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「ボーはおそれている」(2023)再度この難題に挑戦してみました!

 

 


「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたコメディースリラー。A24作品。

 劇場で鑑賞しましたが、理解できない映像があり、精神病の主人公が見る景色が実像なのか虚像なのか、監督は何を目指しているのか、分からないことばかりだった

WOWOWに登場したこの機会に再挑戦してみました。

本作は前2作同様、精神患者家族が遺伝する精神病に恐怖する様が描かれています。本作は前2作と異なって、母親が息子に死を選択させる、これ対する息子の恐怖が描かれています。コメディースリラーと言いながら、その底にある本当の怖さと悲しみを憶えました。

ポーの錯乱した記憶から彼の人生を追うスリリングさと母親の悲しみ、母性を知る作品だと感じた

監督・原作・脚本アリ・アスター撮影:パベウ・ポゴジェルスキ、編集:ルシアン・ジョンストン、音楽:ボビー・クルリック、劇中アニメーション:ホアキン・コシーヌア、クリストバル・シオン。

出演者:ホアキン・フェニックス、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンエイミー・ライアンネイサン・レインパティ・ルポーン、ドゥニ・メノーシェ、他。

物語は

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボー(ホアキン・フェニックス)は、つい先ほどまで電話で会話していた母(パティ・ルポーン)が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。(映画COMより)

 

あらすじ&感想:

冒頭、47年前のポー出産シーン。

闇の中で、大音響、「おめでとう」、「何故落とすの」、女の悲鳴、赤ん坊の泣き声、「どこに連れて行くの、子供を隠す、なぜ隠すの」と叫ぶ必死に叫ぶ母親・モナの声。ポーはモナの愛の中で生まれた。

ポーの一生、誕生から死までが描かれる

 2022年7月11日

〇モナ・ワッサーマンは製薬会社の社長。ポーは父と同じ精神障害の顕現で母と遠く離れた治安の悪いアパートに隔離されていた。

ポーは幼くして父は亡くなったと聞かされているが、生存していると思っている。「父が生きている」と言ってモナに折檻された記憶が頭から離れない

ポーはうがい水を飲み不安になりセラピストのフリール(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)を呼んだ。そこに母親のモナから「明日、父親の命日だから来なさい」と電話が入った

フリールが「行くのは母親を殺すためか?」と聴く。(笑)ポーは返事をしなかった。フリールは「有罪感あり」とモナに報せた。フリールは新薬のシプノチクリルを与え「必ず水と一緒に飲むように」と注意して帰った。

ボーは薬を飲んだが水道水が出ない。慌ててコンビニに走り水を買った。アパートに帰ると身体中いれずみの男に襲われたが、振り切ってドアを閉めた。

ボーは目覚ましをセットして寝るが、真夜中に数度「音量を下ろ!」と注意された。これに反応し寝すぎた。慌てて起き出し部屋を出るが、歯磨きを忘れたと部屋のドアに鍵を残しトランクを置いて洗面所に引き返した。ドアに戻ると鍵とトランクがない。ポーは「行くべきかどうか」と母のモナに電話した。ボーは自分でどうしたらいいか決められない男だった。母から「正しいことをしなさい」と言われる。

ボーは薬を飲んだ。が、水を飲むのを忘れた。これで大混乱に陥った。寝間着のままでコンビニへ急いだ。アパートに戻ると2階で喧嘩が始まっていて部屋に入れない。アパート周辺の猥雑さはポーの錯覚が多分に入っている。アパートの壁の淫靡な落書きはポーが描いたものだろう。夜になって部屋に戻った。

朝、目覚めて母に電話すると知らない男に繋がった。男から「母はシャンデリアが落下して頭が破壊し亡くなった」と知らされた。フリールに電話すると「後で電話する」と切ら、連絡はない。

不安の中でポーが風呂に入ると天井に男が張り付いている。(笑)こいつが降りてきて風呂の中で格闘となった。アパートはドクイクモの駆除中でクモかもしれない。ポーは真っ裸で外に飛び出て、警察に救助を求めたが逆に警察に追われ、車にぶち当たった。(笑)

この物語、ボーが頭を打つと次のエピソードに移る。(笑)このことが章立てとなり、5つの章からっている

〇ポーは「父は生きている」夢から覚め派手な飾りのある女の子の部屋にいた。

医者のロジャー(ネイサン・レイン)と妻のグレース(エイミー・ライアン)の邸宅に寝かされていた。モナの会社に勤める医者と役員だった。娘のトニ(カイリー・ロジャーズ)と元軍人で精神障害者ジーヴス(ドゥニ・メノーシェ)がいた。

