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「おらおらでひとりいぐも」(2020)孤独をどう克服するか?コロナ禍の今だからこそ観るべき作品!

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75歳の桃子は、突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。しかし、毎日本を読みあさり46億年の歴史に関するノートを作るうちに、万事に対してその意味を探求するようになる。すると、彼女の“心の声=寂しさたち”が音楽に乗せて内から外へと沸き上がり、桃子の孤独な生活は賑やかな毎日へと変わっていくという桃子の“進化の物語”です。

寂しさ、孤独をどう克服するか?コロナ禍の今だからこそ観るべき作品と駆けつけました。そこにはとてつもない壮大な決意が描かれますが、やることは誰でもできること。(笑)

原作は芥川賞(2018)作家若竹千佐子さんの同名ベストセラー小説、未読です。年寄りの寂しさというとても暗い話を「モリのいる場所」の沖田修一監督がユーモアたっぷりに描いてくれます。老後の心配は早い方が良い、お勧めの作品です。劇場はさすがに男性の姿はなく女性で溢れていました!自分を重ねてみているんでしょうね!そんな作品でした。

監督・脚本:沖田修一、撮影:近藤龍人、音楽:鈴木正人、主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」。

出演者:田中裕子、蒼井優東出昌大濱田岳青木崇高宮藤官九郎田畑智子黒田大輔山中崇三浦透子、大方緋紗子、六角精児、鷲尾真知子


映画『おらおらでひとりいぐも』予告(90秒・今秋)

あらすじ(ねたばれ):

地球46憶年の記録がギンガ同士の衝突による星々の誕生から、初人類の出現までがパラパラ漫画のように描かれる。

桃子が雷の鳴る暗い部屋でひとりさびしそうにお茶を飲んでいる。子供を風呂に入れてんやわんやのありし日の情景を思い出して、不安に駆られ「おらの頭おかしい!どうするべ?」と喋ると、3人の男が現れ「気にするな!」「たいしたことであい!」「俺たちがついている」と言い、桃子も「このバカどお、私の心理」と「おめ、誰だ」と問えば「おらだ!」「おらだはおめだ!」。4人が踊り出す!

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3人は桃子の寂しさを擬人化したもの。(この3人によって)孤独な桃子が何故踊るようになったか?これが作品のテーマです。たまげた!というスタートです。答えはエンドロール、クレジットが終わった最後に示されます!

桃子の脳内を映像するために、寂しさのⅠ、2、3を演じるのが濱田岳青木崇高宮藤官九郎さん。このキャステングこそが作品の面白さです。(笑)

この他にどうせ(止めとけ!)という役に六角精児さん。これも適役です!(笑)

桃子の毎日は朝“どうせ”の「やめとけ」の声を聞きながら起きて、目玉焼きを作って、トーストパンの横着料理で食事をする。(笑) 7種の薬を飲んで、背中に湿布を貼って、病院に軽乗用車で出掛ける。

病院は老人で満杯(笑)TVの音を聞きながら居眠り。先生(山中崇)に呼ばれて「心配ごとはありますか?」に「痴呆になったのでは?お国言葉が出てくる!」と訴えるが「問題ない。いつものお薬上げます」。(笑) 寂しさたちが「あの先生は頼りになる」「東北弁は悪くない」と慰めてくれる。先生が認めるとデイケアーに通えるのに。(笑)

お昼はおにぎりを作って食べる。車セールスマン(岡山天音)がやってきて、やさしく説明くれるから、新車を買うことに決めた。子供たちは近くにいても寄り付かない!だから他人でもこういう時間が一番楽しめる。これでオレオレ詐欺にも遭ってきた。(笑)

そして図書館の出掛け46憶年の地球記録を学ぶ。借りた本を返すと係の澤田さん(鷲尾真知子)から「大正琴やらない」と誘われたが、断った。

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前にいる小学生と一緒に勉強しているときは、若いころに戻ったような至福のときだった。地球記録の暗唱しながら家に帰った。こうして培った地球史の知識が、これから生きることにどう生かされていくのか?

夕食を食べていると、寂したちが大正琴を「奥深いからやってみたら!」と話題にしている。そのうち、ばっちゃ(大方緋紗子)が現れた。年取ってみて分かるお年寄りの苦しみ。今になって面倒を見てあげればよかったと泣いて謝ると「それで良いんだ」とばっちゃに慰められた。

1964年オリンピックの年、20歳の桃子(蒼井優)は地元組合の男性との見合いを「田舎は嫌!自由になりたい!」とすっぽかし東京に出て、蕎麦屋で「求人求む!」を見てこの店で働くが、客から東北訛りにけちをつけられて嫌になり、定食屋に転職。そこで知り合った山県出身のトキちゃん(三浦透子)と意気投合し同部屋で「おら、新しい女だ」と流行りの「「愛して愛して愛しちゃったのよ」と唄い自由気ままに過ごしていた。

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そこに堂々と東北弁で話す男性・周造(東出昌大)が現れ、恋に落ちた。デートして写真撮られ「きめっぺ!」という言葉で結婚した。ふたりの子供が産まれ巣立って、これから「愛よりも自由」と自分らしい自由を楽しむというときに周造が亡くなった。

