WOWOWが準備してくれた“クリスマスピレゼント”としての作品です。
ホールドオーバーズとは置いてきぼりの意味。
すばらしいプレゼントでした。
ボストン近郊にある全寮制の名門バートン校を背景に、クリスマス休暇に置いてきぼりを食った3人のクリスマス休暇。古めかしく偏狭的な歴史教師、家族に問題があり情緒不安で好戦的な高校生、ベトナム戦争で失った息子が忘れられないで住み込みの黒人女性料理師。神はこの3人にいかなるクリスマスプレゼントをしたか?3人は擬家族として過ごし、それぞれが生きていく指針を掴むというすばらしいプレゼントでした。なかでも、歴史教師が自分を犠牲にして高校生を生かすという愛情に、「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」(1992)の盲目の退役中佐が退校処分される高校生救済の演説が思い出され、“老人にはこれしか生きる意義はない”と感動しました。(笑)
監督:アレクサンダー・ペイン、脚本:デビッド・ヘミングソン、撮影:アイジル・ブリルド、編集:ケビン・テント、音楽:マーク・オートン。
出演者:ポール・ジアマッティ、ダバイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、キャリー・プレストン、ブレイディ・ヘプナー、他。
物語は、
物語の舞台は、1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。生真面目で皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポール(ポール・ジアマッティ)は、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役を務めることに。そんなポールと、母親が再婚したために休暇の間も寄宿舎に居残ることになった学生アンガス(ドミニク・セッサ)、寄宿舎の食堂の料理長として学生たちの面倒を見る一方で、自分の息子をベトナム戦争で亡くしたメアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)という、それぞれ立場も異なり、一見すると共通点のない3人が、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになる。(映画COMより)
第96回アカデミー賞で作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞。
あらすじ&感想:
冒頭、クリスマスをまじかに控えた風景。
教会の讃美歌の演習風景。桃源郷のような豊かな風景の映像。校内の雪かきをする校務員のダニー。クリスマス休暇で残留する学生管理を任されるポール。厳格に教え、高額寄付者の子弟であっても能力なきものには退学さえることを厭わないポールの教師としての正義に、もっと融通性を持ち学校経営視点で学生を扱えと諭す校長。
ポールは休暇に当たり成績不良者に追試験を宣告して学生の不評を買う。このポールやり方に反抗し、仲間から少し距離を置かれているアンガス。
学生の給食を担当するメアリーは休暇前最後の料理を作り終えた。学生と教師一同が食堂に集って食べる昼食。壮観な風景。まるで「長い灰色の線」(1954)のウエストポイント士官学校と同じ風景。息子にはこういうところで教育を受けさせたいシーンだった。食事が終ると学生がそれぞれ故郷、両親のもとに帰っていく。この風景がクリスマス休暇らしい。
アンガスは母親からの電話「再婚する男とふたりで旅行するから学生寮にいて」を受け取った。彼には父親の鬱気質が遺伝しているという不安があり、母の離婚で別れた精神病施設で過ごす父を訪ねる計画があった。これに加え大嫌いなポールs先生の監督下で気ままに暮らせない寮生活に嫌気がしていた。
居残った4人には留学生や家族を持たないものだが、富豪の息子でスキーに行けないと残留した学生クンツェ(ブレイディ・ヘプナー)がいた。アンガスはコンツエと気性が合わず不仲だった。
ポールの監督下で休暇生活が始まった。
置き去りされた学生たち、時間を厳格に守り平常と変わらない休暇生活にうんざり。そこにクンツゥの親父が息子をスキーに連れて行くとヘリを学校に寄こした。クンツェはアンガスに声もかけず、他の3人も連れてヘリで飛び去った。自立、独立、自由を標榜する学校でありながら高額寄付者に振り回させる社会矛盾。この他にも一杯あるが、社会の矛盾を描くペイン監督に真骨頂。
アンガスは寮生活にうんざりして逃げ出し、ポールに見つかり追われ、体育館に逃げ込み跳び箱を越えて転び大怪我。
