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「神々の山嶺(いただき)」(2021)何故山に登るかに答えが見つかるか?

夢枕獏さんの小説を谷口ジローさんが漫画化した山岳コミックの傑作「神々の山嶺を、フランスでアニメーション映画化された作品。すでに日本では「エヴェレスト 神々の山嶺」(2016)として実写化されています。

フランスでは大ヒットを記録し、同国のアカデミー賞にあたるセザール賞の長編アニメーション映画賞を受賞した作品です。

本作の企画は谷口ジローさんがフランスに持ち込んだものだそうで、谷口ジローさんはフランスではとても人気のある方だったようで、完成を観ないで亡くなった(2017)のはとても残念だったでしょう。

フランスの人たちはどこに関心があったのか、「何故山に登のか?」をもう一度考えてみようと挑戦してみました。

監督パトリック・インバート、原作(作):夢枕獏原作(画):谷口ジロー脚本:ガリ・プゾル パトリック・インバート ジャン=シャルル・オストレロ、音楽:アミン・ブアファ。

声優堀内賢雄(深町誠役)、大塚明夫(羽生丈二役)、逢坂良太(文太郎役)、


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あらすじと感想(ねたばれ:注意):

冒頭、1924年エヴェレスト山頂付近で、マロニーとアーヴィングが風吹の中、写真を撮って登る姿、この映像は写真?いやそれ以上の感度で繊細に雪面を捕らえている、氷壁の美しさ。一気に物語に誘ってくれ、これが山に登る理由ではないでしょうか。すばらしいアニメ描写の力で、これがフランスサイドの製作理由かもしれない。

カトマンズ。登山家・深町誠はエヴェレスト南壁登山隊のカメラマンとして参加したが、8500mで登頂を果たせず、悶々としているところにある男が「特ダネのマルローのカメラを買ってくれ!」とせがまれたが、断った。その後、路地裏でこのカメラを巡って言い争っている男を見た。この男は8年前に登頂に失敗したエヴェレスト登山遠征隊にいた羽生丈二だった。

深町と羽生が、すっかり登山家らしい風貌なのがいい。イケメンでは困る。(笑)

帰国した深町は雑誌編集長の宮川に「マルローが撮った写真を現像できたら、エヴェレスト登山史が変わる」と羽生を追うことを申しでたが、「もう古い話だ、やめとけ!」と断られた。しかし、深町は諦められず、羽生の過去を調べ始めた。

羽生は天才的なクライマーだった。幼いころから山登りが好きだった。アンナプル遠征隊員募集があったおり、貧乏人だからと選に漏れた羽生は怒りをぶつけるように、友人の井上を誘って一晩で鬼スラ(谷川)を登り詰めたという逸話のある男だった。このときの話が仲間のなかで「ザイルに繋がれたふたりが宙吊りになったらどうする」と話題になったが、羽生は「俺は切る!切られてもいい。でないと意味がない」と言い切った。このことは後に彼の登山人生に大きな影響を与えることになった。

このころ、羽生と「どちらが先にやるか?」と競っていたクライマー・長谷常雄がいた。あるとき、ふたりは鬼スラを単独で登ることを話していたが、長谷が冬季単独鬼スラ登頂を成功させた。

羽生は長谷に対抗するように穂高屏風岩の単独登頂を狙っていたが、後輩の岸文太郎にせがまれて、彼とザイルを結ぶことにした。不幸にして文太郎のミスでふたりは宙吊りになり、文太郎が自らザイルを切って落下し、羽生は救われた。文太郎の姉・涼子に侘び、その後、ふたりは手紙のやりとりするようになった。

登攀シーンが丁寧に描かれて、アニメならではの緊張感のあるシーンになっていて、これもフランスサイドの拘りの映像ではなかったかと推測します。

羽生は競って世界三大北壁に挑んだ。しかし、最後のグランドジョラスで落下事故を起こし宙吊りになりながら、ザイルに補助綱を巻き、口でそれを咥えて懸垂し、安全なテラスに辿り着き、ここで文太郎の夢を見て、救助されるという奇跡の生還を果たした。このシーンの映像も面白い。羽生は文太郎とともに山を登っていた。羽生にとって山登りは文太郎への贖罪だったかもしれない!

