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濱口監督「PASSION」(2008)言葉のバトルで認知する、真実の愛とは!

 

「悪は存在しない」(2023)がよく分からなかった。(笑)濱口竜介監督はいかなる人なりやと興味を持っていました。(笑)

本作は東大(文三)卒業後、東京芸術大学大学院に進学、修士課程終了作品とのこと。とても評判のよい作品ということで、WOWOWで収録、鑑賞しました。

結婚を控えた一組のカップルを軸に男女五人の感情のもつれあいを繊細かつ情緒的に綴った作品

「真実の愛とは?言葉で認知するしかない!」として繰り広げられる言葉のバトル。この積み重ねで、普遍的な答えが見出されていくプロセスが圧巻だった(修士論文)。そして「寝ても覚めても」「偶然と想像」「ドライブ・マイ・カー」へと繋がっていく。

濱口竜介監督の作風を知るにはよい作品だった言葉の面白さ、言葉の力を信じ生きていける感覚になった

監督・脚本:濱口竜介撮影:湯澤祐一、編集:山本良子。

出演者:河井青葉、岡本竜汰、占部房子岡部尚、渋川清彦

物語は

結婚を間近に控えた一組のカップル。仲間の祝う誕生パーティーの席上で、期せずして男の過去の浮気が発覚する。男と女は別れ、それぞれの夜を過ごす。

等身大の20代男女が、夜の横浜を舞台に繰り広げる軽佻浮薄な恋模様にも形而上学的な愛に関する考察、にも見える。彼らの辿り着いた結論に対して起こるのは感動か、嘲笑か。(神戸映画資料館上映資料より引用)


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あらすじ&感想:

横浜のダウンタウンを望める公園で、貴子(占部房子)は恋人の健一郎(岡部尚)と亡くなった猫を埋葬していた。このあと大学の同窓生・果歩(河井青葉)の誕生会に参加をする。貴子は猫を飼うために健一郎と付き合っているのかもしれない。(笑)

果歩は同棲中の智也(岡本竜汰)とタクシーで会場に急いでいた。果歩が「この機会に結婚を発表したら」と聞くと、智也は「果歩の口から言って欲しい」と返事した。それほどに智也は浮気ものだった。

レストランでの果歩の誕生会

参加者は果歩と智也、貴子と健一郎、そして毅(渋川清彦)と妻の鞠枝(作間ゆい)の3つのカップ。このカップル、実はそれぞれパートナーがいながらも別の女性に惹かれる男たちだった。果歩が智也との結婚を発表すると、貴子が智也を不思議そうに見る。健一郎が「果歩、離婚したら俺と結婚しよう」と不謹慎な言葉を口にする。毅は「間もなく子供誕生だ」と無関心。

貴子と智也は関係があった。また、智也と健一は果歩を巡って争った仲だった

 この導入部から、物語の展開にわくわくさせられる

 夜9時過ぎ、女性たちは引き上げ、男性3人で2次会にと街に跳び出したが、貴子から健一郎に「寄って欲しい」と電話が入った。健一郎は「知った仲だから一緒に」と男性全員で貴子のアパートに押しかけた。

貴子のアパートでの健一郎、智也、毅の行動

智也は久しぶりに会った貴子に好意を感じた。毅は健一郎に「貴子はやめとけ、好きな女のために金を残せ!」と忠告した。貴子は修士課程を終え、叔母のアパートに住み、叔母の助手を務めている。

そこに貴子の伯母で小説家のハナ(優恵)が立ち寄った。いきなり「健一郎はあんた?」と毅の頬を張った。(笑)これが縁で毅はハナに惹かれていく。「お酒とたばこが欲しい」とうハナの求めで賢一郎と貴子が、「俺も!」と智也も一緒に買い出しに出掛けた。

買い出し連中がアパートに戻ったときに、毅は鎌倉に帰るハナを見送りに出て不在だった。ハナも男癖が悪いが、毅はすっかりハナにのぼせあがってしまった。妻が出産前ということもあった。毅が戻ってくるまでフリスビーで遊んだ。智也は貴子にキスすることができた。

毅が戻ってきたところでお開きということでそれぞれ自宅に戻った。

朝方、智也は健一郎を連れてアパートに戻った

健一郎は果歩がうたた寝して出迎え、智也が果歩にコーヒーを入れる姿を見て、自分が出る幕ではないと智也のアパートを去った。

数学の教師・果歩は学期末テストを終え、虐めで生徒が自殺したことで暴力の禁止を訴えた

「暴力は自分が手を出すものと相手から受ける2種類あり、暴力を止めるには自分が手を止めることだ」と説いた。理由は暴力が暴力を呼ぶからだと。これに反対する生徒が現れ、果歩は説得できず教員としての自信を失った。果歩の頭で考えただけの“言葉には力がない”。人生の未熟者であることが露呈している。

果歩は臨時講師の智也が帰宅すると教員としての自信がないと訴え、側にいて欲しいと結婚を訴えた。智也には転勤、外国出張が制約されると、果歩のこの弱さが重荷だった。智也は果歩が仕事を持たないことに反対したが、形として結婚を受け容れ、果歩の母親(天光真弓)から結婚の承諾を得ようとするが、母親に「あなたには誠意が見えない」と見透かされた。

