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韓国映画「母なる証明」(2009)どんなことがあっても子供には幸せになってほしい!

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92回アカデミー賞作「パラサイト 半地下の家族」に因んでのWOWOW「ポン・ジュノ監督特集」。「ほえる犬は噛まない」(2000)から8作品が紹介され、その1本が本作です。ポン・ジュノ監督の描く母親像を覘いてみようとこの作品を選びました。

知的障害のある息子が女子高校生殺しの容疑で逮捕され、5歳のときから薬草と鍼灸師(無免許)で息子を育てたシングルマザーの母親は、息子が殺人など犯すはずがないと信じ警察や弁護士にすがったが、無駄と知り、自らの手で事件を解決しようと奔走。明かされた事実に母としての決意が求められるというサスペンス物語。

どんなことがあっても子供には幸せになってほしい!これが“母親の本姓”!」、ましてや障碍者の母、この結末に納得でした。

「パラサイト」と同様、脚本、演技、映像に圧倒的な力のある作品。何よりも物語のリズム、テンポ”がすばらしい。

暗い作品ですが笑いもあって、ミステリアス! 物語の背景として現代韓国社会の闇にもしっかり触れており、とてもリアルなドラマでした。「パラサイト」と比べて、人を描くということではこちらが圧倒的でした。

監督・原案:ポン・ジュノ、脚本:パク・ウンギョ、ポン・ジュノ。撮影:ホン・クンピョ、美術:リュ・ソンヒ、音楽:イ・ビョンウ。

出演者:キム・ヘジャウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン、イ・ヨンソク。


韓国映画 [母なる証明] 予告版

あらすじ(ねたばれ):

母親が枯れ野で無表情でぎこちなく踊り出すシーン、当初意味が分からなかった。これがラストで分かる(テーマ)という秀逸なオープニングです!

薬草を調理しながら、表で遊んでいる28歳の息子トジュン(ウォンビン)とその友人ジンテ(チン・グ)をちらちらと見遣る母( キム・ヘジャ)。このシーンでどんなにトジュンのことに気配り、愛情の深さが分かります。黒いベンツがトジュンに接触して走り去った。これを追うトジュンとジンテ。さらに飛び出す母。

トジュンらはゴルフ場でこの車を見つけ“コンチキショウ“と蹴とばし、倍賞交渉するが、逆にサイドミラーを壊されたと請求された。夕食後トジュンは金をジンテに借りるとバー「マンハッヤン」に出掛けた。家の前で立ち小便するトジュンに「薬を飲め!」と勧め、おちんちんを確認(笑)、小便の後を消すという息子溺愛の母親。

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店仕舞まで待ったがジンテはやって来ず、酔っぱらって、暗夜のなかでの帰り道、女の子に出会って「一杯飲もう!」と声を掛けたが、「男は嫌い!バカ!」と断られた。道路側の小屋を覘いて、出たところで大きな石が投げられた。トジュンは、ゴルフ場で拾ったボールを投げて、家に戻り、パンツ一枚で母の横に寝た。

ジンテは深夜ゴルフ場に入り、金になると池に入り、客と揉めた際に投げ込まれたゴルフクラブを探していた。夜間の暗闇が深い濃いブルーで美しく描かれている。

翌日、廃屋の屋上で柵に掛けられた遺体が発見された。遺体はソリン女子高2年4組のアジョン(チョン・ミソン)で頭蓋骨骨折と出血多量で死亡と判定。アジョンは父母を亡くし認知症の祖母と暮らしていた。

刑事のジェムン(ユン・ジェムン)がトジュンを連行して取り調べた。トジュンは脅され、ゴルフボールの証拠と誘導質問で犯人と認定された。

母が刑務所にトジュンを尋ね「本当に殺したのか?」と聞く。「皆が殺したというから。罪が周り廻って俺に来た」という。母は「殺しても否定よ!バカだよ!」と叱ると「バカとはなんだ!」と母親にでさえ厳しい顔を見せた。

 トジュンは「バカ!」と言われると、激しく興奮する。

母親はよく知っているジェムン刑事に袖の下で近づくが、「もう終わった!」と取り合ってもらえない。

久方ぶりの殺人事件ということで、大勢の人だかりのなかで、廃小屋での現場検証が行われた。トジュンが石を持ってアジョン(モデル)の頭部を潰す映像を撮られていた。トジュンが見物客に手を振る仕草が痛々しい。

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アジョンの葬儀に母が参加し無罪を訴えた。しかし、大勢の親戚の人達から非難、暴行を受けた。絶対に犯人にしてはいけない!アジョンの祖母がマッコリを飲んで大暴れだった。(笑)

母は町で評判のコン・ソッコ弁護士を雇って、刑務所でトジュンに会わせると、「サイドミラーを壊したのはジンテ」と喋るだけ。弁護士は愛想つかして帰っていった。

母はジンテのいる小屋を訪ねると誰もいない。中に入りフロックコートを調べていると「マンハッタン」店主の娘ミナ(チョン・ウヒ)が、次いでジンテがやってきてセックスを始めた。(笑)息子にもやらせてやりたいと思ったかもしれませんね。ふたりがことが終わって酒を飲み寝込んだ隙に、血の付いたゴルフクラブを持って退出し、警察に駆け込んだ。

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ジェムン刑事がジンテを取り調べた。血はミナの口紅で、ジンテは事件とは無関係だった。(笑)雨の日だった。外に出ると廃品回収のリヤカーに古い傘があり、これを引っこ抜いて、その男(イ・ヨンソク)に金を渡した!

