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「憐れみの3章」(2023)暴力、乱交、宗教とえぐいシーンで描く愛の物語。

 

女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」に続いてヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、“愛と支配をめぐる3つの物語”で構成したアンソロジー。前2作の面白さにこのふたりのタッグ、恐らく難題だろうと危惧しながら(笑)、見落とせないと劇場に走りました。

各章で異様な愛の姿を描き、3人のキャストが演じるが故に3章が繋がりひとつのテ-マが見えてきて、支配と服従を暴力、セックス、宗教で描くヨルゴス・ランティモス監督独特の世界感に浸ることができます。非常に大きなテーマで前2作に比し宗教論的で、観る人を選ぶ作品かもしれない。

エマ・ストーンを始めとするキャストたちの「哀れなるものたち」と同じような身体を張った演技が楽しめます。

監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:ヨルゴス・ランティモス エフティミス・フィリップ、撮影:ロビー・ライアン、美術:アンソニー・ガスパーロ、衣装:ジェニファー・ジョンソン、編集:ヨルゴス・モブロプサリディス、音楽:イェルスキン・フェンドリックス。

出演者:3章分の役名をつけて、

リタ/リズ/エミリー:エマ・ストーン、ロバート/ダニエル/アンドリュー:ジェシー・プレモンス、レイモンド/ジョージ/オミ:ウィレム・デフォーヴィヴィアン/マーサ/ルース/レベッカマーガレット・クアリー、サラ/シャロン/アカ:ホン・チャウ、収集品鑑定人1/ジェリー/ジョセフ:ジョー・アルウィン、ウィル/ニール/死体安置所の看護師:ママドゥ・アティエ、アナ:ハンター・シェイファー。

物語は

選択肢を奪われながらも自分の人生を取り戻そうと奮闘する男(第1章)、海難事故から生還したものの別人のようになってしまった妻に恐怖心を抱く警察官(第2章)、卓越した教祖になることが定められた特別な人物を必死で探す女(第3章)が繰り広げる3つの奇想天外な物語を、不穏さを漂わせながらもユーモラスに描き出す。(映画COMより)

各章は、同じキャストで前章とは異なるキャラクターで演じられる。このためキャラクターが分かり難い。さらに深みのあるテーマでもあり、物語の概要を知って観るとより楽しめると思います。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

第1章 R.M.F.の死

レイモンド邸を訪れたR.M.Fに婦人ヴィヴィアンが封書を渡さした。ある地点で待機していたR.M.Fが乗るBMW車にレイモンドからこの男の殺害を命じられていたロバートが運転する車が突っ込んだ。レイモンドは成功するものとマッケンロー使用の折れたラケットをロバート家に届けていた。

しかし、失敗に終わった。レイモンドは再行を求めたがロバートは向いてないと断った。するとレイモンドは「10年に渡ってお前の全生活を俺好みに面倒を見て来た」と再考を促した。それでもレイモンドの支配を逃れるため断った。マッケンローのラケットは消えた。妊娠中の妻はこのことに怯えた。

ロバートはレイモンドに決心変更を伝えようとするが会うことができない。

ロバートはバーに出掛けた。ロバートはレイモンドから読まされる「アンナカレーニナ」を読んでいる女性・リタを見た。ロバートは自傷行為で脚を痛め、リタの介抱を受け、リタに近づくことに成功した。

リタが交通事故で病院に入院した。ロバートが病院見舞に訪れるとそこにレイモンドとヴィヴィアンがいた。ロバートはリタがR.M.F殺害を引き受けたと判断し、入院中のR.M.Fを連れ出し車で数度轢き、殺害した。これでロバートとレイモンドの関係は元の関係に戻ることになった。

強力な支配とこれを逃れることの出来ない関係が描かれた

第2章 R.M.F.は飛ぶ

警察官のダニエルは海洋調査で行方不明の妻リズのことを考え、行かせたことを悔んでいた。同僚警官のニールと彼の妻マーサがダニエル夫婦行ったセックスビデオを見せて慰める。

捜索ヘリで発見されリズが戻ってきた。リズはハイヒールを履こうとするが履けない。

嫌いだったチョコレートを食べ、煙草を喫う。ダニエルは「彼女はリズでなない」と疑い始めた。ダニエルが断ってもセックスを求める。リズは妊娠したと言い出す。

ダニエルはリズと共に救助された男の妻シャロンに「本当に夫だったか?」と聞き、怪しまれる。リズ名義の金を自分の口座に移した。交通検問中に信号無視で捕まえた男・ジェリーに向けて発砲するという異常性が見られ、神経症で自宅療養に入った。リズが食べたい物は何でも作るという。

