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「ディア・エヴァン・ハンセン」(2021)

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トニー賞で6部門を受賞し、グラミー賞エミー賞にも輝いたブロードウェイミュージカルの映画化作品。監督は「ワンダー 君は太陽」のスティーブン・チョボウスキー、ミュージカル楽曲は「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」「アラジン」など大ヒットミュージカル映画に携わってきたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが務めて、さらにエヴァン・ハンセン役はミュージカル版でも主役を演じたベン・プラットが演じるという。

これは皆さん観るな!と公開初日初回に駆けたところ、なんと7人で、劇場貸し切りで観たという状況。(笑)ハリウッドが驚いているでしょう。(笑)隣が「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM Record of Memories」でした!

監督:ティーブン・チョボウスキー、脚本:ティーブン・レヴェンソン、楽曲:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール。撮影:ブランドン・トゥロスト、美術:ベス・マイクル、衣装:セキナー・ブラウン、編集:アン・マッケイブ

出演者:ベン・プラット、ジュリアン・ムーア、ケイトリン・デバー、エイミー・アダム、ダニー・ピノアマンドラ・ステンバーグ、コルトン・ライアン、ニック・ドダーニ、他。

学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいるエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)が自分宛に書いた「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、同級生のコナー・マーフィー(ジャレッド・カルワ)に持ち去られてしまう。後日、コナーは自ら命を絶ち、手紙を見つけたコナーの両親は息子とエヴァンが親友だったと思い込む。悲しみに暮れるコナーの両親をこれ以上苦しめたくないと、エヴァンは話を合わせ、コナーとのありもしない思い出を語っていく。エヴァンの語ったエピソードが人々の心を打ち、SNSを通じて世界中に広がり、彼の人生が一変しようとするが・・。(はしがき

SNS社会の中で対人不安で自分を見失った少年が、この家族のためにと吐いた嘘に耐えきれなくなって、自分を取り戻していく地味なヒューマンドラマ。これをミュージカルとして観せるために、美しい歌曲と映像で綴られていきます。

大部のセリフが楽曲になっているのが特徴でしょうか。それだけに演技評価の高いキャステイングがなされています。ジュリアン・ムーアとエイミー・アダムのお母さん対決なんて、期待が膨らみます!

SNS社会の中で、周囲との繋がりに希薄に感じ、自分の居場所が分からないで苦しみ、若い人たちの中で自殺者が急増していると現状において、意義のある作品だと思います。社会からの疎外感に苦しむ人たちに「ひとりじゃない!」というメッセージが届いてくれたらいいな!と思える作品でした。「王様のブランチ」のリリコさん。この人は苦労人、彼女が涙で「観て欲しい!」と訴える作品です。

あらすじ:

冒頭、高校生のエヴァン・ハンセンはシングルマザーの母親・ハンディ(ジュリアン・ムーア)とふたり暮らし。父親はエヴァンが幼い頃家を出て行きそれ以来、会っていない。自信が持てず日常に不安を抱えるエヴァン、腕にギブスを付けて、窓の外を見て「今日は良いね!今日はただ自信を持って・・」と「Waving Through A Window」を唄いながら、母親の車で学校に送ってもらい、「今日はセラピーの日よ」と声を掛けられ、校内へと入っていく。歌が合掌となってくるが、誰もエヴァンに話し掛けない。

ベン・プラットの歌唱にここで圧倒されます。「ラ・ラ・ランド」の冒頭シーンが浮かんできます。が、アップになると高校生としては老けすぎ。

そんなエヴァンの話し相手はジャレッド(ニック・ドダーニ)だけ。朝のミーテイングで「あれどうだ、恋人に!」とゾーイ・マーフィー(ケイトリン・デバー)を勧められても汗が出る。(笑)そんなエヴァンがぶっきら棒なコナーに出会い、「腕どうした」と聞かれ逃げようとしたところ捕まり、ギブスに「コナー」のサインをした。エヴァンはこれに「ありがとう」と答えた。

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昼休みにセラピーの宿題、自分に当てた手紙「変わらぬ日々への落胆、自分の居場所を求める気持ち、ゾーイへの想い」を綴って、図書館でこの文章をプリントアウトしているところで、コナーに出会い、彼がこの文をポケットに収めて持ち去った。

後日、校長に呼び出され、コナーの両親に会い、「コナーが自死した。彼が持っていた手紙が唯一の遺書だから話を聞かせて欲しい」と自宅に招待された。

彼がマーフィー家を訪ねると、豪華な食卓が準備され、ゾーイが、そして父親・ラリー・モーラ(ダニー・ピノ)と母親シンシア(エイミー・アダム)が待っていた。最初は「仲のよい友達ではない」と断ったが、老親の悲しむ姿に同情して、自分の木から落ちて怪我した話を、コナーと遊んでいて木(リンゴ園)から落ち、コナーに助けてもらった話にして喋ったら(嘘)、両親は大喜びした。

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エヴァンは大変な話になったとジャレットに話すと、ジャレットは「簡単だ!」とふたりでコナーとエヴァンが交換した偽メールを造った。これでマーフィー家を元気づけることにした。ここで作ったメールに合わせるように流れる高校生活の映像がとても美しいです!

