これを機会にふたりはベッドで触れ合うようになっていった。
館に戻った伯爵夫人に、マリアンヌはエロイーズの肖像画を見せて満足してもらい、エロイーズの花嫁姿を見て、振り変えることなく館を去った。やがてエロイーズは嫁ぎ、そこで味わった愛は苦痛だった。
マリアンヌが肖像画の展覧会に出向くと、そこでエロイーズが男の子と一緒に神話オルフェウスのページを開いている肖像画を見た。最後に見たのはオペラハウスで、決してマリアンヌに視線を移さず、涙ぐむ姿だった!
感想:
荒々しい波が打ち付けるブルターニュの孤島での、ふたりの愛し合う姿は、18世紀という時代を超えて、絵画のように美しかった。女性だけのドラマというもの珍しいですね!
女性の心理はよく分かりませんが、マリアンヌが屈託なく、くろいでいる柔らかいエロイーズに惹かれ、エロイーズはマリアンヌの強い意思と知性、佇まいに惹かれていったんだと思います。とてもシンプルで、セリフも少なく、ふたりの愛の表現力で見せてくれます!女性監督ならではの表現力でしょうか!
むしろこのドラマで受けた衝撃は、ラストでのエロイーズの結婚後の苦悩。ラブストーリーが僅か数分後に一転して社会派ドラマに転換し現在に繋がるという鮮やかさ!
ギリシア神話のオルフェウスとエウリュディケーのように、オペラハウスで再会しても、決してエロイーズがマリアンヌを見ないというシーン。
愛を確かめることなく肖像画を差し出して結婚。男性優位の中で、女性には必ずしも幸せではなかった。ブルターニュの孤島での愛に生きていた。男性優位は200年を得た今もなお、いろいろな形で続いている。
****