智也は貴子の愛を得ようとアパートを訪ねていた

そこに「様子を見に来た」と健一郎が現れた。健一郎は「なんでここにいる」と智也と一悶着起こしたが、貴子の「帰って!」の言葉で「俺は果歩のところに行く」と帰っていった。

毅が「ハナさんに謝りたい、住所が知りたい。自分を知りたくてきた」とやってきた。そこに智也がいるのを知り「何でお前がここにいる」と厳しく問うた。

智也も「自分を知りたい」と、質問に本音を答えた人が次の質問が出来る“真実の水”ゲームを提案した。

リスクが高いエームで絶交となるかもしれないが「自分を知るためだ」と始まった。ここが一番面白い言葉のバトルシーンだ。言葉のバトルで真実があばかれていく。これが面白い。

「貴子は3年前、健一郎に愛はあったのか?」と智也の質問から始まった。貴子は答えない。毅が「お前が嫌いだ」と言い始め、毅によって「智也は女にだらしない、誠意がない、頭が良いという自惚れの強い、周りをバカにしている。理屈ばかりで空っぽだ、真剣に人を愛したことなどない」と暴かれた。ふたりの激しいバトルだった。

貴子は、過去の智也との関係に愛を認めない。「健一郎との関係は愛ではなく一緒にいるのが心地よいからだ」と別の愛の形を主張する。

貴子がひつこい毅の質問に「殴って見たら!何がが見えるかも」と誘った。毅が貴子の頬っぺたかを本気で殴った。すると貴子は殴り返した。毅は激怒し、風呂場に貴子を押し込め水道蛇口で水攻め、苦しむ貴子にキスをする。すると貴子はこれに応じふたりは激しく絡み合う。智也はふたりの争いを止めようとシャベルを準備するが絡み合う姿を見て止めた。貴子の本性が見えて来た。

健一郎は果歩を連れ出し、もくもくと煙を吐き出す煙突をバックに、3分間愛お言葉を吐く。そこには「目が好きだ、顎の形がきれいだ、耳と鼻の形がいい、首もきれいだ、唇も可愛い、・・・」と陳腐な単語が並んでいて、果歩の内面の良さを捕らえたものはなかった。果歩は健一郎にキスして好きになろうとしたが、出来ないとはっきりと断った。

果歩は「祖父が心筋梗塞で倒れお棺に収まり糞を漏らし、その匂いに堪えきれず臭いと叫んだことで祖父が生き返った」のは奇跡だと思ったが、健一郎との会話の中で、「奇跡は自分が奇跡と思うことで他の人が奇跡と思うかどうかでなない」と自分アイデンティティを掴んだ。

経験で裏付けされた言葉が彼女を強くしていった

もくもくと煙を吐く煙突。果歩が健一郎の告白を断ったとき脇を、騒音をかき鳴らして走り去るダンプ。いずれも果歩の再生を暗示したかのようだった!笑った。

果歩がアパートに戻ると智也がスーツ姿で待っていた

智也から「言いにくいが好きな人がいる、別れて欲しい」と切り出される。果歩は「私を愛したことはある、どこが好きだった」と聞いた。智也の答えは健一郎と一緒だった。(笑)果歩は別れることに同意し、泣いた。

智也は出て行ったが、突然戻ってきて「俺が悪かった」と謝る。一方、貴子は夜明けのバスに乗って出かけるが、後方の席に賢一郎が乗って眠っていた。(笑)

まとめ

“言葉のバトル”で相手の本心を炙り出し、自らも強くなり、真実の愛を見つけていくプロット構成が凄い。スリリングで結末が明快、ユーモアがあって、爽やかだった。原語学の学位を持つ監督ならでの作品だと思った

「真実の愛はお互いが相手を愛しなければ成立しない」。こんな簡単なことが分からなかったそれほどに世界は複雑だ!虚構で世界は出来ているとさえ思える。

ラストシーンで果歩は智也から別れを告げられるが、彼女は「あなたの人生を喰い潰していた。貴方の人生を変えた」とこれを受け容れた。このセリフがすばらしい!健一郎の愛を受け入れられなかった果歩は、智也が自分の愛を受け入れられないことを理解できるように強くなっていた。

これを聞いた智也は果歩と別れるが、果歩の変化に気が付いた。これまで自分は果歩を真実愛したか。愛していなという貴子の愛を得られるのか。

ここに至る会話劇

果歩が生徒に暴力には無力であたることを訴え、生徒の説得に失敗して教員としての自信を失うシーン。質問に本心で応えた人が次の質問が出来る“真実の水”ゲームシーンなどセリフが面白い。ちょっと格式張ってるが、卒論だからしかたがない。そしてこれを喋る俳優さんたちのキャラクターが役そのもので生きている感じで、バトルのリアルな演技が凄い。このための徹底的に訳本を読む独特な演出法を用いている。

引き続き監督作品を追っていきたいと思っています。

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