一方、マーフィー家ではエヴァンが帰った後、ゾーイは「兄は金をせびり薬で施設に居た人で、“この話は嘘だ”」と、ラリーはコナーについて何も知らなかったことを、シンシアはエヴァンの話が癒しになるが、家族は一緒になって喜べないと、三人は「エクイエムは歌えない」と唄いながら、次第にエヴァンを受け入れていく。ここではエイミー・アダムの歌が聴けます!エヴァンはゾーイに彼女の好きなところを歌にして唄い、ふたりの距離が縮まっていった。

シンシアはコナーとゾーイを生した後、ラリーと再婚。4人の間には複雑な思いがあって、これを機に一気にそれが吹き出したのだった。このような複雑な家庭環境が上手く組み込まれたドラマというのが面白い!

学年リーダー・アラナ・ベック(アマンドラ・ステンバーグ)がコナーの追悼会をしたいとエヴァンに協力を求めたが、これを断った。するとアラナは「私も鬱病よ。目には見えない問題を抱え隠している子が一杯いる。この秘密を止めたいと思っている、考えてみて!」とエヴァンを説得した。

エヴァンはこのことをシンシアに話すと、励まされ、コナーのネクタイを着けて追悼会の舞台に立ちことにした。

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コナー追悼会エヴァンは準備した原稿が読めない程にびびっていたが、リンゴ園の木から落ちてコナーに救われる段階では、コナーに憑依した状態で語り、聞く人の心を動かした。このスピーチのすばらしさがネットで拡散され、彼はヒーローになった気分だった。そしてギブスをはずし、今までの人見知りのエヴァンではなくなった。

アラマから、コナーを記念してリンゴ園を10万ドル集めて果樹園にするプロゼクトに参加を求められたが、断わった。

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ゾーリーの父母から「コナーは救われた!」と寵愛を受け、もうコナーになった気分だった。ゾーリーから「兄でもない、プロゼクトでもない私の本心」と愛を告白された。エヴァンはゾーリーとの将来について甘い夢を持つに至っていった。

ここからねたばれ(要注意)

マーフィー家に母・ハイデイと招かれ、大学進学の学資提供を申し受けた。しかし、ハイデイは「他人に世話になるのではなく、これは自分のなすべきもの」と断った。エヴァンはハイデイを罵倒するような言葉を吐いた。

資金提供を持ち出すエイミー・アダムとこれを拒否するジュリアン・ムーア柔らかい表情の中で火花を飛ばす演技はみごとでした!

アラナはグランドファンデイングに行きづまり、エヴァンに「ギブスを着けた時期と外した時期に疑念がある」とコナーとの関係に嘘はないかと問うと、絶対に他に見せるなと「Dear Evan Hansen」を見せた。アラナはこれを匿名でネットに乗せ、寄付金を募った。

マーフィー家に非難のメールが殺到、ショッピング店で罵詈雑言を浴びせられる。夫婦が生前のコナーとの関係や「Dear Evan Hansen」を巡って、大喧嘩が始まった。エヴァンが「憧れたものが目の前にあって、嘘を真実にした。誰でも望むことだと思っていた」と謝ったが、事態は収まらなかった。

登校しても学友に、ゾーイからも無視されるようになった。この失態をどう償うべきか、「ブレーキを踏むべきだった」と反省し、自室に篭っていた。

仕事から帰ってきた母・ハイデイに「木から落ちたのではなく木から飛び降りた」と告白すると「そこまで苦しんでいることを知らなかった」と「夫と別れたことで心に傷を与えたことを謝り、仕事のせいにして面倒をみてやれなかったことを悔い、どんなことがあってもあなたの側にいる!」とエヴァンを抱きしめた。ジュリアン・ムーアが唄う「So Big/So Small」。母親の愛が心に染み入りました。

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エヴァンは「嘘ついていた」と謝罪のメールをSNSに載せた!それでもエヴァンは無視され続けられた。

コナーのアルバムを見ていて、好きな曲が「ネコのゆりかご」だと知って、ネットで彼のギター演奏動画を探した。

卒業式を終え、この動画をマーフィー家に、アラナに送った。マーフィー家ではこの動画を見て、絆を取り戻していった。

エヴァンはゾーイからリンゴ園に招待を受けた。そこは「コナー・マーフィー農園」だった。

感想:

ラストシーン。傷心の中でエヴァンはゾーイから、彼の嘘の中に出てくるリンゴ園に招待されました。ゾーイは苦しんでの決断だった。人を苦しめる嘘はついてならない。ゾーイとは別の道を進むことになったが、エヴァンはリンゴ園を望みながら、嘘をついてそれが現実だと錯覚したが、嘘がバレ、謝ることで、自らの道を進むと決意するという、清々しい結末でした。

ここに登場する人物はみなさん心に傷を負っていたエヴァンの嘘でその心がかき回されましたが、いずれも自らがその傷に気付き、癒していく描写に、監督らしい優しさが現れていて、観ている我々が救われます。エヴァンと母親・ハイデイ、ゾーイとその家族、学友のアラナと同じように成長していく“自分たちの物語”ではないでしょうか。

エヴァンが嘘ついて、嘘で彼の善意が拡散し人生の絶頂感を味わう尺に比して、嘘がばれて再び転落するなかで自分を見つけていく過程が僅か。テーマに比して前後段の尺バランスが悪いなと感じ、これがテーマを見え難くしていると思うのですが・・。

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