モナがポーの本心を試すために社員を使って謀った芝居だった

ボーが目覚めるとグレースがやってきて「2日間寝ていた。跳ねたのは私たちだが、怪我はあなたがつけたもの」と話す。(笑)ポーは「すぐ母のところに行きたい」と求めたが、ロジャーが「傷は深い、睾丸が潰れていて手術が必要だ」と反対した。(笑)ボーは母の死を忘れたように、ロジャーに言い成りになる。

ワッサーマン邸に電話すると弁護士から「モナの意志で死から3日目に埋葬する。早く来なさい」と急かされた。ロジャーに緊急手術が入りさらに1日遅れることになった。モナはポーは来ないかもしれないと思った。

ボーはトニのPCでモナの死亡ニュースを見た。「シャンデリアの落下で死亡。MW社の大物」と社員のエレイン(パティ・ルポーン)が語る映像だった

エレインは再会を約束した唯一の恋人だった。モナからプールで折檻されたことを思い出しPCに反吐を吐いた。これに怒ったトニはボーを追い出すために車で連れ出し薬を吸わせた。ボーは勧められるままに吸った。

ポー、15歳のころクルーザーで母モナと旅をしていた記憶が蘇った。モナが「家政婦のマーサが好きか?」と聞くので「好きだ!」と答えた。モナはポーをマーサに取られたようで嫌だった。プールで遊んでいるエレインを見て「あの子はどう」と勧めた。ふたりはキスする関係になった。が、エレインが寝室までやってくるようになり、会うことを禁じた。ポーは以来童貞で男性過剰性欲障害に陥った。ポーが目覚めると、ロジャーとグレースに保護されていた。

グレースが憔悴し切っているポーを見て、「貴方を愛している」と言い「チャネル97を観ておいて!」と言い残し、仕事に出掛けた。

チャネル97を観ると、今の自分が写っている!部屋の中のカメラを捜したが見つからなかった。これまでのことが写っていた。先送りするとワッサーマン邸のベランダで寛ぐ姿、川で揺れるボートの映像があった。モナによるポー自爆計画が写っていた。

トニはポーを追い出すために塗料を飲んだ。グレースが部屋に飛び込んできてトニの心臓マッサージを始めた。グレースの「八つ裂きにして!ジーヴァス!」の大声にボーは母モナを見た。森に逃げ出して、立ち木に頭をぶつけた。(笑)

〇ポーは「隠し部屋に閉じ込められる」夢の中から目覚めた。森に中のキャンプ地にいた。

妊婦に誘われ「孤独の森」という劇を鑑賞することになった。ボーは孤独の男の衣装を着けられ鑑賞した。

芝居が始まった。孤独の男に感情移入していた。モナがポーを呼び寄せるための芝居だった

家を焼かれ孤児になった孤独男。「父母を失ったことで自分を無くした」と放浪の旅に出た。季節がどんどん変わり(アニメ)冬となり、そこに能面の女性(天使)が降臨、「あなたは家を再建する。ここに留まってはだめ鎖を解きなさい」と予言した。予言通り、鎖を解き歩き出すと村人に出会い、土地を見つけ、家を建て、友人ができ、運命の人に出会った。そして3人の子が産まれた。

ところが災害で家も家族も流され、孤独男は見知らぬ国に家族を捜す旅に出た。そこで大きくなった三人の兄弟に会った。しかし母が居ない!「孤児院で育ち育った」という。じっと天使が見ている。

天使が「身ごもったときに夫は亡くなった。心臓に雑音があった。私の腹の上で亡くなった。私には罪がある。子供が欲しいと強く願った。このことがトラウマとなり私を変えた。しかし、人生で最高の物を与えてくれた」という。ボーは母の話と同じだと思った。ポーが「まだ経験がない」と云うと子供らが「何故俺たちは産まれた」と聞く。ポーは気分が悪くなり席に戻った

妊婦が水を飲めという。そこに男が近付き「お父さんに食事をさせた。お父さんは生きている」と耳打ちした。精神病者を自宅で匿うことはよくあること

突然舞台で騒動が起き、そこら中で爆弾が破裂。ポーは幼いころモナが「ママを傷つけるなら隠し部屋に上がれ」と2階の隠し部屋に押し上げられる姿を思い出しながら、「父は生きている」とこの場を逃げ出して気を失った。(笑)

