大河「八重の桜」(13)で夫婦だった長谷川博己さんと綾瀬はるかさんが主演で演じるハートフル・ストーリー。泳げない長谷川さんが、水泳コーチ綾瀬さんに魅かれていく物語?「まあいいや!」と観ることにしました。まったく違っていました!(笑)
原作:ノンフィクション作家・高橋秀実の同名エッセイ。未読です。監督・脚本:映画「舟を編む」(13)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した渡辺謙作、大胆にアレンジされているという。撮影:「赦されざる者」の笠松則通、編集:日下部元孝、音楽:渡邊琢磨、主題歌「生きなくちゃ」:Little Glee Monster。
あらすじ(ねたばれ:注意):
大学で哲学を教える小鳥遊雄司(長谷川博己)は、泳げない。水に顔をつけることも怖い。屁理屈ばかりをこねて、人生のほとんどで水を避けてきた雄司はある日、ひょんなことから水泳教室に足を運ぶ。訪れたプールの受付で、強引に入会を勧めて来たのが水泳コーチの薄原静香(綾瀬はるか)だった。静香が教える賑やかな主婦たちの中に、体をこわばらせた雄司がぎこちなく混ざる。
その日から、陸よりも水中の方が生きやすいという静香と、水への恐怖で大騒ぎしながらそれでも続ける雄司の、一進一退の日々が始まる。
雄司はトイレだ、準備ができてないと理屈ばかりでプールに入らない。遂に見かねた主婦が是中を押した。こうして水に入った雄司、顔づけからトレーニングが始まった。
次は顔をづけして水に浮ぶ。「浮かぼうとしないで浮かぶ!」と静香。もう分けわからない。(笑)「死んだふりしなさい!」(笑)「俺は死んだことがない!」と雄司。
バタ脚で泳ぐ。「力を入れ過ぎない、息継ぎが大切」「手の平を立てて泳ぐ!手の平を立てると体がうまくよじれて泳げる」。この教え方がすばらしい!理屈が合っている。
「息継ぎは息を吐き切れ!」「歌を唄え!」「亭主の悪口を言う」、面白い息継ぎ法です。雄司は歌を唄ってこの息継ぎをマスターした。
雄司は上手くなっていると酒を呑んでマンションに帰ると5年前に水死した息子・智也の声が聞こえた。
次の日、体の中心を意識して泳ぐ。中心が分からない。(笑)「力を抜いて無心に泳ぐ」と静香の声。雄司は歌を唄って泳いだ。智也の声を思い出し息継ぎができず、立ってしまった。泳げない。
レッスンを休んで水族館にやってきて、魚が泳ぐのを眺めていた。そこに静香から電話。
静香は「交通事故で将来に絶望したが、水泳でリハビリが出来、救われた」と雄司にレッスンに出てくるよう説得をした。
「魚になったつもりで腰を振って泳げ!」と言われ、(笑)雄司がアザラシの気分で泳いだ。気がついたら25m泳いでいた。スイマーの仲間入りができた瞬間だった。
雄司には付き合っている水野奈美恵(阿部純子)がいた。彼女はシングルマザーで順也という智也と同じ年ごろの男の子がいた。雄司は25m泳げたことで奈美恵に、5年前、自分が助けることができず智也を水死させたこと、飛びこんでからの記憶がないことを打ち明けた。奈美恵は雄司が水泳を始めた理由を知り、「私でいいんですか?順也を見て辛くならない?」と聞いた。「それはない!」と返事した。
静香に「雄司さんのレベルはもっと先、前へ前へではなく、何となく前に進んで!生きようとするのではなく、生きていた。水と喧嘩しない!」と言葉を掛けられ、雄司は無心で泳いだ。が、智也の記憶が出てきて、混乱し、溺れて、静香によってプールサイドに引き上げられた。
眼を覚ますまでに、智也を亡くして元妻美弥子(麻生久美子)が「何で私だけが苦しむの?あんたは何故泣かない!」と激しく責められたことを夢見ていた。
雄司は回復し、喫茶店で奈美恵に会って「俺はダメな人間だ!人の人生を背負う資格がない」と告げた。奈美恵は静香に会って話を聞いた。静香は「余計なことを考えながら泳いでいる。これが原因で立ってしまう」と話した。
奈美恵は雄司に「今夜、静香さんがプールで待っている」と伝えた。
雄司がスイミングスクールを訪ねると、静香は「自分を責めれば許されると思っているの!逃げるな!今泳がないと前にも後ろにも行けない!上に進むしかない」と雄司を抱いてプールに沈め、「水中の世界は外の世界は違う」としっかり泣かせた!
これで雄司はクロールで魚になった気分で謡いながら泳げるようになった。
雄司はマンションを売り払いアパートに移った。静香が訪ねてきて「貴方の中に智也さんはいる。一緒に遊んでください。泳ぐのと生きるのはよく似ているようで違う」と話し、またスクールに顔を見せて欲しいと伝え帰っていった。
マンションの整理に美弥子がやってきた。美弥子は「私も自分勝手やった!悪かった」と雄司に謝罪した。智也のおもちゃや智也が描いた絵を整理した。そこに智也の姿があった。ふたりは泣いた!
雄司は奈美恵に結婚を申し込んだ!
感想:
とてもコミカルにコーチの静香による雄司へのレッスンが進み、ともにレッスンを受ける4人のおばちゃんたちの「理屈ばかりで何で泳げない!」という男性・雄司批判も面白く、笑っているうちに雄司のトラウマが明かされ、「彼が何故水泳を覚えたいか」が明らかになるというミステリー・ヒューマンドラマ。このバランスが絶妙で、脚本がよく出来ています。
泳ぎ方の教え方はとてもユニーク。こんな教え方を知らなかった!原作を読んでみたい!
そして泳ぐことが雄司の人生に繋がり、元妻の美弥子と恋人の奈美恵との関係が美しく描かれ、感動的な物語になっている。そこには「泳ぐことと生きるは似ている」というメッセージがあり、「人は何故生きているの?」という問いの答えを見つけることができます。「日々新しいことの発見で生きている」という学生の回答。そのうち「人のために生きる!」と分かってくると思っています!(笑)。
プールの中のシーンが多い作品。水族館の映像もある。水中シーンがとても美しい!
トラウマから水泳教室に顔を出さなくなった雄司を静香が電話で出席を促すシーン。静香の説得が雄司に届くか、届いて欲しいというクライマックスシーン。“まさかマルチバースではあるまいに!”とびっくりしましたが、「人にものを教えるにはこのくらいの熱意と覚悟がいる」という監督の熱意が伝わる映像でした。(笑)
綾瀬さんの水泳コーチは自信に溢れていて、明るく、人に優しい静香役はぴったりで、この作品のメッセージを伝えるために、雄司に対してベタベタした感じが全くしない!というのが良かった!
長谷川さんの屁理屈ばかりで前に進まない哲学者役は合っていました。泳げない演技もリアルで面白かったですね!麻生さんの大阪弁で太っ腹だが涙もろい元妻役、これには驚きましたが、ふたりの会話が面白く、よく泣いて、感動的なドラマにしてくれました。
恋人役の阿部純子さん。強く生きていく佇まいがしっかり出ていて、存在感がありました。これからの出演作が楽しみになります。
4人のオールドガール、伊佐山ひろ子・広岡由里子・占部房子・上原奈美さん。男社会だった過去の不満を無器用な雄司にぶつけるが、それでいて雄司を励ますという、作品をとても楽しくしてくれましたね!
辛い過去の記憶を引きずっている人に、沢山泣いて、笑うことの大切さを教えてくれます。
****