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「どん底作家の人生に幸あれ!」(2019)今、観るべきチャールズ・ディケンズの貧乏脱出物語!

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イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの代表作「デイヴィッド・コパフィールド」の映画化原作未読です!

受検時代、某大学の英語問題がディケンズの小説から出るということで、“読本”で「クリスマス・キャロル」を読まされました。というわけで本作をWOWOWで鑑賞。「この作品を観ていたら合格していた!」と無念に思える作品でした!(笑)

監督:スターリンの葬送狂騒曲」のアーマンド・イアヌッチ原作:チャールズ・ディケンズ脚本:アーマンド・イアヌッチ サイモン・ブラックウェル、撮影:ザック・ニコルソン、美術:クリスティーナ・カサリ、衣装:スージー・ハーマン ロバート・ウォーリー、編集:ミック・オーズリー ピーター・ランバート音楽:クリストファー・ウィリス。

出演者:デブ・パテル、アナイリン・バーナードティルダ・スウィントン、ピーター・キャパルディ、モーフィッド・クラーク、デイジー・メイ・クーパー、ロザリンド・エリーザー、ヒュー・ローリー、ティルダ・スウィン、ベン・ウィショー、ポール・ホワイトハウスベネディクト・ウォン、他。

あらすじ

デイヴィッド(デブ・パテル)は少年の頃、周囲の“変わり者”たちのことを書き留めては、空想して遊んでいた。優しい母・クララ(モーフィッド・クラーク)と家政婦・ベゴティ(デイジー・メイ・クーパー)の3人で幸せに暮らしていたが、暴力的な継父:マードストーン(ダレン・ボイド)の登場によって人生が一変。都会の工場へ売り飛ばされ、強制労働のハメに!しかも里親・ミコーバー(ピーター・キャパルディ)は、借金まみれの老紳士だった…。

歳月が過ぎ、ドン底の中で逞しく成長した彼は、母の死をきっかけに工場から脱走。たった一人の肉親である裕福な伯母ベッツィー(ティルダ・スウィントンの助けで上流階級の名門校に通い始めたデイヴィッドは、卒業後に法律事務所で働き始め、さらに令嬢ドーラ(モーフィア・クラーク)と恋に落ち、順風満帆な人生を手に入れたかに見えた。だが、彼の過去を知る者たちによって、ドン底に再び引き戻されようとして…。

果たして、デイヴィッドの数奇な運命の行方は!?すべてを失っても綴り続けた、愛すべき変人たちとの「物語」が完成した時、彼の人生に“奇跡”が巻き起こる。(HPから転載)

感想

ディケンズがやっと貧乏生活から解かれ、講演で「いかに関わった人たちに助けられ自分の小説が売れるとうになったか?」を講演で語るシーンから始まり、「これからもこんな人々を書き続ける!」の言葉で終わる結末。ここに、ディケンズの小説作法が詰まっているという映画だった。

プロット構成にはやや難があり最良の部分は人物描写だ」と言われるディケンズの作風どおりに映画が展開します。当初はこんなことを知らず、眠くなってくる!(笑)

登場人物が多い!掌握しきれない!が、ちゃんとエピソードを覚えているから、いかに脚本がしっかりしているかということ。これもディケンズの作風らしい。

デイヴィッドの誕生は、父親はすでに亡く、母・クララが産気づいて、家政婦のペコデイと叔母のベッツィーが駆けつけての出産だった。この様子がとてもコミカルに描かれ、これが本作の演出上の特色です!

叔母は赤ちゃんは「女の子でない」と“デイヴィッド”と名前を付けて、自分の農場に帰って行った。以来、デイヴィッドは母と家政婦に育てられ、一時、ヤーナスにあるベッツィーの実家で生活をする。

ベッツィーの家族は港で魚を捌く仕事で生計を立てていた。家は港から離れた砂浜に、廃船をひっくり返して内部を住めるように改装したもの。この造形が面白い!

家族は親のないハムとエミリーの面倒を見ている。ハム(アンソニー・ヴェルシュ)とエミリー(エイミー・ケリー)は魚の捌仕事に追われる毎日。ここでは下層階級の暮らしの厳しさが描かれている。しかし、ふたりはとても親切な子で、将来、結婚を約束しているという。デイヴィッドはエミリーに惹かれていた。

そんなデイヴィッドが母の元に戻ることになった。新しい父親マードストーン(グエンドリン・クリヌティー)が待っていて、学校に行ったこともないデイヴィッドに難問を与え、出来ないことを理由に「品位に欠ける!」と折檻の毎日。デイヴィッドの肌の色が嫌だった?