〇ボーが目覚めヒッチハイクで、ワッサーマン邸に戻った。

ボーは歓迎され、邸に入ると母モナの功績をたたえるテープが流れ、モナの写真で埋まっていた。その中にボーと一緒の写真もたくさんあった。最後のMW社社員の顔で作ったモナのモザイク顔の中に、ボーがここに来るまでに出会った人たちの顔があった。(笑)シャンデリアが落下した位置に記念碑が作られ、そこにモナの棺が安置されていた。が、モナの頭部がなかった。ポーは腕の痣からマーサだと気付いた。

ボーが2階に上がろうとするとエレインが「追悼にきた」と降りてくる。何故エレインがここにいる?昔のエレインではなく疲労感があった。雇われてやってきたと思った。ふたりは一気に燃え上がりベットを共にして3回はやった。(笑)ところがエレインがその直後亡くなった。そこにモナが「私を見ても嬉しそうでない」と現れ、エレインの遺体を管理人に処分させた。モナはここでポーが心臓発作を起こし死ぬと思っていたのではないか?

モナは「あなたは最初来る気はなかった!来たのが奇跡。いつも愛情の全てを注いだが、あなたはいつも私を騙した。貴方は自分で答えを出さない。母に責任を押し付ける。決める能力がないかのように、自分に罪がないかのように振る舞っている」とボーを激しく非難した。そこにセラピストのフリールが現れた。ポーが「何かすると不機嫌になる。子供のころから見ている夢、もうひとりの自分がいる。父は生きている」と話すとフリールが「父に何を聞きたいか?」と問うた。ポーが「真実だ!」と答えるとモナがボーを2階の隠し部屋へ上げた。

そこでボーが見たのは鎖で縛られた兄?と巨大な男根姿の父だった。(笑)

ボーは父から「ポー、美しい息子」と声をかけられたがシーヴァスによってメッタ斬りにされ、襲ったシ-ヴァスも亡くなった。父がここに隔離され生きていた。しかし、その姿はポーの錯覚だろう

ポーはモナの元に戻った。モナが「嘘ついた、あれが父よ」と云った。ポーが「良い子になる」というとモナが「産みだす苦労があった。貴方に愛を与えたが、私を傷つけることだけ、貴方を憎んでいる」とボーを非難した。ポーはモナの首を締めると、モナは脇の水槽に倒れ込んだ。ポーは河に浮かぶボートでワッサーマン邸を逃げ出した。

〇そこは巨大アリーナで母モナによる裁判だった。

裁判官はポーがモナに犯した「9歳のときモナが怪我しても助けなかった」という小さな罪を責めて来た。ここに来るまでに時間がかかったこと、エレインとの交情のことも。ポーが反論したが聞き入れられることはなかった。傍聴席からも何の反応もなかった。精神病患者として断罪された

ボートのエンジンが爆発しポーは水の中に沈んだ。モナの「私のベイビー!」の声が聞こえた。

まとめ:

ポーの父親は代々家に伝わる精神病者だった。モナの強い希望でポーが誕生、同時に父親は家庭内隔離された。幼い頃のポーに症状が出ることはなく、モナは大きな愛で禁欲を求め厳しく育てた。ポーは逃げ場が欲しく父親を求めた。このことがモナを傷つけ折檻に走り、ポーは母親の言う通りになって行った。

モナを恐れ、優柔不断で自分が何者なのかがわからないボーになっていった。

成長に伴い精神障害が顕現し、ポーの精神年齢は停止し、後退し出した。先を考えモナはポーに命を絶って欲しかった。ポーの愛したマーサの遺体を見せる。次いでエレインとセックスさせる。これでお終いだと思ったがだめだった。最後に父親に会わせる。これも無駄だった。ボートに爆弾を仕掛けて自爆に見せかけた。

巨大アリーナでの母モナによる裁判シーンは精神病者に死を宣告せざるを得ない不条理さを訴えたのではないでしょうか。

 監督はなぜ精神病患者家族を映画化することに拘るのか?

ウイキベディアによれば4歳のアスターは「ディック・トレイシー」(1990)を見に行って、登場人物が炎の描かれた壁を背にマシンガンを撃つシーンを見た瞬間、興奮のあまり座席から飛び跳ねて、それでも興奮が収まらず、町中を走り回り、母親を振り回したという。この経験で映画監督になったアリ・スターはこのときの経験(精神病?と間違えられた)が忘れられない。答えはこれだ!と思った。

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