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「青いカフタンの仕立て屋」(2022)伝統のペトロールブルーに隠れた、狂おしい性の話だった!

映画で馴染みのモロッコが舞台、魅惑的だ!ということで観ることに。シネマクレールで鑑賞。でも、そんな話ではなかった。ナイスな宣伝でした!(笑)

結構女性客は入っていました!「カフタンドレス」というのが魅惑的なんですかね!

監督:マリヤム・トゥザニ(女性)、脚本:マリヤム・トゥザニ ナビール・アユーシュ、撮影:ビルジニー・スルデー、編集:ニコラ・ランプル。

出演者:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ、他。

物語は

海沿いの街サレの路地裏で、母から娘へと受け継がれるカフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリム(サーレフ・バクリ)とミナ(ルブナ・アザバル)。ハリムは伝統を守る仕事を愛しながらも、自分自身は伝統からはじかれた存在であることに苦悩していた。ミナはそんな夫を理解し支え続けてきたが、病に侵され余命わずかとなってしまう。そんな彼らの前にユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)という若い職人が現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。ミナの死期が迫る中、夫婦はある決断をする。(映画COM)

2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞受賞作です。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

ブルーの布地が波打つ映像。撚り紐を作るユーセフ。布にこれを縫いつけていくハリム。これを見つめるミナ。この三人の複雑な心の内が覗けるような冒頭シーン

ハリムとミナは結婚歴25年の伝統の“青いカフタン“に魅せられて一緒になった夫婦。 

ハリムはモロッコ社会では厳禁のホモセクシュアル。それだけに伝統を大切にしてカフタンの手織りに拘り、今では力のある職人だ。そんなハリムを愛するミナは、祈りの中で過ごし、母親のように見守っている。ユーセフはハリムの作るカフタンに憧れてこの店にやってきた慎み深く繊細な青年だった。

ミナはお客がカフタンを欲しがっても、早く欲しいという要求は受け入れず、ハリムのペースで作る作品を楽しんでいた。しかし、ユーセフが来てからのミナは落ち着かない。ちょいちょい作業場を覗く。(笑)

夜、ミナが自宅アパートに引き上げてもハリムとユーセフは刺繍作業を続ける。

ユーセフは「良い女性ですね!」とミナを褒める。ハリムが帰宅すると台所でミナが苦しんでいた。ミナは乳癌の切除手術を受けており不安がよぎった

次の日、ハリムは50年昔のコートの修理を頼まれるが、これを修理できるのが自分しかいないと引き受けた。コート地の感触をユーセフに教える。

ハリムは店が終るとひとり路地裏の大衆浴場に向かい、男性を見つけて関係を持つ。こんな夜、ミナは寝室で正装して神に祈りをささげる。次の日には普通の夫婦として過ごしており、ハリムに対する不信感などない。

ハリムはユーセフに布の裁断から初めて、カフタンの作り方を教えることにした。ユーセフが撚り紐を作り、ハリムが布に金糸でこれを縫いつけていく。ハリムがユーセフの手を取って刺繍を教えている姿を見ると、ミナは心穏やかではいられない。(笑)

夕食時、ミナは「若いユーセフは辞めるよ」と言うが、ハリムは「彼は違う!」と否定した。ユーセフの目の輝きが違っていた。

ユーセフが夜残って仕事をしたいと言いうが彼の手豆を見て止めさせた。その夜、ミナはベッドでハリムを求めた

次の日、ミナは納入したピンクのサテンを捜すがない!ミナはユーセフのせいだと責めるが、ユーセフは「覚えがない」と答えた。ユーセフはハリムに助けを求めた。

仕事が終わって、ミナはハリムを誘いカフェでお茶を楽しむ。帰りに警官の検問を受け、ハリムは結婚証明書の提示を求められた。ミナは「何もしないのが一番」と冷静な対応を求めた。

その夜、ミナが倒れた。ハリムが受診を勧めたが「意味がない。これ以上何をやっても無駄」と断った。ハリムはミナの側で過ごした。

ハリムは店に出てユーセフと刺繍をする。ユーセフに「カフタンは次の世代に繋がる」と手を取って教えた。客が来るとハリムが対応するが応対がまずく注文は取れない。夜、アパートに戻るとミナが豪華な食事を作って待っていた。ふたりで食事。ミナが店に出たいという。

ミナが店に出ても、もはや客に接することが難しくなっていた。客がピンクの布が欲しいとやってきた。ユーセフが「ピンクの布は間違えて問屋さんに返した」と言って店を出た。ユーセフはミナを庇い、今までこのことを口にしなかった