管理人のポールが責任を感じて病院に運び薬代を払う。このことで、これまで相いれなかったふたりがレストランで飯を食べ、そこに学校事務員のミス・クレイン(キャリー・プレストン)がアルバイトで働いていてクリスマスパーティーに誘った。ポールはクレインに心が動きしっかり身を整えて参加。メアリーもしっかりめかしてブルーのワンピースで参加した。
クリスマスパーティーに参加した3人。
ポーは期待したクレインに彼氏がいると知り目論見が外れ、アンガスもクレインの姪にキスされるという好運に恵まれたが、メアリーが息子を失った記憶で雰囲気に馴染めず泣いている姿を見て、メアリーを支えて寮に戻った。
25日、3人は教会でお祈りを済ませ、ポールがメアリーとアンガスにクリスマスプレゼントした。アンガスには母からお金が贈られてきた。メアリーの手料理でお祝いの食事が始まるとアンガスは「こんな家庭のクリスマスは初めてだ!」と感激、3人で乾杯!なんとなくそれなりのクリスマスを迎えた。
ポールの「やりたいことを言ってみろ!」にアンガスが「ボストンに行きたい!」と言い出した。ポールは学生管理人として「休暇間、街で遊ぶのは許されない」と反対したが「社会経験なら許される」と実行することにした。
3人でボストンに出て、メアリーは久しく会ってない妹を尋ねた。彼女は姉妹の絆の暖かさに浸った。
ポールとアンガスは社会見学として書店、美術館、スケート場、ボーリング場で過ごすことでふたりは何でも話せる中になっていった。
街の女の絡まれたポールは「糖尿病だ!」と断わると「経験がないのか」と笑うアンガス。これに対するポールの答え。「多くの人にとりセックスは99%摩擦で1%が好意。私は古風で好意を重視する。君もそうしろ!」と反論。
1例を挙げたがポールのセリフは痛烈な批判、悪態があるが、そこには人間の面白さや優しさが溢れていて、心が和む。
ポールが大学時代の友に会い「どこで働いている?」と問われ「ストックホルムの研究所」と応えた。「何やっている?」と聞かれ、ここからアンガスが機転を利かせ「古代史研究でカメラの研究」と答えた。これで相手も納得した。この相手はポールのハーバード大時代、卒論が盗作とポールを訴えた相手だった。これでポールは退学、バートン校の教員は免許なしの教員だという。(笑)
窮地に陥ったポールをアンガスが救い、ポールとアンガスが本当の父子の関係になっていった。
ポール本当の父親に会う決心をして精神病院で療養している父親にことにした。
これにポールが同行した。アンガスは父親にバートン高での活躍状況を伝え喜ばせようとしたが「お前は誰かに食べ物に毒を入れられている」という。
父親の真の姿を知って怯えるアンガス。この怯えがアンガスの感情不安定の原因だった。ポールは「君は父とは違う。ひとりの男だ。これまでの生き方を変える必要はない。過去が君を変えたりはしない」と慰めた。
しかし、アンガスの訪問で父親が施設を退所したくなり暴れたことで施設から母親に連絡が入り、ボストンでのポールの行動がバレ、休暇の行動が学校規則に違反と退校処分されることになる。メアリーが手を取って「大丈夫だ!」と励ましてくれた。ポールが「すべては自分の責任」と証言しアンガスは無罪放免となった。
ポールは校長に「君は陰茎ガンだ!」と罵り(笑)バートン校を辞め、念願のローマ史単行本を描くと旅立った。金がどうするかと心配だが、学生思いの教師になって働き場所を得るでしょう。アンガスはポールの恩を忘れず優しい人となりハーバードを目指す。メアリーは妹の生まれてくる子の大学教育資金稼ぎため引き続きここで働く。メアリーはダニーと一緒になるかもしれない。
疾走感と笑いでつっぱり、最後に泣かされるいい話でした。
まとめ:
3人の置いてきぼりになった理由が次第に明らかになり、お互いがそれを解決ために手を貸し擬似家族となっていく展開がまるで「風が吹けば桶屋が儲かる」式の物語展開で、ポール・ジアマッティの好演により、暗い世情の中で人の暖かさに触れる、クリスマスにふさわしい作品でした。
皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポールが吐く悪態、下ネタで、ポール・ジアマッティの好演もあって、物語がめちゃくちゃに面白く、雪とバートン校が醸し出す映像が美しく、クリスマスの雰囲気が味わえ、最期まで楽しくみせてくれました。
パートがアンガスの停学処分回避で下した愛情、これには泣かされました。
1970年という年代の苦しみがよく出ていました。
メアリーの息子が大学の奨励金稼ぎのためにベトナム作戦に従軍して戦死。写真が学校の教会に飾られ、クリスマスのミサに戦死者の名をあげ悼み家族を慰めるという日本では見られないシーン。アンガスが退校となり陸軍高校に入れられ、ベトナムに送られるのではと恐怖するシーン。サイドストーリーでありながら印象に残るシーンが多かった。
アメリカ社会の家族・夫婦関係をテーマに、風刺やブラック・ユーモアを混ぜる作風が特徴のアレクサンダー・ペイン作品。楽しめました!
****