小津安二郎監督の遺作。妻に先立たれた初老男性と結婚適齢期を迎えた娘の心情を、ユーモラスかつ細やかに描き出すというもの。
小津さんは本作公開後の1963年12月12日に亡くなっているんですね!
どんなメッセージを残したんでしょうか。といことで、DVDでの鑑賞です。
監督:小津安二郎、脚本:野田高梧 小津安二郎、撮影:厚田雄春、美術:浜田辰雄 荻原重夫、編集:浜村義康、音楽:斎藤高順。
出演者:笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、中村伸郎、東野英治郎、岸田今日子、北竜二、加東大介、杉村春子、他。
あらすじ:、
サラリーマンの平山周平(笠智衆)は妻に先立たれ、長女・路子(岩下志麻)に家事の一切を任せて暮らしていた。友人・河合(中村伸郎)に路子の縁談を持ちかけられても、結婚はまだ早いと聞き流してしまう。
そんなある日、中学の同窓会に出席した平山は、酔い潰れた元恩師・佐久間(東野英治郎)を自宅に送り届けた。そこで彼らを迎えたのは、父の世話に追われて婚期を逃した佐久間の娘・伴子(杉村春子)だった。それ以来、平山は路子を伴子のようにしてはならないと結婚を真剣に考えるようになった。
平山は路子には好きな男がいると聞き、この男が長男・幸一(佐田啓二)の社の三浦(吉田輝雄)と知って、幸一に話をさせてみた。ところが三浦には決めた人がいることが分かった。平山は三浦に当たったことを侘び、河合が持ってきた縁談に乗らないかと勧めた。
路子は「分かった!」と素直の承諾し、二階に上がった。路子は紐をたぐりながら泣いていた。(このシーンから婚礼場出発のシーンに跳ぶ)
婚礼の日、平山は美しい花嫁姿の路子を「幸せになりなさい!」と送り出した。
婚礼式後、平山は河合らと小料理屋で落ち合うが、すぐに退座し、マダム(岸田今日子)が亡き妻似というバーに立ち寄った。マダムが「いつもの曲」と“軍艦マーチ”を流してくれるが、気分が乗らなかった。帰宅すると、何時のも路子の「あかえりなさい」の挨拶はなく、帰りを心配して待っていた幸一夫婦も帰ってしまった。
ひとり軍艦マーチを口ずさむが寂しさがこみ上げてくる。部屋を見渡すと実に整然と整頓され人の気配は感じられない。平山は台所で水を飲み、椅子に座り込んだ。その背中は・・。
感想:
自分の面倒をみさせて行き遅れたでは申し訳ないと、お見合いで娘を嫁がせた平山の老いと孤独がとてもシンプルに描かれ、笠智衆さんの名演技で観せてくれました。
娘を嫁に出し、寂しさを覚えるのは理解できますが、これほどまでにと思いました。やはり時代のせいでしょうか。
冒頭、平山の会社の窓からいくつもの煙突が見えるシーン。高度成長政策により日本経済が急速な発展しているのが分かるシーン。2年後は東京オリンピック開催でした。1962年という時代のエピソードが冷蔵庫、TV、ゴルフ、女性のファッションなどがしっかり描かれていました。小津作品のいいところだと思います。
当時の笑いはクレージーキャッツ。歌はフランク永井とマヒナスターズ。若者は歌声喫茶アシベやリーベでした。にもかかわらず、本作の笑いは今ならセクハラになりかねないレベル、歌は軍艦マーチ。男性社会匂ぷんぷんの戦中派の親父さんたちの物語でした。(笑)
この作品の中で特異なシーンがあります。幸一夫婦(妻・秋子:岡田茉莉子)は共稼ぎで、お財布は全て秋子が握っている。幸一が「布団と敷いて!」と言っても「自分でやりなさい!」ときっぱり断る。(笑)
新しい夫婦の形をしっかり見せています。
路子が三浦には決めた人がいることを知って二階の自室にこもり、紐をたぐりながら泣くシーン。「100回?リテークした」という岩下志麻さんの証言。このシーンは「あれ!路子が?」と気付くシーンになっていて、路子の本心が描かれていた。
戦中派の叔父さんたちの時代が終って、新しい時代の夫婦、家族関係が始まった。
タイトルは秋刀魚の “秋“に注目して戦中派男性の”人生のたそがれ時“と解釈しました。予告編とは全く異なる所見ですいません!(笑)
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