一目惚れで一緒になった男が、あっという間に出奔。似た男が現れると、一緒になるという女。しかし、元の男が現れるとついて行く。本当にこの男でいいのか?
プロットがしっかりしていて、このややこしい、馬鹿げたような話が、ミステリアスで、観る者に問いかけるように迫り、ラストで「なぜこの人でなければならないか」という、腑に落ちる結末が凄い!
もうひとつ、映像がきれいで、フランス映画の匂いがする。WOWOWで観ました。
原作は芥川賞作家・柴崎友香さんの同名恋愛小説。未読です。監督は数々の国際映画祭でその名を知られている濱口竜介さん、本作が商業映画レビュー作になるとのこと。今後に期待しています。
主演は東出翔太さん、ヒロインに唐田えりかさん。共演は瀬戸康史・山下リオ・伊藤紗莉・渡辺大知さんらです。
https://eiga.com/movie/87413/
****(ねたばれ)
冒頭、牛腸茂雄の写真展を見る朝子(唐田えりか)と麦(東出翔太)。美術館を出て階段を上り、先に麦が歩いていて、なんとなく麦を追っているような朝子の足取り。登りきると、子供たちが鳴らす“爆竹”で麦が振り向き、「君の名は?」といきなりキス。このキスに集約される一連のふたりの出会いを恋というのか?うまい描写です。映像が美しい。
ふたりはバイクで海岸を走行中に接触事故で転倒。全くの無傷で、朝子は麦との出会いを運命だと信じる。
麦が下宿する岡崎家。麦の友人の岡崎信之(渡辺大和)、その母・栄子(田中美代子)、そして朝子の友人・島春代(伊藤紗莉)らと、食事をしたり、花火をしたりの夢のような生活。このような生活なかで、「俺は朝子のところに必ず戻る」と言い残し、靴を買いに出て半年も帰ってこない。真っすぐで、自分を信じる朝子は待ち続ける。朝子は「麦は帰ってくる」と夢なか。
2年後、朝子は東京に出て、喫茶店で働く。近くの会社に丸子亮平(東出翔太)が大坂から転勤してくる。朝子は亮平を見て「麦だ!」と驚くが、亮平のそっけない態度に困惑。
朝子とルームメイトの女優・鈴木マヤ(山下リオ)。牛腸茂雄の写真展に出かけたが入場を断られる。が、亮平の機転で救われた。しかし、朝子の亮平に対する態度は冷たいものだった。
これが縁で、亮平はマヤに同僚の串橋耕助(瀬戸廉史)とともに招待される。このとき、串橋とマヤの演技を批判し口論となったが、朝子が「マヤの演技は彼女でなければ演じられない」とマヤを援護し、亮平と同じ意見だった。のちに、串橋とマヤはこの出会いで結ばれる。何故か?朝子と麦、亮平との出会いとどう違うかを問うている。
翌日、亮平は朝子に交際を申し込むと、朝子は受け入れ、一緒にマヤの舞台を観る約束をした。しかし、当日これをキャンセルし「もう会わない」と伝える。麦を待つ夢の中にいた。
ところが、マヤの舞台は東北大地震で中止となり、電車は動かず、亮平は歩いて帰宅中に朝子に出会った。朝子は亮平の胸に飛び込んだ!ふたりは“じんたん”というネコを飼って同棲するという仲になっていた。
それから5年後。ふたりは仙台の大復興祭にボランテイアとして参加し、住民の人たちとの交流を楽しみ、朝子は「めっちゃ、亮平が好き!」というほどに惚れ抜いていた。
偶然、朝子は春代と出会い、麦がCMのモデルとして売れっ子になっていることを知る。春代に「亮平が麦に似ているから一緒になったの?」と聞かれ、「分からない」と答えた。
亮平は大坂転勤が決まり、これを機に「“結婚しよう”!」という。朝子は亮平に知っていて欲しいと「麦とそっくりだったから一緒になった」と告白した。亮平は「もうそれは。どうでもいい」と返事した。
そんなときに、朝子は麦のロケに出会い、追っかけたが、ロケバスが去ってしまい会えなかった。このとき、一緒にいた春代が「朝子には一途にのめりこむ癖があるから危ない」と止めた。
朝子を見た麦が朝子のアパートに訪ねてきたが、朝子は会うことを拒否した。朝子は夢と現実の区別できなかった。
しかし、亮平と朝子が串橋・マヤ夫婦とレストランで大坂転勤お別れ会をしているところに麦がやってきて、朝子の隣に座り「やっぱり待っていたじゃん、約束していた!」と手を差すと、朝子はこれまでのことがなかったようについて行く。
車の中で「いままでのことがすべて夢のようだった」と麦に伝える。朝子は亮平をいつの間にか、無意識のうちに、麦として受け入れていた?
麦は「北海道に帰る!」と東北高速道を走るが、途中、海が見たいと仙台で下り被災地を走っていると、目覚めた朝子の目に荒れ果てた被災地の光景が飛び込んできた。朝子が長い夢から覚めた!
朝子は車を降り、巨大な津波防波堤を登り、荒れる海を見て、「自分に必要なのは亮平だ」と気付く。被災地の知人から金を借り大坂に転居した亮平のもとに帰る。
戻ってきた朝子に、亮平は「おまえは俺を捨てた、だから猫も河川敷に捨てた」と家に入れない。朝子は必死に“じんたん”、“じんたん”と大声で猫を探していると、「無駄なことをするな!」と亮平が声を掛け、河川沿いに走って家に帰る。朝子は必死で亮平を追って走るシーン。河川はふたりのこれまでの愛の軌跡のように思え、これを辿るように見える。
家に着くと、亮平は“じんたん”を朝子に差し出し、中に消える。亮平は朝子を捨てられなかった。ふたりは二階から渦巻く河の流れを見て、亮平が「河の水が増している。きたない川や」というと、朝子は「でも、きれい!」。朝子にはずっと河川の先を見ていた!お互い、胸の中に麦の影を抱えながら、新しい人生を歩み出す!
東北大地震、“じんたん”という猫は、ふたりがお互いを必要とする愛の記憶。うまい設定に唸る。( ^)o(^ )
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