夜、ひとりでご飯を食べていると、そこが突然ディナーショーになって、桃子がステージで「周造、どこにいった!俺残して!・・」と歌い始めた。周造を慕ったり貶したりで「愛はくせもの大事なのは自立!」と歌い、会場が大混乱になるという妄想!(笑)

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朝、新車が来て、これでセールスマンともお別れ。そこに“おれおれ”の電話。ぴしゃりと断った。

図書館に本を返却して戻ると長男の友人である警官(黒田大輔)が「苦情があった」と枝を払ってくれた。娘・直美(田畑智子)が明日くるという。“寂しさ”が「うれしそうにしてるね」といってくれるが・・・。

次の日さやかを連れて直美がやって来た。フリルの付いたスカートのさやかが2階に上がった。要件は「金を借して!」だった。「ない!」と断ると「お兄ちゃんにはすぐやるくせに」となじって帰った。帰る際、さやかに「自由でいいね!」と声を掛けると、直美が「自由でないの?」と問うてくる。

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ビールを飲んでTV面に顔を写し「荒れが写るのはいいが、老けるのは見たくない!うつるんだ直美に!」と老けた直美を貶した。(笑) さらにさやかのフリルの付いたスカートに、むかし作ってやったフリルのスカートが気に入らなかった直美の当てつけかと娘を恨んだ。(笑)

朝起きて目玉焼きを作るとふたつ目玉。これで弁当を作って、靴を履き、リョックを背負い、山歩きの身支度で、周造の墓参りに発った。山道をあるきながら、むかしのことが色々と思い出される。「喋ってみろ!何でもいい。黙っていると癖になるぞ!」と歩きながら喋る。

枯れ葉を見て「秋か!」「なにもかも無かった亭主に早く死なれて、子供は出ていきこんな寂しい秋になるとは。何でおら好きになった」と喋ると「ほれ!」と手を出す亭主。「昔一番輝いていたのはおめと会ったころとふたりの子供を得たころ。死んでから2~3年は輝いていた。死んでよ、目に見えない世界にあって心細くなった。お前がいるずっといるふたりの世界。今は別々に居るだけだ」、亭主が「別々の方が良い」という。

幼い頃火傷したことを思い出しながら坂を上って、弁当を食べながら、周造が自分にくっついた虫を払ってくれたことを思い出し、「この幸せに終わりが来るとは思わなかった。確かに愛があった。周造は惚れたがった。周造が死んだとき喜びがあった。びとりで生きてみたかった。われの力で生きてみたかった。それが本人たらしめる!」と口にすると、「異存はないが繋がってはいない。(お前が)ひとりで行かせるために企んだ計らいだ!」と周造が宣う。

これは周造の死を受け入れるためのおらが見つけたこと、「おらはひとりでいぐも!」だ。寂しさやさとり、どうせなどが合流して賑やかなパレードになって桃子を励ます!もう寂しくない!

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桃子は周造の墓に花を手向けた。現在と若き日と少女時代の桃子が並んで夕焼けを見つめた。

この日からすっかり桃子は変わった。雪の朝の雪かき。ひとりでTVを見る。夜は風呂に入り髪を洗った。

病院で先生に会うと原生人に見え、「生きて死んで生きて死んで気の遠くなる時間を繋いだ奇跡のような命だ!」と先生の手を握って「ちゃんと生きたか!」と挨拶、これに先生が驚いた!(笑) 家にマンモスを連れて帰る気分だった。(笑)

図書館の澤田さんには「卓球をやってみる!」と返事した。そして節分に寂しさたちに豆を投げつけたが、「おらだはおめだ」と一緒にいるという。

さびしさたちと踊っているとさやかが一人でやってきて「人形を繕って!」という。「ババ、誰と踊っているの?」と聞くから「この部屋には大勢の人がいる。守ってくれるんだ」と答えた。するとさやかが「ママは興奮すると東北弁になるって!」、オラ笑った!進化のDNAか!

たくさんオラダオメダを作れ!」これが孤独を克服する秘訣だ!

感想:

周作が亡くなって自由になれると思っていたが、周造がいたときのことが忘れられず自立できない。46憶年の地球の記録から、生命が生まれ進化する過程を学び、自分の生命も進化のなかで生かされたと生きる意味を見出し、生を全うしようと、周造がわれの自由のために作ってくれた計略であったと自分を納得させ、周造の死の悲しみから解き放たれた。

このようにして生きる自由を得た桃子の生き方。寂しさを克服するために「自分の中に沢山のオラダオメダを作り、騒がしく過ごす」というしっかり脳を動かしての生活。山道を歩いて、自然に触れ、喋りながら墓参りする。桃子さんのように前向きに何かに興味を持っていくことが大切ということ。

コロナ禍は孤独に弱くなった現代人への試練かもしれない。こんなもんで死んではならない!孤独が大きな社会問題となり、イギリスでは孤独大臣が設置されたという。本作、いいタイミングで映像化された作品だと思います。

暖かくって、笑いのある老後のドラマ。田中裕子さんと蒼井優さんのふたりによる桃子さん演技なくしては語れないでしょう。ハナレグの「賑やかな日々」が良い!

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