深町は涼子と接触することができ、彼女から「しばらく便りがなかったが、今度は遠いところに行く!」と羽生から連絡あったと知らされた。深町はこれまでの羽生の登山のやり方が「先にやる!」から、世界で誰も成功していない「エヴェレスト西南壁、単独、無酸素登頂!が」をやると読んで、ナムチャバールの山小屋を訪ねた。そこに羽生がいた。羽生は「山は止めた!」と言った。深町は「諦めない!」と予想し、ベースキャンプ適地で羽生を待った。そこに羽生がシェルパのツエリンを伴って現れ、何も言わず、テント支柱を投げてよこした。夜の星空の美しいこと!

深町は「なぜ先を競って山に登るか?」と羽生に聞いた。答えは「分からない!山に憑かれている」だった。

ここをベースにして、ツエリンが残ることになった。

天気待ちして、三泊四日の行程で「単独だから俺にかまうな、お前がとらぶっても同じだ」と登山を開始した。

羽生は振り向くことはなく登り続け、深町は必死に彼を追い続けた。夜は羽生とテントで寝た。ここでの雪面の美しさがこの作品の見せどころです!

翌日も深町は羽生を追い岸壁に取り付いたところで、ベースのツエリンから「嵐が来るぞ!」と連絡を受けた。突然周囲が真っ赤になって気を失った。羽生の「アイゼンをはずせ!」の声。気が付いたときはテントの中だった。セルパから「7500mで凍傷、これを過ぎると8000mで死が待っている」と教わっていた。(エヴェレスの標高は8849m)。

羽生が「あと一歩でダメだったとき、ここでマルローの遺体とカメラを見つけた。8100mだ。フィルムがあれば成功したかどうかが分かると思ったが、そんなことはどうでもいいんだ」と話した。

朝出発するとき、深町は咳が止まらなかった。羽生に「嵐がくると助けられん!昼には渓谷に着けるから帰れ!」と追い返された。深町はアイスハンマーで岸壁を登る羽生の姿を見ながら下った。羽生は岸壁を登り切り、頂上へと足を進めていた。

深町はベースに戻り、ツエリンに「羽生は登頂したか?」と聞くと「成功しただろう!」と言った。ここで2日間羽生の帰りを待ったが、戻って来なかった。ツエリンから「彼は帰らない」と預かっていたマロニーのカメラと置手紙が渡された。そこには「この手紙を読んでいるなら俺は死んでいる。登った理由は見つからないが、お前が突き動かしたことだ!最期まで頑張る。後悔はない!」とあった。

深町は東京にもどりマロニーのカメラが撮ったフィルムを現像したが、何も写ってなかった。深町は「なぜ先に頂に命を懸けるか、今は分る。しかし、そこに理由はない。頂も中間点だ。登り切っても歩き続けろ!」だと思った。

まとめ

原作の恋愛部分を除き、徹底的に羽生の生き方と、エヴェレス山嶺の美と厳しさ、そして登山の厳しさを描いた作品だった

羽生は好きで山に上り始め、野心に芽生え、何度も挫折を味わい、文太郎への贖罪で山に登った。こんな羽生の生き様が、私の人生に重なってくる。「登山は人生だ!」と感動します!

最期のエヴェレス西南壁、単独、無酸素登山。深町が倒れなければ楽に頂をきわめていたが、彼にはそんなことはどうでもよかった。登山できたことに感謝していた。彼にとっての登山は“生きる“ことへと変化していた。こうさせたのは何か?冒頭のエベレストの美しさ、尊厳さではないかと思います。

この作品は「日本人が作ったの!」と言う程にストーリーの情感も映像も、日本的なものになっています。日本の山も東京もよく調べて作られています。フランスで人気が出て世界に配信されるとなると、山好きとしては、ちょっと誇らしい気持ちにさせてくれる作品でした。

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