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「早春」(1956)小津監督の47作品目。夏の物語に「早春」のタイトル?

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WOWOWの特集「日本映画の巨人:小津安二郎」の3作品東京物語(1953年)早春(1956年)東京暮色(1957年)の中のひとつ4Kリマスター版で公開されたもの。小津作品ということになると、沢山の評論があり、むつかしい映画なんだろうと敷居が高く観ておりません。ということで、小津作品に挑戦してみましたが、つまらない所見になっているのだろうと恐縮です。

戦後からようやく立ち直りつつある東京を舞台に、若いサラリーマン夫婦の危機と再生、2人をめぐる人間模様を描いたもの。

監督:小津安二郎脚本:野田高梧 小津安二郎撮影:厚田雄春編集:浜村義康、音楽:斎藤高順。斎藤さんが自衛官で小津作品の音楽を担当していたなんて知らなかった。今話題の「ブルーインパル」の作曲者、驚いています。本作で旧陸軍の話がでてきますが、こんなことに繋がっていたとは!!

出演者:淡島千景池部良高橋貞二岸恵子笠智衆山村聡、北川康一、杉村春子、浦邊粂子、三井弘次、加東大介中村伸郎、他。当時のオールキャストと言っていいのでは!

あらすじ;

東京蒲田の住宅地に暮らし、丸の内のオフィス(東亜耐火煉瓦)に電車通勤するサラリーマン杉山正二(池部良)。妻・昌子(淡島千景)は自宅で洋裁を営む。このころ、洋裁というのは流行りだった。

朝の出勤風景。住宅地から一斉に人が動き出し、同じようないで立ちで、砂利道を歩いて蒲田駅に急ぐ。

会社では男女別部屋。男性は事務、女性はタイプ室。電話は部屋にひとつ。

この日、大津に左遷された正二の元上司で仲人の小野寺が業務報告で会社を訪れていた。ふたりはひさしぶりに小野寺の同僚で脱皿したカフェを営む河合豊(山村聡)を訪ねた。そこで出た言葉は「人生サラリーマンだけでないぞ!最後は女房!」というものだった。正二は「伺っておきます」という気持ちだった。

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家に戻ると、妻の昌子が甲斐甲斐しく着替えを手伝う。が、会話のなく、このごろ遅いことに疑念をもつようになる。

母のしげ(浦辺粂子)に話すと「夫の同じ!女がいる。私は放っておいた」という。

麻雀で遅くなっても、昌子には“おかしい!”軍隊仲間の集いに参加して、終わったあとに自宅に仲間(三井弘次、加東大介)を連れて帰り、「酒!」と騒ぐ。昌子には耐えられなくなっていく。(笑)

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そんな中で、通勤仲間が集まって、江の島の湘南道をピクニックすることになった。これにタイピストでちょっとハイカラな「キンギョ」こと金子千代(岸惠子が参加。彼女は通勤電車の中で会う正二に憧れを持っていた。ふたりが通りがかりのトラックに乗って目的地にいくという、とんでもない行動で、社内で大きな話題になっていった。

ある日、帰宅した正二のワイシャツに口紅がついていることを知った昌子は、悩んだ末に黙ることにした。

会社でキンギョと正二のことが男たちの中で話題になり、キンギョを「女房のいる男に手を出すな!ヒューマニズムに反する!」と責めた。(笑)これに耐えられず、キンギョは正二の家を訪ね、外に呼び出す始末。正二もこれには戸惑った!

ふたりの関係をはっきり知った昌子は家を出て、旧友の婦人記者富永栄(中北千枝子)のアパートに同居して、杉山からの電話に出ようとしなかった。

こんな状況を知ってか知らずか、総務部長(中村伸郎)から岡山の三井工場転勤を打診された。返事は保留としたが、仲間たちは「会社の身勝手人事だ」と慰留を勧めた。

会社に憧れ入社したにも関わらず、難病で苦しんでいる同僚の増田(三浦勇三)を見舞って、励まし帰宅した。その翌日、増田は亡くなった。

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正二は転勤を受け入れ、三石へ旅だった。途中、琵琶湖畔で小野寺に会い事情を話すと「いざとなると、会社なんて冷たいもんだ!やっぱり女房が一番アテになるんじやないか、火事は小さいうちに消しておけ!」と忠告された。

三石工場の勤務。東京と違って、話す相手もおらず、街も小さい、と思って社宅に帰ると昌子が待っていた。蒸気を上げて走る機関車(県境で上り坂なんです)を窓から眺めながら「あれでいつか東京にも戻るか!」と昌子に話しかけた。

感想:

面白かった。笑いました!何気ないセリフにも人生訓が詰まっているという無駄のないセリフに関心しました。街で拾ったものなんですかね!

時代が詰まった作品で、当時のサラリーマンの生活、借家生活など自分のアルバムを見ているようでした。なかでも借家生活。8丈の間が、夫婦の寝室であったり、居間であったり、仕事場、応接間になるという、当時の生活様式ほとんどがこの部屋で繰り広げられる物語を2時間で描いて、飽きさせない!この面白さ。

この部屋から見える物干し竿の洗濯もの。これがシーンごとに変わる。洗濯ものに時代が見える。こんなことばかりに目がいく。(笑)

どのシーンもカメラ位置に寸分の狂いがない。職人気質の几帳面なカメラマンだと思いました。(笑)

蒲田駅までの徒歩出勤。まだ舗装されてない。日本の道路はほとんどが未舗装だったんですね。1944の映画「怒りの葡萄」ではオクラホマの農場まで舗装されている時代に。

ロケ地の琵琶湖と岡山県三石(当時耐火煉瓦の街)の風景が印象的でした。

山陽本線はまだ蒸気機関車だった。私はこの列車で、沢山の煙突から黒い煙を吐く三石の街を見ながら上京しましたから、三石のシーンはことの他感動しました。しかし、当時大人の人がこんなことを考えながら生活していたなど考えもしなかった。(笑)

夫婦危機といっても、今の時代ではよくある話。しかし、当時の男性社会の中では、妻・昌子が取ったような行動はめずらしかったんでしょうね!時代の変化のなかで女性の生き方を描きたかったんだろうなと!それに今も昔も変わらない、サラリーマンの悲哀がよく出ています!(笑)そんなことを考えながら観ました!

夫の転勤で妻が三石の夫を追ってきて危機が収まるという結末。人生の幸せ、豊かさは何か?煙を吐きながら走る蒸気機関車の見える部屋で「あなた、本を読むようになったんですね!」と語りかける妻の言葉に、生活の安らぎを感じるエンデイングでした。夏の物語に「早春」のタイトル、これは今の時代に届けてくれた監督のメッセージなんだと思っています。

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