海音寺潮五郎の歴史小説に「天と地」があり、紛らわしいタイトル。
ヴェトナム戦争時、売春婦だったヴェトナム女性が米兵と結婚し過酷な人生を送るという実話だった。作品を観て、タイトルには深い意味があることを知りました。
オリバー・ストーンのヴェトナム戦争作品には「プラトーン」(1986)「7月4日にの生まれて」(1989)があり本作が3作目になります。前2作が米国兵士視点であるのに対し、本作はヴェトナム女性視点というところに面白みがあると思います。
ヴェトナム戦争でこのような苦しみを体験女性がいたということに驚くとともにヴェトナム戦争の概要を知るには恰好の作品だと思います。
原作:実在する女性レ・リー・ヘイスリップの同名回顧録、監督・脚本:オリバー・ストーン、撮影:ロバート・リチャードソン、音楽:喜多郎、編集:デビッド・ブレナー サリー・メンケ。
出演者:ヘップ・ティー・リー、トミー・リー・ジョーンズ、ジョアン・チェン、、ハイン・S・ニョール、デビー・レイノルズ、他。
あらすじ&感想:
1950年、リーはイントシナの中央部に位置するキー村で誕生。美しくのどかな農村で田を耕しながら、仏を敬い、天と地の間で生きていた。
1953年、フランス軍が進駐し村は焼かれた。が、再建されると農業をつづけた。まだまだ美しい風景が見られた。
1963年、独立革命軍(ベトコン)がやってきたことにより農村の風景が一変した。
彼らはフランス軍に敗れた残党で北からの人が多かった。彼らは中国の干渉は不要と主張し、ふたりの兄、ポンとサウはベトコン兵となるため本拠地、北のハノイに出ていった。父はこの地が中国や日本の侵略に耐えたことを引き合いに「敵がきたら戦う」と教えたが、ベトコンによって野や家は焼かれ父の教えは無駄だった。
そこにアメリカし支援された南政府軍府軍が進駐し軍事訓練が始まった。
ゴ・ディン・ジェムはカトリック教徒。一方のホー・チミンは仏教徒で愛国者、ヴェトナムの愛と慈愛を説いた。昼は南政府軍の支配下にあるが、夜はベトコンの支配下にあった。ベトコンは思想を植え付け、共に働くことで村人を味方につけていった。
ベトコン協力者として米軍の情報を知らせる役目が与えられた。
米軍は装甲車でやってきて、ベトコンと違って2度攻撃し、地下壕に手榴弾を投げ込む戦法だった。
ある日、南政府軍に捕まり拷問を受けた。母が賄賂を掴ませて解放されたが、村人がリーの家族を疑うようになり、家に調べにやってきたベトコン兵にリー(ヘップ・ティ・リー)はレイプされた。リーは母(ジョアン・チェン)と共に故郷を捨てた。
18歳のリー。サイゴンに出て、ある富豪のメイドとして働くことにした。
主人に愛され妊娠。しかし、これが奥さんの知ることとなり、何の補償もなくダナンに放り出された。
姉キム(トゥアン・リー)の紹介で日用品を売る闇商売を始めたが警察官に捕まった。父(ハイン・S・ニョール)が救いにきてくれたが追い返された。
次にバーで働くことにした。
米兵とセックスする風俗バーだった。父が訪ねてきて「過ちを気にするな」と励まして村に帰って行った。リーは姉と別れ、ジミーを産んだ。
米軍憲兵から高額の金を示され、「とにかく寝てやってくれ」と求められ売春婦となった。
父が重病と知らされ村に戻った。村は米軍の前進基地となっていた。父はベトコンと見なされひどい扱いを受けていた。それでもリーに「立派な母親になれ!」と励ました。
韓国基地で働き始めた。
リーは売春婦に誘われたが断った。憲兵に捕まり懇願され、自分の家で客を迎えることにした。ここで会ったのが後に夫になるスティール(トミー・リー・ジョーンズ)だった。彼はしばしばPTDS発作で苦しむ。リーとの逢引でこれを押さえていた。リーは「もっといい娘さんを見つけて!」と関係を解こうとしたがスティールは「いずれサンディエゴに戻る。安全で自由な生活が待っている。優しい東洋の女性がいい、妻になってくれ」とプロポーズした。しかし、母は「米人は悪い人」と結婚に反対した。