ソッコ弁護士は母をバーに呼び出し「精神病者の刑期は4年だ、精神病院で過ごせばよい。もう手を引け!」と酔った精神病院院長と検事を紹介し、話合いができていることを臭わした。(笑)日本も同じようなものです!(笑)

母はぐでんぐでんに酔払ってのバーからの帰り、幼いトジュン(5歳)が小瓶を持ち自分がゲロを吐く昔の出来事を思い出す。こういう映像が突然出てきて、何が隠されているんだと、次のシーンへと興味を繋ぐ演出が多い!トジュンの病気は自分に責任があると思った!

家に帰ると、ジンテが訪ねてきており、「犯人にするとはひどい。慰謝料を寄こせ!」と金を要求し、「痴情か恨みの事件。アジョンを洗え!協力する!」「遺体が屋上にあるのは不可思議だ。普通は埋めるよ。俺が殺したぞと言わんばかりだ」と協力を申し出た。ジンテも疑わしい人物と思っていたので、これには驚きました。

母は弁護士を首にして、ジンテの協力を得て、自分で犯人を見つけることにした。鍼灸に訪れる客、公園で遊んでいる子供たちからアジョンの情報を集めた。あだ名が「米餅」というのが気になった。 

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母がトジュンに「何か思い出せないか?」と尋ねると「お母さんは5歳のとき栄養ドリンクに農薬を入れて僕を毒殺しようとした」と責めてきた。「あの時は追い詰められていた!そんな悪い記憶は鍼灸で消そう!」と言うが、牢のなかではなす術もなく、泣いて刑務所を出た。母には大きなショックだった。

母は5歳のトジュンの写真をDPE屋で拡大して今の目と比較、変化はなく可愛い目だと「あの子は変わっていない!」と安心した。その店に顔に傷のある女生徒が現像写真を撮りに来て「携帯の写真現像できる?」と店主に聞く。店主がこういう子がいたと「アジョンがこの子と一緒に来たことがある。よく鼻血を出す子だった」と母に語った。

母はこの女生徒を帰校時、待ち伏せして話かけ、携帯で写真を撮るときのシャッター音を消す“変態電話”があることを知り、自分の電話もそうして欲しいと頼み、彼女の依頼で生理品を買いにいっている間に、彼女がいなくなった。

探すと2人の学生に囲まれ、「アジョンの携帯を出せ!」と脅迫している。母は電話でジンテを呼び寄せ、ジンテが脅して学生からアジョンについての事情を聴いた。「アジョンは売春をしていた。その悔しさに寝た男の写真を携帯で撮っていた」というもの。

 

母はアジョンの叔母を尋ね、金を渡して携帯の行方を尋ねると「バカ娘は出て行ったきり!」と米櫃から携帯を出してくれた。この携帯写真をトジュンに見せてると「この男!」と言い、廃品回収の男に行き着いた。

母は町外れの廃屋に住む廃品回収の男に「無料診断で鍼灸を!」と声を掛け、あの日の事件を聞き出した。男は「犯人はへんな男で・・・」と具体的に屋上にアジョンを引き上げるまでを喋った。母が「違う!夜中だから見間違ったのでしょう。まもなく釈放になる」と話を否定すると「俺が逮捕するしかないな!」という。母は背後から「息子をバカにするな!」と襲い、男の死を確認して火を放ち、山に逃げ、枯野を彷徨していた。

薬草の調理をしている母のところにジェムン刑事が来て「犯人が捕まった。精神病者のジョンバルだ」と伝えた。母は刑務所でジョンバルに会い、「お母さんいるの?」と聞くと「いない」と。母は泣き崩れた。

トジュンはジンテとミナに迎えられ、出所した。その帰り道でジンテの誘いで廃品回収者の焼け跡を尋ね、母の鍼灸具箱を見つけ持って帰った。

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家に戻って母と食事中。「ジョンパルは何で遺体を屋上に上げた?たぶんよく見えるようにして誰かが発見できるようにしたんだよな!」と母に聞いた。母は「うん」と返事したのみ。

ヨジェ商店会の親孝行ツアー。母とトジュンも参加。バスに乗ってトジュンが母に焼け跡で拾った鍼灸具箱を渡した。母は震えて、戸惑った!

バスの中で皆が踊っている。母は「私が忘れればよい」と悪い記憶を消す腿のツボに鍼を刺した。そして皆と踊り始めた。

感想:

とてもリズム、テンポのよいミステリードラマでした。当初ジンテ、次いで廃品回収男、トジュン、最後にジョンバルへと幾重にも犯人像が替わるドラマ、そのなかで結構怖いシーンも準備されており、ミステリーとして楽しめました。

母の犯人捜査がトジュンの「あんたが毒を飲ませた!」からに始まって、アジョンの携帯を経て、廃品業者に辿り着くプロセス。伏線の回収とエピソードの繋がり、見事でした。特にDPE屋で、幾つもの映像で、アジョンが浮かび上がってくる演出がすばらしい!

母が母としての本性を幾度にも試される脚本。「毒を飲ました!」とトジュンに詰め寄られ、「犯人はトジュンでない」と廃品屋を殺し、真犯人としてのジョンバルを慰問、焼けた廃品業者宅から回収した鍼灸具箱をトジュンから渡され、その都度母としての本心を試されましたが、「息子に幸せになって欲しい。私にも責任がある。犯人にしたらこの町では生きて行けない」とこれらすべてを自分の胸に納めました。“これが、母の生々しい本姓”だと納得です!キム・ヘジャの母役はドラマにぴったりの名演技でした!

ウォンビンの目の輝きと知的障害者としてときに見せる狂気の表情、トジュンの精神状態は正常と異常が“斑”で、そのバランスの取れた演技が絶妙で、すばらしかった!

最初の母親が踊るシーンがラストで明かされるという演出、驚きました!

映画の雰囲気に合わせた淡い青色の画面、カメラワーク、音楽が印象的でした。韓国映画の最高峰、すばらしい作品でした。

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