ミナはアパートで過ごすようになり、ハリムが戻って買い物をし、大衆風呂に出かける。ミナの食事も細くなってきた。夜が明けると店に出て、客の注文を取ってユーセフと刺繍を始める。こんな時にユーセフが「愛しています!」と顔を近づけてきた。ハリムはこれを拒絶して涙ぐんだ。ハリムは「他に誰かを捜してください」と店を出て行った。

ハリムはひとりでサランにアイロンをかけ、裁断し、刺繍をする。アパートに帰ればミナの着替えを手伝い、料理をして、ミナに付き添って寝る毎日が続くが、遂にミナが苦しみ出し医者にかかることになった。

医者は「モルヒネを増やす。他にすることはない!美味しいものを食べさせてゆっくりさせなさい」とハリムに指示した。ハリムは「私は別の方法を取りたい」と答えた。

ハリムとミナは窓から友人の妻の葬列を見た。ミナが「髪を洗って!」というので、ハリムは丁寧に髪を洗った。「25年前から洗ってもらえばよかった」と喜ぶ。ハリムは店を閉じ、ミナと過ごすことにした。

そこに「1週間も店が閉まっている」とユーセフが訪ねてきた。ユーセフは事情を知って「店で仕事をしたい」と申し出た。ハリムはユーセフに店の鍵を渡し店に戻した。

ユーセフが「カフタンは高価なのでここで仕事をする」とアパートに、ミナが大好きなミカンを持って、戻ってきた。ユーセフは「ミナは強い女だ!回復する!」とハリムを励ます。ハリムは「母に死に別れ父には虐められたがミナが癒してくれた。だからいつもミナの側にいた。これは揺るがない!」とミナとの絆を話した。

ふたりはミナを介護しながら刺繍の仕事をした。ミナがユーセフを呼び「あなたには感謝している!あのピンクのサテンは見つかったがあなたには隠して話さなかった」と謝罪した。ミナは病で倒れ、これまでのユーセフの行動を思い出し、「ユーセフは心から信頼できる、ハリムに必要な男だ」と信じることが出来るようになっていた。

ハリムはミナの着替えを手伝い、背中の浮き出た骨が痛々しかった。

ユーセフが料理を作って三人で楽しくたべた。三人の生活が始まった

トロールブルーのカフタンが出来上がっていくのを嬉しそうにミナが観ていた。音楽に合わせ三人でダンスをした。夜、ベッドの中でハリムは「恥を欠かせた!すまなかった!」とミナに詫びた。ミナは「あなたは誰よりも純粋な人だった。妻であってよかった」と顔を寄せてきた。

トロールブルーのカフタンが出来上がった。ミナは「結婚式で着たかった」と呟いた。その後、ミナが「ふたりでお風呂に行って!」と勧めた。

ふたりは大衆風呂で個室に入って行った

ミナの最後の着かえ。ハリムはミナの無くなった乳房の傷を撫でながら一層の愛おしさを感じ泣いた。ミナは「愛することを恐れないで!」という言葉を贈った。ユーセフが「出来上がったカフタンを届ける」というのを止めた!

ミナが亡くなった。みなさんが集まってお祈りをしてくれた。ミナは白い布で巻かれ棺に収まっていた。ハリムが棺に安置室に入ると世話人の女性たちが「清められているので触らないで!」という。ハリムは女性たちを去らせ、ミナの衣装をペトロールブルーのカフタンに着替えさせ、ユーセフとふたりで棺を担ぎ、怪訝な顔で見つめる人々にミナの姿を披露しながら、墓地に急いだ!

まとめ

 “青いカフタン“に魅せられて一緒になったミナとハリム。ハリムはモロッコが禁止するホモセクシュアルだったが、人がどう思おうが、ふたりの愛に微塵の陰りもなかった。ミナは神に祈りハリムを許して、愛してきた。勇気のある物語だと感動しましたが、さらにミナが癌でこの世を去るにあたり「ハリムを幸せにしてやりたい!ゲイで生きなさい!」とハリムを激励する様に“これが真の愛だ“と感動しました。

神秘的な美しさのペトロールブルーのカフタンを背景に描かれる愛の物語。“純粋な愛を感じる物語”になっていました。マリヤム・トゥザニ監督の勇気に感服です。

物語はセリフが少なく、俳優さんの表情や仕草で感じとる演出になっていました。これがすばらしい!

ルブナ・アザバルの女性として愛されない悲しみのなかで夫ハリムを愛し続ける表情。サーレフ・バクリの無口の中で妻を労わる表情。アイユーブ・ミシウィがハリムを尊敬の念で見つめる目の演技、いずれもすばらしい演技でした。

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