ふたりは結婚し次男トミーが生まれた。食べ物やおもちゃを持ってきて息子を可愛がる。
ベトコンの攻勢作戦が始まった。
家が爆破され逃げる途中で米ヘリに救助された。「国はまた破壊された」と思ったという。バスの中に米兵が乗り込んできて女性を連れ出す。リーには辛かった。
作戦出動中だったスティールが戻ってきて、サンディエゴへ発った。
大きな冷蔵庫、犬、広い部屋、ピザなどアメリカの豊かさに驚いた。しかし、スティールには前妻が居て給料を全額彼女に渡す。さらにスーパーマーケットでは奇異な目に晒される。食事では小食だと母から叱られる。
リーが働きたいとスティールに相談すると「武器を売る、儲かる。米国が支援する国に売る。だから俺たちが戦争に行かねば共産主義になってしまう」と話す。(笑)
リーは工場で働き、稼いだ金をヴェトナム人に貸し、財をなしっていった。
とにかく夫にしばられない顔が欲しかった。スティールは子供がヴェトナム語で話すこと、そして軍の仕事に不満で暴力を振るうようになってきた。戦場ではうまくやれても社会生活ができないタイプの男だった。
スティールのPTDS発作に悩まされる日々が続く。
銃を振り回し、暴力を振るう。遂に離婚話が出るようになった。すると、「俺は人殺しだ!秘密作戦で人を殺した」と叫ぶ混乱ぶり。遂に軍の任務を解かれ自殺を試みるようになった。リーは「私も同じ苦しみを持っている」と懸命に慰め、耐えた。この場を借りて、オリバー・ストーンが自説を吐いた感じだった。(笑)
リーは弁護士の「この国に馴染めない」と相談した。
教会に行くが馴染めず、仏教の導師の指導を受けた。
導師に「離婚すればよい、子供を返せばいい、全てを赦しなさい」と諭された。
離婚協議中にスティールはリーの愛情を求めながら自殺した。リーは泣いた!
1986年、リーは13年ぶりにヴェトナムに帰ってきた。
サイゴンはホー・チミンと名を変え、すべてが変っていた。父母兄弟に会い、受け入れてもらったが、キー村泯はまだ反感を持っていて受け入れられなかった。母は「戦争が作り出したものは沢山の墓だけだよ。墓の中には敵はいない」と慰めた。
リーは人生を振り返り、
「私は、いつも中間にいる。南と北、東と西、平和と戦争、ヴェトナムとアメリカ、そういう運命。今は天と地の間にいる。運命に逆らえば苦しむが、受け入れれば幸せになる。人は永遠に続く時間の中で過ちを繰り返す。だが、過ちを正すのは一度で十分だ。全てに因果があるのなら、苦しみこそが人を仏に近づける」と結んだ。
まとめ:
このような壮絶な人生を送った女性がいたことに驚いた。
美しいキー村の映像とリーの人生の厳しさの対比で戦争の残酷さが浮き上がっていた。キタロウの音楽がよく合っていた。
リーが故郷に帰り自分の人生を振り返っての言葉、「人は永遠に続く時間の中で過ちを繰り返す。だが、過ちを正すのは一度で十分だ。全てに因果があるのなら、苦しみこそが人を仏に近づける」がまさに生かされた作品だった。
このような結婚がありうるのかと疑念を持ちましたが、・・・。
リーが北ヴェトナム兵からレイプされたことが彼女の運命を変え、戦場で受けたPTDSに苦しむスティールと出会い恋に落ち入る。戦争で同じ傷を受けたということで納得です。アメリカに帰るとスティールのPTDSが原因で離婚するというふたりの運命。運命というのは分からない。
ヴェトナム戦争は東西文化の衝突だと言われる。
ベトコンの戦い方は剛より柔、変幻自在だが、リーに生き方もそうだった。ヴェトナムの風景映像の美しさ、キタロウの音楽、これに仏教思想が絡み、リーの生き方に大きく関係し、渡米後アメリカ文化に馴染めず離婚するという、このことがよく出た作品だと思った。ベトコンの戦い方にもそれがある。
色濃く仏教思想が出ている人生訓のようなセリフ、これがいい。
オリバー・ストーン節が満載の作品かなと思っていたら違っていた。米国の軍事政策批判ではなく戦争そのものを批判した作品でした。
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