心配したリズの父親ジョージが駆けつけた。リズは遭難したときのことを話し出す。極限状況では人間も犬と同じ動物。犬が食べないチョコレートなら食べる。人肉でも食べると言い、ジョージは呆れて帰っていった。

ダニエルは益々食が進まなくなり「お前の指が入ったスパゲッティが食べたい」とリズに求めた。リズは自分の指を切り落としスパゲティを作った。ダニエルはリズがこんな料理をするわけがないと「肝臓が食べた」と求めた。ダニエルが居間に入ると肝臓を切り出し椅子に座手息絶えているリズの姿があったが、そこに来客として現れた女性に「リズ」と呼びかけ抱擁した。ダニエルもリズも発狂していた。

絶望という特殊な環境を経験したことで猟奇的な夫婦関係になっていくシーンに吐き気がした

第3章 R.M.F.サンドイッチを食べる

病院の遺体収容室。エミリーとアンドリューはオカルト教団に入信し卓越した教祖になる人物を捜していた。霊感のあるアナの身長・体重を計り規定に合うことを確認して、遺体と対面させ蘇生を命じるが出来なかった。

エミリーはポルセを急発進、ドリフト走行で教団本部に報告に走る。

教団のリーダーのオミとアカに報告。エミリーはオミとセックスで繋がっている。信者はオミとアカが落とした涙の水をいただくことで繋がっている。

エミリーが夫ジョセフと娘を捨ててオカルト教団に奔ったのはジョセフの体内にある水分が汚染されているというものだった。

エミリーとアンドリューは次のターゲット“双子で片方が亡くなっている人”レベッカを訪ねた。レベッカは「姉のルースは水のないプールに飛び込み負傷したが、生きて動物病院を経営している」という。エミリーは教祖の条件に合わないと引き上げた。が、途中でアンドリューと別れ、元夫ジョセフと娘を訪ねた。

ジュセフはエミリーに睡眠薬を飲ませセックスをした。このことでエミリーは体内の悪い水分を排出すると高温サウナに閉じ込められた。アカが舌でエミリーをなめ悪い水分が抜けていないと破門された。

エミリーは捨て犬に傷をつけ獣医のルースの治療を受け、犬の傷がすぐにきれいに治ったことを確認し、蘇生能力があると判断した。

レベッカは自分が生きていてはルースは教祖になれないと水のないプールに飛び込み自死した。エミリーはルースを遺体に対面させ蘇生能力を確認した。能力があることを知り、ルースを連れて教団に戻る途中、運転ミスで横転、ルースを失った。

 R.M.F.は屋台でサンドイッチを食べていた。

最も大切な家族を捨て、オカルト教団の教義に尽くす信者の姿が描かれた

まとめ

本作品の面白さは異なる3つの愛の物語を同じキャストで描き、ひとつの物語にまとめたこと。

各章のテーマは、第1章:支配と服従の世界、第2章:妄想と盲従の世界、第3章:新興宗教の世界。これらのテーマの背景が現在の世界をメタファーとしていること、第3章の新興宗教は某宗教団体そのものだと思った。そして3章に共通するのは食べることとセックス。

3つの物語は別物語でありながら連続した物語になっている感覚に陥る

各キャストが3つの物語で演じるキャラクターの変化を見ると、ウィレム・デフォーはレイモンド/ジョージ/オミと変化し、殺人を命じる権力者→説得できず娘を亡くす父親→オカルト宗教のリーダーにジェシー・プレモンスはロバート/ダニエル/アンドリューと変化し、殺人に成功したヒットマン→妄想で妻を死に追いやる警官→オカルト宗教信者に、エマ・ストーンはリタ/リズ/エミリーと変化し、暗殺に失敗したヒットマン→夫の妄想を受入れ亡くなる科学者→夫と離婚しオカルト宗教に入信する女性。それぞれのキャスターが“転生”している感覚になる。

各章でR・M・Fとして登場する男の変化

殺害されたBMWの男→リズを救出したヘリパイロット→サンドイッチを食べる男に変化。R・M・Fが死から蘇生した物語、転生物語であることが分かる。

タイトル「KIND OF KINDNESS」は「それぞれの時代の愛」支配と服従の関係は暴力、セックス、宗教で形は変わるか、継続される愛の世界と解釈

暴力、乱交、カリバリズムとエグイシーンで描く愛の物語

各キャストの演技はみなさんはじけた演技で面白い。「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のジェシー・プレモンスはとても多彩な演技者だと思わせてくれます。

 圧巻はエマ・ストーン

ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの関係が作品そのものという感じ。とても美しい人だが監督の求めに応じて狂人となり、惜しげもなく裸になり、醜態をさらす。この人の演技から目を離せない!

ヨルゴス・ランティモス監督の作家性がしっかり出た作品。いろいろな所見に出会うことが楽しみ。

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