遂に、ミコーバー(ピーター・キャパルディ)家に預けられ、ここからインクの瓶詰会社で働く。ミコーバーという人は職に就かない風変りな人、ペテン師だった。(笑)だからデイヴィッドを里子にもらい受けたんでしょう。債務地獄で、家族ともども路上生活するはめに。(笑)

デイヴィッドは会社の床に眠りながら、毎日仕事にこき使われる。労働基準法もない当時の子供たちの労働環境が描かれます。

ある日、義父のマードストーンが「クララは無くなった!葬儀は終わった」と伝えにやってきた。これにデイヴィッドはぶち切れて、会社で暴れ、資材をめちゃくちゃにしてしまうという事件を起こし、会社から追放された。

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デイヴィッドは泣きながら、徒歩で、ドーバーに住む叔母・ベッツィーを訪ねた。ベッツィーは資産家で、夫に死別しており、弁護士で従弟のディック(ヒュー・ローリー)と暮らしていた。ディックは奇人で(笑)未だに「チャールズ1世の死因が見つからない」と文献を集め、書き出した資料を部屋中に張り付けていた。(笑) デイヴィッドはこの資料で凧を作り、上げた。ディックがこれを見て「一気に脳に入ってくる」と大喜び!(笑)

こんなことで、デイヴィッドはこの叔父にすっかり気に入られた。「この叔父に出会ったことが小説を書く動機になった」と後に述懐しています。

ヒュー・ローリーはケンブリッジ大出身なんですね!このキャステングは適任でした。(笑)

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ベッツィーの資産管理を任されている弁護士のクイックフィールド(ベネデジクト・ウオン)は娘のアグネス(ロサリンド・イレアザル)と伴って訪ねてきた。

クイックフィールドはデイヴィッドに会って、ベッツィーに、法律学校に入れることを勧めた。

デイヴィッドはストロング法律学校に入った。早速知合ったのが、先生格だというスティアフォース(アナイリン・バーナード)とその仲間だった。彼らは下層出のユライア・ヒープ(ベン・ウィショー)を嫌っていた。

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デイビッドがヤーナスでの生活、ディック叔父やミコーパーの話をすると、「お前の想像力は凄い!」と褒め称え、仲間に加えられた。ピープはデイビッドを下層出と睨んでいたから驚いた!

そこにミコーバーが教授として現れ(笑)、デイビッドの話に出てくる男だとばれ、ミコーバーが学校を追われ、「デイビッドは紳士でない」ことが明かされた。喜んだのはピープで、彼はデイビッドに近づき、クイックフィールドに取り入り、アグネスと結婚すると言い出す。

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話は面白いがややこしい!!(笑)

デイヴィッドはスペンロウ法律事務所に就職した。仕事より令嬢ローラに一目惚れし、結婚した。ローラは愛犬とは話が出来ても、デイヴィッドと大人の話ができるような娘ではなかった。

スティアーフォースがどうしてもヤーナスに行きたいというので案内した。スティアーフォースはここでエミリーを見染めて駆け落ち!カムとパコデイ一家が嘆き悲しむ。

エミリーを探していて、路上生活のミコーパーの家族に出会った。そして祖母のベッツィーは屋敷をヒープに取られて、ロンドンでの安アパート暮らしとなった。クイックフィールドもヒープに事務所を乗っ取られ、アグネスがデイヴィッドに助けを求めてきた。

デイヴィッドはこんな不幸な人を救いたいと小説を書き始めた。

アグネスがヒープの偽登記文書を見つけて、クイックフィールドとアグネス、ベッツィー、ディック、さらにミコーパーも加わって(笑)、ヒープと大喧嘩して屋敷を取り戻した!(笑)このとき「この喧嘩に私は加われない」とローラが去って行った。

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売春宿で、パリに逃げたスティアーフォースの帰りを待つ、エミリーを探しあてた。

ヤーナスの港にヨットで戻ってきたスティアーフォースは水死した。このときハムは恋敵でありながら海に入り助けようとした!エミリーが嘆き悲しんだ!

“人の命”に階層や憎しみはないことを目の当たりにしたイヴィッドはアグネスに結婚を申し込むと、「私も!」と返事をもらった。

まとめ:

どん底にいるとひとりでは生きていけない、人の善意が分かり、感謝の気持ちがでてくる。そして差別や偏見がないこと、自由であること、教養がいかに大切かが分かる。

プロット構成にやや難があり、最良の部分は人物描写などの細部にある」、と言われるディケンズ原作の映画化。これを象徴するような、物語のつながりが変で、何が言いたいのか分からない。ところが「祖母のすばらしい従弟」、「僕はデイビッド・コパフィールド」、「困難に立ち向かう」、「自分が紳士であるかどうかを知る」、「旅立ちの日、将来への展望」等とちゃんとデイビッドのその時々の気持ちを「字幕で示してくれる」という、丁寧な演出でした。(笑)

人物描写が面白いと言われるディケンズ作品、ここでは多彩な人物が出てきますが、記憶に残るようにコミカルに誇張して描いています。これが面白かった。ここで注目すべきは、主人公デイヴィッドをデブ・パテルで演じさせていること。他にも多民族出身者で撮られていること。これは当時のディケンズのテーマ、貧困や階級社会の矛盾をさらに一歩現代風にした演出で、今の時代に観るディケンズ映画にした演出だと思います。アグネス役のロザリンド・エリーザーがとっても魅力的でした。

ディケンズの生き方、作風を知って、これを受験問題に出題し続けた大学もすごかったんだ!と今さらに関心しています。しかし、当時の英語教育。こんな古典をよく読ませましたね!(笑)

この作品で特筆すべきは時代考証がしっかりしていること。映像、美術がすばらしいです。評価があまりよくないですが、決して古典ではない、今、観るべき作品だと思います。特に受験生!!(笑)

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